説明

フェーズドアレイアンテナの位相校正方法及びフェーズドアレイアンテナ

【課題】フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子の位相を容易かつ正確に校正することができる位相校正技術を提供する。
【解決手段】複数の送信アンテナ素子20のうち、位相の校正の際の基準となる基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22のみに対して、分配装置50を介して発振器10から出力される電波を供給する。そして、校正対象アンテナ素子22に接続された移相器42の位相を変化させつつ、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22によって形成される受信電力変化パターンを取得する。取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる、移相器42の位相を抽出し、校正対象アンテナ素子22の移相器40の位相を、受信電力が極小となる位相とする校正を行うという工程を、基準アンテナ素子21以外のすべての送信アンテナ素子20に対して行うことによりすべての送信アンテナ素子20の位相を校正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子を有するフェーズドアレイアンテナの位相校正方法及びその位相校正方法による位相校正機能を備えたフェーズドアレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナ素子を有するフェーズドアレイアンテナでは、所定の条件において、複数のアンテナ素子から出力される電波の位相が同じになるように、複数のアンテナ素子の位相を校正する必要がある。
【0003】
そこで、従来、複数のアンテナ素子の位相を校正する際、複数のアンテナ素子から所定の電力の電波を放射させた状態で、ある1つのアンテナ素子のみ位相を変化させ、そのときの複数のアンテナ素子全体の放射電力の変化を電波放射面の前面に設置した受信器で観測し、そのアンテナ素子の位相値を把握する、という工程をすべてのアンテナ素子に対して行うことにより、すべてのアンテナ素子の位相値を把握し、その位相値に基づいて各アンテナ素子の位相の校正を行う技術があった(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2004/013644 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、1つのアンテナ素子の位相のみを変化させただけでは、受信器で検出できる放射電力の変化が小さく、そのアンテナ素子の位相変化と放射電力の関係を正確に把握することができなかった。したがって、アンテナ素子全体の放射電力の変化を計測するだけでは、そのアンテナ素子の位相を正確に把握できないため、アンテナ素子の校正が正確にできないという問題があった。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、フェーズドアレイアンテナを構成するアンテナ素子の位相を容易かつ正確に校正することができる位相校正技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0008】
上記「発明が解決しようとする課題」において述べた問題を解決するためになされた発明は、電波を発生させる発振器(10)と、複数のアンテナ素子(20)と、複数のアンテナ素子(20)の各々に接続され、アンテナ素子(20)から出力される電波の位相を変化させるための移相器(40)と、発振器(10)で発生された電波を、移相器(40)を介して複数のアンテナ素子(20)に分配する分配手段(50)と、移相器(40)及び分配手段(50)を制御する制御手段(70)と、複数のアンテナ(20)から放射される電波の電力を検出する受信手段(60)から出力される受信信号を入力する信号入力部(70)と、を備えたフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法である。
【0009】
そして、制御手段(70)において、
複数のアンテナ素子(20)のうち、位相校正の際、基準となる基準アンテナ素子(21)及び、基準アンテナ素子(21)以外の1つの校正対象アンテナ素子(22)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から同じ電力の電波を供給する第1工程と、
第1工程において、発振器(10)から電波を供給した基準アンテナ素子(21)及び校正対象アンテナ素子(22)に対し、基準アンテナ素子(21)に接続された移相器(41)の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子(22)に接続された移相器(42)の位相を変化させたときの、信号入力部(70)を介して、受信手段(60)で検出した受信電力の変化パターンを取得する第2工程と、
第2工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の、校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を抽出する第3工程と、
校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を、第3工程において抽出した位相に180°加えた値とする第4工程と、
を実行し、
その後、第1工程から第4工程を、基準アンテナ素子(21)以外のすべてのアンテナ素子(20)に対して行う。
【0010】
このような位相校正方法では、校正対象アンテナ素子(22)の位相を変化させると、基準アンテナ素子(21)の位相と校正対象アンテナ素子(22)の位相差に対して、極小値を有する受信信号変化パターンを取得することができる(例えば、図3中にA,Bで示す)。
【0011】
したがって、受信電力変化パターンにおいて極小値となる点の校正対象アンテナ素子(22)の位相を抽出し、校正対象アンテナ素子(22)に接続されている移相器(42)の位相を、抽出した位相に180°加えた値となるようにすれば、基準アンテナ素子(21)に対して校正対象アンテナ素子(22)の位相を揃えるという位相の校正ができることになる。
【0012】
そして、基準アンテナ素子(21)に対して、他のすべてのアンテナ素子(20)について以上の工程により位相の校正を行えば、他のすべてのアンテナ素子(20)の位相が揃うので、フェーズドアレイアンテナ(1)全体として位相校正ができることとなる。
【0013】
また、従来のように、複数のアンテナ素子(20)から所定の電力の電波を放射させた状態で、ある1つのアンテナ素子のみ位相を変化させて、放射電力の変化を観測する方法では、放射電力の変化が小さく、そのアンテナ素子の位相を正確に把握できないという問題がある。
【0014】
これに対し、本発明では、基準アンテナ素子(21)と校正対象アンテナ素子(22)の2つのアンテナ素子(21,22)から放射され、受信手段(60)で受信された受信信号レベルの変化パターンは、2つのアンテナ素子の位相差の変化に応じ、両アンテナ素子(20)の出力の差分となるため、顕著な極小値が得られることに着目している。
【0015】
つまり、受信電力変化パターンにおいて顕著に得られる受信電力の極小値となるように位相を抽出してその値に180°加えた位相を校正値とすることで、従来の方法に比べ正確な位相の校正ができるのである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)と同じ構成のフェーズドアレイアンテナ(1)の制御手段(70)において、
複数のアンテナ素子(20)のうち、位相校正の際、基準となる基準アンテナ素子(21)及び基準アンテナ素子(21)に隣接する1つの校正対象アンテナ素子(22)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から同じ出力の電波を供給する第1工程と、
第1工程において、発振器(10)から電波を供給した基準アンテナ素子(21)及び校正対象アンテナ素子(22)に対し、基準アンテナ素子(21)に接続された移相器(41)の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子(22)に接続された移相器(42)の位相を変化させたときの、信号入力部(70)を介して、受信手段(60)で検出した受信電力の変化パターンを取得する第2工程と、
第2工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の位相校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を抽出する第3工程と、
校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を、第3工程において抽出した位相に180°加えた値とする第4工程と、
を実行し、
その後、移相器(42)の校正を行った校正対象アンテナ素子(22)を新たな基準アンテナ素子(21)として、基準アンテナ素子(21)及び新たな基準アンテナ素子(21)以外のすべてのアンテナ素子(21)に対して、第1工程から第4工程までを実行することを特徴とするフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法である。
【0017】
このような位相校正方法では、より簡易な処理でフェーズドアレイアンテナ(1)の校正ができる。以下説明する。
一般的に2つのアンテナ素子の間に金属物が存在する場合、金属物がない場合と比べ、金属物の大きさや位置によって2つのアンテナで形成される受信電力変化パターンが変化する。
【0018】
各アンテナから放射される電波の位相を変化させながら指向性を制御するフェーズドアレイアンテナにおいては、各位相における電力の変化を把握・補正しなければならない。
ところが、請求項2に記載の位相校正方法によれば、常に隣接する2つのアンテナ素子(21、23)の間で出力の差分が得られる。また、2つのアンテナ素子(21,23)が隣接しており、間にその指向性に影響する物質は存在しないので、より簡易な処理でフェーズドアレイアンテナ(1)の校正ができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、発振器(10)、複数のアンテナ素子(20)、移相器(40)、分配手段(50)、アンテナ素子選択手段(70)、信号入力部(70)及び校正手段(70)を備えたフェーズドアレイアンテナ(1)である。
【0020】
発振器(10)は、電波を発生させるものであり、移相器(40)は、複数のアンテナ素子(20)の各々に接続され、アンテナ素子(20)から出力される電波の位相を変化させるためのものである。
【0021】
分配手段(50)は、発振器(10)で発生された電波を、移相器(40)を介して複数のアンテナ素子(20)に分配するものである。
なお、分配手段(50)は、例えば、発振器(10)で発生された電波を選択して複数のアンテナ素子(20)のうち1又は2以上のアンテナ素子(20)に供給する選択スイッチであってもよい。
【0022】
また、分配手段(50)を、発振器(10)で発生された電波を複数のアンテナ素子(20)全部に分配する分配器とすべてのアンテナ素子(20)それぞれに接続された増幅器とで構成し、電波を供給したいアンテナ素子(20)以外の増幅器の増幅率を0にすることで、電波を1又は2以上のアンテナ素子(20)に供給するものであってもよい。この場合、さらに、増幅器の代わりに、高周波スイッチを用いてもよい。
【0023】
アンテナ素子選択手段(70)は、複数のアンテナ素子(20)の位相を校正する際に、分配手段(50)を介して、複数のアンテナ素子(20)のうち、位相の校正の際の基準となる基準アンテナ素子(21)及び基準アンテナ素子(21)以外の1つの校正対象アンテナ素子(22)のみに対して発振器(10)から出力される電波を供給するものである。
【0024】
信号入力部(70)は、複数のアンテナから放射される電波の電力を検出する受信手段(60)から出力される受信信号を入力するものである。
校正手段(70)は、複数のアンテナ素子(20)の位相を校正する際、アンテナ素子選択手段(70)で選択した基準アンテナ素子(21)に接続された移相器(41)の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子(22)に接続された移相器(42)の位相を変化させたときの、信号入力部(70)を介して、受信手段(60)で検出した受信電力の変化パターンを取得する第1工程と、
第1工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の、校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を抽出する第2工程と、
校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を、第2工程において抽出した位相に180°加えた値とする第3工程と、
を実行し、
その後、第1工程から第3工程を、アンテナ素子選択手段(70)を介して、基準アンテナ素子(21)以外のすべてのアンテナ素子(20)に対して行う。
【0025】
このようなフェーズドアレイアンテナ(1)では、請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法と同様に、フェーズドアレイアンテナ(1)を校正する複数のアンテナ素子(20)の位相を容易かつ正確に校正することができる。
【0026】
請求項4に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)は、請求項3に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)を同じ構成のフェーズドアレイアンテナ(1)であって、アンテナ素子選択手段(70)は、複数のアンテナ素子(20)の位相を校正する際に、複数のアンテナ素子(20)のうち、位相校正の際の基準となる基準アンテナ素子(21)及び基準アンテナ素子(21)に隣接する1つの校正対象アンテナ素子(22)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給する。
【0027】
また、校正手段(70)は、複数のアンテナ素子(20)の位相校正の際、アンテナ素子選択手段(70)で選択した基準アンテナ素子(21)に接続された移相器(41)の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子(22)に接続された移相器(42)の位相を変化させたときの、信号入力部(70)を介して、受信手段(60)で検出した受信電力の変化パターンを取得する第1工程と、
第1工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の、校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を抽出する第2工程と、
校正対象アンテナ素子(22)の移相器(42)の位相を、第2工程において抽出した位相に180°加えた値とする第3工程と、
を実行し、
その後、アンテナ素子選択手段(70)を介して、移相器(42)の校正を行った校正対象アンテナ素子(22)を新たな基準アンテナ素子(21)として、基準アンテナ素子(21)及び新たな基準アンテナ素子(21)以外のすべてのアンテナ素子(20)に対して、第1工程から第3工程までを実行する。
【0028】
このようなフェーズドアレイアンテナ(1)では、請求項2に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法と同様に、より簡易な処理でフェーズドアレイアンテナ(1)を校正する複数のアンテナ素子(20)の位相を校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態におけるフェーズドアレイアンテナの概略の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における校正処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】校正対象アンテナの位相を変化させたときの、グラフ化された受信電力変化パターンの一例を示す図である。
【図4】第2実施形態における校正処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】受信器を複数のアンテナ素子の電波放射面の垂直0°方向に配置して受信電力変化パターンを取得するようにした場合のフェーズドアレイアンテナの概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用されたフェーズドアレイアンテナ1の概略の構成を示すブロック図である。フェーズドアレイアンテナ1は、図1に示すように、発振器10、複数の送信アンテナ素子20、増幅器30、移相器40、分配装置50及び制御処理装置70を備えている。
【0031】
また、フェーズドアレイアンテナ1から出力される電波の放射電力を検出するための受信電力検出装置60が設けられている。
発振器10は、電波を発生させる装置であり、クライストロン、進行波管、マグネトロン、ガンダイオードなどで発振した高周波信号を、自動周波数制御回路を用いて、レーダに適した数GHzの安定した周波数を有する電波として出力する。
【0032】
複数の送信アンテナ素子20は、ホーンアンテナなどの開口面アンテナやパッチアンテナなどの平面アンテナであり、本第1実施形態では、これらの同じ送信アンテナ素子20を直線上に等距離に配置してある。
【0033】
増幅器30は、送信アンテナ素子20から出力される電波の電力を増幅するための装置であり、複数の送信アンテナ素子20の各々に接続されている。
移相器40は、送信アンテナ素子20から出力される電波の位相を変化させるための装置であり、複数の送信アンテナ素子20の各々に接続されている。
【0034】
移相器40としては、PINダイオードを用いた線路切換型移相器やGaAsFETを用いた反射型位相器などが使用される。
分配装置50は、発振器10で発生された電波を、移相器40を介して複数の送信アンテナ素子20に分配する装置である。
【0035】
受信電力検出装置60は、複数の送信アンテナ素子20から放射される電波の電力を検出し、検出した受信電力を制御処理装置70に出力する装置であり、受信アンテナ62、受信器64及びリフレクタ66から構成されている。
【0036】
受信アンテナ62は、複数の送信アンテナ素子20から出力された電波のうち、リフレクタ66から反射されてきた電波を受信する装置である。
リフレクタ66は、複数の送信アンテナ素子20から出力される電波を反射するコーナーリフレクタや金属板などの反射板であり、複数の送信アンテナ素子20の電波放射面の垂直0°方向に配置される。
【0037】
受信器64は、リフレクタ66から反射される電波を受信し、その電力を検出して制御処理装置70に出力する装置である。
制御処理装置70は、移相器40及び分配装置50を制御し、また受信器64で検出した電力を記録してレーダ検知エリア内の反射物の位置を特定する装置であり、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えている。制御処理装置70では、CPUがROMに格納されたプログラムを読み出して、以下に説明する校正処理を実行する。
【0038】
(制御処理装置70における校正処理の説明)
次に、図2に基づいて制御処理装置70において実行される校正処理について説明する。図2は、校正処理の流れを示すフローチャートである。
【0039】
校正処理では、まずS100において、CPUが、位相の校正の基準となる基準アンテナ素子21及び基準アンテナ素子21以外の校正対象アンテナ素子22のみに同じ電力の電波を供給させる。
【0040】
つまり、発振器10から出力される電波が、同じ電力で、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22のみに供給され、他のアンテナ素子には供給されないように、CPUが分配装置50、移相器40及び増幅器30を設定する。
【0041】
ここで、基準アンテナ素子21とは、送信アンテナ素子20の位相校正のための基準となる位相を決めるために、すべての送信アンテナ素子20の中から任意に選択した送信アンテナ素子20であって、位相の校正は、この基準アンテナ素子21の位相に、他のすべての送信アンテナ素子20の位相を一致させることになる。
【0042】
続く、S105では、CPUが、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22に接続されたそれぞれの移相器41,42の位相を0°に設定する。
続いて、S110からS120において、校正対象アンテナ素子22の位相変化に対する、受信電力の変化を記録する。
【0043】
具体的には、基準アンテナ素子21に接続されている移相器41の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子22に接続されている移相器42の位相を0°から+360°(S115)まで必要な精度(本第1実施形態では1°)ずつ変化(S120)させながら、受信アンテナ62を介して、受信器64で受信した電波の受信電力を取得する。
【0044】
そして、取得した受信電力を、RAMの中で、横軸を位相、縦軸を受信電力とする受信電力変化パターンとしてグラフ化する。グラフ化した受信電力変化パターンの一例を図3に示す。
【0045】
図3において、縦軸は受信電力、横軸は、校正対象アンテナ素子22に接続された移相器42の位相設定値を示している。
図3中Aで示すグラフは、基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22の位相差が−60°の場合の受信電力変化パターンを示し、Bで示すグラフは、両送信アンテナ素子21,22の位相差が0°の場合の受信電力変化パターン、つまり校正された状態の波形を示している。
【0046】
続くS125では、S110〜120において得られた受信電力変化パターンのグラフから、図3において、受信電力が極小値となる移相器42の位相をCPUが抽出する。本第1実施形態では、120°である。
【0047】
続くS130では、CPUが、移相器42の位相を、S125において抽出した、受信電力が極小となる位相に180°加えた値となるように設定する。本第1実施形態では、300°である。ここで設定する値は、S125で抽出した値から180°引いた値でもよく、−60°としてもよい。
【0048】
続くS135では、CPUが、すべての校正対象アンテナ素子22に対して校正が終了したか否かを判定する。そして、すべての校正対象アンテナ素子22に対して校正が終了したと判定した場合(S135:Yes)、処理を終了し、すべての校正が終了していないと判定さした場合には、処理をS140へ移行する。
【0049】
S140では、CPUが、校正対象アンテナ素子22を変更する。つまり、校正が終了したアンテナ素子(校正対象アンテナ素子22)から他のアンテナ素子(新たな校正対象アンテナ素子22)へと校正対象を変更した後、処理をS100へ戻し、新たな校正対象アンテナ素子22と基準アンテナ素子21との間でS100〜S140の処理を繰り返す。
【0050】
(フェーズドアレイアンテナ1の特徴)
フェ−ズドアレイアンテナ1では、基準アンテナ素子21に接続された移相器41の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子22に接続された移相器42の位相を変化させつつ、基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22とから出力された電波の電力を受信電力検出装置60で受信して、受信電力変化パターンを取得する。
【0051】
そのとき、受信電力変化パターンの極小値が現れるので、極小値が発生する校正対象アンテナ素子22の位相に180°加えた値を校正対象アンテナ素子22に接続されている移相器42の位相に設定している。
【0052】
このようにすることで、基準アンテナ素子21に対して校正対象アンテナ素子22の位相を揃えるという位相の校正ができることになる。
そして、すべての送信アンテナ素子20について以上の工程により位相の校正を行って、すべての送信アンテナ素子20の位相を揃えている、したがって、フェーズドアレイアンテナ1全体として位相校正ができる。
【0053】
また、基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22の2つの送信アンテナ素子21,22によって出力される電力は、両送信アンテナ素子21,22の出力の大きさを等しくした時、両者の電波が逆相(180°)となると、顕著な極小値が得られ、相対的な位相差を正確に把握することができる。
【0054】
よって、受信電力変化パターンにおいて顕著に得られる受信電力の極小値から位相を抽出し、その位相に180°を加えて校正値としているので、従来の、複数の送信アンテナ素子20から所定の電力の電波を放射させた状態で、ある1つのアンテナ素子のみ位相を変化させて、放射電力の変化を観測する方法に比べ正確な位相の校正ができる。
[第2実施形態]
次に、複数の送信アンテナ素子20の構成の際、第1実施形態のフェーズドアレイアンテナ1とは異なる基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22の選択を行うようにしたフェーズドアレイアンテナ1について説明する。
【0055】
第2実施形態におけるフェーズドアレイアンテナ1の構成品は第1実施形態におけるフェーズドアレイアンテナ1と同じであるため、同じ構成品には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
フェーズドアレイアンテナ1の制御処理装置70では、CPUがROMに格納されたプログラムを読み出して、以下に説明する校正処理を実行する。
(制御処理装置70における校正処理の説明)
次に、図4に基づいて、制御処理装置70において実行される校正処理について説明する。図4は、第2実施形態における校正処理の流れを示すフローチャートである。
【0057】
第2実施形態における校正処理では、まずS200において、位相の校正の基準となる基準アンテナ素子21及び基準アンテナ素子21に隣接する校正対象アンテナ素子22のみに電波を供給する。
【0058】
つまり、発振器10から出力される電波が、基準アンテナ素子21及びそれに隣接する校正対象アンテナ素子22のみに供給され、他のアンテナ素子には供給されないように、CPUが分配装置50を設定する。
【0059】
ここで、基準アンテナ素子21とは、送信アンテナ素子20の位相校正のための基準となる位相を決めるために、すべての送信アンテナ素子20の中から任意に選択した送信アンテナ素子20である。
【0060】
位相の校正では、この基準アンテナ素子21の位相を基準として、隣接する校正対象アンテナ素子22の校正を行い、校正が終了した校正対象アンテナ素子22を新たな基準アンテナ素子21として順次すべての送信アンテナ素子20の位相を一致させていくことになる。
【0061】
続く、S205では、CPUが、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22のそれぞれに接続された移相器41,42の位相を0°に設定する。
続いて、S210からS220において、校正対象アンテナ素子22の位相変化に対する、受信電力の変化を記録する。
【0062】
具体的には、CPUが、基準アンテナ素子21に接続されている移相器41の位相を固定したまま、校正対象アンテナ素子22に接続されている移相器42の位相を0°から+360°まで必要な精度で(本第2実施形態では1°)ずつ変化させながら、受信器64で受信した電波の受信電力を取得する。
【0063】
そして、取得した受信電力を、RAMの中で、横軸を位相、縦軸を受信電力としてグラフ化する。すると、図3に示すように、極小値のあるグラフとなる。
続くS225では、S210からS220において得られた受信電力変化パターンのグラフから、図3において受信電力が極小値となる移相器42の位相をCPUが抽出する。
【0064】
続くS230では、CPUが、移相器42の位相を、S210において抽出した、受信電力が極小となる位相に180°加えた値となるように設定する。
続くS235では、CPUが、すべての校正対象アンテナ素子22に対して校正を終了したか否かを判定する。そして、すべての校正対象アンテナ素子22に対して校正を終了したと判定した場合(S220:Yes)、処理を終了し、すべての校正を終了していないと判定した場合には、処理をS240へ移行する。
【0065】
S240では、CPUが、基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22を変更する。つまり、校正が終了した校正対象アンテナ素子22を新たに基準アンテナ素子21とし、新たな基準アンテナ素子21に隣接するアンテナ素子(以前に基準アンテナ素子21であったものを除く)を新たな校正対象アンテナ素子22とする。
【0066】
その後、CPUが、処理をS200へ戻し、新たな基準アンテナ素子21とそれに隣接する新たな校正対象アンテナ素子22との間でS200〜S240の処理を繰り返す。
(フェーズドアレイアンテナ1の特徴)
一般的にアンテナ素子の周辺に、金属物などの物体が存在すると、存在しない場合に比べて、その受信電力変化パターンが変化することが知られている。
【0067】
特に、2つのアンテナ素子から構成されるアレイアンテナの場合、その2つのアンテナの間に、金属物など電波の伝達を妨げるような物体がある場合、物体の位置や大きさによって、アレイアンテナが形成する指向性が変化し、各アンテナから放射される電波の位相を変化させながら指向性を制御するフェーズドアレイレーダにおいては、各位相における電力の変化を把握・補正しなければならない。
【0068】
ところが、第2実施形態におけるフェーズドアレイアンテナ1では、常に隣接する2つの送信アンテナ素子20の間で出力の差分が得られため、2つの送信アンテナ素子20が隣接しており、間に2つのアンテナで構成する指向性に影響するような物質は存在しない。
【0069】
よって、各位相変化毎の受信電力の補正を行う必要がなくなるので、より簡易な処理でフェーズドアレイアンテナ1の校正ができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0070】
(1)上記実施形態では、受信電力変化パターンを取得する際に、リフレクタ66に反射させた電波を、受信アンテナ62を介して、受信器64で受信したが、リフレクタ66を用いず、図5に示すように、受信アンテナ62を複数の送信アンテナ素子20の電波放射面の垂直0°方向に配置して、受信器64で受信電力変化パターンを取得するようにしてもよい。
【0071】
(2)上記実施形態では、複数の送信アンテナ素子20を略直線上に配置したフェーズドアレイアンテナとしていたが、複数の送信アンテナ素子20を二次元平面上にマトリクス状に配置するようにしてもよい。
【0072】
この場合には、マトリクス状に配置した送信アンテナ素子20のうち1つを基準アンテナ素子21とし、その送信アンテナ素子20の位相を基準として、行ごと及び列ごとに校正を実行すればよい。
【0073】
(3)上記実施形態では、分配装置50によって、制御処理装置70から指令信号を受け、複数の送信アンテナ素子20のうち電波を供給する1または2以上の送信アンテナ素子20を選択する装置であったが、増幅器30を用いてもよい。
【0074】
つまり、分配装置50を単に発振器10で発生された電波を複数の送信アンテナ素子20に分配する機能のみを有する分配器により電波を各送信アンテナ素子20に分配し、電波を供給したい送信アンテナ素子21,22,23以外の増幅器30の増幅率を0にすることで、電波を送信アンテナ素子21,22,23に供給するようにしてもよい。
【0075】
また、この場合、増幅器30の代わりに、高周波スイッチを用いても同じ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…フェーズドアレイアンテナ、10…発振器、20…送信アンテナ素子、21…基準アンテナ素子、22…校正対象アンテナ素子、30…増幅器、40,41,42…移相器、50…分配装置、60…受信電力検出装置、62…受信アンテナ、64…受信器、66…リフレクタ、70…制御処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記移相器及び前記分配手段を制御する制御手段と、
前記複数のアンテナから放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
を備えたフェーズドアレイアンテナの位相校正方法であって、
前記制御手段において、
前記複数のアンテナ素子のうち、位相校正の際、基準となる基準アンテナ素子及び前記基準アンテナ素子以外の1つの校正対象アンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から同じ電力の電波を供給する第1工程と、
前記第1工程において、前記発振器から電波を供給した前記基準アンテナ及び前記校正対象アンテナに対し、前記基準アンテナ素子に接続された移相器の位相を固定したまま、前記校正対象アンテナ素子に接続された移相器の位相を変化させたときの、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の変化パターンを取得する第2工程と、
前記第2工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の、前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を抽出する第3工程と、
前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を、前記第3工程において抽出した位相に180°加えた値とする第4工程と、
を実行し、
その後、前記第1工程から第4工程を、前記基準アンテナ素子以外のすべてのアンテナ素子に対して行うことを特徴とするフェーズドアレイアンテナの位相校正方法。
【請求項2】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記移相器及び前記分配手段を制御する制御手段と、
前記複数のアンテナから放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
を備えたフェーズドアレイアンテナの位相校正方法であって、
前記制御手段において、
前記複数のアンテナ素子のうち、位相校正の際、基準となる基準アンテナ素子及び前記基準アンテナ素子に隣接する1つの校正対象アンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から同じ出力の電波を供給する第1工程と、
前記第1工程において、前記発振器から電波を供給した前記基準アンテナ及び前記校正対象アンテナに対し、前記基準アンテナ素子に接続された移相器の位相を固定したまま、前記校正対象アンテナ素子に接続された移相器の位相を変化させたときの、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の変化パターンを取得する第2工程と、
前記第2工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、前記受信電力が極小となる点の、前記校正対象アンテナの移相器の位相を抽出する第3工程と、
前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を、前記第3工程において抽出した位相に180°加えた値とする第4工程と、
を実行し、
その後、前記移相器の校正を行った校正対象アンテナ素子を新たな基準アンテナ素子として、前記基準アンテナ素子及び前記新たな基準アンテナ素子以外のすべてのアンテナ素子に対して、前記第1工程から第4工程までを実行することを特徴とするフェーズドアレイアンテナの位相校正方法。
【請求項3】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記複数のアンテナ素子の位相を校正する際に、前記分配手段を介して、前記複数のアンテナ素子のうち、位相の校正の際の基準となる基準アンテナ素子及び前記基準アンテナ素子以外の1つの校正対象アンテナ素子のみに対して前記発振器から出力される電波を供給するアンテナ素子選択手段と、
前記複数のアンテナから放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
前記複数のアンテナ素子の位相校正の際、前記アンテナ素子選択手段で選択した前記基準アンテナ素子に接続された移相器の位相を固定したまま、前記校正対象アンテナ素子に接続された移相器の位相を変化させたときの、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の変化パターンを取得する第1工程と、
前記第1工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、受信電力が極小となる点の、前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を抽出する第2工程と、
前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を、前記第2工程において抽出した位相に180°加えた値とする第3工程と、
を実行し、
その後、第1工程から第3工程を、前記アンテナ素子選択手段を介して、前記基準アンテナ素子以外のすべてのアンテナ素子に対して行う校正手段と、
を備えたことを特徴とするフェーズドアレイアンテナ。
【請求項4】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記複数のアンテナ素子の位相を校正する際に、前記複数のアンテナ素子のうち、位相校正の際の基準となる基準アンテナ素子及び前記基準アンテナ素子に隣接する1つの校正対象アンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から出力される電波を供給するアンテナ素子選択手段と、
前記複数のアンテナから放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
前記複数のアンテナ素子の位相校正の際、前記アンテナ素子選択手段で選択した前記基準アンテナ素子に接続された移相器の位相を固定したまま、前記校正対象アンテナ素子に接続された移相器の位相を変化させたときの、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の変化パターンを取得する第1工程と、
前記第1工程において取得した受信電力変化パターンにおいて、前記受信電力が極小となる点の、前記校正対象アンテナの移相器の位相を抽出する第2工程と、
前記校正対象アンテナ素子の移相器の位相を、前記第2工程において抽出した位相に180°加えた値とする第3工程と、
を実行し、
その後、前記アンテナ素子選択手段を介して、前記移相器の校正を行った校正対象アンテナ素子を新たな基準アンテナ素子として、前記基準アンテナ素子及び前記新たな基準アンテナ素子以外のすべてのアンテナ素子に対して、前記第1工程から第3工程までを実行する校正手段と、
を備えたことを特徴とするフェーズドアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122874(P2012−122874A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274511(P2010−274511)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】