説明

フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法および光学部材用の硝材の製造方法。

【課題】 光リソグラフィー装置などに用いられるフッ化金属単結晶(フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムなど)のレーザー耐久性を、比較的短期間で、かつ高精度に評価する。
【解決手段】 ArFレーザー等の実際の使用条件での波長のレーザー光のパルス照射と、該レーザー光照射後の光透過率(T)の測定とを、試料に環境光の当たらない暗環境下で、繰り返して2回以上行い、パルス照射回数(X)と、初期値に比しての光透過率の低下から求めた差分吸光度の200〜800nmの範囲での積分値(Y)とから、Y=aX+bの関係を求める。得られる傾き(a)の大きさからレーザー耐久性を評価する。暗環境下で行うことにより精度が格段に向上する。なお傾きの小さなものほどレーザー耐久性に優れたフッ化金属単結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置の光学系に用いるレンズ、窓材、プリズムなどの真空紫外光を透過させて使用するフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価する方法および、これら光学部材用の硝材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高強度紫外線レーザー用途の光学材料への要求が高まっている。これまでは半導体集積回路の大容量化、高性能化に伴い、露光装置に用いる光源の短波長化が要求されてきた。その結果、現在はArFエキシマレーザー(波長193nm)が露光光源の主流になっている。さらなる短波長化のため次世代の露光技術としてEUV露光技術の検討が続けられているが未だ完成には至っておらず、今のところは液浸露光技術やダブルパターニングなどに代表される高解像度化技術が多く開発され、193nm露光が延命されている。これらの高解像度化技術には露光光源の高出力化が必要なものもあり、当然、露光光源の窓や露光装置の光学系には高強度の紫外線レーザーが照射される。そのため、それらに使用する光学材料には、さらなる高レーザー耐性化が要求されている。
【0003】
これらの光学材料には、高強度紫外線レーザーの長期間の照射に対して透過率などの光学特性が変化(低下)しない優れた耐久性が要求される。しかしながら、現状の光学材料には十分なレーザー耐久性を持った高品質のものから、目的の紫外線レーザー照射に耐えられない低品質のものまで様々である。
【0004】
そのため、従来からこのような用途に使用する光学材料に対しては、実際に紫外線レーザーを照射するなど、その耐久性を検査した上で、使用の可否を判断している。例えば、露光光源の窓や露光装置の光学系に用いられる光学材料に対しては、実際の使用環境と近い条件で長期間の紫外線レーザー照射を行い、その照射前後の透過率変化を測定するなどの検査が行われてきた。
【0005】
しかしながら、上記のような長期間の紫外線レーザー照射は費やされる時間も膨大である。紫外線レーザー光源は非常に高額であるうえに、維持費や検査に掛かるコストも高額であるため、極めて高コストな検査方法となってしまう。
【0006】
また例えば特許文献1には、実際の使用状態に比して20倍程度エネルギー密度の高いレーザー光を照射することにより長期のレーザー耐久性を予測する方法が開示されている。しかしながら近年、実装されるレーザー光源の強度は特許文献1の時点に比して格段に高強度化されてきており、実機の20倍ものエネルギー密度を有するレーザー光源ともなれば装置コスト等が著しく増大する。
【0007】
一方、それらの課題を解決するため、エックス線やガンマ線などのエネルギー密度の高い光源を照射して光学材料の劣化を加速して評価する技術や、短期間のレーザー照射前後の吸光度の変化を評価する技術など、短時間且つ安価で簡単にレーザー耐久性を評価可能にする技術が多数開発されてきた。例えば、下記特許文献2に記載の技術がある。同文献2によれば、この技術は波長250nm以下のレーザー照射に対する光学材料のレーザー耐久性を評価する方法であって、光学材料にエックス線など高エネルギー密度の光源を照射することで形成可能なカラーセンターを全て形成し、その照射前後の紫外及び可視スペクトル域の吸収スペクトルの変化を評価している。また、光学材料に波長250nm以下のレーザー照射を行い、照射前後の特定波長における吸光度の変化を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−281001号公報
【特許文献2】特開2006−337364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さらなる高レーザー耐久性を求められる光学材料には、それだけ高精度な評価が必要である。しかしながら本発明者等の検討によれば、照射光源にエックス線又はガンマ線を用いる評価方法では、光学材料を実際に使用する場合に照射する波長と異なる波長の光源を照射するため、光学材料を劣化させる挙動が実際とは異なると考えられ、レーザー耐久性を予測する上で十分ではない。また、短期間のレーザー照射による照射前後の吸収スペクトルの変化で評価できるのは、光学材料の劣化挙動のごく初期的な過程であり、その劣化挙動だけでは長期的なレーザー耐久性を予測するのに情報が不十分である。
【0010】
したがって、本発明は、フッ化金属単結晶のレーザー耐久性を比較的短期間で高精度に評価する方法を提供することを目的とする。さらに、提供する評価方法を用いて評価したフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、光学材料に対して紫外線レーザーを照射中、適当なパルス照射数毎に光透過率を測定すると、パルス照射数の増加に応じて光透過率も変化することから、レーザー照射中の吸光度の増加(色中心の形成)の程度に着目した。そして紫外線レーザー照射により吸光度が増加する傾向は光学材料の品質によって異なり、高品質な光学材料ほど小さく、低品質な光学材料ほど大きいことから、吸光度の増加の傾向は光学材料のレーザー耐久性と密接な関係にあることを見いだした。さらに該吸光度はパルス照射数に対して直線的に増加する傾向にあることがわかった。また、高品質な光学材料ほど吸光度の増加は少ないため、高精度の光透過率測定が必要となる。そこで、測定中に外乱によって光透過率が変化することを防ぐため、測定開始から終了までは、大気中の水分や塵、油分の他、レーザー照射や光透過率測定以外の光など、光透過率の測定を乱す可能性がある要因との接触を遮断できる環境を用意する必要があることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は波長Nnmの真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法であって、
まず試験片の200〜800nmの波長範囲の初期光透過率を測定し、続いて、
・試験片に対し波長Nnmのエキシマレーザーをパルス照射するレーザー照射工程、
・試験片のエキシマレーザーが照射された部位の200〜800nmの波長範囲の光透過率を測定する光透過率測定工程、
の二つの工程を交互に、二回以上繰り返して行い、
初期光透過率と、各々の光透過率測定工程で測定された光透過率とから差分吸光度を算出し、該差分吸光度の200〜800nmの波長範囲での積分値を求め、
各光透過率測定工程時点での該積分値をY、通算のパルス照射数をXとしてY=aX+bの関係を算出し、
該a値の大きさからフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価する方法であり、かつ、
最初のレーザー照射工程開始後、最後の光透過率測定工程完了までは、試験片に対して、レーザー照射工程時及び光透過率測定工程時以外のときには800nm以下の波長の光が当たらない環境下で行うことを特徴とする前記フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法である。
【0013】
また他の発明は、波長Nnmの真空紫外光が、ArFレーザー光である請求項1記載のレーザー耐久性の評価方法である。
【0014】
さらに本発明では、上記レーザー耐久性の評価方法を組み込んだ、200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法も提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の評価方法によれば、所定のパルス照射数毎に光透過率を測定し、初期光透過率との各差分吸光度を求めることで、各パルス照射数に対する該差分吸光度の大きさから、吸光度の増加傾向がわかる。該増加傾向は光学材料によって固有であり、光学材料のレーザー耐久性を表している。よって一連の光透過率の測定を高精度に行い、吸光度の増加傾向を求めることで、高精度にフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価することが可能となる。また、本発明は短時間且つ安価で簡単な評価方法でもあり、フッ化金属単結晶の評価技術として極めて有用である。
【0016】
さらに、フッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材の製造工程に本発明である評価方法を用いることで、信頼性の高い硝材を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の評価方法により算出した5回分の差分吸光度積分値とパルス照射数の関係をプロットしたグラフである。
【図2】本発明の評価方法により評価したフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と長期レーザー耐久性の評価結果の相関関係を示すグラフである。
【図3】本発明の評価方法においてレーザー照射工程時及び光透過率測定工程時以外にも800nm以下の波長の光で暴露し、さらに大気中で光透過率を測定した場合のフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と長期レーザー耐久性の評価結果の相関関係を示すグラフである。
【図4】本発明の評価方法においてレーザー照射工程と光透過率測定工程を1回ずつしか行わなかった場合のフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性の評価結果と長期レーザー耐久性の評価結果の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶の評価方法である。当該フッ化金属としては真空紫外光透過材料用として使用可能な光透過性を有するフッ化金属であれば特に制限されず、具体的には、例えばフッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム等のアルカリ土類金属のフッ化物、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどのアルカリ金属のフッ化物、フッ化アルミニウム、或いはフッ化バリウムリチウム、フッ化リチウムカリウムアルミニウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化マグネシウムカリウム等の2種類以上の金属元素を含むフッ化金属等が挙げられる。
【0019】
本発明において真空紫外光透過材料用とは、波長が200nm以下の光を透過させる材料を指し、代表的にはArFエキシマレーザーやFエキシマレーザーを光源に用いる半導体露光装置の光学系や光源の窓などの光学部材が挙げられる。なお無論、200nm以下の所望の波長の光を透過させればよく、200nm以下の全ての波長域の光を透過させる必要はない。例えば上記フッ化金属のうち、フッ化カルシウムは吸収端が120〜130nm程度にあり、これ以下の波長の光は透過させないが、ArFエキシマレーザー(193nm)やFエキシマレーザー(157nm)を透過させる材料としては十分である。このような光学部材として具体的には、レンズ、回折格子、光学膜体及びそれらの複合体、例えばレンズ、レンズアレイ、レンチキュラーレンズ、非球面レンズなどが挙げられる。
【0020】
また真空紫外光の光源としては上記したエキシマレーザー以外にも、Xeランプ、Krランプ等も実用化されており、これらのランプの窓材などの評価に用いることもできる。
【0021】
このような真空紫外光を透過させる光学部材として、本発明の方法で評価、製造されたレーザー耐久性が高いフッ化金属単結晶からなる硝材を原材料として製造された光学部材を用いることで、半導体露光装置は所望のスループットを長時間維持することができる。
【0022】
以下、上述のような真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法を詳しく説明する。
【0023】
評価に用いるサンプルは、厚い(光透過率測定方向に長い)程にSN比が高まる。しかしながら、サンプルが厚過ぎると加工が難しく直角度や平行度、表面荒さの精度が悪くなり、SN比を低下させることになり得る。よって加工精度との兼ね合いの点から、サンプルの厚みは1〜20cm程度が好ましく、より好ましくは3〜10cm程度である。
【0024】
サンプルの光源照射方向にあたる面は、高精度の研磨を施すことが好ましく、表面粗さRqがRMS値で1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましい。
【0025】
このような評価用サンプルを用い、先ずフッ化金属単結晶の初期光透過率を測定する。該光透過率の測定には190〜800nmの波長範囲で測定可能な、一般的な紫外可視分光光度計を用いればよい。
【0026】
測定の手順は、紫外可視分光光度計に評価用サンプルをセットし、紫外線又は真空紫外線の照射前の光透過率(初期光透過率)を波長(λ1)から波長(λ2)に亘って測定する。このとき測定する波長範囲は、少なくとも200〜800nmの波長範囲で測定する必要がある。後述するレーザー照射によりフッ化金属単結晶に形成される色中心はその裾部まで含めても殆どが800nm以下であるし、さらに長波長側の色中心が生じるとしても熱的な影響を受けやすいため測定しても重要な意味を有さない。一方、200nm未満、特に190nm未満の波長の透過率を測定するためには特殊な分光光度計が必要となるが、むろん該波長域より短波長側および長波長側のスペクトルを同時に測定してもなんら問題はない。なお、以降の工程にある全ての光透過率測定は、初期光透過率測定を行なった箇所と同じ箇所で行なう。
【0027】
続いて、レーザー照射工程として、サンプルに当該フッ化金属が実際に使用される際の使用波長Nnmのエキシマレーザーをパルス照射する。該波長Nnmは目的に応じ適宜選択されるものであるが、実際の露光装置の光源として汎用されているArFエキシマレーザー(193nm)に対して本発明を適用することが好ましい。また、レーザー照射は、初期光透過率測定を行なった箇所に対して行なう。照射強度およびパルス照射数は、対象とするフッ化金属単結晶が色中心を形成するのに十分であれば特に限定されるものではないが、照射強度は、実際の露光装置に搭載されたときに照射されると考えられるエネルギーを設定すればよい。フッ化カルシウム単結晶であれば10mJ/cm〜100mJ/cm程度が好ましい。レーザー照射工程一回当たりのパルス照射数については10〜10程度が好ましい。より好ましくは10〜5×10程度である。
【0028】
次に光透過率測定工程として、レーザー照射工程でレーザー照射した箇所の光透過率を再度200〜800nmの波長範囲で測定する。
【0029】
これら、レーザー照射工程と光透過率測定工程の二つの工程を交互に、二回以上繰り返して行う。二つの工程を繰り返す回数は特に限定されず、レーザーの照射強度やパルス照射数に応じて調整すれば良い。例えば照射強度が低く、一回のパルス照射数が少ない場合は、光透過率の変化も少ないので、繰返し回数を増やせば良い。あるいは、特に問題がなければ一回のパルス照射数を多くするのも良い。フッ化カルシウム単結晶であれば3〜20回程度が好ましい。より好ましくは5〜10回程度である。
【0030】
本発明はその性質上、複数回に亘って交互にレーザー照射と光透過率測定を行なうため、何回もサンプルの移動を繰り返す。そのため、レーザー照射箇所および光透過率測定箇所への移動を繰返し正確に行なうことが重要である。よってサンプルの移動には、マイクロステージやステージコントローラーを用いる自動ステージなどの、移動距離を正確に操作できる位置決め精度の高い手段を用いることが好ましい。繰返しの位置決め精度としては0.1mm以下の精度が好ましい、より好ましくは0.01mm以下の精度である。
【0031】
また、本発明は複数回の光透過率測定の結果から最終的な結果を得てレーザー耐久性を評価している。そのため、仮に測定中何らかの外乱により光学材料の光透過率が変化すると、その変化は最後まで引き継がれるため、変化後の全ての光透過率測定に影響を与えることになる。つまり一つの外乱が測定全体に対して大きな影響を持つため、各回の光透過率測定の精度が非常に重要である。
【0032】
測定中に光透過率を変化させる外乱としては、雰囲気中の水分や塵、油分などの付着によるサンプルの表面汚染が考えられる。よってサンプルの表面汚染を防ぐためには水分や塵、油分などが存在しない清浄な雰囲気下での光透過率測定を行なうことが好ましい。また測定域が真空紫外光領域であるため、酸素が存在すると該酸素による吸収が生じてしまう。よって、より好ましくは露点が−70℃以下の窒素又はアルゴン雰囲気中で光透過率測定を行なうことである。露点が−70℃以下の窒素又はアルゴン雰囲気中での光透過率測定の場合、雰囲気中の水分による真空紫外域の光の減衰がないため真空紫外域の光透過率を高精度に測定できる効果も期待できる。
【0033】
本発明においては、上記レーザー照射工程と光透過率測定工程の二つの工程を交互に、二回以上繰り返して行うが、本発明の最大の特徴は、最初のレーザー照射工程開始後、最後の光透過率測定工程完了までは、試験片に対して、レーザー照射工程時及び光透過率測定工程時以外のときには800nm以下の波長の光が当たらない環境下で行う点にある。むろんこの場合、レーザー照射工程時及び光透過率測定工程時に試験片に当たる光とは、各々の照射/測定のための光であり、これら工程時、特に光透過率測定工程時に測定光以外の環境光等が当たる状態で測定を行うべきではない。
【0034】
真空紫外光領域にあるレーザー光照射によって生じる色中心のなかには、太陽光や蛍光灯に含まれる紫外線のみならず、可視光線によっても変化(退色)するものが存在する場合がある。従って、従来から行われていたようなレーザー光照射試験を行った後、光透過率を測定するための分光光度計へと、装置間で試験片を移動する方法では、移動させる間の環境光への暴露による光透過率の変化が生じ、誤差を生じる要因となっていたものと考えられる。よって本発明においては、測定(レーザー照射含む)に必要な光を除き、800nmより短波長の光に暴露させないものである。より好ましくは900nm以下、特に好ましくは1100nm以下の光に暴露させない。
【0035】
前述した工程を二回以上繰り返して行った後、又は各光透過率測定工程毎に、各回の光透過率測定工程で測定された光透過率と初期光透過率から差分吸光度を算出する。算出手順としては、各々をそれぞれ吸光度に換算し、そこから差分を算出すれば良い。
【0036】
本発明においては、このようにして算出した該差分吸光度の200〜800nmの波長範囲での積分値をそれぞれ求める。求めた各回の該積分値をY、通算のパルス照射数をXとしてグラフをプロットすると、ある切片と傾きを持った一次関数が得られる。こうして得られたY=aX+bの関係のうち、該a値の大きさからフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価する。なお各YとXとから傾きaと切片bとを求めるには最小自乗法によればよい。
【0037】
そしてこのa値と別途測定した実際のレーザー耐久性との関係を求めておけば、a値からレーザー耐久性を予測することが可能となる。また、異なるサンプル間で対比すれば、両者の相対的なレーザー耐久性の比較も可能である。
【0038】
前記a値と別途測定した実際のレーザー耐久性との関係を求めておいて、a値からレーザー耐久性を予測する方法について、より具体的にArFレーザー耐久性を例に挙げて述べる。
【0039】
なおこの長期レーザー耐久性の評価方法は破壊検査の一種であり、また本発明の評価方法も破壊検査である。よって一つの評価用サンプルで双方の試験を行うことは実質的にできない。そのため特に問題がない限り、両評価試験のサンプルはインゴットの互いに極めて近い位置から取得して行うべきである。
【0040】
長期レーザー耐久性評価用のサンプルは、本評価方法と同様にレーザーを照射光源とするため、サンプルの厚さやレーザー照射表面に関する好ましい条件も本評価方法と同様である。
【0041】
評価に使用するレーザーは波長193nmのArFエキシマレーザーである。これを照射エネルギー密度1〜20mJ/cm、周波数500〜2000Hz、パルス数10〜10でサンプルに照射する。そしてレーザー照射前後の波長193nmの透過率を、紫外可視分光光度計で測定し、波長193nmにおける透過率変化量△Tを算出する。
【0042】
ここで、上記のような照射条件の決定には、フッ化カルシウム単結晶が、ArFエキシマレーザーを露光光源とする半導体露光装置の光学系や露光光源の窓などに使用されることが考慮されている。つまり、評価に使用するレーザー光源及びその照射条件は、評価する光学材料を実際に使用する光源とその使用目的、使用条件に応じて選択することが重要である。換言すれば、光学材料の使用目的等に応じて、上記条件は変更する必要がある。
【0043】
上記のようにして得られた(ArF)レーザー耐久性△Tと、前記本発明の方法で得られる評価結果a値とを比較し、事前に相関関係を明らかにしておくことにより、以降は本発明の方法によりa値を求めるだけで長期間の紫外線レーザーを照射した場合の長期レーザー耐久性を予測することが可能になる。
【0044】
長期レーザー耐久性は、上記のとおり10〜10パルスもの照射を要するため1日〜数ヶ月も時間を要する試験であるが、本発明の評価方法を用いれば、長くても半日程度で評価結果が得られる。
【0045】
本発明の評価方法は、光学部材の製造工程に組み入れることにより最終的な製品の寿命を予測しやすくなるため、その有用性が高い。一般に、フッ化金属単結晶から成る光学部材は、大まかに分類すると、インゴットを育成し、該インゴットから硝材(ブランク)を得、次いで該硝材から各種光学部材へと加工する各工程から構成される。硝材から光学部材への加工は極めて高度な操作が行われる。また光学部材の種類によって求められる長期レーザー耐久性も異なる。そのため、光学部材とする前の段階、即ち硝材までの段階で本発明の評価方法を適用して長期レーザー耐久性を予測し、その結果に基づいて該硝材から光学部材を得ることが好ましい。
【0046】
従って本発明では、前記本発明の評価方法を工程に含んだ硝材の製造方法をも提供する。これは半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法として利用できる。
【0047】
以下、このような光学部材用の硝材の製造方法を説明する。前述のとおり、本発明の評価方法は破壊検査である。従って、硝材自体を本発明の評価方法で評価することはできない。
【0048】
そのため、フッ化金属単結晶のインゴットから硝材を得る際に、該インゴットから硝材と評価用サンプルとを別に得る必要がある。この際、まずインゴットから複数のブロックを切り出し、各々のブロックから硝材と評価用サンプルを切り出すことにより、各評価用サンプルについてのレーザー耐久性評価結果を、同一のブロックから得た硝材のレーザー耐久性とすることができる(第一の方法)。
【0049】
さらに原料溶融液から結晶を育成する際には、通常、後から結晶化された部分の方が不純物濃度が高くなりやすい。よって、育成の最後に結晶化した側の端部のレーザー耐久性を本発明の方法で評価すれば、インゴットの他の部分のレーザー耐久性は、該端部側と同等若しくはそれ以上のレーザー耐久性を有していると見なすことができる(第二の方法)。
【0050】
本発明の製造方法において、原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成する方法は、特に限定されず、公知の融液凝固法を採用することができる。具体的には、ブリッジマン法、チョクラルスキー法などが挙げられる。
【0051】
第一の方法では、育成して得られたフッ化金属単結晶のインゴットを加工して、複数のフッ化金属単結晶ブロックを得る(B工程)。インゴットを得る方法は特に限定されず公知の方法を採用すればよいが、融液凝固法で製造されたインゴットは円柱状の形状をしている場合が多く、また硝材としても円柱(円盤)状のものが必要とされる場合が多いため、通常は得られたインゴットを輪切りにして複数枚の円盤状のブロックを得ればよい。より具体的には、切断装置によりインゴットのトップ部とテール部を切り離し、さらにボディ部を複数のフッ化金属単結晶ブロックに加工すればよい。
【0052】
次のC工程では上記のようにして得た各フッ化金属単結晶ブロックから各々少なくとも一つの硝材と評価用サンプルを取得する。この際、該評価用サンプルは、同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材の極めて近い位置から取得することが好ましい。また一つのブロックから複数の硝材及び/又は評価用サンプルを取得してもよい。フッ化金属単結晶ブロックから硝材及び評価用サンプルを得る方法も特に限定されず、公知の切断、研削、研磨等の加工方法を適宜採用すれば良い。
【0053】
なおこの工程で得る硝材は、必ずしも硝材としての最終形状を有している必要はなく、下述するD工程、E工程と同時進行で、あるいはE工程であるレーザー耐久性の評価完了後に最終形状まで加工してもよい。
【0054】
次にD工程として上記C工程で得られた各評価用サンプルを、前述した本発明の評価方法により評価する。
【0055】
そして、E工程として、上記D工程で得られた評価結果から該評価用サンプルと同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測する。
【0056】
同じ半導体光露光装置の光学系に用いる光学部材であっても、光源系の部材、照明系の部材あるいは投影系の部材等の違いによって求められるレーザー耐久性のレベルは異なるため、上記評価結果に基づいて所望の用途の光学部材として使用できるか否か、あるいは該硝材をどのような用途向けとすることができるかを判定できる。一般的には、光源系、照明系、投影系の順に、またレーザー光源の出力密度が強いほど高いレーザー耐久性が要求される。
【0057】
以上のような工程を経て製造され、目的とする用途に対して必要なレーザー耐久性を有する(良品)と判断された硝材は、半導体光露光装置の光学系に用いる光学部材用の硝材としても必要なレーザー耐久性を有すると判断できる。
【0058】
前述のとおり、本発明の評価方法は破壊検査である。そのため、硝材を直接評価することはできない。よって上述のようにインゴットから得たブロック単位で硝材と評価用サンプルとを取得する。そのため、該評価用サンプルの評価結果から同じフッ化金属単結晶ブロックから取得した硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測することが可能になっている。
【0059】
また、育成したフッ化金属単結晶のインゴットの最後に結晶化した端部側から評価用サンプルを取得し、該評価用サンプルの評価結果から該インゴットを加工して得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測しても良い。
【0060】
前述のとおり、一般に単結晶は、その育成過程で原料溶融液が濃縮されることで最後に結晶化した部分の方が先に結晶化した部分より不純物を多く含む傾向にある。また、育成が進みインゴットが長くなるほど温度勾配の制御は困難になり原料溶融液の対流が乱れるので、最後に結晶化した部分の結晶性は先に結晶化した部分より乱れる傾向にある。よって育成過程で最後に結晶化した部分は結晶全体の中で最も品質が低い場合が多いことになる。言い換えれば最後に結晶化した部分の品質に問題がなければ、それは先に結晶化した残りの結晶の品質にも問題がないことを示している。
【0061】
さらにこの第二の製造方法によれば一度の評価で結晶全体の品質を評価でき、評価用サンプルの取得数を減らすことで、歩留まり向上や、評価用サンプルの製造・評価などの工程で発生する種々のコストや掛かる時間を抑えることができるため非常に有益である。
【0062】
なお前述したフッ化金属単結晶のブロックから所望の形状を有する硝材を得る操作以外にも、硝材としての最終製品とするまでの間には、必要に応じてアニール(熱処理)を行って歪み等を除去する操作を行ったり、あるいは透過率、複屈折、屈折率均一性、散乱点の有無や個数、脈理等のレーザー耐久性以外の光学物性の計測を行うこともある。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
用いたフッ化カルシウム単結晶はチョクラルスキー法により製造したものを用い、以下の実験では、実際のレーザー耐久性の測定用のサンプルと、本発明の評価方法による測定用サンプルとは、各々同一の育成インゴットのほぼ同じ位置から所得したものの組合せとした。
【0065】
(1)レーザー耐久性の測定
レーザー耐久性の測定用のサンプルのサイズは25mm×25mm×厚さ100mmとした。これらサンプルの紫外レーザーを照射する方向に該当する2面を、表面荒さRqがRMS値で0.5nm以下に光学研磨した。
【0066】
サンプルにArFエキシマレーザーを照射エネルギー密度17.5mJ/cm、周波数1000Hz、パルス数10で照射し、照射前後の透過スペクトルを紫外可視分光光度計を用いて測定し、波長193nmにおける透過率の変化量△Tを算出した。
【0067】
実施例
以下に説明する本発明の評価方法を用いて次の条件にて、5種のフッ化カルシウム単結晶のa値を測定した。
【0068】
評価用サンプルとして25mm×25mm×厚さ25mmのフッ化カルシウム単結晶を準備した。これらサンプルのレーザーを照射する方向に該当する2面を、表面荒さRqがRMS値で0.5nm以下に光学研磨した。
【0069】
まず、紫外可視分光光度計を用いて、サンプルのレーザー照射前の初期光透過率を200〜800nmの波長範囲に亘って測定した。
【0070】
次にレーザー照射工程として、サンプルの前工程で初期光透過率を測定した箇所にレーザー照射を行なった。レーザー照射光源には、波長193nmのArFエキシマレーザーを用いて、照射エネルギー密度100mJ/cm、周波数100Hz、パルス照射数10で照射した。
【0071】
続いて、光透過率測定工程として、サンプルの前工程でレーザー照射を行なった箇所の光透過率を200〜800nmの波長範囲に亘って測定した。
【0072】
上記、レーザー照射工程と光透過率測定工程の二つの工程を交互に、5回繰り返して行なった。なおこれらレーザー照射工程と光透過率測定工程は、環境光が入り込まないチャンバーで覆われた、一体化された装置内で行った。
【0073】
初期光透過率と、5回の光透過率測定工程で測定された光透過率をそれぞれ吸光度に換算し、5回分の差分吸光度を算出した。そうして、算出した該差分吸光度の200〜800nmの波長範囲での積分値をそれぞれ求めた。
【0074】
差分吸光度の積分値をY軸、パルス照射数をX軸として、求めた5回分の該積分値をプロットすると、ある切片と傾きを持った一次関数が得られた。前述のようにして得られたY=aX+bの関係のうち、該a値の大きさからフッ化カルシウム単結晶のレーザー耐久性を評価した。
【0075】
算出した5回分の差分吸光度積分値とパルス照射数の関係をプロットしたものを図1に示す。この図1に示されているように、試験片により傾き(a)、切片(b)は各々異なるが、各試験片の差分吸光度(Y)と、通算のパルス照射数(X)との相関関係は極めて良好であった。
【0076】
また、上記により求めたa値と、前述の方法で測定した△Tとの関係をプロットしたものを図2に示す。この両者は相関が良好であり、本発明の評価方法によれば、従来、極めて長期間を要していた(10パルス)長期レーザー耐久性(透過率低下)の評価が、短期間(5×10パルス)で可能となっていることがわかる。
【0077】
比較例1
レーザー照射工程時及び光透過率測定工程時以外にも800nm以下の波長の光で暴露し、さらに大気中で光透過率を測定した以外は、実施例と同様にしてa値を算出した。より具体的には、レーザー照射工程のための装置と、光透過率測定のための装置を別々の装置とし、レーザー照射工程後、光透過率測定装置まで試験片を移動させる際、30秒前後、環境光(一般的な室内照明用の蛍光灯下)にさらされる条件で評価を行った。
【0078】
この方法により算出したa値と、前述の方法で測定した△Tとの関係をプロットしたものを図3に示す。この図3に示されているように、環境光にさらされてしまった場合には、長期レーザー耐久性との相関が極めて悪い。これは、レーザー照射によって生じた色中心の一部が、短波長の光を含む環境光の影響により退色してしまうためであると考えられる。
【0079】
比較例2
レーザー照射工程と光透過率測定工程を1回ずつしか行わなかった以外は、実施例と同様にして1回分の差分吸光度の積分値を算出した。算出した差分吸光度積分値と、前述の方法で測定した△Tとの関係をプロットしたものを図4に示す。
【0080】
図2と図4とを対比すれば明らかなように、本発明の評価方法の通り、レーザー照射工程と光透過率測定工程とを複数回繰り返してa値を算出することによって、長期レーザー耐久性の予測精度が極めて高いものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長Nnmの真空紫外光透過材料用のフッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法であって、まず試験片の200〜800nmの波長範囲の初期光透過率を測定し、続いて、
・試験片に対し波長Nnmのエキシマレーザーをパルス照射するレーザー照射工程、
・試験片のエキシマレーザーが照射された部位の200〜800nmの波長範囲の光透過率を測定する光透過率測定工程、
の二つの工程を交互に、二回以上繰り返して行い、
初期光透過率と、各々の光透過率測定工程で測定された光透過率とから差分吸光度を算出し、該差分吸光度の200〜800nmの波長範囲での積分値を求め、
各光透過率測定工程時点での該積分値をY、通算のパルス照射数をXとしてY=aX+bの関係を算出し、
該a値の大きさからフッ化金属単結晶のレーザー耐久性を評価する方法であり、かつ、
最初のレーザー照射工程開始後、最後の光透過率測定工程完了までは、試験片に対して、レーザー照射工程時及び光透過率測定工程時以外のときには800nm以下の波長の光が当たらない環境下で行うことを特徴とする前記フッ化金属単結晶のレーザー耐久性の評価方法。
【請求項2】
波長Nnmの真空紫外光が、ArFレーザー光である請求項1記載のレーザー耐久性の評価方法。
【請求項3】
200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法であって、
(A)原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成するA工程、
(B)インゴットを加工して、複数のフッ化金属単結晶ブロックを得るB工程、
(C)各フッ化金属単結晶ブロックから、各々少なくとも一つの硝材と評価用サンプルとを得るC工程、
(D)各評価用サンプルを、請求項1又は2記載の評価方法により評価するD工程、
(E)評価用サンプルの評価結果から、該評価用サンプルと同じフッ化金属単結晶ブロックから得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測するE工程、
を有することを特徴とする前記光学部材用の硝材の製造方法。
【請求項4】
200nm以下の波長のレーザー光を用いる半導体光露光装置の光学系に用いるフッ化金属単結晶からなる光学部材用の硝材を製造する方法であって、
(a)原料溶融液からフッ化金属単結晶のインゴットを育成するa工程、
(b)インゴットの最後に結晶化した端部側から評価用サンプルを得るb工程、
(c)該評価用サンプルを、請求項1又は2記載の評価方法により評価するc工程、
(d)評価用サンプルの評価結果から、該インゴットを加工して得た硝材を光学部材とした際の該光学部材のレーザー耐久性を予測するd工程、及び
(e)評価用サンプルを得たインゴットの残部から硝材を得るe工程、
を有することを特徴とする前記光学部材用の硝材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−32336(P2012−32336A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173859(P2010−173859)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】