説明

フッ素樹脂成形品の製造方法、分析用樹脂容器及び元素分析方法

【課題】試料等への汚染がほとんど無く、高精密な元素分析に用いるのに好適なフッ素樹脂成形品を製造する方法、その製造方法により製造された分析用樹脂容器、及びそれを用いた元素分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】加圧して焼成することによりフッ素樹脂を成形する成形工程の後、該成形されたフッ素樹脂の表面を溶融する表面溶融工程を有するフッ素樹脂成形品の製造方法、当該製造方法により製造された分析用樹脂容器、及び当該分析用樹脂容器を用いた元素分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用樹脂容器や元素分析方法に用いることができるフッ素樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性等を備え、更に低摩耗性、非粘着性の性質を持ち合わせているため化学工業、電子工業分野で多用されている。フッ素樹脂の中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)は、半導体分野において様々な部品や工程に用いられており、欠かせない材料のひとつである。
【0003】
半導体分野において微量金属元素分析に用いられるPTFE等のフッ素樹脂は、原料体を加圧・焼成した成形品を切削加工し、好みの形状に成形して用いられるが、切削加工時の金属汚染のため、金属汚染除去洗浄を施す必要がある。例えばデバイス製造に用いられる材料の試料中の不純物元素を分析する際に用いる容器として、フッ素樹脂成形品を用いる場合には、分析のバックグラウンドを十分に下げるために、特に入念に洗浄する必要がある。
【0004】
しかし、上記のように成形されるフッ素樹脂の成形品の表面には凹凸があり、この凹凸に付着した不純物等は洗浄で除去しきれず、微量金属元素の分析の際に試料中に混入し、精密な元素分析を行うことが困難であった。
これらを抑制するため、成形品表面の平滑化による方法(特許文献1参照)があり、当該方法は成形品表面への金属元素の付着防止には効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−293069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フッ素樹脂は焼成後の成形品表面の凹凸以外に、成形品内部に微細な空間を有しており、その空間に閉じ込められた金属汚染の影響で、平滑化を行った場合でも、洗浄後の成形品表面から金属不純物の溶出が起こることがあり、微量金属元素の分析にあたり、バックグラウンドレベルの変動の要因になるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、試料等への汚染がほとんど無く、高精密な元素分析に用いるのに好適なフッ素樹脂成形品を製造する方法、当該製造方法により製造された分析用樹脂容器、及び当該分析用樹脂容器を用いた元素分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも、原料を加圧焼成した後、機械加工することによりフッ素樹脂を所望形状に成形する成形工程の後、該成形されたフッ素樹脂の表面を溶融する表面溶融工程を有することを特徴とするフッ素樹脂成形品の製造方法を提供する。
【0009】
このように、フッ素樹脂成形品の製造において、原料を加圧焼成した後、機械加工することによりフッ素樹脂を所望形状に成形する成形工程の後、成形されたフッ素樹脂の表面を溶融する表面溶融工程を有することで、成形されたフッ素樹脂の表面を溶融して表面の微細な孔を消滅させて、内部から不純物が溶出することを防止することができるため、試料等への汚染が無く、高清浄化が容易なフッ素樹脂成形品を製造することができる。
【0010】
このとき、前記成形されるフッ素樹脂を、ポリテトラフルオロエチレンとすることができる。
このように、本発明において成形されるフッ素樹脂を、微量金属元素分析等で頻繁に用いられているポリテトラフルオロエチレンとすることができる。
【0011】
このとき、前記表面溶融工程において、前記成形されたフッ素樹脂の表面を340℃より高く380℃以下の温度で溶融することが好ましい。
このように、表面溶融工程において、成形されたフッ素樹脂の表面を340℃より高く380℃以下の温度で溶融することで、溶融する範囲の調節が容易で、かつ表面の微細な孔を確実に消滅させることができるため、より高品質のフッ素樹脂成形品を製造することができる。
【0012】
このとき、前記表面溶融工程の後、前記フッ素樹脂の溶融された表面を切削加工又は研磨加工により平滑化処理して表面粗さ(Ra)を200nm以下にする工程を有することが好ましい。
このように、表面溶融工程の後、フッ素樹脂の溶融された表面を切削加工又は研磨加工により平滑化処理して表面粗さ(Ra)を200nm以下にする工程を有することで、表面の凹凸を十分に低減して、不純物の付着を抑制し、より高清浄なフッ素樹脂成形品を製造することができる。
【0013】
また、本発明は、測定試料中の金属元素を分析する際に用いる分析用樹脂容器であって、本発明のフッ素樹脂成形品の製造方法により製造されることによって、表面が溶融処理されたフッ素樹脂成形品であることを特徴とする分析用樹脂容器を提供する。
このような分析用樹脂容器であれば、容器由来の試料の汚染がほとんどなく、高精密な分析を行うことができる容器となる。
【0014】
また、本発明は、本発明の分析用樹脂容器内で測定試料を溶解して前処理を行い、該測定試料中の金属元素を4×10atoms/cm以下の検出下限で化学分析することを特徴とする元素分析方法を提供する。
このように、本発明の分析用樹脂容器内で測定試料を溶解して前処理を行うことで、測定試料中の金属元素を4×10atoms/cm以下の検出下限で化学分析することが可能となり、分析結果にバラツキが無く、試料中の金属不純物を高感度に検出できる元素分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、内部からの不純物の溶出がほとんど無く、高清浄なフッ素樹脂成形品を製造できるため、製造されたフッ素樹脂成形品を例えば分析用樹脂容器として用いて元素分析を行うことで、高精密な分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のフッ素樹脂成形品の製造方法の実施態様の一例を示すフロー図である。
【図2】フッ素樹脂成形体の洗浄工程の一例を示すフロー図である。
【図3】実施例、比較例において製造した分析用樹脂容器を用いて元素分析した際の検出下限値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明のフッ素樹脂成形品の製造方法の実施態様の一例を示すフロー図である。図2は、フッ素樹脂成形体の洗浄工程の一例を示すフロー図である。
【0018】
図1(a)に示すように、本発明の製造方法では、まず、例えば粉体のフッ素樹脂原料を加圧して焼成することにより得られたフッ素樹脂体を機械加工して所望の形状に成形した成形体11を作製する。
このとき、成形されるフッ素樹脂としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等とすることができる。
【0019】
また、上記のようにフッ素樹脂原料を加圧焼成した後、機械加工して、容器形状の成形体11を作製した後、成形体11の表面の不純物除去のために洗浄を行っても良い。
このとき行う洗浄としては、特に限定されず、例えば図2(a)に示すように、成形したフッ素樹脂成形体11を、洗浄容器17内の薬液15に浸して、120℃に加熱したホットプレート14上で1時間洗浄を行う。この薬液15としては、例えばフッ酸(50Wt%)、硝酸(61Wt%)、塩酸(35Wt%)、純水を容量比1:1:1:2で混合した溶液とすることができる。この洗浄により、フッ素樹脂成形体11の表面に付着した金属不純物を除去することができる。そして、上記洗浄後は図2(b)に示すように、水洗容器18内の純水16に浸して水洗を行う。
【0020】
次に、図1(b)に示すように、成形したフッ素樹脂成形体11の内表面を例えば赤外線ランプ12で溶融する。
このように、フッ素樹脂の表面を溶融することで、加圧、焼成した後、機械加工して成形したフッ素樹脂成形体の表層の微細な孔を消滅させることができる。このため、フッ素樹脂成形品内部からの不純物の溶出をほとんど無くすことができる。
【0021】
このとき、成形したフッ素樹脂成形体11の表面10を溶融する温度としては、340℃より高く380℃以下の温度範囲が好ましい。
このような範囲の温度であれば、成形したフッ素樹脂成形体の表面の溶融する範囲の調節が容易である。また、340℃より高い温度であれば、フッ素樹脂成形体の表面を確実に溶融することができ、フッ素樹脂成形体の表層付近の微細な孔を効果的に消滅させることができる。また、加熱時は段階的に昇温することで、フッ素樹脂内部にさらに気泡が発生することを防止でき、好適である。
なお、溶融後は、室温程度まで自然放冷することができる。
【0022】
このような、フッ素樹脂成形体11の表面の溶融する表面10の範囲としては、分析用樹脂容器として製造する場合には、図1(b)のように、試料と直接触れる内側の表面のみ溶融するのが効率的であるが、外側の表面も溶融して全表面を溶融することもでき、溶融する表面の範囲は用途に合わせて適宜決定することができる。
【0023】
次に、図1(c)に示すように、フッ素樹脂成形体11の溶融された表面10を、切削加工又は研磨加工により平滑化処理して表面粗さ(Ra)を200nm以下にすることが好ましい。
これにより、表面溶融後の冷却過程で生じた歪み等を除去することができ、表面粗さ(Ra)を200nm以下とすれば、表面に付着する不純物を低減でき、より高清浄なフッ素樹脂成形品13を製造することができる。
【0024】
このような平滑化する工程の後に、例えば上記したような図2に示したのと同様の洗浄を行うことができ、また、洗浄を複数回繰り返すこともできる。
【0025】
以上のような、本発明の製造方法により、フッ素樹脂成形品13を製造する。そして、この表面が溶融処理されたフッ素樹脂成形品13を分析用樹脂容器として用いて、当該分析用樹脂容器内で測定試料を溶解して前処理を行う。
これにより、試料への容器由来の汚染がほとんどない分析を行うことができ、測定試料中の金属元素を4×10atoms/cm以下の検出下限で高感度に化学分析を行うことができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
PTFEの原料体を加圧、焼成した後、機械加工することにより、分析用樹脂容器の形状に成形してPTFE成形体を製造した。このPTFE成形体表面に付着している金属不純物を除去するため、フッ酸(50Wt%)、硝酸(61Wt%)、塩酸(35Wt%)、純水を容量比1:1:1:2で混合した薬液に浸し、120℃に加熱したホットプレートで1時間洗浄を行い、洗浄後は純水による水洗を行った(図2(a)、(b))。この工程を数回繰り返して成形工程起因の金属不純物を除去した。
【0027】
続いて、上記PTFE成形体の内側の表面を赤外線ランプで加熱し、およそ380℃でPTFE成形体の内表面を溶融化して表面溶融工程を行った。
表面溶融後は自然放冷により室温程度まで冷却し、冷却過程で生じた歪等を除去するため溶融面を切削あるいは研磨し、表面を平滑化した。更に、溶融面の切削あるいは研磨時に付着した不純物を除去するために、フッ酸(50Wt%)、硝酸(61Wt%)、塩酸(35Wt%)、純水を容量比1:1:1:2で混合した薬液に浸し、120℃に加熱したホットプレートで1時間洗浄を行い、洗浄後は純水による水洗を行った。この工程を数回繰り返して溶融後の切削あるいは研磨工程起因の金属不純物を除去した。
以上の工程により、表面粗さ(Ra)128nmの容器a(精密加工)と、表面粗さ(Ra)1200nmの容器b(通常加工)の表面粗さの異なる2つの容器を製造した。
【0028】
上記工程を経て製造された容器a、容器bに対して、シリコンウェーハ片0.3gを気相分解する条件(フッ酸蒸気+硝酸蒸気、120℃、12時間)と同一条件で処理を行い、当該容器内面からの金属不純物溶出を含む総金属不純物量を測定した結果をシリコン0.3g相当量で換算した値を図3に示す。
【0029】
(比較例)
実施例と同様に、ただし、表面溶融工程を行わないで、表面粗さ(Ra)200nmの容器c(精密加工)と、表面粗さ(Ra)1200nmの容器d(通常加工)の表面粗さの異なる2つの容器を製造した。
【0030】
上記のように製造された容器c、dに対して、シリコンウェーハ片0.3gを気相分解する条件(フッ酸蒸気+硝酸蒸気、120℃、12時間)と同一条件で処理を行い、当該容器内面からの金属不純物溶出を含む総金属不純物量を測定した結果をシリコン0.3g相当量で換算した値を図3に示す。
【0031】
図3に示すように、例えば容器aでは、シリコン0.3g相当量で換算するとAl、Caで1.5×10atoms/cm、Feで2.5×10atoms/cmとなった。試料を容器に入れて前処理した場合には、容器のみからの金属不純物量である上記測定値が検出下限値となり、本発明の製造方法により製造されて、表面が溶融されたフッ素樹脂成形品を容器として用いれば、測定試料中の金属元素を4×10atoms/cm以下の検出下限で化学分析できることがわかる。
一方、図3から分かるように、表面溶融処理を行っていない容器c、dは、容器a、bと同様の洗浄を行ったにもかかわらず、検出された金属不純物量が多かった。容器c、dからは容器内部からの金属不純物の溶出が多かったためと考えられる。
【0032】
また、表面溶融有りで表面粗さが大きい容器bは、表面溶融無しで表面粗さが小さい容器cより、金属不純物の溶出量が小さいことがわかる。これより、平滑化処理よりも本発明の表面溶融処理の方が金属不純物低減効果が大きいことがわかる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0034】
10…溶融された表面、 11…フッ素樹脂成形体、 12…赤外線ランプ、
13…フッ素樹脂成形品、 14…ホットプレート、 15…薬液、
16…純水、 17…洗浄容器、 18…水洗容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、原料を加圧焼成した後、機械加工することによりフッ素樹脂を所望形状に成形する成形工程の後、該成形されたフッ素樹脂の表面を溶融する表面溶融工程を有することを特徴とするフッ素樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形されるフッ素樹脂を、ポリテトラフルオロエチレンとすることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記表面溶融工程において、前記成形されたフッ素樹脂の表面を340℃より高く380℃以下の温度で溶融することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフッ素樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記表面溶融工程の後、前記フッ素樹脂の溶融された表面を切削加工又は研磨加工により平滑化処理して表面粗さ(Ra)を200nm以下にする工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
測定試料中の金属元素を分析する際に用いる分析用樹脂容器であって、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のフッ素樹脂成形品の製造方法により製造されることによって、表面が溶融処理されたフッ素樹脂成形品であることを特徴とする分析用樹脂容器。
【請求項6】
請求項5に記載の分析用樹脂容器内で測定試料を溶解して前処理を行い、該測定試料中の金属元素を4×10atoms/cm以下の検出下限で化学分析することを特徴とする元素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140147(P2011−140147A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1137(P2010−1137)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】