説明

フタロシアニン化合物およびその製造方法

【課題】親水性溶媒や水に溶解でき、従来適用できない用途にも有用性のあるフタロシアニン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】特定のヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン化合物を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることによるフタロシアニン化合物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、650〜1100nmの近赤外線波長域での選択吸収能ならびに親水性溶媒への溶解性および水溶性に優れるフタロシアニン化合物、特にフタロシアニン混合物およびその製造方法に関するものである。本発明のフタロシアニン化合物(フタロシアニン混合物)は、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、PETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどの様々な用途、好ましくはインクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、光記録媒体、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板およびレーザー治療用感光性色素、特にインクジェット用インクに好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、フタロシアニン系化合物は、光、熱、温度等に対して安定であり堅牢性に優れているため、半導体レーザーを光源として用いるコンパクトディスク、レーザーディスク、光メモリーディスク、光カード等の光記録媒体に使用される近赤外吸収色素として、使用されている。また、近年、薄型で大画面に適用できるPDP(Plasma Display Panel)が注目されているが、PDPはプラズマ放電の際に近赤外線光が発生し、この近赤外線が家電用テレビ、クーラー、ビデオデッキ等の電気機器の誤動作を誘発することが問題となり、このような課題を解決するために、可視光線透過率が高く、近赤外線光のカット効率が高く、かつ近赤外域の選択吸収能に優れ、かつ耐熱性、耐光性、耐候性にも優れる特徴を有するフタロシアニン化合物に関する開発が行なわれてきた。
【0003】
このように従来様々なフタロシアニン化合物が検討・開発されてきたが、CD−R用のフタロシアニンを除き、従来のフタロシアニン化合物はほとんど、アセトン、クロロホルム、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒には可溶性であるものの、メタノールやエタノール等の低級アルコールまたはこれらの水溶液、さらには水にはほとんど溶解せず、このため使用する溶媒や配合する樹脂の種類の選択が制限されるという問題があった。
【0004】
このため、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどに使用しようとすると、有機溶剤が蒸発して、作業者や利用者に不快な臭いをもたらしたり、また、可燃性であるため、安全上好ましくない場合があり、適用できる用途に限界があった。したがって、メタノールやエタノール等の低級アルコールまたはこれらの水溶液などの親水性溶媒や水に溶解でき、従来適用できない用途にも有用性のあるフタロシアニン化合物に対する高い要求があった。
【0005】
上記を目的として、スルホン酸基を導入することによって、水溶性を高めたフタロシアニン化合物が報告されている(例えば、特許文献1参照)。上記特許文献1によると、−SOM(Mは、H、金属または場合により置換されたアンモニウムである)をフタロシアニン骨格中に1から16個導入することにより適度な水溶解度が付与できる。また、フタロシアニン化合物骨格に、カルボキシル基(その塩を含む)やスルホン酸基(その塩を含む)を導入することによって、優れた樹脂との相溶性、耐熱性、耐光性、耐候性などの諸特性に加えて、メタノールやエタノール等の低級アルコールまたはこれらの水溶液などの親水性溶媒にも可溶性であるフタロシアニン化合物が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、スルホン酸基の導入のために多量の硫酸を使用するため、製造後の廃酸の処理が必要となり、製造プロセス上好ましくない。また、特許文献2に記載のフタロシアニン化合物は、低級アルコールまたはこれらの水溶液への溶解性が十分とはいえず、また、水への溶解性はかなり低いものであった。このため、上記したような用途を目的としたより水溶性および親水性に優れたフタロシアニン化合物の開発が依然として求められていた。
【0007】
一方、フタロシアニン化合物の水溶性を向上することを目的として、プロトン化時に水溶性を付与するピリジニウムカチオン形態をとる3−ピリジルオキシ基をフタロシアニン化合物骨格のβ位に導入する方法が考案された(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、当該非特許文献1に記載の方法によると、特に2048頁のスキームに示されるように、目的とするZn(II)テトラ−(3−ピリジルオキシ)フタロシアニンを、7段階という非常に複雑な工程を経て製造しているため、最終生産物の収率が低く、経済的に好ましくないという欠点がある。上記欠点に加えて、予めピリジルオキシ基をベンゼン環の3位に付加した後、環化反応を行なうため、最終生産物はピリジルオキシ基が1個フタロシアニン骨格のβ位に結合した単一の構造物として得られる。このため、その最終生産物が示す最大吸収波長は1種類となる。しかしながら、通常どのような用途であっても、単一の波長をカットすることはなく、複数の波長をカットする必要があるが、このような場合には、所望の吸収波長を有する色素を別途混合する必要があり、やはり経済的に好ましくない。
【0008】
上記非特許文献1に加えて、ピリジルオキシ基がフタロシアニン化合物骨格のβ位に導入されたフタロシアニン化合物の製造方法が、非特許文献2にも記載されている。しかしながら、当該方法においても、上記非特許文献1と同様、予めピリジルオキシ基をベンゼン環の3,4位に付加した後、環化反応を行なうという多段階反応であるため、最終生産物の収率が低く、また、最終生産物は単一の構造物としてでしか得られない。
【特許文献1】特開昭63−295578号公報(対応英語公報:US−A−4,824,948)
【特許文献2】特開2005−220060号公報(対応英語公報:なし)
【非特許文献1】HETEROCYCLES,Vol.22,No.9,p.2047〜2052,1984
【非特許文献2】SYNTHESIS,Issue 02,Vol.1993,p.194〜196,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされ、親水性溶媒または水に容易に溶解でき、従来適用できない用途にも有用性のあるフタロシアニン化合物(特にフタロシアニン混合物)を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、このような親水性および水溶性に優れたフタロシアニン化合物を簡便な方法により製造できるフタロシアニン化合物の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる他の目的は、複数のフタロシアニン化合物を混合物の形態で簡便な方法に製造できる親水性および水溶性に優れたフタロシアニン混合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記諸目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、所望の位置にハロゲン原子を導入したフタロシアニン化合物を、ピリジノール、イミダゾールやピラゾールと反応させると、それぞれ、ピリジルオキシ基、イミダゾリル基やピラゾリル基が上記ハロゲン原子の一部あるいは全部と置換して、所望の置換基が導入されたフタロシアニン化合物をそのままあるいは混合物の形態でかつ複雑な工程を経ずに一工程で製造できることを見出した。また、このような構造を有するおよびこのようにして製造されたフタロシアニン化合物(フタロシアニン混合物)は、メタノールやエタノール等の低級アルコールまたはこれらの水溶液などの親水性溶媒、及び水の少なくとも一方に対して優れた可溶性を示すことを見出した。上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の諸目的は、下記式(1):
【0014】
【化1】

【0015】
式中、Z1〜Z16は、それぞれ独立して、水素原子、SR1、NHR、ORまたはハロゲン原子を表わし、この際、Z1〜Z16の少なくとも2個はハロゲン原子を表わし;R、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;複数のR、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることを有するフタロシアニン化合物の製造方法によって達成される。
【0016】
また、本発明の諸目的は、上記式(1)で示されるフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることによって製造されるフタロシアニン化合物によっても達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフタロシアニン化合物(フタロシアニン混合物)は、650〜1100nmの波長域で高い近赤外線カット効率を発揮しつつ、メタノールやエタノール等の低級アルコール若しくはこれらの水溶液などの親水性溶媒、および/または水に溶解できる。また、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、複雑な工程を必要とせずに簡便なプロセスによって製造できる。特に、本発明の方法によると、複数の親水性および水溶性に優れたフタロシアニン化合物を混合物の形態で簡便な方法で製造できる。なお、本明細書において、「フタロシアニン化合物が混合物の形態である」および「フタロシアニン混合物」とは、本発明に係るフタロシアニン化合物を2種以上含むことを意味する。
【0018】
したがって、本発明に係るフタロシアニン化合物(フタロシアニン混合物)は、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどの様々な用途、特にインクジェット用インクに対して好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の第一は、下記式(1):
【0021】
【化2】

【0022】
で示されるフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることを有するフタロシアニン化合物の製造方法に関するものである。
【0023】
本発明の方法によって製造されるフタロシアニン化合物は、優れた親水性および/または水溶性を発揮するため、メタノールやエタノール等の低級アルコール若しくはこれらの水溶液などの親水性溶媒、および/または水に対して容易に溶解できる。また、本発明の方法によると、このような親水性および水溶性に優れたフタロシアニン化合物が複数の混合物の形態でかつ簡便な方法で製造できる。本明細書において、「親水性」とは、メタノール、エタノール、2−エトキシエタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール若しくはこれらの水溶液中での溶解度が0.1質量%以上であることを意味し、好ましくは、これらの親水性溶媒における溶解度が、1.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。また、本明細書において、「水溶性」とは、水中での溶解度(水溶解度)が0.1質量%以上であることを意味し、好ましくは、水溶解度が、1.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。なお、本明細書中では、「親水性および/または水溶性」を一括して「親水性」とも称する。
【0024】
また、上述したように、本発明の方法によると、複雑な工程を経ずに、複数のフタロシアニン化合物が混合物の形態で容易に製造でき、これらのフタロシアニン化合物はそれぞれ異なる最大吸収波長を示す。また、各フタロシアニン化合物の最大吸収波長は、式(1)のフタロシアニン化合物(1)の構造、特に式(1)中に示すハロゲン原子の種類や数およびハロゲン原子以外の他の置換基の種類;置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾール、置換基を有してもよいピラゾールの種類;ならびにフタロシアニン化合物(1)と、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾール、および置換基を有してもよいピラゾールとの混合比などによって調節できる。このため、上記諸因子を適宜選択することによって、様々な色調を有するフタロシアニン混合物を容易に製造することができる。
【0025】
したがって、本発明に係るフタロシアニン化合物およびフタロシアニン混合物は、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどの様々な用途、好ましくはインクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、光記録媒体、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板およびレーザー治療用感光性色素、特にインクジェット用インクに好適に使用できる。
【0026】
本発明のフタロシアニン化合物は、式(1)のフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることによって製造され、好ましくは混合物の形態で製造される。なお、本明細書において、式(1)のフタロシアニン化合物(1)を「フタロシアニン化合物(1)」と、置換基を有してもよいピリジノールを「ピリジノール誘導体」と、置換基を有してもよいイミダゾールを「イミダゾール誘導体」と、および置換基を有してもよいピラゾールを「ピラゾール誘導体」とも称し、さらにピリジノール誘導体、イミダゾール誘導体およびピラゾール誘導体を一括して「誘導体」とも称する。
【0027】
上記式(1)において、Z1〜Z16は、同一であってもあるいは相互に異なるものであってもよい。また、本発明において、上記式(1)中、フタロシアニン骨格のZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のβ位に置換する置換基または単に「β位の置換基」と、また、フタロシアニン骨格のZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のα位に置換する置換基または単に「α位の置換基」と称する場合がある。
【0028】
上記式(1)において、Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わすものである。ここで、無金属とは、金属以外の原子、例えば、2個の水素原子であることを意味する。また、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、塩化珪素等が挙げられる。好ましくは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物であり、具体的には、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、鉄、バナジル、チタニル、塩化インジウム、塩化錫(II)であり、より好ましくは銅、バナジルおよび亜鉛である。特に、フタロシアニン化合物(混合物の形態を含む;以下、同様)をインクジェット用インクに使用する場合には、親水性の点から、中心金属Mは、銅、バナジルおよび亜鉛であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)において、Z1〜Z16は、水素原子、SR1、NHR、ORまたはハロゲン原子を表わす。この際、Z1〜Z16の少なくとも2個はハロゲン原子を表わす。本発明によると、フタロシアニン化合物(1)と、ピリジノール誘導体、イミダゾール誘導体およびピラゾール誘導体からなる群より選択される少なくとも一種との反応によって、フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の一部または全部が上記誘導体で置換され(ハロゲン原子が存在する位置に上記誘導体由来の基が導入され)、これにより得られたフタロシアニン化合物は親水性/水溶性を発揮する。このため、フタロシアニン化合物の親水性/水溶性は、Z1〜Z16中に占めるハロゲン原子の数によって調節され、ハロゲン原子の数が多いほど、即ち、これらの誘導体のフタロシアニン骨格への導入数が多いほど、得られるフタロシアニン化合物の親水性/水溶性が高くなる。このため、Z1〜Z16に占めるハロゲン原子の数は、所望の親水性/水溶性レベルによって異なるが、特にカラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などの用途では、4〜16個、より好ましくは8〜16個、さらにより好ましくは12〜16個、最も好ましくは16個であり、この際、Z1〜Z、Z〜Z、Z〜Z12及びZ13〜Z16中に占めるハロゲン原子の数が同じである、すなわち、式(1)中のZ1〜Z16中に占めるハロゲン原子の数が4、8、12及び16個であることが特に好ましい。また、上記式(1)中のZ1〜Z16としてのハロゲン原子は、ッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれもでもよいが、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子である。また、吸収波長としては、近赤外領域の中でも700〜1000nmの波長領域が好ましく、特に半導体レーザーの波長付近である750〜850nmの波長領域がさらに好ましく、770〜820nmの波長領域が最も好ましい。
【0030】
上記式(1)において、Z1〜Z16に占めるハロゲン原子の数が2〜15個である場合の、ハロゲン原子の結合位置は、特に制限されず、ハロゲン原子の種類や数によって異なる。例えば、ハロゲン原子が4個である場合には、ハロゲン原子は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環に1個ずつ存在し、各ベンゼン環、例えば、Z1〜Z中、Z位、Z位に存在することが好ましい。また、例えば、ハロゲン原子が8個である場合には、ハロゲン原子は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環に2個ずつ存在し、各ベンゼン環、例えば、Z1〜Z中、Z位とZ位、Z位とZ位、Z位とZ位、Z位とZ位、Z位とZ位、最も好ましくはZ位とZ位に存在することが好ましい。さらに、ハロゲン原子が12個である場合には、ハロゲン原子は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環に3個ずつ存在し、各ベンゼン環、例えば、Z1〜Z中、Z位とZ位とZ位、Z位とZ位とZ位に存在することが好ましい。なお、ハロゲン原子の数が上記場合以外である場合には、なるべく各ベンゼン環に同じ数のハロゲン原子が存在し、かつ余りのハロゲン原子がフタロシアニン骨格のベンゼン環中少なくともZ位もしくはZ位に存在することが好ましい。
【0031】
また、上記式(1)において、Z1〜Z16に占めるハロゲン原子の数が2〜15個である場合の、ハロゲン原子以外のZ1〜Z16は、水素原子、SR1、NHRまたはORであるが、好ましくは水素原子、ORであり、より好ましくは水素原子、置換基を有してもよいフェノキシ基、アルコキシ基であり、特に好ましくは置換基を有してもよいフェノキシ基である。
【0032】
上記式(1)において、R、RおよびRは、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす。なお、R、RおよびRが複数個存在する際には、これらは同一であっても異なるものであってもよい。
【0033】
ここで、R、RおよびRにおけるアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基などが例示できる。
【0034】
なお、上記フェニル基またはアラルキル基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基などが例示できる。これらの置換基は、フェニル基またはアラルキル基に1〜5個置換可能であり、これらの置換基の種類も、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよい。
【0035】
まず、上記フェニル基またはアラルキル基に置換基しうるハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子があり、好ましくはフッ素原子、塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。
【0036】
アシル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、p−t−ブチルベンゾイル基など等が挙げられ、これらのうち、アセチル、エチルカルボニル基が好ましい。
【0037】
アルキル基とは、炭素原子数1〜20個、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0038】
アルコキシル基は、炭素原子数1〜20個、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基であり、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち、メトキシ基およびエトキシ基が好ましい。
【0039】
ハロゲン化アルキル基とは、炭素原子数1〜20個、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基の一部がハロゲン化されたものであり、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基などが挙げられる。
【0040】
ハロゲン化アルコキシル基とは、炭素原子数1〜20個、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基の一部がハロゲン化されたものであり、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、ブロモエトキシ基、クロロプロポキシ基、ブロモプロポキシ基などが挙げられる。
【0041】
アルキルアミノ基とは、炭素原子数1〜20個、好ましくは炭素原子数1〜8個のアルキル部位を有するアルキルアミノ基であり、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基などが挙げられる。これらのうち、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基およびn−ブチルアミノ基が好ましい。
【0042】
アルキルカルボニルアミノ基としては、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n−プロピルカルボニルアミノ基、iso−プロピルカルボニルアミノ基、n−ブチルカルボニルアミノ基、iso−ブチルカルボニルアミノ基、sec−ブチルカルボニルアミノ基、t−ブチルカルボニルアミノ基、n−ペンチルカルボニルアミノ基、n−ヘキシルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、n−ヘプチルカルボニルアミノ基、3−ヘプチルカルボニルアミノ基、n−オクチルカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0043】
アリールアミノ基としては、フェニルアミノ基、p−メチルフェニルアミノ基、p−t−ブチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ−p−メチルフェニルアミノ基、ジ−p−t−ブチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0044】
アリールカルボニルアミノ基としては、ベンゾイルアミノ基、p−クロロベンゾイルアミノ基、p−メトキシベンゾイルアミノ基、p−t−ブチルベンゾイルアミノ基、p−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基、m−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
アルコキシカルボニル基とは、アルコキシル基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜5個のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数3〜8個、好ましくは5〜8個の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。これらのうち、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が好ましい。
【0046】
アルキルアミノカルボニル基としては、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、n−ヘプチルアミノカルボニル基、n−オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジ−n−プロピルアミノカルボニル基、ジ−n−ブチルアミノカルボニル基、ジ−sec−ブチルアミノカルボニル基、ジ−n−ペンチルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘプチルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基等が挙げられる。
【0047】
アルキルチオ基としては、メチルチオフェニル基、エチルチオフェニル基、t−ブチルチオフェニル基、ジ−tert−ブチルチオフェニル基、2−メチル−1−エチルチオフェニル基、2−ブチル−1−メチルチオフェニル基等が挙げられる。
【0048】
一方、R、RおよびRにおける非置換の炭素原子数1〜20個のアルキル基は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基およびn−ブチル基が好ましい。
【0049】
該アルキル基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシル基、ヒドロキシアルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などが例示できる。これらの置換基の種類は、上記フェニル基またはアラルキル基で述べたのと同様であり、また、これらの置換基は、複数個置換する場合には、同種若しくは異種のいずれであってもよい。
【0050】
本発明で使用されるフタロシアニン化合物(1)の製造方法は、特に制限されるものではなく、特開2001−106689号公報、特開2005−220060号公報などの従来公知の方法を適当に利用することができる。簡単にいうと、好ましくは溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応することによって、フタロシアニン化合物(1)が製造される。
【0051】
すなわち、下記式(2):
【0052】
【化3】

【0053】
で示されるフタロニトリル化合物(A)、下記式(3):
【0054】
【化4】

【0055】
で示されるフタロニトリル化合物(B)、下記式(4):
【0056】
【化5】

【0057】
で示されるフタロニトリル化合物(C)、および下記式(5):
【0058】
【化6】

【0059】
で示されるフタロニトリル化合物(D)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属塩」とも称する)からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、フタロシアニン化合物(1)が製造できる。なお、上記式(2)〜(5)中、Z〜Z16は、所望のフタロシアニン化合物(1)の構造によって規定され、上記式(1)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
上記態様において、出発原料である式(2)〜(5)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)は、特開昭64−45474号公報に開示されている方法などの、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできるが、好ましくは、下記式(6):
【0061】
【化7】

【0062】
式中、X、X、XおよびXは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子および塩素原子、特に好ましくはフッ素原子を表わす、
で示されるフタロニトリル誘導体を、HSR1およびHOR(RおよびRは、上記式(1)の定義と同様である)からなる群より選択される1種以上と反応させることによって得る。この際、HSR1およびHORの割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択される。また、HSR1および/またはHORの合計使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル誘導体1モルに対して、通常、1.0〜6.0モル、好ましくは1.1〜2.5モルである。
【0063】
また、該フタロニトリル化合物は、前記式(6)で示されるフタロニトリル誘導体を、HSR1およびHORからなる群より選択される1種以上と反応させることによって得られる。この際、該フタロニトリル誘導体とHSR1および/またはHORとの反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル;アセトンおよび2−ブタノン等の極性溶媒などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトニトリル、ベンゾニトリルおよびアセトンである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、フタロニトリル誘導体の濃度が、通常、2〜40(w/v)%、好ましくは10〜30(w/v)%となるような量である。また、このフタロニトリル誘導体とHSR1、HSRおよび/またはHORとの反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、フッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、フッ化カリウム、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが好ましく、フッ化カリウムが最も好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル誘導体1モルに対して、通常1.0〜4.0モル、好ましくは1.1〜2.0モルである。
【0064】
なお、式(1)中のZ〜Z16すべてがハロゲン原子であるフタロシアニン化合物(1)をピリジノール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体と反応させる場合には、上記式(6)のフタロニトリル誘導体とHORとの反応は、省略し、上記式(6)のフタロニトリル誘導体を、式(2)〜(5)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)として直接環化反応に使用すればよい。
【0065】
上記態様において、環化反応は、式(2)〜(5)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属からなる群から選ばれる一種を溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。この際使用できる金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(以下、一括して「金属化合物」ともいう)としては、反応後に得られるフタロシアニン化合物のMに相当するものが得られるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、上記式(1)におけるMの項で列挙された鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウムおよびスズ等の金属、当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、酸化バナジウム、酸化チタニル及酸化銅等の金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属、ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物およびカルボニル鉄等の金属カルボニル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物である。
【0066】
また、環化反応は、無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、およびベンゾニトリル等の不活性溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、1−オクタノール等のアルコール;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレンおよびベンゾニトリルが、より好ましくは、ベンゾニトリルが使用される。
【0067】
上記態様における式(2)〜(5)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100質量部に対して、上記フタロニトリル化合物(A)〜(D)を2〜40質量部、好ましくは20〜35質量部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を該フタロニトリル化合物4モルに対して1〜2モル、好ましくは1.1〜1.5モルの範囲で仕込んで、反応温度30〜250℃、好ましくは80〜200℃の範囲で反応させる。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニン化合物の合成方法に従って、ろ過、洗浄、乾燥することにより、次工程に用いることのできるフタロシアニン誘導体を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0068】
ここで、本発明に係るフタロシアニン化合物(1)が上記式(1)中、NHRを有する場合には、上記方法に続いて、得られた反応産物と、式:NHRを有するアミノ化合物との反応を、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行なうことが好ましい。より好ましくは、反応させるアミノ化合物中で、一定の温度に加熱することにより行う。不活性な液体としては、例えば、ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリルやN−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドなどのようなアミドを単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。
【0069】
上記反応では、フタロシアニン化合物(1)のZ1〜Z16の置換位置に所望の置換基を設計通りに導入することができるように、適宜最適な範囲を選択すればよいが、例えば、以下の条件が使用できる。すなわち、式:NHRの基を有するアミノ化合物を、フタロニトリル化合物(A)〜(D)と金属化合物との環化反応により得られるフタロシアニン化合物誘導体1モルに対して、通常、等モル以上、好ましくは1.0〜1.1モルの範囲で仕込む。次に、この反応産物に、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の無機分を、発生してくるハロゲン化水素をトラップする目的で、フタロシアニン化合物誘導体1モルに対して、1〜16モル、好ましくは3〜8モルの範囲でトラップ剤を仕込む。この際使用できるトラップ剤としては、フッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが好ましい。また、アルキルアミノ化合物を反応させる場合の反応温度は、20〜200℃、好ましくは30〜150℃であり、アリールアミノ化合物を反応させる場合の反応温度は、80〜250℃、好ましくは100〜200℃の範囲である。また、アルキルアミノ化合物を反応させる場合の反応時間は、1〜20時間、好ましくは2〜10時間であり、アリールアミノ化合物を反応させる場合の反応時間は、1〜30時間、好ましくは5〜15時間の範囲である。上記範囲に反応温度と時間を制御することによって、置換するアミンの量を制御することが可能であり、通常は、アミンの量を多くするあるいは反応温度を高くして反応条件を厳しくすることによって、アミンの置換数を増やすことが可能である。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニン化合物の置換反応による合成方法に従って、無機分をろ過し、アミノ化合物を留去(洗浄)することにより、目的とする本発明のフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
【0070】
本発明において、ピリジノール誘導体は、ピリジノール、ピリジノール環の水酸基を持たない4つの残位の少なくともいずれかの位置に置換基を有するピリジノール置換体、およびこれらの塩を包含する。ここで、ピリジノールにおける水酸基のピリジン環への結合位は、特に制限されず、2,3,4位いずれでもよいが、3位(3−ピリジノール)および4位(4−ピリジノール)が好ましく、4位が特に好ましい。また、ピリジノール誘導体がピリジノール環の残位の少なくともいずれかの位置に置換基を有する場合の、置換基としては、特に制限されないが、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、フェニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、ピペリジル基、ピペリジノメチル基、モルホリノ基、モルホリノメチル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、などが挙げられる。上記置換基のうち、ヒドロキシアルキル基以外の置換基については、上記したのと同様の置換基が使用できる。また、ヒドロキシアルキル基としては、特に制限されないが、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシ−n−プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシ−n−ブチル基などが挙げられ、これらのうち、ヒドロキシメチル基およびヒドロキシエチル基が好ましい。この場合、これらの置換基のピリジノール環への結合位は、特に制限されないが、例えば、4−ピリジノールの場合には、2位、6位が好ましい。また、ピリジノールやピリジノール置換体が塩の形態を有する場合には、ピリジノール環の窒素原子が塩の形態を有し、具体的には、ピリジノール環の窒素原子が、炭素原子数1〜8個のアルキル基と、塩を形成する(プラスに帯電する)ことが好ましい。この際、ピリジノール環の窒素原子は、メチル基、エチル基と塩を形成することがより好ましい。これらのピリジノール誘導体のうち、ピリジノール、より好ましくは4−ピリジノール、2−メチルピリジノール、特に2−メチル−4−ピリジノールが好ましく、4−ピリジノールが最も好ましい。
【0071】
イミダゾール誘導体は、イミダゾール、イミダゾール環の2,4,5位の少なくともいずれかの位置に置換基を有するイミダゾール置換体、およびこれらの塩を包含する。イミダゾール誘導体がイミダゾール環の2,4,5位の少なくともいずれかの位置に置換基を有する場合の、置換基としては、特に制限されないが、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、フェニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、ピペリジル基、ピペリジノメチル基、モルホリノ基、モルホリノメチル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。上記置換基は、上記ピリジノール誘導体での定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。上記置換基のうち、アルキル基、特にメチル基、エチル基が好ましい。この場合、これらの置換基のイミダゾール環への結合位は、特に制限されないが、例えば、2位、4位が好ましく、2位がより好ましい。また、イミダゾールやイミダゾール置換体が塩の形態を有する場合には、イミダゾール環の3位の窒素原子が、炭素原子数1〜8個のアルキル基、と、塩を形成(プラスに帯電する)ことが好ましい。この際、ピリジノール環の窒素原子は、メチル基、エチル基と塩を形成することがより好ましい。これらのイミダゾール誘導体のうち、イミダゾール、2−メチルイミダゾールが好ましく、特にイミダゾールが好ましい。
【0072】
ピラゾール誘導体は、ピラゾール、ピラゾール環の3,4,5位の少なくともいずれかの位置に置換基を有するピラゾール置換体、およびこれらの塩を包含する。ピラゾール誘導体がピラゾール環の3,4,5位の少なくともいずれかの位置に置換基を有する場合の、置換基としては、特に制限されないが、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルコキシル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、フェニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジメチルアミノ基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、ピペリジル基、ピペリジノメチル基、モルホリノ基、モルホリノメチル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、などが挙げられる。上記置換基は、上記ピリジノール誘導体での定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。上記置換基のうち、アルキル基、特にメチル基、エチル基が好ましい。この場合、これらの置換基のピラゾール環への結合位は、特に制限されないが、例えば、4位、5位が好ましく、4位がより好ましい。また、ピラゾールやピラゾール置換体が塩の形態を有する場合には、ピラゾール環の2位の窒素原子が、炭素原子数1〜8個のアルキル基と、塩を形成(プラスに帯電する)ことが好ましい。この際、ピラゾール環の窒素原子は、メチル基、エチル基と塩を形成することが好ましい。これらのピラゾール誘導体のうち、ピラゾール、4−メチルピラゾールが好ましく、特にピラゾールが好ましい。
【0073】
本発明において、ピリジノール誘導体、イミダゾール誘導体及びピラゾール誘導体のいずれを、フタロシアニン化合物(1)と反応させてもよく、これらは、それぞれ、単独でもしくは2種以上の混合物でフタロシアニン化合物(1)と反応させてもよく、または各誘導体の1種以上を組合わせてフタロシアニン化合物(1)と反応させてもよい。好ましくは、ピリジノール誘導体および/またはイミダゾール誘導体を、フタロシアニン化合物(1)と反応させることが好ましい。
【0074】
本発明において、フタロシアニン化合物(1)と上記誘導体との反応混合比は、フタロシアニン化合物(1)中のハロゲン原子が効率よく上記誘導体と置換する割合であれば特に制限されず、化学量論的には、フタロシアニン化合物(1)中、1個のハロゲン原子に対して、1分子の誘導体であれば、フタロシアニン化合物(1)中のハロゲン原子の位置に上記誘導体由来の基が1個導入される。最終生産物であるフタロシアニン化合物の混合形態と考慮すると、上記誘導体は、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.25×n〜1×n分子の割合で、フタロシアニン化合物(1)と反応させることが好ましく、より好ましくは、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.5〜1.0分子、最も好ましくは0.8〜1.0分子である。この際、「上記誘導体は、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.25×n〜1×n分子の割合で、フタロシアニン化合物(1)と反応させる」とは、フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子が0.25×n〜1×n個の上記誘導体と反応することを意味する。このような混合比であれば、フタロシアニン化合物(1)のハロゲン原子の位置に上記誘導体由来の基が様々な個数で導入され、一回の製造工程によって異なる最大吸収波長を示すフタロシアニン化合物が同時に混合物の形態で製造できる。
【0075】
上記フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゾニトリル、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、スルホラン、キノリン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(2−メトキシメトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、フェネトール、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、好ましくは、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(2−メトキシメトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、ジオキサン、アニソール、フェネトール、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびベンゾニトリルが使用でき、より好ましくは、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジオキサン、アニソール、メチルイソブチルケトン、ベンゾニトリルが使用でき、最も好ましくは、2−メトキシエタノール、アニソール、およびベンゾニトリルが使用される。
【0076】
また、フタロシアニン化合物(1)と上記誘導体との反応は、塩基の存在下で行われることが好ましい。これにより、フタロシアニン化合物(1)中のハロゲン原子の位置に上記誘導体由来の基が効率よく導入でき、その結果、得られるフタロシアニン化合物の親水性溶媒及び水に対する溶解性を向上できるからである。
【0077】
フタロシアニン化合物(1)と上記誘導体との反応を塩基の存在下で行なう場合に使用される塩基は、フタロシアニン化合物(1)中のハロゲン原子の位置に上記誘導体由来の基が効率よく導入できるものであれば特に制限されないが、例えば、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化セシウム(CsF)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸セシウム(CsCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、塩化マグネシウム(MgCl)、炭酸マグネシウム(MgCO)、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、ジエチル−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−n−プロピルピペリジン、N,N−ジメチルピペリジン、1,8−Diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene、1,4−Diazabicyclo[2.2.2]octane、1,5−Diazabicyclo[4.3.0]non−5−ene、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(benzyltrimethylammonium chloride)、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(benzyltrimethylammonium hydroxide)などが好ましく挙げられる。これらのうち、フッ化カリウム(KF)、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジンがより好ましく、フッ化カリウム(KF)、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、N−メチルピペリジンが特に好ましい。上記塩基は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上を混合物の形態で使用してもよい。後者の場合の塩基の組合わせとしては、フタロシアニン化合物(1)中のハロゲン原子の位置に上記誘導体由来の基が効率よく導入できるものであれば特に制限されない。具体的には、炭酸塩及びN−アルキルピペリジンとの組み合わせが好ましく、より好ましくは炭酸カルシウム及びN−メチルピペリジンとの組み合わせならびに炭酸カリウム及びN−エチルピペリジンとの組み合わせなどであり、炭酸カルシウム及びN−メチルピペリジンの組み合わせが特に好ましい。また、塩基を2種以上を混合物の形態で使用する場合には、各塩基を同一の溶媒に溶解/分散/懸濁(好ましくは溶解)してもあるいは異なる溶媒に溶解/分散/懸濁(好ましくは溶解)して、フタロシアニン化合物(1)と上記誘導体との反応に供してもよい。さらに、上記反応における塩基の使用量は、フタロシアニン化合物(1)と上記誘導体との反応を効率よく進行できる量であれば特に制限されないが、誘導体1モルに対して、好ましくは0.5〜5.0モル、より好ましくは1.0〜3.0モルである。このような量であれば、得られるフタロシアニン化合物の親水性/水溶性の向上効果が最も高くなる。なお、上記塩基の使用量は、2種以上の塩基を組合わせて使用する場合には、塩基の合計使用量を意味する。
【0078】
したがって、本発明では、上記式(1)中、Z1〜Z16の少なくとも12個がフッ素原子または塩素原子、特にフッ素原子を表わすフタロシアニン化合物(1)を、上記誘導体と、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.8×n〜1×n分子の割合で、反応させる、特にフッ化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、N−メチルピペリジンの存在下で反応させることが好ましい。
【0079】
本発明において、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応条件は、これらの反応が十分進行できる条件であれば特に制限されない。好ましくは、フタロシアニン化合物(1)を、誘導体と、40〜240℃、より好ましくは60〜200℃の温度で、0.5〜60時間、より好ましくは1〜45時間、反応させることが好ましい。なお、上記反応は、常圧、加圧または減圧条件下のいずれであってもよいが、常圧で行なうことが好ましい。
【0080】
本発明において、特に、フタロシアニン骨格のβ位に誘導体由来の基が導入されかつフタロシアニン骨格のα位にNHR置換基が導入された構造を有するフタロシアニン化合物を得ようとする場合には、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応後に、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応物をさらにアミン化合物と反応させてもよい。一般的に、フタロシアニン骨格のα位は、β位に比して、置換基を導入することが難しく、また、アミン化合物は、反応性が高いので、アミン化合物由来のNHR置換基は容易にフタロシアニン骨格に導入されやすい。このため、フタロシアニン化合物(1)と誘導体とを反応させて、当該誘導体由来の置換基を予めβ位に導入した後であっても、アミン化合物と反応させると、当該アミン化合物由来のNHR置換基はフタロシアニン骨格のα位に効率よく導入することができる。なお、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応物と、アミン化合物との反応条件は、上記フタロシアニン化合物(1)の製造において記載したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0081】
また、本発明では、下記に詳述されるように、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応後、さらに4級化反応を行なう実施形態も本発明に包含される。この場合において、上記アミン化合物との反応及び4級化反応は、いずれか一方を行なってもあるいは双方の反応を行なってもよい。後者の場合における、アミン化合物との反応及び4級化反応の順番は特に限定されず、いずれの順番であってもよいが、アミン化合物との反応を行なった後、4級化反応を行なうことが好ましい。
【0082】
本発明において、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応後、さらに4級化反応を行なってもよい。このような4級化反応によって、得られたフタロシアニン化合物の水溶性を向上することができる。上記効果は特にイミダゾール誘導体を使用する場合に達成される。上記4級化反応の機構は明らかではないが、例えば、イミダゾールを使用した場合の4級化反応の機構を以下に説明する。しかしながら、下記説明によって本発明が限定されるものではない。すなわち、フタロシアニン化合物(1)とイミダゾールを反応させた後、例えば、ヨウ化メチルを用いて4級化反応を行なうと、下記反応式に示されるように、イミダゾール環の3位の窒素原子がメチル基と結合して、塩の形態をとると考えられる。
【0083】
【化8】

【0084】
フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応後、さらに4級化反応を行なう際には、当該4級化反応は、得られるフタロシアニン化合物の塩の構造によって適宜選択されるが、例えば、上記ヨウ化メチルに加えて、塩化メチル、塩化エチル、塩化n−プロピル、塩化n−ブチル、塩化n−ペンチル、塩化n−ヘキシル、臭化メチル、臭化エチル、臭化n−プロピル、臭化n−ブチル、臭化n−ペンチル、臭化n−ヘキシル、ヨウ化エチル、ヨウ化n−プロピル、ヨウ化n−ブチル、ヨウ化n−ペンチル、ヨウ化n−ヘキシル等の炭素数1〜8のハロゲン化アルキル、ジエチル硫酸、ジメチル硫酸、モノクロロ酢酸などを用いて行なわれる。これらのうち、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ジメチル硫酸が好ましく、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジメチル硫酸がより好ましく、ヨウ化メチルが特に好ましい。この際、当該化合物の添加量は、特に制限されないが、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応によって得られたフタロシアニン化合物中に存在する誘導体1モルに対して、好ましくは1.0〜2.0モル、より好ましくは1.1〜1.5モルである。このような量であれば、フタロシアニン化合物中に存在する誘導体が効率よく4級化される。また、上記4級化反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のアルコール;アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル;アセトンおよび2−ブタノン等の極性溶媒;ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、メタノール、エタノールであり、特に好ましくはメタノールである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応産物の濃度が、通常、2〜40(w/v)%、好ましくは10〜30(w/v)%となるような量である。なお、上記4級化反応に使用される溶媒は、フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応に使用される溶媒と同一であってもあるいは異なるものであってもよいが、前者の場合には、溶媒を変えずに、必要であれば溶媒量を適宜調節するだけで、そのまま反応を連続的に行なうことができるため、好ましい。
【0085】
また、上記4級化反応条件は、このような4級化が十分進行できる条件であれば特に制限されないが、−10〜100℃、より好ましくは10〜60℃の温度で、0.5〜24時間、より好ましくは1〜6時間、4級化反応させることが好ましい。なお、上記4級化反応は、常圧、加圧または減圧条件下のいずれであってもよいが、常圧で行なうことが好ましい。
【0086】
このように、上記フタロシアニン化合物(1)と誘導体との反応により、本発明のフタロシアニン化合物が得られる。当該フタロシアニン化合物は、優れた親水性/水溶性を発揮するため、メタノールやエタノール等の低級アルコール若しくはこれらの水溶液などの親水性溶媒、さらには水に対して良好に溶解でき、また、様々な最大吸収波長を示すため、様々な色調を呈する。したがって、本発明のフタロシアニン化合物は、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどの様々な用途、好ましくはインクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、光記録媒体、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板およびレーザー治療用感光性色素、特にインクジェット用インクに好適に使用できる。
【0087】
ゆえに、本発明の第二は、本発明のフタロシアニン化合物を含むインクジェット用インクに関する。本発明の第二は、本発明のフタロシアニン化合物を使用することに特徴があり、その他の成分、例えば、他の顔料、分散剤などは公知の同様のものが使用でき、例えば、特開平08−337,745号公報、特開2004−285,262号公報などに記載される成分が使用できる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を、実施例を参照しながら、より詳細に説明する。
【0089】
合成例1:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの合成
100mlの四つ口フラスコにテトラフルオロフタロニトリル 29.11g(145.45mmol)、ヨウ化亜鉛 12.77g(40mmol)及びベンゾニトリル 70mLを一括で投入し、165℃にて4時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール700mL、水210mLを加え固形分を析出させた。この固形分を濾取し、60℃にて減圧乾燥したところ、31.09gのヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンを反応産物として得た。
【0090】
合成例2:ヘキサデカフルオロバナジルフタロシアニンの合成
100mlの四つ口フラスコにテトラフルオロフタロニトリル 29.11g(145.45mmol)、塩化バナジウム 6.29g(40mmol)、オクタノール 5.2g(40mmol)及びベンゾニトリル 150mLを一括で投入し、185℃にて9時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した。精製工程についてはヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの合成に用いたものと同様の操作を行ったところ、29.20gのヘキサデカフルオロバナジルフタロシアニンを反応産物として得た。
合成例3:ヘキサデカフルオロ銅フタロシアニンの合成
ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの合成例1において、ヨウ化亜鉛の代わりに塩化銅を用いること以外は、同様の操作を行い、22.16gのヘキサデカフルオロ銅フタロシアニンを目的物として得た。
【0091】
実施例1:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールの反応(塩基:KF)
100mlの三つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 1.73g(2mmol)、4−ピリジノール 3.65g(38.4mmol)、フッ化カリウム(KF) 2.23g(38.4mmol)及び、30mLのベンゾニトリルを一括で投入し、190℃にて3時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、アセトンで洗浄した。次に、この固形物をメタノールに溶解し、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。この固形分を30mLのメタノールに溶解し、塩基性Alカラムに通した後、エバポレーターにてメタノールを留去した。残った固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、2.6gの反応産物が得られた。
【0092】
このようにして得られた反応産物を、下記の条件で液体クロマトグラフィーによって分析し、その結果を図1に示す。図1から明らかなように、上記反応によって得られた反応産物は、複数のフタロシアニン化合物を含んでいることが分かる。
【0093】
<液体クロマトグラフィー条件>
カラム: Inertsil ODS2(GL Science Inc.)
溶離液: アセトニトリル20%+0.1%リン酸水溶液80%
検出波長:750nm
また、上記反応産物を、分光光度計(島津製作所製:UV1650PC)を用いて水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)を測定したところ、それぞれ、789nmおよび810nmであった。
【0094】
さらに、上記反応産物の水およびメタノールにおける溶解度を測定した(測定温度:25℃)結果、水およびメタノールにおける溶解度は、双方とも30質量%を超えた。
【0095】
実施例2:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールの反応(塩基:なし)
100mlの三つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 0.43g(0.5mmol)、4−ピリジノール 0.97g(9.6mmol)及び、7.5mLのベンゾニトリル中を一括で投入し、190℃にて3時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、アセトンで洗浄した。次に、この固形物をメタノールに溶解し、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた(2回行った)。残った固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、1.0gの反応産物が得られた。
【0096】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0097】
実施例3:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールの反応(塩基:KCO
100mlの三つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 0.43g(0.5mmol)、4−ピリジノール 0.97g(9.6mmol)、炭酸カリウム 1.33g(38.4mmol)及び、30mLのベンゾニトリルを一括で投入し、190℃にて5時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物をメタノールに溶解させ、不溶分を濾過した。ろ液を濃縮し、固形分を得た。得られた固形物をメタノールに溶解し、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。この固形分を10mLのメタノールに溶解し、塩基性Alカラムに通した後、エバポレーターにてメタノールを留去した。残った固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、0.26gの反応産物が得られた。
【0098】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0099】
実施例4:ヘキサデカフルオロバナジルフタロシアニンと4−ピリジノールの反応(塩基:KF)
実施例1において、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの代わりに合成例2で製造されたヘキサデカフルオロバナジルフタロシアニンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、1.30gの反応産物が得られた。
【0100】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0101】
実施例5:ヘキサデカフルオロフルオロ銅フタロシアニンと4−ピリジノールの反応(塩基:KF)
実施例1において、ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの代わりに合成例3で製造されたヘキサデカフルオロ銅フタロシアニンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.92gの反応産物を得られた。
【0102】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0103】
実施例6:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンとイミダゾールの反応(塩基:KF)
100mlの三つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 0.87g(1mmol)、イミダゾール 1.20g(17.6mmol)、フッ化カリウム 2.67g(45.9mmol)及び、10mLのベンゾニトリルを一括で投入し、190℃にて2時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、アセトン、酢酸エチル、を順に加え、析出した固形分を濾別した。次に、この固形物をイソプロピルアルコールに溶かし、酢酸エチルを加えることによって、固形分を再度析出させた。濾別した固形分を15mLのメタノールに溶解し、塩基性Alカラムに通した後、エバポレーターにてメタノールを留去した。残った固形分を室温にて減圧乾燥したところ、1.47gの反応産物が得られた。
【0104】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0105】
合成例4:4−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)−3,5,6−トリフルオロフタロニトリルの合成
25mlの三つ口フラスコにテトラフルオロフタロニトリル 15.01g(75mmol)、フッ化カリウム 2.4g(41.3mmol)及びアセトニトリル 50mLを投入し、0℃にて攪拌した。この中へ、3−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル 5.71g(37.5mmol)をアセトニトリル 20mLに溶かしたものを滴下し、その後、2時間、攪拌した。この反応液を濾過し、得られた濾液を濃縮した。得られた濃縮液にメタノールを加え、固形分を析出させた。この固形分を室温にて減圧乾燥したところ、2.18gの反応産物が得られた。
【0106】
合成例5:2,6,10,14−テトラ(3−メトキシカルボニルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの合成
100mlの三つ口フラスコに、合成例4で製造された4−(3−メトキシカルボニルフェノキシ)−3,5,6−トリフルオロフタロニトリル 2.12g(6.4mmol)、ヨウ化亜鉛 0.53g(1.65mmol)及びベンゾニトリル 5mLを投入し、180℃にて2時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール中に投入することで、固形分を析出させた。この固形分をアセトンと水との混合液で洗浄した後、60℃にて減圧乾燥したところ、1.7gの反応産物が得られた。
【0107】
実施例7:2,6,10,14−テトラ(3−メトキシカルボニルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールとの反応(塩基:KF)
100mlの三つ口フラスコに、合成例5で製造された2,6,10,14−テトラ(3−メトキシカルボニルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 0.7g(0.5mmol)、4−ピリジノール 0.68g(7.2mmol)、フッ化カリウム(KF) 0.42g(7.2mmol)及びベンゾニトリル 5mLを一括で投入し、190℃にて10時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、アセトンで洗浄した。次に、この固形物をメタノールに溶解し、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。この固形分を6mLのメタノールに溶解し、塩基性Alカラムに通した後、エバポレーターにてメタノールを留去した。残った固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、1.32gの反応産物が得られた。
【0108】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0109】
実施例8:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールとの反応(塩基:N−メチルピペリジンおよび炭酸カルシウム)
200mlの二つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 4.33g(5mmol)及びアニソール 50mLを一括で投入し、攪拌下、110℃まで昇温した。この中に、4−ピリジノール 9.13g(96mmol)、N−メチルピペリジン 9.52g(96mmol)、炭酸カルシウム 9.61g(96mmol)及び2−メトキシエタノール 100mLを混合した液を滴下し、その後、44時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、得られた濾液を濃縮した。得られた濃縮液をエタノールで希釈した後、アセトンを加えることで、固形分を析出させた。この固形分をメタノールに溶解した後、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。得られた固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、5.51gの反応産物が得られた。
【0110】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0111】
実施例9:ヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールとの反応(塩基:N−メチルピペリジンおよび炭酸カルシウム)
200mlの二つ口フラスコに、合成例1で製造されたヘキサデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 2.16g(2.5mmol)、炭酸カルシウム 4.80g(48mmol)及びメチルイソブチルケトン 25mLを一括で投入し、攪拌下、115℃まで昇温した。この中に、4−ピリジノール 4.56g(48mmol)、N−メチルピペリジン 4.76g(48mmol)及び2−メトキシエタノール 50mLを混合した液を滴下し、その後、40時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、得られた濾液を濃縮した。得られた濃縮液をエタノールで希釈した後、アセトンを加えることで、固形分を析出させた。この固形分をメタノールに溶解した後、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。得られた固形分を水とメタノールとの混合溶媒に溶かした後、炭酸カルシウム存在下で30分間、攪拌した。炭酸カルシウムを濾別し、得られた濾液を濃縮乾固した。得られた固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、2.27gの反応産物が得られた。
【0112】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0113】
合成例6:4−(2,6−ジメチルフェノキシ)−3,5,6−トリフルオロフタロニトリルの合成
25mlの三つ口フラスコにテトラフルオロフタロニトリル 15.01g(75mmol)、フッ化カリウム 2.4g(41.3mmol)及びアセトニトリル 50mLを投入し、0℃にて攪拌した。この中へ、2,6−ジメチルフェノール 4.58g(37.5mmol)をアセトニトリル 20mLに溶かしたものを滴下し、その後、2時間、攪拌した。この反応液を濾過し、得られた濾液を濃縮した。得られた濃縮液にメタノールを加え、固形分を析出させた。この固形分を室温にて減圧乾燥したところ、11.3gの反応産物が得られた。
【0114】
合成例7:2,6,10,14−テトラ(2,6−ジメチルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニンの合成
100mlの三つ口フラスコに、合成例6で製造された4−(2,6−ジメチルフェノキシ)−3,5,6−トリフルオロフタロニトリル 5g(16.5mmol)、ヨウ化亜鉛 0.82g(4.26mmol)及びベンゾニトリル 10mLを投入し、180℃にて2時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、メタノール中に投入することで、固形分を析出させた。この固形分をアセトンと水との混合液で洗浄した後、60℃にて減圧乾燥したところ、4.2gの反応産物が得られた。
【0115】
実施例10:2,6,10,14−テトラ(2,6−ジメチルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニンと4−ピリジノールとの反応(塩基:KF)
100mlの三つ口フラスコに、合成例7で製造された2,6,10,14−テトラ(2,6−ジメチルフェノキシ)−1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16−ドデカフルオロ亜鉛フタロシアニン 1g(0.8mmol)、4−ピリジノール 1.00g(10.6mmol)、フッ化カリウム(KF) 0.62g(10.6mmol)及びベンゾニトリル 5mLを一括で投入し、190℃にて10時間、攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、析出した固形物を濾別し、アセトンで洗浄した。次に、この固形物をメタノールに溶解し、アセトンを加えることによって、固形分を再度析出させた。この固形分を20mLのメタノールに溶解し、塩基性Alカラムに通した後、エバポレーターにてメタノールを留去した。残った固形分を60℃にて減圧乾燥したところ、1.43gの反応産物が得られた。
【0116】
このようにして得られた反応産物について、実施例1と同様にして、水およびメタノール中での最大吸収波長(λmax)、ならびに水およびメタノールにおける溶解度を測定し、その結果を、下記表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
上記表1から、本発明に係るフタロシアニン化合物は、水およびメタノールの少なくとも一方に対して良好な溶解性を示すことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明に係るフタロシアニン化合物(フタロシアニン混合物を含む)は、親水性/水溶性に優れるため、カラートナー、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、光記録媒体、レーザー治療用感光性色素、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤、感熱転写、感熱孔版等の光熱交換剤、感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤、IDカードの偽造防止、プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤、熱線遮蔽剤、ならびに近赤外吸収フィルターなどの様々な用途、特にインクジェット用インクに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施例1で得られた反応産物の液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

式中、Z1〜Z16は、それぞれ独立して、水素原子、SR1、NHR、ORまたはハロゲン原子を表わし、この際、Z1〜Z16の少なくとも2個はハロゲン原子を表わし;R、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;複数のR、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることを有するフタロシアニン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種は、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.25×n〜1×n分子の割合で、前記フタロシアニン化合物(1)と反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フタロシアニン化合物(1)と、前記置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種との反応は、塩基の存在下で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(1)中、Z1〜Z16の少なくとも12個がフッ素原子または塩素原子を表わし、かつ前記置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種を、前記フタロシアニン化合物(1)中に存在するハロゲン原子の数がn個の場合に、0.8×n〜1×n分子の割合で、前記フタロシアニン化合物(1)と反応させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記フタロシアニン化合物(1)と、前記置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種とを反応させた後、さらに4級化反応を行なうことを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
下記式(1):
【化2】

式中、Z1〜Z16は、それぞれ独立して、水素原子、SR1、NHR、ORまたはハロゲン原子を表わし、この際、Z1〜Z16の少なくとも2個はハロゲン原子を表わし;R、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;複数のR、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;Mは、無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(1)を、置換基を有してもよいピリジノール、置換基を有してもよいイミダゾールおよび置換基を有してもよいピラゾールからなる群より選択される少なくとも一種と、反応させることによって製造されるフタロシアニン化合物。
【請求項7】
混合物の形態である、請求項6に記載のフタロシアニン化合物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されるフタロシアニン化合物または請求項6若しくは7に記載のフタロシアニン化合物を含むインクジェット用インク。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106258(P2008−106258A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250015(P2007−250015)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】