説明

フェロセンジホスフィン

鏡像異性的に純粋なジアステレオマーの形態又はジアステレオマーの混合物の形態の式Iの化合物であって、式中、ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれ、C〜Cアルキルであり;mは、0又は1〜3の整数であり、nは、0又は1〜4の整数であり;Rは、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;Cpは、非置換又はC〜Cアルキル置換シクロペンタジエニルであり;Yは、メタレーション試薬の金属をオルト位置へ向かわせる、C結合キラル基であり;そしてPhosは、P結合P(III)置換基である。この化合物は、不斉合成において均一触媒として使用される遷移金属の錯体のためのキラルリガンドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロセン置換第二級ホスフィノ基を1位に、第二級ホスフィノ基を1′位に含有するフェロセン1,1′−ジホスフィン;それらの製造方法;遷移金属とリガンドとしてのこれらのフェロセンジホスフィンとの錯体;及び有機化合物の立体選択合成における均一触媒としての金属錯体の使用に関する。
【0002】
キラルリガンドは、均一系の立体選択な接触反応における触媒のための極めて重要な助剤であることが見出されている。それにより十分な触媒活性のみならず高い立体選択性も達成することができる金属錯体が実用化されている。これらの2つ特性なくしては、産業的方法への規模拡大は、経済的な理由で達成することができなかった。
【0003】
そのような触媒の活性は、特定の基質に対して特異的であることが頻繁に見出されている。したがって、特定の基質のために最適化することができるように、十分な数のキラルリガンドを利用可能にすることが必要である。したがって、製造するのが簡単であり、立体選択接触反応において良好な結果を与える更に効率的なキラルリガンドが、引き続き要求されている。その特性を特定の触媒作用に適合することができ、かつ最適化することができるリガンドが特に興味の的である。組み換えの容易な構成区分的(modular fashion)に構築できるリガンドは当該分野において特に有用である。
【0004】
フェロセンは、リガンドを製造するのに非常に有用な骨格であり、第二級ホスフィノラジカルによる異なる置換を提供するのに成功裏に使用されてきた。加えて、フェロセン骨格を有し、ステレオジェンP原子を含有するジホスフィンリガンドが知られている(例えば、C. Gambs et al., Helvetica Chimica Acta Volume 84 (2001), pages 3105 to 3126又はWO 2005/068477を参照すること)。しかし、純粋なジアステレオマーの製造は複雑であること、また、ジアステレオマーは所望しないエピマー化が頻繁に起こるける傾向があることの理由で、このようなジホスフィンは、実用的には重要性を全く獲得していなかった。
【0005】
予期しないことに、特に少なくとも1個のステレオジェン炭素原子を含有する置換基により、シクロペンタジエニル環(Cp環)とP原子との間の結合に対してオルト位置で置換されているフェロセニルラジカルをP原子が含有する場合、ステレオジェンP原子を有するより安定したフェロセン−1,1′−ジホスフィンが得られることがここで見出された。加えて、予期しないことに、これらの極めて基準構成区分的な(modular)ジホスフィンを、簡単な方式で製造することができ、ホスフィノラジカル及びCp環における置換基の変化により所定の触媒問題を最適化できることが見出された。また、予期しないことに、TM8金属との錯体が、不斉合成のために、特にα,β−不飽和カルボン酸の水素化のために非常に有効な均一触媒であり、非常に高い触媒活性及び立体選択性を示すことが見出された。
【0006】
本発明は、第1には、式I:
【0007】
【化16】

【0008】
〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
mは、0又は1〜3の整数であり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
Cpは、非置換又はC〜Cアルキル置換シクロペンタジエニルであり;
Yは、メタレーション試薬の金属をオルト位置へ向かわせる、C結合キラル基であり;そして
Phosは、P結合P(III)置換基である〕
で示される、鏡像異性的に純粋なジアステレオマーの形態又はジアステレオマーの混合物の形態の化合物を提供する。
【0009】
特に好ましいP結合P(III)置換基Phosは、第二級ホスフィノ基である。
【0010】
アルキル基Rは、例えば、メチル、エチル、n−又はi−プロピル、n−、i−又はt−ブチルであることができ、好ましくはメチルであり、m及びnは、好ましくは0である(したがってRは水素原子である)。
【0011】
炭化水素ラジカルRは、非置換若しくは置換されていることができ、及び/又はO、S、−N=又はN(C〜Cアルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することができる。これらは、1〜22個、好ましくは1〜18個、特に好ましくは1〜12個、特に1〜8個の炭素原子、及び1〜4個、好ましくは1又は2個の記述したヘテロ原子を含有することができる。ラジカルRは、直鎖又は分岐鎖C〜C12アルキル;非置換又はC〜Cアルキル−若しくはC〜Cアルコキシ置換のC〜C12シクロアルキル若しくはC〜C12シクロアルキル−CH−;C〜C14アリール;C〜C12ヘテロアリール;C〜C14アラルキル;C〜C12ヘテロアラルキル;又はハロゲン−(フッ素−、塩素−若しくは臭素−)、C〜Cアルキル−、トリフルオロメチ−、C〜Cアルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi−、(C〜C12アルキル)Si−若しくはsec−アミノ置換のC〜C14アリール、C〜C12ヘテロアリール、C〜C14アラルキル若しくはC〜C12ヘテロアラルキルからなる群より選択されるラジカルであることができる。ヘテロアリール及びヘテロアラルキルは、好ましくは、O、S及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含有する。
【0012】
好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキルラジカルRの例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、並びにペンチル及びヘキシルの異性体である。非置換又はアルキル置換シクロアルキルラジカルRの例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル及びエチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ノルボルニル及びアダマンチルである。非置換又はアルキル−若しくはアルコキシ置換C〜C12シクロアルキル−CH−ラジカルRの例は、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロオクチルメチル、メチルシクロヘキシルメチル及びジメチルシクロヘキシルメチルである。アリール及びアラルキルラジカルRの例は、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フルオレニル、ベンジル及びナフチルメチルである。ヘテロアリール及びヘテロアラルキルラジカルRの例は、フリル、チオフェニル、N−メチルピロリジニル、ピリジル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、フリルメチル、チオフェニルメチル及びピリジルメチルである。置換アリール、アラルキル、ヘテロアリール及びヘテロアラルキルラジカルRの例は、フェニル、ナフチル、ベンジル、ナフチルメチル、フェニルエチル、フリル、チオフェニル、ベンゾフリル及びベンゾチオフェニルであり、これらは、メチル、エチル、n−及びi−プロピル、n−、i−及びt−ブチル、エトキシ、メトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、フッ素又は塩素である。幾つかの好ましい例は、2−、3−又は4−メチルフェニル、2,4−又は3,5−ジメチルフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、4−エチルフェニル、2−又は4−メチルベンジル、2−、3−又は4−メトキシフェニル、2,4−又は3,5−ジメトキシフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニル、2−、3−又は4−トリフルオロメチルフェニル、2,4−又は3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル、トリストリフルオロメチルフェニル、2−又は4−トリフルオロメトキシフェニル、3,5−ビストリフルオロメトキシフェニル、2−又は4−フルオロフェニル、2−又は4−クロロフェニル、及び3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0013】
特に好ましい実施態様において、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cビシクロアルキル、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C〜Cアルキル)C、3−(C〜Cアルキル)C、4−(C〜Cアルキル)C、2−(C〜Cアルコキシ)C、3−(C〜Cアルコキシ)C、4−(C〜Cアルコキシ)C、2−(トリフルオロメチル)C、3−(トリフルオロメチル)C、4−(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(C〜Cアルキル)、3,5−ビス(C〜Cアルコキシ)及び3,5−ビス(C〜Cアルキル)−4−(C〜Cアルコキシ)Cである。
【0014】
オルトに向けられているキラル基Yにおいて、キラル原子は、好ましくは、シクロペンタジエニル−Y結合に対して1、2又は3位に結合している。基Yは、開鎖状又は環状のラジカルであることができ、ここで原子は、H、C、O、S及びNからなる群より選択される。
【0015】
基Yは、例えば、式:−HC(式中、は不斉原子を示す)に対応することができ、ここで、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル(シクロヘキシル)、C〜C10アリール(フェニル)、C〜C12アラルキル(ベンジル)又はC〜C12アルカリル(メチルベンジル)であり、Rは、−OR又は−NRであり、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル又はベンジルであり、そしてR及びRは、同一又は異なっており、それぞれ、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル又はベンジルであるか、或いはR及びRは、N原子と一緒になって、5員〜8員環を形成する。Rは、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル及びフェニルのようなC〜Cアルキルである。Rは、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル及びn−又はi−ブチルのようなC〜Cアルキルである。R及びRは、好ましくは同一のラジカルであり、それぞれ好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル及びn−若しくはi−ブチルのようなC〜Cアルキルであるか、又は一緒になってテトラメチレン、ペンタメチレン若しくは3−オキサ−1,5−ペンチレンを形成する。式:−HCRの特に好ましい基は、1−メトキシエタ−1−イル、1−ジメチルアミノエタ−1−イル及び1−(ジメチルアミノ)−1−フェニルメチルである。
【0016】
Yは、特に好ましくは、−CHR−NR基であり、ここで、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル、C〜Cアルキルフェニル又はC〜Cアルキルベンジルであり、そしてR及びRは、同一であって、それぞれC〜Cアルキル、好ましくはメチル又はエチルである。
【0017】
Yが、不斉α炭素原子のないラジカルである場合、これは炭素原子を介して、直接又は架橋基を介するのいずれかによりシクロペンタジエニル環に結合している。架橋基は、例えば、メチレン、エチレン又はイミン基であることができる。架橋基に結合している環状ラジカルは、好ましくは飽和しており、特に好ましくは、合計5又は6個の環原子を有する、C〜Cアルキル−、(C〜Cアルキル)NCH−、(C〜Cアルキル)NCHCH−、C〜Cアルコキシメチル−又はC〜Cアルコキシエチル置換のN−、O−又はNO−ヘテロシクロアルキルである。開鎖状ラジカルは、好ましくは、CH基を介してシクロペンタジエニル環に結合しており、このラジカルは、好ましくは、アミノ酸又はエフェドリンから誘導される。幾つかの好ましい例は、以下:
【0018】
【化17】

【0019】
であり、ここでR11は、C〜Cアルキル、(C〜Cアルキル)NCH−、(C〜Cアルキル)NCHCH−、C〜Cアルコキシメチル又はC〜Cアルコキシエチルである。R11は、特に好ましくは、メトキシメチル又はジメチルアミノメチルである。
【0020】
Yが−CHR−OR基である場合、Rは、好ましくは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル(シクロヘキシル)、フェニル、ベンジル又はメチルベンジルである。
【0021】
P結合P(III)置換基Phosは、同一又は異なる炭化水素ラジカルを含有する第二級ホスフィノ基であるか、又は炭化水素ラジカルがP原子と一緒になって4員〜8員環を形成する第二級ホスフィノ基であることができる。第二級ホスフィノ基は、好ましくは、同一の炭化水素ラジカルを含有する。炭化水素ラジカルは、非置換若しくは置換されていることができ、及び/又はO、S、−N=又はN(C〜Cアルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することができる。これらは、1〜22個、好ましくは1〜18個、特に好ましくは1〜12個、とりわけ好ましくは1〜8個の炭素原子、及び1〜4個、好ましくは1又は2個の記述したヘテロ原子を含有することができる。炭化水素ラジカルは、直鎖又は分岐鎖C〜C12アルキル;非置換又はC〜Cアルキル−若しくはC〜Cアルコキシ置換のC〜C12シクロアルキル若しくはC〜C12シクロアルキル−CH−;C〜C14アリール;C〜C12ヘテロアリール;C〜C14アラルキル;C〜C12ヘテロアラルキル;又はハロゲン−(フッ素−、塩素−若しくは臭素−)、C〜Cアルキル−、トリフルオロメチ−、C〜Cアルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi−、(C〜C12アルキル)Si−若しくはsec−アミノ置換のC〜C14アリール、C〜C12ヘテロアリール、C〜C14アラルキル若しくはC〜C12ヘテロアラルキルからなる群より選択されるラジカルであることができる。ヘテロアリール及びヘテロアラルキルは、好ましくは、O、S及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含有する。
【0022】
好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル炭化水素ラジカルの例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、並びにペンチル及びヘキシルの異性体である。非置換又はアルキル置換シクロアルキル炭化水素ラジカルの例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル及びエチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ノルボルニル及びアダマンチルである。非置換又はアルキル−若しくはアルコキシ置換C〜C12シクロアルキル−CH−炭化水素ラジカルの例は、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロオクチルメチル、メチルシクロヘキシルメチル及びジメチルシクロヘキシルメチルである。アリール及びアラルキル炭化水素ラジカルの例は、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フルオレニル、ベンジル及びナフチルメチルである。ヘテロアリール及びヘテロアラルキル炭化水素ラジカルの例は、フリル、チオフェニル、N−メチルピロリジニル、ピリジル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、フリルメチル、チオフェニルメチル及びピリジルメチルである。置換アリール、アラルキル、ヘテロアリール及びヘテロアラルキル炭化水素ラジカルの例は、フェニル、ナフチル、ベンジル、ナフチルメチル、フェニルエチル、フリル、チオフェニル、ベンゾフリル及びベンゾチオフェニルであり、これらは、メチル、エチル、n−及びi−プロピル、n−、i−及びt−ブチル、エトキシ、メトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、フッ素及び塩素からなる群より選択される1〜3つのラジカルで置換されている。幾つかの好ましい例は、2−、3−又は4−メチルフェニル、2,4−又は3,5−ジメチルフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、4−エチルフェニル、2−又は4−メチルベンジル、2−、3−又は4−メトキシフェニル、2,4−又は3,5−ジメトキシフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニル、2−、3−又は4−トリフルオロメチルフェニル、2,4−又は3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル、トリストリフルオロメチルフェニル、2−又は4−トリフルオロメトキシフェニル、3,5−ビストリフルオロメトキシフェニル、2−又は4−フルオロフェニル、2−又は4−クロロフェニル、及び3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0023】
特に好ましい実施態様において、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cビシクロアルキル、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C〜Cアルキル)C、3−(C〜Cアルキル)C、4−(C〜Cアルキル)C、2−(C〜Cアルコキシ)C、3−(C〜Cアルコキシ)C、4−(C〜Cアルコキシ)C、2−(トリフルオロメチル)C、3−(トリフルオロメチル)C、4−(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(C〜Cアルキル)、3,5−ビス(C〜Cアルコキシ)及び3,5−ビス(C〜Cアルキル)−4−(C〜Cアルコキシ)Cである。
【0024】
sec−ホスフィノ基は、好ましくは式:−PRに対応し、ここでR及びRは、それぞれ、互いに独立して、1〜18個の炭素原子を有し、非置換であるか、又はC〜Cアルキル、トリフルオロメチル、C〜Cアルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C〜Cアルキル)アミノ、(CSi、(C〜C12アルキル)Si、ハロゲン及び/若しくはヘテロ原子Oで置換されている炭化水素ラジカルである。
【0025】
及びRは、好ましくは、直鎖又は分岐鎖C〜Cアルキル、非置換シクロペンチル若しくはシクロヘキシル、又は1〜3つのC〜Cアルキル若しくはC〜Cアルコキシラジカルで置換されているシクロペンチル若しくはシクロヘキシル、フリル、非置換ベンジル又は1〜3つのC〜Cアルキル若しくはC〜Cアルコキシラジカルで置換されているベンジル、特に非置換フェニル若しくはナフチル、又は1〜3つのF、Cl、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cフルオロアルキル若しくはC〜Cフルオロアルコキシラジカルで置換されているフェニル若しくはナフチルからなる群より選択されるラジカルである。
【0026】
及びRは、特に好ましくは、C〜Cアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フリル、ナフチル、並びに非置換フェニル又は1〜3つのF、Cl、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ及び/若しくはC〜Cフルオロアルキルで置換されているフェニルからなる群より選択されるラジカルである。
【0027】
第二級ホスフィノ基Phosは、環状sec−ホスフィノ基、例えば、下記式:
【0028】
【化18】

【0029】
のうちの1つで示される基であり、これは、非置換であるか、又はC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルキル、フェニル、C〜Cアルキルフェニル若しくはC〜Cアルコキシフェニル、ベンジル、C〜Cアルキルベンジル若しくはC〜Cアルコキシベンジル、ベンジルオキシ、C〜Cアルキルベンジルオキシ若しくはC〜Cアルコキシベンジルオキシ、又はC〜Cアルキリデンジオキシルで1回以上置換されている。
【0030】
置換基は、キラルC原子を導入するために、P原子の一方又は両方のα位置に結合することができる。一方又は両方のα位置の置換基は、好ましくは、C〜Cアルキル又はベンジル、例えばメチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、ベンジル、又は−CH−O−C〜Cアルキル又は−CH−O−C〜C10アリールである。
【0031】
β,γ位置の置換基は、例えば、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、ベンジルオキシ、又は−O−CH−O−、−O−CH(C〜Cアルキル)−O−及び−O−C(C〜Cアルキル)−O−であることができる。幾つかの例は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、−O−CH(メチル)−O−及び−O−C(メチル)−O−である。
【0032】
置換の種類及び置換基の数に応じて、環状ホスフィノラジカルは、C−キラル、P−キラル、又はC−及びP−キラルであることができる。
【0033】
脂肪族5員若しくは6員環又はベンゼンを、上記式のラジカルにおける2個の隣接炭素原子に縮合することができる。
【0034】
環状sec−ホスフィノラジカルは、例えば、下記式(可能性のあるジアステレオマーのうちの1しか示されていない):
【0035】
【化19】

【0036】
〔式中、
ラジカルR′及びR″は、それぞれ、C〜Cアルキル、例えばメチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、ベンジル、又は−CH−O−C〜Cアルキル又は−CH−O−C〜C10アリールであり、R′及びR″は、同一又は異なっている〕
に対応することができる。
【0037】
式Iの化合物において、sec−ホスフィノラジカルPhosは、好ましくは、−P(C〜Cアルキル)、−P(C〜Cシクロアルキル)、−P(C〜C12ビシクロアルキル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P〔2−(C〜Cアルキル)C、−P〔3−(C〜Cアルキル)C、−P〔4−(C〜Cアルキル)C、−P〔2−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔3−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔4−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔2−(トリフルオロメチル)C、−P〔3−(トリフルオロメチル)C、−P〔4−(トリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビス(C〜Cアルキル)、−P〔3,5−ビス(C〜Cアルコキシ)2及び−P〔3,5−ビス(C〜Cアルキル)−4−(C〜Cアルコキシ)Cからなる群より選択される非環式sec−ホスフィノラジカルであるか、又は下記:
【0038】
【化20】

【0039】
からなる群より選択される環状ホスフィノラジカルであり、これらは、非置換であるか、又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ若しくはC〜Cアルキリデンジオキシルで1回以上置換されている。
【0040】
幾つかの特定の例は、−P(CH、−P(i−C、−P(n−C、−P(i−C、−P(t−C、−P(C)、−P(C11、−P(ノルボルニル)、−P(o−フリル)、−P(C、P〔2−(メチル)C、P〔3−(メチル)C、−P〔4−(メチル)C、−P〔2−(メトキシ)C、−P〔3−(メトキシ)C、−P〔4−(メトキシ)C、−P〔3−(トリフルオロメチル)C、−P〔4−(トリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビス(メチル)、−P〔3,5−ビス(メトキシ)C及び−P〔3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C及、並びに下記式:
【0041】
【化21】

【0042】
〔式中、
R′は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル又はベンジルオキシメチルであり、そしてR″は、独立してR′の意味のうちの1つを有するが、R′と異なっている〕
で示されるものである。
【0043】
P結合P(III)置換基Phosは、−PHR12であることもできる。R12は、選択肢を含む、P結合P(III)置換基として第二級ホスフィノ基について上記に記述されたものと同じ炭化水素ラジカルのうちの1つであることができる。
【0044】
P結合P(III)置換基Phosは、式:−PR13OR14のホスフィナイトラジカルであることもでき、ここで、R13及びR14は、互いに独立して、選択肢を含む、P結合P(III)置換基として第二級ホスフィノ基について上記に記述された炭化水素ラジカルであるか、或いはR13及びR14は、一緒になって、3〜8個、好ましくは3〜6個の炭素原子を環に有し、非置換であるか又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、フェノキシ若しくは(C〜Cアルキル)Si−で置換されている、二価炭化水素ラジカルを形成する。ベンゼン及びナフタレンのような芳香族基は、二価炭化水素ラジカルに縮合することができる。
【0045】
P結合P(III)置換基Phosは、式:−PR15OR16のホスホナイトラジカルであることもでき、ここで、R15及びR16は、互いに独立して、選択肢を含む、P結合P(III)置換基として第二級ホスフィノ基について上記に記述された炭化水素ラジカルであるか、或いはR15及びR16は、一緒になって、2〜8個、好ましくは2〜6個の炭素原子を環に有し、非置換であるか又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、フェノキシ若しくは(C〜Cアルキル)Si−で置換されている、二価炭化水素ラジカルを形成する。ベンゼン及びナフタレンのような芳香族基は、二価炭化水素ラジカルに縮合することができる。R15及びR16が一緒になって二価炭化水素ラジカルを形成する場合、環状ホスホナイト基が存在する。
【0046】
この環状ホスホナイト基は、5員〜8員環であることができ、ここで−O−P−O−基のO原子は、α,ω位置でC〜C鎖に結合しており、炭素鎖は、二芳香族又は二複素環の一部であることができる。環状ホスホナイト基の炭素原子は、非置換であることができるか、又は例えばC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、ハロゲン(F、Cl、Br)、CF及び−C(O)−C〜Cアルキルで置換されていることができる。−O−P−O−基が脂肪族鎖に結合している場合、鎖は、好ましくは、置換又は非置換の1,2−エチレン又は1,3−プロピレンである。
【0047】
環状ホスホナイト基が、例えば、置換又は非置換C〜Cアルキレンジオール、好ましくはC−ジオールにより形成され、式II:
【0048】
【化22】

【0049】
〔式中、Tは、直接結合又は非置換若しくは置換の−CH−若しくは−CH−CH−である〕に対応することができる。Tは、好ましくは直接結合であり、したがって、式IIa:
【0050】
【化23】

【0051】
〔式中、R100は、水素、C〜Cアルキル、フェニル、ベンジル、C〜Cアルコキシであるか、或いは2つのラジカルR100は、非置換又は置換縮合芳香族基を形成する〕
で示されるホスホナイトラジカルを形成する。
【0052】
他の環状ホスホナイトは、例えば、1,1−ビフェニル−2,2′−ジオールから誘導することができ、式III又はIIIa:
【0053】
【化24】

【0054】
〔式中、フェニル環は、それぞれ、非置換であるか又は例えばハロゲン(F、Cl、Br)CF、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ若しくは−C(O)−C〜Cアルキルで1〜5回置換されている〕
に対応することができる。
【0055】
他の環状ホスホナイトは、例えば、1,1−ビナフチル−2,2′−ジオールから誘導することができ、式IV:
【0056】
【化25】

【0057】
〔式中、ナフチル環は、それぞれ、非置換であるか又は例えばハロゲン(F、Cl、Br)CF、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ若しくは−C(O)−C〜Cアルキルで1〜6回置換されている〕
に対応することができる。
【0058】
他の環状ホスホナイトは、例えば、1,1−ビヘテロアリール−2,2′−ジオールから誘導することができ、式V:
【0059】
【化26】

【0060】
〔式中、フェニル環は、それぞれ、非置換であるか又は例えばハロゲン(F、Cl、Br)CF、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ若しくは−C(O)−C〜Cアルキルで1〜4回置換されており、そしてAは、−O−、−S−、=N−、−NH−又は−NC〜Cアルキルである〕
に対応することができる。
【0061】
P結合P(III)置換基Phosは、式:−PR17NR1819のアミノホスフィノラジカルであることもでき、ここで、R17、R18及びR19は、それぞれ、互いに独立して、選択肢を含む、P結合P(III)置換基として第二級ホスフィノ基について上記に記述された開鎖状炭化水素ラジカルであるか、或いはR17はこの意味を有し、R18及びR19は、一緒になって、3〜7個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有し、非置換であるか又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、フェニル、ベンジル、フェノキシ若しくは(C〜Cアルキル)Si−で置換されている、二価炭化水素ラジカルを形成する。
【0062】
P結合P(III)置換基Phosは、式:−P(NR1819)(NR2021)のアミノホスフィノラジカルであることもでき、ここで、R18、R19、R20及びR21は、選択肢を含む、開鎖状炭化水素ラジカルR17の意味を有するか、或いはR18及びR19は、一緒になって、R20及びR21は、一緒になって、又はR19及びR20は、一緒になって、3〜7個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有し、非置換であるか又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、フェニル、ベンジル、フェノキシ若しくは(C〜Cアルキル)Si−で置換されている、二価炭化水素ラジカルを形成する。R18及びR21は、R19及びR20が一緒になって二価炭化水素ラジカルを形成する場合、上記に提示された意味を有する。
【0063】
式Iの化合物は、簡単なモジュラー方式により、鏡像異性的に純粋なジアステレオマーとしても高収率で製造することができる。中間体も鏡像異性的に純粋なジアステレオマーとして得ることができ、これは、純粋なジアステレオマー最終生成物の製造を容易にする。市販されている1,1′−ジハロフェロセン、例えば1,1′−ジブロモフェロセンから出発することが有利であり、ハロゲンを、アルキルリチウムのようなメタロセン試薬を使用して金属で選択的に置き換えることができる。
【0064】
第1の変形において、次に基RHalP−を、R−P(Hal)との反応により導入する。オルト金属化され、Y置換されているフェロセンとの反応によって、式VIIIの中心中間体をもたらし、これは、加熱及び再結晶化により純粋なジアステレオマーとして得ることができる:
【0065】
【化27】

【0066】
式中、Halは、ハロゲン(Cl、Br又はI、好ましくはBr)である。式VIIIの化合物において、所望のPhos基を、式:Phos−Halのハロホスフィンとの反応による新たなメタレーション(Halの置き換え)の後で導入することができる。
【0067】
別の変形では、最初にPhos基を、Phos−Halとの反応により導入し、次にRHalP−基を、メタレーション及び続くR−P(Hal)との反応により導入する。これによって、式X:
【0068】
【化28】

【0069】
で示される中間体を得て、これを、オルト金属化され、Y置換されているフェロセンと最終工程において反応させて、式Iの化合物を得る。得られたジアステレオマーの混合物を、加熱及び再結晶化により1つの純粋なジアステレオマーに変換することができる。
【0070】
本発明は、更に、式Iの化合物を製造する方法であって、
a)1,1′−ジハロフェロセンのメタレーションにより1−メタロ−1′−ハロフェロセンを得て、続く、式:R−P(Hal)〔式中、Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕の化合物との反応により式VI:
【0071】
【化29】

【0072】
〔式中、R、R及びnは、上記で定義されたとおりであり、そしてHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物を形成する工程、
b)式VIの化合物と、式VII:
【0073】
【化30】

【0074】
〔式中、Y、Cp、R及びmは、上記で定義されたとおりであり、そしてMは、Li又はMgHalであり、ここでHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物との反応により、式VIII:
【0075】
【化31】

【0076】
で示される化合物を形成する工程、及び
c)式VIIの化合物と、アルキルリチウムとの反応、次に式:Phos−Hal〔式中、Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕のハロホスフィンとの反応により、式Iの化合物を得る工程
を含む方法を提供する。
【0077】
方法の工程b)において、式VIIIのPキラル化合物のジアステレオマーの混合物が得られる。方法の工程b)で得られる式VIIIの化合物のジアステレオマーの混合物を、既知の方法、例えばクロマトグラフィーにより多様な立体異性体に分離することができる。
【0078】
しかし、これらの混合物を、単純な熱処理、そして適切であれば続く再結晶化による、驚くほど簡単な方法によって純粋なジアステレオマーに変換することもできる。熱処理、そして適切であれば再結晶化は、純粋なジアステレオマーを生成するため、方法の工程c)の後でのキラルカラムによる分離のような精製工程を避けるように、方法の工程c)を実施する前であることが望ましい。熱処理は、例えば、反応生成物を不活性溶媒の中に入れること、及び40〜150℃、好ましくは60〜120℃で数分から数時間、例えば10分間から10時間加熱することを含むことができる。適した溶媒が下記に記述されている。
【0079】
方法の工程a)で使用されるジハロフェロセン及びジハロホスフィンは、既知であるか、これらのうちの幾つかは市販されているか、又は類似の方法により製造することができる。式VIIIの化合物は、既知であるか、又は既知若しくは類似の方法により製造することができる。既知のY置換フェロセンが出発材料として使用され、オルト位置で金属化される。アルキルリチウム又はマグネシウムグリニャール化合物を使用するフェロセンのメタレーションは、既知の反応であり、例えば、T. Hayashi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 53 (1980), pages 1138 to 1151又はJonathan Clayden Organolithiums: Selectivity for Synthesis (Tetrahedron Organic Chemistry Series), Pergamon Press (2002)に記載されている。アルキルリチウム中のアルキルは、例えば、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を含有することができる。メチルリチウム、s−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム及びt−ブチルリチウムが頻繁に使用される。マグネシウムグリニャール化合物は、好ましくは、式:(C〜Cアルキル)MgXの化合物であり、ここでXは、Cl、Br又はIである。
【0080】
方法の工程a)、b)及びc)における反応は、低温、例えば20〜−100℃、好ましくは0〜−80℃で有利に実施される。試薬を加えた後、温度を例えば室温に上げることもできる。反応は、不活性保護ガス、例えば窒素ガス下又はヘリウム若しくはアルゴンのような希ガス下で有利に実施される。
【0081】
反応は、不活性溶媒の存在下で有利に実施される。そのような溶媒は、単独で又は少なくとも2つの溶媒の組み合わせとして使用することができる。溶媒の例は、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素、また開鎖状又は環状エーテルである。特定の例は、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル又はエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサンである。
【0082】
方法の工程a)、b)及びc)における反応では、少なくとも当量の反応体又は1つの反応体の1.5当量までの過剰量が使用される。
【0083】
本発明は、また、式VIII:
【0084】
【化32】

【0085】
〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
mは、0又は1〜3の整数であり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
Cpは、非置換又はC〜Cアルキル置換シクロペンタジエニルであり;
Yは、メタレーション試薬の金属をオルト位置へ向かわせる、C結合キラル基であり;そして
Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕
で示される、鏡像異性的に純粋なジアステレオマーの形態又はジアステレオマーの混合物の形態の化合物を提供する。
【0086】
本発明は、更に、式Iの化合物を製造する方法であって、
a)1,1′−ジハロフェロセンのメタレーションにより1−メタロ−1′−ハロフェロセンを形成して、続けて式:Phos−Hal〔ここで、ハロ及びHalは、それぞれ塩素、臭素又はヨウ素である〕の化合物との反応により式IX:
【0087】
【化33】

【0088】
〔式中、R、Phos及びnは、上記で定義されたとおりであり、そしてHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物を形成する工程、
b)式IXの化合物のメタレーション、続く式:R−P(Hal)の化合物との反応により、式X:
【0089】
【化34】

【0090】
〔式中、R、R、Phos、Hal及びnは、上記で定義されたとおりである〕で示される化合物を形成する工程、
c)式Xの化合物と、式VII:
【0091】
【化35】

【0092】
で示される化合物との反応により、式Iの化合物を得る工程
を含む方法を提供する。
【0093】
方法の工程c)において、式VIIのPキラル化合物のジアステレオマーの混合物が得られる。方法の工程c)で得られる式VIIの化合物のジアステレオマーの混合物を、既知の方法、例えばクロマトグラフィーにより多様な立体異性体に分離することができる。
【0094】
方法の工程c)において、式IのPキラル化合物のジアステレオマーの混合物が得られる。これらの混合物を、単純な熱処理、そして適切であれば続く再結晶化による、驚くほど簡単な方法により純粋なジアステレオマーに変換することもできる。熱処理、そして適切であれば再結晶化が、純粋なジアステレオマーを製造するために望ましい。熱処理は、例えば、反応生成物を不活性溶媒の中に入れること、及び40〜150℃、好ましくは60〜120℃で数分から数時間、例えば10分間から10時間加熱することを含むことができる。適した溶媒が下記に記述されている。
【0095】
この方法を、最初に記載された方法と類似の条件下で実施することができる。
【0096】
本発明は、更に式Xa:
【0097】
【化36】

【0098】
〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
22は、Phos又はHal基であり;
Phosは、P結合P(III)置換基であり;そして
Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕
で示される化合物を提供する。
【0099】
式Xaの化合物は、式VI及び式Xの化合物を包含する。
【0100】
式Iの新規化合物は、不斉合成、例えばプロキラル不飽和有機化合物の不斉水素化のための優れた触媒又は触媒前駆体である遷移金属の錯体のためのリガンドである。プロキラル不飽和有機化合物が使用される場合、非常に高過剰量の光学異性体を、有機化合物の合成において誘導することができ、高い化学変換を短い反応時間で達成することができる。達成することができるエナンチオ選択性及び触媒活性は、優れている。更に、そのようなリガンドを、他の不斉付加又は結晶化反応において使用することもできる。
【0101】
本発明は、更に、遷移金属の群から選択される金属、例えばTM8金属と、リガンドとしての式Iの化合物のうちの1つとの錯体を提供する。本発明の目的において、遷移金属は、元素の周期表の遷移族の金属である。
【0102】
可能な金属は、例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtである。好ましい金属は、ロジウム及びイリジウム、また、ルテニウム、白金及びパラジウムである、
【0103】
特に好ましい金属は、ルテニウムロジウム及びイリジウムである。
【0104】
金属錯体は、金属原子の酸化数及び配位数に応じて、更なるリガンド及び/又はアニオンを含有することができる。カチオン性金属錯体も可能である。そのような類似の金属錯体及びそれらの製造物は、文献において広く記載されている。
【0105】
金属錯体は、例えば、一般式XI及びXII:
【0106】
【化37】

【0107】
〔式中、Aは、式Iの化合物のうちの1つであり、
Lは、同一若しくは異なっている単座のアニオン性若しくは非イオン性リガンドを表すか、又はLは、同一若しくは異なっている二座のアニオン性若しくは非イオン性リガンドを表し;
rは、Lが単座リガンドである場合、2、3若しくは4であるか、又はLが二座リガンドである場合、1若しくは2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh、Ir及びRuからなる群より選択される金属であり、ここで金属は0、1、2、3又は4の酸化状態を有し;
は、オキソ酸又は錯体酸のアニオンであり、そして
アニオンリガンドは、酸化状態1、2、3又は4の金属の電荷を平衡にする〕
に対応することができる。
【0108】
上記に記載された選択肢及び実施態様は、式Iの化合物に当てはまる。
【0109】
単座非イオン性リガンドは、例えば、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン)、溶媒和溶媒(ニトリル、直鎖又は環状エーテル、非アルキル化又はN−アルキル化アミド及びラクタム、アミン、ホスフィン、アルコール、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル)、一酸化窒素及び一酸化炭素からなる群より選択することができる。
【0110】
適した多座アニオン性リガンドは、例えば、アリル(アリル、2−メタリル)であるか、又はアセチルアセトネートのような脱プロトン化1,3−ジケト化合物である。
【0111】
単座アニオン性リガンドは、例えば、ハロゲン化物(F、Cl、Br、I)、擬ハロゲン化物(シアニド、シアネート、イソシアネート)、並びにカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸のアニオン(炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、メチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、フェニルスルホン酸塩、トシラート)からなる群より選択することができる。
【0112】
二座非イオン性リガンドは、例えば、直鎖又は環状ジオレフィン(例えば、ヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン)、ジニトリル(マロノニトリル)、非アルキル化又はN−アルキル化カルボン酸ジアミド、ジアミン、ジホスフィン、ジオール、ジカルボン酸のジエステル、及びジスルホン酸のジエステルからなる群より選択することができる。
【0113】
二座アニオン性リガンドは、例えば、ジカルボン酸、ジスルホン酸及びジホスホン酸の(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、メチレンジスルホン酸及びメチレンジホスホン酸)のアニオンからなる群より選択することができる。
【0114】
好ましい金属錯体には、Eが、−Cl、−Br、−I、ClO、CFSO、CHSO、HSO、(CFSO、(CFSO、テトラアリールボレート、例えばB(フェニル)、B〔ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル〕、B〔ビス(3,5−ジメチル)フェニル〕、B(C及びB(4−メチルフェニル)、BF、PF、SbCl、AsF又はSbFであるものも含まれる。
【0115】
水素化に特に適している特に好ましい金属錯体は、式XIII及びXIV:
【0116】
【化38】

【0117】
〔式中、
は、式Iの化合物のうちの1つであり;
Meは、ロジウム又はイリジウムであり;
は、2つのオレフィンか又はジエンであり;
Zは、Cl、Br又はIであり;そして
は、オキソ酸又は錯体酸のアニオンである〕
に対応する。
【0118】
上記に記載された実施態様及び選択肢は、式Iの化合物に当てはまる。
【0119】
オレフィンリガンドYは、C〜C12−、好ましくはC〜C−、特に好ましくはC〜C−オレフィンであることができる。例は、プロペン、1−ブテン、特にエチレンである。ジエンは、5〜12個、好ましくは5〜8個の炭素原子を含有することができ、開鎖状、環状又は多環式ジエンであることができる。ジエンの2つのオレフィン基は、好ましくは、1又は2つのCH基により連結している。例は、1,4−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−又は1,5−ヘプタジエン、1,4−又は1,5−シクロヘプタジエン、1,4−又は1,5−オクタジエン、1,4−又は1,5−シクロオクタジエン及びノルボルナジエンである。Yは、好ましくは2つのエチレンであるか、又は1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンである。
【0120】
式XIIIにおいて、Zは、好ましくはCl又はBrである。Eの例は、BF、ClO、CFSO、CHSO、HSO、B(フェニル)、B〔ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル〕、PF、SbCl、AsF又はSbFである。
【0121】
本発明の金属錯体は、文献により既知の方法により製造される(US-A-5,371,256、US-A-5,446,844、US-A-5,583,241、並びにE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (Eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I to III, Springer Verlag, Berlin, 1999及びこれらに引用されている参考文献も参照すること)。
【0122】
本発明の金属錯体は、反応条件下で活性化されうる均一触媒又は触媒前駆体であり、これをプロキラル不飽和有機化合物の不斉付加反応に使用することができる。
【0123】
金属錯体を、例えば、炭素/炭素又は炭素/ヘテロ原子二重結合を有するプロキラル化合物の不斉水素化(水素の付加)に使用することができる。可溶性均一金属錯体を使用するそのような水素化は、例えば、Pure and Appl. Chem., Vol. 68, No. 1, pages 131-138, (1996)に記載されている。水素化される好ましい不飽和化合物は、基C=C、C=N及び/又はC=Oを含有する。本発明によると、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムの金属錯体が水素化において好ましく使用される。
【0124】
本発明は、キラル有機化合物の製造における、好ましくはプロキラル有機化合物内の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加するキラル有機化合物の製造における、本発明の金属錯体の均一触媒としての使用を更に提供する。
【0125】
本発明は、キラル有機化合物の製造における、好ましくは酸の存在下でプロキラル有機化合物内における炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加するキラル有機化合物の製造における、本発明の金属錯体の均一触媒としての使用を更に提供する。
【0126】
本発明の更なる態様は、触媒の存在下で、プロキラル有機化合物内の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加することにより、キラル有機化合物を製造する方法であり、これは、付加反応が、本発明の少なくとも1つの金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする。
【0127】
本発明の更なる態様は、酸の存在下での金属錯体の使用であるか、又は金属錯体の存在下、中性から好ましくは酸の添加による酸性の条件下での方法であり、ここで、金属錯体は、WO2006/075166又はWO02/02578のものに対応し、そして上記及びそうでなければ下記に記載されている実施態様及び選択肢が同様に当てはまる。特に好ましいものは、対応するRh錯体である。更なる特に好ましいものは、WO2006/075166の4ff頁により詳細に記載されている一般式の化合物と、WO2006/075166にリガンドとして好ましいと記載されている更なるリガンド化合物とを有する金属錯体であり、とりわけ好ましくは、化合物1,1′−ビス〔(S,R,SFe)(1−N,N−ジメチルアミノ)エチルフェロセニル)フェニルホスフィノ〕フェロセンである。更なる特に好ましいものは、WO02/02578の2ff頁により詳細に記載されている一般式(Ib)又は(Ic)の化合物と、WO02/02578にリガンドとして好ましいとして記載されている更なるリガンド化合物とを有する金属錯体であり、とりわけ好ましくは化合物(R,R)−1−{1−〔ビス(ビス−3,5−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ〕エチル}−2−(2−ジフェニルホスフィノフェニル)フェロセンである。
【0128】
水素化される好ましいプロキラル不飽和化合物は、1つ以上の同一又は異なっているC=C、C=N及び/又はC=O基を開鎖状又は環状有機化合物に含有することができ、ここで、C=C、C=N及び/又はC=O基は、環系又は環外基の一部であることができる。プロキラル不飽和化合物は、アルケン、シクロアルケン、ヘテロシクロアルケン、また開鎖状又は環状ケトン、α,β−ジケトン、α−又はβ−ケトカルボン酸、またそれらのエステル及びアミド、α,β−ケトアセタール又は−ケトケタール、ケチミン、ケチドラゾン、α−ケト−β−オキシム、不飽和α,β−アミノカルボン酸、置換α,β−不飽和カルボン酸、並びに置換エノールエーテルであることができる。
【0129】
不飽和有機化合物の幾つかの例は、アセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、4−トリフルオロメチルアセトフェノン、4−ニトロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、対応する非置換又はN置換アセトフェノンベンジルイミン、非置換又は置換のベンゾシクロヘキサノン又はベンゾシクロペンタノン及び対応するイミン、非置換又は置換のテトラヒドロキノリン、テトラヒドロピリジン及びジヒドロピロールよりなる群からのイミン、並びに非置換カルボン酸、エステル、アミド及び塩、例えばα−及び適切であればβ−置換アクリル酸又はクロトン酸である。カルボン酸は、下記式:
【0130】
【化39】

【0131】
で示される酸、またその塩、エステル及びアミドであることができ、ここで、R01は、炭素原子を介して結合している置換又は非置換炭化水素ラジカルであり、そしてR02は、直鎖若しくは分岐鎖C〜C18アルキル、直鎖若しくは分岐鎖C〜C12シクロアルキル、直鎖若しくは分岐鎖C〜C14アリールオキシ、直鎖若しくは分岐鎖C〜C18アルコキシ、C〜C18ヒドロキシアルコキシ、C〜C18アルコキシ−C〜Cアルキル、又は保護アミノ(例えば、アセチルアミノ)である。
【0132】
ラジカルR01及びR02は、同一又は異なっている置換基により、例えば、非保護又は保護ヒドロキシ、チオール若しくはアミノ、CN、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシ、C〜C10アリール(好ましくは、フェニル)、ヘテロアリール、エステル基、又はアミド基で1回以上置換されていることができる。
【0133】
炭化水素ラジカルR01は、非置換若しくは置換されていることができ、及び/又はO、S、−N=、−NH−又はN(C〜Cアルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することができる。脂肪族炭化水素ラジカルは、1〜30個、好ましくは1〜22個、特に好ましくは1〜18個、とりわけ好ましくは1〜12個の炭素原子、及び0〜4個、好ましくは0、1又は2個の記述したヘテロ原子を含有することができる。芳香族及び芳香族複素環式炭化水素ラジカルは、3〜22個、好ましくは3〜18個、特に好ましくは4〜14個、とりわけ好ましくは4〜10個の炭素原子、及び1〜4個、好ましくは1又は2個の記述したヘテロ原子を含有することができる。
【0134】
炭化水素ラジカルの例及び好ましい実施態様が、ラジカルR及びRについて上記に提示されており、R01及びR02にも当てはまる。
【0135】
01は、好ましくは、単核若しくは多核(例えば、2〜4つの環)C〜C14アリールであるか、又はO、S、−N=、−NH−若しくはN(C〜Cアルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を有するC〜C14ヘテロアリールであり、例えば非保護又は保護ヒドロキシ、チオール若しくはアミノ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシ、エステル基又はアミド基で置換されていることができる。アリール及びヘテロアリールは、例えば、ベンゼン、ナフタレン、インダン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、チオフェン、フラン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、イソインドール及びキノリンから誘導することができる。
【0136】
不飽和有機化合物の幾つかの例は、アセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン、4−トリフルオロメチルアセトフェノン、4−ニトロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、対応する非置換又はN置換アセトフェノンベンジルイミン、非置換又は置換のベンゾシクロヘキサノン又はベンゾシクロペンタノン及び対応するイミン、非置換又は置換のテトラヒドロキノリン、テトラヒドロピリジン及びジヒドロピロールよりなる群からのイミン、並びに非置換カルボン酸、エステル、アミド及び塩、例えばα−及び適切であればβ−置換アクリル酸又はクロトン酸である。好ましいルボン酸は、下記式:
【0137】
【化40】

【0138】
で示される酸、またそれらの塩、エステル及びアミドであり、ここで、R01は、C〜Cアルキル、非置換Cシクロアルキル、又は1〜4つのC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシラジカルで置換されているC〜Cシクロアルキルか、又は非置換C〜C10アリール(好ましくは、フェニル)若しくはヘテロアリール、又は1〜4つのC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシラジカルで置換されているC〜C10アリール(好ましくは、フェニル)若しくはヘテロアリールであり、そしてR02は、直鎖若しくは分岐鎖C〜Cアルキル(例えば、イソプロピル)、非置換シクロペンチル、シクロヘキシル若しくはフェニル、又は上記に定義されているように置換されているシクロペンチル、シクロヘキシル若しくフェニルか、又は保護アミノ(例えば、アセチルアミノ)である。
【0139】
予期しないことに、ロジウム錯体及び式Iのリガンドを触媒として使用する式XVのカルボン酸の水素化において、97%ee(eeは、鏡像体過剰率と等しい)を超える極めて際立った光学収率と、加えて、基質と触媒の5000以上の高い比率であっても、完全な変換とを短い反応時間内で達成することができること、すなわち高い触媒活性が観察されることが見出されている。キラル二座リガンドの金属錯体を使用する式XVのカルボン酸の水素化は、WO2002/02500A1に記載されている。
【0140】
本発明の方法の特に好ましい実施態様は、式XV:
【0141】
【化41】

【0142】
〔式中、
03及びR04は、それぞれ、互いに独立して、H、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルキル又はC〜Cアルコキシ−C〜Cアルキルオキシであり、そしてR05は、C〜Cアルキルである〕で示される化合物を、式Iのリガンドを有するロジウム錯体の触媒としての存在下で、水素により水素化して、式XVI:
【0143】
【化42】

【0144】
で示される化合物を得ることを特徴とする。
【0145】
03は、好ましくはメトキシプロピルオキシであり、R04は、好ましくはメトキシであり、そしてR05は、好ましくはイソプロピルである。
【0146】
本発明の方法は、低温又は高温、例えば、−20〜150℃、好ましくは−10〜100℃、特に好ましくは10〜80℃の温度で実施することができる。光学収率は、一般に高い温度よりも比較的低い温度において良好である。
【0147】
本発明の方法は、大気圧又は過圧で実施することができる。圧力は、例えば、10〜2×10Pa(パスカル)であることができる。水素化は、大気圧又は過圧で実施することができる。
【0148】
触媒は、水素化される化合物に基づいて、好ましくは0.0001〜10mol%、特に好ましくは0.01〜10mol%、とりわけ好ましくは0.01〜5mol%の量で使用される。
【0149】
リガンド及び触媒の製造、また水素化は、溶媒なし又は不活性溶媒の存在下で実施することができ、1つの溶媒又は溶媒の混合物を使用することが可能である。適した溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、)、脂肪族ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン及びテトラクロロエタン)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル及びラクトン(酢酸エチル又はメチル、バレロラクトン)、N置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド)、非環式尿素(ジメチルイミダゾリン)、スルホキシド及びスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)、並びに水である。溶媒は、単独で又は少なくとも2つの溶媒の混合物として使用することができる。
【0150】
反応は、助触媒、例えば第四級ハロゲン化アンモニウム(ヨウ化テトラブチルアンモニウム)の存在下、及び/又はプロトン酸、例えば鉱酸の存在下で実施することができる(例えば、US−A−5,583,241及びEP−A−0691949を参照すること)1,1,1−トルフルオロエタノールのようなフッ素化アルコール又は塩基(アミン、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩)の存在も、同じ様に接触反応を促進することができる。
【0151】
本発明の更なる態様は、触媒の存在下で、プロキラル有機化合物内の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加することにより、キラル有機化合物を製造する方法であり、これは、付加反応が、本発明の少なくとも1つの金属錯体の触媒量の存在下、中性から酸性の条件下で実施されることを特徴とする。本発明の目的において、中性から酸性の条件とは、塩基成分の不在、特に好ましくは酸の添加を意味する。
【0152】
適した酸は、例えば下記である:
a)有機酸:好ましくは1〜20個の炭素原子、特に好ましくは1〜12個の炭素原子を有する、脂肪族(直鎖、分岐鎖若しくは環状)又は芳香族、非ハロゲン化又はハロゲン化(フッ素化若しくは塩素化)カルボン酸、スルホン酸及びリン(V)酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−、i−酪酸、安息香酸、フェニル酢酸、シクロヘキサンカルボン酸、クロロ酢酸、フルオロ酢酸、ジクロロ酢酸及びジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸、ペルフルオロ酪酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ホスホン酸及び亜リン酸;並びに
b)無機酸、例えばHCl(水性)、硫酸、リン酸、HF、HBF、HI、HBr、固体酸、例えばイオン交換樹脂。
【0153】
酸は、好ましくは、触媒の1当量あたり1〜1000000当量の酸、好ましくは1〜10000当量、特に好ましくは10〜1000当量の量で添加される。
【0154】
中性から酸性条件下で実施される方法において、好ましくは、酸の添加に起因して、光学収率の増加が驚くほど観察される。
【0155】
触媒として使用される金属錯体を、別個に製造、単離した化合物として添加することができるか、そうでなければ、反応の前にその場で形成して、次に、水素化される基質と混合することができる。単離金属錯体を使用して追加のリガンドを反応に加えること、又はその場で製造した過剰量のリガンドを使用することが、有益でありうる。過剰量は、製造に使用した金属化合物に基づいて、例えば6モルまで、好ましくは2モルまでであることができる。
【0156】
本発明の方法は、一般に、触媒を反応容器の中に入れ、次に基質、適切であれば反応助剤及び添加される化合物を加え、続いて反応を始めることによって実施される。添加される気体化合物、例えば水素又はアンモニアは、有利には圧力下で導入される。方法は、多様な種類の反応器により連続的又はバッチ的に実施することができる。
【0157】
本発明のキラル有機化合物は、特に風味剤(flavour)及び芳香剤(fragrance)、医薬及び農薬の製造における活性物質又はそのような物質を製造する中間体である。
【0158】
上記又は下記に提示されている値の範囲に関する指示、例えば「1〜20個の炭素原子」は、それぞれの場合において、記述される極値、すなわち1個の炭素原子及び20個の炭素原子を含む。
【0159】
以下の実施例は本発明を詳述する。
【0160】
A)中間体調製
全ての操作を、不活性ガス(アルゴン)下で実施した。
略語:THF=テトラヒドロフラン;TBME=tert−ブチルエーテル;n−BuLi:ブチルリチウム;s−BuLi=sec−ブチルリチウム;t−BuLi=tert−ブチルリチウム;DE=ジエチルエーテル;Hep=ヘプタン;EA=酢酸エチル;MeOH=メタノール;TMEDA=N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン;NEt=トリエチルアミン。
【0161】
実施例A1:式(A1)〔Ph=フェニル;Me=メチル〕の(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ブロモフェロセンの調製
【0162】
【化43】

【0163】
a)1−フェニルクロロホスフィン−1′−ブロモフェロセン(X1)の調製
n−BuLi(ヘキサン中1.6M)14.5ml(23.2mmol)を、THF 30ml中の1,1′−ジブロモフェロセン8g(23.3mmol)の溶液に−30℃未満の温度で滴加した。混合物をこの温度で更に30分間撹拌した。次に−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン3.15ml(23.3mmol)を、温度が−60℃を超えない速度で滴加した。混合物を−78℃で更に10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。これによりモノクロロホスフィンX1の懸濁液を得た。
【0164】
b)A1(ジアステレオマーの混合物)の調製
t−BuLi(ヘキサン中1.5M)15.5ml(23.2mmol)を、ジエチルエーテル(DE)40ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン5.98g(23.2mmol)の溶液に−10℃未満で滴加した。混合物を同じ温度で10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。これにより化合物X2の溶液を得て、それを、モノクロロホスフィンX1の冷却懸濁液に、温度が−30℃を超えない速度で、カニューレを介して加えた。混合物を−30℃で更に10分間撹拌した後、温度を0℃に上げて、混合物を更に2時間撹拌した。反応混合物を水20mlと混合した。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。クロマトグラフ精製(シリカゲル60;溶離剤=ヘプタン/酢酸エチル(EA)/NEthyl(Net)85:10:5)により、目的生成物11.39gを2つのジアステレオマーの混合物として得た。
【0165】
c)A1(1つのジアステレオマー)の調製
方法の工程b)に記載されたようにして得られた生成物を、トルエン50mlに溶解し、4時間環流した。トルエンを留去した後、残渣をエタノールから結晶化した。これにより化合物A1を、黄色の結晶の形態の純粋なジアステレオマーとして、理論値59%の収率で得た。
【0166】
【表1】

【0167】
実施例A2:式(A2)の1−ジシクロヘキシルホスフィノ−1′−ブロモフェロセンの調製
【0168】
【化44】

【0169】
n−BuLi(ヘキサン中2.5M)120ml(0.3mol)を、THF 300ml中の1,1′−ジブロモフェロセン103g(0.3mol)の溶液に−30℃未満の温度で滴加した。混合物をこの温度で更に1.5時間撹拌した。次に−50℃に冷却し、ジシクロヘキシルホスフィノクロリド66.2ml(0.3mol)を、温度が−45℃を超えない速度で滴加した。混合物を更に10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。水150mlを加えた後、反応混合物をヘキサンと共に振とうした。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。残渣をエタノール中で結晶化した。生成物A2を収率84%(黄色の固体)で得た。
【0170】
【表2】

【0171】
実施例A3:式(A3)の1,1′−(フェロセンジイル)フェニルホスフィンの調製
【0172】
【化45】

【0173】
n−BuLi(ヘキサン中2.5M)88ml(0.22mol)を、ヘキサン500ml中のフェロセン18.3g(0.1mol)及びTMEDA 30.2ml(0.2mol)の懸濁液に加えた。続いて反応混合物を50℃で2時間撹拌した。次に−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン14.9ml(0.11mmol)を、温度が−60℃を超えない速度で加えた。添加の後、温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。次に水5mlを加え、混合物を濾過した。濾液を水で洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相の容量を、ロータリーエバポレーターにより減圧下で溶媒を留去することによって、約100mlに低減した。−30℃に冷却すると、生成物A3を赤色の結晶(収率55%)として得た。
【0174】
【表3】

【0175】
B)ジホスフィンの調製
実施例B1〜B14:式(A1)の(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ブロモフェロセンからの式B1〜B14のジホスフィン化合物の調製
【0176】
【化46】

【0177】
化合物B1〜B14の調製のための一般的合成方法。それぞれの実施例に関する特定の詳細は、以下の表にまとめた。
n−BuLi(ヘキサン中1.6M)又はs−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)1.1mmolを、tert−ブチルメチルエーテル(TBME)3〜5ml中の化合物A1 1mmolの溶液に、−5℃〜0℃の温度で滴加した。温度を0℃に維持し、混合物を更に1時間撹拌し、次にクロロホスフィンClPR 1.1mmolを加えた。温度を室温に上げ、反応混合物を更に1時間撹拌し、次に飽和NaHCO水溶液5mlと混合した。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。クロマトグラフ精製(シリカゲル60;溶離剤=表を参照すること)及び、必要であればメタノール中での結晶化によって、化合物B1〜B14を純粋なジアステレオマーとして得た。
【0178】
【表4】


(a)ジ−t−ブチルホスフィンクロリドの添加の後、反応混合物を50℃で1時間更に撹拌してから、NaHCO溶液5mlを添加した。
(b)ビス(2−ボルニル)ホスフィンクロリドを、多様なジアステレオマーの混合物として使用した。
【0179】
化合物B1〜B14のNMRデータ:
化合物B1:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセン(B1):
【0180】
【表5】

【0181】
化合物B2:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ−tert−ブチルホスフィノフェロセン(B2):
【0182】
【表6】

【0183】
化合物B3:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジフェニルホスフィノフェロセン(B3):
【0184】
【表7】

【0185】
化合物B4:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ビス−〔3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル〕ホスフィノフェロセン(B4):
【0186】
【表8】

【0187】
化合物B5:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ビス−(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノフェロセン(B5):
【0188】
【表9】

【0189】
化合物B6:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ビス−(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)ホスフィノフェロセン(B6):
【0190】
【表10】

【0191】
化合物B7:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(1−ナフチル)ホスフィノフェロセン(B7):
【0192】
【表11】

【0193】
実施例B8:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(2−ボルニル)ホスフィノフェロセン(B8):
この生成物は4つのジアステレオマーの混合物として得た。
【0194】
【表12】

【0195】
実施例B9:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(4−フルオロフェニル)ホスフィノフェロセン(B9):
【0196】
【表13】

【0197】
実施例B10:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(2−メトキシフェニル)ホスフィノフェロセン(B10):
【0198】
【表14】

【0199】
実施例B11:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(4−フルオロメチルフェニル)ホスフィノフェロセン(B11):
【0200】
【表15】

【0201】
実施例B12:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジ(2−フリル)ホスフィノフェロセン(B12):
【0202】
【表16】

【0203】
実施例B13:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジエチルホスフィノフェロセン(B13):
【0204】
【表17】

【0205】
実施例B14:(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジイソプロピルホスフィノフェロセン(B14):
【0206】
【表18】

【0207】
実施例B15〜16:式(A)の1−ジシクロヘキシルホスフィノ−1′−ブロモフェロセンからの式B15及びB16のジホスフィノ化合物の調製
【0208】
【化47】

【0209】
実施例B15:式(B15a)の(R,SFc,R)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)−フェロセン−1−イル〕イソプロピルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンと式(B15b)の(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕イソプロピルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンの2つのジアステレオマーの調製
a)クロロホスフィン(X3)の調製
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)3.85ml(5mmol)を、TBME 5ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン1.29g(5mmol)の溶液に−20℃未満で滴加した。混合物を同じ温度で10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。次に反応混合物を−78℃に冷却し、ジクロロイソプロピルホスフィン0.62ml(5mmol)を、温度が−60℃を超えない速度で滴加した。−78℃で30分間、続いて室温で1時間、更に撹拌すると、クロロホスフィンX3を含有する懸濁液を得た。
【0210】
b)化合物15a及びB15b(2つのジアステレオマー)の調製
別の反応容器において、n−BuLi(ヘキサン中1.6M)3.31ml(5mmol)を、TBME 10ml中の化合物A2 2.31g(5mmol)に−60℃未満で滴加した。添加の後、温度を0℃に上げて、混合物をこの温度で更に30分間撹拌した。次に、得られた反応混合物を、温度が−50℃を超えないように注意しながら、クロロホスフィンX3の冷却懸濁液に加えた。添加の後、温度を室温に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。飽和NaHCO水溶液5mlを加えた後、反応混合物を抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。(R,SFc,R)−B15a/(R,SFc,S)−B15bの比率が約9:1の2つのジアステレオマーの混合物を得て、これを、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=最初はヘキサン/EA 8:1、次に追加的に1%のトリエチルアミン)により分離することができた。第1画分からは、ジアステレオマー(R,SFc,S)−B15b(0.35g;収率9.8%、橙色の固体)を得て、第2画分からはジアステレオマー(R,SFc,R)−B15a(2.78g;収率78%、橙色の固体)を得た。
【0211】
【表19】

【0212】
c)ジアステレオマー(R,SFc,R)−B15aの熱エピマー化:
ジアステレオマー(R,SFc,R)−B15a 1gを、溶媒又は希釈剤を添加することなく150℃で2時間加熱した。冷却し、クロマトグラフ精製(セクションbと同じ条件)した後、ジアステレオマー(R,SFc,S)−B15b 0.65g及びジアステレオマー(R,SFc,R)−B15a 0.15gを単離した。
【0213】
実施例B16:式(B16a)の(R,SFc,R)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕シクロヘキシルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンと式(B16b)の(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕シクロヘキシルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンの2つのジアステレオマーの調製
2つのジアステレオマーB16a及びB16bの調製は、実施例B15と類似した方法で実施したが、クロロホスフィンX4を、ジクロロイソプロピルホスフィンの代わりにジクロロヘキシルホスフィンを使用して調製し、このクロロホスフィンX4を更に反応させた点が異なっていた。
【0214】
この反応により(R,SFc,R)−B16a/(R,SFc,S)−B16bの比率が約1:1の2つのジアステレオマーの混合物を得た。この粗生成物を、150℃で1.5時間加熱することによりエピマー化し、続いてカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=最初はヘキサン/EA 10:1、次に追加的に1%のトリエチルアミン)により精製した。第1画分からは、ジアステレオマー(R,SFc,S)−B16b(収率=40%、橙色の固体)を得て、第2画分からはジアステレオマー(R,SFc,R)−B16a(収率=10%、橙色の固体)を得た。
【0215】
【表20】

【0216】
実施例B17:化合物(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕シクロヘキシルホスフィノ−1′−ビス−〔3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル〕ホスフィノフェロセン(B17)の調製:
【0217】
【化48】

【0218】
n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を、テトラヒドロフラン(THF)10ml中の1,1′−ジブロモフェロセン3.44g(10mmol)の溶液に−30℃未満の温度で滴加した。混合物をこの温度で更に1.5時間撹拌して、1−ブロモ−1′−リチオフェロセンX5の懸濁液を得た。
【0219】
第2の反応容器において、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)7.7ml(10mmol)を、TBME 15ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン2.57g(10mmol)の溶液に−10℃未満で滴加した。混合物を同じ温度で10分間撹拌した後、温度を0℃に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。次に反応混合物を−78℃に冷却し、ジクロロシクロヘキシルホスフィン1.51ml(10mmol)を加えた。−78℃で30分間更に撹拌し、冷却器を取り外した後、室温で更に1時間撹拌して、クロロホスフィンX4の懸濁液を得て、続いてそれを、1−ブロモ−1′−リチオフェロセンX5の懸濁液に−10℃未満の温度で加えた。次に冷却器を取り外し、混合物を室温で更に1.5時間撹拌した。−50℃未満に再び冷却した後、n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を滴加した。添加の後、温度を0℃に上げて、混合物を更に30分間撹拌した。次に−20℃に冷却し、ビス〔3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル〕クロロホスフィン4.63g(10mmol)を加えた。続いて冷却器を取り外し、混合物を室温で更に1.5時間撹拌した。反応混合物を1N NaOHと混合し、抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。続いて残渣を150℃で1時間加熱した。クロマトグラフ精製(シリカゲル60;溶離剤=ヘキサン/酢酸エチル 8:1)により、化合物B17を黄色の固体(収率:66%)として得た。
【0220】
【表21】

【0221】
実施例B18〜B20:式(B1)の化合物(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンの例としてジホスフィンリガンドを調製する代替的方法の記載
実施例B18:
反応スキーム
【0222】
【化49】

【0223】
n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を、テトラヒドロフラン(THF)10ml中の1,1′−ジブロモフェロセン3.44g(10mmol)の溶液に−30℃未満の温度で滴加した。混合物をこの温度で更に1.5時間撹拌した。次にジシクロヘキシシルホスフィンクロリド2.21ml(10mmol)を、温度が−20℃を超えない速度で滴加した。混合物を更に10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。これを冷却して30℃まで戻し、n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4.4ml(11mmol)を滴加した。続いて反応混合物を−10℃で30分間撹拌した。次に反応混合物を−78℃に冷却し、ジクロロフェニルホスフィン1.49ml(11mmol)を加えた。混合物を−78℃で20分間、次に室温で更に1時間撹拌した。これによりモノクロロジホスフィンX6を含む反応混合物を得た。
【0224】
第2の反応容器において、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)8.5ml(11mmol)を、ジエチルエーテル15ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン2.57g(10mmol)の溶液に−10℃未満で滴加した。混合物を同じ温度で10分間撹拌した後、温度を0℃に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。続いてこの反応溶液を、−10℃に冷却したモノクロロジホスフィンX6を含む反応混合物にカニューレを介して加えた。添加の後、混合物を室温で更に2時間撹拌した。水10mlを加えた後、反応混合物を抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。残渣を140℃で1時間加熱した。クロマトグラフ精製(シリカゲル60;溶離剤:ヘキサン/酢酸エチル 4:1)により、式(B1)の化合物を収率47%で得た。生成物の31P−及びH−NMRは、実施例B1と同一であった。
【0225】
実施例B19:
反応スキーム
【0226】
【化50】

【0227】
反応混合物1:n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を、テトラヒドロフラン(THF)10ml中の1,1′−ジブロモフェロセン3.44g(10mmol)の溶液に−30℃未満の温度で滴加した。混合物をこの温度で更に30分間撹拌した。次に−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン1.36ml(10mmol)を加えた。混合物を更に10分間撹拌した後、温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。
【0228】
反応混合物2:第2の反応容器において、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)8.0ml(10.4mmol)を、ジエチルエーテル15ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン2.57g(10mmol)の溶液に−10℃未満で滴加した。混合物を同じ温度で10分間撹拌した後、温度を0℃に上げて、混合物を更に1.5時間撹拌した。
【0229】
反応混合物1を反応混合物2に−10℃未満の温度でゆっくりと加えた。続いて混合物を室温で1.5時間撹拌した。次に、−78℃から−50℃の範囲の温度で、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)8ml(10.4mmol)を滴加した。混合物を−78℃で更に20分間撹拌した後、温度を0℃に上げて、混合物を更に30分間撹拌してから、クロロジシクロヘキシルホスフィン2.21ml(10mmol)を−20℃で加えた。混合物を−20℃で更に20分間、最後に室温で更に1.5時間撹拌した。処理及び熱エピマー化は、実施例B18に記載されたものと同様の方法により実施した。式(B1)の化合物を収率31%で得た。生成物の31P−及びH−NMRは、実施例B1と同一であった。
【0230】
実施例B20:
【0231】
【化51】

【0232】
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)8.5ml(11mmol)を、ジエチルエーテル15ml中の(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン2.83g(11mmol)の溶液に−10℃未満で滴加した。次に冷却器を取り外し、混合物を室温で更に2時間撹拌した。−10℃に冷却した後、化合物A3 2.92g(10mmol)を加え、混合物をこの温度で更に30分間撹拌した。温度を室温に上げて、混合物を更に1時間撹拌した。1N NaOH 10mlを加えた後、反応混合物を抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で留去した。残渣のH−NMRは、反応が非常に立体選択的であり、ほぼ所望のジアステレオマー(R,SFc,S)−1−〔2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンだけを与えたことを示した。クロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=ヘキサン/酢酸エチル 4:1)に付した後、この生成物を収率37%で得た。生成物の31P−及びH−NMRは、実施例B1と同一であった。
【0233】
実施例B21:式(B21)の化合物(R,SFc,S)−1−〔2−(1−メトキシエチル)フェロセン−1−イル〕フェニルホスフィノ−1′−ジシクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製:
この調製は、(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタンの代わりに(R)−1−メトキシ−1−フェロセニルエタンを使用する以外は、実施例B18に記載されたものと同様の方法で実施した。生成物B21を、クロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=ヘキサン/酢酸エチル 4:1)により精製して、橙色の泡状物として得た。
【0234】
【表22】

【0235】
C)金属錯体の調製
実施例C1:ロジウム錯体の調製(nbdはノルボルナジエンである)
リガンドB1 11mg(0.0148mmol)及び〔Rh(nbd)〕BF 5.4mg(0.0144mmol)を、CDOD 0.8mlに溶解し、10分間撹拌した。溶液を測定のためにNMR管に移した31P NMR(121.5MHz、CDOD):2つの重なり合った二重項。可能な割当て:δ26.60(d、JRh−P=163Hz)、26.30(d,JRh−P=157Hz)。
【0236】
D)使用実施例(水素化)
実施例D1〜D29:下記の水素化
【0237】
【化52】

【0238】
実施例D1:基質/触媒(S/C)比の2000を使用する水素化。
リガンドB1 3.04mg(0.0041mmol)及び〔Rh(nbd)〕BF 1.47mg(0.0039mmol)を計量して、磁気撹拌機及びゴム製隔膜を備えた25mlのシュレンク容器に入れ、メタノール2mlで溶解した。溶液を約10分間撹拌した。次にメタノール8ml中の基質S1 2.4g(7.783mmol)の溶液を加えた。得られた溶液を、加熱機を備え、予めアルゴンで満たした50mlのスチールオートクレーブに、カニューレを介して圧力下で移した。オートクレーブは、減圧弁を介して水素レザバーに連結していた。オートクレーブを密閉し、水素の加圧(60bar)及び減圧の2サイクルによりアルゴンを水素に置き換えた。次にオートクレーブを60barの水素により再び加圧し、水素化を、撹拌機のスイッチを入れて25℃で開始した。19.5時間後、撹拌機のスイッチを切り、オートクレーブを減圧し、水素化溶液を取り出した。変換及び鏡像体過剰率(ee)を、HPLC(Chirapak AD;0.46×250mm;ヘキサン/EtOH/AcOH 950:50:1;流量=0.7ml/分;20℃)により決定した。変換は定量的であり、eeは、97.4%であった(S配置)。
【0239】
D2〜D25及び比較例の化合物1〜化合物4の水素化は、表2に示された温度及び水素圧と同様に実施した。比較的高いS/Cを有する水素化の場合、より少ない触媒(〔Rh(nbd)〕BF 0.85mg(0.0023mmol)及びリガンド0.0024mmol)及びより多い基質を使用した。全ての水素化において、基質濃度は0.78モルであった。比較のため、リガンドB2〜B18及びB19では同様の手順を使用した。結果を表2に示す。
【0240】
【表23】


S/C=基質/触媒比;°TFA=トリフルオロ酢酸;リガンドB19は、1,1′−ビス〔(S,R,SFe)(1−N,N−ジメチルアミノ)エチルフェロセニル)フェニルホスフィノ〕フェロセンである。WO2006/075166、10頁、実施例1に記載されているように調製することができる。
【0241】
実施例D26〜D27:下記の水素化
【0242】
【化53】

【0243】
〔Rh(nbd)〕BF 1.87mg(0.005mmol)及びリガンド0.005mmolを計量して、磁気撹拌機及びゴム製隔膜を備えた10mlのシュレンク容器に入れ、メタノール1mlで溶解した。溶液を10分間撹拌し、次に、メタノール4ml中の基質S2 143mg(0.5mmol)(S/C=100)又は9ml中の285mg(1mmol)(S/C=200)を加えた。得られた溶液を、50mlのスチールオートクレーブにカニューレを介して圧力下で移し、実施例D1に記載されたものと同様の方法で水素化した。変換及び鏡像体過剰率(ee)を、HPLC(Chirapak AD;0.46×250mm)により決定した。結果を表3に示す。
【0244】
【表24】

【0245】
実施例D28〜36:基質S3、S4及びS5の水素化
【0246】
【化54】

【0247】
水素化は、1.2mlのアンプルで実施した。撹拌する代わりに、激しい振とうを実施した。グローブボックスにおいて、0.5mlの容量を有し、表4に示されている組成を有する溶液を、窒素雰囲気下、1.2mlのアンプル中で調製した。触媒を、1当量の〔Rh(nbd)〕BFと1.3当量のリガンドとをジクロロエタン中で混合し、続いて減圧下でジクロロエタンを留去することによって、その場で調製した。基質を水素化溶液に溶解し、触媒に溶液として加えた。アンプルを、加圧律速・加熱容器の中の所定の場所に固定し、容器を密閉し、所望の温度を設定し、容器中の窒素雰囲気を、所望の圧力で水素雰囲気に置き換えて、水素化を、振とう機のスイッチを入れて開始した。基質S3及びS4の変換及び鏡像体過剰率(ee)を、GC(Chrasil-L-val)により決定した。基質S4の水素化試料を、TMS−ジアゾメタンにより前もって誘導体化しておいた。基質S5の変換及びeeを、GC(Lipodex-E)により決定した。結果を表4にまとめた。
【0248】
【表25】


この水素化では、〔Rh(nbd)〕BFの代わりに〔Rul(p−シメン)〕を使用した。
【0249】
実施例D37:基質S6の水素化
【0250】
【化55】

【0251】
リガンドB3 4.89mg(0.0067mmol)及び〔Ir(cod)Cl〕 2.12mg(0.0032mmol)を計量して、磁気撹拌機及びゴム製隔膜を備えた25mlのシュレンク容器に入れ、トルエン2mlで溶解した。溶液を約10分間撹拌した。次に、トルエン3ml中の基質S6 260mg(1.27mmol)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム4.7mg及び酢酸30mgの溶液を加えた。得られた溶液を、加熱機を備えた50mlのスチールオートクレーブにカニューレを介して圧力下で移した。水素化を、実施例D1と同様な方法で実施した(水素化時間=19時間;室温;水素圧=80bar)。変換及び鏡像体過剰率(ee)を、HPLC(Chiracel OD-H)により決定した。変換は定量的であり、eeは、31%であった(R配置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】


〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
mは、0又は1〜3の整数であり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
Cpは、非置換又はC〜Cアルキル置換シクロペンタジエニルであり;
Yは、メタレーション試薬の金属をオルト位置へ向かわせる、C結合キラル基であり;そして
Phosは、P結合P(III)置換基である〕
で示される、鏡像異性的に純粋なジアステレオマーの形態又はジアステレオマーの混合物の形態の化合物。
【請求項2】
m及びnが、それぞれ0であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
が、1〜22個の炭素原子を有し、O、S、−N=又はN(C〜Cアルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することができる、非置換又は置換炭化水素ラジカルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
が、直鎖又は分岐鎖C〜C12アルキル;非置換又はC〜Cアルキル−若しくはC〜Cアルコキシ置換のC〜C12シクロアルキル若しくはC〜C12シクロアルキル−CH−;C〜C14アリール;C〜C12ヘテロアリール;C〜C14アラルキル;C〜C12ヘテロアラルキル;又はハロゲン−(フッ素−、塩素−若しくは臭素−)、C〜Cアルキル−、トリフルオロメチル−、C〜Cアルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi−、(C〜C12アルキル)Si−若しくはsec−アミノ置換のC〜C14アリール、C〜C12ヘテロアリール、C〜C14アラルキル若しくはC〜C12ヘテロアラルキルからなる群より選択されるラジカルであり、ここでヘテロアリール及びヘテロアラルキルが、O、S及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することを特徴とする、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
が、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cビシクロアルキル、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C〜Cアルキル)C、3−(C〜Cアルキル)C、4−(C〜Cアルキル)C、2−(C〜Cアルコキシ)C、3−(C〜Cアルコキシ)C、4−(C〜Cアルコキシ)C、2−(トリフルオロメチル)C、3−(トリフルオロメチル)C、4−(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、3,5−ビス(C〜Cアルキル)、3,5−ビス(C〜Cアルコキシ)及び3,5−ビス(C〜Cアルキル)−4−(C〜Cアルコキシ)Cであることを特徴とする、請求項3記載の化合物。
【請求項6】
基Yが、式:−HC(式中、は不斉原子を示す)に対応し、ここで、Rが、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜C10アリール、C〜C12アラルキル又はC〜C12アルカリルであり、Rが、−OR又は−NRであり、Rが、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル又はベンジルであり、そしてR及びRが、同一又は異なっており、それぞれ、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル又はベンジルであるか、或いはR及びRが、N原子と一緒になって、5員〜8員環を形成することを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項7】
Yが、不斉α炭素原子のないラジカルであり、下記式:
【化2】


〔式中、R11は、C〜Cアルキル、(C〜Cアルキル)NCH−、(C〜Cアルキル)NCHCH−、C〜Cアルコキシメチル又はC〜Cアルコキシエチルである〕
のうちの1つに対応することを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項8】
Yが、−CHR−NR基であり、ここで、Rが、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、フェニル、C〜Cアルキルフェニル又はC〜Cアルキルベンジルであり、そしてR及びRが、同一であって、それぞれC〜Cアルキルであることを特徴とする、請求項6記載の化合物。
【請求項9】
Yが、1−ジメチルアミノエタ−1−イル又は(ジメチルアミノ)フェニル−CH−であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項10】
P結合(P(III)置換基Phosが第二級ホスフィノ基であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
第二級ホスフィノ基が、直鎖又は分岐鎖C〜C12アルキル;非置換又はC〜Cアルキル−若しくはC〜Cアルコキシ置換のC〜C12シクロアルキル若しくはC〜C12シクロアルキル−CH−;C〜C14アリール;C〜C12ヘテロアリール;C〜C14アラルキル;C〜C12ヘテロアラルキル;又はハロゲン−(フッ素−、塩素−若しくは臭素−)、C〜Cアルキル−、トリフルオロメチ−、C〜Cアルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi−、(C〜C12アルキル)Si−若しくはsec−アミノ置換のC〜C14アリール、C〜C12ヘテロアリール、C〜C14アラルキル若しくはC〜C12ヘテロアラルキルを含有し、ヘテロアリール及びヘテロアラルキルが、O、S及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含有することを特徴とする、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
第二級ホスフィノ基が、−P(C〜Cアルキル)、−P(C〜Cシクロアルキル)、−P(C〜C12ビシクロアルキル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P(1−ナフチル)、−P〔2−(C〜Cアルキル)C、−P〔3−(C〜Cアルキル)C、−P〔4−(C〜Cアルキル)C、−P〔2−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔3−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔4−(C〜Cアルコキシ)C、−P〔2−(トリフルオロメチル)C、−P〔3−(トリフルオロメチル)C、−P〔4−(トリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビストリフルオロメチル)C、−P〔3,5−ビス(C〜Cアルキル)、−P〔3,5−ビス(C〜Cアルコキシ)22若しくは−P〔3,5−ビス(C〜Cアルキル)−4−(C〜Cアルコキシ)Cであるか、又は下記:
【化3】


からなる群より選択される環状ホスフィノラジカルであり、これらは、非置換であるか、又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ若しくはC〜Cアルキリデンジオキシルで1回以上置換されていることを特徴とする、請求項10記載の化合物。
【請求項13】
式Iの化合物を製造する方法であって、
a)1,1′−ジハロフェロセンのメタレーションにより1−メタロ−1′−ハロフェロセンを得て、続けて式:R−P(Hal)〔式中、Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕の化合物との反応により式VI:
【化4】


〔式中、R、R及びnは、請求項1で定義されたとおりである〕で示される化合物を形成する工程、
b)式VIの化合物と、式VII:
【化5】


〔式中、Y、Cp、R及びmは、請求項1で定義されたとおりであり、そしてMは、Li又はMgHalであり、ここでHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物との反応により、式VIII:
【化6】


で示される化合物を形成する工程、及び
c)式VIIの化合物と、アルキルリチウムとの反応、次に式:Phos−Hal〔式中、Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕のハロホスフィンとの反応により、式Iの化合物を得る工程
を含む方法。
【請求項14】
得られた式VIIIの化合物を、方法の工程c)の前に熱処理によって実質的に純粋なジアステレオマーに変換することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
式VIII:
【化7】


〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
mは、0又は1〜3の整数であり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
Cpは、非置換又はC〜Cアルキル置換シクロペンタジエニルであり;
Yは、メタレーション試薬の金属をオルト位置へ向かわせる、C結合キラル基であり;そして
Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕
で示される、鏡像異性的に純粋なジアステレオマーの形態又はジアステレオマーの混合物の形態の化合物。
【請求項16】
式Iの化合物を製造する方法であって、
a)1,1′−ジハロフェロセンのメタレーションにより1−メタロ−1′−ハロフェロセンを形成して、続けて式:Phos−Hal〔ここで、ハロ及びHalは、それぞれ塩素、臭素又はヨウ素である〕の化合物との反応により式IX:
【化8】


〔式中、R、Phos及びnは、請求項1で定義されたとおりであり、そしてHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物を形成する工程、
b)式IXの化合物のメタレーション、続く式:R−P(Hal)の化合物との反応により、式X:
【化9】


〔式中、R、R、Phos及びnは、請求項1で定義されたとおりであり、そしてHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物を形成する工程、及び
c)式Xの化合物と、式VII:
【化10】


〔式中、Y、Cp、R及びmは、請求項1で定義されたとおりであり、そしてMは、Li又はMgHalであり、ここでHalは、塩素、臭素又はヨウ素である〕で示される化合物との反応により、式Iの化合物を得る工程
を含む方法。
【請求項17】
方法の工程c)に記載されたようにして得られた式Iの化合物を、熱処理によって実質的に純粋なジアステレオマーに変換することを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
式Xa:
【化11】


〔式中、
ラジカルRは、同一又は異なっており、それぞれC〜Cアルキルであり;
nは、0又は1〜4の整数であり;
は、炭化水素ラジカル又はC結合ヘテロ炭化水素ラジカルであり;
22は、Phos又はHal基であり;
Phosは、P結合P(III)置換基であり;そして
Halは、塩素、臭素又はヨウ素である〕
で示される化合物。
【請求項19】
遷移金属の群から選択される金属と、リガンドとして式Iの化合物のうちの1つとの錯体。
【請求項20】
遷移金属が、Cu、Ag、Au、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtであることを特徴とする、請求項19記載の金属錯体。
【請求項21】
式XI及びXII:
【化12】


〔式中、Aは、式Iの化合物のうちの1つであり、
Lは、同一若しくは異なっている単座のアニオン性若しくは非イオン性リガンドを表すか、又はLは、同一若しくは異なっている二座のアニオン性若しくは非イオン性リガンドを表し;
rは、Lが単座リガンドである場合、2、3若しくは4であるか、又はLが二座リガンドである場合、1若しくは2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh、Ir及びRuからなる群より選択される金属であり、ここで金属は0、1、2、3又は4の酸化状態を有し;
は、オキソ酸又は錯体酸のアニオンであり、そして
アニオンリガンドは、酸化状態1、2、3又は4の金属の電荷を平衡にする〕
に対応することを特徴とする、請求項19記載の金属錯体。
【請求項22】
触媒の存在下で、プロキラル有機化合物内の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加することにより、キラル有機化合物を製造する方法であって、付加反応が、請求項19記載の少なくとも1つの金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項23】
プロキラル有機化合物が、下記式:
【化13】


で示される不飽和カルボン酸又はその塩、エステル若しくはアミドであり、ここで、R01が、C〜Cアルキル、非置換Cシクロアルキル、又は1〜4つのC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシラジカルで置換されているC〜Cシクロアルキルか、又は非置換C〜C10アリール若しくはC〜C10ヘテロアリール、又は1〜4つのC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシラジカルで置換されているC〜C10アリール若しくはC〜C10ヘテロアリールであり、そしてR02が、直鎖若しくは分岐鎖C〜Cアルキル、非置換シクロペンチル、シクロヘキシル若しくはフェニル、又は1〜4つのC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルコキシラジカルで置換されているシクロペンチル、シクロヘキシル、フェニルか、又は保護アミノであることを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
不飽和カルボン酸が、式XV:
【化14】


〔式中、
03及びR04は、それぞれ、互いに独立して、H、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルコキシ−C〜Cアルキル又はC〜Cアルコキシ−C〜Cアルキルオキシであり、そしてR05は、C〜Cアルキルである〕に対応し、式Iのリガンドを有するロジウム錯体の触媒としての存在下、水素により水素化されて、式XVI:
【化15】


で示される化合物を得ることを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項25】
03がメトキシプロピルオキシであり、R04がメトキシであり、そしてR05がイソプロピルである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
キラル有機化合物の製造における、好ましくはプロキラル有機化合物内の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合に水素を不斉付加するキラル有機化合物の製造における、請求項19記載の金属錯体の均一触媒としての使用。

【公表番号】特表2009−533390(P2009−533390A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504739(P2009−504739)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053520
【国際公開番号】WO2007/116081
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】