説明

フッ素ゴム成形品

【課題】 ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成することなく、低摩擦性及び撥水性を有するフッ素ゴム成形品を提供する。
【解決手段】 本発明は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム成形品であって、フッ素ゴム成形品表面に凸部を有し、前記フッ素ゴム成形品表面に対する前記凸部を有する領域の面積比が0.06以上であり、前記フッ素ゴム成形品に対するフッ素樹脂(B)の体積比が0.05〜0.45であり、前記凸部を有する領域の面積比が、前記フッ素樹脂(B)の体積比の1.2倍以上であり、フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とするフッ素ゴム成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、優れた耐薬品性、耐溶剤性及び耐熱性を示すことから、自動車工業、半導体工業、化学工業等の各種分野において広く使用されており、例えば、自動車産業においては、エンジン並びに周辺装置、AT装置、燃料系統並びに周辺装置などに使用されるホース、シール材等として使用されている。
【0003】
しかし、フッ素ゴム、例えばプロピレン〔P〕−テトラフルオロエチレン〔TFE〕共重合体ゴムなどは低温で脆化することがあるので、その改善のために融点が240〜300℃のエチレン〔Et〕−TFE共重合体樹脂〔ETFE〕を配合し、溶融混練した後、放射線架橋またはパーオキサイド架橋する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、フッ素ゴム(ビニリデンフルオライド〔VdF〕系ゴム)とフッ素樹脂〔ETFE〕と含フッ素熱可塑性エラストマーとを配合したフッ素ゴム組成物をプレス架橋(160℃、10分間)し、ついでオーブン架橋(180℃、4時間)して熱時強度が改善された架橋ゴムを製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、共通のパーオキサイド系架橋剤と反応する反応点をそれぞれに有する含フッ素エラストマー75〜98重量%およびフッ素樹脂25〜2重量%よりなる含フッ素共重合体組成物が記載されている。
【0006】
特許文献4には、共にポリオール架橋性であるフッ素ゴムとフッ素樹脂とのゴム成形品が記載されている。
【0007】
シール材等の分野において、ゴムの特性を活かしながら摩擦係数を低下させる方法としては、例えばフッ素樹脂(またはフッ素樹脂繊維層)をゴムの表面に積層する方法(特許文献5、6)、ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成する方法(特許文献7)などが提案されている。
【0008】
特許文献8には、ビニリデンフルオライド単位を含むフッ素ゴムおよびフッ素樹脂を、フッ素樹脂の融点よりも5℃低い温度以上の温度で混練して得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形架橋し、その後フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱すると、表面のフッ素樹脂比率が増大した低摩擦性のフッ素ゴム成形品が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−32244号公報
【特許文献2】特開平6−25500号公報
【特許文献3】特開2000−230096号公報
【特許文献4】特開2001−131346号公報
【特許文献5】特開平7−227935号公報
【特許文献6】特開2000−313089号公報
【特許文献7】特開2006−292160号公報
【特許文献8】国際公開第2010/029899号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜4には、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを混合して成形品を得ることが記載されているが、得られる成形品は、低摩擦性及び撥水性が充分でなく、改善の余地があった。
【0011】
また、特許文献5〜7のように、ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成した場合、表面のフッ素樹脂により低摩擦性及び撥水性を有する成形品を得ることができるが、フッ素ゴムとフッ素樹脂との界面での接着性を高めることが重要な課題となり、その解決に悩まされているのが現状である。
【0012】
特許文献8のように、フッ素ゴムとフッ素樹脂とをフッ素樹脂の融点よりも5℃低い温度以上の温度で混練して得られる架橋性フッ素ゴム組成物を使用した場合、得られるフッ素ゴム成形品表面のフッ素樹脂比率が充分に高くならず、低摩擦性及び撥水性の点から改善の余地があった。
【0013】
本発明は、ゴム表面に積層又は塗装によりフッ素樹脂層を形成することなく、低摩擦性及び撥水性を有するフッ素ゴム成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム成形品であって、フッ素ゴム成形品表面に凸部を有し、上記フッ素ゴム成形品表面に対する前記凸部を有する領域の面積比が0.06以上であり、上記フッ素ゴム成形品に対するフッ素樹脂(B)の体積比が0.05〜0.45であり、上記凸部を有する領域の面積比が、前記フッ素樹脂(B)の体積比の1.2倍以上であり、フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とするフッ素ゴム成形品である。
【0015】
凸部は、実質的に架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなることが好ましい。
【0016】
凸部は、高さが0.2〜5.0μmであり、標準偏差が0.300以下であることが好ましい。
【0017】
凸部は、底部断面積が2〜500μmであることが好ましい。
【0018】
本発明のフッ素ゴム成形品は、凸部の数が3000〜60000個/mmであることが好ましい。
【0019】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリデンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明のフッ素ゴム成形品は、シール材であることが好ましい。
【0021】
本発明のフッ素ゴム成形品は、摺動部材であることが好ましい。
【0022】
本発明のフッ素ゴム成形品は、非粘着性部材であることが好ましい。
【0023】
本発明のフッ素ゴム成形品は、表面に撥水撥油性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のフッ素ゴム成形品は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とからなり、表面に多数の凸部を有することにより、フッ素ゴム及びフッ素樹脂が本来的に有する耐薬品性、耐熱性、低透過性に優れるとともに、フッ素ゴムの優れた柔軟性を維持したまま、フッ素ゴムのみからなる成形品よりも優れた低摩擦性及び高い撥水性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、フッ素ゴム成形品が有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線B1と直線B2とを含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面と平行な直線C1と直線C2とを含む平面で切断した断面図である。
【図2】実施例1で得られた成形品表面の凸部の数を、凸部の高さ毎に示したグラフである。
【図3】比較例1で得られた成形品表面の凸部の数を、凸部の高さ毎に示したグラフである。
【図4】実施例1で得られた成形品表面をレーザー顕微鏡で測定した結果を示す画像である。
【図5】比較例1で得られた成形品表面をレーザー顕微鏡で測定した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のフッ素ゴム成形品は、多数の凸部が成形品表面に均一に存在していることにより、優れた低摩擦性及び高い撥水性を示す。上記凸部は、実質的に架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなることが好ましい。上記凸部は、例えば後述する方法により、上記架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)を表面に析出させて形成することができる。
【0027】
上記凸部は、本発明のフッ素ゴム成形品本体との間に明確な界面等が存在せず、上記凸部とフッ素ゴム成形品とは一体的に構成されていることとなり、上記凸部が脱落したり、欠損したりしにくいとの効果をより確実に享受することができる。
【0028】
上記凸部が実質的に上記架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂からなることは、IR分析やESCA分析によってフッ素ゴム(A)由来のピークとフッ素樹脂(B)由来のピークのピーク比を求めることで、凸部が実質的にフッ素樹脂(B)からなることを示すことができる。具体的には、凸部を有する領域において、IR分析によって、フッ素ゴム(A)由来の特性吸収のピークとフッ素樹脂(B)由来の特性吸収のピークとの比(成分由来ピーク比=(フッ素ゴム(A)由来のピーク強度)/(フッ素樹脂(B)由来のピーク強度))を、凸部と凸部外のそれぞれの部分で測定し、凸部外の成分由来ピーク比が、凸部の成分由来ピーク比に対して1.5倍以上、好ましくは2倍以上であればよい。
【0029】
上記凸部の形状について、図面を参照しながらもう少し詳しく説明する。
図1(a)は、フッ素ゴム成形品が有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線B1と直線B2とを含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面と平行な直線C1と直線C2とを含む平面で切断した断面図である。そして、図1(a)〜(c)は、本発明のフッ素ゴム成形品表面の微小領域を模式的に描画している。本発明のフッ素ゴム成形品表面には、図1(a)〜(c)に示すように、例えば、略円錐形状(コーン形状)の凸部31が形成されている。
【0030】
ここで、凸部31の高さとは、フッ素ゴム成形品表面から突出した部分の高さをいう(図1(b)中、H参照)。また、凸部31の底部断面積とは、凸部31を、フッ素ゴム成形品表面と平行な平面(直線C1と直線C2とを含む平面)で切断した面において観察される凸部31の断面に於ける面積の値をいう(図1(c)参照)。
【0031】
上記フッ素ゴム成形品表面に対する上記凸部を有する領域の面積比(凸部の占有率)は、0.06(6%)以上である。好ましい面積比は、0.15以上であり、0.30以上がより好ましい。上記フッ素ゴム成形品表面に対する凸部を有する領域の面積比は、上記凸部の底部断面積を評価する切断面において、凸部が占める面積の比率をいう。
【0032】
本発明のフッ素ゴム成形品において、フッ素樹脂(B)の体積比は、上記フッ素ゴム成形品の0.05〜0.45(5〜45体積%)である。体積比の下限は、0.10(10体積%)であることが好ましい。体積比の上限は、0.40(40体積%)であることが好ましく、0.35(35体積%)であることがより好ましく、0.30(30体積%)であることが更に好ましい。
上記フッ素樹脂(B)はテトラフルオロエチレンに基づく重合単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく重合単位とからなる共重合体であり、優れた耐熱性を有する。従って、後述する成形架橋工程や熱処理工程によって分解することがないので、上記体積比は、架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)の体積割合と同一とみなすことができる。
【0033】
上記凸部を有する領域の面積比が、上記フッ素樹脂(B)の体積比の1.2倍以上であり、1.3倍以上であることが好ましい。これは、本発明のフッ素ゴム成形品は、成形品表面における凸部を有する領域の比率が、成形品におけるフッ素樹脂(B)の体積比よりも高い、すなわち、架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)の体積比よりも高い、ということを意味している。本発明のフッ素ゴム成形品はこの特徴により従来のフッ素ゴム成形品と区別でき、成形品におけるフッ素樹脂(B)の混合割合が低くても、フッ素ゴムの欠点であった摺動性や撥水性が改善されており、フッ素ゴムの利点が損なわれていることもない。
【0034】
上記凸部は、高さが0.2〜5.0μmであることが好ましい。凸部の高さがこの範囲にあると、フッ素ゴム成形品の低摩擦性及び撥水性がより優れたものとなる。より好ましい高さは、0.3〜4.0μmであり、更に好ましくは、0.5〜3.0μmである。
【0035】
上記凸部は、底部断面積が2〜500μmであることが好ましい。凸部の底部断面積がこの範囲にあると、フッ素ゴム成形品の低摩擦性及び撥水性がより優れたものとなる。より好ましい底部断面積は、3〜400μmであり、更に好ましい底部断面積は、3〜300μmである。
【0036】
本発明のフッ素ゴム成形品は、上記凸部の高さの標準偏差が0.300以下であることが好ましい。この範囲にあると、フッ素ゴム成形品の低摩擦性及び撥水性がより優れたものとなる。
【0037】
本発明のフッ素ゴム成形品は、凸部の数が3000〜60000個/mmであることが好ましい。この範囲にあると、フッ素ゴム成形品の低摩擦性及び撥水性がより優れたものとなる。
【0038】
本発明のフッ素ゴム成形品において、上記凸部はフッ素ゴム成形品表面の一部に形成されていればよく、フッ素ゴム成形品表面には該凸部が形成されていない領域を有していてもよい。例えば、本発明のフッ素ゴム成形品において、低摩擦性や高撥水性が必要とされない部分には上記凸部が形成されている必要はない。
【0039】
上記架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析することによって得られる凝析物を含むものであることが好ましい。架橋性化合物がフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られる凝析物を含むものであることによって、フッ素ゴム成形品表面に形成される凸部の占有率を充分に高くすることができる。これによって、低摩擦性及び高撥水性により優れた本発明のフッ素ゴム成形品が得られる。
【0040】
上記架橋性組成物が、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析することによって得られる凝析物を含む場合には、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とが架橋性組成物中で均一に分散していると予想される。このような架橋性組成物を架橋し、熱処理すると、高撥水性を持つと同時に低摩擦性である、本発明のフッ素ゴム成形品が得られるものと考えられる。
【0041】
本発明のフッ素ゴム成形品は、上記構成からなるものであるため、成形品全体として、非粘着性、撥油性、エラストマー性に優れたものである。更に、得られるフッ素ゴム成形品には、フッ素樹脂とフッ素ゴムとの明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂に富む領域が脱落や剥離することもなく、従来のフッ素ゴムの表面をフッ素樹脂の塗布や接着で改質した成形品に比べて耐久性に優れたものとなる。本発明のフッ素ゴム成形品は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析させて架橋性組成物を得た後、上記架橋性組成物を架橋することにより得られるものであることが好ましい。
【0042】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析させる方法、(ii)フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法が挙げられる。上記共凝析の方法としては、特にフッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)が共に均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0043】
上記架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られた共凝析粉末を含むものであることが好ましい。上記共凝析粉末は、例えば、フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析し、次いで凝析物を回収し、所望により乾燥させることにより得ることができる。また、上記架橋性組成物は、上記共凝析粉末と架橋剤とを含むものであることが好ましく、更に、後述する各種添加剤等を含むものであってもよい。
上記架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得て、該共凝析粉末に架橋剤を添加して得られるものであることが好ましい。
【0044】
(A)フッ素ゴム
上記フッ素ゴム(A)は、通常、主鎖を構成する炭素原子に結合しているフッ素原子を有し且つゴム弾性を有する非晶質の重合体からなる。上記フッ素ゴム(A)は、1種の重合体からなるものであってもよいし、2種以上の重合体からなるものであってもよい。
【0045】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、及び、VdF/CTFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
上記ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなるフッ素ゴム(以下、「VdF系フッ素ゴム」ともいう。)について説明する。VdF系フッ素ゴムは、少なくともビニリデンフルオライドに由来する重合単位を含むフッ素ゴムである。
【0047】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位及び含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位を含むことも好ましい。
【0048】
VdF単位を含む共重合体としては、30〜85モル%のVdF単位及び70〜15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことが好ましく、30〜80モル%のVdF単位及び70〜20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことがより好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位との合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0049】
含フッ素エチレン性単量体としては、例えばTFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEともいう)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体が挙げられるが、これらのなかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
上記PAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)−(CFCFCFO)−R (1)
(式中、YはF又はCFを表し、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0〜5の整数を表し、qは0〜5の整数を表す。)、及び、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、XはH、F又はCFを表し、Rは、直鎖又は分岐した、炭素数が1〜6のフルオロアルキル基、若しくは、炭素数が5又は6の環状フルオロアルキル基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0051】
一般式(2)におけるRは、H、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含むフルオロアルキル基であってもよい。
【0052】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)又はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることがより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、又は任意に組み合わせて用いることができる。
【0053】
VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0054】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種又は2種以上が好ましく挙げられる。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体がとくに好ましい。
【0055】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45〜85/55〜15であるものが好ましく、より好ましくは50〜80/50〜20であり、更に好ましくは60〜80/40〜20である。
【0056】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40〜80/10〜35/10〜35のものが好ましい。
【0057】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65〜90/10〜35のものが好ましい。
【0058】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40〜80/3〜40/15〜35のものが好ましい。
【0059】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65〜90/3〜25/3〜25のものが好ましい。
【0060】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40〜90/0〜25/0〜40/3〜35のものが好ましく、より好ましくは40〜80/3〜25/3〜40/3〜25である。
【0061】
上記フッ素ゴム(A)は、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、例えば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4−505341号公報に記載されている臭素含有モノマー、特表平4−505345号公報、特表平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アルコキシカルボニル基含有モノマーなどが挙げられる。
【0062】
フッ素ゴム(A)は、主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムであることも好ましい。主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムは、実質的に無酸素下で、水媒体中でハロゲン化合物の存在下に、ラジカル開始剤を添加してモノマーの乳化重合を行うことにより製造できる。使用するハロゲン化合物の代表例としては、例えば、一般式:
Br
(式中、x及びyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは、炭素数1〜16の飽和若しくは不飽和のフルオロ炭化水素基、炭素数1〜16の飽和若しくは不飽和のクロロフルオロ炭化水素基、炭素数1〜3の炭化水素基、又は、ヨウ素原子若しくは臭素原子で置換されていてもよい炭素数3〜10の環状炭化水素基であり、これらは酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
ハロゲン化合物としては、例えば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、
CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、
CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ベンゼンのジヨードモノブロモ置換体、並びに、ベンゼンの(2−ヨードエチル)及び(2−ブロモエチル)置換体などが挙げられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0064】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン又はジヨードメタンを用いるのが好ましい。
【0065】
フッ素ゴム(A)は、加工性が良好な点から、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))が5〜140であることが好ましく、10〜120であることがより好ましく、20〜100であることが更に好ましい。
【0066】
上記フッ素ゴム(A)は、用途によって架橋系を選択することができる。架橋系としては、パーオキサイド架橋系、及び、ポリオール架橋系からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
耐薬品性の観点からはパーオキサイド架橋系が好ましく、耐熱性の観点からはポリオール架橋系が好ましい。上記架橋性組成物は、それぞれの架橋系において使用される架橋剤を含むものであってよい。
【0067】
パーオキサイド架橋は、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤として有機過酸化物を使用することにより行うことができる。
【0068】
パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、パーオキサイド架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記パーオキサイド架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、ヨウ素原子を有する部位、臭素原子を有する部位等を挙げることができる。
【0069】
有機過酸化物としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、例えば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエイトなどを挙げることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0070】
パーオキサイド架橋系における、有機過酸化物の配合量としては、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましい。有機過酸化物の配合量がこのような範囲であることにより、パーオキサイド架橋を充分に進行させることができる。より好ましくは0.1〜5.0質量部である。
【0071】
架橋剤が有機過酸化物である場合、上記架橋性組成物は更に架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0072】
架橋助剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5.0質量部である。架橋助剤が、0.01質量部より少ないと、架橋時間が実用に耐えないほど長くなる傾向があり、10質量部をこえると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、フッ素ゴム成形品の圧縮永久歪も低下する傾向がある。
【0073】
ポリオール架橋は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤としてポリヒドロキシ化合物を使用することにより行うことができる。
【0074】
上記ポリオール架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記ポリオール架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。
上記架橋部位を導入する方法としては、フッ素ゴムの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0075】
ポリヒドロキシ化合物としては、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0076】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0077】
ポリオール架橋系における、ポリヒドロキシ化合物の配合量としては、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム100質量部に対して0.01〜8質量部であることが好ましい。ポリヒドロキシ化合物の配合量がこのような範囲であることにより、ポリオール架橋を充分に進行させることができる。より好ましくは0.02〜5質量部である。
【0078】
架橋剤がポリヒドロキシ化合物である場合、上記架橋性組成物は更に架橋促進剤を含むことが好ましい。架橋促進剤は、ポリマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進する。
なお、架橋促進剤は、更に、酸化マグネシウム等の受酸剤や、水酸化カルシウム等の架橋助剤と組み合わせて用いてもよい。
【0079】
架橋促進剤としては、オニウム化合物が挙げられ、オニウム化合物のなかでも、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、及び、1官能性アミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0080】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8―ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7―ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、DBU−Bが好ましい。
【0081】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどを挙げることができ、これらの中でも、架橋性及びフッ素ゴム成形品の物性が優れる点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0082】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩とビスフェノールAFとの固溶体、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFとの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0083】
架橋促進剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られるフッ素ゴム成形品の耐熱性及び耐油性が低下する傾向があり、8質量部をこえると、上記架橋性組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0084】
(B)フッ素樹脂
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、すなわち、テトラフルオロエチレンに基づく重合単位と、ヘキサフルオロプロピレンに基づく重合単位と、からなる共重合体(以下、「FEP」ともいう。)である。FEPは、フッ素ゴム成形品の摩擦係数低減効果が良好な点、並びに、フッ素ゴム(A)との相溶性に特に優れる点から好ましい。
【0085】
FEPは、とりわけフッ素ゴム成形品の耐熱性が優れたものとなり、優れた燃料バリア性が発現する点でも好ましい。FEPとしては、TFE単位70〜99モル%及びHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%及びHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0086】
FEPは、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としては、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0087】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0088】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0089】
FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を有する場合、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0090】
フッ素樹脂(B)の融点は、フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であることが好ましい。フッ素樹脂(B)の融点は、フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であればフッ素ゴム(A)の種類に応じて好ましい範囲は異なるが、例えば、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、300℃であってよい。ポリビニリデンフルオライドのような融点の低いフッ素樹脂をフッ素樹脂(B)として使用すると、架橋成形時にフッ素樹脂が溶融し、充分な数の凸部を有するフッ素ゴム成形品を得られないおそれがある。
【0091】
フッ素樹脂(B)とフッ素ゴム(A)との相溶性向上のため、上記架橋性組成物は少なくとも1種の多官能化合物を含んでいてもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一又は異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0092】
多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。これらの官能基を有する化合物は、フッ素ゴム(A)との親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂(B)が持つ反応性を有することが知られている官能基とも反応し更に相溶性が向上することが期待される。
【0093】
上記フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含む架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との体積比(フッ素ゴム(A))/(フッ素樹脂(B))が60/40〜95/5であることが好ましい。フッ素樹脂(B)が少なすぎると摩擦係数低減の効果が充分に得られないおそれがあり、一方、フッ素樹脂(B)が多すぎると、ゴム弾性が著しく損なわれるおそれがある。柔軟性及び低摩擦性の両方が良好な点から、(フッ素ゴム(A))/(フッ素樹脂(B))は、65/35〜95/5であることがより好ましく、70/30〜90/10であることが更に好ましい。
【0094】
上記架橋性組成物は、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の添加剤、例えば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0095】
つぎに本発明のフッ素ゴム成形品の製造方法について説明する。
【0096】
本発明のフッ素ゴム成形品は、(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して架橋性組成物を得る工程、(II)架橋性組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0097】
以下、各工程について説明する。
【0098】
(I)工程
この工程は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して架橋性組成物を得る工程である。共凝析でフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを混合することにより、フッ素ゴム成形品表面の凸部の占有率を高くすることができ、その結果、本発明のフッ素ゴム成形品は、高い撥水性及び低摩擦性を有する。
一方、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含む架橋性組成物を得るために、例えばフッ素樹脂(B)が溶融する温度でフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを混練しても、得られるフッ素ゴム成形品表面の凸部の占有率は充分に高くならない。
【0099】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析する方法、(ii)フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)の水性分散液に添加した後に凝析する方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析する方法が挙げられる。
【0100】
上記共凝析の方法としては、特にフッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)が共に均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0101】
上記(i)〜(iii)の凝析方法における凝析は、例えば、凝集剤を用いて行うことができる。このような凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、ミョウバン等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の一価カチオン塩等の公知の凝集剤が挙げられる。凝集剤により凝析を行う際、凝集を促進させるために酸又はアルカリを添加してpHを調製してもよい。
【0102】
フッ素ゴム(A)の架橋系によっては架橋剤が必要であるので、工程(I)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得た後、共凝析粉末に架橋剤を添加して架橋性組成物を得る工程であることも好ましい。
【0103】
通常、共凝析粉末に架橋剤を添加した後、共凝析粉末と架橋剤とを混合する。上記混合は、例えば、オープンロール等を用いた通常の混合方法により、フッ素樹脂(B)の融点未満の温度で混合することができる。上記工程(I)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得た後、共凝析粉末に架橋剤を添加して、共凝析粉末と架橋剤とをフッ素樹脂(B)の融点未満の温度で混合して架橋性組成物を得るものであることが好ましい。
【0104】
(II)成形架橋工程
工程(II)は、工程(I)で得られた架橋性組成物を成形し、架橋して架橋成形品を製造する工程である。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋とを同時に行ってもよい。
【0105】
例えばホース、長尺板などの場合は押出成形した後架橋する方法が適切であり、異形の成形品の場合は、ブロック状の架橋物を得た後切削などの成形処理を施す方法も採れる。また、ピストンリングやオイルシールなどの比較的単純な成形品の場合、金型などで成形と架橋を同時に並行して行うことも通常行われている方法である。
【0106】
成形方法としては、例えば押出成形法、金型などによる加圧成形法、インジェクション成形法などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0107】
架橋方法も、スチーム架橋法、放射線架橋法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法が採用できる。本発明においては、フッ素ゴム成形品表面の凸部の占有率を効率的に高める観点から、加熱による架橋反応が好適である。
【0108】
架橋性組成物の成形及び架橋の方法及び条件は、採用する成形及び架橋において公知の方法及び条件の範囲内でよい。
【0109】
架橋を行う温度は、フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であり、フッ素樹脂(B)の融点未満であることが好ましい。架橋をフッ素樹脂(B)の融点以上で行うと、多数の凸部を有する成形品を得ることができないおそれがある。
架橋を行う温度は、フッ素樹脂(B)の融点より5℃低い温度未満であり、かつフッ素ゴム(A)の架橋温度以上であることがより好ましい。架橋時間としては、例えば、1分間〜24時間であり、使用する架橋剤などの種類により適宜決定すればよい。
【0110】
ところで、ゴムの架橋において、従来、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、つぎの熱処理工程(III)で説明するように、従来の2次架橋工程と本発明における成形架橋工程(II)及び熱処理工程(III)とは異なる処理工程である。
【0111】
(III)熱処理工程
この工程では、成形架橋工程(II)で得られた架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成型品を得る。
【0112】
本発明における熱処理工程(III)は、架橋成形品表面のフッ素樹脂比率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂(B)の融点以上かつフッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解温度未満の温度が加熱温度として採用される。
【0113】
加熱温度がフッ素樹脂の融点よりも低い場合は、多数の凸部を有する成形品を得ることができない。また、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の熱分解を回避するために、加熱温度は、フッ素ゴム(A)の熱分解温度又はフッ素樹脂(B)の熱分解温度のいずれか低い方の温度未満でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で低摩擦化が容易な点から、フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度である。
【0114】
上記の上限温度は通常のフッ素ゴムの場合であり、超耐熱性を有するフッ素ゴムを用いる場合は、上限温度は超耐熱性を有するフッ素ゴムの分解温度であるので、上記上限温度はこの限りではない。
【0115】
熱処理工程(III)において、加熱温度は加熱時間と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。このように加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定すればよいが、加熱処理をあまり長時間行うとフッ素ゴムが熱劣化することがあるので、加熱処理時間は、耐熱性に優れたフッ素ゴムを使用する場合を除いて実用上48時間までである。通常、加熱処理時間は1分間〜48時間が好ましく、生産性が良好な点から1分間〜24時間がより好ましいが、摩擦係数を充分に低下させたい場合は8〜48時間であることが好ましい。
【0116】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分解してフッ素ゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上させるために行う処理である。
【0117】
したがって、フッ素樹脂(B)の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に本発明における熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずにフッ素ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂(B)を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂(B)を加熱軟化又は溶融する条件を導き出せるものではない。
【0118】
なお、上記成形架橋工程(II)において、フッ素ゴム(A)の架橋を完結させるため(架橋剤を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0119】
また、熱処理工程(III)において、残存する架橋剤の分解が起こりフッ素ゴム(A)の架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程(III)におけるかかるフッ素ゴム(A)の架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0120】
上記製造方法によれば、フッ素樹脂(B)の特性、例えば低摩擦性や撥水性が、熱処理をしないものより、格段に向上したフッ素ゴム成形品を得ることができる。しかも、表面領域以外では逆にフッ素ゴム(A)の特性が発揮でき、全体として、低摩擦性や撥水性、エラストマー性、のいずれにもバランスよく優れたフッ素ゴム成形品が得られる。更に、得られるフッ素ゴム成形品には、フッ素樹脂(B)とフッ素ゴム(A)との明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂(B)に富む領域が脱落や剥離することもなく、従来のフッ素ゴムの表面をフッ素樹脂の塗布や接着で改質した成形品に比べて耐久性に優れたものとなる。
【0121】
本発明のフッ素ゴム成形品は、その低摩擦性や撥水性を利用して、シール材、摺動部材、非粘着性部材などとして有用である。
【0122】
具体的には、つぎの成形品が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
シール材:
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)−リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、その他の各種シール材等が挙げられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのO−リング、クォーツウィンドウのO−リング、チャンバーのO−リング、ゲートのO−リング、ベルジャーのO−リング、カップリングのO−リング、ポンプのO−リングやダイアフラム、半導体用ガス制御装置のO−リング、レジスト現像液、剥離液用のO−リング、その他の各種シール材として用いることができる。
【0124】
自動車分野では、エンジン並びに周辺装置に用いるガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、各種シール材や、AT装置の各種シール材に用いることができる。燃料系統並びに周辺装置に用いるシール材としては、O(角)−リング、パッキン、ダイアフラムなどが挙げられる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、酸素センサー用シール、インジェクターO−リング、インジェクターパッキン、燃料ポンプのO−リングやダイアフラム、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、キャブレターのセンサー用ダイアフラム等として用いることができる。
【0125】
航空機分野、ロケット分野及び船舶分野では、ダイアフラム、O(角)−リング、バルブ、パッキン、各種シール材等が挙げられ、これらは燃料系統に用いることができる。具体的には、航空機分野では、ジェットエンジンバルブステムシール、ガスケット及びO−リング、ローテーティングシャフトシール、油圧機器のガスケット、防火壁シール等に用いられ、船舶分野では、スクリューのプロペラシャフト船尾シール、ディーゼルエンジンの吸排気用バルブステムシール、バタフライバルブのバルブシール、バタフライ弁の軸シール等に用いられる。
【0126】
化学プラント分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等が挙げられ、これらは医薬、農薬、塗料、樹脂等化学品製造工程に用いることができる。具体的には、化学薬品用ポンプ、流動計や配管のシール、熱交換器のシール、硫酸製造装置のガラス冷却器パッキング、農薬散布機や農薬移送ポンプのシール、ガス配管のシール、メッキ液用シール、高温真空乾燥機のパッキン、製紙用ベルトのコロシール、燃料電池のシール、風洞のジョイントシール、ガスクロマトグラフィーやpHメーターのチューブ結合部のパッキン、分析機器や理化学機器のシールやダイアフラム、弁部品等として用いることができる。
【0127】
現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野及び塗装設備等の塗装分野では、乾式複写機のシール、弁部品等として用いることができる。
【0128】
食品プラント機器分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等が挙げられ、食品製造工程に用いることができる。具体的には、プレート式熱交換器のシール、自動販売機の電磁弁シール等として用いることができる。
【0129】
原子力プラント機器分野では、パッキン、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等が挙げられる。
【0130】
一般工業分野では、パッキング、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等が挙げられる。具体的には、油圧や潤滑機械のシール、ベアリングシール、ドライクリーニング機器の窓用のシール、その他のシール、六フッ化ウランの濃縮装置のシール、サイクロトロンのシール(真空)バルブ、自動包装機のシール、空気中の亜硫酸ガスや塩素ガス分析用ポンプのダイアフラム(公害測定器)等に用いられる。
【0131】
電気分野では、具体的には、新幹線の絶縁油キャップや液封型トランスのベンチングシール等として用いられる。
【0132】
燃料電池分野では、具体的には、電極やセパレーター間のシール材、水素・酸素・生成水配管のシール等として用いられる。
【0133】
電子部品分野では、具体的には、放熱材原料、電磁波シールド材原料、コンピュータのハードディスクドライブのガスケット等に用いられる。
【0134】
現場施工型の成形に用いることが可能なものとしては特に限定されず、例えばエンジンのオイルパンのガスケット、磁気記録装置用のガスケット、クリーンルーム用フィルターユニットのシーリング剤等が挙げられる。
【0135】
また、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)用のガスケット、半導体製造装置やウェハー等のデバイス保管庫等のシールリング材等のクリーン設備用シール材に特に好適に用いられる。
【0136】
更に、燃料電池セル電極間やその周辺配管等に用いられるパッキン等の燃料電池用のシール材等にも特に好適に用いられる。
【0137】
摺動部材:
自動車関連分野では、ピストンリング、シャフトシール、バルブステムシール、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、オイルシールなどが挙げられる。一般に、他材と接触して摺動を行う部位に用いられるフッ素ゴム製品が挙げられる。
【0138】
非粘着性部材:
コンピュータ分野での、ハードディスククラッシュストッパーなどが挙げられる。また、複写機、プリンタ分野でのロール部品などが挙げられる。
【0139】
撥水撥油性を利用する分野:
自動車のワイパーブレード、屋外テントの引き布などが挙げられる。
【実施例】
【0140】
つぎに実施例を掲げて本発明を説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
【0142】
(1)架橋(加硫)特性
キュラストメーターII型(JSR(株)製)にて最低トルク(ML)、最高トルク(MH)、誘導時間(T10)及び最適加硫時間(T90)を測定した。
【0143】
(2)100%モジュラス(M100)
JIS K6251に準じて測定した。
【0144】
(3)引張破断強度(Tb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0145】
(4)引張破断伸び(Eb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0146】
(5)硬度(ショアA)
JIS K6253に準じ、デュロメータ タイプAにて測定した(ピーク値)。
【0147】
(6)摩擦係数
レスカ社製フリクションプレーヤーFPR2000で、加重20g、回転モード、回転数60rpm、回転半径10mmで測定を行い、回転後5分以上経過した後、安定した際の摩擦係数を読み取り、その数値を動摩擦係数とした。
【0148】
(7)凸部を有する領域の占有率(凸部の占有率)
キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、成形品表面の任意の領域(270μm×202μm)を測定し、凸部の底部断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合を占有率とした。レーザー顕微鏡の解析ソフトとしては、三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いた。
【0149】
(8)凸部の高さ
キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、成形品表面の任意の領域(270μm×202μm)を測定し、凸部の高さと、凸部の高さの標準偏差を求めた。レーザー顕微鏡の解析ソフトとしては、三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いた。
【0150】
(9)凸部の底部断面積
キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、成形品表面の任意の領域(270μm×202μm)を測定し、凸部の底部断面積を求めた。レーザー顕微鏡の解析ソフトとしては、三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いた。
【0151】
(10)凸部の数
キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用いて、成形品表面の任意の領域(270μm×202μm)を測定し、該領域中の凸部の数を1mm当たりの数に換算した。レーザー顕微鏡の解析ソフトとしては、三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いた。
【0152】
(11)撥水性
フッ素ゴム成形品の対水の静止接触角を、接触角計(協和科学(株)製)を用いて測定した。
【0153】
また、表及び明細書中の使用材料は、それぞれ次に示すものである。
【0154】
フッ素ゴムディスパージョン(A1)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(VdF/HFP共重合体、VdF/HFP=78/22)のディスパージョン(固形分濃度:24質量%、フッ素ゴムのムーニー粘度(ML1+10(100℃):80)
【0155】
フッ素ゴムディスパージョン(A2)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(VdF/HFP共重合体、VdF/HFP=78/22)のディスパージョン(固形分濃度:23質量%、フッ素ゴムのムーニー粘度(ML1+10(100℃):60)
【0156】
フッ素ゴム(A3)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(ダイキン工業(株)製のG7400BP)
【0157】
フッ素樹脂ディスパージョン(B1)
FEP水性ディスパージョン(固形分濃度:21質量%、MFR:31.7g/10min(327℃測定)、融点:約215℃)
【0158】
フッ素樹脂(B2)
ETFE(ダイキン工業(株)製のEP−610)
【0159】
充填剤
カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
【0160】
架橋剤
ビスフェノールAF 特級試薬 和光純薬工業(株)製
架橋促進剤
BTPPC 特級試薬 和光純薬工業(株)製
受酸剤
酸化マグネシウム 協和化学工業(株)製
架橋助剤
水酸化カルシウム 近江化学工業(株)製
【0161】
実施例1
容量1Lのミキサー内に、水500mLと塩化マグネシウム4gをあらかじめ混合した溶液にFEP水性ディスパージョン(B1)とフッ素ゴムディスパージョン(A1)とを、固形分が体積比で75/25(フッ素ゴム/FEP)となるようにあらかじめ混合した溶液400mLを投入し、ミキサーにて5分間混合し、共凝析した。
共凝析後、固形分を取り出し、120℃×24時間乾燥炉で乾燥させた後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合した。
その後、170℃×10分の加熱成形を行い、更に250℃×24時間の熱処理をオーブンにて行い、加硫を完結させた。
【0162】
実施例2
容量1Lのミキサー内に、水500mLと塩化マグネシウム4gをあらかじめ混合した溶液にFEPディスパージョン(B1)とフッ素ゴム水性ディスパージョン(A2)とを、固形分が体積比で75/25(フッ素ゴム/FEP)となるようにあらかじめ混合した溶液400mLを投入し、ミキサーにて5分間混合し、共凝析した。
共凝析後、固形分を取り出し、120℃×24時間乾燥炉で乾燥させた後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合した。
その後、170℃×10分の加熱成形を行い、更に250℃×24時間の熱処理をオーブンにて行い、加硫を完結させた。
【0163】
比較例1
容量3Lのニーダー内に、フッ素ゴム(A3)とフッ素樹脂(B2)を体積比75/25で充填率80%の量を投入し、混練りした。
材料温度が235℃になった後混練を停止し、材料を取り出した。
その後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合して、170℃×10分の加熱成形を行い、更に250℃×24時間の熱処理をオーブンにて行い、加硫を完結させた。
【0164】
下記表1に架橋性フッ素ゴム組成物の配合比と、加硫特性について測定した結果を示す。下記表2に、得られた成形品について、各測定を行った結果を示す。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
また、図2は、実施例1で得られた成形品表面の凸部の数を、凸部の高さ毎に示したグラフであり、図3は、比較例1で得られた成形品表面の凸部の数を、凸部の高さ毎に示したグラフである。図4は、実施例1で得られた成形品表面をレーザー顕微鏡で測定した結果を示す画像である。図5は、比較例1で得られた成形品表面をレーザー顕微鏡で測定した結果を示す画像である。これらの図からわかるように、実施例1で得られた成形品は、比較例1で得られた成形品と比較して、同じ架橋性組成物から得られた成形品であるにもかかわらず、均一な凸部が多数存在することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のフッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材として利用可能である。
【符号の説明】
【0169】
30:フッ素ゴム成形品
31:凸部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム成形品であって、
フッ素ゴム成形品表面に凸部を有し、前記フッ素ゴム成形品表面に対する前記凸部を有する領域の面積比が0.06以上であり、
前記フッ素ゴム成形品に対するフッ素樹脂(B)の体積比が0.05〜0.45であり、前記凸部を有する領域の面積比が、前記フッ素樹脂(B)の体積比の1.2倍以上であり、
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とするフッ素ゴム成形品。
【請求項2】
凸部は、実質的に架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなる
請求項1記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項3】
凸部は、高さが0.2〜5.0μmであり、標準偏差が0.300以下である
請求項1又は2記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項4】
凸部は、底部断面積が2〜500μmである
請求項1、2又は3記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項5】
凸部の数が3000〜60000個/mmである
請求項1、2、3又は4記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項6】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリデンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である
請求項1、2、3、4又は5記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項7】
シール材である請求項1、2、3、4、5又は6記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項8】
摺動部材である請求項1、2、3、4、5又は6記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項9】
非粘着性部材である請求項1、2、3、4、5又は6記載のフッ素ゴム成形品。
【請求項10】
表面に撥水撥油性を有する請求項1、2、3、4、5又は6記載のフッ素ゴム成形品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−153880(P2012−153880A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285297(P2011−285297)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】