説明

フッ素繊維製不織布およびその製造方法

【課題】本発明は、集じん性能と衝撃に対する耐久性とを有するフッ素繊維製不織布およびその製造方法を提供せんとするものである。
【解決手段】フッ素繊維を構成繊維とする不織布であって、下記式により定義される単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内で、かつ、60〜150%の範囲内の破断伸度を有するフッ素繊維を含むことを特徴とするフッ素繊維製不織布。
変動係数=(標準偏差/平均単繊維繊度平均値)×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフィルター、フィルター用のシーリング材、フィルター用の当て布、コピー機のトナーシール材、ガスケット等のシーリング材、有価粒子(例えば金属酸化物)の製造分野等において、その素材として用いられるフッ素繊維製不織布およびその製造方法に関する。詳しくは、単繊維繊度の変動係数が特定の範囲内にあり、かつ、高い破断伸度を有するフッ素繊維を選択的に用いたフッ素繊維製不織布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素繊維は、耐熱性、耐薬品性に優れることが知られており、フッ素繊維からなるフィルター用フェルトが開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
この従来技術においては、0.1〜20デニールの範囲内の繊度分布をもつフッ素繊維をダスト剥離層として用い、熱処理や熱プレスによってフィルターの空隙率を調整し、長期安定して排ガス中のダストろ過ができるフィルターを開示している。
【0004】
しかしながら、この技術で得られるフィルターは、大きな繊度の繊維(太い繊維)と小さな繊度の繊維(細い繊維)との混合体で構成されることから、熱処理や熱プレスによる緻密化を実施しても、部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が残るため、局部的に集塵率が悪くなるという問題があった。
【0005】
また、別の従来技術として、特別の結晶構造を有し、高強度かつ大きな引張破断伸度を有するPTFE糸状物が開示されている(例えば特許文献2)。本技術では微粉末PTFEからPTFEテープ状物を製造し、該テープ状物を長手方向に望みの幅にスリットして製造し、引張強度が5g/d以上(好ましくは6〜8g/d)、引張破断伸度が15%以上(好ましくは15〜30%)のPTFE糸状物が得られることを開示している。
【0006】
しかしながら、このようにして得られたPTFE糸状物では引張破断伸度が大きくないために、不織布にして使用された際に衝撃が加わると、引張破断伸度の大きいフッ素繊維から構成される不織布に比べて損傷を受けやすいという問題があった。また、スリットして製造される糸状物は繊維の太さが広く分布しているため、不織布に加工した場合はその表面に部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が残存するという問題もあった。
【0007】
さらにまた、別の従来技術として、分枝構造を有し、繊度が2〜200デニールであるポリテトラフルオロエチレン繊維からなる綿状物が提案されている(例えば特許文献3)。
【0008】
しかしながら、引用文献3のポリテトラフルオロエチレン繊維は、繊度の範囲が広く、大きな繊度の繊維(太い繊維として200デニールは約110μm直径)と小さな繊度の繊維(細い繊維として2デニールは約11μm直径)の混合体で不織布が構成されるため、部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が残り、局部的に集塵率が悪くなるという問題があった。あるいはまた、微細な繊維を得るために延伸によって可能な限り高倍率に延伸することが好ましいとあり、極めて小さい伸度こそが重要視されており、不織布として使用した時の衝撃に対する柔軟性付与の手法は何ら提案されていないものであった。
【0009】
また、別の従来技術として、延伸を1対5ないし1対30で行い、3〜50%の伸び率を示すポリテトラフルオロエチレンの一軸延伸成形物が提案されている(例えば特許文献4)。
【0010】
しかしながらこの技術では、PTFE微粉末を含有するペースト塊を連続的に成形し、延伸前に350〜390℃で焼結し、次いで延伸することで、機械的強度と密度がいずれも高いPTFE成形物を提供できるものの、高い倍率で延伸することで高強度とするものであり、得られるPTFEの一軸延伸物は伸度が低いものであった。例として実施例は5.6%の伸び率であり、不織布として使用中の衝撃に対する柔軟性については不十分なものであった。
【特許文献1】特許第3562627号公報
【特許文献2】特開平7−102413号公報
【特許文献3】特許第3079571号公報
【特許文献4】特開平2−286220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術における問題点を解消せんとするもので、単繊維繊度の変動係数が適切な範囲にあるフッ素繊維、すなわち適切な繊度分布の範囲と、破断伸度が適切な範囲にあるフッ素繊維を選択的に用いることで、集塵性能と耐久性とに優れるフッ素繊維製不織布およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、フッ素繊維を構成繊維とする不織布であって、下記式により定義される。
【0013】
単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内で、かつ、60〜150%の範囲内の破断伸度を有するフッ素繊維を含むことを特徴とするフッ素繊維製不織布である。
変動係数=(標準偏差/平均単繊維繊度平均値)×100。
【0014】
また本発明は、本発明のフッ素繊維製不織布で構成されたことを特徴とするフィルターである。
【0015】
また本発明は、フッ素繊維を構成繊維とするフッ素繊維製不織布を製造する方法であって、単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内で、かつ、60〜150%の範囲内の破断伸度を有するフッ素繊維を、シート状に加工し、その後にプレス処理して緻密化する工程を含むことを特徴とするフッ素繊維製不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフッ素繊維製不織布によれば、不織布表面に従来技術のようなピンホールが格段に発生しにくいため、局部的な集じん性能の低下が無い。また、当該不織布が例えばフィルターとして使用され、衝撃を加えられても損傷を受けないため、優れた耐久性を有する。これらの作用効果が相俟って、本発明のフッ素繊維製不織布は、例えばフィルター用濾布等に用いた場合には優れた集塵性能と耐久性とを発揮することができる。
【0017】
また、本発明のフッ素繊維製不織布の製造方法は、単繊維繊度の変動係数や破断伸度が一定の範囲内にあるフッ素繊維を選択的に使用して製造することで、不織布全体の均一性が向上し、優れた耐久性能を有するものが得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、前記課題、つまり優れた集塵性能を有し、衝撃に対する優れた耐久性を有するフッ素繊維製不織布について、鋭意検討した結果、構成繊維の単繊維繊度が適切な変動係数の範囲内にあるうえ、さらに破断伸度が適切な範囲内にあるフッ素繊維を選択的に用いて不織布とすると、フィルターとして用いた場合に衝撃が加えられても損傷を受けないという効果があることを見出し、本発明に至ったものである。
【0019】
本発明の不織布の構成繊維であるフッ素繊維は、重合体の繰り返し構造単位の90%以上が、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含むモノマーで構成された繊維であれば、いずれのものでも使用することができるが、フッ素原子数の多いモノマーで構成された繊維ほど好ましく、例えば、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)またはエチレン−4フッ化エチレン共重合体(ETFE)、または、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを使用することができる。かかるフッ素繊維としては、耐熱性、耐薬品性に特に優れているポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが好ましい。
【0020】
フッ素繊維の単繊維繊度としては、不織布の形態に加工可能であればよいが、カーディング加工性の点では0.5〜25dtexの繊度範囲を有するものが好ましい。単繊維繊度が0.5〜25dtexの範囲内にあるフッ素樹脂系繊維を用いるとカーディング加工性が良好であり、25dtexを越える太い繊維が存在しないので、繊維の空隙が大きくなり過ぎず、フィルターとしての性能が充分なフッ素繊維製不織布を得ることができるので好ましい。
【0021】
フッ素繊維の繊維長としては、30〜120mmの範囲内、より好ましくは50〜80mmの範囲内にあるものがカーディング加工性の点で好適である。
【0022】
以上のように構成繊維として用いるフッ素繊維の素材、繊維長自体は共通的であるが、本発明では、単繊維繊度、破断伸度によって、以下に説明する好ましい形態がある。
【0023】
本発明のフッ素繊維製不織布は、これを構成するフッ素繊維の単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内であることが重要である。
【0024】
単繊維繊度の変動係数を10%以上とすることで、繊維の太さに適度なばらつきがあるために繊維同士がある程度、粗く充填され、例えばフィルターとして用いる場合には通気性を阻害しないので好ましい。また、単糸繊度の変動係数を40%以下とすることで、繊維同士の太さが大きく異ならず、不織布内部に部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が残存せず、局部的な集塵性能の低下が生じないので好ましい。このような点から、本発明ではフッ素繊維は上記範囲内の単繊維繊度の変動係数を有することが必要であり、好ましくは10〜35%、より好ましくは15〜35%の範囲内の変動係数である。なお、繊度として、「変動係数」で規定することが必要な理由は、変動係数とはばらつき、特に、平均値からのばらつきを表す指標であり、繊維の太さに適切なばらつきを有するフッ素繊維を選択的に用いることを明確に規定するためである。また、変動係数を用いて規定することで、異なる太さのフッ素繊維の中でも、フィルター用途に好適なものが存在することを見出したものである。
【0025】
フッ素繊維の単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内であるフッ素繊維を製造する方法としては、マトリックス紡糸法やペースト押し出し法、スプリット剥離法等を採用することができる。
【0026】
マトリックス紡糸法においては、PTFEディスパージョンとアルギン酸やビスコース等のマトリクス成分との混合液を作成し、微小な口金から硫酸水溶液のような凝固浴中に吐出させて糸状物とし、しかる後にPTFEの融点以上の温度にて加熱する焼成工程を経て、PTFE同士を強固に結合させる。その後、PTFEの融点以上の温度にて延伸し、所定の強力を有するPTFE繊維とする。フッ素繊維の単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内であるフッ素繊維は、吐出工程において複数の口径を有する口金から糸状物を吐出させる方法、あるいは吐出量を調整するギヤポンプや焼成するローラーの回転が変調制御可能なものを用いる方法により得ることができる。
【0027】
ペースト押し出し法においては、PTFE粉末とミネラルスピリットやナフサ等の潤滑剤とを混合し、当該混合物を押し出し成形して、2対のローラーで圧延し、加熱乾燥により潤滑剤を除去しつつ焼成されたフィルム状物を得る。しかる後に当該フィルム状物を長手方向に細くスリットして延伸することで所定の強力を有するPTFE繊維とする。フッ素繊維の単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内であるフッ素繊維は、長手方向に細くスリットする工程においてスリット幅に分布を持たせたスリット装置を用いる方法、あるいはまた、延伸する工程において繊維が多孔質になりやすい性質を有することから、延伸倍率を適宜設定する方法により得ることができる。
【0028】
スプリット剥離法においては、PTFE粉末を円筒形に圧縮成形して焼成し、しかる後にその表面から切削してフィルム状物を得、該フィルム状物を長手方向に細くスリットしてPTFE繊維とする。フッ素繊維の単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内であるフッ素繊維は、長手方向に細くスリットする工程においてスリット幅に分布を持たせたスリット装置を用いる方法、あるいはまた、フィルム状物を長手方向に細くスリットする際に、掻きだし刃として送り方向で隣合う刃の間隔や幅がランダムな周期を有する装置を用いる方法により得ることができる。
【0029】
また、本発明のフッ素繊維製不織布は、これを構成するフッ素繊維の破断伸度が60〜150%であることが重要である。フッ素繊維の破断伸度を60%以上とすることで、例えばバグフィルターとしての用途における逆洗により衝撃が繰り返し加えられても、不織布としての柔軟性を有するので損傷を抑えることができる。なお、バグフィルターにおける「逆洗」とは、フィルターの表側面に堆積した粉じんを、フィルターの裏面側からの高圧空気噴射の作用で剥離させるものである。一方、150%以下とすることで、フッ素繊維製不織布としての使用時にかかる荷重に対し伸張を抑え、寸法安定性を維持することができる。
【0030】
破断伸度が60〜150%の範囲内にあるフッ素繊維は、例えばマトリックス紡糸法の場合には、PTFEの融点以上の温度にて加熱する焼成工程において、焼成用の熱ローラーを327〜360℃の範囲内に設定し、マトリクス成分の炭化が完全になされていない未焼成状態のPTFE糸状物を得た後、PTFEの融点以上の温度にて2〜4倍の延伸倍率で延伸することで得ることができる。
【0031】
またペースト押し出し法の場合には、焼成をPTFEの融点以上の温度に設定してフィルム状物を得た後、該フィルム状物を長手方向に細くスリットした後に2〜4倍の延伸倍率で延伸することで得ることが出来る。
【0032】
また、フッ素繊維のけん縮数としては、1〜5個/2.54cmが好ましい。1個/2.54cm以上とすることで、繊維同士の絡み合いにより、不織布の加工性が良好となり、不織布の強力と均一性が向上する。一方、5個/2.54cm以下とすることで、繊維同士の自由度を損なわず、充分な緻密化を達成することができる。
【0033】
本発明のフッ素繊維製不織布は、フッ素繊維以外の耐熱性を有する繊維、例えばガラス繊維、玄武岩繊維などの無機繊維、ポリイミド繊維、芳香族アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維などの有機繊維、金属繊維なども混合して用いることができる。中でもガラス繊維やポリイミド繊維は最大で40%程度まで混合することが可能で、混合により、不織布の強力を向上するという効果を発現するのに寄与するので好ましい。ただし、薬品に対する耐久性が劣化するため、用途に応じてフッ素繊維以外の耐熱性を有する繊維の混率を調節することが好適である。
【0034】
このような形態のフッ素繊維製不織布の製造方法は、単繊維繊度の変動係数が10〜40%、60〜150%の破断伸度を有するフッ素繊維をシート状に加工し、しかる後にプレスして緻密化するものである。
【0035】
シート化方法としては、従来公知のカーディング処理、エアー搬送によるシート化方法などを採ることができ、しかる後にニードルパンチ処理またはウォータージェットパンチ処理により不織布を絡合して一体化することが好適である。このような絡合処理をすることで不織布全体が強固に結合し、長期間使用可能な物理的強力を発生する。
【0036】
単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲にあるフッ素繊維をカーディング加工、ニードルパンチ加工した不織布は、内部に通気しやすいところ(ピンホール)が残存している。このピンホールを解消するために、プレスして熱処理し、緻密化するものである。プラス加工はカレンダーロールまたはエンボスロールによるものが好ましい。カレンダーロールによる加工は所望の不織布特性に合わせて適宜選択して実施できるが、好ましくは140〜200℃の温度条件で、5〜15トン/mの線圧で熱プレスすれば緻密化に充分である。この場合、140〜200℃の温度条件とすることで、繊維の自由度が発生して緻密化が充分に発生するとともに、カレンダーロール等の圧力でフッ素繊維が融着して通気性を阻害してしまうこともないので好適である。また、線圧が5〜15トン/mで熱プレスすることで不織布の緻密化が進むと同時に繊維同士の空隙も解消することから好ましく、また、フッ素繊維が潰れて不織布の強力が大きく低下することもなく好適である。なお、熱プレスがエンボスロールによる場合には、温度範囲は140〜200℃が好ましく、ロール間のクリアランスは0.8〜2.5mmの範囲内であることが好ましい。このような条件下でエンボス加工することで、不織布内部に発生してしまう部分的な通気しやすい部分を緻密化して解消し、また、局所的な集じん性能の悪化を解消し、フィルター用に適した所望の不織布特性を発現させることが可能になる。
【0037】
本発明のフッ素繊維製不織布は、耐熱性・耐薬品性にも優れていることから、バグフィルター等に好適に用いることができる。バグフィルターは通常、円筒状に縫製されて使用されるが、前述の逆洗において、その衝撃は円筒状フィルターの上部と下部に集中することがあり、本発明のフッ素繊維製不織布をさらに円筒状フィルターの上部及び下部に補強用の当布として用いるのが好ましい。
【0038】
これを示したのが図1および図2である。
【0039】
図1は、本発明の不織布の用途の一例として示したバグフィルターの側面図で、1は本発明のフッ素繊維製不織布を円筒状に縫製した円筒状本体、2、3は、それぞれ上部と下部の当て布であり、本体1と同様フッ素繊維製不織布を厚手にして本体1に縫製線4により縫製したものである。図2は、図1のバグフィルターの上部当て布2部分の部分断面図で、円筒状本体1の上部に当て布2が縫製により固定されている様子を示している。なお、5は、本体1を図示しないバグフィルター支持部に固定するための固定溝である。
【0040】
このような使用態様とすると、本発明のフッ素繊維製不織布は、部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が少ないことから、フィルターの当て布部分にかかる衝撃を均一に分散し、衝撃に対する耐久性を向上させる効果を有する。また、使用中の衝撃に対して柔軟性を有するため、より一層の耐久性を有し、これらを当て布に用いたフィルターは特に好適に使用できる。
【0041】
また、本発明のフッ素繊維製不織布は、円筒状に縫製したフィルター上部のフェルトパッキンとして用いることが好ましい。フェルトパッキンは円筒状に縫製したフィルターの上部に円周状に巻いて使用されるものであり、円筒状に縫製したフィルターを取り付ける部分(金属製の開口部)とフィルターとの接合部分を密着させる働きを持つものである。
【0042】
本発明のフッ素繊維製不織布は、部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が無く、また、衝撃に対する耐久性を有することから、フェルトパッキンに用いても継続的に優れた密着効果(シーリング効果)を発揮できるため、好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例と比較例とにより、本発明のフッ素繊維製不織布についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例等で記載した各特性値の測定方法は以下のものを用いた。
【0044】
[測定方法]
(1)繊維の単繊維繊度(平均値)
JIS L 1015:1992 7.5.1の振動法に則り、繊度を求めた。用いた装置はインテック製である。測定数は50とし、平均値を単繊維繊度(平均値)とした。
【0045】
(2)単繊維繊度の標準偏差と変動係数
JIS L 1015:1992 7.5.1に則って測定した繊度につき、以下の式で標準偏差を求めた。n=50。各測定値はxとする。
標準偏差=[(n×(Σx)−(Σx))/(n×(n−1))]1/2
変動係数は上記で求めた単繊維繊度(平均値)と標準偏差とから以下の式で算出した。
変動係数=(標準偏差)/(平均単繊維繊度)×100。
【0046】
(3)繊維の破断伸度
JIS L 1015:1992 7.7.1に則り、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/minで測定を実施した。用いた試験機はインストロン5500Rで定速伸長形とした。初荷重は4.5mgfとした。
【0047】
(4)目付け
JIS L 1096:1999 8.4.2に則り、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0048】
(5)厚み
JIS L 1096:1999 8.5に則り、試料の異なる5か所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0049】
(6)集じん率
集じん性能試験装置(JIS Z8908−1)を用いて繰り返しダスト払い落とし後の集じん率の測定を行った。
【0050】
フッ素繊維製不織布に対し、濾過風速2.0m/minの気流を与え、フッ素繊維製不織布の表面側に、JIS10種ダストをダスト供給機にてダスト濃度5g/mで負荷した。そして、フッ素繊維製不織布の裏面側にあるパルスジェット負荷機によりパルスジェット圧力500kPa(50msec)の条件で装置を運転させ、圧力損失が1.0kPaまで上昇する毎にパルスジェットを初期30回打ち、圧力損失の推移をデジタル差圧計で連続モニターリングした。
【0051】
また、フッ素繊維製不織布の裏面側にHEPAフィルターを設置し、フッ素繊維製不織布から漏れ出たダストを捕集させ、ダストの供給量とダストの漏れ量から集じん率を以下の計算式にて求めた。
集じん率(%)=(ダスト供給量(g)−ダスト漏れ量(g))÷ダスト供給量(g)×100。
【0052】
(7)衝撃への耐久性
集塵性能試験装置(JIS Z8908−1)を用いてフッ素繊維製不織布にパルスジェット負荷を繰り返し与えた。パルスジェット圧力500kPa(50msec)、5秒間隔の条件で50,000万回パルスジェットを負荷した。フッ素繊維製不織布の破裂強力を該操作の前後で測定し、以下の計算式にて耐久性を求めた。
耐久性(%)=(操作後の破裂強力)÷(操作前の破裂強力)×100
尚、破裂強力はJIS L 1096:1990 6.16.1 A法に則り、試験片5枚をそれぞれ測定した。
【0053】
[実施例1]
(フッ素繊維)
ポリテトラフルオロエチレン・ファインパウダーとイオン交換水とからなるエマルジョンと、ビスコース(セルロース9%、苛性ソーダ5%、二硫化炭素30%、残りイオン交換水)とを混合・脱泡して紡糸原液を作成した。
この紡糸原液を、0.1mmφの孔を220個有する口金に38〜42g/分の範囲内で変調されたギアポンプにて導き、硫酸を含む凝固浴に吐出させた。
次いでこの凝固繊維をイオン交換水中で洗浄してマングルで水分を絞った後、350℃に加熱した熱ロールに接触して半焼成し、次いで温度350℃に設定された延伸ローラーに接触させながら、4倍の延伸倍率で熱延伸して所定の長さにカットし、単繊維繊度が4.7dtex、単繊維繊度の標準偏差が0.7dtex、単繊維繊度の変動係数が15%、単糸の破断伸度が103%、繊維長が50mmであるフッ素繊維を得た。
これを、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0054】
(ウェブ)
上記フッ素繊維をカーディング装置(大和機構製)で開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層して280g/mのウェブを得た。
【0055】
(スクリム(補強用織物))
補強用織物として、440dtexのPTFE糸使いで経・緯の織密度20本/2.54cm、目付70g/mのラステックススクリム(ゴアテックス製)を用いた。
【0056】
(不織布)
上記ウェブと上記補強用織物とを、ウェブ/補強用織物/ウェブの順に積層し、針本数360本/cmでニードルパンチ処理をした。次いで温度140℃、6トン/mの線圧、送り速度3m/分でカレンダー処理を実施し、緻密化されたフッ素繊維製不織布を得た。
【0057】
得られたフッ素繊維製不織布の集じん率は99.9%であり、高い集じん率を有することを確認した。ピンホールは見られなかった
(バグフィルター)
上記不織布を図1のバグフィルターの円筒状本体1に縫製し、上部のフェルトパッキン2、下部の当て布3としても縫い込み、バグフィルターを作製した。
得られたバグフィルターは、特に柔軟性に優れており、フィルター取り付け部分の密着性も良好で、集じん率も問題ないものであった。
【0058】
[実施例2]
(フッ素繊維)
実施例1で用いたのと同様のフッ素繊維を80重量%と、単繊維繊度が3.3dtex、単繊維繊度の標準偏差が0.1dtex、単繊維繊度の変動係数が3%、破断伸度が40%、繊維長が70mmであるフッ素繊維(東レ製)を20重量%とを、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0059】
(ウェブ)
上記フッ素繊維をカーディング装置(大和機構製)で混合・開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層して250g/mのウェブを得た。
【0060】
(スクリム(補強用織物)
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0061】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、緻密化されたフッ素繊維製不織布を得た。
【0062】
得られたフッ素繊維製不織布の集じん率は99.9%であり、高い集じん率を有することを確認した。ピンホールは見られなかった。
【0063】
(バグフィルター)
上記の不織布を、円筒状本体、フェルトパッキン、当て布として用い、実施例1と同様に縫い込み、バグフィルターを作製した。
得られたバグフィルターは、フィルター取り付け部分の密着性も良好で柔軟性に優れ、集じん率も問題ないものであった。
【0064】
[実施例3]
(フッ素繊維)
実施例1で用いたのと同様のフッ素繊維を、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0065】
(ガラス繊維)
単繊維繊度が0.3dtex、繊維長が60mm、破断伸度が4%のガラス繊維を、ウェブ用に混合するガラス繊維として用いた。
【0066】
(ウェブ)
上記フッ素繊維を80重量%と上記ガラス繊維を20重量%とをカーディング装置(大和機構製)で混合・開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層して270g/mのウェブを得た。
【0067】
(スクリム(補強用織物))
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0068】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、緻密化されたフッ素繊維製不織布を得た。
【0069】
得られたフッ素繊維製不織布の集じん率は99.9%であり、高い集じん率を有することを確認した。ピンホールは見られず、実施例1や実施例2のものよりも集じんダストの不織布内部への浸透が特に少ない、優れたものであった。
【0070】
(バグフィルター)
上記の不織布を、円筒状本体、フェルトパッキン、当て布として用い、実施例1と同様に縫い込み、バグフィルターを作製した。
得られたバグフィルターは、フィルター取り付け部分の密着性も良好で、集じん率も問題ないものであった。
【0071】
[比較例1]
(フッ素繊維)
単繊維繊度が4.5dtex、単繊維繊度の標準偏差が2.2dtex、単繊維繊度の変動係数が49%、単糸の破断伸度が20%、繊維長が50mmであるフッ素繊維(YMT製)を、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0072】
(ウェブ)
上記フッ素繊維を、カーディング装置(大和機構製)で開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層して260g/mのウェブを得た。
【0073】
(スクリム(補強用織物)
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0074】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、フッ素繊維製不織布を得た。
【0075】
得られたフッ素繊維製不織布は、部分的に繊維が密集し、また、部分的に繊維の量が少ない部分が見られ、太い繊維と細い繊維の混合部分が充分に緻密化されていなかった。集じん率は99.5%と低く、また、集じん試験後のフッ素繊維製不織布の裏面から目視観察すると、ピンホールが3箇所見られた。
【0076】
[比較例2]
(フッ素繊維)
単繊維繊度が2.9dtex、単繊維繊度の標準偏差が0.8dtex、単繊維繊度の変動係数が28%、単糸の破断伸度が19%、繊維長が50mmであるフッ素繊維(Lenzing製)を、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0077】
(ウェブ)
上記フッ素繊維を、カーディング装置(大和機構製)で開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層してウェブを得た。
【0078】
(スクリム(補強用織物)
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0079】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、フッ素繊維製不織布を得た。
【0080】
得られたフッ素繊維製不織布は、太い繊維と細い繊維の混合部分が充分に緻密化されていなかった。集じん率は99.6%と低く、また、集じん試験後のフッ素繊維製不織布の裏面から目視観察すると、ピンホールが2箇所見られた。
【0081】
[比較例3]
(フッ素繊維)
ウェブ用のフッ素繊維は、用なかった。
【0082】
(ポリフェニレンサルファイド繊維)
単繊維繊度が2.2detx、単繊維繊度の標準偏差が0.1dtex、単繊維繊度の変動係数が5%、単糸の破断伸度が31%、繊維長が50mmであるポリフェニレンサルファイド繊維(四川得陽科技製)を、ウェブ用の繊維として用いた。
【0083】
(ウェブ)
上記ポリフェニレンサルファイド繊維を、カーディング装置(大和機構製)で開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層してウェブを得た。
【0084】
(スクリム(補強用織物)
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0085】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、不織布を得た。
【0086】
得られた不織布は、単繊維繊度の標準偏差が小さい繊維を使用したため、カーディング加工とニードルパンチ処理、カレンダー処理により緻密化が急激に進み、通気性も低く、かつ硬い不織布となった。
【0087】
(バグフィルター)
上記の不織布を、円筒状本体、フェルトパッキン、当布として用い、実施例1と同様に縫い込み、バグフィルターを作製した。
得られたバグフィルターは、下部の当布部分の通気性が極めて悪く、集じんに寄与していないデッドスペースとなってしまった。また、フィルター取り付け部分のフェルトパッキンは硬すぎるために密着性が悪く、使用できるものではなかった。
【0088】
[比較例4]
(フッ素繊維)
ポリテトラフルオロエチレン・ファインパウダーとイオン交換水とからなるエマルジョンと、ビスコース(セルロース9%、苛性ソーダ5%、二硫化炭素30%、残りイオン交換水)とを混合・脱泡して紡糸原液を作成した。
この紡糸原液を、0.12mmφの孔を240個有する口金に43g/分で導き、硫酸を含む凝固浴に吐出させた。
次いでこの凝固繊維をイオン交換水中で洗浄してマングルで水分を絞った後、370℃に加熱した熱ロールに接触して焼成し、次いで温度360℃に設定された延伸ローラーに接触させながら、8倍の延伸倍率で熱延伸して所定の長さにカットし、単繊維繊度が3.5dtex、単繊維繊度の標準偏差が0.1dtex、単繊維繊度の変動係数が5%、単糸の破断伸度が45%、繊維長が50mmであるフッ素繊維を得た。
これを、ウェブ用のフッ素繊維として用いた。
【0089】
(ウェブ)
上記フッ素繊維をカーディング装置(大和機構製)で開繊・配向し、クロスラッパー装置で積層して230g/mのウェブを得た。
【0090】
(スクリム(補強用織物))
実施例1と同様の補強用織物を作成した。
【0091】
(不織布)
上記ウェブ及び上記補強用織物を用い、実施例1と同様にして、フッ素繊維製不織布を得た。
【0092】
得られた不織布は、緻密化が充分に進まず、繊維の分散ムラを有するものであった。集じん率は99.6%と低く、また、集じん試験後のフッ素繊維製不織布の裏面から目視観察すると、ピンホールは無かったものの、全体的に試験ダストが裏面まで浸透していた。
【0093】
以上の実施例と比較例の結果を纏めたのが次の表1である。
【0094】
【表1】

【0095】
表1の結果から明らかなように、集じん率と耐久性を両立するのは実施例のフッ素繊維製不織布のみであり、比較例の不織布においては、ピンホールの発生、密着性の不良等、フィルター用途に用いられないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のフッ素繊維製不織布は、耐熱性・耐薬品性に優れる上、部分的に通気しやすいところ(ピンホール)が極めて少なく、使用中の衝撃にも耐久性があることから、熱や薬品に曝されるような環境でのフィルター用途に好適に用いることができる。具体的な適用用途としては、例えばごみ焼却場用燃焼ガス集塵フィルター、アスファルトプラント用高温ガス集塵フィルター、ガス化・灰溶融化処理設備高温ガス集塵フィルターなど多岐に渡り、その応用範囲はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の不織布の用途の一例として、円筒状に縫製し、上部と下部とに当て布を接合したバグフィルターの側面図である。
【図2】図1のバグフィルターの上部当て布部分の部分断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1………円筒状に縫製されたバグフィルター
2………上部当て布
3………下部当て布
4………縫製線
5………固定溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素繊維を構成繊維とする不織布であって、下記式により定義される単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内で、かつ、60〜150%の範囲内の破断伸度を有するフッ素繊維を含むこと特徴とするフッ素繊維製不織布。
変動係数=(標準偏差/平均単繊維繊度平均値)×100
【請求項2】
請求項1に記載のフッ素繊維製不織布で構成されたことを特徴とするフィルター。
【請求項3】
円筒形状を有する、請求項2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記フッ素繊維製不織布をさらに、前記円筒の上部及び下部に補強用当て布として用いた、請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
前記フッ素繊維製不織布をさらに、前記円筒状の上部フェルトパッキンに用いた、請求項3または4に記載のフィルター。
【請求項6】
フッ素繊維を構成繊維とするフッ素繊維製不織布を製造する方法であって、単繊維繊度の変動係数が10〜40%の範囲内で、かつ、60〜150%の範囲内の破断伸度を有するフッ素繊維を、シート状に加工し、その後にプレス処理して緻密化する工程を含むことを特徴とするフッ素繊維製不織布の製造方法。
【請求項7】
前記プレス処理がカレンダーロールまたはエンボスロールによるものである、請求項6に記載のフッ素繊維製不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81919(P2008−81919A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225259(P2007−225259)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】