説明

フラックスとはんだの分離方法及びはんだ含有材リサイクル装置

【課題】複雑な構造を必要とせず、確実にフラックスとはんだを分離できる、フラックスとはんだの分離方法、及びその方法を用いたはんだ含有材リサイクル装置を提供する。
【解決手段】はんだ含有材リサイクル装置10は、はんだ含有材をヒーター22により加熱する加熱釜20と、加熱釜20を反転させる図示しない反転手段と、加熱釜20の下方に配置された網32と網の下方に配置された回収容器36とを備える。そして、はんだ含有材を加熱釜20で加熱し、比重差を利用して、上層のフラックス40と下層のはんだ42に分離させ、加熱釜20を冷却し、融点の差を利用して、フラックス40は溶解状態で、はんだ42を固化させる。そして、加熱釜20を反転させてフラックス40とはんだ42を網32と回収容器36の上に落下させ、はんだ42を網32で受け止め、フラックス40を網32の下の回収容器36に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフラックスとはんだの分離方法及びはんだ含有材リサイクル装置に関する。さらに詳しくは、フラックスとはんだを含有するはんだ含有材を加熱釜で加熱してフラックスとはんだに分離するフラックスとはんだの分離方法、及び、その分離方法を用いたはんだ含有材リサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板への電子部品のはんだ付けには、溶剤を主成分とするフラックスにはんだの微粒子を混ぜてクリーム状にしたクリームはんだが使用されている。
クリームはんだによるはんだ付けは次の手順で行われる。まず、マスク版を用いてプリント基板上にクリームはんだをパターン印刷し、そのパターン上に電子部品を配置する。そして、電子部品が配置されたプリント基板を加熱炉で加熱してクリームはんだ中のはんだを溶融させることで、プリント基板の電極と電子部品の底面の電極をはんだで接合させ、自然冷却等によりはんだを固化させて、電子部品をプリント基板にはんだ付けする。
【0003】
ここで、クリームはんだ中に含まれるフラックスの主成分である溶剤は揮発性が高いため、プリント基板へのパターン印刷で使用中にクリームはんだの粘度が高くなる。そして、マスク版の孔へのクリームはんだの充填不良が生じやすくなり、印刷不良を引き起こしやすくなる。そのため、クリームはんだは開封後短時間で使用に適さなくなり、パターン印刷で使い切れなかった分は処分されることとなる。
【0004】
一方、はんだ付けロボットによるはんだ付けには、糸状のはんだの芯にフラックスが含まれた糸はんだが使用される。そして、糸はんだについても、時間の経過によりフラックスが劣化すると、はんだ付け不良を引き起こしやすくなる。そのため、糸はんだは製造してから一定の時間を経過すると使用に適さなくなり、処分されることとなる。また、ロボットで使用できない短いものも処分対象となる。
【0005】
処分対象となったクリームはんだや糸はんだは、資源の有効利用及び環境保全の観点から見て、はんだとフラックスを分離して、はんだをリサイクルさせることが望ましい。そこで、各種のはんだをリサイクルさせる方法が提案されている。
図5、図6により、従来技術を用いたクリームはんだリサイクル装置による、フラックスとはんだの分離方法について説明する。
図5(a)〜図5(d)によりクリームはんだリサイクル装置110によるフラックスとはんだの分離手順を示す。クリームはんだリサイクル装置110は、図5(a)に示すように加熱釜120と回収装置130から構成されている。そして、図6に示すように、加熱釜120には回転機構124が取付けられており、回転機構124をモーター126で制御することで加熱釜120を回転させることができる構成とされている。
そして、図5(a)に示すように、加熱釜120にクリームはんだを投入して、加熱釜120埋め込まれたヒーター122で加熱釜120を加熱して、クリームはんだのフラックス140とはんだ142を溶融させる。この時、加熱釜120の中では、溶融状態のフラックス140とはんだ142が、比重差により分離する。
次に、加熱釜120を自然冷却させ、フラックスとはんだの融点の差を利用して、フラックス140は溶融状態のままで、はんだ142を固化させる。図5(b)にフラックス140は溶融状態のままで、はんだ142が固化した状態を示す。
次に、図5(c)に示すように、加熱釜120を回転機構124(図6参照)により90度回転させて、溶融状態のフラックス140を回収装置130のフラックス排出路134に落下させ、フラックス140を回収装置130のフラックス回収容器136に回収する。
次に、図5(d)に示すように、加熱釜120をさらに90度回転させて、固化したインゴット状のはんだ142を、回収装置130のはんだ回収台132の上に落下させて、はんだ142を回収する。
なお、特許文献1には、これとは別の方法により使用済みのクリームはんだからはんだを分離する、はんだ分離装置が記載されている。特許文献1に記載の方法は、クリームはんだを溶融槽の中で比重差により上層の溶融フラックスと下層の溶融はんだに分離させ、それぞれを専用の移送管で溶融槽の外部に移送して、フラックスとはんだを分離するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−224346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の加熱釜を回転させる方式のクリームはんだリサイクル装置では、加熱釜を90度回転させてフラックスを排出し、その後、さらに加熱釜を90度回転させてはんだインゴットを排出している。そのため、回転機構で2段階の角度制御が必要となり、モーターなどの回転軸が必要となるため、装置が高価で制御が複雑となる。
また、フラックスはフラックス排出専用のフラックス排出路を通り、はんだインゴットははんだインゴット専用のはんだ回収台に落としているため、加熱釜の下の構造が複雑で、高価な作りとなってしまう。
そして、はんだインゴットを排出後にも、加熱釜に残ったフラックスが垂れ落ちてはんだインゴットやはんだ回収台を汚してしまうという問題がある。
また、特許文献1に記載の方法では、溶融フラックスを移送管で溶融層の外部に移送するために、フラックス溶融液及びはんだ溶融液の液位調整が必要となるため、装置及び制御が複雑となる。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、複雑な構造を必要とせず、確実にフラックスとはんだを分離することができる、フラックスとはんだの分離方法及びその分離方法を用いた、はんだ含有材リサイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかるフラックスとはんだの分離方法及びはんだ含有材リサイクル装置は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、フラックスとはんだとを含有するはんだ含有材についてのフラックスとはんだの分離方法であって、
はんだ含有材を加熱手段を備えた加熱釜で加熱して溶融し、フラックスとはんだの比重差を利用して、フラックスからなる上層と、はんだからなる下層とに分離した溶融液を得た後に、加熱釜を冷却し、フラックスとはんだの融点の差を利用して、フラックスの溶融状態を維持して、はんだを固化させ、
加熱釜を反転させて、溶融状態のフラックスと固化したはんだとを加熱釜の下方に配置された網と網の下方に配置された回収容器の上に落下させ、
固化したはんだを網で受け止めると共に、溶解状態のフラックスを網の下の回収容器に回収する、フラックスとはんだの分離方法である。
【0010】
この第1の発明によれば、加熱釜は一度反転するだけなので、フラックスとはんだの分離に用いる装置の構造を簡単にすることができる。また、加熱釜を反転して、フラックスとはんだを一気に落下させて、フラックスは網の間から下方に落下させ、はんだは網で受け止めるので、フラックスとはんだを確実に分離することができる。
【0011】
次に、本発明の第2の発明は、フラックスとはんだとを含有するはんだ含有材をフラックスとはんだとに分離するはんだ含有材リサイクル装置であって、
はんだ含有材を加熱手段により加熱することのできる加熱釜と、加熱釜を反転させることのできる反転手段と、加熱釜の下方に配置された網と網の下方に配置された回収容器とを備え、
はんだ含有材を加熱手段により加熱釜で加熱して溶融し、フラックスとはんだの比重差を利用して、フラックスからなる上層と、はんだからなる下層とに分離した溶解液を得た後に、加熱釜を冷却し、フラックスとはんだの融点の差を利用して、フラックスは溶解状態のままで、はんだを固化させ、
加熱釜を反転手段により反転させて溶融状態のフラックスと固化したはんだとを網と回収容器の上に落下させ、
固化したはんだを網で受け止めると共に、溶解したフラックスを網の下の回収容器に回収する、はんだ含有材リサイクル装置である。
この第2の発明は、上記第1の発明に係る方法を用いた装置の発明であり、第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述の本発明の各発明によれば、加熱釜は一度反転するだけなので、フラックスとはんだの分離に用いる装置の構造を簡単にすることができる。また、加熱釜を反転して、フラックスとはんだを一気に落下させて、フラックスは網の間から下方に落下させ、はんだは網で受け止めるので、フラックスとはんだを確実に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1におけるはんだ含有材リサイクル装置の外観斜視図である。
【図2】図1のA−A位置における断面図であり、はんだ含有材が溶融状態となってフラックスとはんだが上下に分離している状態を示す図である。
【図3】図1のA−A位置における断面図であり、加熱釜の反転が終了した直後の状態を示す図である。
【図4】図1のA−A位置における断面図であり、加熱釜の反転が終了しフラックスとはんだが分離された状態を示す図である。
【図5】従来技術によりフラックスとはんだを分離する方法を説明する図である。
【図6】従来技術における回転機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0015】
[クリームはんだリサイクル装置の構造]
図1に、本発明の実施例1におけるクリームはんだリサイクル装置10の外観斜視図を示す。クリームはんだリサイクル装置10は、クリームはんだをフラックスとはんだに分離するための装置であって、クリームはんだを溶融するための加熱釜20とフラックスとはんだを分離回収するための回収装置30とを備えている。そして、加熱釜20には加熱用のヒーター22が埋め込まれると共に、加熱釜20を反転させることのできる、ロータリーアクチュエータ24が取付けられている。クリームはんだが本発明のはんだ含有材に相当し、ヒーター22が本発明の加熱手段に相当し、ロータリーアクチュエータ24が本発明の反転手段に相当する。なお、本実施例では、ロータリーアクチュエータ24は空気圧により作動する。
回収装置30は、上部に配置された金属製で4角形の網32と、網32の下部に配置された円筒状のフラックス回収容器36と、網32とフラックス回収容器36の間に配置された4角錐状のフラックス専用スロープ34から構成されている。
そして、ロータリーアクチュエータ24、網32及びフラックス専用スロープ34は、図示しないクリームはんだリサイクル装置10の筐体により保持されている。また、フラックス回収容器36は、クリームはんだリサイクル装置10の筐体の底部の上に置かれている。
【0016】
[フラックスとはんだの分離方法]
クリームはんだリサイクル装置10によるフラックスとはんだの分離作業は次の手順で行われる。
まず、処分対象とされたクリームはんだを加熱釜20に投入し、ヒーター22により加熱釜20を260℃まで加熱して、加熱釜20の中でクリームはんだを溶融させる。すると比重差により、フラックス40とはんだ42が加熱釜20の中で分離して、フラックス40からなる上層と、はんだ42からなる下層とに分離した溶解液を得ることができる。図2に、クリームはんだが溶融状態となって、加熱釜20の中でフラックス40とはんだ42が上下に分離した状態を示す。
次に、ヒーター22による加熱を止めて、加熱釜20及び加熱釜20の中のフラックス40とはんだ42を、自然冷却により180℃まで冷却する。ここで、はんだ42は融点が220℃であり、フラックスは融点が180℃よりも低いので、冷却の途中で、はんだ42は固化してインゴット状となるが、フラックス40は180℃まで冷却しても溶融状態のままである。
【0017】
次に、図3に示すように、ロータリーアクチュエータ24(図1参照)により、加熱釜20を反転させて、溶融状態のフラックス40とインゴット状のはんだ42を、一気に回収装置30の網32の上に落下させる。すると、図4に示すように、溶融状態のフラックス40は網32をすり抜けて、フラックス専用スロープ34を伝わり、フラックス回収容器36に回収される。一方、インゴット状のはんだ42は網32で受け止められて網の上に保持される。そして、はんだ42は、網32上で、反転時に付着したフラックス40を網32から落下させながら自然冷却する。
【0018】
[効果]
実施例1のクリームはんだリサイクル装置10によれば、フラックス40とはんだ42を分離するために、加熱釜20は一度反転させるだけで済むので、クリームはんだリサイクル装置10の構造を簡単にすることができる。また、加熱釜20を反転して、溶融状態のフラックスとインゴット状のはんだ42を一気に落下させて、フラックスは網32の目から下方に落下させ、はんだ42は網32で受け止めるので、フラックス40とはんだ42を確実に分離することができる。
【0019】
実施例1でははんだ含有材としてクリームはんだを使用したが、糸はんだも同様な手順でフラックスとはんだに分離することができる。
また、実施例1では、反転手段を空気圧によるロータリーアクチュエータとしているが、反転手段としてモーターを使用しても良い。
その他、本発明に係るフラックスとはんだの分離方法及びはんだ含有材リサイクル装置は、その発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【符号の説明】
【0020】
10 クリームはんだリサイクル装置
20 加熱釜
22 ヒーター
24 ロータリーアクチュエータ
30 回収装置
32 網
34 フラックス専用スロープ
36 フラックス回収容器
40 フラックス
42 はんだ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスとはんだとを含有するはんだ含有材についてのフラックスとはんだの分離方法であって、
はんだ含有材を加熱手段を備えた加熱釜で加熱して溶融し、フラックスとはんだの比重差を利用して、フラックスからなる上層と、はんだからなる下層とに分離した溶融液を得た後に、加熱釜を冷却し、フラックスとはんだの融点の差を利用して、フラックスの溶融状態を維持して、はんだを固化させ、
加熱釜を反転させて、溶融状態のフラックスと固化したはんだとを加熱釜の下方に配置され網と網の下方に配置された回収容器の上に落下させ、
固化したはんだを網で受け止めると共に、溶解状態のフラックスを網の下の回収容器に回収する、フラックスとはんだの分離方法。
【請求項2】
フラックスとはんだとを含有するはんだ含有材をフラックスとはんだとに分離するはんだ含有材リサイクル装置であって、
はんだ含有材を加熱手段により加熱することのできる加熱釜と、加熱釜を反転させることのできる反転手段と、加熱釜の下方に配置された網と網の下方に配置された回収容器とを備え、
はんだ含有材を加熱手段により加熱釜で加熱して溶融し、フラックスとはんだの比重差を利用して、フラックスからなる上層と、はんだからなる下層とに分離した溶解液を得た後に、加熱釜を冷却し、フラックスとはんだの融点の差を利用して、フラックスは溶解状態のままで、はんだを固化させ、
加熱釜を反転手段により反転させて溶融状態のフラックスと固化したはんだとを網と回収容器の上に落下させ、
固化したはんだを網で受け止めると共に、溶解したフラックスを網の下の回収容器に回収する、はんだ含有材リサイクル装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58039(P2011−58039A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207848(P2009−207848)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】