説明

フッ素含有酸化マグネシウム発光体及びその製造方法

【課題】フッ素含量が100ppmより少ないにも関わらず、フッ素を100ppmより多く含む酸化マグネシウムと同程度以上の紫外光発光強度を持つフッ素含有酸化マグネシウム発光体を提供すること。
【解決手段】電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する酸化マグネシウム発光体であって、マグネシウムに対するフッ素含量が100ppm未満で、かつ、励起光ランプの反射ピーク(波長980nm近傍)に対する、前記発光ピークの強度比が、20以上である。当該発光体は、酸化マグネシウム前駆体に、マグネシウムに対しフッ素が0.06〜1.25mol%となる量でフッ素化合物を添加して焼成し、一旦冷却した後、再度焼成することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有酸化マグネシウム発光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(PDP)は放電を利用した自発光型の表示デバイスであり、鮮やかで動画解像度の高い画像を表示でき、大画面化も比較的容易なことから、大型フラットディスプレイとして広く利用されている。
【0003】
交流型プラズマディスプレイパネル(AC型PDP)における放電空間内では、誘電体層の表面に保護層を設けることによって、作動電圧を低減させ、かつ、放電空間に生成するプラズマから誘電体層を保護することが行なわれている。従来、当該保護層を形成するための材料としては、二次電子放出係数が高く、耐スパッタ性に優れる酸化マグネシウムが広く利用されている。
【0004】
さらに、AC型PDPの放電特性や発光特性の向上を目的として、前記保護層の放電空間側の表面に、Xeガスのガス放電により生成する紫外光(真空紫外光)で励起され、紫外光を放出する材料を配置することが提案されている。このような材料として、特許文献1では、波長250nm付近に紫外光の発光ピークを有するフッ素含有酸化マグネシウム粉末が開示されている。この波長250nm付近の紫外光の放出が、AC型PDPの発光効率の向上に寄与するとされている。
【0005】
しかしながら特許文献1では、フッ素含有酸化マグネシウム粉末におけるフッ素含量は0.01重量%、すなわち100ppm以上に限定され(請求項1)、実施例では、フッ素含量が100ppm未満の酸化マグネシウムが示す紫外光発光強度は、フッ素含量が100ppm以上の酸化マグネシウムと比較して10分の1以下であることが記載されている(表2及び段落[0032])。また、当該フッ素含有酸化マグネシウムの製法としては、酸化マグネシウム粉末を、フッ素源の存在下で焼成することが記載されているにすぎない(段落[0019])。
【0006】
また、特許文献2では、同じくPDPの誘導体層及び保護層表面に、フッ素等のハロゲン元素が24ppm以上100ppm未満添加された酸化マグネシウム結晶体からなるプライミング粒子放出層を設けることが記載されている(請求項1及び2)。当該プライミング粒子放出層がプライミング粒子を放電空間に放出することで放電遅れが改善されると記載され、酸化マグネシウム結晶体に対するフッ素の添加と放電遅れの関係が記載されている。しかし、当該プライミング粒子放出層による紫外光の発光については記載されていない。また、当該文献でも、フッ素含有酸化マグネシウムの製法としては、酸化マグネシウム結晶体とハロゲン含有物質を混合して焼成することが記載されているにすぎない(段落[0024])。
【0007】
フッ素含有酸化マグネシウムに関するものではないが、特許文献3では、PDPの蛍光体粒子の表面にフッ素含有コーティングを形成することが記載されている(請求項1)。前記コーティングにおけるフッ素含有率が高すぎると、PDPの放電空間内に多くのフッ素が放出され、PDPの放電開始電圧が上昇し得ると記載されている(段落[0059])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−254269号公報
【特許文献2】特許第4492638号明細書
【特許文献3】特開2005−100954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3の記載から、放電空間内に放出されるフッ素量を低減すると、PDPの放電開始電圧の低減につながると考えられる。従って、PDPの放電空間内に配置される紫外光放出層の材料ではフッ素含量を低減することが望ましい。しかしながら、特許文献1の記載によると、フッ素含有酸化マグネシウム粉末におけるフッ素含量を100ppm未満とすると、紫外光放出量が低減するため、紫外光放出材料としての効果を期待できない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、フッ素含量が100ppmより少ないにも関わらず、フッ素を100ppmより多く含む酸化マグネシウムと同程度以上の紫外光発光強度を持つフッ素含有酸化マグネシウム発光体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特定の方法によりフッ素含有酸化マグネシウム発光体を製造することで、フッ素含量が100ppmより少ないにも関わらず、十分な強度で紫外光を発光する酸化マグネシウム発光体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する酸化マグネシウム発光体であって、
酸化マグネシウムに対するフッ素含量が100ppm未満であり、かつ
波長980nm近傍の、励起光ランプの反射ピークに対する、前記発光ピークの強度比が、20以上である、フッ素含有酸化マグネシウム発光体に関する。
【0013】
前記発光体において、酸化マグネシウムに対して、1価、2価、3価、又は4価の金属元素(ただし、マグネシウムを除く)が、50ppm以上300ppm未満含まれていることが望ましい。
【0014】
前記発光体において、前記金属元素が、Li、Be、Na、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、Ir、Au、Tl、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選ばれる一種類又は二種類以上であることが望ましい。
【0015】
前記発光体において、フッ素を除外して算出した酸化マグネシウムの純度、又は、前記金属元素を含む場合にはフッ素及び前記金属元素を除外して算出した酸化マグネシウムの純度が99.9質量%以上であることが好ましい。
【0016】
前記発光体は、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8μm以上4.0μm以下のフッ素含有酸化マグネシウム粉末からなることが好ましい。
【0017】
前記発光体は、好適に、プラズマディスプレイパネルの放電空間内に配置するために用いられる。
【0018】
また本発明は、前記発光体を製造する方法であって、
酸化マグネシウム前駆体に、マグネシウムに対しフッ素が0.06〜1.25mol%となる量でフッ素化合物を添加して焼成することで、フッ素含有酸化マグネシウムを得る工程、
前記フッ素含有酸化マグネシウムを一旦冷却した後、再度焼成することで、前記発光体を得る工程、を含む、方法にも関する。
【0019】
前記酸化マグネシウム前駆体は、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、及び、シュウ酸マグネシウムからなる群より選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸化マグネシウム発光体は、フッ素含量が100ppmより少ないにも関わらず、フッ素を100ppmより多く含む酸化マグネシウムと同程度以上の紫外光発光強度を持つ。本発明の酸化マグネシウム発光体をPDPの放電空間内に配置することによって、放電空間内の紫外光の放出量が増加し、ガス放電発光装置から放出される可視光の光量を増加させることが可能となる。また、一般的に、紫外光の放出が多くなると、プライミング粒子の放出も多くなるので、本発明の酸化マグネシウム発光体は、PDPにおける放電遅れを改善することができる。従って、本発明の酸化マグネシウム発光体は、AC型のPDPの誘電体保護層の放電空間側の表面に形成される紫外光放出層として好適に使用することができる。
【0021】
さらに、本発明の酸化マグネシウム発光体はフッ素含量が100ppmより少ないので、放電空間内に放出されるフッ素量が低減され、PDPの放電開始電圧の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず本発明の発光体について説明する。
【0023】
本発明の発光体はフッ素含有酸化マグネシウムからなる。本発明の発光体は高純度の酸化マグネシウムを主体としてなるものであり、酸化マグネシウムの純度(含有フッ素量を含めずに算出した純度)としては99.9質量%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の発光体では、酸化マグネシウムに対し添加物としてフッ素が含まれている。そのフッ素含量としては酸化マグネシウムに対して100ppm未満である。フッ素含量が100ppmを超えると、PDPの放電開始電圧が上昇する可能性がある。また、フッ素含量が5ppm以上となるように焼成を行うと、焼成工程での粒成長を回避することができるため、5ppm以上100ppm未満がより好ましい。
【0025】
本発明の発光体は、電子線又は紫外線が照射されると、これらによる励起に基づいて波長200〜300nmの紫外線領域にピークを持つ発光をするものである。さらに、その発光の程度は、波長980nm近傍の、励起光ランプの反射ピークに対する、前記発光ピークの強度比(発光ピーク/反射ピーク)が、20以上となるものである。当該ピーク強度比が20以上であると、フッ素を100ppmより多く含む酸化マグネシウムと同程度以上の紫外光発光強度を持つことになるため、PDPの発光効率の向上に効果がある。これにより、本発明の発光体を、AC型のPDPの誘電体保護層の放電空間側の表面に形成される紫外光放出層として好適に使用することが可能となる。前記発光ピークの強度比は30以上が好ましい。
【0026】
本発明の発光体は粉末状のものであり、粒径としては、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8μm以上4.0μm以下であることが好ましい。前記粒子径が0.8μm未満の酸化マグネシウム粉末は、誘電体保護層の表面に塗布して紫外光放出層を形成しようとする際に、凝集しやすいため、良好な紫外光放出層を得ることが困難である。また、前記粒子径が4.0μmを超えると、誘電体保護層の表面に配置した際に、光の透過率が低下する傾向が生じる。前記粒子径が0.8μm以上4.0μm以下であると、塗布により誘電体保護層表面に配置する際に分散性が良く、また、光の透過率を損なうこともない。好ましくは1.0μm以上4.0μm以下、より好ましくは1.5μm以上4.0μm以下である。
【0027】
次に本発明の発光体の製造方法について説明する。
【0028】
まず、(1)酸化マグネシウム前駆体に、フッ素化合物を添加する。フッ化化合物の添加量は、後の焼成時間の温度及び時間を考慮して適宜決定することができるが、例えば、マグネシウムに対してフッ素が0.06〜1.25mol%、好ましくは0.1〜1mo1%となる量である。この段階ではフッ化化合物を過剰に添加して、後の焼成工程でフッ素含量を低減する。
【0029】
前記酸化マグネシウム前駆体とは、焼成することにより酸化マグネシウムに変化する化合物のことをいう。前記酸化マグネシウム前駆体の具体的な種類としては、例えば、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、得られる酸化マグネシウム発光体の発光強度が良いので、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0030】
酸化マグネシウム前駆体は純度の高いものが好ましく、具体的な純度としては、99.9質量%以上が好ましく、99.95質量%以上がより好ましい。
【0031】
前記酸化マグネシウム前駆体の調製方法は特に限定されないが、液相合成法が好ましい。水酸化マグネシウムを液相合成法で調製するには、例えば、塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を混合して、水酸化マグネシウムスラリーを得、当該スラリーを濾過する。濾過して得られたケーキを、イオン交換水で水洗し、当該ケーキを乾燥機にて乾燥し、水酸化マグネシウムを得る。
【0032】
前記フッ素化合物としては特に限定されないが、フッ化塩が好ましい。具体的には、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムが挙げられる。得られる酸化マグネシウムの純度を低下させないため、フッ化マグネシウムが好ましい。フッ化マグネシウムは、純度が99.9質量%以上のものを使用することが好ましい。このような高純度品としては市販の試薬を使用することができ、例えば、(株)高純度化学研究所製の試薬(純度99.9質量%)などを使用することができる。
【0033】
フッ素化合物の添加方法は特に限定されないが、酸化マグネシウム前駆体を作製する際に添加してもよく、酸化マグネシウム前駆体を焼成する際に添加してもよい。
【0034】
発光強度を向上させるため、フッ素以外に、1価、2価、3価、又は4価の金属元素(ただし、マグネシウムを除く)を、酸化マグネシウムに対して50〜300ppmの量でさらに添加してもよい。このような金属元素としては、具体的には、Li、Be、Na、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、Ir、Au、Tl、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。金属元素の添加方法は、特に限定されないが、酸化マグネシウム前駆体を作製する際に添加してもよく、酸化マグネシウム前駆体を焼成する際に添加してもよい。例えば、金属元素としてアルミニウムを添加する場合、酸化マグネシウム前駆体を作製する際に、最終生成物である酸化マグネシウムに対し、50〜300ppmの量でアルミニウムが含まれるよう、適量の塩化アルミニウム六水塩(試薬:高純度化学研究所製)を、水酸化ナトリウム水溶液に溶解させてもよい。金属元素の含有量は、50ppm以上であると、当該金属元素添加による発光強度改善効果が十分に達成され、300ppm以下であると、酸化マグネシウム発光体の純度が高いために結晶性が良好であり、十分な発光強度を確保できるため、50〜300ppmの量が好ましい。
【0035】
次に、(2)フッ素化合物が添加された前記酸化マグネシウム前駆体を焼成してフッ素含有酸化マグネシウムを作製する(一次焼成)。焼成方法は、閉鎖系又は開放系のいずれでもよい。例えば、酸化マグネシウム前駆体を坩堝に入れ、蓋をして焼成する。焼成時の温度としては、酸化マグネシウム前駆体が完全に酸化マグネシウムに変わる350℃以上であればよく、600〜1500℃が好ましい。焼成時間は焼成温度によるが、上記と同様の理由から、0.5〜5時間が好ましい。昇温速度は特に限定されないが、1〜10℃/min程度である。この一次焼成により、粉末状のフッ素含有酸化マグネシウムが形成されるが、フッ素含量はまだ十分に低減されていない。
【0036】
酸化マグネシウム前駆体の焼成後、(3)得られたフッ素含有酸化マグネシウムを一旦、常温まで冷却する。冷却方法は、温度プロファイルに従って、降温速度を1〜10℃/minに設定した段階的な冷却でもよいし、自然冷却でもよい。
【0037】
最後に、(4)自然冷却されたフッ素含有酸化マグネシウムを再度焼成することで、本発明の酸化マグネシウム発光体を製造する(二次焼成)。この2回目の焼成により、十分にフッ素含量が低減され、かつ十分な発光強度を持つフッ素含有酸化マグネシウム粉末が得られる。2回の焼成を行なわず、1回の焼成を長時間行なうことで発光体に含まれるフッ素含量を100ppm未満に低減しようとすると、発光強度が低下してしまい、さらに、粒成長がおこってしまう。よって、紫外光放出層として好適に使用できる小粒径のフッ素含有酸化マグネシウム粉末を得ることができない。本発明の製造方法では、冷却を挟んで2回の焼成を行なうことにより、フッ素含量を100ppm未満に低減しながらも十分な発光強度を持ち、かつ、粒成長を回避した酸化マグネシウムを得ることができる。
【0038】
二次焼成での焼成炉は閉鎖系又は開放系のいずれでもよい。しかし、フッ素含量を効果的に低減するために、炉内の雰囲気が流通する開放系が好ましい。具体的には、(3)で得られたフッ素含有酸化マグネシウムを坩堝に入れ、焼成する。焼成時の温度としては、フッ素含量を十分に低減するため、800〜1700℃が好ましく、1000℃〜1600℃がより好ましい。焼成時間は焼成温度によるが、フッ素含量を十分に低減するため、0.5〜5時間が好ましい。昇温速度は特に限定されないが、1〜10℃/min程度である。更に、紫外光の発光強度を向上させること、及びフッ素含量を低減することを目的として、焼成時の雰囲気ガス又は大気の流通量を調整し、炉内に流通する空気量の割合を調節してもよい。
【0039】
以上の工程により、本発明のフッ素含有酸化マグネシウム発光体を得ることができる。
【0040】
本発明の発光体は、紫外線領域の波長200〜300nmで強力に発光をするので、プラズマディスプレイパネルを始め各種光学デバイスに応用することができる。
【0041】
特に本発明の発光体は、PDPにおいて誘電体保護膜上に設けられる紫外光放出層を構成する発光体として好適に利用することができる。当該紫外光放出層を形成するには、本発明の発光体であるフッ素含有酸化マグネシウム粉末を、スプレー法や静電塗布法などによって直接、前記保護膜表面に付着させるようにしてもよいし、当該粉末を含有するペーストを作製して、当該ペーストを前記保護膜に塗布、乾燥させるようにしてもよい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
以下の実施例及び比較例では、以下に示す手順に沿って各種物性等を測定した。
【0044】
(1)酸化マグネシウム中のフッ素含量
試料を塩酸で溶解して調製した溶液中のフッ素量をイオン電極法(装置名:イオン計D−53S、HORIBA製)により測定した。
【0045】
(2)体積基準の累積50%粒子径(D50
レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(装置名:MT3300、日機装社製)により、体積基準の累積50%粒子径(D50)を測定した。
【0046】
(3)フォトルミネッセンスの測定法
真空チャンバーに、146nmの励起光を発するXeエキシマランプと、計測波長範囲が200〜1000nmの分光検出器を具備するフォトルミネッセンス測定装置を使用した。試料を充填した試料セルを、真空チャンバー内の所定位置に設置した後、真空チャンバー内の圧力が1.0×10−1Pa以下になるまで減圧した。次いで、試料セルを計測位置に移動させ、励起光を1000ms照射することで、試料から放射された発光の発光スペクトルを測定した。
【0047】
測定された発光スペクトルから、紫外線領域200〜300nmにあるピークトップの強度を読み取った。ピークトップの強度を、波長980nm近傍にある励起光ランプの反射ピークが示す強度で除し、強度比を求めた。
【0048】
(4)酸化マグネシウム前駆体及び酸化マグネシウムの純度測定法
酸化マグネシウム前駆体及び酸化マグネシウムの純度は、添加したフッ素を除き、以下の方法により測定した不純物量の合計を100質量%から差し引いた値として算出した。
【0049】
(5)不純物元素の質量測定法
測定対象となる不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)について、試料を酸に溶解した後、ICP発光分析装置(装置名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して、質量を測定した。Cl量は、試料を酸に溶解した後、分光光度計(装置名:UV−2550、島津製作所製)を使用して、質量を測定した。
【0050】
以下に各実施例及び比較例での焼成品の製造手順について説明する。
【0051】
(実施例1)
純度99.95質量%の水酸化マグネシウムに、マグネシウムに対してフッ素が0.105mol%となるように純度99.9質量%のフッ化マグネシウム(試薬:高純度化学研究所製)を添加し、これを坩堝に入れて蓋をした。
【0052】
次いで、電気炉において、大気雰囲気中、昇温速度3℃/minで昇温し、焼成温度1100℃で5時間、一次焼成を行った。
【0053】
次いで、自然冷却で常温まで冷却した。
【0054】
さらに、電気炉において、大気雰囲気中、昇温速度3℃/minで昇温し、焼成温度1400℃で1時間、二次焼成を行った。
【0055】
(実施例2)
二次焼成をガス炉において行い、二次焼成の焼成温度を1200℃、焼成時間を3時間とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0056】
(実施例3)
一次焼成の焼成温度を1200℃、焼成時間を1時間とし、また、二次焼成をガス炉において行い、二次焼成の焼成温度を1200℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0057】
(実施例4)
一次焼成の焼成温度を1200℃、焼成時間を1時間とし、また、二次焼成をガス炉において実施した以外は、実施例1と同様に行った。
【0058】
(実施例5)
一次焼成をガス炉において行い、一次焼成の焼成温度を1200℃、焼成時間を1時間とし、また、二次焼成をガス炉において実施した以外は、実施例1と同様に行った。
【0059】
(実施例6)
フッ素の添加量を、マグネシウムに対して1.052mol%とし、また、二次焼成の焼成温度を1200℃とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0060】
(実施例7)
フッ素の添加量を、マグネシウムに対して1.052mol%とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0061】
(実施例8)
添加したフッ素源を、純度99質量%のフッ化ナトリウム(試薬:高純度化学研究所製)とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0062】
(実施例9)
添加したフッ素源を、純度99質量%のフッ化カリウム(試薬:高純度化学研究所製)とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0063】
(実施例10)
酸化マグネシウム前駆体を、純度99.9質量%の塩基性炭酸マグネシウム(試薬:高純度化学研究所製)とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0064】
(実施例11)
酸化マグネシウム前駆体を、純度99.9質量%の酢酸マグネシウム(試薬:高純度化学研究所製)とした以外は、実施例5と同様に行った。
【0065】
(実施例12)
最終生成物であるフッ素含有酸化マグネシウム粉末に、マグネシウムに対してアルミニウムが100ppm程度含まれるように、純度99.9質量%の塩化アルミニウム六水塩(試薬:高純度化学研究所製)を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に溶解させたものを使用し、水酸化マグネシウムを作製した。この水酸化マグネシウムを用いた以外は、実施例5と同様に行った。
【0066】
(実施例13)
最終生成物であるフッ素含有酸化マグネシウム粉末に、マグネシウムに対してカルシウムが60ppm程度含まれるように、純度99質量%の塩化カルシウム二水塩(試薬:高純度化学研究所製)を塩化マグネシウム(MgCl2)水溶液に溶解させたものを使用し、水酸化マグネシウムを作製した。この水酸化マグネシウムを用いた以外は、実施例5と同様に行った。
【0067】
(比較例1)
純度99.95質量%の水酸化マグネシウムに、マグネシウムに対してフッ素が0.031mol%となるように純度99.9質量%のフッ化マグネシウム(試薬:高純度化学研究所製)を添加し、これを坩堝に入れて蓋をした。
【0068】
電気炉において、大気雰囲気中、昇温速度3℃/minで昇温し、焼成温度1200℃で1時間焼成した。
【0069】
(比較例2)
フッ素の添加量を、マグネシウムに対して0.063mol%とし、また、焼成時間を5時間とした以外は、比較例1と同様に行った。
【0070】
(比較例3)
焼成温度を1500℃とした以外は、比較例1と同様に行った。
【0071】
(比較例4)
フッ素の添加量を、マグネシウムに対して0.105mol%とし、また、焼成をガス炉において実施した以外は、比較例1と同様に行った。
【0072】
(比較例5)
焼成時間を3時間とした以外は、比較例4と同様に行った。
【0073】
(比較例6)
焼成温度を1400℃とした以外は、比較例4と同様に行った。
【0074】
(比較例7)
フッ素の添加量を、マグネシウムに対して1.052mol%とし、また、焼成温度を1500℃とした以外は、比較例4と同様に行った。
【0075】
(比較例8)
酸化マグネシウム前駆体である水酸化マグネシウムの代わりに、純度99.95質量%の酸化マグネシウムを使用した以外は、比較例1と同様に行った。
【0076】
(比較例9)
酸化マグネシウム前駆体である水酸化マグネシウムの代わりに、純度99.95質量%の酸化マグネシウムを使用し、フッ素の添加量をマグネシウムに対して0.316mol%とした以外は、比較例1と同様に行った。
【0077】
以上で得られたフッ素含有酸化マグネシウムの各分析結果を以下の表1に示す。
【0078】
【表1】


表1より、2段階の焼成により得られたフッ素含有酸化マグネシウム(実施例1〜13)は、フッ素含量が100ppm未満と低いものでありながら、発光ピーク強度比が20以上と、極めて強く紫外光を放出することが分かる。一方、1段階の焼成により得られたフッ素含有酸化マグネシウム(比較例1〜9)は、フッ素含量を100ppm未満と低くした場合には、発光ピーク強度比が20未満と紫外光の放出が十分でなく、また、逆に発光ピーク強度比が20以上の場合には、フッ素含量が100ppm以上であるため、PDPの放電開始電圧の上昇を抑制することができないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線又は紫外線による励起に基づいて紫外線領域200〜300nmに発光ピークを有する酸化マグネシウム発光体であって、
酸化マグネシウムに対するフッ素含量が100ppm未満であり、かつ
波長980nm近傍の、励起光ランプの反射ピークに対する、前記発光ピークの強度比が、20以上である、フッ素含有酸化マグネシウム発光体。
【請求項2】
酸化マグネシウムに対して、1価、2価、3価、又は4価の金属元素(ただし、マグネシウムを除く)が、50ppm以上300ppm未満含まれてなる、請求項1に記載の発光体。
【請求項3】
前記金属元素が、Li、Be、Na、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、Ir、Au、Tl、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選ばれる一種類又は二種類以上である、請求項2に記載の発光体。
【請求項4】
フッ素を除外して算出した酸化マグネシウムの純度が99.9質量%以上である、請求項1に記載の発光体。
【請求項5】
フッ素及び前記金属元素を除外して算出した酸化マグネシウムの純度が99.9質量%以上である、請求項2又は3に記載の発光体。
【請求項6】
レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.8μm以上4.0μm以下のフッ素含有酸化マグネシウム粉末からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の発光体。
【請求項7】
プラズマディスプレイパネルの放電空間内に配置するために用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の発光体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の発光体を製造する方法であって、
酸化マグネシウム前駆体に、マグネシウムに対しフッ素が0.06〜1.25mol%となる量でフッ素化合物を添加して焼成することで、フッ素含有酸化マグネシウムを得る工程、
前記フッ素含有酸化マグネシウムを一旦冷却した後、再度焼成することで、前記発光体を得る工程、を含む、方法。
【請求項9】
前記酸化マグネシウム前駆体は、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、及び、シュウ酸マグネシウムからなる群より選択される、請求項8記載の方法。


【公開番号】特開2012−101988(P2012−101988A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253466(P2010−253466)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】