説明

フラーレンドープナノ構造体及びその作製方法

ナノ構造体にドープして伝導率特性を調節する。種々の例示的実施形態で、カーボンナノチューブ等のナノ構造体にハロゲン化フラーレンタイプのドーパント材料をドープする。いくつかの実施態様では、ドーパント材料は溶液から又は蒸着により堆積され、ナノチューブにドープしてナノチューブの熱及び/又は電気伝導率を上昇させるために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許文献
本願は、2010年1月25日付で提出された「フラーレンドープナノ構造体」という名称の米国仮特許出願第61/298,043号に対して米国特許法第119条に基づく利益を主張する。この仮特許出願の全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
連邦支援による研究及び開発
本発明は、アメリカ国家地球空間情報局により認められた契約HM1582−07−1−2009及び米国科学財団により認められた契約0213618に基づく政府支援を受けてなされた。米国政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
分野
本発明は、全般的にはナノ構造体に関し、より具体的にはドープされたナノ構造体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0004】
カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェン系材料等のナノ構造体は、多くの異なる用途で益々使用されてきている。例えば、いくつかのCNTに基づく応用例として、電子回路、生体機能化デバイス、トランジスタ、ディスプレイ、タッチスクリーン、OLED、eリーダー、太陽電池、並びにセキュリティー用途、化学的用途、及び生物学的用途のためのセンサーが含まれる。これらの応用例の多くで、薄くて伝導率の高い材料が望ましい。
【0005】
これらの応用例の多くでは、特性が一定なナノチューブの製造は、多くの条件下で、特に大規模生産条件下で、困難である。例えば、ナノチューブは多くの場合、形状、又はキラリティーが異なり、伝導率及び電子的特徴が異なる(例えば、ナノチューブの製造は、半導性ナノチューブ及び金属性ナノチューブの両方を生じ得る)。
【0006】
上記に鑑みて、特定の用途に適するように、ナノチューブやグラフェン等のナノ構造体は操作又は改変されてきた。例えば、カーボンナノチューブに、CNTの伝導率を改善することができるヨウ素、塩化銀、及び塩化チオニル等のドーパントがドープされてきた。
しかし、そのようなドーパントを大規模製造及び実世界での用途に用いるのは困難であり得る。例えば、特定のドーパントは、望ましくない(例えば毒性)又は使用が難しいガスの使用を伴うか、又は必要とし、多くのドーパントは長期間安定なドープ構造体の形成に使用できなかった。特定のドーパントは、時間の経過と共にカーボンナノチューブ及び他の有機材料を分解し得、封入を妨げ、多くの用途に不適切なドープ構造体を形成する。更に、カーボンナノチューブをドープ又は改変する多くのアプローチで、例えば高熱又は大きな処理能力(lengthy throughput)を伴う製造プロセス等の望ましくない及び/又は費用の高い製造プロセスが用いられてきた。
【0007】
これら及び他の問題が、ナノ構造体を用いる又はナノ構造体の利益を受ける種々の方法、デバイス、及びシステムにとって依然として課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の種々の態様は、上記を含む課題に取り組む、ナノ構造体に関係するデバイス、方法、及びシステムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例示的実施形態の1つでは、ナノ構造体にフラーレン系材料がドープされる。ハロゲン化フラーレン(例えばフッ化フラーレン)等のフラーレン系材料をナノ構造体に塗布(apply)して核形成させる。核形成したフラーレン系材料により、核形成フラーレン系材料に由来するドーパントがナノ構造体にドープされる。
【0010】
別の例示的実施形態は、以下のナノ構造体のドープ方法に関する。フラーレン系材料をナノ構造体の外面に塗布する。このフラーレン系材料は、フェルミ準位がナノ構造体のフェルミ準位及び/又は伝導帯エネルギーより低く、ナノ構造体上でフラーレン系ドーパント材料を成長させるのに利用される。ナノ構造体の表面は、上記フラーレン系ドーパント材料に由来するドーパントでドープされて、ナノ構造体の一部及びドーパントを含むハイブリッド材料を形成する。該ハイブリッド材料の伝導率は、上記フラーレン系ドーパント材料がドープされる前のナノ構造体の伝導率よりも高い。
【0011】
別の例示的実施形態は、単一ナノワイヤー及び/又は回路の一部等のカーボン系ナノワイヤーのドープ方法に関する。C6018、C6024、C6036、C6048、C6044、及びC7054からなる群から選択される材料を含むフラーレン系材料をカーボン系ナノワイヤーに塗布する。(フッ化)フラーレン系材料を核形成させて、カーボン系ナノワイヤー回路上に核形成したフラーレン系材料を形成し、カーボン系ナノワイヤー回路に(フッ化)フラーレンをドープする。
【0012】
別の例示的実施形態は、半導性カーボン系ナノ材料を有するカーボン系ナノワイヤーカーボン系ナノワイヤー、並びに、ハロゲン化(例えばフッ化)フラーレンドーパント及び上記カーボン系ナノ材料を含む伝導性ハイブリッド材料に関する。上記ハイブリッド材料は、カーボン系ナノ材料の伝導率と比べて半導性カーボン系ナノワイヤーの伝導率を上昇させる伝導率を示す。
【0013】
上記の概要は本開示の全ての実施形態又は全ての実施態様を説明することを意図したものではない。図面及び以下の詳細な説明により種々の実施形態がより具体的に例示される。
【0014】
以下の本発明の種々の実施形態の詳細な説明を添付の図面と一緒に考慮することにより、本発明がより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の例示的実施形態の1つに係る、ドーピングプロセスの種々の段階におけるナノ構造体を示す図である。
【図2】本発明の種々の例示的実施形態に従ってドープされたカーボンナノチューブのエネルギー準位を示す図である。
【図3】本発明の種々の例示的実施形態に従ってドープされたカーボンナノチューブを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は種々の改変例及び変更例が可能であるが、その特定のものを例として図面に示し、詳細に説明する。しかし、説明されている特定の実施形態に本発明を限定することは意図してないと理解されるべきである。逆に、特許請求の範囲に定義される態様を含む本発明の範囲に含まれる全ての改変例、均等物、及び変更例が含まれることが意図される。
【0017】
詳細な説明
本発明は、本明細書に記載されているようにナノ材料のドーピングに関する。本発明は必ずしもそのようなデバイス及び用途に限定されないが、これら及び他の文脈を用いた例の説明により、本発明の種々の態様が理解されよう。
【0018】
例示的実施形態では、ハロゲン化フラーレンを用いてカーボンナノチューブ等のナノ構造体にドープする。一実施形態では、1又は複数のフッ化フラーレンドーパントを炭素系又は無機系のナノ/マイクロ構造体上に堆積させるか、成長させるか、配置する。ドーパントとナノ/マイクロ構造体を密接に接触させて、電荷移動及びナノ/マイクロ構造体のドーピングを行い、ナノ/マイクロ構造体の電気及び/又は熱の伝導率を設定する(例えば向上させる)。特定の用途では、ドーパントはナノ/マイクロ構造体の強度、剛性、又は他の機械的特性も増大させる。
【0019】
種々のアプローチを用いて標的構造体上にドーパント材料を堆積又は形成させることができる。いくつかの用途では、例えば熱蒸着法を用いて、ドーパントを気相から堆積させる。別の用途では、ドーパントを溶液から堆積させる。更に別の用途では、他のアプローチにより、あるいは同時に及び/又は異なるステップで行うことができるアプローチの組合せ(例えば溶液ベース及び気相ベースの堆積)を用いて、ドーパントを堆積させる。堆積又は形成したら、ドーパント材料は標的構造体のドーピングに使用されるが、(ドーピングの前又は後に)処理することで更に改変してもよい。
【0020】
種々のドーパントを異なる用途に用いることができる。いくつかの用途では、ドーパントは、マイクロ/ナノ構造体の伝導率を3桁以上上昇させるように選択され使用される。種々の用途で、ドーパントは、安定性が得られるように選択され、長期間(例えば周囲温度条件下及び/又は約250℃まで及び250℃を超える温度で、無期限)にわたって安定なドープ特性を示す電子及び/又は熱デバイスを作製するために使用される。
【0021】
多くの用途において、塗布対象のナノ/マイクロ構造体に選択的なドーパントを用いて該ナノ/マイクロ構造体にドープする。例えば、多くの用途で、ドーパントの堆積を特定のナノ構造体に限定することが望ましい。それにより、周囲のナノ構造体及び/又は下の基材に対して特定のナノ構造体上で選択的に成長する1又は複数のドーパント材料が該ナノ構造体上で成長する一方、他の構造体上では成長が少ないか起こらない。
【0022】
種々の例示的実施形態に関連して、ハロゲン化フラーレンは、ナノ/マイクロチューブ又はワイヤー系電子デバイス、例えばトランジスタ、ディスプレイ、タッチスクリーン、センサー、電子ペーパー(eペーパー)、電子リーダー(eリーダー)、フレキシブル電子デバイス、太陽電池、熱良導体、及び複合材料を含む用途のための、炭素及び無機ナノ/マイクロ構造体のドーピングに使用される。上記ドーパントは、例えば半導性ナノチューブの伝導率を上昇させることにより及び/又は半導性ナノチューブにドープされて金属性ナノチューブを形成することにより、半導性ナノ/マイクロ構造に安定且つ効率的にドープされて該構造体の伝導率レベルを調節するように選択される。種々の用途で、ドーパントは、本明細書に記載されているようにナノ/マイクロ構造体の電荷輸送特性を調節するように選択される。
【0023】
これらの文脈において、ドーピング又はドープという用語は、ナノ/マイクロ構造体に接触する1又は複数の材料の添加を指す。付加的なドーピング材料、すなわちドーパントは、ナノ/マイクロ構造体の伝導帯中に移動性の自由電荷を導入する。移動可能な自由電荷を伝導帯に添加することにより、半導性材料の電子的及び熱的挙動が調節又は変更される(例えば金属様の特性を有する構造体に挙動が類似するように改変される)。例示的なドープナノ/マイクロ構造体及び使用されるドーパントに関する更なる詳細を以下に記載する。
【0024】
いくつかの例示的実施形態では、以下の分子式を有するフッ化フラーレン誘導体のクラスから選択される1又は複数のドーパントを用いてナノチューブにドープする:いくつかの例示的実施形態では、ナノチューブは、
60、C60Cl、C60Cl、C70、C70Cl、C70Cl
(式中、Xは、C60に対して1〜55であり、C70に対しては65未満であり、より好ましくは、Xは18、24、36、48、54、又は56であり、
式中、Xは、C60については1〜55であり、C70については65未満である。より好ましくは、Yは4、6、24、36、48、54、又は56である。)を含む分子式のハロゲン化フラーレン誘導体のクラス及びその少なくとも一部から選択される1又は複数のドーパントを用いてドープされる。ドープされるナノ構造体には、個々のナノチューブ、カーボンファイバー、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、又は本明細書に記載されているその他のナノ/マイクロ構造体の1又は複数が含まれる。
【0025】
いくつかの実施形態では、上記の式C60で表されるフッ化フラーレンを用いてカーボンナノチューブ(CNT)及び/又はカーボンファイバーがドープされる。本明細書に記載の複数の用途については、半導性チューブにドープするためのフッ化フラーレンを用いたドーピングにより半導性チューブ及び金属性チューブの混合物を改変し、該混合物の全体的な熱及び/又は電気的な伝導率を向上させる。カーボン系ナノ/マイクロ構造体には、単層カーボンナノチューブ(SWNT)又は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の1又は複数が含まれ得、1又は複数のキラリティーを有するこのようなナノチューブが含まれ得る。更に、カーボン系ナノ/マイクロ構造体には、ナノチューブCNTの束(bundle)又はカーボンファイバーが含まれ得る。
【0026】
別の実施形態は、特定の用途に適するように1から複数のグラフェン薄層にドープする、グラフェン系構造体のドーピングに関する。例えば、グラフェン層は、その伝導率又は他の特性を電子的用途、熱的用途、及び高強度用途の1又は複数のための選択されたレベルに調節するためにドープされ得る。いくつかの実施態様では、望ましくは酸化グラフェンを用いて達成される特定の加工特性に関連する用途等のために、酸化グラフェン又は還元酸化グラフェンがドープされる。これらのアプローチ(グラフェン及び酸化グラフェンのドーピング)を用いて、そのような構造体の電子伝導率及び熱伝導率を改善し、多くの用途において及び種々の技術に適した、実用的な構成要素を創出することができる。
【0027】
別の例示的実施形態では、電子回路及び/又はデバイスを形成するために、無機ナノ/マイクロ構造体、例えば無機半導体に、本明細書に記載のハロゲン化フラーレンを用いてドープする。いくつかの用途では、酸化亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム;金属/非金属半導体、例えばテルル化カドミウム、硫化亜鉛、窒化チタン、及びセレン化銅インジウムガリウム;及びその他の金属/非金属酸化物を含むもの等の無機マイクロ/ナノ構造体にドープして電子回路を形成する。
【0028】
本明細書に記載されている種々の実施形態は、図面及び/又は例示的実施形態の1又は複数と関連付けて実施され得る。(上記及び以下の)本明細書の種々の例示的実施形態に関連して使用されるように、「ナノ構造体」という用語は、ナノメートルスケールの寸法的特徴を有する構造体、例えば約1ナノメートルの範囲の直径(及び数千ナノメートルをはるかに超え得る長さ)を有することが多いカーボンナノチューブを指し得る。別の実施形態では、「ナノ構造体」という用語は、1マイクロメートルに近い(超えてもよい)数百ナノメートルのスケールの寸法的特徴を有する構造体、例えば直径が数百ナノメートルから数マイクロメートルのカーボンファイバーを指す。
【0029】
更に、本明細書に記載のドーピングアプローチは、単層CNT又はグラフェン粒子等の単一ナノ構造体のドーピング、又はワイヤー、回路、シート、若しくは他のデバイスの形態に調製され得る、多数のこのような構造体のドーピングに適用可能である。例えば、いくつかの応用例は、レーザーアブレーション、はんだ付け、基材固定(substrate fixation)、及び溶接等のアプローチを用いて接続又は連結されたCNTのドーピングに関する。特定の実施形態では、本明細書に記載のドーピングアプローチは、このような接続も容易化し得(例えば、堆積されたドーパント材料がナノ構造体を接続するようにも作用し得る)、ドープされた構造体の機械的強度の向上も促進し得る。
【0030】
特定の実施形態では、CNT又はグラフェン等のナノ構造体は、界面活性剤又はポリマーベースの溶液等の溶液中に分散され、溶液から堆積される。これらの実施形態では、界面活性剤又はポリマーはCNT又はグラフェンの表面の一部又は全体を覆ってよく、本明細書に記載のドーパント材料が、この被覆された表面上に堆積される。このような構造体中での電荷移動は、CNT又はグラフェンの露出領域を介して、又は表面のコーティングへの電荷移動及び更にコーティングを介したCNT又はグラフェンへの電荷移動を介してなされ得る。
【0031】
種々の文脈において、本明細書に記載されている「ナノワイヤー」及び「回路」という用語は、回路の一部を形成する導体に、並びに/又は導体及び他の構成要素を有する回路に適用される。例えば、回路という用語は、動力を供給されて1又は複数の回路構成要素に結合され得る導体又は伝導性シートを指し得る。回路という用語はまた、1又は複数の回路構成要素と同調したそのような導体又は伝導性シートを指し得る。
【0032】
図面を参照すると、図1は、本発明の別の例示的実施形態に係るドーピングプロセスの種々の段階におけるナノ構造体100を示している。Aにおけるナノチューブ110は例として示されており、前述したように、以下に記載されているアプローチを種々のナノ構造体又はマイクロ構造体との関連で使用することができる。例えば、CNT、単層ナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンファイバー、ナノワイヤー、ナノ材料の引き綱(tow)、及びナノ材料のロープ(例えば、様々な直径の束)の1又は複数を、示されているように形成することができる。異なる種類のナノ材料、例えば前述したもの、種々のキラリティーのナノチューブ(例えば半導性又は金属性)、半導性ナノチューブ、金属性ナノチューブ、無機及び有機ナノワイヤー(例えば、ZnO、Ag、Au、又はSiの1又は複数と共に)、又はその組合せも使用することができる。更に、ナノチューブ110を1つだけ示しているが、本明細書に記載されているように多数のこのようなナノチューブ(又はナノ構造体)を同時に及び/又は異なる製造プロセスの一部としてドープすることができる。
【0033】
得られた構造体は、これらのナノ構造体の導線、回路、及び/又は膜全体等の種々のデバイスを形成するために使用され得る。ナノチューブ110上のドーパントの密度、アラインメント、長さ、及び全体の厚さ(例えば1〜100nm又はそれよりはるかに大きい)も特定の用途に適するように調節することができる。更に、ナノチューブ110は自立していてもよく、又は基材上に形成されてもよい。
【0034】
Bにおいて、例えば溶液又は蒸気から、ドーパント材料がナノチューブ110上に堆積され、堆積されたドーパント材料120が、Cにおいてナノチューブのドーピングに使用されてナノチューブの伝導率が調節される(例えば上昇させる)。ドーパント材料には、前述のフッ化フラーレン材料、並びに該材料のその他の変形(variant)が含まれ得る(例えば、ドーパントには、C6018、C6024、C6036、C6048、C6044、及びC7054の群から選択される置換フラーレン材料、又は他のハロゲン化フラーレン、例えば塩化フラーレンが含まれ得る)。いくつかの実施態様では、Cにおいてドーパント材料を核形成させる(例えば、材料は堆積物上で核形成する)ことにより核形成ドーパントを形成させ、且つ/又はプロセスの一部としてナノチューブ110のドーピングに使用するが、これはドーピングレベルの調節又は調製にも利用することができる。ドーパント材料は、ナノチューブ110の一部又は全体に沿って成長し得、1又は複数の初期核形成部位から、核形成部位での堆積/核形成の一部として及び/又は連続した堆積若しくは別の堆積プロセスの一部として広がる。
【0035】
一般的に、ドーピングは、複数の伝導性構造体を形成するように、-示されているようにナノ構造体全体(例えばナノチューブ10全体)又は該ナノ構造体の膜全体にわたって行うことができる。膜のドーピングを行う多くの実施態様で、膜全体で使用されるドーパントのフェルミ準位は、大部分又はほぼ全てのナノ構造体(例えば、ナノ構造体の75%超、85%超、又は95%超)のフェルミ準位より小さい。上記膜中にナノ構造体の混合物が存在する場合(例えば半導性ナノワイヤー及び金属性ナノワイヤー)、該膜中で使用されるドーパントのフェルミ準位は、1種類のナノ構造体(例えば半導性ナノ構造体)の大部分又はほぼ全てのものより小さくてよい。
【0036】
図2は、本発明の種々の例示的実施形態に従ってドープされたカーボンナノチューブの例示的エネルギー準位を示すチャート200である。これらの例示的エネルギー準位(最高被占分子軌道(HOMO)及び最低空分子軌道(LUMO))は、種々のフッ化ドーパントでドープされたカーボンナノチューブについて示されており、非ドープカーボンナノチューブの例示的値も示されている。
【0037】
種々の例示的実施形態によれば、カーボンナノチューブで種々の伝導率を達成するために、図2に示されるようなドーパントの1又は複数が用いられる。ドーパントの選択は、特定の用途に望ましい伝導率、コスト、若しくはドーパントのその他の特徴又はドープカーボンナノチューブを用いて形成されるデバイスの他の態様に基づいて行われ得る。更に、使用されるドーパントの量は、所望のドーパントレベルが達成されるように設定することができる(例えば、示されるように、フッ化フラーレンを約5ナノメートルの厚さに堆積させる)。
【0038】
カーボンナノチューブのエネルギー準位を210に示し、C6018、C6036、及びC6048を含むフッ化フラーレンをドープしたカーボンナノチューブのエネルギー準位をそれぞれ220、230、及び240に示す。フッ素(F)の電気陰性度を利用することにより、フッ素含有量を増やすと、フラーレンの最低空分子軌道(LUMO)が大幅に下がる。各F原子の添加により、LUMOが調節され、すなわち最大約0.05eV下がる。同様に、1又は複数の他の種類のハロゲンでも同様に実施することができる。これらの実施形態に関連して、全てのフッ化フラーレン(FF)のフェルミエネルギーがCNTのフェルミエネルギーより低いこと及び他のハロゲンを用いた同様なアプローチが適用可能であることが見出された。
【0039】
CNT及びFF系の平衡化後、フェルミエネルギーは、CNTにpドープする(正孔を導入する)CNTからFFへの電子移動により平衡化される。C6036及びC6048の最低空分子軌道はCNTのHOMOよりエネルギーが低くなり得、これにより効率的な電荷移動ドーピングが容易になる。
【0040】
図3は、本発明の種々の例示的実施形態に従ってドープされたカーボンナノチューブを示すヒストグラム300である。非ドープカーボンナノチューブを310に示し、フッ化フラーレンC6018、C6036、及びC6048がドープしたカーボンナノチューブをそれぞれ320、330、及び340に示す。
【0041】
これらの実施形態に関連して、図3に示されるように、フッ素化によりドーピング効率及びCNT伝導率が向上することが見出された。例えば、種々の実験的実施形態に関連して、CNTのHOMOとC6048をドープしたCNTのLUMOとのエネルギーの差
(ECNT−HOMO−EC60F48−LUMO
は約0.8eVであることが分かっている(例えば、少なくとも1単位(at least unity)のドーピング効率を示す)。半導性CNTに接触した各C6048分子は、CNTに少なくとも1つの正孔を導入するのに用いられる。
【0042】
実験型の一実施形態では、正孔濃度(正孔/cmで表したp)は、シート抵抗、SC−CNTの移動度μ(約5〜50cm/Vs)、及び電気素量eと、p=(eμRs)−1の関係にあり、約1012〜1015正孔/cmに設定され得る。一層のC6048についての単層被覆度は約8×1013分子/cmであり、これは正孔濃度より低く、C6048はCNTの側層もドープしている。したがって、ドーピング効率は1単位(unity)を超え得、いくつかの実施態様では、C6048を用いてLUMOに2個の電子が受け取られる。
【0043】
上記に基づいて、種々の実施形態は、ドーパントの量を調節することによりドープナノ/マイクロ構造体の透明度を調節することに関する。例えば、より多くのドーパント材料を用いることで電気及び/又は熱の伝導率を上げることができるが、これにより透明度が下がることがある。この点に関して、種々の実施形態は、所望の用途に向けて調節した伝導率と透明度とのトレードオフで所望の伝導率レベル及び所望の透明度レベルを満たす量でドーパントを用いることに関する。例示的な一実施態様では、シート抵抗は、透明度約96%のC6048ドープ球状半導性CNTで約600オームに調節される。
【0044】
種々の例示的実施形態に基づき及びそれらとの関連で発見されたように、透明度及び全体的膜厚(具体的なデバイス用途向けに調節可能)の点で、本明細書に記載したフッ化フラーレン(C60)は、カーボンナノチューブが成長する基材と比べてカーボンナノチューブ上で優先的に成長するように用いられる。一実施態様では、カーボンナノチューブ上への(図2及び/又は3に示されるような)C6048堆積後の透明度の低下を少なくするか最小限に抑え、C6048の比較的大きなバンドギャップ及び(白)色に基づき、光をあまり吸収しないようにする(poor absorber)。いくつかの実施態様では、透明度約91%で150オーム未満のシート抵抗が実現され、別の実施態様では、接続されたナノチューブについて、透明度約92%で約60オームのシート抵抗が実現される。
【0045】
上記及び図面中に示した種々の実施形態は一緒に及び/又は別の様式で実施され得る。図面中に描かれている項目の1又は複数も、特定の用途において有用であるように、より分離された様式又はより一体化された様式で実施することができ、特定の場合には除去されるか及び/又は動作しないようにしてよい。例えば、ナノ構造体に関する種々の実施形態を、マイクロ構造体、例えば約1ナノメートルから数百ナノメートル程度の直径又は他の寸法的特徴を有するもので実施してもよい。同様に、カーボン系構造体を用いることを特徴とする実施形態を、非カーボン系構造体(例えば他の材料の又はハイブリッドカーボン材料のナノチューブ)で実施してもよく、ナノチューブを含む実施形態を、ナノチューブに代えて及び/又はそれに加えてナノワイヤー及びカーボンファイバーを用いて実施してもよい。更に、種々の異なるドーピング材料が異なる用途で使用され得る。本明細書の説明から、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく多くの変更が可能であることが当業者には理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ系ナノ構造体のドーピング方法であって、
前記ナノ構造体の外表面に、前記ナノ構造体のフェルミ準位よりも低いフェルミ準位を有するフラーレン系材料を塗布する工程;
前記塗布されたフラーレン系材料を用いて、前記ナノ構造体上でフラーレン系ドーパント材料を成長させる工程;及び
前記ナノ構造体の表面に前記フラーレン系ドーパント材料からドーパントをドープすることにより、前記ドーパントから前記ナノ構造体に電荷を移動させて、前記ナノ構造体の一部と前記ドーパントとを含むハイブリッド材料を形成させる工程であって、前記ハイブリッド材料が、前記フラーレン系ドーパント材料によるドーピング前の前記ナノ構造体の伝導率より高い伝導率を示す、工程
を含む方法。
【請求項2】
前記フラーレン系材料を塗布する工程の前に、前記フラーレン系材料のフェルミ準位を前記ナノ構造体のフェルミ準位より低い準位に調節するために、フラーレンを非フラーレン系材料と混合して前記フラーレン系材料を調製する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フラーレン系材料を塗布する工程の前に、前記ナノ構造体のフェルミ準位よりも低いフェルミ準位を有するハロゲン化フラーレン系材料を形成するために、フラーレンをハロゲン系材料と混合して前記フラーレン系材料を調製する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、前記ナノ構造体のフェルミ準位よりも少なくとも0.026eV低いフェルミ準位を有する非高分子フラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、前記ナノ構造体の伝導帯の最低エネルギー準位より少なくとも0.026eV低い伝導帯を有するフラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、シートを形成する複数のナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布することを含み;
前記塗布されたフラーレン系材料を用いて前記ナノ構造体上でフラーレン系ドーパント材料を成長させる工程が、前記複数のナノ構造体上でフラーレン系ドーパント材料を成長させることを含み;
前記ナノ構造体の表面にドープする工程が、前記複数のナノ構造体の表面に前記フラーレン系ドーパント材料からドーパントをドープして各ナノ構造体上にハイブリッド材料を形成することを含み、前記ハイブリッド材料が、前記ナノ構造体の一部及び前記ドーパントを含み且つ前記フラーレン系ドーパント材料によるドーピング前の前記ナノ構造体の伝導率より大きい伝導率を示し、前記ハイブリッド材料が、前記伝導性シートの一部として形成されて前記シートへの入射光の少なくとも90%を通過させるように前記シートを構成する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ構造体の表面にドープする工程が、前記ナノ構造体の抵抗を少なくとも約20%低下させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、ハロゲン化フラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、フッ化フラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、C6018、C6024、C6036、C6044、C6048、及びC7054の群から選択される材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、複数の前記ナノ構造体を含む膜の透明度を調節するために前記フラーレン系材料の厚さを選択すること及び前記ナノ構造体の膜に前記フラーレン系材料を前記選択された厚さで塗布することを含み、
前記フラーレン系材料を核形成させる工程が、前記フラーレン系材料を前記選択された厚さで核形成させ、前記膜上に核形成した材料を形成させて前記膜の透明度を調節された透明度に調節することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、カーボン系ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記塗布された材料で前記ナノ構造体にドープする工程が、ドーピング前の前記塗布された材料の抵抗と比べて前記塗布された材料の抵抗値を前記ドーパントで低下させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、半導性カーボンナノチューブ、金属性カーボンナノチューブ、無機ナノワイヤー、有機ナノワイヤー、酸化亜鉛ナノ構造体、銀ナノ構造体、金ナノ構造体、ケイ素ナノ構造体、グラフェン、及び酸化グラフェンの少なくとも1つを含むナノ構造体にフラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、溶液から前記ナノ構造体上に前記フラーレン系材料を堆積させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記フラーレン系材料を塗布する工程が、前記ナノ構造体上に前記フラーレン系材料を蒸着することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、前記ナノ構造体に選択的なフラーレン系材料を塗布することにより前記ナノ構造体に隣接する他の材料への前記フラーレン系材料の塗布を軽減することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記フラーレン系材料を塗布する工程及び使用する工程が、前記ナノ構造体上に前記フラーレン系材料を堆積させることを含み、前記ナノ構造体上で前記フラーレン系材料が核形成及び成長して核形成したフラーレン系材料が形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、厚さが少なくとも約1マイクロメートルの構造体に前記フラーレン系材料を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ構造体に前記フラーレン系材料を塗布する工程が、前記ナノ構造体上のコーティング上に前記フラーレン系材料を堆積させることを含み、
前記フラーレン系材料を核形成させる工程が、前記コーティング上の前記核形成したフラーレン系材料の少なくとも一部を形成することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
カーボンナノチューブ系ナノワイヤーのドーピング方法であって、
カーボンナノチューブ系ナノワイヤーにフラーレン系材料を塗布する工程であって、前記フラーレン系材料が、C6018、C6024、C6036、C6048、C6044、及びC7054)の群から選択される材料を含む、工程;
前記フラーレン系材料を核形成させて前記カーボン系ナノワイヤー上に核形成したフラーレン系材料を形成させる工程;及び
前記核形成したフラーレン系材料を用いて前記カーボンナノチューブ系ナノワイヤーにドープする工程
を含む、方法。
【請求項22】
前記塗布工程及び前記核形成工程が、前記フラーレン系材料を前記カーボン系ナノワイヤー上に堆積させることを含み、前記フラーレン系材料が前記カーボンナノチューブ系ナノワイヤー上で核形成する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
カーボンナノチューブ系ナノワイヤーに前記フラーレン系材料を塗布する工程が、複数の前記ナノワイヤーを含むデバイスの透明度を調節するように前記ナノワイヤー上に堆積される前記フラーレン系材料の量を選択すること及び前記複数のナノワイヤーに前記フラーレン系材料を前記選択された量で塗布することを含み、
前記堆積されたフラーレン系材料を核形成させる工程が、前記フラーレン系材料を核形成させて前記ナノワイヤー上に核形成された材料を形成させ且つ前記デバイスの透明度を前記調節された透明度に調節することを含む、
請求項21に記載の方法。
【請求項24】
回路ノード間に結合された半導性カーボンナノチューブ系ナノ材料と、
ハロゲン化フラーレンドーパント及び前記カーボンナノチューブ系ナノ材料を含む伝導性ハイブリッド材料であって、前記ドーパントが、前記カーボンナノチューブ系ナノ材料に電荷を移動させるように構成されており且つ前記回路ノードと電気的に結合するように構成されており、前記ハイブリッド材料が、前記カーボンナノチューブ系ナノ材料の伝導率より高い伝導率を示す、伝導性ハイブリッド材料と
を含む、カーボンナノチューブ系ナノワイヤー回路。
【請求項25】
前記ドーパントが、C6018、C6024、C6036、C6048、C6044、及びC7054の群から選択される材料を含む、請求項24に記載のナノワイヤー回路。
【請求項26】
前記伝導性ハイブリッド材料の抵抗値が、前記半導性カーボンナノチューブ系ナノ材料の抵抗値よりも1桁小さい、請求項24に記載のナノワイヤー回路。
【請求項27】
前記伝導性ハイブリッド材料が、前記半導性カーボンナノチューブ系ナノ材料よりも高い熱伝導率を前記ナノワイヤーに付与するように前記ナノワイヤーと構成及び配列されている、請求項24に記載のナノワイヤー回路。
【請求項28】
前記半導性カーボンナノチューブ系ナノ材料がカーボンナノチューブであり、
前記伝導性ハイブリッド材料が前記ハロゲン化フラーレンドーパントをドープされた前記カーボンナノチューブの側壁である、
請求項24に記載のナノワイヤー回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518439(P2013−518439A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551205(P2012−551205)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2011/022071
【国際公開番号】WO2011/091263
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】