説明

フェンタニル及びサフェンタニルの経皮電気的輸送送り出しのための装置

【課題】本発明は鎮痛薬、即ちフェンタニル及びサフェンタニルのための改良された電気的輸送医薬送り出しシステムを提供する。
【解決手段】フェンタニル/サフェンタニルは電気的輸送装置(10)において使用するためにヒドロゲル配合物中に分散された水溶性塩(例えばフェンタニル塩酸塩)として提供される。本発明に従えば、供与液貯め(26)溶液中のフェンタニル/サフェンタニルの濃度は、フェンタニル/サフェンタニルの経皮電気的輸送フラックスが溶液中のフェンタニル/サフェンタニルの濃度に依存する状態にある所定の最小濃度以上に維持される。
装置は鎮痛薬の送り出しのための回路版アセンブリ(18)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、改良された電気的輸送(electrotransport)医薬送り出し(drug delivery)に関する。特に、本発明は鎮痛薬、特にフェンタニル及びフェンタニル類似体の改良された電気的輸送送り出しのための装置、組成物並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮を通過させての拡散による医薬の経皮送り出しは皮下注射及び経口投与のような、より慣用的な送り出し方法の改良を提供する。経皮医薬送り出しは、経口医薬投与によって出会う肝臓を最初に通過する作用を避ける。経皮医薬送り出しはまた、皮下注射に伴う患者の不快感を排除する。また、経皮送り出しは或るタイプの経皮送り出し装置の延長されコントロールされた送り出し様式に起因し、時間経過にわたって患者の血液流中に医薬の一層均一な濃度を提供することが出来る。用語“経皮”送り出しは、動物の皮膚、粘膜又は爪のような体表面を通過させての薬剤の送り出しを広く包含する。
【0003】
皮膚は、身体中に物質が経皮浸透することに対して主要な障壁としての機能を果たしそして医薬のような治療薬の経皮送り出しに対して身体の主要な抵抗を示す。今日迄、非活性的(passive )拡散による医薬の送り出しのために皮膚の物理的抵抗を減少させるか又は浸透性を高めることに努力が集中して来た。経皮医薬フラックス(flux)の速度を増大させるための種々の方法、最も顕著には化学的フラックス増進剤を用いる方法が試みられた。
【0004】
経皮医薬送り出しの速度を増大させるための他の方法は、電気エネルギー及び超音波エネルギーのような別のエネルギー源の使用を包含する。電気的に助力された経皮送り出しは、電気的輸送とも称せられる。本明細書において用いられる用語“電気的輸送”は一般に、皮膚、粘膜又は爪のような膜を通過させての薬剤(例えば、医薬)の送り出しに関する。その送り出しは、電位の適用によって誘導されるか又は助けられる。例えば、有益な治療薬は皮膚を通過させての電気的輸送送り出しにより人体の全身循環に導入されることが出来る。広く使用される電気的輸送方法、電気的移動(electromigration)(イオン浸透療法とも称される)は荷電されたイオンの電気的に誘導された輸送を包含する。他のタイプの電気的輸送、電気浸透は、電界の影響下の、送り出されるべき薬剤を含有する液体の流れを包含する。なお他のタイプの電気的輸送方法、エレクトロポレーション(electroporation )は電界の適用により、生物膜中に一時的に存在する孔を形成することを包含する。薬剤は、非活性的に(即ち、電気の助力無しに)又は活性的に(即ち、電位の影響下に)のいずれかで該孔中を通過させて送りだされることが出来る。しかし、任意の与えられた電気的輸送方法において、少なくとも幾らかの“非活性的”拡散を包含する、これらの方法の1つよりも多くの方法がある適度までに同時に生じている可能性がある。したがって、本明細書において用いられるものとして用語“電気的輸送”は、薬剤が実際的に輸送される特定の機構がなんであれ、荷電されていてもよい又は荷電されていなくともよい少なくとも1種の薬剤又はそれらの混合物の電気的に誘発された又は高められた輸送が包含されるようにその最も広い可能な解釈が提供されるべきであろう。
【0005】
電気的輸送装置は、身体の皮膚、爪、粘膜又は他の表面の或る部分と電気的に接触している少なくとも2つの電極を使用する。通常“供与(donor )”電極と呼ばれる1つの電極は、それから薬剤が身体中に送り出される電極である。典型的には“対”電極と呼ばれる他の電極は身体中の電気回路を閉じるのに役に立つ。例えば、送り出されるべき薬剤が正に荷電されているならば、即ちカチオンであるならば、そのときはアノードは供与電極であり、それに対してカソードは回路を完成するのに役に立つ対電極である。別法として、薬剤が負に荷電されているならば、即ちアニオンであるならば、カソードは供与電極でありそしてアノードは対電極である。更に、もしアニオン性薬剤イオンとカチオン性薬剤イオンとの両方が送りだされるべきであるかあるいは荷電されていない溶解された薬剤が送りだされるべきであるならば、その時はアノードとカソードとの両方が供与電極であると考えてもよい。
【0006】
更に、電気的輸送送り出しシステムは、身体に送り出されるべき薬剤の少なくとも1つの液貯め(reservoir,リザーバ)又は源を一般に必要とする。そのような供与液貯め(donor reservoir)の例は、パウチ(小袋)又は窪み(cavity)、多孔質スポンジ又はパッド、そして親水性重合体又はゲルマトツリックスを含む。そのような供与液貯めはアノード又はカソード及び体表面に電気的に接続されており、かつアノード又はカソードと体表面との間で配置されていて1種以上の薬剤または医薬の固定された、又は再新可能な源を提供する。電気的輸送装置はまた、1つ以上のバッテリーのような電源を有している。典型的には任意の一つの時点で電源の1の極は供与電極に電気的に接続されており、一方では対向極は対電極に電気的に接続されている。電気的輸送医薬送り出しの速度は装置により適用される電流におおよそ比例していることが示されて来たので、多くの電気的輸送装置は典型的には電極中に適用される電圧及び(又は)電流を制御して、それにより医薬送り出しの速度を調節する電気制御器を有している。これらの制御回路は、電源により供給される電流及び(又は)電圧の、振幅、極性、時間調節、波形整形等を制御するために種々の電気部品を使用する。例えば、マクニコルス(McNichols )等の米国特許第5,047,007号を参照。
【0007】
今日までに、市販の経皮電気的輸送医薬送り出し装置(例えば、ユタ州ソルトレークシティのIomed,Inc.販売のthe Phoresor;ミネソタ州セントポールのEmpi,Inc.より販売のthe Dupel Iontophoresis System;ユタ州ローガンのWescor, Inc.より販売のthe Webster Sweat Inducer モデル3600)は一般的にデスクトップ電源ユニット及び一対の皮膚接触電極を使用して来た。供与電極は医薬溶液を含有しており、一方では対電極は生体適合性の電解質塩の溶液を含有している。電源ユニットは電極中に適用される電流の量を調節するための電気コントロールを有する。“サテライト(satellite )”電極が長い(例えば、1〜2メートル)電気伝導性の電線又はケーブルにより電源ユニットに接続されている。電線接続部は接続をはずされそして患者の運動及び可動性を制限する。電極とコントロールとの間の電線はまた、患者にとって煩わしくそして不快なものであろう。“サテライト”電極組み立て体を使用するデスクトップ電源ユニットの他の例はジョコブセン(Jocobsen)等の米国特許第4,141,359号(図3及び図4参照)、ラプレイド(LaPrade )の米国特許第5,006,108号(図9参照)及びマウラー(Maurer)等の米国特許第5,254,081号に開示されている。
【0008】
更に最近になって、小さな自給式(self-contained、内蔵式)電気的輸送送り出し装置は、延長された時間にわたって、ときには繊維による毛羽立ちがないように、皮膚上に着用させることが提案された。そのような小さな自給式電気的輸送装置は例えばタッパー(Tapper)の米国特許第5,224,927号、シバリス(Sibalis )等の米国特許第5,224,928号及びハイネス(Haynes)等の米国特許第5,246,418号に開示されている。
【0009】
複合医薬含有ユニットを用いて使用するために適合されている、再使用可能な制御器を有する電気的輸送装置を使用する示唆が最近あった。その医薬含有ユニットは、医薬が使い尽くされたときに制御器からの接続を簡単にはずしそしてその後に新しい医薬含有ユニットが制御器に接続される。この方法で、装置の比較的により費用がかかるハードウェア部品(例えば、バッテリー、複数のLED、回路ハードウェア等)が再使用可能な制御器内に含有されることが出来そして比較的に費用がかからない供与液貯めマトリックス及び対液貯め(counter reservoir )マトリックスが単一の使用/使い捨て可能な医薬含有ユニットに含有されることが出来て、それにより電気的輸送医薬送り出しの全体的コストを低下させることが出来る。医薬含有ユニットに除去可能に接続された再使用可能な制御器から構成される電気的輸送装置の例はセイジ(Sage),Jr.等の米国特許第5,320,597号;シバリスの米国特許第5,358,483号;シバリス等の米国特許第5,135,479号(第12図);及びテバンス(Devans)等の英国特許出願第2,239,803号において開示されている。
【0010】
電気的輸送装置の別の開発において、水がアルコール及びグリコールのような他の液体溶媒と比較してのその優れた生体適合性である故に、水が電気的輸送医薬送り出しにおいて用いるための好ましい液体溶媒である事実に、一部分起因して、ヒドロゲルは医薬及び電解質液貯めのマトリックスとして使用することが特に好まれた。ヒドロゲルは高い平衡水含有量を有しそして水を迅速に吸収出来る。また、ヒドロゲルは皮膚とのそして粘膜との良好な生体適合性を有する傾向がある。
【0011】
経皮送り出しにおいて特に興味のあるものの中で、激しい疼痛に対する緩和の管理のために鎮痛薬の送り出しがある。医薬送り出しの速度および持続期間の制御は過投与の潜在的危険性および不十分な投与の不快性を避けるために鎮痛薬の経皮投与のために特に重要である。
【0012】
経皮送り出し経路での適用を見い出した1つのクラスの鎮痛薬は合成阿片類(合成オピエート類)、一群の4−アニリンピペリジン類である。合成阿片類、例えばフェンタニル、及びサフェンタニルのような或る種のその誘導体は経皮投与に特に十分に適している。これらの合成の阿片製剤はそれらの鎮痛作用の迅速な発現、高い力価及び作用の短い持続時間によって特徴付けられる。それらはそれぞれ、モルヒネよりも80倍及び800倍高い、一層の効果があると評価されている。これらの医薬は弱い塩基、即ちアミン類であり、それらの主要な部分は酸性媒体中でカチオン性である。
【0013】
プラズマ(plasma)濃度を決定するためのインビボ研究において、タイズマン(Thysman )及びプリート(Preat )(Anesth.Analg.77(1993),pp.61−66)は、フェンタニル及びサフェンタニルの単純な拡散をpH5のクエン酸緩衝液中の電気的輸送送り出しと比較した。単純な拡散は検出出来るプラズマ濃度を全く生成しなかった。達成出来るプラズマ水準は皮膚を横切ることが出来る医薬の最大フラックスそして浄化能力(clearance )及び分布の容量のような医薬の薬物運動論的性質により左右された。電気的輸送送り出しは非活性的経皮貼り布(patches )と比較した時に有意に減少された遅れ時間(即ちピークのプラズマ水準に達するのに必要な時間)(14時間に対して1.5時間)を有することが報告された。研究者の結論は、これらの鎮痛薬の電気的輸送が古典的な貼り布より、疼痛の一層迅速な制御をすることが出来、そして(電流を制御することによる)医薬の脈動的放出が古典的貼り布の一定の送り出しに匹敵出来ることであった。また、例えばタイズマン等によるInt.J.Pharma.,101(1994),pp.105〜113;V.プリート等によるInt.J.Pharm.,96(1993),pp.189〜196(サフェンタニル);ガウアラフ(Gourlav )等によるPain,37(1989),pp.193〜202(フェンタニル);ゼーベル(Sebel )等によるEur.J.Clin.Pharmacol.32(1987),pp.529〜531(フェンタニル及びサフェンタニル)参照。鎮痛作用を誘導するための、フェンタニルのような、麻酔性鎮痛薬の、非活性的、即ち拡散による、及び電気的に助力される経皮送り出しはまた、両方とも特許文献に記載された。例えばゲイル(Gale)等の米国特許第4,588,580号及びゼオイベス(Theeuwes)等の米国特許第5,232,438号参照。
【0014】
最近の数年において、手術後の疼痛の管理は電気的輸送の送り出し以外の送り出しシステムに注意を向けて来た。患者が受容する鎮痛薬の量を、予め決められた限界内で患者にコントロールさせることを可能にする装置及びシステムに特に注目されて来た。これらのタイプの装置を用いての経験によれば、一般に、鎮痛薬の患者によるコントロールの投与は、医者により規定された投与量が投与されるよりも少ない鎮痛薬の投与が生じたことであった。自己投与された、即ち患者によりコントロールされた自己投与は患者コントロール鎮痛(PCA)として知られている(そして患者コントロール鎮痛(PCA)と本明細書中では呼ぶ)。
【0015】
既知のPCA装置は典型的には嵩張る大容量の電源、例えば、交流又は複合大容量バッテリーパックを必要とする電気機械的ポンプである。それらの嵩張り及び複雑さの故に、市販のPCA装置は、ベッド又は他の本質的に固定された場所に患者を拘束させることを一般に必要とする。既知のPCA装置は資格のある医療技術者により、意図する静脈、動脈または他の器官に挿入されなければならない静脈内注入線又はカテーテルにより患者に医薬を送りだす。この技術は鎮痛薬を投与するために皮膚障壁が破られることを必要とする。(ツデプ(Zdeb)の米国特許第5,232,448号参照)。従って、市販のPCA装置を用いて実施されるとき、PCAは付随する感染の危険性を伴うPCA装置の操作を開始しそして監督するために高度に熟練した医療技術者の存在を必要とする。更に、市販のPCA装置はそれ自体、経皮(即ち静脈内又は皮下)添加のために使用に幾分苦痛が伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
適当な鎮痛作用を達成させる量の送り出し医薬の点からそして患者によりコントロールされるやり方で、慣用のPCAと競争出来る経皮電気的輸送装置にとって有利な地位は、当業界では殆ど生じなかった。更に、長期安定性を有しそして例えば、鎮痛薬の静脈内送り出しのために患者によりコントロールされる電気機械的ポンプに匹敵出来る性能特性を有する鎮痛薬電気的輸送、特にフェンタニル経皮電気的輸送送り出しのためのヒドロゲル配合物を提供するまでには殆ど進歩していなかった。小さな自給式患者コントロール装置での電気的輸送送り出しの都合の良さを利用する適当な装置における鎮痛薬配合物を提供することが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はフェンタニル及びフェンタニルの類似体、特にサフェンタニルの改良された経皮電気的輸送送り出しのための装置を提供する。そのようなものとして、本発明の装置は鎮痛薬フェンタニル又はサフェンタニルの電気的輸送において大きな程度の効率を提供すると同時に、疼痛管理において大きな患者安全性及び気楽性を提供する。本発明の上記及び他の利点は電気的輸送により、体表面(例えば無傷の皮膚)中を通過させてフェンタニル又はサフェンタニルを送り出すための装置により提供され、その装置はフェンタニル塩/サフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有するアノード供与液溜めを有する。
【0018】
本発明は、経皮フェンタニル又はサフェンタニルフラックス(flux)が溶液中の医薬の濃度に依存するようになり始める水準又はそれ以上で供与液貯め溶液中にフェンタニル塩又はサフェンタニル塩の濃度を維持することに関する。フェンタニルについて、経皮電気的輸送フラックスはフェンタニルの電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、約11〜16mM以上でのフェンタニル濃度から独立した状態にある。供与液貯め中に約11〜16mM以上でフェンタニル塩溶液の濃度を維持することにより、電気的輸送医薬送り出し中に、医薬の電気的輸送フラックスは供与液貯め溶液中の医薬濃度から実質的に独立しており、そして送り出し装置により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している。フェンタニル塩溶液濃度を約11mM以上、好ましくは16mM以上に維持することにより、特定の適用される電気的輸送電流を用いて予期できるフェンタニルフラックスを確実なものとする。
【0019】
サフェンタニルについて、経皮電気的輸送フラックスは、サフェンタニル電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、約1.7mM以上でサフェンタニル濃度から独立した状態にある。供与液貯め中に約1.7mM以上でサフェンタニル塩溶液の濃度を維持することにより、電気的輸送医薬送り出し中に、医薬の電気的輸送フラックスは供与液貯め溶液中の医薬の濃度から実質的に独立しておりそして送り出し装置により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している。約1.7mM以上のサフェンタニル塩溶液濃度を維持することにより、特定の適用される電気的輸送電流を用いて予期出来るサフェンタニルフラックスを確実なものとする。
【0020】
本発明の他の利点そして特定の適応性、組成変化及び物理的特性の十分な評価は以下の図面、詳細な記載、例及び請求の範囲を検討することにより知ることが出来るだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、全身的鎮痛作用を達成させるために配合物中の、水溶性塩の形で、フェンタニル又はサフェンタニルの経皮電気的輸送送り出しのための改良された装置に広く関係している。本発明は電気的輸送医薬送り出し期間中、供与液貯めの中の医薬濃度から独立して経皮電気的輸送フェンタニル/サフェンタニルフラックスを維持することにより特徴付けられる。
【0022】
経皮電気的輸送フェンタニルフラックスはフェンタニル塩濃度が約11〜16mM以下に低下したときに水溶液中のフェンタニル塩の濃度に依存するようになり始める。11〜16mMの濃度は、供与液貯め中に使用される液体溶媒の容量に基づいてのみ計算され、液貯めの全体的容量に基づいては計算されない。言い換えれば、11〜16mMの濃度は、液貯めマトリックス(例えば、ヒドロゲル又は他のマトリックス)材料により表される液貯めの容量を包含しない。更に、11〜16mMの濃度は供与液貯めの溶液中に含有される、フェンタニル塩のモルの数に基づいており、フェンタニルの遊離塩基のモル当量数には基づいていない。
【0023】
フェンタニルHClについて、11〜16mMの濃度は約4〜6mg/mlに等しい。他のフェンタニル塩(例えば、フェンタニルクエン酸塩)は、関連ある特定のフェンタニル塩の対イオンの分子量における差に基づいて若干異なる重量に基づく濃度範囲を有するであろう。
【0024】
フェンタニル塩濃度が約11〜16mMに低下したとき、たとえ適用される電気的輸送電流が一定の状態にあっても、フェンタニル経皮電気的輸送フラックスが重大に下方に傾斜し始める。従って、適用される電気的輸送電流の特定の水準を用いての予期出来るフェンタニルフラックスを確保するために、供与液貯め中に含有される溶液中のフェンタニル塩濃度は約11mM以上そして好ましくは約16mM以上に維持されるべきである。この面の本発明は任意の特定の適用される電気的輸送電流の水準で予期できる経皮電気的輸送を確保するために、溶液中のフェンタニル塩濃度を最小水準以上に維持する。
【0025】
フェンタニルに加えて、サフェンタニルの水溶性塩はまた、それ以下では経皮電気的輸送フラックスが溶液中のサフェンタニル塩の濃度に依存するようになるという最小水溶液濃度を有する。サフェンタニルについての最小濃度は約1.7mMであり、これはサフェンタニルクエン酸塩については約1mg/mlに等しい。
【0026】
液貯めマトリックス材料へのフェンタニル/サフェンタニルの結合がない限り、供与液貯めマトリックスとして選ばれる特定のマトリックス材料は、予期出来る経皮電気的輸送フェンタニル/サフエンタニルフラックスを確保するために必要とされる最小濃度に、もしあるとしてもほんの僅かしか影響しない。特にヒドロゲルマトリックスはフェンタニル又はサフェンタニルに結合する傾向を示さず、従ってヒドロゲルはこの面の本発明に関して使用するための好ましいクラスのマトリックス材料である。
【0027】
フェンタニル及びサフェンタニルの両方は塩基であるので、フェンタニル及びサフェンタニルの塩は典型的には酸付加塩、例えばクエン酸塩、塩酸塩等である。フェンタニルの酸付加塩は典型的には約25〜30mg/mlの水溶解性を有している。サフェンタニルの酸付加塩は典型的には約45〜50mg/mlの水溶解性を有している。これらの塩が溶液(例えば水溶液)中に入れられたとき、それらの塩は溶解し、次いでプロトン化されたフェンタニルカチオン又はサフェンタニルカチオン及び対アニオン(例えばクエン酸アニオン又は塩素アニオン)を形成する。そのようなものとして、フェンタニル/サフェンタニルカチオンは電気的輸送送り出し装置のアノード電極から送り出される。銀アノード電極がアノード液貯めにおけるpH安定性を維持するための手段として経皮電気的輸送送り出しのために提案された。例えば、アンテレカ(Untereker )等の米国特許第5,135,477号及びペテレンツ(Petelenz)等の米国特許第4,752,285号参照。これらの特許はまた、電気的輸送送り出し装置において銀アノード電極を用いての欠点の1つ、即ち、銀アノード中に電流を適用すると銀を酸化させ(Ag→Ag+e)、それにより銀カチオンを形成し、これは電気的輸送により皮膚中への送り出しのためのカチオン性医薬と競合する欠点を認識している。皮膚中への銀イオンの移動は皮膚の一時的表皮変色(TED)を生ずる。これらの特許における教示に従えば、カチオン性のフェンタニル及びサフェンタニルはハロゲン化物塩(例えば塩酸塩)として配合されるのが好ましく、その結果、全ての電気化学的に生成された銀イオンは、医薬の対イオン(即ちハロゲンイオン)と反応して実質的に不溶性のハロゲン化銀(Ag+X→AgX)を形成するだろう。これらの特許に加えて、フィップス(Phipps)等のWO95/27530号は、経皮電気的輸送送り出し装置の供与液貯めの中に高分子量の塩化物樹脂の形で補助の塩素イオン源の使用を教示する。これらの樹脂は、銀アノード電極を用いる電気的輸送により経皮的にフェンタニル又はサフェンタニルを送り出す場合に、銀イオン移行そしてそれに伴う皮膚の変色を防ぐために十分な塩素イオンを提供する点で非常に有効である。
【0028】
本発明は、鎮痛作用を達成させるために体表面、例えば皮膚を通過させてフェンタニル又はサフェンタニルを送り出すための電気的輸送送り出し装置を提供する。フェンタニル塩又はサフェンタニル塩は塩の水溶液として電気的輸送送り出し装置の供与液貯め中に用意される。
【0029】
経皮電気的輸送によって送り出されるフェンタニルの投与量は35kg以上の体重を有するヒトの患者において、約20分までの送り出し時間にわたって約20μg〜約60μgが好ましい。該送り出し期間に、約35μg〜約45μgの投与量が一層好ましく、約40μgの投与量が最も好ましい。本発明の装置は、鎮痛作用を達成させ且つ維持するために24時間の期間にわたって好ましくは約10〜100、一層好ましくは約20〜80の追加の同様な投与を送り出すための手段をさらに含むのが好ましい。
【0030】
経皮電気的輸送により送り出されるサフェンタニルの投与量は35kg以上の体重を有するヒトの患者において、約20分までの送り出し時間にわたって約2.3μg〜約7.0μgが好ましい。該送り出し期間に、約4μg〜約5.5μgの投与量が一層好ましく、そして約4.7μgの投与量が最も好ましい。本発明の装置は、鎮痛作用を達成させ且つ維持するために24時間の期間にわたって好ましくは約10〜100、一層好ましくは約20〜80の追加の同様な投与を送り出すための手段をさらに含む。
【0031】
電気的輸送によりフェンタニル/サフェンタニルの上記投与量を経皮的に送り出すためのフェンタニル塩/サフェンタニル塩を含有するアノード液貯め配合物はHCl塩又はクエン酸塩のような水溶性フェンタニル塩/サフェンタニル塩の水溶液から構成されるのが好ましい。最も好ましくは、水溶液はヒドロゲルマトリックスのような親水性重合体マトリックス内に含有される。フェンタニル塩/サフェンタニル塩は、全身的鎮痛作用を達成させるために、約20分までの送り出し期間にわたって電気的輸送により上記投与量を経皮的に送り出すのに十分な量で存在する。フェンタニル塩/サフェンタニル塩は、典型的には十分に水和された基準で、(重合体マトリックスの重量を含む)供与液貯め配合物の約1〜10重量%を占め、一層好ましくは十分に水和された基準で供与液貯め配合物の約1〜5重量%を占める。本発明にとって臨界的ではないけれども、適用される電気的輸送電流密度は典型的には約50〜150μA/cmの範囲にありそして適用される電気的輸送電流は典型的には約150〜240μAの範囲にある。
【0032】
アノードのフェンタニル塩/サフェンタニル塩−含有ヒドロゲルは任意の多くの材料から適当に造られることが出来るが、親水性重合体材料、好ましくは医薬の安定性を高めるように性質において極性である親水性重合体材料から形成されるのが好ましい。ヒドロゲルマトリックスのために適当な極性重合体は種々の合成及び天然に存在する重合体材料を包含する。好ましいヒドロゲル配合物は、適当な親水性重合体、緩衝剤、湿潤剤、増粘剤、水、及び水溶性のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩(例えばHCl塩)を含有する。好ましい親水性重合体マトリックスは、洗浄され且つ十分に加水分解されたポリビニルアルコール(PVOH)、例えばヘキスト アクチェンゲゼルシャフトから市販されているMowiol 66−100のようなポリビニルアルコールである。適当な緩衝剤は、酸形及び塩形の両方での、メタクリル酸とジビニルベンゼンとの共重合体であるイオン交換樹脂である。そのような緩衝剤の1つの例はポラクリリン(Polacrilin)(ペンシルバニア州フィラデルフィアのローム・アンド・ハース(Rohm &Haas )社から市販のメタクリル酸とジビニルベンゼンとの共重合体)とそのカリウム塩との混合物である。ポラクリリンの、酸形とカリウム塩形との混合物はヒドロゲルのpHを約pH6に調節するための重合体緩衝剤としての機能を果たす。ヒドロゲル配合物中での湿潤剤の使用はヒドロゲルからの水分の損失を阻止するために有益である。適当な湿潤剤の例はグゥアル ガム(guar gum )である。増粘剤はまたヒドロゲル配合物において有益である。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばミシガン州、ミッドランドのDow ケミカル(Chemical)社から市販のMethocel K100MP)のようなポリビニルアルコール増粘剤は、それが型又は窪み中に分配されたとき、熱い重合体溶液のレオロジーを変性することの助けとなる。ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、冷却の際に粘度を増大させそして型又は窪みを一杯にし過ぎる冷却された重合体溶液の傾向を有意に減少させる。
【0033】
1つの好ましい態様において、アノードのフェンタニル塩/サフェンタニル塩含有ヒドロゲル配合物は、約10〜15重量%のポリビニルアルコール、0.1〜0.4重量%の樹脂緩衝剤及び約1〜2重量%のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩、好ましくは塩酸塩を含む。残りは水及び湿潤剤、増粘剤等のような成分である。ポリビニルアルコール(PVOH)をベースとするヒドロゲル配合物は少なくとも約0.5時間約90℃〜95℃の高い温度で1つの容器中でフェンタニル塩又はサフェンタニル塩を含む全ての材料を混合することにより造られる。次に熱い混合物をフォーム型中に注入しそして一夜、約−35℃の凍結温度で貯蔵してPVOHを架橋させる。周囲の温度に温めた際、フェンタニル電気的輸送に適している強靱な弾性のゲルが得られる。
【0034】
ヒドロゲル配合物は、以下に記載されるような電気的輸送装置において使用される。適当な電気的輸送装置は、好ましくは銀から構成されるアノード供与電極及び好ましくは塩化銀から構成されるカソード対電極を含む。供与電極はフェンタニル塩/サフェンタニル塩の水溶液を含有する供与液貯めと電気的に接触している。上に記載したように、供与液貯めは好ましくはヒドロゲル配合物である。対液貯めはまた、クエン酸塩緩衝化食塩水のような生体適合性電解質の溶液(例えば水溶液)を含有するヒドロゲル配合物からなる。アノードのヒドロゲル液貯め及びカソードのヒドロゲル液貯めは各々好ましくは約1〜5cm、一層好ましくは約2〜3cmの皮膚接触面積を有する。アノードのヒドロゲル液貯め及びカソードのヒドロゲル液貯めは、好ましくは約0.05〜0.25cm、一層好ましくは約0.15cmの厚さを有する。適用される電気的輸送電流は所望の鎮痛作用に依存して約150μA〜約240μAである。最も好ましくは、適用される電気的輸送電流は投与間隔の間に実質的に一定のDC電流である。
【0035】
さて、本発明に従って使用されることが出来る例示の電気的輸送装置を描いている図1を参照する。図1は押しボタンスイッチ12の形での作動スイッチ及び光発射性ダイオード(LED)14の形でのディスプレーを有する、電気的輸送装置10の透視分解図を示す。装置10は上部ハウジング16、回路板アセンブリ18、低部ハウジング20、アノード電極22、カソード電極24、アノード液貯め26、カソード液貯め28及び皮膚適合性接着剤30を含む。上部ハウジング16は患者の皮膚上に装置10を保持するのを助ける側方翼15を有する。上部ハウジング16は射出成形可能なエラストマー(例えばエチレンビニルアセテート)から構成されるのが好ましい。印刷回路板アセンブリ18は、個別電気部品40に結合された集積回路19及びバッテリー32を含む。回路板アセンブリ18は開口13a及び13b中を通過している支柱(図1に示さず)によってハウジング16に取り付けられており、それらの支柱の末端は回路板アセンブリ18をハウジング16に加熱固定化するために加熱/溶融されている。低部ハウジング20は接着剤30により上部ハウジング16に取り付けられており、接着剤30の上部表面34は低部ハウジング20及び翼15の底表面を含む上部ハウジング16の両方に接着されている。
【0036】
回路板アセンブリ18の下側に、好ましくはボタンセルバッテリーそして最も好ましくはリチウムセルであるバッテリー32が(部分的に)示される。他のタイプのバッテリーがまた、装置10を、電力で動かすために使用されてよい。
【0037】
回路板アセンブリ18の回路出力口(図1に示さず)は、電気的に伝導性の接着剤ストリップ42、42’により低部ハウジングに形成されたへこみ25、25’中の開口23、23’を通過している電極24及び22との電気的接触を行っている。代わって、電極22及び24は、液貯め26及び28の頂部側44’、44と直接に機械的且つ電気的接触を行っている。液貯め26、28の底側46’、46は接着剤30の開口29’、29を介して患者の皮膚に接触する。押しボタンスイッチ12を押した際、回路板アセンブリ18上の電子回路が所定の長さ、例えば約10分の送り出し間隔で電極/液貯め22、26及び24、28に所定のDC電流を送る。好ましくは装置は、例えば“ビーパー(指令電波発生装置:beeper)”からの文字及び(又は)可聴音シグナルとなるLED14により医薬送り出しの開始、ボーラス、間隔の可視的及び(又は)可聴的確認を使用者に伝える。次に鎮痛薬、例えばフェンタニルは所定の(例えば10分の)送り出し間隔で、例えば腕上の患者の皮膚中を通過して送り出される。実施にあたって、視覚(LED14は文字となる)及び(又は)可聴シグナル(“ビーパー”からの発信音)により医薬送り出し間隔開始に関して、使用者はフィードバックを受け取る。
【0038】
アノード電極22は好ましくは銀から形成されておりそしてカソード電極24は好ましくは塩化銀から形成されている。液貯め26及び28の両方は好ましくは本明細書において記載されているような重合体ヒドロゲル材料から形成されている。電極22、24及び液貯め26、28は低部ハウジング20により保持されている。フェンタニル塩及びサフェンタニル塩について、アノード液貯め26は医薬を含有する“供与”液貯めであり、そしてカソード液貯め28は生体適合性の電解質を含有している。
【0039】
押しボタンスイッチ12、回路板アセンブリ18上の電子回路及びバッテリー32は上部ハウジング16と低部ハウジング20との間で接着的に“シールされて”いる。上部ハウジング16は好ましくはゴム又は他の弾性材料から構成されている。低部ハウジング20は好ましくは、容易に成形されてへこみ25、25’を形成し、次いでカットされて開口23、23’を形成することが出来る、プラスチック又は弾性のシート材料(例えばポリエチレン)から形成される。組み立てられた装置10は好ましくは耐水性(即ち、はね防止(splash proof ))でありそして最も好ましくは防水性である。そのシステムは身体に容易に順応してそれにより着用部位で及びその周りで運動の自由性を可能にする低い断面を有する。アノード/医薬液貯め26及びカソード/塩液貯め28は装置10の皮膚接触側に配置されておりそして正常な取り扱い及び使用の間に偶発的な電気ショートを防止するために十分に離されている。
【0040】
装置10は、上方側34及び身体接触側36を有する周囲接着剤30により患者の身体表面(例えば皮膚)に接着する。接着側36は通常の使用者の活動中身体上の適所に装置10を維持することを確実にする接着性を有しており、なお所定(例えば24時間)の着用期間の後に合理的な取り外しを可能にする。上部接着剤側34は低部ハウジング20に接着し、ハウジングへこみ25、25’内に電極及び医薬液貯めを保持し、また、上部ハウジング16に取り付けられた低部ハウジング20を保持する。
【0041】
押しボタンスイッチ12は装置10の頂部側上に配置され、そして布地を介して容易に作動される。短い時間、例えば3秒内に押しボタンスイッチ12の2回押しが医薬の送り出しのために装置を作動化させるために使用されて、それにより不注意による装置10の作動化の可能性を最小にすることが好ましい。
【0042】
スイッチ作動化の際、可聴性アラームが医薬送り出しの開始の信号を送り、その時に回路は所定(例えば10分)の送り出し間隔で電極/液貯めに所定の水準のDC電流を供給する。LED14は送り出し間隔期間を通じて“オン”の状態になっていて、装置10が活性医薬送り出しの様式にあることを示す。バッテリーは、全体(例えば24時間)の着用期間に所定の水準のDC電流で装置10に連続して電力を送るのに十分な容量を有しているのが好ましい。
【0043】
本発明の例示であるが、本発明の範囲を限定するものではない以下の例により、本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0044】
次の実験は、経皮電気的輸送フェンタニルフラックスが、適用される電気的輸送電流の水準におおよそ比例した状態にあることを確実にするために、経皮電気的輸送送り出し装置の供与液貯め中のフェンタニル塩の必要な最小濃度を決定するために行われた。
【0045】
以下の組成を有する、フェンタニルHClの変化させての装入を有するアノード供与液貯めゲルを造った:
材料 (重量%)
水 81.3
PVOH 15.0
フェンタニルHCl 1.7
ポラクリリン 0.1
0.5N NaOH 1.9
【0046】
ポラクリリン(Polacrilin)とNaOHとの組み合わせは、約5.5にゲルのpHを維持するための緩衝剤として働いた。(アンバーライトIRP−64としてまた知られている)ポラクリリンはペンシルバニア州、フィラデルフィアのローム・アンド・ハース社により販売されている。90℃〜95℃の高い温度でビーカ中で材料を混合し、フォーム型中に注入し、そして一夜、−35℃で貯蔵してPVOHを架橋した。ゲルは2cmの皮膚接触面積および1.6mmの厚さを有した。ゲルは21mg/mlのフェンタニルHCl濃度を有した。銀ホイルアノード電極を該ゲルの一表面に積層した。
【0047】
これらのゲルから経皮電気的輸送フラックスは2−区画拡散セル及びヒトの死体の皮膚を用いてインビトロフラックス研究により測定された。背部の皮膚サンプルから取り出された、熱により剥がされたヒト死体表皮の角質層側の上に該ゲルを載せた。表皮の他の側は4cmの容量を有し、かつ1/10の強度のダルベッコ(Dulbecco)の燐酸塩緩衝化食塩水(pH7.4)を満たした受容体区画に露出させた。塩化銀粉末を装入したポリイソブチレンフィルムからなる対電極を受容体区画に置いた。
【0048】
200μA(即ち100μA/cm)の一定のDC電流を適用するようにセットされたガルバノスタット(galvanostat )に、供与電極及び対電極が電気的に接続された。電流を16時間連続的に適用し、そして16時間の期間にわたって1時間毎に受容体区画からサンプルを取り出した。
【0049】
異なる皮膚サンプルを用いて、6つの同一のフラックス実験を行い、そして経皮フラックスをそれらの6つの実験で平均化した。経皮フェンタニルフラックスは電流適用の最初の8時間にわたって増大し、その後そのフラックスはおおよそ一定の状態にあった(即ち、定常状態のフラックスは8時間後に到達された)。供与ゲル中の最初のフェンタニル含有量から、皮膚を介して受容体溶液中に送り出されたフェンタニルの量を差引しそしてゲル中の水の重量によって割算することによってフェンタニルの濃度を概算した。
【0050】
定常状態経皮フラックスの割合として計算された正規化経皮フラックスをゲル中のフェンタニル濃度に対してプロットし、図2に示す。図2から分かるように正規化フラックスは約6mg/ml以上のフェンタニルHCl濃度で100%の状態又は100%近くの状態にある。正規化フラックスはフェンタニルHCl濃度が6mg/ml以下、そして特に4mg/ml以下に低下するときに下がり始まる。これらの結果は、フェンタニルHClの濃度が約6mg/ml以下に低下したときに、適用された電気的輸送電流の一層有意な部分がフェンタニルイオン以外のイオンによって運搬され、そしてフェンタニルフラックスはフェンタニルHCl濃度に一層依存することを示している。従って、特定の水準の適用される電気的輸送電流を用いて予期できるフェンタニルフラックスを確実にするためには、供与液貯め中のフェンタニルHClの濃度は、約6mg/ml以上に維持されるのが好ましい。
【実施例2】
【0051】
以下の組成を有する2種のフェンタニル塩酸塩含有アノード供与液貯めPVOH−ベースのゲルを造った:
供与ゲル配合物
材料 重量% 重量%
精製水 86.3 85.3
洗浄PVOH 12.0 12.0
フェンタニルHCl 1.7 1.7
ヒドロキシメチルセルロース ――― 1.0
【0052】
両方の配合物に関して、水及びPVOHを92℃〜98℃の温度で混合し、次にフェンタニル塩酸塩を加え、次いで更に混合する。次に、その液体ゲルを、円盤形くぼみを有するフォーム型中にポンプで送り込んだ。その型を一夜、−35℃でフリーザー中においてPVOHを架橋させた。そのゲルは経皮電気的輸送フェンタニル送り出しに適しているアノード供与液貯めとして使用することが出来る。
【0053】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
1. 電気的輸送により身体表面を通過させて、フェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送装置(10)であって、フェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する装置(10)において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該医薬塩の濃度を維持するのに十分である該鎮痛薬塩の装入量を、該液貯め(26)が含有することを特徴とする、前記電気的装置(10)。
2. 医薬がフェンタニル塩であり、そして液貯め(26)が約11mM以上の溶液中のフェンタニル塩の濃度を維持するのに十分であるフェンタニル塩の装入量を含有する、1記載の装置。
3. 医薬がフェンタニル塩であり、そして液貯め(26)が約16mM以上の溶液中のフェンタニル塩の濃度を維持するのに十分であるフェンタニル塩の装入量を含有する、1記載の装置。
4. 供与液貯め(26)がフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約5mg/水1ml以上のフェンタニル濃度を有する、1記載の装置。
5. 医薬がサフェンタニル塩でありそして液貯め(26)が約1.7mM以上の溶液中のサフェンタニル塩の濃度を維持するのに十分であるサフェンタニル塩の装入量を含有する、1記載の装置。
6. 供与液貯め(26)がサフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約1mg/水1ml以上のサフェンタニル濃度を有する、1記載の装置。
7. 装置(10)が無傷の皮膚に適用されるように適合されている、1記載の装置。
8. 装置(10)がヒトの無傷の皮膚に適用されるように適合されている、1記載の装置。
9. 鎮痛薬の電気的輸送フラックスが、電気的輸送医薬送り出し中、送り出し装置(10)により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している、1記載の装置。
10. 電気的輸送により身体表面を通過させてフェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送送り出し装置(10)の製法であって、該装置がフェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する製法において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該塩の濃度を維持するために、該液貯め(26)中に十分な量のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩を入れることを特徴とする、前記方法。
11. 医薬がフェンタニル塩であり、かつ溶液中のフェンタニル塩の濃度を約11mM以上に維持する、10記載の方法。
12. 医薬がフェンタニル塩であり、かつ溶液中のフェンタニル塩の濃度を約16mM以上に維持する、10記載の方法。
13. 供与液貯め(26)がフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約5mg/水1ml以上のフェンタニル濃度を有する、10記載の方法。
14. 医薬がサフェンタニル塩であり、かつ溶液中のサフェンタニル塩の濃度を約1.7mM以上に維持する、10記載の方法。
15. 供与液貯め(26)がサフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約1mg/水1ml以上のサフェンタニル濃度を有する、10記載の方法。
16. 体表面が無傷の皮膚である、10記載の方法。
17. 体表面がヒトの無傷の皮膚である、10記載の方法。
18. 鎮痛薬の電気的輸送フラックスが、電気的輸送医薬送り出し中、送り出し装置(10)により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している、10記載の方法。
【0054】
また、本発明の好ましい態様は以下の通りである。
1. 電気的輸送により身体表面を通過させて、フェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送装置(10)であって、フェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する装置(10)において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該医薬塩の濃度を維持するのに十分である該鎮痛薬塩の装入量を、該液貯め(26)が含有することを特徴とする、前記電気的装置(10)。
2. 電気的輸送により身体表面を通過させてフェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送送り出し装置(10)の製法であって、該装置がフェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する製法において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該塩の濃度を維持するために、該液貯め(26)中に十分な量のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩を入れることを特徴とする、前記方法。
【0055】
さらに、本発明の好ましい態様は以下の通りである。
1. 電気的輸送により身体表面を通過させて、フェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送装置であって、
前記装置は、アノード電極及びカソード電極から成る唯一の電極要素;フェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含むアノード液貯め;及びカソード液貯めを含み、
前記アノード液貯めは、鎮痛薬電気的輸送送り出しの実質的な期間にわたって、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存するようになるある水準以上に、溶液中の該医薬塩の濃度を維持するために十分な量の該鎮痛薬塩を含有しており、前記水準は、該医薬がフェンタニル塩である場合は、約11mMであり、該医薬がサフェンタニル塩である場合は、約1.7mMである、前記装置。
2. 医薬がフェンタニル塩であり、該水準が約16mMである請求項1に記載の装置。
3. 電気的輸送により身体表面を通過させて、フェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送装置の製法であって、
前記装置は、アノード電極及びカソード電極から成る唯一の電極要素;フェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含むアノード液貯め;及びカソード液貯めを含み、
前記方法は、鎮痛薬電気的輸送送り出しの実質的な期間にわたって、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存するようになるある水準以上になるように、すなわち、該医薬がフェンタニル塩である場合は、約11mM以上に、該医薬がサフェンタニル塩である場合は、約1.7mM以上に、溶液中の該医薬塩の濃度を維持するために、該アノード液貯め中に十分な量のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩を装入することを特徴とする、前記方法。
4. 医薬がフェンタニル塩であり、該水準が約16mMである請求項3に記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0056】
要するに、本発明はフェンタニル及びサフェンタニルの水溶性塩の経皮電気的輸送のための改良された装置を提供する。電気的輸送は好ましくは銀アノード供与電極及びヒドロゲルをベースとした供与液貯めを有する。電気的輸送装置は好ましくは患者によりコントロールされる装置である。ヒドロゲル配合物は所定の電流水準について経皮電気的輸送医薬フラックスを維持するのに十分であり且つ許容出来る水準の鎮痛作用を提供するのに十分である医薬濃度を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に従う電気的輸送医薬送り出し装置の透視分解図である。
【図2】正規化経皮電気的輸送フラックス対水溶液中フェンタニルHClの濃度のグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 電気的輸送装置
22 アノード電極
24 カソード電極
26 供与液貯め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的輸送により身体表面を通過させて、フェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送装置(10)であって、フェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する装置(10)において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該医薬塩の濃度を維持するのに十分である該鎮痛薬塩の装入量を、該液貯め(26)が含有すること、及び
鎮痛効果を達成し、維持するための鎮痛薬の1回目の送り出し及び24時間の期間にわたる約100回までの追加の鎮痛薬の送りだしのための回路板アセンブリ(18)
を特徴とする、前記電気的輸送装置(10)。
【請求項2】
医薬がフェンタニル塩であり、そして液貯め(26)が約11mM以上の溶液中のフェンタニル塩の濃度を維持するのに十分であるフェンタニル塩の装入量を含有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
医薬がフェンタニル塩であり、そして液貯め(26)が約16mM以上の溶液中のフェンタニル塩の濃度を維持するのに十分であるフェンタニル塩の装入量を含有する、請求項1記載の装置。
【請求項4】
供与液貯め(26)がフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約5mg/水1ml以上のフェンタニル濃度を有する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
医薬がサフェンタニル塩である、請求項1記載の装置。
【請求項6】
供与液貯め(26)がサフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約1mg/水1ml以上のサフェンタニル濃度を有する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
装置(10)が無傷の皮膚に適用されるように適合されている、請求項1記載の装置。
【請求項8】
装置(10)がヒトの無傷の皮膚に適用されるように適合されている、請求項1記載の装置。
【請求項9】
鎮痛薬の電気的輸送フラックスが、電気的輸送医薬送り出し中、送り出し装置(10)により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している、請求項1記載の装置。
【請求項10】
回路板アセンブリ(18)が約10〜100の追加の投与の送り出しのために集積回路(19)を含む、請求項1記載の装置。
【請求項11】
回路板アセンブリ(18)が約20〜80の追加の投与の送り出しのために集積回路(19)を含む、請求項1記載の装置。
【請求項12】
電気的輸送により身体表面を通過させてフェンタニル塩及びサフェンタニル塩からなる群から選ばれる鎮痛薬を送り出すための電気的輸送送り出し装置(10)の製法であって、該装置がフェンタニル塩又はサフェンタニル塩の少なくとも部分的に水性の溶液を含有する供与液貯め(26)を有する製法において、
鎮痛薬電気的輸送送り出し期間を実質的に通じて、該医薬の電気的輸送フラックスが溶液中の該医薬塩の濃度に依存する水準以上に溶液中の該塩の濃度を維持するために、該液貯め(26)中に十分な量のフェンタニル塩又はサフェンタニル塩を入れることを特徴とし、
医薬がフェンタニル塩である場合、前記の水準は約11mM以上であり、
医薬がサフェンタニル塩である場合、前記水準は約1.7mM以上であり、
鎮痛効果を達成し、維持するための鎮痛薬の1回目の送り出し及び24時間の期間にわたる約100回までの追加の鎮痛薬の送りだしのための回路板アセンブリ(18)を有する装置を提供する、前記製法。
【請求項13】
医薬がフェンタニル塩である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
医薬がフェンタニル塩であり、かつ溶液中のフェンタニル塩の濃度を約16mM以上に維持する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
供与液貯め(26)がフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約5mg/水1ml以上のフェンタニル濃度を有する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
医薬がサフェンタニル塩である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
供与液貯め(26)がサフェンタニル塩水溶液を含有するヒドロゲルを含み、該ヒドロゲルにおいて該溶液が約1mg/水1ml以上のサフェンタニル濃度を有する、請求項10記載の方法。
【請求項18】
鎮痛薬の電気的輸送フラックスが、電気的輸送医薬送り出し中、送り出し装置(10)により適用される電気的輸送電流の水準に実質的に比例している、請求項12記載の方法。
【請求項19】
回路板アセンブリ(18)が約10〜100の追加の投与の送り出しのために集積回路(19)を含む、請求項12記載の方法。
【請求項20】
回路板アセンブリ(18)が約20〜80の追加の投与の送り出しのために集積回路(19)を含む、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−178717(P2008−178717A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97671(P2008−97671)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2005−145273(P2005−145273)の分割
【原出願日】平成8年6月5日(1996.6.5)
【出願人】(500215838)アルザ コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】