説明

フラックス塗布方法、フローはんだ付け方法およびこれらのための装置ならびに電子回路基板

【課題】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するためのフローはんだ付けプロセスにおけるスプレー式フラックス塗布方法において、基板に形成されたスルーホールにはんだ材料が十分に供給されることを可能にする。
【解決手段】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおける、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けてノズルから噴射することによってフラックスを基板に塗布するフラックス塗布方法において、噴射されたフラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板に付着するようにする。具体的には、フラックス(3)を基板(1)に向けて噴射するためのノズル(6)と、ノズル(6)の上方に位置する基板(1)との間の距離を、約30〜60mmとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、はんだ材料を用いて電子部品などを基板に実装するためのフローはんだ付けプロセスにおけるフラックス塗布方法およびそのための装置、フラックス塗布方法および装置をそれぞれ利用したフローはんだ付け方法および装置、ならびにフローはんだ付け方法により作製される電子回路基板に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電子回路基板の製造において、電子部品などを基板に接合する1つの方法として、はんだ噴流を用いるフローはんだ付けプロセスが知られている。このフローはんだ付けプロセスは、一般的に、基板にフラックスを塗布するフラックス塗布ステップ、基板を予め加熱するプリヒートステップ、ならびに基板をはんだ材料から成る噴流に接触させて基板にはんだ材料を供給するはんだ材料供給ステップを含む。以下、従来のフローはんだ付けプロセスについて、図面を参照しながら説明する。図4は、従来のフローはんだ付け装置の概略断面模式図である。図5(a)は、図4のX−X線に沿った断面図であり、図5(b)は、図5(a)の上面図である。
【0003】図4に示すように、従来のフローはんだ付け装置60は、フラックス塗布装置であるスプレーフラクサー60aとフローはんだ付け装置本体60bとから成る。この装置60においては、フラックス塗布ステップがスプレーフラクサー60aにて実施され、その後、プリヒートステップおよびはんだ材料供給ステップが装置本体60bにて順次実施される。
【0004】まず、既知の方法によってスルーホール挿入部品などの電子部品が所定の位置に適切に配置されたプリント基板などの基板71を、スプレーフラクサー60aに入口部61から供給する。基板71は、スプレーフラクサー60aの内部を(図4に点線にて示す搬送ラインに沿って)、矢印62の方向に一定速度で機械的に搬送される。基板71の搬送は、より詳細には、図5(a)および(b)に示すように、搬送爪72により基板71を両側から保持し、搬送爪72を矢印62の搬送方向に機械的に移動させることにより行われる。このようにして搬送される基板71がノズル63の上方に達すると、ノズル63が基板71の搬送方向(即ち、図4および図5(b)中の矢印62の方向)に対して垂直な方向(即ち、図4の紙面に垂直な方向であり、図5(a)および(b)中の矢印74の方向)に往復運動しながらフラックス73を空気と共に噴射することによって、フラックス73が基板71の下面に塗布される。ノズル63は一般的に円形の噴射口を有し、図5(a)に示すように、ノズル63から噴射されるフラックス73は微視的には液滴であり、全体としては、ノズル63の噴射口を上底面(または頂点)とし、基板71の下面の塗布領域を下底面とする円錐台(または略円錐)形状の輪郭を有する。基板71が矢印61で示す方向に搬送され、同時に、ノズル63が、基板71の幅寸法に対応する距離に亘って基板71の搬送速度に応じた速度で矢印74で示す方向に往復運動する。これらの結果、図5(b)に示すように、フラックス73が基板71の搬送方向に対して斜めに基板71の下面を横切りながら、基板71の下面全体に塗布される。
【0005】このようなフラックス塗布ステップは、基板71に形成されたランド(即ち、はんだ材料が供給されるべき部分)に不可避的に形成される酸化膜(自然酸化膜)を除去して、ランド表面でのはんだ材料の濡れ広がりを良好にする目的で行われる。基板71に塗布されるフラックス73は、通常、ロジンなどの活性成分およびイソプロピルアルコールなどの揮発性溶剤を含む。この溶剤の揮発性の高さのために、安全性の観点から、基板71の上方には排気ダクト(図示せず)が備えられて、矢印75(図5(a))にて示す方向に雰囲気ガスと共に揮発した溶剤を吸引している。
【0006】上記のようにしてフラックスが塗布された基板71は、その後、図4に示す位置64にてスプレーフラクサー60aから装置本体60bに機械的に移される。基板71は、装置本体60bにおいても、スプレーフラクサー60aの場合と同様にして、装置本体60bの内部を矢印65の方向に(図4に点線にて示す搬送ラインに沿って)ほぼ一定速度で機械的に搬送される。基板71は、このようにして搬送されながら遠赤外線ヒーターなどのプリヒーター66により加熱される。この加熱によるプリヒートステップは、上記のフラックス塗布ステップにより基板71に塗布されたフラックス73のうち、不要な溶剤成分を気化させ、活性剤成分のみを基板71に残留付着させるため、ならびに、基板71へのはんだ材料67の供給に先立って、基板71を予め加熱して、溶融したはんだ材料67が基板71と接触する際に起こる熱衝撃を緩和するために行われるものである。
【0007】続いて基板71は、予め加熱により溶融させたはんだ材料67から成る1次噴流68および2次噴流69と基板71の下面側にて接触して、はんだ材料が基板に供給される。このとき、はんだ材料は、基板に形成されたスルーホールの内壁と、基板の上面側からスルーホールに挿入されているスルーホール挿入部品のリードとの間の環状空間を、基板の下面側から毛管現象によって濡れ上がる。その後、基板71に供給されて付着したはんだ材料は温度低下により固化し、はんだ材料からなる接合部、いわゆる「フィレット」を形成する。このはんだ材料供給ステップ(またはフローはんだ付けステップ)において、1次噴流は、スルーホールの壁面を覆って形成されたランド(および電子部品のリード)の表面をはんだ材料で十分に濡らすためのものであり、2次噴流は、はんだ材料がランド間にまたがって残留・固化してブリッジを形成したり(このブリッジは電子回路のショートを招くので望ましくない)、角状の突起を形成したりしないように、はんだレジストで覆われた領域に付着したはんだ材料を除去し、フィレットの形を整えるためのものである。このようにして得られた基板71は、その後、出口部70から取り出される。
【0008】以上のようにして、フローはんだ付けプロセスによって電子部品が基板にはんだ付けされた電子回路基板が作製される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上述のようなはんだ材料からなる接合部(フィレット)は、電子回路基板の高い信頼性を得るために、電子部品のリードと基板のランドとの間において十分に高い接合強度が要求される。しかし、上述のようなスプレーフラクサーを用いて霧状のフラックスを基板に吹き付けるスプレー式のフラックス塗布方法を用いる従来のフローはんだ付けプロセスは、特に、はんだ材料として鉛フリーのはんだ材料を用いる場合、はんだ材料がスルーホールとリードとの間の環状空間に十分に供給されずに、接合強度が低下するという問題がある。
【0010】フローはんだ付けに付される基板は、一般的には、図6に示すように、基板71にスルーホール80が貫通して設けられ、このスルーホール80の内壁面ならびにスールーホール80を取り囲む基板71の上面および下面には、例えば銅などから成るランド83が一体的に形成されている。このランド83は、基板71の上面81に形成された配線パターン(図示せず)と接続されている。更に、スルーホール80には、スルーホール挿入部品(電子部品)84から引き出されたリード83(例えば電極)が基板71の上面81の側から挿入されている。このような基板71の下方には、一般的には、基板71の下面82から約90〜180mmの間隔を置いてノズル63が配置される。このノズル63から、基板71の下面82に向かってフラックス73が空気と共に噴射され、基板71にフラックス73が塗布される。
【0011】以上のようにしてフラックスが塗布された基板を、上述のようなプリヒートステップおよびはんだ材料供給ステップに付して、電子回路基板が作製されるが、はんだ材料供給ステップに用いるはんだ材料として、鉛を含まない、いわゆる鉛フリーはんだ材料を用いる場合には、図7に示すように、スルーホール80の途中までしかはんだ材料が濡れ上がっていないフィレット86が形成され得る。このように、基板上面81の上に位置するランド83の部分が、はんだ材料に覆われずに露出する現象は「濡れ上がり不足」と見なされ、好ましくない。
【0012】このような現象は、はんだ材料としてSn−Pb系材料を用いる場合にはほとんど問題とならなかったが、鉛フリーはんだ材料を用いる場合に顕著に発生する。このような「濡れ上がり不足」の問題は、フィレット86によるランド83とリード85との間の接合強度の低下をもたらし、また、スルーホール80内でフィレット86の上方に形成される凹部に、例えば塩分などの成分が付着し得、場合によっては発火などの要因となる可能性があるという問題があるため好ましくない。
【0013】従来、上記のような問題を解消するために、スプレー式のフラックス塗布方法に代えて、発泡フラクサーを用いて泡状のフラックスを基板と接触させる発泡式のフラックス塗布方法を利用してきた。このような発泡式のフラックス塗布方法を利用すると、スプレー式のフラックス塗布方法を利用する場合よりも、「濡れ上がり不足」の発生率を低減することができることが解っている。
【0014】しかしながら、発泡式のフラックス塗布方法は、スルーホール挿入部品のフローはんだ付けには適しているが、表面実装部品のフローはんだ付けにはスプレー式のフラックス塗布方法の方が適していることが知られている。従って、スルーホール挿入部品が配置されただけでなく、表面実装部品が基板の下面に配置された混載基板に、発泡式のフラックス塗布方法を適用すると、スルーホール挿入部品についてははんだ材料による良好な接合が得られるが、表面実装部品については接合が不十分となるという別の欠点がある。
【0015】また、発泡式のフラックス塗布方法では、フラックスが大気に曝されて循環使用されているため、大気中の水分がフラックス中に混入し、フラックスの濃度が経時的に変化する。このため、フラックス濃度の管理が必要となる。このような問題は、発泡式のフラックス塗布方法に特有のものであり、スプレー式のフラックス塗布方法においては見られないため、スプレー式に代えて発泡式のフラックス塗布方法を利用するという対策は、必ずしも十分満足できるものではない。
【0016】本発明は上記の従来の課題を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するためのフローはんだ付けプロセスにおけるスプレー式フラックス塗布方法であって、基板に形成されたスルーホールにはんだ材料が十分に供給されることを可能にする方法、該フラックス塗布方法を利用するフローはんだ付け方法およびそれら方法を実施するための装置ならびに該フローはんだ付け方法により作製される電子回路基板を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、スプレー式のフラックス塗布方法を利用するフローはんだ付けプロセスにおいて、鉛フリーはんだ材料を用いる場合に、「濡れ上がり不足」の発生率がSn−Pb系はんだ材料を用いる場合より増加する理由について研究し、以下のような知見を得た。
【0018】従来のスプレー式フラックス塗布方法において、鉛フリーはんだ材料を用いる場合に、Sn−Pb系はんだ材料を用いる場合よりも「濡れ上がり不足」の発生率が増加する理由は、これらはんだ材料の濡れ性の違いにあると考えられる。
【0019】従来のスプレー式フラックス塗布方法によれば、図6に示すように、ノズル63から噴射されるフラックス73は、基板71の下面82には十分に付着するが、スルーホール80の内壁面(即ち、スルーホール80内におけるランド83の、一般的には円筒形状または楕円筒形状(いわゆる長穴形状)を有する表面)にはほとんど付着しないことが解った。例えば、スルーホール80が約0.4〜5mmの内径および約0.8〜2.0mmの高さを有する場合、基板71の下面82から基板71の厚さ方向に、十分な高さでスルーホール80の内壁面にフラックス73が付着しないことが解った。フラックスは、上述のように、はんだ材料の濡れ広がりを向上させる役割を果たすが、フラックスが付着していないランドの表面領域では、このような効果は得られない。
【0020】はんだ材料として、従来のSn−Pb系はんだ材料(一般的にはSn−Pb共晶材料)を用いる場合には、Sn−Pb系はんだ材料の濡れ性がもともと高いため、フラックス塗布ステップにおいてスルーホール80の内壁面にフラックスが十分に付着していなくても、その後のはんだ材料供給ステップにより供給されるはんだ材料は、ランド83とリード85との間の環状空間を濡れ上がって、基板71の上面81にあるランド83の表面部分にまで濡れ広がり、スルーホール80を完全に満たし、基板71の上面81に位置するランド83の表面をも覆うフィレットを形成することができると考えられる。他方、鉛フリーはんだ材料は、Sn−Pb系はんだ材料に比べて低い濡れ性を有するため、ランド83とリード85との間の環状空間を十分に濡れ上がらず、「濡れ上がり不足」が発生し易くなると考えられる。
【0021】これに対して、発泡式のフラックス塗布方法によれば、一般的には約1〜2mmの直径を有する泡状のフラックスがはじけるときにフラックスの飛沫が飛散するので、スプレー式の方法よりも、スルーホールの内壁面のうち、基板の下面から、該下面に対してより高い位置までの領域にフラックスを塗布することが可能となる。その結果、鉛フリーはんだ材料を用いる場合であっても、スルーホールの内壁面に対するはんだ材料の濡れ性を向上させることができるので、Sn−Pb系はんだ材料を用いる場合と同様に、はんだ材料がスルーホールの内壁を十分に濡れ上がって、基板の上面に位置するランド表面にまで濡れ広がりことができ、「濡れ上がり不足」の発生率を低く維持できると考えられる。
【0022】以上のような考察に基づいて、本発明者らは、スプレー式のフラックス塗布方法において、スルーホールの内壁面にまでフラックスを十分に付着させることができれば、鉛フリーはんだ材料を用いる場合であっても、「濡れ上がり不足」の発生率を低く維持することが可能となるという知見を得るに至った。
【0023】本発明者らの研究によれば、従来のスプレー式フラックス塗布方法においては、フラックスに含まれる溶剤の実質的に全部が、基板に到達(または付着)するまでに気化していると推測される(例えば、ノズルから50mm程度の位置において、溶剤の実質的に全部が気化する)。フラックスを構成するイソプロピルアルコールなどの揮発性溶剤は、一般的には約80〜97重量%(全体基準、以下も同様)の割合でフラックスに含まれており、その大部分を占めている。従って、このような溶剤の実質的に全部が気化すると、フラックスの組成は著しく変化し、フラックスに含まれるロジンなどの活性成分の割合は、相対的に顕著に増加する。このようなロジンなどの活性成分は比較的高い粘度を有するため、活性成分の割合が高くなるにつれてフラックス自体の粘度が増加し、このため、フラックスが溶液状態を維持できなくなって、基板付着後のフラックスの濡れ性の低下を招く。この結果、基板に付着したフラックスは、その付着面において濡れ広がりにくくなる。裏を返せば、フラックスが基板に付着するまでに気化する溶剤の量を減少させて、フラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板に付着させることにより、フラックスの粘度の増加および濡れ性の低下を減少させることができ、基板に付着したフラックスを、その付着面にて、より広い領域に亘って濡れ広げることができると言える。本発明者らは、このような考察に基づいて、以下の発明を完成するに至った。
【0024】本発明の1つの要旨によれば、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおける、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けてノズルから噴射することによってフラックスを基板に塗布するフラックス塗布方法であって、噴射されたフラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板に付着することを特徴とする方法が提供される。尚、本明細書において「溶液状態」とは、ノズルから噴射されたフラックスの滴が、その付着面上で互いに隣接して接触した場合に合一して液膜を形成できる状態にあることを言うものとする。
【0025】このような本発明の方法によれば、フラックスが溶液状態を維持したままで基板に付着するので、フラックスのランドに対する濡れ性の低下が実質的に回避される。基板の下面に位置するランド、好ましくはスルーホールの内壁に位置するランドの表面に十分な濡れ性を有して付着したフラックスは、その付着面上で濡れ広がって、スルーホールの内壁面に沿って濡れ上がり、好ましくは基板の上面に位置するランド上にまで濡れ広がることができる。従って、基板の下面のみならず、スルーホールの内壁面のうち、従来のスプレー式のフラックス塗布方法に比べてより高い位置までの内壁面の領域に、好ましくは基板の上面に位置するランド表面にまで(よって、ランド表面全体に)フラックスを塗布することが可能となる。その結果、フラックス塗布ステップの後のはんだ材料供給ステップにおいて、はんだ材料の濡れ性を向上させることができ、はんだ材料として鉛フリーはんだ材料を用いる場合においても、「濡れ上がり不足」の発生率を低く維持することが可能となる。
【0026】本発明のもう1つの要旨においては、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおける、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けてノズルから噴射することによってフラックスを基板に塗布するフラックス塗布方法であって、ノズルとノズルの上方に位置する基板との間の距離が、30〜60mmであることを特徴とする方法が提供される。
【0027】ノズルと基板との間の距離は、従来は一般的には約90〜180mmであるが、この距離を約1/3倍にして約30〜60mmに、好ましくは約30〜50mmに近づけることによって、はんだ材料として鉛フリーはんだ材料を用いる場合においても、「濡れ上がり不足」の発生率を低く維持することが可能となることが本発明者らにより解った。これは、ノズルから噴射されたフラックスが基板に付着するまでの時間を従来よりも短縮化することによって、噴射されたフラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板に付着でき、上述のような効果を奏し得るためであると考えられる。更に、この方法によれば、ノズルと基板との間の距離が従来よりも短縮されるので、同程度のフラックス流量であっても、フラックスは、従来の方法に比べて大きな速度および液滴径で基板に達することができる。これにより、基板の下面に対して従来よりも高い位置にまで、好ましくはスルーホールを貫通する程度に、フラックスを基板に向けて勢いよく供給することも可能となる。このような効果も、鉛フリーはんだ材料を用いる場合においても「濡れ上がり不足」の発生率を低く維持するのに貢献していると考えられる。
【0028】この本発明の方法においては、基板とノズルとの間の距離などを考慮して、ノズルの往復運動速度、ノズルの数、ノズルから噴射されるフラックスの広がり角度、フラックスの組成、フラックスおよびこれと共に噴射される空気などの気体の流量、ノズルの噴射口の形状および寸法、基板の搬送速度などを適切に調整し得ることは、当業者であれば容易に想到し得るであろう。また、例えば、フラックスの噴射速度を大きくしたり、ノズルから噴射されるフラックスの液滴径を改変したり、周囲雰囲気を溶剤雰囲気にしたりすることも可能である。
【0029】これら本発明の方法の好ましい態様においては、フラックスが、基板の下面に加えて、基板に形成されたスルーホールの内壁面(即ち、スルーホール内に位置するランド表面であり、ランドの筒状表面)のうち、ノズルの配置されている側の基板の下面から基板の厚さ方向に、基板の厚さの少なくとも1/3の位置までの領域に、より好ましくは該内壁面の全領域に、更に好ましくはランドの表面全体(即ち、スルーホール内および基板の上面および下面に位置するランド表面)に塗布される。
【0030】これら本発明の方法は、フローはんだ付けプロセスに用いるはんだ材料として、例えば、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag系、Sn−Ag−Bi系、およびSn−Ag−Bi−Cu系などの鉛フリーはんだ材料を使用する場合に特に適するが、本発明はこれに限定されず、Sn−Pb系はんだ材料などの鉛を含むはんだ材料を使用してもよい。
【0031】本発明の別の要旨によれば、上述のような本発明のスプレー式のフラックス塗布方法を利用したフローはんだ付け方法が提供される。好ましい態様においては、フローはんだ付け方法は、本発明のスプレー式のフラックス塗布方法を、フラックスを泡状に発泡させた状態で基板と接触させることによってフラックスを基板に塗布する発泡式のフラックス塗布方法と組み合わせて含む。
【0032】本発明の更に別の要旨によれば、上述のような本発明のフローはんだ付け方法に従って、フラックスが塗布され、その後、はんだ材料により電子部品が基板にフローはんだ付けされた電子回路基板が提供される。このような電子回路基板によれば、はんだ材料がスルーホールを濡れ上がり、基板に十分に供給されて、「濡れ上がり不足」の発生を効果的に防止することが可能となり、よって、はんだ材料から成るフィレットの接合強度を向上させることが可能となる。
【0033】本発明の更に別の要旨によれば、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおいて使用されるフラックス塗布装置であって、噴射された液滴に含まれる溶剤が液体状態を実質的に維持したままで基板に付着するように、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けて噴射することによってフラックスを基板に塗布するノズルを備えることを特徴とする装置が提供され、また、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおいて使用されるフラックス塗布装置であって、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けて噴射することによってフラックスを基板に塗布するノズルであって、ノズルと、ノズルの上方に位置する基板との間の距離が30〜60mmであるノズルを備えることを特徴とする装置が提供される。これらの装置は、上述の本発明のフラックス塗布方法の実施に好適に使用される。
【0034】好ましい態様においては、ノズルは、基板に形成されたスルーホールの内壁面のうち、ノズルの配置されている側の基板の下面から基板の厚さ方向に、基板の厚さの少なくとも1/3の領域にフラックスを塗布し、より好ましくは、該内壁面の全領域にフラックスを塗布する。
【0035】これら本発明のフラックス塗布装置は、図面を参照しながら上述した従来のフローはんだ付けプロセスのように装置本体と別個に構成されていても、あるいは、装置内部に一体的に組み込まれて構成されて、フローはんだ付け装置を成していてもよい。好ましい態様においては、本発明のスプレー式のフラックス塗布装置に加えて、泡状のフラックスを基板と接触させる発泡式のフラックス塗布装置を更に備える。
【0036】尚、本発明において、「フラックス」とは、はんだ材料が供給されるべき金属(例えばランド)の表面から酸化物を除去して、該表面におけるはんだ材料の濡れ性を向上させる目的で塗布される材料を言い、酸化物を除去するための活性成分と、活性成分の取扱いを容易にするための溶剤とを含む。活性成分は、例えば約3〜20重量%、溶剤は、約80〜97重量%であり得る。このような活性成分には、ロジン、つや消し剤などが含まれ、溶剤には、イソプロピルアルコールなどが含まれる。
【0037】また、本発明に利用可能な基板には、例えば、紙フェノール系材料、ガラスエポキシ系材料、ポリイミドフィルム系材料、およびセラミック系材料などからなる基板が用いられ得る。また、基板に接合される電子部品は、挿入部品(例えば半導体、コンデンサ、抵抗、コイル、コネクタ、サブ基板の金属ケースなど)および/または基板の裏面に配置される表面実装部品(例えば半導体、コンデンサ、抵抗、コイルなど)であってよい。しかし、これらは単なる例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
【発明の実施の形態】(実施形態1)以下、本発明の1つの実施形態について図面を参照しながら説明する。図1R>1(a)は、本実施形態のフラックス塗布方法を説明する、基板の搬送方向に垂直な方向における断面図であり、図1(b)は、図1(a)の上面図である。図1(a)および(b)は、従来のフラックス塗布方法を説明する図5(a)および(b)のそれぞれ対応する。尚、本実施形態においては、従来のフラックス塗布方法および装置と異なる点を中心に説明し、従来のものと同様の構成については説明を省略するものとする。
【0039】本実施形態のフラックス塗布方法においては、図4を参照しながら説明した従来のスプレーフラクサー60aと同様のスプレーフラクサーを用いるものとするが、本実施形態におけるスプレーフラクサーは、図1R>1(a)に示すように、ノズル6(図5のノズル63に対応する)と基板1との間の距離を約30〜60mm、好ましくは約30〜50mmとする点で従来のものと異なる。
【0040】上記のようなスプレーフラクサーを用いて、図1(a)に示すように雰囲気ガスを排気ダクト(図示せず)により矢印5の方向に吸引し、基板1を図1R>1(a)の紙面に垂直な方向であって、図1(b)に示す矢印7の方向に搬送しながら、溶剤(例えばイソプロピルアルコールなど)および活性成分(例えばロジンなど)を含むフラックス3がノズル6から基板1の下面に向けて噴射される。これにより、噴射されたフラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板1に付着し得る。この結果、図2に示すように、基板1の下面12だけでなく、電子部品14のリード15が挿入されているスルーホール10の内壁面(即ち、スルーホール10に位置するランド13の筒状表面部分)のうち、下面12から基板1の厚さ方向に、基板1の厚さの少なくとも1/3の位置までの領域、好ましくは内壁面の全領域、更に好ましくはこれに加えて上面11の上方に位置するランド13の表面部分(図2にはこの態様を示す)にまで、フラックス3が濡れ広がって(好ましくは液膜を形成し)塗布される。好ましくは、このフラックス3は、同様にリード表面にも液膜を形成する(図示せず)。
【0041】このとき、ノズル6として従来のノズルをそのまま転用して、これを本実施形態のように基板に近づけて配置してよい。しかし、このような構成では、ノズルと基板との距離が例えば約1/3倍に減少するのに対して、ノズルから噴射されるフラックスの広がり角度θ(図2および図6)が同一であるため、基板の下面に同時に到達するフラックスの塗布領域が縮小されることになる(図1(b)のフラックス3と図5(b)のフラックス73とを比較のこと)。従って、この場合には、基板の下面全体にフラックスが塗布されるように、基板1の搬送速度等に応じて、ノズルの往復運動速度を従来よりも増加させる必要がある。あるいは、ノズルから噴射されるフラックスの広がり角度を改変するようにしてもよい。また、本実施形態においては1個のノズルを用いたが、複数のノズルを用いてフラックスを基板の全面を覆うように塗布してもよい。
【0042】以上のように、本実施形態によれば、基板に形成されたスルーホールの内壁面に、好ましくは基板の上面に位置するランドの部分の上面にまで、フラックスを十分に塗布することが可能となる。
【0043】尚、本実施形態においては、フローはんだ付け装置本体とは別のスプレーフラクサーを用いたが、フラックスを塗布するためのノズルを含むユニットが、フローはんだ付け装置内に備えられて一体的に構成されていてもよく、あるいは、発泡フラクサーと組み合わせて使用されてもよい。
【0044】(実施形態2)本実施形態は、実施形態1にて説明したフラックス塗布装置(実施形態1ではスプレーフラクサー)およびフラックス塗布方法を利用したフローはんだ付け方法および装置に関するものである。本実施形態に用いるフローはんだ付け装置は、図4を参照して説明したフローはんだ付け装置60において、スプレーフラクサー60aの代わりに、上述の実施形態1にて説明したスプレーフラクサーをフラックス塗布装置として用いたものである。
【0045】電子部品が適切に配置された基板を、まず、実施形態1にて説明したスプレーフラクサーを用いて同様の方法によりフラックスを塗布する。その後、得られた基板を、図4を参照して説明したフローはんだ付け装置本体60bに入れて、従来方法と同様にして基板をプリヒート(予備加熱)ステップおよびはんだ材料供給ステップに付して、フローはんだ付けプロセス(方法)を完成する。
【0046】以上の操作により、図3に示すような、はんだ材料から成るフィレット16が形成された電子回路基板20が得られる。このようなフィレット16は、はんだ材料としてSn−Pb系はんだ材料を用いる場合だけでなく、鉛フリーはんだ材料を用いる場合であっても得ることができる。本実施形態に利用され得る鉛フリーはんだ材料には、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag系、Sn−Ag−Bi系、およびSn−Ag−Bi−Cu系の材料などが挙げられ、好ましくはSn−Cu系、Sn−Ag−Cu系である。
【0047】ここで、はんだ材料として鉛フリーはんだ材料を用いる場合、例えば、特願2000−168903号および同2000−168904号に示されるような、示差熱分析の原理を利用した、鉛フリーはんだ材料の品質を評価するセンサなどによって、はんだ槽内の鉛フリーはんだ材料の品質を評価し、これを管理することが望ましい。
【0048】図3に示すような形状のフィレットが形成された電子回路基板は、「濡れ上がり不足」の発生が効果的に低減される。従って、ランドとリード間において十分に高い接合強度を提供することが可能となり、また、塩分などが溜まる凹部を有さないため、発火などを招くこともない。
【0049】
【実施例】実施形態1のフラックス塗布方法および装置(スプレーフラクサー)を、以下に示すような条件で具体的に実施した。
【0050】基板として、例えば約0.8〜2.0mmの厚さを有するプリント基板を用いた。この基板に形成されるスルーホールは内径約0.4〜5mmの円筒形状を有し、該スルーホールに同軸状に挿入されるリードは外形約5〜4mmの円筒形状を有していた。但し、本発明はこれに限定されず、またはスルーホールやリード断面を円形だけでなく楕円形またはその他の形状としてもよく、また、スルーホールにリードが挿入されない場合もある。基板の搬送速度は、約0.5〜2.0mm/分とした。他方、フラックスを噴射するためのノズルを基板の下面から約30〜50mm下方に配置した。ノズルは約20〜90度の広がり角度を有し、このようなノズルからフラックスを噴射させた。ノズルの往復運動速度は、約100〜400mm/秒とした。フラックスには、約3〜20重量%のロジン、つや消し剤および有機酸、約80〜97重量%のイソプロピルアルコールから成るものを使用した。また、基板の上方に設けた排気ダクトを約10〜20m3/分にて運転し、基板の周囲の雰囲気ガスを基板の上方に向けて吸引した。
【0051】以上のような条件でフラックスを塗布した後、実施形態2と同様に、プリヒートステップおよびはんだ材料供給ステップに付して、フローはんだ付けプロセスを完了させた。このとき、基板の搬送速度はスプレーフラクサーにおける上記速度と同様とし、基板を約100〜120℃(基板下面のランド温度)までプリヒートし、約245〜260℃の溶融した、Sn−Cu系材料またはSn−Ag−Cu系材料から成る鉛フリーはんだ材料を基板の下面から供給し、該はんだ材料から成るフィレットを形成させて、電子回路基板を得た。
【0052】得られた電子回路基板は、基板の上面に位置するランドの表面部分にもはんだ材料が付着し、「濡れ上がり不足」の発生が効果的に防止されることが確認された。
【0053】
【発明の効果】本発明によれば、はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するためのフローはんだ付けプロセスにおけるスプレー式フラックス塗布方法であって、基板に形成されたスルーホールにはんだ材料が十分に供給されることを可能にする方法、および該方法を実施するための装置が提供される。更に、本発明によれば、該フラックス塗布方法を利用するフローはんだ付け方法および該方法を実施するための装置が提供される。該フローはんだ付け方法により作製され電子回路基板は、特に、はんだ材料として鉛フリーはんだ材料を用いた場合でも、「濡れ上がり不足」の発生が効果的に低減され、はんだ材料による接合部の接合強度を十分に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)は、本発明の1つの実施形態のフラックス塗布方法を説明する、基板の搬送方向に垂直な方向における断面図であり、図1(b)は、図1(a)の上面図である。
【図2】 図1の実施形態のフラックス塗布方法を説明する、基板の部分断面図である。
【図3】 図1の実施形態のフラックス塗布方法を利用した、本発明の1つの実施形態のフローはんだ付け方法によって形成された電子回路基板の部分断面図である。
【図4】 従来のフローはんだ付け装置の概略断面模式図である。
【図5】 図5(a)は、図4のX−X線に沿った断面図であり、図5(b)は、図5(a)の上面図である。
【図6】 図5(a)のフラックス塗布部を説明する部分断面図である。
【図7】 従来のフローはんだ付けプロセスによって形成された電子回路基板であって、図6に対応する部分の部分断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 搬送爪
3 フラックス
4 矢印(往復運動方向)
5 矢印(吸引方向)
6 ノズル
7 矢印(搬送方向)
10 スルーホール
11 上面
12 下面
13 ランド
14 電子部品
15 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおける、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けてノズルから噴射することによってフラックスを基板に塗布するフラックス塗布方法であって、噴射されたフラックスが溶液状態を実質的に維持したままで基板に付着することを特徴とする方法。
【請求項2】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおける、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けてノズルから噴射することによってフラックスを基板に塗布するフラックス塗布方法であって、ノズルとノズルの上方に位置する基板との間の距離が、30〜60mmであることを特徴とする方法。
【請求項3】 フラックスが、基板に形成されたスルーホールの内壁面のうち、ノズルの配置されている側の基板の下面から基板の厚さ方向に、基板の厚さの少なくとも1/3の位置までの領域に塗布される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 フラックスが、該内壁面の全領域に塗布される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】 はんだ材料が、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag系、Sn−Ag−Bi系、およびSn−Ag−Bi−Cu系からなる群から選択される鉛フリーはんだ材料から成る、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のフラックス塗布方法を含むフローはんだ付け方法。
【請求項7】 フラックスを泡状に発泡させた状態で基板と接触させることによってフラックスを基板に塗布することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 請求項6または7に記載の方法に従って、はんだ材料により電子部品が基板にフローはんだ付けされた、電子回路基板。
【請求項9】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおいて使用されるフラックス塗布装置であって、噴射された液滴に含まれる溶剤が液体状態を実質的に維持したままで基板に付着するように、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けて噴射することによってフラックスを基板に塗布するノズルを備えることを特徴とする装置。
【請求項10】 はんだ材料を用いて電子部品を基板に実装するフローはんだ付けプロセスにおいて使用されるフラックス塗布装置であって、溶剤および活性成分を含むフラックスを基板に向けて噴射することによってフラックスを基板に塗布するノズルであって、ノズルと、ノズルの上方に位置する基板との間の距離が30〜60mmであるノズルを備えることを特徴とする装置。
【請求項11】 ノズルが、基板に形成されたスルーホールの内壁面のうち、ノズルの配置されている側の基板の下面から基板の厚さ方向に、基板の厚さの少なくとも1/3の領域にフラックスを塗布する、請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】 ノズルが、該内壁面の全領域にフラックスを塗布する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】 はんだ材料が、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag系、Sn−Ag−Bi系、およびSn−Ag−Bi−Cu系からなる群から選択される鉛フリーはんだ材料から成る、請求項9〜12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】 請求項9〜13のいずれかに記載のフラックス塗布装置を含むフローはんだ付け装置。
【請求項15】 泡状のフラックスを基板と接触させる発泡式のフラックス塗布装置を更に備える、請求項14に記載の装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図7】
image rotate


【図6】
image rotate


【公開番号】特開2002−100857(P2002−100857A)
【公開日】平成14年4月5日(2002.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−290256(P2000−290256)
【出願日】平成12年9月25日(2000.9.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】