説明

フラットディスプレイ用透明粘着フィルム、フラットディスプレイ及びその製造方法

【課題】初期段階においては再剥離が容易でありながらも、その後の段階においては十分な接着力を示し、フラットディスプレイの構成材料同士を高い剥離強度で相互に密着させて接着させることが可能なフラットディスプレイ用透明粘着フィルムを提供する。
【解決手段】両面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、少なくとも一方の面を構成する粘着層が、下記要件(1)〜(3)を満たす、フラットディスプレイ用粘着フィルムを提供する。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
(3)スライドガラスに貼り付けて23℃、24時間経過後の剥離強度が0.01〜5N/25mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットディスプレイ用透明粘着フィルム、フラットディスプレイ、及びフラットディスプレイの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、タッチパネルや3D表示用素子等の透明基板を表示モジュールに密着一体化させるために用いられるフラットディスプレイ用透明粘着フィルム、このフラットディスプレイ用透明粘着フィルムを用いて得られるフラットディスプレイ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等のフラットディスプレイにおいては、表示モジュールの保護や画面入力を目的として、ガラス、ポリカーボネート、又はアクリル等の素材からなる保護板やタッチパネル等の前面板(透明基板)を設けることがある。また、最近では立体(3D)表示を行うために、同様の素材からなる3D表示用素子としての透明基板を設けた構造が提案されている。
【0003】
通常、透明基板は表示モジュールと一定の間隔をあけた状態で設置されるため、透明基板と表記モジュールとの間には空気層が形成される。しかしながら、透明基板と空気層との界面、及び表示モジュールと空気層との界面においては屈折率が大きく異なるため、反射率が高くなる。このため、画像が暗くなる、或いは景色や室内照明等の外光が映り込んでしまい、画質が劣化するといった不具合が生じてしまう。
【0004】
このような不具合を解消すべく、透明基板と表示モジュールとの間に透明な両面接着性フィルムを充填し、屈折率差の大きい界面をなくして画質を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。そして、これらの技術において用いられる透明接着性フィルムの構成材料としては、透明性と接着力の観点からアクリル系粘着剤が有用であることが知られている(例えば、特許文献3〜6参照)。なお、このようなアクリル系粘着剤からなる透明接着性フィルムの実装方法についても様々な検討がなされている(例えば、特許文献5、7及び8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平3−37055号公報
【特許文献2】特開平7−105781号公報
【特許文献3】特開平11−199832号公報
【特許文献4】特開2009−102647号公報
【特許文献5】特開平6−75701号公報
【特許文献6】特開2010−65235号公報
【特許文献7】特開平6−75210号公報
【特許文献8】特開平9−6256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、表示モジュール(ディスプレイ)の高精細化、高画質化、及び高機能化に伴い、タッチパネルや3D表示用素子等の透明基板に採用される技術も、より高度化している。このため、高機能が付与された表示モジュール及び透明基板の部材価格も高まっている。従って、フラットディスプレイの出荷検査においてピックアップされた不良品は、直ちに廃棄されるのではなく、分解及び補修して再度出荷される。
【0007】
出荷前にピックアップされたフラットディスプレイの不良品等を分解するには、複数の構成部材を個々に分離させる必要がある。その際、従来のアクリル系粘着剤からなる透明接着性フィルムは、接着力が高いとともにゲル状であるため、構成部材が破損しないように分離させることが極めて困難であった。また、分離後においても、構成部材の表面に強固にこびりついた接着層を除去するのは困難であり、多大な労力が必要とされていた。
【0008】
透明接着性フィルムを介して表示モジュールに透明基板を貼り合わせる場合、表示モジュールと透明基板とがズレがないように留意する必要がある。しかしながら、貼り合わせミスを完全に無くすことは実質的に不可能に近い。このため、接着力の高いアクリル系粘着剤からなる透明接着性フィルムを用いて貼り合わせに失敗した場合、透明基板や表示モジュールに一旦接着した粘着剤を剥離させることは困難である。従って、高価な表示モジュールや機能付与された透明基板を廃棄せざるを得ないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。即ち、第一の発明の課題とするところは、初期段階においては再剥離が容易でありながらも、その後の段階においては十分な接着力を示し、フラットディスプレイの構成材料同士を高い剥離強度で相互に密着させて接着させることが可能なフラットディスプレイ用透明粘着性フィルムを提供することにある。
【0010】
また、第二の発明の課題とするところは、構成材料同士が高い剥離強度で相互に密着されている、製品信頼性に優れたフラットディスプレイ、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示すフラットディスプレイ用透明粘着フィルム、フラットディスプレイ、及びフラットディスプレイの製造方法が提供される。
【0012】
[1]両面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、少なくとも一方の面を構成する前記粘着層が、下記要件(1)〜(3)を満たす、フラットディスプレイ用粘着フィルム。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
(3)スライドガラスに貼り付けて23℃、24時間経過後の剥離強度が0.01〜5N/25mmである。
【0013】
[2]前記粘着層が、示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が110〜170℃である結晶性ポリオレフィン(B)を更に含む、前記[1]に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【0014】
[3]前記粘着層に含まれる前記ポリオレフィン系エラストマー(A)の量が、前記ポリオレフィン系エラストマー(A)と前記結晶性ポリオレフィン(B)の合計100重量部に対して60〜99重量部である、前記[2]に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【0015】
[4]前記ポリオレフィン系エラストマー(A)が、下記要件(I)及び(II)を満たすプロピレン・α−オレフィン共重合体である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
(I)全構成単位中、プロピレンに由来する構成単位の含有割合が45〜90モル%であり、炭素数2〜20のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く)に由来する構成単位の含有割合が10〜55モル%である。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が、1.0〜3.5である。
【0016】
[5]前記ポリオレフィン系エラストマー(A)が、下記要件(III)を更に満たす、前記[4]に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
(III)13C−NMRの測定結果から算出されるアイソタクティックトライアッド分率(mm)が85%以上である。
【0017】
[6]60℃における引張弾性率E(60)が0.005〜1MPaであるとともに、25℃における引張弾性率E(25)と前記引張弾性率E(60)とが、E(60)/E(25)<0.1の関係を満たす中間層を更に備える、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【0018】
[7]前記粘着層のMFR(230℃、2.16kgf)と、前記中間層のMFR(230℃、2.16kgf)との差が5g/10min以下である、前記[6]に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【0019】
[8]透明基板と、表示モジュールと、前記透明基板と前記表示モジュールとの間に配置されたフラットディスプレイ用透明粘着フィルムと、を備え、前記フラットディスプレイ用透明粘着フィルムが、少なくとも一方の面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、前記粘着層が、下記要件(1)及び(2)を満たす、フラットディスプレイ。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
【0020】
[9]前記透明基板がタッチパネルである、前記[8]に記載のフラットディスプレイ。
【0021】
[10]透明基板の表面に前記[1]〜[7]のいずれかに記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルムの一方の面を貼り付けて保護部材を作製する第一の工程と、前記保護部材を0〜120℃の温度条件で処理する第二の工程と、前記フラットディスプレイ用透明粘着フィルムの他方の面に表示モジュールを貼り付けてデバイスを作製する第三の工程と、前記デバイスを50〜120℃の温度条件で処理してフラットディスプレイを得る第四の工程と、を含む、フラットディスプレイの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフラットディスプレイ用透明粘着フィルムは、初期段階においては適度な剥離力を示し、再剥離が容易である。このため、表示モジュールに透明基板との貼り合わせにミスが生じた場合、或いは製品検査の段階で不良品としてはじかれた場合であっても、高価な部材を廃棄する必要がなく、容易に剥離させて分離、再利用することができる。また、本発明のフラットディスプレイ用透明粘着フィルムは、初期段階以降の段階においては、粘度が亢進して十分な接着力を示す。このため、フラットディスプレイの構成材料同士を高い剥離強度で相互に密着させて接着させることができる。
【0023】
本発明のフラットディスプレイは、構成材料同士が高い剥離強度で相互に密着されている。このため、製品信頼性に優れている。また、本発明のフラットディスプレイの製造方法によれば、構成材料同士が高い剥離強度で相互に密着され、製品信頼性に優れたフラットディスプレイを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.フラットディスプレイ用透明粘着フィルム
本発明のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム(以下、単に「透明粘着フィルム」とも記す)は、両面を構成する粘着層を備え、少なくとも一方の面を構成する粘着層が、下記要件(1)〜(3)を満たすものである。以下、その詳細について説明する。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
(3)スライドガラスに貼り付けて23℃、24時間経過後の剥離強度が0.01〜5N/25mmである。
【0025】
(粘着層)
粘着層は、本発明の透明粘着フィルムの両面を構成する粘着性を示す層である。粘着層の数については特に限定されず、単層であっても二層以上であってもよい。また、二層以上の粘着層を有する場合には、それぞれの粘着層の組成や厚さは同一であっても異なっていてもよい。なお、二層以上の粘着層を有する場合においては、透明粘着フィルムの一方の面を構成する層が、前記(1)〜(3)の要件を満たす粘着層であればよい。このため、他方の面を構成する層は、従来公知の粘着層(例えば、アクリル系粘着剤等からなる粘着層)であってもよい。
【0026】
粘着層には、ポリオレフィン系エラストマー(A)が含有される。このポリオレフィン系エラストマー(A)は、(i)示差走査熱量測定(DSC)により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は(ii)DSCにより融解ピークが実質的に観測されないものである。このように、融点(Tm)が65℃未満、又は融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)は、立体規則性が高く(インバージョンが少なく)、組成分布が狭く、均一な分子構造を有する。また、このようなポリオレフィン系エラストマー(A)は結晶性が低いため、被接着面の凹凸に経時的に入り込み易い。このため、貼り付け初期の段階では比較的剥離させ易く、糊残りも生じ難い。一方、貼り付けてから相当時間経過後においては、凹凸に適度に入り込むため、被着体同士を充分に密着させることができる。
【0027】
ポリオレフィン系エラストマー(A)の融点(Tm)は、以下のようにして測定することができる。試料をアルミパンに詰め、(i)100℃/分で200℃まで昇温して、200℃で5分間保持した後、(ii)20℃/分で−50℃まで降温し、次いで(iii)20℃/分で200℃まで昇温する。(iii)で得られた吸熱曲線を解析することにより、ポリオレフィン系エラストマー(A)の融点(Tm)を求めることができる。
【0028】
25℃における粘着層の引張弾性率E(25)は1〜100MPaであり、好ましくは1〜20MPaである。粘着層の引張弾性率E(25)が上記の数値範囲内にあるために、本発明の透明粘着フィルムは凹凸面に対しても適度に追従する。粘着層の引張弾性率E(25)が1MPa未満であると、凹凸面に対する追従性が高過ぎてしまう。このため、段差に粘着層が入り込んでしまって糊残りし易くなったり、取り扱い性が低下したりする。一方、粘着層の引張弾性率E(25)が100MPa超であると、凹凸面に対する追従性が低過ぎるため、密着性が低下する。
【0029】
粘着層の引張弾性率E(25)は、以下のようにして測定することができる。(i)初期長さ140mm、幅10mm、厚み75〜100μmのサンプルフィルムを用意(ii)測定温度25℃、チャック間距離100mm、引張速度50mm/minで引張試験を行い、サンプルフィルムの伸びの変化量(mm)を測定し、応力−ひずみ曲線(S−S曲線)を作成する。(iii)作成したS−S曲線の初期の立ち上がりの部分に接線を引き、その接線の傾きをサンプルフィルムの断面積で除して得られた値を「引張弾性率E(25)(MPa)」とする。
【0030】
粘着層をスライドガラスに貼り付けてから、23℃で24時間経過後(即ち、初期段階)の剥離強度は、0.01〜5N/25mmであり、好ましくは0.05〜5N/25mmである。初期段階における粘着層の剥離強度が上記の数値範囲内にあることで、初期段階では比較的剥離させ易く、糊残りも生じ難い。一方、貼り付けてから相当時間経過後においては、粘着力が亢進して剥離強度が上昇し、被着体同士を充分に密着させることができる。
【0031】
初期段階の粘着層の剥離強度は、以下のようにして測定することができる。横並びに配置した3枚のマイクロスライドガラス(硼珪酸ガラス、商品名「スライドグラス S1112」、松浪硝子工業社製、サイズ:25mm×76mm×1mm)の表面に、透明粘着フィルムを載置する。透明粘着フィルムのMD方向に沿って、シリコーン製ゴムロール(青、30mm径)を約1kg荷重で1.5往復転がして、マイクロスライドガラスに透明粘着フィルムを貼付して測定用試料片を得る。得られた測定用試験片を23℃、50%RHの環境試験室内に24時間放置する。23℃、50%RHの環境試験室にて180度引張剥離試験を実施すれば、対ガラス板剥離強度(N/25mm)を測定することができる。
【0032】
粘着層の厚さは、本発明の透明粘着フィルムが埋める透明基板と表示モジュールとの間隔の大きさによって適宜調整されるが、通常1〜500μmであり、好ましくは5〜300μm、更に好ましくは10〜100μmである。なお、粘着層は、必要に応じて二層以上の多層構造としてもよい。粘着層を構成する材料は、ポリオレフィン系エラストマー(A)を含む熱可塑性樹脂材料である。このため、このような熱可塑性樹脂材料を溶融押出成形等することによって、容易に多層構造を有する粘着層を形成することができる。
【0033】
本発明の透明粘着フィルムの可視光線に対する全光線透過率は90%以上であり、好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上である。即ち、本発明の透明粘着フィルムは全光線透過率が高いため、画像が暗くなる等の不具合が生じ難く、透明基板と表示モジュールとを密着して一体化させるための粘着フィルムとして好適である。
【0034】
透明粘着シートの全光線透過率は、JIS K7105 「5.5.2 測定法A」に従って測定することができる。より具体的には、分光光度計に積分球を設置するとともに、透明粘着フィルムを積分球の入口に設置し、波長550nmにおける全光線透過率(%)を測定する。
【0035】
本発明の透明粘着フィルムの両面を上記の粘着層で構成した場合、これらの粘着層は、いずれもアクリル系粘着剤からなる層ではない。このため、この透明粘着フィルムの粘着層には、不純物として不可避的に発生又は存在するアクリル酸等の腐食性成分が含まれることはない。従って、タッチパネル等の電極を備えた構成材料を接着させた場合であっても、電極が腐食される、或いはこのアクリル酸等に起因するガスが発生するといった不具合が生じ難い。このため、本発明の透明粘着フィルムを用いれば、腐食や外観不良といった不具合が生じ難く、信頼性に優れたフラットディスプレイを製造することができる。なお、従来のアクリル系粘着剤からなる粘着層であっても、不純物としてのアクリル酸をある程度除去することは可能ではあるが、不純物の除去作業に手間やコストが掛かる。このため、このような除去作業を必要としない粘着層を有する本発明の透明粘着フィルムは、アクリル系粘着剤からなる粘着層を有する従来の透明粘着フィルムに比して、コスト面等においても極めて有利である。
【0036】
(ポリオレフィン系エラストマー(A))
粘着層に含有されるポリオレフィン系エラストマー(A)は、前記要件(1)を満たすものであればよく、組成等のその他の要件については特に限定されない。但し、好適なポリオレフィン系エラストマー(A)具体例として、下記要件(I)及び(II)を満たすプロピレン・α−オレフィン共重合体を挙げることができる。
(I)全構成単位中、プロピレンに由来する構成単位の含有割合が45〜90モル%であり、炭素数2〜20のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く)に由来する構成単位の含有割合が10〜55モル%である。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が、1.0〜3.5である。
【0037】
プロピレン・α−オレフィン共重合体には、プロピレンに由来する構成単位(以下、「プロピレン単位」とも記す)と、炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構成単位(以下、「α−オレフィン単位」とも記す)とが含まれている。なお、「炭素数2〜20のα−オレフィン」の概念にプロピレンは包含されない。
【0038】
プロピレン・α−オレフィン共重合体に含まれるプロピレン単位の割合は、全構成単位中45〜90モル%であり、好ましくは45〜80モル%、更に好ましくは50〜75モル%である。また、プロピレン・α−オレフィン共重合体に含まれるα−オレフィン単位の割合は、全構成単位中10〜55モル%であり、好ましくは20〜55モル%、更に好ましくは25〜50モル%である。プロピレン単位とα−オレフィン単位の含有割合が、それぞれ上記の数値範囲内にあると、透明性、柔軟性、耐熱性、耐傷性が高くなるために好ましい。また、後述する結晶性ポリオレフィン(B)との相溶性が良好であるため、透明性に優れるとともに、高温下で長時間使用してもベタつきが発生し難い等、耐熱性に優れる粘着層を形成することができる。
【0039】
「炭素数2〜20のα−オレフィン」の具体例としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を挙げることができる。なかでも、エチレン、1−ブテンが好ましい。
【0040】
プロピレン・α−オレフィン共重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)(以下、「分子量分布(Mw/Mn)」ともいう)は、1.0〜3.5であり、好ましくは1.0〜3.0である。分子量分布(Mw/Mn)が上記の数値範囲内にあると、特に高温環境下におけるベタつきが少ないために好ましい。
【0041】
ポリオレフィン系エラストマー(A)は、13C−NMRの測定結果から算出されるアイソタクティックトライアッド分率(mm)(以下、「mm値」とも記す)が85%以上であることが好ましく、88%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが特に好ましい。mm値が上記の数値範囲内にあるポリオレフィン系エラストマー(A)は、機械物性(強度及び伸び)が良好となる。また、後述する結晶性ポリオレフィン(B)との相溶性が良好となる。このため、透明性に優れるとともに、高温下で長時間使用してもベタつきが発生し難い等、耐熱性に優れる粘着層を形成することができる。
【0042】
ポリオレフィン系エラストマー(A)のmm値は、国際公開第2004−087775号、第21頁、第7行目〜第26頁第6行目に記載された方法で測定及び算出することができる。
【0043】
(結晶性ポリオレフィン(B))
粘着層には、前述のポリオレフィン系エラストマー(A)とともに、結晶性ポリオレフィン(B)が含有されていることが好ましい。なお、DSCにより測定される結晶性ポリオレフィン(B)の融点(Tm)は110〜170℃であり、好ましくは120〜168℃である。また、融点(Tm)と同時に測定される融解熱量(ΔH)は50mJ/mg以上であることが好ましい。融点(Tm)が上記の数値範囲内にある結晶性ポリオレフィン(B)を含有させることにより、形成される粘着層の耐熱性を向上させることができる。また、被着体に対するポリオレフィン系エラストマー(A)の粘着度合が過剰になることを効果的に抑制することができる。このため、初期段階でより剥離させ易く、糊残りを更に生じ難くすることができる。
【0044】
結晶性ポリオレフィン(B)としては、プロピレン単位を含有するプロピレン系重合体が好ましい。プロピレン系重合体の例には、ホモポリプロピレン、及びプロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く)との共重合体が含まれる。なお、プロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0045】
結晶性ポリオレフィン(B)としては、ホモポリプロピレン、又はプロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましい。なお、形成される粘着層の耐熱性と剛性の観点からは、ホモポリプロピレンが好ましい。一方、形成される粘着層の柔軟性と透明性の観点からは、プロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましい。
【0046】
「炭素数2〜20のα−オレフィン」の具体例としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を挙げることができる。プロピレンと炭素数2〜20のα−オレフィンとの共重合体としては、(i)プロピレンとエチレンとの共重合体、(ii)プロピレンと炭素数4〜10のα−オレフィンとの共重合体、(iii)プロピレンとエチレンと炭素数4〜10のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。
【0047】
プロピレン系重合体に含まれるプロピレン単位の割合は、プロピレン単位とα−オレフィン単位の合計100モル%に対して、90モル%以上であることが好ましい。
【0048】
プロピレン系重合体は、アイソタクティックプロピレン系重合体であることが好ましい。この「アイソタクティックプロピレン系重合体」とは、NMR法により測定したアイソタクティックペンタッド分率(以下、「mmmm分率」とも記す)が90%以上、好ましくは95%以上のプロピレン系重合体をいう。mmmm分率は、13C−NMRを使用して測定される分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を意味する。より具体的には、mmmm分率は、プロピレンが5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレン単位の分率を意味し、13C−NMRスペクトルで観測されるメチル炭素領域の全吸収ピーク中に占める、mmmmピークの分率として算出される。なお、mmmm分率は、例えば特開2007−186664号公報に記載の方法で求めることができる。
【0049】
プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)(ASTM D1238、230℃、2.16kgf)は、0.01〜400g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることが更に好ましい。MFRが上記の数値範囲内にあるプロピレン系重合体を用いることで、フィルム成形性、特に押出成形性を向上させることができる。
【0050】
プロピレン系重合体の引張弾性率は500MPa以上であることが好ましい。なお、プロピレン系重合体の引張弾性率は、JIS K7113−2に準拠し、プロピレン系重合体からなる厚さ2mmのプレスシートについて23℃にて測定して得られる値である。
【0051】
上記のプロピレン系重合体のうち、アイソタクティックプロピレン系重合体は、例えば立体規則性触媒を用いて製造することができる。具体的には、固体状チタン触媒成分と、有機金属化合物触媒成分と、更に必要に応じて用いられる電子供与体と、から得られる触媒を用いて製造することができる。固体状チタン触媒成分の具体例としては、(i)比表面積が100m/g以上である担体に三塩化チタン又は三塩化チタン組成物が担持された固体状チタン触媒成分、(ii)マグネシウム、ハロゲン、電子供与体(好ましくは芳香族カルボン酸エステル又はアルキル基含有エーテル)、及びチタンを必須成分とし、これらの必須成分が比表面積100m/g以上である担体に担持された固体状チタン触媒成分を挙げることができる。
【0052】
一方、アイソタクティックプロピレン系重合体は、メタロセン触媒を用いて製造することもできる。有機金属化合物触媒成分としては、有機アルミニウム化合物が好ましい。有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライド等を挙げることができる。また、電子供与体としては、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子、又はホウ素原子等を含有する有機化合物を用いることができる。なかでも、これらの原子を含有するエステル化合物やエーテル化合物が好ましい。これらの触媒は、共粉砕等の手法により活性化されていてもよく、前述のα−オレフィンが前重合されたものであってもよい。
【0053】
ポリオレフィン系エラストマー(A)と結晶性ポリオレフィン(B)とが粘着層に含有される場合における、ポリオレフィン系エラストマー(A)の量は、ポリオレフィン系エラストマー(A)と結晶性ポリオレフィン(B)の合計100重量部に対して60〜99重量部であることが好ましい。粘着層に含有されるポリオレフィン系エラストマー(A)の量を上記の数値範囲内にすることで、粘着層に結晶性ポリオレフィン(B)を含有させた効果が有効に発揮される。
【0054】
(中間層)
本発明の透明粘着フィルムは、60℃における引張弾性率E(60)が0.005〜1MPaであるとともに、25℃における引張弾性率E(25)と60℃における引張弾性率E(60)とが、「E(60)/E(25)<0.1」の関係を満たす中間層を更に備えることが好ましい。このような中間層を設けることで、透明粘着フィルムの取り扱い性(ハンドリング性)が向上する。即ち、粘着層のみを有する透明粘着フィルムに比して全体的に硬くなるので、被着体に対する貼り付けや剥離の作業がより簡単になる。
【0055】
中間層の60℃における引張弾性率E(60)は0.005〜1MPaであることが好ましく、0.01〜0.5MPaであることが更に好ましい。透明粘着フィルムを加温条件下で被着体に貼り付ける場合においては、中間層の引張弾性率E(60)が上記の数値範囲内にあると適度な流動性を示すため、被着体表面の凸凹に対する良好な追従性が得られる。
【0056】
また、中間層の25℃における引張弾性率E(25)は1〜10MPaであることが好ましく、2〜9MPaであることが更に好ましい。中間層の引張弾性率E(25)が上記の数値範囲内にあると、透明粘着フィルムを被着体に貼り付けた後、常温条件下において形状を保持することができる。
【0057】
なお、中間層の25℃における引張弾性率E(25)と60℃における引張弾性率E(60)とが、「E(60)/E(25)<0.1」の関係を満たすことで、被着体表面の凹凸に対する追従性と、常温条件下における形状保持性とのバランスがよくなるため好ましい。なお、中間層の引張弾性率E(60)及びE(25)は、前述の粘着層の引張弾性率E(25)の測定方法に準じて測定することができる。
【0058】
中間層の密度は、800〜950kg/mであることが好ましく、830〜920kg/mであることが更に好ましい。中間層の密度が800kg/m未満であると、引張弾性率が低くなり過ぎるため、形状固定力が低下する傾向にある。一方、密度が950kg/m超であると、引張弾性率が高くなり過ぎるため、凸凹追従性が低下する傾向にある。
【0059】
中間層は、例えばオレフィン系共重合体によって形成されることが好ましい。オレフィン系共重合体としては、炭素数2〜12のα−オレフィンに由来する構成単位を主な構成単位とするα−オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0060】
炭素数2〜12のα−オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が含まれる。
【0061】
なかでも、貼り付け時の凹凸追従性に優れる点で、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、及びエチレンとプロピレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの三元共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体;プロピレンと1−ブテンと炭素数5〜12のα−オレフィンとの三元共重合体等が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が更に好ましい。プロピレン単位を含むオレフィン系共重合体は、熱溶融性が高いために好ましい。なお、α−オレフィン共重合体の市販品としては、例えば商品名「TAFMER(登録商標)」(三井化学社製)等がある。
【0062】
中間層の引張弾性率は、例えば、オレフィン系共重合体を構成するモノマーの種類、共重合比、又は変性の有無等によって調整される。例えば、オレフィン系共重合体の60℃における引張弾性率を低くするためには、プロピレンの共重合比を多くしたり、カルボン酸等で変性したりすればよい。
【0063】
中間層には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記オレフィン系共重合体以外の樹脂や添加剤等が含まれてもよい。そのような添加剤の例には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、滑剤、柔軟剤、粘着性付与剤等が含まれる。
【0064】
中間層の厚さは、本発明の透明粘着フィルムが埋める透明基板と表示モジュールとの間隔の大きさによって適宜調整されるが、被着体の凹凸(段差)が大きくなるほど厚くするのが好ましく、特に限定されないが、通常5〜500μmであり、20〜300μm、50〜100μm程度に調整するのが通常である。
【0065】
粘着層のMFR(230℃、2.16kgf)と、中間層のMFR(230℃、2.16kgf)との差は、5g/10min以下であることが好ましい。粘着層のMFRと中間層のMFRとの差が上記数値以下であること、即ち、両層のMFRの差が小さいと、共押出成形によって粘着層と中間層とが積層された透明粘着フィルムを製造することが容易となるために好ましい。一方、両層のMFRの差が大き過ぎると、共押出成形によって透明粘着フィルムを製造することが困難な場合がある。
【0066】
(その他の層)
本発明の透明粘着フィルムは、その取り扱い性等の観点から、最外層に離型層(離型フィルム)が配置されていることが好ましい。なお、本明細書における「透明粘着フィルムの可視光線に対する全光線透過率」は、離型層(離型フィルム)を含まない粘着層のみの物性値、或いは中間層を備える場合には、粘着層と中間層の積層体のみの物性値を意味する。離型フィルムを構成する材料は、特に制限されないが、ポリエチレンテレフタレート等を具体例として挙げることができる。なお、離型フィルムには、離型性を向上させるべく、離型処理が施されていることが好ましい。
【0067】
(透明粘着フィルムの製造方法)
本発明の透明粘着フィルムは、粘着層を形成するための材料を、例えば押出成形すること等により製造することができる。また、中間層を備えた透明粘着フィルムについても、任意の方法で製造することができる。例えば、(i)粘着層と中間層とを共押出成形する方法(共押出形成法);(ii)フィルム状の粘着層とフィルム状の中間層とをラミネート(積層)する方法(ラミネート法)等がある。
【0068】
ラミネート法による場合は、フィルム同士の接着性を高める上で、フィルム同士の界面に、必要に応じてコロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。ラミネートは、押出ラミネートとドライラミネートのいずれであってもよい。フィルム状の粘着層及び中間層は、いずれも押出成形等により製膜して得ることができる。
【0069】
2.フラットディスプレイ
本発明のフラットディスプレイは、透明基板と、表示モジュールと、透明基板と表示モジュールとの間に配置された透明粘着フィルムと、を備える。そして、この透明粘着フィルムは、少なくとも一方の面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、粘着層が、下記要件(1)及び(2)を満たす。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
【0070】
より具体的には、本発明のフラットディスプレイは、透明基板と表示モジュールとの間に配置される透明粘着フィルムとして、これまで述べてきた本発明の透明粘着フィルムを用いている。なお、本発明のフラットディスプレイを構成する透明粘着フィルムの粘着層の剥離強度は、貼り合わせ前の段階(初期段階)の透明粘着フィルムの粘着層の剥離強度に比して高い。
【0071】
粘着層に含有されるポリオレフィン系エラストマー(A)は結晶性が低いため、被接着面の凹凸に経時的に入り込み易い。このため、ポリオレフィン系エラストマー(A)を含有する粘着層は、貼り付けてから相当時間経過後には凹凸に適度に入り込むので、被着体(透明基板、表示モジュール)同士は充分に密着一体化されている。
【0072】
25℃における粘着層の引張弾性率E(25)が上記の数値範囲内にあるため、透明粘着フィルムは被接着面の凹凸面に対して適度に追従している。従って、本発明のフラットディスプレイを構成する透明基板と表示モジュールは充分に密着一体化されている。また、25℃における粘着層の引張弾性率E(25)が上記の数値範囲内にあると、外部からの衝撃等が効率的に吸収されるといった利点もある。
【0073】
更に、透明粘着フィルムは全光線透過率が高いので、表示モジュールからの光を効率的に透過させることができる。このため、本発明のフラットディスプレイは良好な画質を有する。なお、フラットディスプレイの具体例としては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電子ペーパー等を挙げることができる。
【0074】
透明基板の具体例としては、ガラス板、アクリル板、ポリカーボネート板等の、表示モジュールの表面を外部衝撃等から保護する機能を有する板状部材を挙げることができる。また、透明基板は、タッチパネル等の機能層であってもよい。タッチパネルは、一般的に、(i)透明電極(検出電極層)を有するガラス板、(ii)接着層、及び(iii)透明電極(駆動電極層)を有するガラス板からなるパネル体である。
【0075】
表示モジュールの具体例としては、液晶表示モジュール、PDP、電子ペーパー等を挙げることができる。液晶表示モジュールは、通常、(i)ガラス板等の第一の透明板、(ii)透明電極に挟まれた液晶材料、及び(iii)ガラス板等の第二の透明板、がこの順に積層された積層構造を有するパネル体である。
【0076】
透明基板と表示モジュールとの間には、透明基板に加わる衝撃を緩和する衝撃緩和フィルム、透明基板が割れたときの飛散を防止する飛散防止フィルム、視野角向上やコントラスト比向上のための光学補償フィルム等の機能性フィルムを一層以上挿入してもよい。衝撃緩和フィルム及び飛散防止フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等を挙げることができる。また、光学補償フィルムの具体例としては、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、ガラス板等を挙げることができる。
【0077】
透明基板と表示モジュールとの間に機能性フィルムを一層以上設ける場合には、透明粘着フィルムは、例えば、(i)透明基板と機能性フィルムとの間、(ii)機能性フィルム同士の間、又は(iii)機能性フィルムと表示モジュールとの間に配置され、隣接する層同士を接着させていることが好ましい。
【0078】
(フラットディスプレイの製造方法)
本発明のフラットディスプレイの製造方法は、(1)透明基板の表面に前述の透明粘着フィルムの一方の面を貼り付けて保護部材を作製する第一の工程と、(2)保護部材を0〜120℃の温度条件で処理する第二の工程と、(3)フラットディスプレイ用透明粘着フィルムの他方の面に表示モジュールを貼り付けてデバイスを作製する第三の工程と、(4)デバイスを50〜120℃の温度条件で処理してフラットディスプレイを得る第四の工程と、を含む。
【0079】
第一の工程では、透明基板の表面に透明粘着フィルムの一方の面(粘着層の表面)を貼り付ける。これにより、透明基板と透明粘着フィルムとが積層された保護部材を得ることができる。ここで、透明基板がタッチパネルである場合には、通常、このタッチパネルの表面には凹凸(段差)が形成されている。このため、第二の工程においては、第一の工程で得られた保護部材を適当な温度条件で処理し、透明粘着フィルムによってタッチパネル表面の段差を吸収させる。
【0080】
第二の工程では、0〜120℃、好ましくは25〜100℃、更に好ましくは25〜70℃で保護部材を処理する。0℃未満の温度処理では、段差を吸収する効果が発揮されない。一方、120℃超の温度で保護部材を処理すると、透明粘着フィルムの粘度が亢進し過ぎてしまい、剥離の際に糊残りが生ずる等、再剥離が困難になる。
【0081】
第三の工程では、保護部材上の透明粘着フィルムの他方の面(粘着層の表面)に表示モジュールを貼り付ける。これにより、保護部材と表示モジュールとが積層されたデバイスを得る。次いで、第四の工程において、第三の工程で得られたデバイスを適当な温度条件で処理し、透明粘着フィルムの粘度を更に亢進させる。これにより、保護部材を構成する透明基板と、表示モジュールとの密着性を高め、構成部材同士が高い剥離強度で一体化されたフラットディスプレイを得ることができる。
【0082】
第四の工程では、50〜120℃、好ましくは70〜110℃でデバイスを処理する。
50℃未満の温度処理では、透明粘着フィルムの粘度が亢進し難い。一方、120℃超の温度でデバイスを処理しても、粘度が亢進する速度はさほど上昇しない。また、デバイスを構成する表示モジュールが液晶表示モジュールである場合には、120℃超の温度で処理すると液晶にダメージがおよぶ可能性があるために好ましくない。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(各種物性値の測定方法及び各種評価方法)
【0085】
(1)引張弾性率
初期長さ140mm、幅10mmのサンプルフィルムを用意し、測定温度25℃又は60℃、チャック間距離100mm、引張速度50mm/minで引張試験を行い、サンプルフィルムの伸びの変化量(mm)を測定するとともに、S−S曲線を作成した。作成したS−S曲線の初期の立ち上がりの部分に接線を引き、その接線の傾きをサンプルフィルムの断面積で除して得られた値を、それぞれの測定温度における「引張弾性率(MPa)」とした。
【0086】
(2)MFR
ASTM D−1238に準拠し、230℃、2.16kgfにおけるMFR(g/min)を測定した。
【0087】
(3)融点(Tm)
示差走査熱量計を使用して発熱・吸熱曲線を測定し、昇温時の最大融解ピーク位置の温度を融点(Tm)とした。なお、融点(Tm)の測定は、試料をアルミパンに詰め、(i)100℃/分で200℃まで昇温して、200℃で5分間保持した後、(ii)20℃/分で−50℃まで降温し、次いで(iii)20℃/分で200℃まで昇温し、(iii)で得られた吸熱曲線を解析して求めた。
【0088】
(4)分子量分布(Mw/Mn)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用し、オルトジクロロベンゼン溶媒(移動相)とし、カラム温度140℃の条件で試料のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定した。具体的には、分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製のゲル浸透クロマトグラフ(商品名「Alliance GPC−2000型」)を使用し、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GNH6−HT2本、及びTSKgel GNH6−HTL2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo−ジクロロベンゼン(和光純薬工業社製)及び酸化防止剤としてBHT(武田薬品社製)0.025重量%を用いて、1.0ml/分で移動させた。試料濃度は15mg/10mlとし、試料注入量は500μlとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000及びMw>4×10については東ソー社製のものを用いた。一方、1000≦Mw≦4×10についてはプレッシャーケミカル社製のものを用いた。
【0089】
(5)アイソタクティックトライアッド分率(mm)
13C−NMRスペクトルの解析によりアイソタクティックトライアッド分率(mm)(%)を求めた。
【0090】
(6)対ガラス板剥離強度
横並びに配置した3枚のマイクロスライドガラス(硼珪酸ガラス、商品名「スライドグラス S1112」、松浪硝子工業社製、サイズ:25mm×76mm×1mm)の表面に、透明粘着フィルムを載置した。透明粘着フィルムのMD方向に沿って、シリコーン製ゴムロール(青、30mm径)を約1kg荷重で1.5往復転がして、マイクロスライドガラスに透明粘着フィルムを貼付して測定用試料片を得た。得られた測定用試験片を23℃、50%RHの環境試験室内に24時間放置した。23℃、50%RHの環境試験室にて180度引張剥離試験を実施して、対ガラス板剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0091】
一方、得られた測定用試料片を23℃、50%RHの環境試験室内に1時間保管した後、100℃に設定したオーブン内に6時間保持した。次いで、23℃、50%RHの環境試験室内に24時間放置した後、同環境試験室にて180度引張剥離試験を実施して、対ガラス板剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0092】
(7)対アクリル板剥離強度
横並びに配置した3枚のアクリル板(サイズ:25mm×76mm×1mm)を用いたこと以外は、前述の「対ガラス板剥離強度」の測定方法と同様にして、23℃で24時間放置後、及び100℃で6時間保持後の対アクリル板剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0093】
(8)対SUS板剥離強度
横並びに配置した2枚のSUS板(サイズ:50mm×100mm×1mm)を用いたこと以外は、前述の「対ガラス板剥離強度」の測定方法と同様にして、23℃で24時間放置後、及び100℃で6時間保持後の対SUS板剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0094】
(9)全光線透過率
JIS K7105 「5.5.2 測定法A」に従い、分光光度計を使用して波長550nmにおける全光線透過率(%)を測定した。なお、分光光度計には積分球を設置するとともに、透明粘着フィルムを積分球の入口に設置して測定を行った。
【0095】
(10)糊残り
前述の「23℃で24時間放置後の対ガラス板剥離強度」の測定の際に、透明粘着フィルムを剥離した後のガラス板の表面を目視観察し、以下の基準に従って「糊残り」を評価した。
○:平均直径が1mm以上の糊残りが認められない。
×:平均直径が1mm以上の糊残りが認められる。
【0096】
(11)密着性
上述の「(6)対ガラス板剥離強度」において作製した測定用試験片(100℃で6時間保持後、23℃で24時間放置したもの)を目視観察し、以下の基準に従って「密着性」を評価した。
○:気泡が認められない、又は直径1mm未満の気泡のみが認められる。
×:直径1mm以上の気泡が認められる。
【0097】
(製造例1:ポリオレフィン系エラストマー(A1)の製造)
充分に窒素置換した2000mlの重合装置に、乾燥ヘキサン859ml、1−ブテン85g、及びトリイソブチルアルミニウム1.0mmolを常温で仕込んだ。重合装置の内温を65℃に昇温した後、重合装置内にプロピレンを供給し、系内圧力が0.76MPaとなるように加圧した。次いで、重合装置内にエチレンを更に供給し、系内圧力が0.77MPaとなるように調整した。ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)2,7−ジ−tert−ブチルフルオレニルジルコニウムジクロライド0.002mmolと、アルミニウム換算で0.6mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)とを接触させたトルエン溶液を重合装置内に添加した。重合装置の内温を65℃とした後、重合装置内にエチレンを供給し、系内圧力を0.77MPaに保持しながら30分間重合を行った。メタノール20mlを重合器内に添加して重合を停止させた。脱圧後、重合溶液と2Lのメタノールとを混合して得られた析出物を、真空下、130℃で12時間乾燥して、67.6gのポリオレフィン系エラストマー(A1)を得た。
【0098】
得られたポリオレフィン系エラストマー(A1)の極限粘度[η]は1.42dl/gであり、ガラス転移温度Tgは−24℃であり、エチレン単位の含有割合は14モル%であり、プロピレン単位の含有割合は67モル%であり、1−ブテン単位の含有割合は19モル%であり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。また、DSCによっては、明瞭な融解ピークを確認することができなかった。更に、13C−NMRにより測定及び算出された、頭−尾結合からなるプロピレンに由来する構成単位の連鎖部のトライアッドタクティシティー(アイソタクティックトライアッド分率(mm))は、95.0%以上であった。
【0099】
(製造例2:樹脂材料(C1)の製造)
ポリオレフィン系エラストマー(A1)85重量部と、結晶性ポリオレフィン(B1)(ホモポリプロピレン、商品名「三井ポリプロピレンF107」、三井化学社製、MFR(230℃、2.16kgf):7g/10min、融点Tm:160℃)15重量部と、滑剤としてエルカ酸アミド0.22重量部とを、二軸押出機を使用して200℃で混練することにより、粘着層(1)及び粘着層(2)の材料となる樹脂材料(C1)を得た。
【0100】
(実施例1)
粘着層(1)及び粘着層(2)の材料として樹脂材料(C1)を用意するとともに、中間層の材料として、α−オレフィン共重合体(商品名「タフマー P0275」(登録商標)、三井化学社製)を用意した。用意した粘着層(1)、中間層、及び粘着層(2)の各材料をフルフライト型のスクリューを備えた押出機にそれぞれ投入し、溶融混練させた。粘着層(1)、中間層、及び粘着層(2)の押出温度をいずれも230℃とし、三層の溶融樹脂を多層ダイ内で積層させて共押出成形することにより、粘着層(1)、中間層、及び粘着層(2)がこの順に積層された三層構造を有する透明粘着フィルムを得た。得られた透明粘着フィルムの粘着層(1)及び粘着層(2)のそれぞれの上にセパレータ(商品名「SP-PET」、三井化学東セロ社製)を積層した後、所定の幅にスリットして巻き取った。
【0101】
(実施例2)
中間層の材料としてポリプロピレン(商品名「F327」、三井化学社製、MFR(ASTM D1238準拠、230℃):7g/10min)を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして三層構造を有する透明粘着フィルムを得た。
【0102】
(比較例1)
アクリル系粘着剤からなる市販品の粘着フィルムとして、リンテック社製の商品名「Opteria」シリーズ(粘着層の膜厚:150μm)を用いて評価を行ったところ、対ガラス板剥離強度、対アクリル板剥離強度、及び対SUS板剥離強度のいずれについても、初期段階と100℃で6時間保持後とに大きな違いは認められなかった。また、糊残りの評価結果は「×」、密着性の評価結果は「○」であった。
【0103】
(評価)
実施例1及び2で得た透明粘着フィルムの各種物性値の測定結果を及び評価結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、実施例1及び2の透明粘着フィルムの対ガラス剥離強度は、初期段階では低いのに対して、高温処理後には十分に上昇していることが明らかである。このため、実施例1及び2の透明粘着フィルムは、適当な温度条件で保持することにより粘度が亢進し、ガラス板に対する剥離強度が上昇することが分かる。一方、実施例1及び2の透明粘着フィルムの対アクリル板剥離強度及び対SUS板剥離強度は、対ガラス剥離強度に比して初期段階においても高いことが明らかである。このため、実施例1及び2の透明粘着フィルムは、タッチパネル等を構成するアクリル板や電極等の部材に対して初期段階から十分な剥離強度で密着することが可能であり、表示性を損なう等の不具合の生じ難い、信頼性の高いフラットディスプレイを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の透明粘着フィルムは、液晶ディスプレイをはじめとするフラットディスプレイの構成部材同士を接着させるための部材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、
少なくとも一方の面を構成する前記粘着層が、下記要件(1)〜(3)を満たす、フラットディスプレイ用粘着フィルム。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
(3)スライドガラスに貼り付けて23℃、24時間経過後の剥離強度が0.01〜5N/25mmである。
【請求項2】
前記粘着層が、示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が110〜170℃である結晶性ポリオレフィン(B)を更に含む、請求項1に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【請求項3】
前記粘着層に含まれる前記ポリオレフィン系エラストマー(A)の量が、
前記ポリオレフィン系エラストマー(A)と前記結晶性ポリオレフィン(B)の合計100重量部に対して60〜99重量部である、請求項2に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系エラストマー(A)が、下記要件(I)及び(II)を満たすプロピレン・α−オレフィン共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
(I)全構成単位中、プロピレンに由来する構成単位の含有割合が45〜90モル%であり、炭素数2〜20のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く)に由来する構成単位の含有割合が10〜55モル%である。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が、1.0〜3.5である。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系エラストマー(A)が、下記要件(III)を更に満たす、請求項4に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
(III)13C−NMRの測定結果から算出されるアイソタクティックトライアッド分率(mm)が85%以上である。
【請求項6】
60℃における引張弾性率E(60)が0.005〜1MPaであるとともに、25℃における引張弾性率E(25)と前記引張弾性率E(60)とが、E(60)/E(25)<0.1の関係を満たす中間層を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【請求項7】
前記粘着層のMFR(230℃、2.16kgf)と、前記中間層のMFR(230℃、2.16kgf)との差が5g/10min以下である、請求項6に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルム。
【請求項8】
透明基板と、表示モジュールと、前記透明基板と前記表示モジュールとの間に配置されたフラットディスプレイ用透明粘着フィルムと、を備え、
前記フラットディスプレイ用透明粘着フィルムが、少なくとも一方の面を構成する粘着層を備えるとともに、可視光線に対する全光線透過率が90%以上であり、
前記粘着層が、下記要件(1)及び(2)を満たす、フラットディスプレイ。
(1)示差走査熱量測定により測定される融点(Tm)が65℃未満であるか、又は示差走査熱量測定により融解ピークが実質的に観測されないポリオレフィン系エラストマー(A)を含む。
(2)25℃における引張弾性率E(25)が1〜100MPaである。
【請求項9】
前記透明基板がタッチパネルである、請求項8に記載のフラットディスプレイ。
【請求項10】
透明基板の表面に請求項1〜7のいずれか一項に記載のフラットディスプレイ用透明粘着フィルムの一方の面を貼り付けて保護部材を作製する第一の工程と、
前記保護部材を0〜120℃の温度条件で処理する第二の工程と、
前記フラットディスプレイ用透明粘着フィルムの他方の面に表示モジュールを貼り付けてデバイスを作製する第三の工程と、
前記デバイスを50〜120℃の温度条件で処理してフラットディスプレイを得る第四の工程と、
を含む、フラットディスプレイの製造方法。

【公開番号】特開2012−116157(P2012−116157A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270254(P2010−270254)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】