説明

フォトクロミック二色性ナフトピラン及びそれを含む光学物品

フォトクロミック二色性ナフトピラン及びそれを含む光学物品であって、一般式(I)または(II)
【化1】


ここで:
・m、m、p、及びqは、それぞれ0〜4または0〜5の整数であり;
・R、R、及びRは、ハロゲン、H、−R、アリール、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−NR、−NRa1COR、−NRa1CO(アリール)、−NRa1アリール、−N−アリール、−N(アリール)CO(アリール)、−CO−R、−COa1、−OC(O)−R、−X−(R)−Y、及び直鎖または分枝鎖(C〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を示し(ここで、R、Ra1、R、R、X、Y、R、及びRは、明細書中で定義された通りである);
・Zは、
【化2】


から選択される基を表し:
・R、Z、及びZは、明細書中で定義された通りである;
(ただし、一般式(II)の化合物では、Zが以下の基
【化3】


を表すとき、Zは水素ではない)
によって表されるナフトピラン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック性の新規な色素の一群、及び光学物品、特に眼用レンズ等の光学レンズにおけるそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムは、ある種の化合物において認められる周知の物理現象である。この現象の詳細な説明は、“Photochromism: Molecules and Systems”, Studies in Organic Chemistry 40, edited by H. Durr and H. Bouas-Laurent, Elsevier, 1990、及びFunctional Dyes, edited by S-H. Kim, Elsevier, 2006, pp 85-136における2H−ナフト[1,2−b]ピラン及び3H−ナフト[2,1−b]ピランについての最近の検討報告において参照することができる。
【発明の概要】
【0003】
受動型フォトクロミックデバイス、即ち、吸光度がUV光の有無のみに依存するフォトクロミック色素を含むデバイスは、通常、非常に速い活性化(着色)を示すが、着色状態から脱色状態に戻るまでに、通常数分間、または数十分もかかる。この緩慢な退色は、フォトクロミック眼鏡のユーザにとって重大な欠点である。ユーザが太陽光下から出て照明調整された条件下に入るとき、クリアな視界を得るためには、フォトクロミック眼鏡を取り外さなければならないからである。
【0004】
出願人は、着色状態における高い吸光性、ならびに速い着色速度及び退色速度のような、良好なフォトクロミック特性を示すだけでなく、空間的に整列された状態において(例えば、液晶または配向されたポリマーホスト材料に組み込まれたとき)二色性および直線偏光能を有し得る新規なフォトクロミック色素を提供するために、幅広い研究を行った。
【0005】
出願人は、ナフトピラン核のC−6位にメソゲニック置換基を有する、新規なフォトクロミック2H−ナフト[1,2−b]ピラン及び3H−ナフト[2,1−b]ピランの一群を合成した。これら新規な化合物は、二色性特性を有する。
【0006】
メソゲニック基(例えば、アリール、エチニル、エテニル、及びヘテロアリールから選択される少なくとも2つの官能基)を組み込むと、活性化状態にあるフォトクロミック色素の二色性特性が著しく向上し、かつ、室温で当該色素の状態に影響を及ぼす。この新規な色素を、液晶または配向したポリマー等の異方性ホスト材料に組み込むと、当該ホスト材料の分子と共に強固に配列し、着色状態において強い二色性、即ち、偏光を示す。
【0007】
さらに、出願人は、本発明の新規なフォトクロミック色素は、特に液体、メソモルファス、またはゲル状のホスト材料に溶解されると、速い退色速度を示すことを観察した。これらは、短時間、典型的には5分未満で、着色状態から脱色状態へと戻ることができる。これは、従来技術のフォトクロミック色素の多くに対して、重要な利点となっている。
【0008】
したがって、本発明は、一般式(I)または(II)
【0009】
【化1】

ここで、
・mは、0〜5の整数であり、
・mは、0〜5の整数であり、
・pは、0〜4の整数であり、
・qは、0〜4の整数であり、
・R、R、及びRは互いに独立して、ハロゲン、H、−R、アリール、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−NR、−NRa1COR、−NRa1CO(アリール)、−NRa1アリール、−N−アリール、−N(アリール)CO(アリール)、−CO−R、−COa1、−OC(O)−R、−X−(R)−Y、及び直鎖状もしくは分岐鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される同一または異なる基を表し、ここで:
・Rは、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、または直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基を表し;
・Ra1は、水素、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を表し;
・R及びRは、
・同時に且つ窒素原子との組み合わせにおいて、O、N、及びSから選択される1つのさらなるヘテロ原子を任意で含み、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−NH、及び−NRa1(R及びRa1は上記で定義された通りである)から選択される1つの基、または同一もしくは異なる2つの基によって任意で置換され得る飽和5〜7員複素環基を表し、または
・同時に且つ窒素原子及び隣接するフェニル基との組み合わせにおいて、一般式(A)、(B)、(C)または(D)(ここで、tは0〜2の整数であり、R及びRa1は上記で定義された通りである)の複素環基を形成する:
【0010】
【化2】

・Xは、酸素原子、−N(Ra1)−、硫黄原子、−S(O)−、及び−S(O)−(ここで、Ra1は上記で定義された通りである)から選択される基を表し;
・Yは、−ORa1、−NRa1a2、及び−SRa1(ここで、Ra1は上記で定義された通りであり、Ra2は、水素、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基から選択される基を表す)から選択される基を表し;
・Rは、ハロゲン、ヒドロキシ、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C)アルコキシ、及びアミノから選択される基によって任意で置換され得る直鎖状または分枝鎖状である(C〜C18)アルキレン基を表し;
・Rは、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−NR、−CO−R、−COa1(ここで、R、Ra1、R、R、R、R及びYは上記で定義された通りである)から選択される1つ〜4つの基によって任意で置換される、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基、−(R)−Y、及びアリール基から選択される基を表し;
・Zは、以下の群
【0011】
【化3】

から選択される基であり、ここで、
・Rは、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、及び−NRa1から選択される基を表し、Rは同一またはそれぞれ異なっており;
・Jは、O、S、NRa1(ここで、Ra1は上記で定義された通りである)から選択され;
・nは、0〜6の整数である;
・Rは、
・ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−O−C(O)−R、及び−COa1(ここで、R及びRa1は上記で定義された通りである)、または
・qが2であり、且つ、2つのR置換基がナフト[2,1−b]ピラン基またはナフト[1,2−b]ピラン基のC−7位、C−8位、C−9位、及びC−10位から選択される2つの隣接する炭素原子上に位置する場合、これらはさらに−O−(CHq1−O−基(ここで、q1は1〜3の整数である)を共に表し得る、
から選択される基を表し、
・Zは、H、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−COa1、及び−O−Z−Rから選択される基を表し、
・ここで、R及びRa1は上記で定義された通りであり;
・Rは、以下の群から選択される基を表す:
・ハロゲン、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、及び−COa1(ここで、R及びRa1は上記で定義された通りである)から選択される基によって任意で置換され得る−R;及び
・ハロゲン、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−O−C(O)−R、及び−COa1から選択される1〜4つの基によって任意で置換され得るシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、
・Zは、CO、CS、SO、SO、CO、C(O)S、CS、C(O)NH、C(O)NR、C(S)NH、C(S)NR、及びC=NR(Rは上記で定義された通りである)から選択される基を表し;
・Zは、水素、−COa1、CHO、−CHOH、−CHORa1、−CRa1OH、−Ra1、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルケニルから選択される基を表す;
(ただし、一般式(II)の化合物では、Zが以下の基
【0012】
【化4】

を表すとき、Zは水素ではない)
によって示されるナフトピラン化合物の一群を提供する。
【0013】
本発明において、
・シクロアルキルは、単環式または二環式であり得る3〜12員炭素環を指し;
・ヘテロシクロアルキルは、上記で定義された通り、酸素、窒素、及び硫黄から選択される1つまたは2つのヘテロ原子を含むシクロアルキルを指し;
・アリールは、フェニル基またはナフチル基を指し;
・ヘテロアリールは、酸素、窒素、及び硫黄から選択される1〜3つのヘテロ原子を含む3〜10員単環または二環を指し;
・ハロゲンは、臭素、塩化物、ヨウ素、及びフッ素から選択される原子を指し;
・直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基は、実質的に全ての水素原子がフッ素原子に置換された直鎖状もしくは分枝鎖状であり(C〜C18)アルキル基を指すものとして理解される。
【0014】
一実施形態において、本発明の好ましいナフトピランは、一般式(I)及び(II)の化合物であり、より好ましくは、Z
【0015】
【化5】

から選択される基を表す一般式(I)及び(II)の化合物である。
【0016】
別の実施形態において、本発明の好ましいナフトピランは、
・メチル6−(4’−ドデシルオキシビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシレート
・メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−2−フェニル−6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート
・メチル6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート
・6−[(4−ジブチルアミノフェニル)エチニル]−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン
・3−(2−フルオロフェニル)−6−(5−フェニル−2−チエニル)−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン
からなる群から選択される一般式(I)〜(IV)の化合物である。
【0017】
一般式(I)及び(II)の最も好ましい例は、以下の実施例(a)〜(f)の式で表される化合物である。
【0018】
【化6】

一般式(I)または(II)で表される化合物は、以下の説明及びスキームによって調製されてもよい。
【0019】
必要なナフトール及びナフトピランは、スキーム1〜4に示すように調製され得る。例えば、メチル1,4−ジヒドロキシナフタレン−2−カルボキシラート(1)は、文献(T. Hattori、N. Harada、S. Oi、H. Abe、及びS. Miyano、Tetrahedron: Aysmmetry、1995、6、1043)の手順に従って、市販の1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸を選択的にメチル化することによって調製すればよい。続いて、(1)と1,1−ジアリールプロパ−2−イン−1−オール(2)との酸触媒縮合により、6−ヒドロキシナフト[1,2−b]ピラン(3)が得られる。このナフトピランへの経路は概説されている(B. Van Gemert, Organic Photochromic and Thermochromic Compounds Volume 1: Main Photochromic Families, Ed. J. C. Crano and R. Gugglielmetti, Plenum Press, New York, 1998, p.111; J. D. Hepworth and B. M. Heron, Functional Dyes, Ed. S.-H. Kim, Elsevier, Amsterdam, 2006, p. 85)。また、必要なアルキノール(2)の合成は、広く実証されている(例:C. D. Gabbutt, J. D. Hepworth, B. M. Heron, S. M. Partington and D. A. Thomas, Dyes Pigm., 2001, 49, 65)。
【0020】
塩基の存在下でナフトピラン(3)をトリフルオロメタンスルホン酸無水物でアシル化することにより、トリフレート(4)が高収率で得られる。この後段の化合物は、4’−ドデシルオキシ−4−ビフェニルボロン酸(5a)(A. A. Kiryanov, P. Sampson and A. J. Seed, J. Mater. Chem., 2001, 11, 3068)または4’−n−ペンチル−4−ビフェニルボロン酸(5b)(M. R. Friedman, K. J. Toyne, J. W. Goodby and M. Hird, Liquid Crystals, 2001, 28, 901)等のボロン酸との鈴木・宮浦カップリング(A. Suzuki, J. Organomet. Chem., 1999, 576, 147; N. Miyaura, Top. Curr. Chem., 2002, 219, 11)によって、一般式Iで表される化合物に容易に変換され得、ピラン(6a)または(6b)がそれぞれ得られる。
【0021】
このアプローチによる実施例a〜cの調製は、スキーム1で概説される。
【0022】
【化7】

一般式IIで表されるナフト[2,1−b]ピラン異性体の調製は、4−(フェニルエチニル)−2−ナフトール(10a)及び(10b)から達成される。後段の合成は、4−ブロモ−2−ナフトール(1−ナフチルアミンからM. S. Newman, V. Sankaran and D. Olson, J. Am. Chem. Soc., 1976, 98, 3237に従って調製される)のトリイソプロピルシリルエーテルの、(4−ペンチルフェニル)アセチレン(M. Hird and K. J. Toyne, Liquid Crystals, 1993, 14, 741)及び(4−ジブチルアミノフェニル)アセチレン(スキーム2、J. J. Miller, J. A. Marsden and M. M. Haley, Synlett, 2004, 165に示す経路に従って得られる)等のフェニルアセチレンへの薗頭カップリングによって開始される。(10)をアルキノール(2)で縮合することにより、実施例d及びeに示すように、(11a)及び(11b)が得られる。文献(T. J. Dingemans, N. S, Murthy and E. T. Samulski, J. Phys. Chem. B, 2001, 105, 8845)の手順に従って、2−フェニルチオフェンから調製される5−フェニルチオフェン−2−ボロン酸は、トリフレート(12)(S. C. Benson, J. Y. L. Lam, S. M. Menchen, US Pat. 5, 936, 087)と結合され、BBrによる脱メチル反応によって2−ナフトール(13)が得られる。続いて、酸性条件下において(2)で縮合することにより、実施例fに示すような(14)が得られる。全ての出発物質及びナフトピランへの経路を、スキーム3に示す。
【0023】
【化8】

本発明のフォトクロミック化合物は、単独で使用してもよいし、本発明の他のナフトピランと組み合わせて、及び/または1つ以上の他の適切な相補的である有機フォトクロミック物質(すなわち、約400〜700ナノメートルの間の範囲内に少なくとも1つの活性吸収極大を有する有機化合物)を組み合わせて使用してもよい。また、例えば、より審美的な結果を得たり、より中性の色を得たり、特定の波長の入射光を吸収したり、または、所望の色調を提供するために、相溶性のある色素または顔料を本発明のフォトクロミック色素に混合してもよい。
【0024】
また、本発明は、本発明の一般式(I)または(II)のナフトピラン化合物を1つ以上含む光学物品も提供する。本発明の一般式(I)及び(II)のナフトピラン化合物は、あらゆる種類の光学デバイス及び光学部材(例えば、眼用部材及び眼用デバイス、表示用部材及び表示用デバイス、窓または鏡)に使用することができる。眼用部材の例として、特に限定されないが、分割されているもしくは分割されていない、単焦点レンズまたは複焦点レンズなどの矯正用及び非矯正用レンズ、および視力を矯正、保護または向上させるために使用される他の部材(特に限定されないが、コンタクトレンズ、眼内レンズ、拡大鏡、及び保護用レンズまたはバイザーなど)が挙げられる。表示用部材及び表示用デバイスの例としては、特に限定されないが、スクリーン及びモニターが挙げられる。窓の例としては、特に限定されないが、自動車及び飛行機の透明な部品、フィルター、シャッターならびに光学スイッチが挙げられる。
【0025】
本発明の光学物品は、レンズであることが好ましく、眼用レンズであることがさらに好ましい。
【0026】
光学物品に使用される場合、ナフトピラン化合物は、例えば、当該光学物品のポリマー材料のバルクに組み込むことができる。このようなポリマーホスト材料は、一般的に、透明なまたは光学的に透明な固体材料である。好ましいポリマーホスト材料の例としては、ポリオール(アリルカルボナート)モノマー、ポリアクリラート、ポリ(トリエチレングリコールジメタクリラート)、ポリペルフルオロアクリラート、セルロースアセタート、セルローストリアセタート、セルロースアセタートプロピオナート、セルロースアセタートブチラート、ポリ(ビニルアセタート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、ポリカルボナート、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリ(ジエチレングリコールビス(アルキルカルボナート))、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
本発明のフォトクロミック物質は、当該技術において記載される様々な方法によって、ポリマーホスト材料に組み込まれ得る。そのような方法としては、重合前にフォトクロミック物質をモノマーホスト材料に加えることによって、または、フォトクロミック物質の加熱溶液にホスト材料を浸漬して当該フォトクロミック物質をホスト材料の中に吸収させることによって、当該フォトクロミック物質をホスト材料内に溶解または分散させることを含む。
【0028】
本発明の別の好ましい実施形態においては、フォトクロミック色素は、有機ポリマーホスト材料のバルク中に組み込まれておらず、光学基板上に施された表面コーティングまたはフィルムに組み込まれている。この基板は、光学用途において一般に使用されるガラスまたは有機ポリマー等の、透明な材料または光学的に透明な材料であることが好ましい。
【0029】
また、言うまでもなく本発明は、一般式(I)及び(II)のナフトピラン化合物のうち少なくとも1つを有する光学物品において、少なくとも1つの当該ナフトピラン化合物が、当該物品のバルク中、当該物品のコーティング、または当該物品に施されたフィルムに組み込まれた光学物品も含む。
【0030】
本発明のより好ましい実施形態においては、本発明のフォトクロミックナフトピラン化合物を組み込んだコーティングまたはフィルムは、異方性フィルムもしくは異方性コーティングである。すなわち、当該コーティングまたはフィルムには、色素分子の配向層として機能できる層または媒体が含まれる。このような配向層は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)等の有機ポリマーであってよい。二色性色素の分子を配向させる一般的な方法の1つは、PVAのシートまたは層を加熱することにより当該PVAを軟化させることと、次いでそのシートを引き伸ばしてポリマー鎖を配向させることとを含む。そして、引き伸ばされたシートに、二色性色素を含浸させる。すると、色素分子はポリマー鎖の配向をとる。または、二色性色素をまずPVAシートに含浸させておき、その後で当該シートを上述のように加熱して引き伸ばし、PVAポリマー鎖と関連付けられた色素とを配向させることもできる。このような方法で、二色性色素の分子を、PVAシートの配向したポリマー鎖内に好適に設置または配列させることができ、正味の直線偏光を得ることができる。
【0031】
本発明のより好ましい実施形態においては、新規なナフトピラン化合物は、等方性または異方性の固体ホスト材料には組み込まれず、液体、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体に組み込まれている。本発明のナフトピラン化合物を、このような液体、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体中に溶解または分散させることにより、着色速度が増し、さらには退色速度が大幅に増す。回復時間、すなわち、当該材料が吸収力のある状態から透明な状態へと戻るまでにかかる時間を、5分未満に減らすことができる。
【0032】
少なくとも1つのナフトピラン化合物を組み込んだ液体またはメソモルファスのホスト媒体は、有機溶媒、イオン性溶媒、液晶、及びこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0033】
本発明のナフトピラン化合物は、上記ホスト媒体に溶解されていることが好ましい。
【0034】
上記有機溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、N−メチルピロリドン、2−メトキシエチルエーテル、キシレン、シクロへキサン、3−メチルシクロヘキサノン、酢酸エチル、フェニル酢酸エチル、メトキシフェニル酢酸エチル、プロピレンカルボナート、ジフェニルメタン、ジフェニルプロパン、テトラヒドロフラン、メタノール、プロピオン酸メチル、エチレングリコール、及びこれらの混合物を含む群から選択すればよい。
【0035】
本発明で使用され得る液晶媒体としては、特に限定されないが、ネマチックまたはキラルネマチック媒体等の材料が挙げられる。代替的に、ポリマー液晶媒体を上記ホスト材料として使用することができる。この液晶媒体及びポリマー液晶媒体は、通常、有機溶媒(例えば、上述した有機溶媒のうちの1つ)と組み合わせて使用される。
【0036】
液体、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体と、本発明のナフトピラン化合物のうち少なくとも1つとの混合物は、当該混合物を力学的に安定した環境で保持する構造を有するデバイスに組み込まれることが好ましい。
【0037】
上記混合物を力学的に安定した環境で保持するために好ましいデバイスの例としては、国際公開第2006/013250号パンフレット及び仏国特許第2879757号(これらの文献は、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載のものが挙げられる。
【0038】
本発明の好ましい光学物品は、国際公開第2006/013250号パンフレットに開示された、少なくとも1つの透明なセル配列がその表面に平行に並列された光学部品を備えている。なお、各セルは密接しており、液体、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体と、上記少なくとも1つの本発明のナフトピラン化合物とを含んでいる。当該透明なセル配列は、光学部品の表面に垂直な高さが、100μm未満、好ましくは1μm〜50μmの層を形成する。
【0039】
透明なセル配列は、上記光学部品の透明剛性基板上に直接形成されていてもよい。または、当該透明なセル配列を組み込んだ透明フィルムを、当該光学部品の透明剛性基板上に適用してもよい。
【0040】
セル配列は、光学部品の全表面のうち大部分を占めていることが好ましい。光学部品の全表面に対して複数のセルが占めるすべて表面の割合は、少なくとも90%であることが好ましく、90%〜99.5%であることがより好ましく、96%〜98.5%であることが最も好ましい。
【0041】
セル配列は、例えば、六角形または長方形のセルで構成されてもよく、当該セルの寸法は、以下の通りであってもよい。
【0042】
(a)光学部品の表面に対して平行なサイズが、好ましくは少なくとも1μm、より好ましくは5μm〜100μmである;
(b)セルの光学部品の表面に対して垂直な高さが、好ましくは100μm未満、より好ましくは1μm〜50μmである;及び
(c)密接する当該セル同士を隔てている隔壁の厚さが、好ましくは0.10μm〜5.00μmである。
【実施例】
【0043】
〔実施例化合物の合成に使用される中間化合物の合成〕
(メチル1,4−ジヒドロキシナフタレン−2−カルボキシラート)
【0044】
【化9】

1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(10g、49mmol)とNaHCO(4.12g、49mmol)とを、DMF(ジメチルホルムアミド)(50mL)で溶解した。ヨウ化メチル(6.96g、49mmol)を加え、当該溶液を室温で24時間攪拌し、水(1L)中に注ぎ、濾過して水で洗浄し、標題の化合物(8.80g、82%)を緑色の粉末として得た。
【0045】
(4−ブロモ−2−トリイソプロピルシロキシナフタレン)
【0046】
【化10】

THF(50mL)に4−ブロモ−2−ナフトール(3.54g、15.9mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下において0Cで攪拌しながら、水素化ナトリウム(0.38g、15.9mmol)を少量に分けて加えた。0.5時間後、クロロトリイソプロピルシラン(3.06g、15.9mmol)を0Cで滴下して添加した。当該溶液を室温で2時間攪拌し、水(200mL)中に注ぎ、DCM(ジクロロメタン)(4×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。溶離液としてヘキサンを使用し、シリカ上で残留物をクロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(5.78g、96%)を無色の油として得た。
【0047】
(1−(4−ペンチルフェニル)エチニル−3−トリイソプロピルシロキシナフタレン)
【0048】
【化11】

3−トリイソプロピルシロキシ−1−ブロモナフタレン(2.32g、6.1mmol)、(4−ペンチルフェニル)アセチレン(1.58g、9.2mmol)、Pd(PPhCl(129mg、3mol%)、PPh(240mg、15mol%)、及びCuI(88mg、7.5mol%)をEtN(20mL)に加えた溶液を、窒素雰囲気下で4時間加熱環流した。その結果得られた混合物を冷却し、EtOで希釈し、濾過して、減圧下で溶媒を除去した。溶離液としてヘキサンを使用し、シリカ上で残留物をクロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(0.95g、33%)を淡黄色の油として得た。
【0049】
(4−ヨード−N,N−ジブチルアニリン)
【0050】
【化12】

水(25mL)にN,N−ジブチルアニリン(7g,34mmol)及びNaHCO(2.87g、34mmol)を加えた混合物に、ヨウ素(7.88g、31mmol)を少量に分けて10℃〜15℃で攪拌しながら加えた。1時間後、当該混合物をEtO(200mL)中に注ぎ、水(100mL)、Na(2×100mL)、水(2×100mL)で洗浄し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。溶離液としてヘキサンを使用し、シリカ上で残留物をクロマトグラフィーにかけた。第1留分を回収し、減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(7.26g、71%)を薄茶色の油として得た。
【0051】
(4−トリメチルシリルエチニル−N,N−ジブチルアニリン)
【0052】
【化13】

乾燥EtN(40mL)に4−ヨード−N,N−ジブチルアニリン(4g、12.1mmol)、トリメチルシリルアセチレン(2.37g、24.2mmol)、及びPd(PPhCl(84mg、1mol%)を加え、ヨウ化第一銅(23mg、1mol%)を窒素雰囲気下で加えた。その結果得られた溶液を、室温で16時間攪拌し、ベンゼン(50mL)で希釈し、濾過して、減圧下で溶媒を除去した。溶離液としてベンゼンを使用し、アルミナ上で残留物をクロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(3.0g、82%)を淡黄色の油として得た。
【0053】
(4−エチニル−N,N−ジブチルアニリン)
【0054】
【化14】

MeOH(100mL)に4−トリメチルシリルエチニル−N,N−ジブチルアニリン(3g、9.1mmol)を加えた溶液に、水酸化カリウム(5mL、2M)を攪拌しながら加えた。当該溶液を40℃で0.5時間攪拌し、水(200mL)中に注ぎ、EtO(3×50mL)で抽出し、水(50mL)で洗浄し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(2.35g、100%)を茶色の油として得た。
【0055】
(3−[(4−ジブチルアミノフェニル)エチニル]−2−ナフトール)
【0056】
【化15】

EtN(20mL)に3−トリイソプロピルシロキシ−1−ブロモナフタレン(3.17g、8.4mmol)、4−エチニル−N,N−ジブチルアニリン(2.87g、12.5mmol)、Pd(PPhCl(176mg、3mol%)、PPh(329mg、15mol%)、及びCuI(120mg、7.5mol%)を加えた溶液を、3時間加熱環流した。その結果得られた混合物を冷却し、水(200mL)中に注ぎ、DCM(3×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。DCM(ヘキサン中、20%)を溶離液として使用し、シリカ上で残留物をクロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、残留物をEtO(30mL)中に溶解した。テトラブチルアンモニウムフルオリド(3.8mL、1M、3.8mmol)を加えて、10分間攪拌し続けた。当該溶液を、水(100mL)中に注ぎ、EtO(3×40mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を、DCM(ヘキサン中15%〜EtOAc中0%の勾配)を溶離液として使用し、シリカのショートプラグで濾過した。減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(1.40g、21%)を茶色の油として得た。
【0057】
(4−ブロモ−4’−(ドデシルオキシ)ビフェニル)
【0058】
【化16】

ブタノン(100mL)に4’−ブロモビフェニル−4−オール(8.41g、33.8mmol)、1−ヨードドデカン(10g、33.8mmol)、及びKCO(18.64g、135mmol)を加えた混合物を加熱環流した。16時間後、当該混合物を水(200mL)中に注ぎ、DCM(3×100mL)で抽出し、NaOH(2M、100mL)で洗浄し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を加熱したMeOHで洗浄し、標題の化合物(13.37g、95%)を無色の粉末として得た。
【0059】
(4’−ドデシルオキシ−4−ビフェニルボロン酸)
【0060】
【化17】

THF(テトラヒドロフラン)(150mL)に4−ブロモ−4’−(ドデシルオキシ)ビフェニル(4g、9.6mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下、−78℃でブチルリチウム(6ml、ヘキサン中1.6M、9.6mmol)を攪拌しながら液下により添加した。1時間攪拌を続けた後、ホウ酸トリメチル(3g、28.8mmol)を加えた。その結果得られた混合物を一晩室温に温め、HCl(2M、100mL)で酸化し、EtOAc(3×200ml)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を、EtOAc(DCM中0%〜100%の勾配)を溶離液として使用し、シリカのショートプラグで濾過した。減圧下で溶媒を除去し、残留物をヘキサンで洗浄し、標題の化合物(0.84g、23%)を無色の粉末として得た。
【0061】
(4’−ペンチル−4−ビフェニルボロン酸)
【0062】
【化18】

Mg(0.27g、11.1mmol)を加えたTHF(40mL)に対し、4−ブロモ−4’−ペンチルビフェニル(3g、9.9mmol)を一度に加え、Iで処理した。当該混合物を3時間加熱還流し、−78℃まで冷却し、ホウ酸トリメチル(2.06g、19.8mmol)を滴下した。当該混合物を1時間温めて室温とし、HCl(2M、50mL)で酸化し、EtO(3×50mL)で抽出した。混ぜ合わせたエーテル洗浄剤をNaOH(100mL、1M)で抽出した。濃縮HClで水相を酸化し、EtO(3×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(2.07g、78%)をオフホワイトの粉末として得た。
【0063】
(5−フェニル−2−チオフェンボロン酸)
【0064】
【化19】

無水THF(150ml)に2−フェニルチオフェン(6.1g、38.1mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下、n−ブチルリチウム(ヘキサン中1.6M)(24ml、38.1mmol)を0℃で滴下により添加した。氷槽から取り出し、当該混合物を加熱して20分間還流させた。冷却後、無水THF(100ml)にホウ酸トリメチル(8.7ml、76.25mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下、当該反応混合物を−78℃で滴下により加えた。これを一晩温めて室温にした後、濃縮HClで酸性化し、1時間攪拌し、EtO(3×100ml)で抽出した。混ぜ合わされた抽出物を水(2×100ml)で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、溶媒を除去した。その結果得られた灰色の固形物をエタノール/水(50:50)から再結晶化し、水性NaOH(2M、500ml)中に溶解させ、EtO(250ml)を加え、濃縮HClで水の層を凝結させ、EtO(300ml)で抽出し、乾燥させて(NaSO)、圧力下で溶媒を除去して標題の化合物(2.72g、35%)をオフホワイトの固形物として得た。
【0065】
(3−メトキシ−1−(5−フェニル−2−チエニル)ナフタレン)
【0066】
【化20】

3−メトキシナフタレン−1−イル トリフルオロメタンスルホン酸(2.7g、8.82mmol)、5−フェニル−2−チオフェンボロン酸(2.7g、13.24mmol)、及び炭酸ナトリウム(1.4g、13.24mmol)の混合物を、脱気トルエン(50ml)及びエタノール(50ml)中に、窒素雰囲気下で混合した。Pd(PPh(153mg、1mol%)を加え、当該混合物を18時間加熱還流した。当該溶液を冷却し、水(200ml)中に注ぎ、ジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、乾燥させて(NaSO)、減圧下で溶媒を除去した。その結果得られた残留物をDCMに溶解し、シリカのショートプラグで濾過した。減圧下で溶媒を除去して、赤/茶色の固形物を得た。当該固形物を、EtOAc−ヘキサン(1:9)を使用したシリカ上でフラッシュクロマトグラフィーにかけた。各留分を混ぜ合わせ、溶媒を除去して、標題の化合物(1.87g、67%)を緑色の固形物として得た。
【0067】
(4−(5−フェニル−2−チエニル)−2−ナフトール)
【0068】
【化21】

ジクロロメタン(50ml)に3−メトキシ−1−(5−フェニル−2−チエニル)ナフタレン(1.7g、5.38mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下、三臭化ホウ素(1.04ml、10.76mmol)を0℃でゆっくりと添加した。添加完了後、当該溶液を20時間攪拌した。その後、当該混合物を水(200ml)中に注ぎ、EtO(2×100ml)で抽出し、水(100ml)で洗浄し、乾燥させて(NaSO)、減圧下で溶媒を除去した。その結果得られた固形物をヘキサンで洗浄し、濾過して、標題の化合物(1.47g、91%)を赤色の固形物として得た。
【0069】
(メチル6−ヒドロキシ−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート)
【0070】
【化22】

PhMe(100mL)にメチル1,4−ジヒドロキシナフタレン−2−カルボキシラート(3.93g、18mmol)、1−フェニル−1−(4−ピロリジノフェニル)プロピ−2−イン−1−オール(5g、18mmol)、及びAl(4g)を加えた混合物を、1.5時間加熱還流し、冷却し、濾過し、残留物をDCMで洗浄して、減圧下で溶媒を除去した。DCM(ヘキサン中40%)を溶離液として使用し、シリカのショートプラグで残留物を濾過した。減圧下で溶媒を除去し、EtO−ヘキサンから残留物を結晶化して、標題の化合物(5.47g、62%)を黄色の粉末として得た。
【0071】
(メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−6−ヒドロキシ−2−フェニル−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート)
【0072】
【化23】

メチル1,4−ジヒドロキシナフタレン−2−カルボキシラート(4.00g、18.3mmol)、1−(4−ジエチルアミノフェニル)−1−フェニル−プロピ−2−イン−1−オール(4.67g、18.3mmol)、及びAl(4.5g)をトルエン(150mL)に加え、3時間還流し、熱いまま濾過して、減圧下で溶媒を除去した。DCM(20%ヘキサン)を溶離液として使用するシリカのショートプラグで残留物を濾過し、その後、DCMを溶離液として使用するシリカで2度目の濾過を行った。残留物を、アセトン−MeOHから結晶化し、生成物を黄色の固形物(4.89g、56%)として単離した。
【0073】
(メチル6−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト−[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート)
【0074】
【化24】

DCM(100mL)に6−ヒドロキシ−5−メトキシカルボニル−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト−[1,2−b]ピラン(4.8g、10mmol)及びピリジン(1.7g、21.6mmol)を加えた溶液に、窒素雰囲気下で攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(5.32g、18.9mmol)を0℃で滴下により加えた。1時間後、結果として得られた溶液を、HCl(100mL、2M)、水(100mL)で洗浄し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を、DCMを溶離液として使用するシリカのショートプラグで濾過した。減圧下で溶媒を除去し、標題の化合物(3.57g,58%)を青色の粉末として得た。
【0075】
(メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−2−フェニル−6−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート)
【0076】
【化25】

メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−6−ヒドロキシ−2−フェニル−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート(1.00g、2.1mmol)を加えたDCMに窒素雰囲気下、0℃でピリジン(0.17mL、2.1mmol)を加えた。当該混合物に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を滴下により加え、当該溶液を温めて室温にし、1時間攪拌した。HCl(100mL、2M)を加えて水相を分離し、DCM(3×50mL)で抽出した。混ぜ合わされた有機相を水(100mL)で洗浄し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を、DCMを溶離液として使用するシリカのショートプラグで濾過し、溶媒を除去して、生成物を青色の粉末として得た(0.91g、72%)。
【0077】
以下の実施例は、上述の中間ステップを用いて調製した。
【0078】
<実施例a:メチル6−(4’−ドデシルオキシ−ビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート>
【0079】
【化26】

PhMe(30mL)及びEtOH(30mL)に、メチル6−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート(0.96g、1.6mmol)、4’−ドデシルオキシ−4−ビフェニルボロン酸(0.6g、1.6mmol)、NaCO(0.42g、3.2mmol)、及びPd(PPhを加えた混合物を、4時間加熱還流した。その結果得られた溶液を冷却し、水(100mL)中に注ぎ、DCM(4×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。EtOAc(ヘキサン中10%)を使用したシリカ上で残留物をクロマトグラフィーにかけ、その後再びPhMe(ヘキサン中80%)を使用したクロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、残留物をDCM/リグロインから結晶化して、標題の化合物(0.20g、16%)を青色の粉末として得た。
【0080】
<実施例b:メチル6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート>
【0081】
【化27】

PhMe(30mL)及びEtOH(30mL)に、6−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−5−メトキシカルボニル−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン(0.96g、1.6mmol)、4’−ペンチル−4−ビフェニルボロン酸(0.66g、2.5mmol)、KCO(0.68g、49mmol)、及びPd(PPh(91mg、3mol%)を加えた混合物を、2時間加熱還流した。その結果得られた溶液を冷却し、水(100mL)中に注ぎ、DCM(4×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。PhMe(ヘキサン中80%)を使用したシリカ上で、残留物を2度クロマトグラフィーにかけた。減圧下で溶媒を除去し、残留物をアセトン−MeOHから結晶化して、標題の化合物(0.36g、32%)を紫色の粉末として得た。
【0082】
<実施例c:メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−2−フェニル−6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート>
【0083】
【化28】

メチル2−(4−ジエチルアミノ−フェニル)−2−フェニル−6−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート(0.90g、1.47mmol)、4’−ペンチル−4−ビフェニルボロン酸(0.39g、1.47mmol)、KCO(0.30g)、PhMe(30mL)、及びエタノール(30mL)を含む溶液を1時間脱気した。Pd(PPh(0.085g、5%mol)を加えて、当該反応混合物を16時間加熱還流した。当該反応混合物を水(100mL)中に注ぎ、DCM(4×50mL)で抽出し、乾燥させて(MgSO)、減圧下で溶媒を除去した。残留物を、DCM(20%ヘキサン)を使用したシリカ上でのクロマトグラフィーにかけ、アセトン−MeOHから再結晶化して、融点177℃〜178℃の薄青色の粉末(2.3g,30%)を得た。
【0084】
<実施例e:6−[(4−ジブチルアミノフェニル)エチニル]−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン>
【0085】
【化29】

PhMe(50mL)に3−[(4−ジブチルアミノフェニル)エチニル]−2−ナフトール(1.17g、3.2mmol)、1−フェニル−1−ピロリジノフェニル−プロピ−2−イン−1−オール(0.87g、3.2mmol)及びAl(1g)を加えた混合物を2時間加熱還流した。当該溶液を熱いまま濾過し、残留物を加熱したPhMe(100mL)で洗浄した。減圧下で溶媒を除去し、EtOAc(ヘキサン中10%)を使用した中性アルミナ上で残留物をクロマトグラフィーにかけ、引き続き、EtOAc(ヘキサン中5%)を使用したクロマトグラフィーに再びかけた。減圧下で溶媒を除去して、残留物をアセトン−MeOHから結晶化して、標題の化合物(1.27g、64%)を緑色の粉末として得た。
【0086】
実施例dの化合物は、3−[(4−ペンチルフェニル)エチニル]−2−ナフトールを使用して得られ得る。
【0087】
<実施例f:3−(2−フルオロフェニル)−6−(5−フェニル−2−チエニル)−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン>
【0088】
【化30】

トルエン(50ml)に4−(5−フェニル−2−チエニル)−2−ナフトール(0.52g、1.73mmol)及び1−(2−フルオロフェニル)−1−(4−ピロリジノフェニル)プロピ−2−イン−1−オール(0.51g、1.73mmol)を加えて攪拌した溶液を50℃まで温めた。その後、酸性Al(1g)を加えて、当該混合物を1.5時間加熱還流した。冷却後、当該溶液を濾過し、加熱したトルエン(100ml)で洗浄し、溶媒を除去した。そして、結果として得られた残留物を、EtOAc−ヘキサン(1:9)で溶離してフラッシュクロマトグラフィーにかけた。各留分を混ぜ合わせて、溶媒を除去した。アセトン−MeOHから析出した後、標題の化合物(0.52g、52%)を濃緑色の結晶として回収した。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)または(II)によって表されるナフトピラン化合物であって、
以下の一般式(I)または(II):
【化1】

ここで、
・mは、0〜5の整数であり、
・mは、0〜5の整数であり、
・pは、0〜4の整数であり、
・qは、0〜4の整数であり、
・R、R、及びRは互いに独立して、ハロゲン、H、−R、アリール、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−NR、−NRa1COR、−NRa1CO(アリール)、−NRa1アリール、−N−アリール、−N(アリール)CO(アリール)、−CO−R、−COa1、−OC(O)−R、−X−(R)−Y、及び直鎖状もしくは分岐鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される同一または異なる基を表し、ここで:
・Rは、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、または直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基を表し;
・Ra1は、水素、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を表し;
・R及びRは、
・同時に且つ窒素原子との組み合わせにおいて、O、N、及びSから選択される1つのさらなるヘテロ原子を任意で含み、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−NH、及び−NRa1(R及びRa1は上記で定義された通りである)から選択される1つの基、または同一もしくは異なる2つの基によって任意で置換され得る飽和5〜7員複素環基を表し、または
・同時に且つ窒素原子及び隣接するフェニル基との組み合わせにおいて、一般式(A)、(B)、(C)または(D)(ここで、tは0〜2の整数であり、R及びRa1は上記で定義された通りである)の複素環基を形成する:
【化2】

・Xは、酸素原子、−N(Ra1)−、硫黄原子、−S(O)−、及び−S(O)−(ここで、Ra1は上記で定義された通りである)から選択される基を表し;
・Yは、−ORa1、−NRa1a2、及び−SRa1(ここで、Ra1は上記で定義された通りであり、Ra2は、水素、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基から選択される基を表す)から選択される基を表し;
・Rは、ハロゲン、ヒドロキシ、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C)アルコキシ、及びアミノから選択される基によって任意で置換され得る直鎖状または分枝鎖状である(C〜C18)アルキレン基を表し;
・Rは、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−NR、−CO−R、−COa1(ここで、R、Ra1、R、R、R、R及びYは上記で定義された通りである)から選択される1つ〜4つの基によって任意で置換される、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルキル基、直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)ペルフルオロアルキル基、−(R)−Y、及びアリール基から選択される基を表し;
・Zは、以下の群
【化3】

から選択される基であり、ここで、
・Rは、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、及び−NRa1から選択される基を表し、Rは同一またはそれぞれ異なっており;
・Jは、O、S、NRa1(ここで、Ra1は上記で定義された通りである)から選択され;
・nは、0〜6の整数である;
・Rは、
・ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−O−C(O)−R、及び−COa1(ここで、R及びRa1は上記で定義された通りである)、または
・qが2であり、且つ、2つのR置換基がナフト[2,1−b]ピラン基またはナフト[1,2−b]ピラン基のC−7位、C−8位、C−9位、及びC−10位から選択される2つの隣接する炭素原子上に位置する場合、これらはさらに−O−(CHq1−O−基(ここで、q1は1〜3の整数である)を共に表し得る、
から選択される基を表し、
・Zは、H、ハロゲン、−R、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−COa1、及び−O−Z−Rから選択される基を表し、
・ここで、R及びRa1は上記で定義された通りであり;
・Rは、以下の群から選択される基を表す:
・ハロゲン、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、及び−COa1(ここで、R及びRa1は上記で定義された通りである)から選択される基によって任意で置換され得る−R;及び
・ハロゲン、−OH、−OR、−SH、−SR、−NH、−NRa1、−CO−R、−O−C(O)−R、及び−COa1から選択される1〜4つの基によって任意で置換され得るシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、
・Zは、CO、CS、SO、SO、CO、C(O)S、CS、C(O)NH、C(O)NR、C(S)NH、C(S)NR、及びC=NR(Rは上記で定義された通りである)から選択される基を表し;
・Zは、水素、−COa1、CHO、−CHOH、−CHORa1、−CRa1OH、−Ra1、及び直鎖状もしくは分枝鎖状である(C〜C18)アルケニルから選択される基を表す;
(ただし、一般式(II)の化合物では、Zが以下の基
【化4】

を表すとき、Zは水素ではない)ナフトピラン化合物。
【請求項2】
一般式(I)または(II)において、Z
【化5】

から選ばれる基を表す化合物から選択されることを特徴とする請求項1記載のナフトピラン化合物。
【請求項3】
以下の化合物:
・メチル6−(4’−ドデシルオキシビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート;
・メチル2−(4−ジエチルアミノフェニル)−2−フェニル−6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート;
・メチル6−(4’−ペンチルビフェニル−4−イル)−2−フェニル−2−(4−ピロリジノフェニル)−2H−ナフト[1,2−b]ピラン−5−カルボキシラート;
・6−[(4−ジブチルアミノフェニル)エチニル]−3−フェニル−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン;
・3−(2−フルオロフェニル)−6−(5−フェニル−2−チエニル)−3−(4−ピロリジノフェニル)−3H−ナフト[2,1−b]ピラン
のうちの1つから選択されることを特徴とする請求項1記載のナフトピラン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の少なくとも1つのナフトピラン化合物を含んでいる光学物品。
【請求項5】
ポリマーホスト材料を備え、当該ポリマーホスト材料のバルクに上記少なくとも1つのナフトピラン化合物が組み込まれていることを特徴とする請求項4記載の光学物品。
【請求項6】
上記ポリマーホスト材料が、ポリオール(アリルカルボナート)モノマー、ポリアクリラート、ポリ(トリエチレングリコールジメタクリラート)、ポリペルフルオロアクリラート、セルロースアセタート、セルローストリアセタート、セルロースアセタートプロピオナート、セルロースアセタートブチラート、ポリ(ビニルアセタート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、ポリカルボナート、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリ(ジエチレングリコールビス(アルキルカルボナート))、及びこれらの混合物のポリマーから選択されることを特徴とする請求項5記載の光学物品。
【請求項7】
光学基板と、上記少なくとも1つのナフトピラン化合物を含んでいるフィルムまたはコーティングのうち少なくとも1つとを備えることを特徴とする請求項4記載の光学物品。
【請求項8】
少なくとも1つの上記フィルムまたは上記コーティングが、異方性配向ポリマー層及び上記少なくとも1つのナフトピラン化合物を含む二色性フィルムまたはコーティングであることを特徴とする請求項7記載の光学物品。
【請求項9】
上記少なくとも1つのナフトピラン化合物を組み込んだ、液体、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体を含むことを特徴とする請求項4記載の光学物品。
【請求項10】
上記少なくとも1つのナフトピラン化合物を組み込んだ液体または中間相のホスト媒体は、有機溶媒、イオン性溶媒、液晶、液晶ポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項9記載の光学物品。
【請求項11】
一対の対向する基板であって、当該基板間に上記ホスト媒体と本発明の上記少なくとも1つのフォトクロミック色素との混合物を受け取るための隙間を有する基板と、近接する当該一対の基板を保持するためのフレームとを含むことを特徴とする請求項10記載の光学物品。
【請求項12】
透明なセル配列がその表面に平行に並列された光学部品を備え、各セルは密接しており、且つ、上記液体のホスト媒体と上記少なくとも1つのナフトピラン化合物とを含むことを特徴とする請求項11記載の光学物品。
【請求項13】
上記光学部品は透明剛性基板を備え、当該基板上に上記透明なセル配列が形成されていることを特徴とする請求項12記載の光学物品。
【請求項14】
上記光学部品の全表面に対して複数の上記セルが占めるすべての表面の割合は、少なくとも90%であり、好ましくは90%〜99.5%であり、最も好ましくは96%〜98.5%であることを特徴とする請求項12または13記載の光学物品。
【請求項15】
複数の上記セルは、上記光学部品の表面に対して平行に、少なくとも1μm、好ましくは5μm〜100μmのサイズであることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項16】
複数の上記セルは、厚さ0.10μm〜5.00μmの分離手段によって互いに分離されていることを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項17】
眼用部材及び眼用デバイス、表示用部材及び表示デバイス、窓または鏡からなる群から選択される、好ましくはレンズ、ならびに最も好ましくは眼用レンズであることを特徴とする請求項12〜16のいずれか一項に記載の光学物品。

【公表番号】特表2011−515339(P2011−515339A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549116(P2010−549116)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052452
【国際公開番号】WO2009/109546
【国際公開日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【Fターム(参考)】