説明

フッ素樹脂2層チューブ及びその製造方法

【課題】 耐食性や耐薬品性に優れる内層側チューブと、ガス非透過性に優れる外層側チューブとが強固に接合され、ガス透過の少ないフッ素樹脂2層チューブを安価に提供する。
【解決手段】 PFA、FEPまたはETFEからなる内層側チューブと、PVDFからなる外層側チューブとからなる2層チューブであって、前記内層側チューブと前記外層側チューブとが溶着されていることを特徴とするフッ素樹脂2層チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共にフッ素樹脂からなるチューブを2層に積層してなるフッ素樹脂2層チューブ及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や液晶製造装置等では、半導体ウエハはガラス基板の処理のために機能水や各種薬液が多く使用されており、これら液体の輸送のために、耐食性や耐薬品性等に優れるテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂製の配管(チューブ)が一般に使用されている。
【0003】
しかし、上記のフッ素樹脂チューブは、ガスの透過を完全に防止できず、例えば、塩酸の輸送ラインでは、塩素ガスが透過して本来の処理ができなくなるおそれがあり、更には透過した塩素ガスが周囲の機器を腐食するおそれもある。また、機能水についても、例えば、水素添加水は水素濃度を調整しているため、水素透過により水素濃度が変動し、純水でも溶存酸素濃度の変動が起こる。
【0004】
このようなガスの透過を解決するために、耐食性や耐薬品性に優れるPFA、PTFE、FEPからなる内層側チューブと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のガスの透過を防ぐ効果の高い樹脂からなる外層側チューブとを積層した2層構造のチューブも提案されている。しかし、PFA、PTFE、FEP、PVDFは非粘着性のため他の材料との接合が非常に困難であるため、通常は、内層側チューブの外表面を改質したり、粗面化して、接着剤やプライマー層を介して外層側チューブを接合している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、官能基を有する有機化合物を含む不活性ガス雰囲気中で放電処理することにより、接着剤やプライマー層を介さずに接合したフッ素樹脂2層チューブも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特公平2−54848号公報
【特許文献2】特公昭59−51421号公報
【特許文献3】特開平5−318553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のフッ素樹脂2層チューブは、接合強度が必ずしも十分とはいえず、配管の際に曲げられたりすると、内層側チューブと外層側チューブとの接合面に隙間が生じ、この隙間に内層側チューブを透過したガスが滞留して接着剤やプライマー層を劣化させて徐々に隙間がチューブ長手方向に延びるように形成され、最終的にこの隙間を通じてガス漏れを起こすようなる。また、フッ素素樹脂同士の接着強度は得にくい。
【0007】
また、表面改質方法も、コロナ放電処理やグロー放電処理、プラズマ放電処理、スパッタリング処理などによる放電処理が主流であり、処理装置が大規模で、処理コストも高いものとなっている。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、耐食性や耐薬品性に優れる内層側チューブと、ガス非透過性に優れる外層側チューブとが強固に接合され、ガス透過の少ないフッ素樹脂2層チューブを安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の目的を達成するために、下記のフッ素樹脂2層チューブ及びその製造方法を提供する。
(1)PFA、FEPまたはETFEからなる内層側チューブと、PVDFからなる外層側チューブとからなる2層チューブであって、前記内層側チューブと前記外層側チューブとが溶着されていることを特徴とするフッ素樹脂2層チューブ。
(2)前記内層側チューブと前記外層側チューブとの溶着強度が3N/cm以上であることを特徴とする上記(1)記載のフッ素樹脂2層チューブ。
(3)前記外層側チューブの厚さが10μm〜0.6mmであることを特徴とする上記(1)または(2)記載のフッ素樹脂2層チューブ。
(4)前記内層側チューブの外表面が親水化処理されていることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のフッ素樹脂2層チューブ。
(5)PFA、FEPまたはテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる内層側チューブの外表面に親水化処理を施し、加熱処理した後、前記内層側チューブをコアとしてPVDFにより押出し被覆した後、所定圧力で圧着させることを特徴とするフッ素樹脂2層チューブの製造方法。
(6)前記加熱処理を、160〜180℃で7〜10分間行うことを特徴とする上記(5)記載のフッ素樹脂2層チューブの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性や耐薬品性に優れるPFA、PTFE、FEPからなる内層側チューブと、ガス非透過性に優れるPVDFからなる外層側チューブとが強固に接合され、ガス漏れの無いフッ素樹脂2層チューブが提供される。また、製造方法においても、一般的な電線の被覆層を形成する押出し被覆法に親水化処理を付加するだけでよく、低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
本発明のフッ素樹脂2層チューブは、内層側チューブを耐食性や耐薬品性に優れるPFA、PTFEまたはFEP製とし、外層側チューブをガス非透過性に優れるPVDF製とする。これは個別には、従来から半導体製造装置等の液送ラインに使用されており、本発明でもこれら各チューブを用いる。
【0013】
そして、本発明では上記の内層側チューブと外層側チューブとを強固に接合するために、以下の工程を行い、フッ素樹脂2層チューブを作製する。先ず、内層側チューブの外表面に親水化処理を施す。親水化の程度は、水の接触角が70°程度になることが好ましく、このような親水化を実現できる方法を選択する。
【0014】
具体的には、親水化方法としては、金属ナトリウムと、ナフタレンと、THFとの混合溶液に内層側チューブを浸漬した後、メタノール洗浄してナフタレンを除去し、水洗によりフッ化ナトリウムを除去する方法が適当である。
【0015】
親水化処理後、内層側チューブをコアとし、その外表面に直接、外層側チューブ材料であるPVDFを押出し被覆する。この被覆時において、接合高度を高めるためには、内層側チューブと、ノズルから押出されて内層側チューブと接するPVDFとの温度ができるだけ一致していることが好ましく、PVDFの押出し温度を考慮すると、前記温度は140〜160℃が好ましく、そのためには内層側チューブをノズルに送り込まれる前に160〜180℃に加熱する。但し、後述する実施例にも示すように、加熱時間が短いと十分な接合強度が得られず、加熱時間が長いと気泡等が発生して外観不良を起こすようになる。そこで、本発明では、被覆前に、親水化処理した内層側チューブを160〜180℃で7〜10分間加熱を行う。
【0016】
尚、上記の押出し被覆は、電線の外皮(シース)を形成するときに広く行われており、一般的な電線用被覆装置を転用することができる。
【0017】
次いで、PVDF被覆チューブを圧着ブロックに挿通して内層側チューブと外層側チューブとを圧着させ、同時に外径制御を行う。このときの圧力は0.05〜0.3MPaが適当であり、更に圧着ブロックを加熱することが好ましい。
【0018】
そして、空冷して本発明のフッ素樹脂2層チューブが得られる。尚、外層側チューブの厚さは、十分なガス非透過性を確保するにはより厚い方が好ましいが、フッ素樹脂2層チューブ全体としての柔軟性や成形性等を勘案すると、10μm〜0.6mmとすることが好ましい。
【0019】
このようにして得られる本発明のフッ素樹脂2層チューブでは、内層側チューブと外層側チューブとの間に3N/cm以上という高い接合強度が得られる。
【実施例】
【0020】
<試験−1>
内径4.35mmで外径6.35mmのPFA製チューブを、金属ナトリウム、ナフタレン及びTHFからなる溶液に浸漬し、メタノール洗浄及び水洗して親水化処理した。親水化の度合いを示す水の接触角を測定したところ、65℃であった。
【0021】
次いで、親水化処理したPFA製チューブをコアとし、PVDFを押出し被覆した。この押出し被覆において、ノズルの直前に加熱炉を配置し、親水化処理したPFA製チューブを180℃で、表1に示す時間加熱した後、同一条件でPVDFを押出し被覆した。また、チューブの引取速度は0.7m/secとし、PVDFによる被覆量は、外層側チューブの厚さとして0.4mmとなるようにした。その後、圧着ブロックに挿通して0.1MPaにて圧着し、室温まで冷却してサンプルとした。
【0022】
また、比較のために、親水化処理を行わずに、上記と同様の加熱処理及び押出し被覆を行い、サンプルを作製した。
【0023】
そして、各サンプルについて、曲げ半径50mmにて湾曲した後、湾曲部をチューブカッタにて切断し、切断面を観察して内層側チューブと外層側チューブとの間の隙間の有無を確認し、更に90°ピール試験により剥離強度を測定した。即ち、図1に模式的に示すように、サンプルを約3mm幅に縦にカットしてテンシロン万能試験機にセットし、外層側チューブBの先端を内層側チューブAに対して垂直方向(矢印P)に引張り、引き剥がしに要する力を測定した。結果を表1に併記する。
【0024】
<試験−2>
肉厚0.6mmのPFA製チューブを試験−1と同様にして親水化処理し、10分間加熱してPVDFを0.4mmの厚さに被覆してサンプルを作製した。また、肉厚0.6mmのPFA製チューブに親水化処理することなくPVDFを0.4mmの厚さに被覆してサンプルを作製した。更に、比較のために、肉厚1mmのPFA製チューブを用意した。 そして、図2に示す装置に、各サンプルから切り出した50mのチューブを装着して純水を循環させ、チューブの入り口側の酸素濃度と出口側の酸素濃度とを測定し、その濃度差から次式により酸素透過量を算出し、透過係数に換算した。結果を表2に示す。
酸素透過量(grams/24hr)=(溶存ガス濃度(g/l)×チューブ内容積(l))/チューブ内滞留時間(24hr)
酸素透過係数(grams・mil/100in2・24hr・atm)=(酸素透過量(grams/24hr)×チューブ肉厚(mil))/(チューブ表面積(100in)×ガス差圧(atm))
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1に示すように、親水化処理を行い、更に180℃で7〜10分加熱処理した後に押出し被覆することで、内層側チューブと外層側チューブとが強固に接合されることがわかる。また、表2に示すように、ガス非透過性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】剥離強度の測定方法を説明するための模式図である。
【図2】酸素透過量の測定方法を説明するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)またはテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)からなる内層側チューブと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる外層側チューブとからなる2層チューブであって、前記内層側チューブと前記外層側チューブとが溶着されていることを特徴とするフッ素樹脂2層チューブ。
【請求項2】
前記内層側チューブと前記外層側チューブとの溶着強度が3N/cm以上であることを特徴とする請求項1記載のフッ素樹脂2層チューブ。
【請求項3】
前記外層側チューブの厚さが10μm〜0.6mmであることを特徴とする請求項1または2記載のフッ素樹脂2層チューブ。
【請求項4】
前記内層側チューブの外表面が親水化処理されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のフッ素樹脂2層チューブ。
【請求項5】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)またはテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)からなる内層側チューブの外表面に親水化処理を施し、加熱処理した後、前記内層側チューブをコアとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)により押出し被覆した後、所定圧力で圧着させることを特徴とするフッ素樹脂2層チューブの製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理を、160〜180℃で7〜10分間行うことを特徴とする請求項5記載のフッ素樹脂2層チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−112507(P2006−112507A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299808(P2004−299808)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】