説明

フェライト粒子及びその製造方法

【課題】ロータリー炉内の付着物が低減され、かつ良好な焼成効率を有することにより長期に渡って安価な設備で安定した焼成物が得られ、また塩素による焼成物への悪影響を低減できるフェライト粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】フェライト原料を秤量、混合後、粉砕し、得られたスラリーを造粒し、次いで得られた造粒物をロータリー炉を用いてを焼成するフェライト粒子の製造方法において、上記焼成が正圧の還元性雰囲気下で行われることを特徴とするフェライト粒子の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子及びその製造方法に関し、詳しくは安価で均一な粒子が安定して得られるフェライト粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェライト粒子の製造に用いられる焼成炉としては、トンネル炉やバッチ炉が用いられている。これらの焼成炉は、コウ鉢等の容器にフェライト原料粉を入れて焼成するため、フェライト原料粉が流動せずに静置された状態で加熱される。このため、粒子間の凝集や容器との反応によるフェライト粒子の組成変動が生じる。また、粒子を均一に加熱することができないため表面が不均一になるのみならず、フェライト化反応も不均一となり、磁気特性分布がブロードとなる。
【0003】
このようなトンネル炉やバッチ炉に代わる焼成炉として回転式焼成炉(ロータリー炉)等の流動手段を有する焼成炉を用いたフェライト粒子やマグネタイト粒子の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1(特開平2−255539号公報)には、原料粉末の湿式混合工程と、粒径10〜100μmの粒度調整を行う噴霧工程と、1100〜1200℃の攪拌焼成工程を順次行ってフェライト粉末を得るフェライト粉末の製造方法が記載されている。そして、この攪拌焼成工程においては、羽根付きのロータリーキルン等が用いられている。
【0005】
また、特許文献2(WO2005/062132号公報)には、フェライト原料を秤量、混合後、粉砕し、得られたスラリーを造粒し、次いで焼成、樹脂被覆を行う電子写真現像剤用樹脂被覆キャリアの製造方法において、焼成が造粒物を流動手段により流動させながら焼成温度1200℃で行うことが記載されている。この流動手段としては、回転式焼成炉、すなわちロータリーキルンが示されている。
【0006】
特許文献3(WO2005/073147号公報)には、特定組成を有するフェライト焼結体の製造方法、特にW型フェライト焼結体の製造方法であって、仮焼き工程、第1の粉砕工程、熱処理工程、第2の粉砕工程、磁場中成形工程及び焼成工程とを備える特定組成を有するフェライト焼結体の製造方法、特にW型フェライト焼結体の製造方法が記載されており、仮焼き工程には管状炉が用いられている。
【0007】
特許文献4(特開2005−281069号公報)には、フェライト原料と溶媒とを含有するフェライトスラリーを準備する工程と、フェライトスラリーを、スラリーの状態で、ロータリーキルン内に投入する工程と、ロータリーキルン内で、スラリー中の溶媒の乾燥・除去、及びフェライト原料の仮焼きを一度に行う工程とを有するフェライト組成物の製造方法が記載されている。この製造方法によれば、コアロス等の電磁気特性を低下させることなく、生産効率の向上及び製造コストの低減が可能となるとされている。
【0008】
また、特許文献5(特開2006−160559号公報)には、原子間力顕微鏡像において粒子表面に5〜80nm間隔の層状凹凸模様が観察されるヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末が開示されている。そして、この還元には、還元性ガスを導入し炉内を還元雰囲気に保てる特殊構造のロータリーキルンを用いるとされ、目的のマグネタイト粉末を安全かつ安定的に得ることができたとされている。
【0009】
このような流動手段を有する焼成炉、特に回転式焼成炉(ロータリー炉)をフェライト粒子等の焼成に用いた場合には、粒子が流動した状態で加熱されるため、粒子に均一に熱がかかり、粒子間ばらつきが少ない、温度の制御が容易で、特性のコントロールがし易い、基本的に密閉炉であるため、雰囲気の制御が容易である等の利点を有する。
【0010】
しかし、上述したような従来の技術では、回転式焼成炉(ロータリー炉)をフェライト粒子等の焼成に用いた場合には、下記の様な課題がある。すなわち、(1)高温で使用した際に、レトルトの寿命が短く、またレトルト内に粉体が付着し、加熱効率が経時的に変化し、安定的な生産が困難である。(2)フェライトを焼成する場合、ある程度の加熱時間が必要であるが、回転数や原料供給速度、レトルト長の調整のみでは、炉内滞留時間の延長に限界がある。(3)焼成物中に原料起因の塩素が残留し易く、その量が多すぎると、焼成物の特性に悪影響を及ぼす。
【0011】
これらの課題の一部を解決する提案として、特許文献6(特開2002−81866号公報)及び特許文献7(特開2003−42668号公報)には、中心軸の円周方向に3枚以上のブレードを有する付着物除去部材をロータリーキルン内に配置したロータリーキルン内壁の付着物除去方法が記載されている。しかし、このような方法は、回転式焼成炉(ロータリー炉)をフェライト粒子等の焼成に用いた場合の上述した課題の全てを本質的に解消するものではない。
【0012】
【特許文献1】特開平2−255539号公報
【特許文献2】WO2005/062132号公報
【特許文献3】WO2005/073147号公報
【特許文献4】特開2005−281069号公報
【特許文献5】特開2006−160559号公報
【特許文献6】特開2002−81866号公報
【特許文献7】特開2003−42668号公報
【0013】
このように、ロータリー炉を用いたフェライト粒子等の製造において、ロータリー炉内の付着物が低減され、かつ良好な焼成効率を有することにより長期に渡って安価な設備で安定した焼成物が得られ、また塩素による焼成物への悪影響を低減できる方法は得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、ロータリー炉内の付着物が低減され、かつ良好な焼成効率を有することにより長期に渡って安価な設備で安定した焼成物が得られ、また塩素による焼成物への悪影響を低減できるフェライト粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果、ロータリー炉を用いて焼成を行うフェライト粒子の製造方法において、上記焼成を還元性雰囲気下で、かつ炉内圧を炉外圧に対して正圧にした状態で行うことにより、低温でもフェライト化反応を促進できることを知見し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、フェライト原料を秤量、混合後、粉砕し、得られたスラリーを造粒し、次いで得られた造粒物をロータリー炉を用いてを焼成するフェライト粒子の製造方法において、上記焼成が正圧の還元性雰囲気下で行われることを特徴とするフェライト粒子の製造方法を提供するものである。
【0017】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、上記還元性雰囲気が、上記フェライト原料に含まれる成分が加熱されることによって発生する還元性ガスによって形成されることが望ましい。
【0018】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、上記ロータリー炉内の圧力が10Pa以上であることが望ましい。
【0019】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、上記ロータリー炉には、炉内付着物を除去するための機構が備えられていることが望ましく、このような機構としては炉内回転体及び/又は炉外部からの打撃によるものが挙げられる。
【0020】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、上記焼成における焼成温度が800〜1180℃であることが望ましい。
【0021】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、塩素原子の量を調整する機構を備えることが望ましい。
【0022】
本発明に係る上記フェライト粒子の製造方法では、上記焼成する工程の後に、塩素を除去する工程及び/又は磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程を有することが望ましい。
【0023】
また、本発明は、上記製造方法によって得られたフェライト粒子を提供するものである。
【0024】
本発明に係る上記フェライト粒子は、細孔容積が0.03〜0.20ml/g、ピーク細孔径が0.2〜0.7μmである多孔質フェライト粒子であることが望ましい。
【0025】
本発明に係る上記フェライト粒子は、見掛け密度が1.2〜2.5g/cmであることが望ましい。
【0026】
本発明に係る上記フェライト粒子は、塩素の含有量が800ppm以下であることが望ましい。
【0027】
本発明に係る上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリアに用いられることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のフェライト粒子の製造方法によって、低温でも十分なフェライト化反応が得られるため、ロータリー炉内の付着物が低減され、長期に渡って安定した焼成物が得られる。また、レトルトを長くする等の対策を講じなくても、炉内滞留時間を延ばしたのと同等の焼成効率があるため、安価な設備で安定した焼成物が得られる。さらには、原料に含まれる塩素を、任意の量に調整できるため、塩素による焼成物の特性への悪影響を低減、かつコントロールできる。
【0029】
また、本発明に係る製造方法によって得られるフェライト粒子、特に多孔質フェライト粒子は、細孔容積、ピーク細孔径が一定範囲にあり、塩素の含有量が低減されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
<本発明に係るフェライト粒子の製造方法>
本発明に係るフェライト粒子の製造方法は、フェライト原料を秤量、混合後、粉砕し、得られたスラリーを造粒し、次いで得られた造粒物をロータリー炉を用いてを焼成する。以下、本発明に係る製造方法を詳述する。
【0031】
まず、フェライト原料を適量秤量した後、ボ−ルミル又は振動ミル等で0.5時間以上、好ましくは1〜20時間粉砕混合する。原材料は特に制限されないが、得られるフェライト粒子の組成がFe、Mn、Mg、Li、Ca、Sr、Ti、Zr、Cu、Zn、Niから選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。近年の廃棄物規制を始めとする環境負荷低減の流れを考慮すると、フェライト粒子がCu、Zn、Niの重金属を、不可避不純物(随伴不純物)の範囲を超えて含まないことが好ましい。
【0032】
このようにして得られた粉砕物を加圧成型機等を用いてペレット化した後、700〜1200℃の温度で仮焼成する。加圧成型機を使用せずに、粉砕した後、水を加えてスラリー化し、スプレードライヤーを用いて粒状化しても良い。仮焼成後さらにボ−ルミル又は振動ミル等で粉砕した後、水及び必要に応じ分散剤、バインダー等を添加し、粘度調整後、スプレードライヤーにて粒状化し、造粒を行う。仮焼後に粉砕する際は、水を加えて湿式ボールミルや湿式振動ミル等で粉砕しても良い。
【0033】
上記のボールミルや振動ミル等の粉砕機は特に限定されないが、原料を効果的かつ均一に分散させるためには、使用するメディアに1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズを使用することが好ましい。また使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。
【0034】
その後、得られた造粒物を、ロータリー炉を用いて焼成する。本発明では、この焼成を正圧の還元性雰囲気で行う。このような条件で焼成することによって、フェライト化反応が促進され、低温での焼成が可能となる。還元性雰囲気であっても負圧である場合や、正圧であっても還元性雰囲気でない状態(酸化雰囲気や不活性雰囲気)では、フェライト化反応が進みにくいため、低温焼成が達成できず、ロータリー炉内部に原料が付着し易く、焼成が進まない上に、経時による焼成状態の変動が発生する。ここでいう正圧とは、炉内の圧力が炉外の圧力よりも高い状態をいう。
【0035】
この還元性雰囲気は、水素や一酸化炭素等の還元性ガスを打ち込こむことによっても得ることができるが、上記フェライト原料に含まれる成分が加熱されることによって発生する還元性ガスによって形成されることが望ましい。一般的にフェライト粒子を得るために用いる原材料中には、各種使用材料に由来するC(炭素)、H(水素)の成分が含まれている。由来原材料としては、フェライトの主成分になる金属化合物をスラリー中に分散させるために用いる分散剤、湿潤剤、界面活性剤等や、粒子を形成させるために用いるバインダー成分(PVA、PEG、PVP等)が挙げられる。このようなフェライト原料を加熱することによって還元性雰囲気を形成することができる。
【0036】
このような由来原料は、各粒子中に含まれているため、全ての粒子が均一に還元性雰囲気に晒されることになるため、結果として粒子間ばらつきのない焼成物が得られる。還元性雰囲気を作るために、水素ガスや一酸化炭素ガスを導入する方法は、コストがかかることや、全粒子に対して均一な接触をさせることが困難であり、結果として焼成物に不均一性が発生し易い。
【0037】
上記ロータリー炉内の圧力は10Pa以上であることが望ましい。炉内圧力が10Pa未満では、フェライト化反応が進みにくい。トンネル炉等の長時間、高温で焼成される場合は、圧力がそれほど高くなくてもフェライト化反応が進みやすいが、ロータリー炉を用い、低温で焼成しようとする場合、圧力が低いとフェライト化反応が進みにくい。ここでいう圧力とは、炉外と炉内の差圧をいう。
【0038】
上記ロータリー炉には、炉内付着物を除去するための機構が備えられていることが望ましい。低温、正圧、還元雰囲気下でロータリー炉を用いて造粒物を焼成しても、若干の炉内付着物が発生することがある。このような炉内付着物は、長期にわたる稼働によって徐々に増えていくことがあり、それによって熱効率がさがり、焼成が十分行われない可能性がある。そのため、長期にわたる稼働において発生する炉内付着物を除去する目的で、上記ロータリー炉には、炉内付着物を除去するための機構が備えられていることが好ましい。
【0039】
このような機構としては炉内回転体及び/又は炉外部からの打撃によるものが挙げられる。比較的、付着力が弱い付着物は、外部から炉に打撃を与えることで容易に除去することができ、付着力が強い付着物は、炉内に回転する部材を入れ、この回転体が炉内の付着物を掻き取ることによって、除去することができる。
【0040】
上記焼成における焼成温度は、800〜1180℃であることが望ましい。焼成温度が800℃未満ではフェライト化反応が進みにくく、1180℃を超えると、炉内付着が増加し、経時における熱効率が変動し、安定して焼成物であるフェライト粒子を得ることが困難となる。
【0041】
本発明の製造方法では、塩素原子の量を調整する機構を備えることが望ましい。一般に、フェライトの主原料である酸化鉄(Fe)には、不純物として塩素もしくは塩化物が含まれている。これは、工業的にフェライトを作る際に主原料となる酸化鉄(Fe)が、鋼の酸洗廃液から得られる塩化第一鉄を焙焼して作られるためである。通常の工業製品用グレードで、塩素原子として数十ppmから数百ppm含有されている。残留する塩素原子によって形成される塩素化合物は、空気中の水分を吸着し易いために、フェライト粒子の特性、特に電気抵抗に影響を及ぼすことがある。基本的には焼成後のフェライト粒子に含まれる塩素原子は少ない方が好ましい。しかし、焼成後のフェライト粒子に含有、残存する塩素原子は、原料に起因するため、原料ロットによって左右される。従って、常に安定した特性を得るためには、含有、残存する塩素原子がある一定の量になるように、焼成工程においてコントロールされることが好ましい。ロータリー炉を用いて塩素の量をコントロールする方法としては、炉内に一定量の気体を導入し、炉内に気体の流れを作り、焼成中に発生した塩素化合物ガスを炉外に排出させてやるのが良い。塩素を除去するために導入するガスは、炉内が還元性雰囲気に保持できるのであれば特に限定されるものではなく、導入するガスや炉内圧を適宜調整することによって、塩素を効率的に除去、コントロールすることができる。また、後述する2次及び/又は3次焼成を付加することよっても、塩素を効率的に除去、コントロールすることができる。
【0042】
本発明に係る製造方法では、上記焼成する工程(1次焼成)の後に、塩素を除去する工程(2次焼成)及び/又は磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)を付加することが望ましい。上記焼成する工程(1次焼成)において、雰囲気、温度、炉内圧、その他の条件(ロータリー炉の回転数、傾斜、原料投入量等)を適宜調整することによって、1段階での焼成(1次焼成)でも本発明の目的は達成できるが、より安定して均一な焼成物を得るために、フェライト化反応及び結晶成長をさせる1次焼成工程の後に、塩素を除去する焼成工程(2次焼成)及び/又は磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)を組み合わせることが望ましい。
【0043】
ここで、塩素を除去する工程(2次焼成)は、加熱しながら炉外部から積極的に気体を導入し、発生した塩素ガスを除去する工程である。磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)では、焼成する工程(1次焼成)で十分に特性を制御できなかった場合、もしくは続く塩素を除去する工程(2次焼成)によって特性が所望とするレベルから逸脱してしまった場合に、必要な特性になるように加熱する工程である。磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)では、所望とする磁気特性や電気特性を得るために、酸素濃度を調整して加熱する。
塩素を除去する工程(2次焼成)も磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)も、加熱炉であればどのような形態の炉を用いても良いが、好ましくはロータリー炉が使用される。これは、効率的かつ均一に塩素を除去するためや、均一な特性をもつ焼成物を得るためには、ロータリー炉が好ましいためである。
【0044】
このようにして得られた焼成物を、粉砕し、分級する。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法など用いて所望の粒径に粒度調整する。
【0045】
その後、必要に応じて、表面を低温加熱することで酸化皮膜処理を施し、電気抵抗調整を行うことができる。酸化被膜処理は、一般的なロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、例えば300〜700℃で熱処理を行うことができる。また、必要に応じて、酸化被膜処理の前に還元を行っても良い。
【0046】
<本発明に係るフェライト粒子>
上記した本発明に係る製造方法によって得られたフェライト粒子は、均一な加熱が行われており、焼成時に発生する粒子同士の凝集が少ないため、粒子の特性について粒子間ばらつきが非常に少ない。また、塩素の含有量が適度に低減されているため、電気抵抗等の特性が安定している。
【0047】
本発明に係るフェライト粒子は、粒子表面及び内部に、均一に孔をもつ多孔質フェライト粒子になる。このフェライト粒子の細孔容積は0.03〜0.20ml/g、ピーク細孔径は0.2〜0.7μmであることが望ましい。また、フェライト粒子の見掛け密度は、1.2〜2.5g/cmであることが望ましい。
【0048】
焼成前の粉体の見掛け密度は約1.0g/cmであり、細孔容積は約0.25ml/gであるため、見掛け密度が1.2g/cmより低い場合や、細孔容積が0.20ml/gより大きい場合、ほとんど焼成が進んでいないと言える。
【0049】
細孔容積、ピーク細孔径、細孔径のバラツキをコントロールする方法としては、配合する原料種、原料の粉砕度合い、仮焼の有無、仮焼温度、仮焼時間、スプレードライヤーによる造粒時のバインダー量、焼成条件(焼成温度、焼成時間等)等、様々な方法で行うことができる。これらのコントロール方法は特に限定されるものではないが、その一例を以下に示す。
【0050】
すなわち、配合する原料種として、水酸化物や炭酸塩を用いた方が、酸化物を用いた場合に比べて細孔容積は大きくなりやすく、また、仮焼成を行わないか、又は仮焼性温度が低い方、もしくは本焼成温度が低く、焼成時間が短い方が、細孔容積は大きくなりやすい。
【0051】
ピーク細孔径については、使用する原料、特に仮焼後の原料の粉砕度合を強くし、粉砕の一次粒子径が細かい方が小さくなりやすい。また、本焼成時に導入もしくは発生する還元性ガスの量によっても、ピーク細孔径を変化させることが可能である。
【0052】
更に、細孔径のばらつきについては、本焼成時において、原料の焼結性を均一に進めることでばらつきを低くすることが可能になる。ロータリー式電気炉はこの点で特に好ましい。また、使用する原料、特に仮焼後の原料の粉砕度合を強くし、粉砕粒径の分布をシャープにすることでも、細孔径のばらつきを低くするができる。
【0053】
これらのコントロール方法を、単独もしくは組み合わせて使用することにより、所望の細孔容積、ピーク細孔径及び細孔径のばらつきをもった多孔質フェライト粒子得ることができる。
【0054】
このフェライト粒子は、上述した理由によって、塩素原子の含有量が好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下、最も好ましくは100ppm以下になるように制御される
【0055】
このようにして得られたフェライト粒子は、各種の用途に用いられる。具体的には電磁波吸収剤、塗料中のフィラー用粉体、各種磁性粉用途等が挙げられるが、特に電子写真現像剤用キャリア用途として、そのままもしくは表面に各種樹脂を被覆した樹脂被覆フェライトキャリア、多孔質フェライト粒子の細孔に樹脂を充填して得られる樹脂充填型フェライトキャリアとして好適に用いられる。
【0056】
<測定方法>
下記に示す実施例の測定方法は、次に示す通りである。
【0057】
〔細孔容積及びピーク細孔径〕
フェライト粒子の細孔径及び細孔容積の測定は、次のようにして行われる。すなわち、水銀ポロシメーターPascal140とPascal240(ThermoFisher Scientific社製)を用いて測定した。ディラトメータはCD3P(粉体用)を使用し、サンプルは複数の穴を開けた市販のゼラチン製カプセルに入れて、ディラトメータ内に入れた。Pascal140で脱気後、水銀を充填し低圧領域(0〜400KPa)を測定し、1st Runとした。次に再び脱気と低圧領域(0〜400KPa)の測定を行い、2nd Runとした。2nd Runの後、ディラトメーターと水銀とカプセルとサンプルを合わせた重量を測定した。次にPascal240で高圧領域(0.1MPa〜200MPa)を測定した。この高圧部の測定で得られた水銀圧入量をもって、フェライト粒子の細孔容積及びピーク細孔径を求めた。また、細孔径を求める際には水銀の表面張力を480dyn/cm、接触角を141.3°として計算した
【0058】
〔見掛け密度(JIS法)〕
この見掛け密度の測定は、JIS−Z2504(金属粉の見掛け密度試験法)に従って測定される。詳細は下記の通りである。
1.装置
粉末見掛密度計は漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成されるものを用いる。天秤は、秤量200gで感量50mgのものを用いる。
2.測定方法
(1)試料は、少なくとも150g以上とする。
(2)試料は孔径2.5+0.2/−0mmのオリフィスを持つ漏斗に注ぎ流れ出た試料が、コップ一杯になってあふれ出るまで流し込む。
(3)あふれ始めたら直ちに試料の流入をやめ、振動を与えないようにコップの上に盛り上がった試料をへらでコップの上端に沿って平らにかきとる。
(4)コップの側面を軽く叩いて、試料を沈ませコップの外側に付着した試料を除去して、コップ内の試料の重量を0.05gの精度で秤量する。
3.計算
前項2−(4)で得られた測定値に0.04を乗じた数値をJIS−Z8401(数値の丸め方)によって小数点以下第2位に丸め、「g/cm」の単位の見掛け密度とする。
【0059】
〔電気抵抗〕
電極間間隔6.5mmにて非磁性の平行平板電極(10mm×40mm)を対抗させ、その間に、試料200mgを秤量して充填する。磁石(表面磁束密度:1500Gauss、電極に接する磁石の面積:10mm×30mm)を平行平板電極に付けることにより電極間に試料を保持させ、100Vの電圧を順に印加し、それぞれの印加電圧における抵抗を絶縁抵抗計(SM−8210、東亜ディケーケー(株)製)にて測定した。なお、室温25℃、湿度55%に制御された恒温恒湿室内で測定を行った。
【0060】
〔体積平均粒径〕
この平均粒径は、次のようにして測定される。すなわち、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320−X100)を用いて測定される。分散媒には水を用いた。試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2〜3滴添加する。次いで超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH−150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、試料を装置へ投入した。
【0061】
〔塩素含有量測定法〕
焼成後のフェライト粒子に含有される塩素原子の量を、蛍光X線元素分析装置を用いて測定した。
測定装置としては株式会社リガク製ZSX100sを用いた。サンプル約5gを真空用粉末試料容器に入れ、試料フォルダーにセットし、上記測定装置にて、Clの測定を行った。ここで、測定条件としては、Cl−Kα線を測定線とし、管電圧50kV、管電流50mA、分光結晶にGe、検出器としてPC(プロポーショナルカウンター)を用いた。
【0062】
〔磁気特性〕
この磁気特性の測定は、積分型B−HトレーサーBHU−60型(株式会社理研電子製)を使用して測定した。電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを入れる。この場合、試料は4πIコイルに入れる。電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描く。ここで測定条件としては、試料充填量:約1g、試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm、4πIコイル:巻数30回にて測定した。
【0063】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
MnO:35mol%、MgO:14.5mol%、Fe:50mol%及びSrO:0.5mol%になるように原料を秤量し、湿式のメディアミルで5時間粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥し、真球状の粒子を得た。MnO原料としては四酸化三マンガンを、MgO原料としては水酸化マグネシウムを、SrO原料としては、炭酸ストロンチウムを用いた。この粒子を粒度調整した後、950℃で2時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、1/8インチ径のステンレスビーズを用いて湿式ボールミルで1時間粉砕したのち、さらに1/16インチ径のステンレスビーズを用いて4時間粉砕した。このスラリーに分散剤を適量添加し、また造粒される粒子の強度を確保するため、バインダーとしてPVA(20%溶液)を固形分に対して0.6重量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥し、得られた粒子の粒度調整を行った。
【0065】
上述のようにして得られた造粒物を、ロータリー式電気炉にて、還元性雰囲気下、設定温度900℃で1時間保持して焼成を行った。炉内圧は10〜80Pa、炉内付着物除去機構はノッカー(炉外からの打撃)を用いた。また、還元性雰囲気は、スプレードライヤーで造粒する際に添加した分散剤及びバインダーの加熱分解ガスを利用した。
【0066】
その後、解砕し、さらに分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、多孔質フェライト粒子を得た。この多孔質フェライト粒子の細孔容積は0.124ml/g、ピーク細孔径は0.485μmであった。
【実施例2】
【0067】
焼成(1次焼成)の後に、下記塩素を除去する工程(2次焼成)及び下記磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)を行った以外は、実施例1と同様に多孔質フェライト粒子を得た。
塩素を除去する工程(2次焼成);焼成方法:ロータリー炉、雰囲気:大気、設定温度:1050℃、炉内圧:0Pa、炉内付着物除去機構:ノッカー(炉外からの打撃)
磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成);焼成方法:ロータリー炉、雰囲気:N、設定温度:1050℃、炉内圧:0〜10Pa、炉内付着物除去機構:ノッカー(炉外からの打撃)
【実施例3】
【0068】
焼成(1次焼成)条件を設定温度を1050℃、炉内圧を100〜130Pa、炉内付着物除去機構を炉内回転体とした以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【実施例4】
【0069】
焼成(1次焼成)の後に、下記磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)を行った以外は、実施例3と同様に多孔質フェライト粒子を得た。
磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成);焼成方法:ロータリー炉、雰囲気:N、設定温度:1050℃、炉内圧:0〜10Pa、炉内付着物除去機構:ノッカー(炉外からの打撃)
【実施例5】
【0070】
焼成(1次焼成)条件を設定温度を850℃、炉内圧を150〜200Paとした以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【実施例6】
【0071】
焼成(1次焼成)条件を設定温度を1000℃、炉内圧を150〜200Paとした以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【比較例】
【0072】
〔比較例1〕
焼成(1次焼成)条件を雰囲気を大気、設定温度を1050℃、炉内圧を0Pa、炉内付着物除去機構を用いない以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【0073】
〔比較例2〕
焼成(1次焼成)の後に、下記磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成)を行った以外は、比較例1と同様に多孔質フェライト粒子を得た。
磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程(3次焼成);焼成方法:ロータリー炉、雰囲気:N、設定温度:1050℃、炉内圧:0〜50Pa、炉内付着物除去機構:なし
【0074】
〔比較例3〕
焼成(1次焼成)条件を雰囲気をN、炉内圧を0〜5Paとした以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【0075】
〔比較例4〕
焼成(1次焼成)条件を雰囲気をN、設定温度を1050℃、炉内圧を0〜5Paとした以外は、実施例1と同様にして多孔質フェライト粒子を得た。
【0076】
実施例1〜6及び比較例1〜4の焼成条件(焼成方法、雰囲気、設定温度、炉内圧、炉内付着物除去機構)を表1に示す。また、得られた多孔質フェライト粒子の各特性(細孔容積、ピーク細孔径、見掛け密度、電気抵抗、体積平均粒径、塩素含有量及び磁化)を表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1〜6に示した多孔質フェライト粒子は、見掛け密度が1.2g/cmを越え、磁化も60emu/gを越え、十分なフェライト化が達成できている。また、塩素含有量も工程に応じて変動しており、適宜調整できることを示している。
【0080】
これらのことから、実施例1〜6に示した多孔質フェライト粒子は、電子写真用キャリアとして用いた場合、もしくは、さらに樹脂充填や樹脂被覆を施した後に電子写真用キャリアとして用いた場合でも、所望とする特性を得ることができるものと推察される。
【0081】
一方で、比較例1〜4に示した粒子は見掛け密度が低く、細孔容積も大きい。焼成する前の粒子の見掛け密度は約1.0g/cmであり、細孔容積は約0.25ml/gであることから、比較例1〜4に示した粒子は、焼成前の粒子と殆ど変化しておらず、フェライト化反応や結晶成長が進んでいないことがわかる。
【0082】
上記のように、比較例1〜4で得られたキャリアを実際に使用した場合、実機内でのストレスにより粒子が破壊され、それに伴う特性変動が大きいことが容易に想像される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るフェライト粒子の製造方法によって、低温でも十分なフェライト化反応が得られるため、ロータリー炉内の付着物が低減され、長期に渡って安定した焼成物が得られる。また、レトルトを長くする等の対策を講じなくても、炉内滞留時間を延ばしたのと同等の焼成効率があるため、安価な設備で安定した焼成物が得られる。さらには、原料に含まれる塩素を、任意の量に調整できるため、塩素による焼成物の特性への悪影響を低減、かつコントロールできる。
【0084】
このようにして得られたフェライト粒子、特に多孔質フェライト粒子は、細孔容積、ピーク細孔径が一定範囲にあり、塩素の含有量が低減されていることから、特に電子写真現像剤用キャリア用途として、そのままもしくは表面に各種樹脂を被覆した樹脂被覆フェライトキャリア、多孔質フェライト粒子の細孔に樹脂を充填して得られる樹脂充填型フェライトキャリアとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト原料を秤量、混合後、粉砕し、得られたスラリーを造粒し、次いで得られた造粒物をロータリー炉を用いてを焼成するフェライト粒子の製造方法において、上記焼成が正圧の還元性雰囲気下で行われることを特徴とするフェライト粒子の製造方法。
【請求項2】
上記還元性雰囲気が、上記フェライト原料に含まれる成分が加熱されることによって発生する還元性ガスによって形成される請求項1記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項3】
上記ロータリー炉内の圧力が10Pa以上である請求項1又は2記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項4】
上記ロータリー炉には、炉内付着物を除去するための機構が備えられている請求項1、2又は3記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項5】
上記炉内付着物を除去するための機構が、炉内回転体及び/又は炉外部からの打撃によるものである請求項4記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項6】
上記焼成における焼成温度が800〜1180℃である請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項7】
塩素原子の量を調整する機構を備える請求項1〜6のいずれかに記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項8】
上記焼成する工程の後に、塩素を除去する工程及び/又は磁気特性・電気抵抗特性を制御する工程を有する請求項1〜7のいずれかに記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの製造方法によって得られたフェライト粒子。
【請求項10】
上記フェライト粒子は、多孔質であり、細孔容積が0.03〜0.20ml/g、ピーク細孔径が0.2〜0.7μmである請求項9記載のフェライト粒子。
【請求項11】
見掛け密度が1.2〜2.5g/cmである請求項9又は10記載のフェライト粒子。
【請求項12】
塩素の含有量が800ppm以下である請求項9、10又は11記載のフェライト粒子。
【請求項13】
電子写真現像剤用キャリアに用いられる請求項9〜12のいずれかに記載のフェライト粒子。

【公開番号】特開2009−234839(P2009−234839A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81704(P2008−81704)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】