説明

フラーレン誘導体並びにその溶液及び膜

【課題】ケトンやエステル等の極性有機溶媒への高溶解性を維持するとともに、波長193nmの光に対する吸光度が低いため消衰係数が低く、且つ屈折率が高いフラーレン誘導体、並びにそのフラーレン誘導体を含有する溶液、及びフラーレン誘導体膜を提供する。
【解決手段】付加置換基としてのヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物のヒドロキシル基に、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基を適当量導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜に関するものである。詳しくは、本発明は、フラーレン骨格上に特定の波長に対する屈折率と消衰係数を制御できる有機基を部分構造として有するフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、各種用途開発が進められている。
【0003】
フラーレン誘導体の中でも、下記式(I)で表わされるフラーレン骨格の部分構造において、C6〜C10のうち3つの炭素原子(例えばC6〜C8)に置換基が付加された部分構造(以下、適宜「3重付加部分構造」と言う。)を有するフラーレン誘導体、及びC6〜C10の全てに置換基が付加された部分構造(以下、適宜「5重付加部分構造」と言う。)を有するフラーレン誘導体が種々合成され、開示されている。
【0004】
【化1】

上記式(I)中、C1〜C10は何れも、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。
【0005】
なお、以下の記載では、上記式(I)で表わされる部分構造のC1〜C10で表わされる炭素原子を、単に「C1」〜「C10」で表わす場合がある。
さらに、以下の記載では、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造においてC6〜C10に結合する置換基を「付加置換基」という場合がある。
【0006】
また、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体を、付加置換基の総数に応じて呼ぶ場合がある。この呼び名に従えば、3重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「3重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「5重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「6重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造と5重付加部分構造とを一つずつ有するフラーレン誘導体は「8重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「10重付加フラーレン誘導体」となる。
また、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を一つ以上有するフラーレン誘導体を、「多重付加フラーレン誘導体」と総称するものとする。
【0007】
5重付加フラーレン誘導体のうち、例えばC60骨格の5重付加フラーレン誘導体は、50電子系のπ電子共役になっており、60電子系のπ電子共役である無置換のC60とは異なる立体配置や電子的性質を有している。
【0008】
また、5重付加フラーレン誘導体より置換基の付加数が少ない3重付加フラーレン誘導体として、例えば66電子系のπ電子共役である3重付加C70誘導体も合成され報告されている。これらの3重付加フラーレン誘導体は、無置換のC60やC70だけでなく、上記5重付加C60誘導体とも異なる物性を有している。このことから、それぞれのフラーレン誘導体において新たな電子伝導材料、半導体、生理活性物質等として期待されている。
【0009】
5重付加C60誘導体や3重付加C70誘導体等の多重付加フラーレン誘導体は、フラーレンの特定部位に集中的に有機基が付加した独特の構造で、且つ長いπ電子共役を有しているため、その電気化学的物性等に興味が持たれている。
【0010】
また、フラーレン誘導体を電子材料や光学材料に利用したり、他のフラーレン誘導体の中間体として使用したりするためには、フラーレン誘導体が有機溶媒に対して高溶解性を示すことが好ましい。そこで、多重付加フラーレン誘導体の中には、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等に溶解性を示すものが開発されている。
【0011】
さらには、安全面や揮発性等の観点から、取扱が容易で、一般に工業用途で使用されている、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート等に代表される、エステル溶媒に高い溶解性を示す多重付加フラーレン誘導体も開発されている(特許文献1)。
【0012】
また、これらのフラーレン誘導体が用途の1つであるフォトレジストやレジスト用下層膜に用いられた場合、ケトンやエステル溶媒等の極性有機溶媒への高溶解性を有しているだけでなく、ArFエキシマレーザー光の波長である193nmに対して、屈折率が1.40〜1.48であり、消衰係数が0.32〜0.58であるフラーレン誘導体及びフラーレン誘導体を含有する下層膜形成材料も提案されている(特許文献2)。
【0013】
【特許文献1】特開2006−56878号公報
【特許文献2】特開2006−227391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、フォトレジスト用途においては、高溶解性、高い屈折率及び低い消衰係数が望まれていた。そこで、上記の特許文献1に代表される従来の技術では、各種の溶媒への溶解性を向上させる等の目的で、1又は2以上のヒドロキシル基を有するフェニル基(例えばフェノール基)を付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体が合成されてきた。ところが、特許文献2にあるように、従来開発されていたフェニル基を付加置換基として用いた場合、前記のフラーレン誘導体は波長193nmに強い吸収があるため消衰係数が高く、透明性を求める用途においては、これらのフラーレン誘導体を適用することは困難である場合があった。また、同波長における屈折率も十分な高さに達していない場合があった。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ケトン溶媒、エステル溶媒等の極性有機溶媒への高溶解性を維持するとともに、波長193nmの光に対する吸光度が低いため消衰係数が低く、且つ屈折率が高いフラーレン誘導体、並びにそのフラーレン誘導体を含有するフラーレン誘導体溶液、及びフラーレン誘導体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ヒドロキシル基を含む炭化水素基を付加置換基として有するフラーレン誘導体において、前記のヒドロキシル基の水素原子を、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基に適当量置換することで、波長193nmの光に対する吸光度が低いため消衰係数が低く、且つ屈折率が高いフラーレン誘導体、並びにそのフラーレン誘導体を含有するフラーレン誘導体溶液、及びフラーレン誘導体膜を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
即ち、本発明の要旨は、下記式(I)で表わされるフラーレン骨格の部分構造を有すると共に、C1が、水素原子又は任意の置換基と結合し、C6〜C8が、各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基と結合していることを特徴とするフラーレン誘導体に存する(請求項1)。
【化2】

(式(I)中、C1〜C10は何れもフラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【化3】

(式(II)中、Arは炭素数6以上18以下の芳香族性を有する炭化水素基を表し、nは1以上7以下の整数を表す。また、Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である。なお、フラーレン誘導体1分子中、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基を1つ以上含む。)
【0018】
このとき、前記式(II)中、前記脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が、アダマンチル基を含む有機基であることが好ましい(請求項2)。
【0019】
また、この時、前記式(II)中、前記脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が、下記式(III)で表される構造の有機基であることが好ましい(請求項3)。
【化4】

(式(III)中、Y1はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、Rは炭素数5以上12以下の脂肪族環状炭化水素基である。)
【0020】
そして、前記式(II)中、前記硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が、下記式(IV)で表される構造の有機基であることが好ましい(請求項4)。
【化5】

(式(IV)中、Y2はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、R’は硫黄原子を含有する炭化水素基である。)
【0021】
また、前記式(III)中、Y1がカルボニル基であり、Rがアダマンチル基であることが好ましい(請求項5)。
【0022】
さらに、前記式(IV)中、Y2がカルボニル基であり、R’が硫黄原子を含有する炭素数2以上12以下のアルキル基であることが好ましい(請求項6)。
【0023】
さらに、この時、前記式(I)のC6〜C8に加えて、C9〜C10が各々独立に、前記式(II)で表される構造の有機基と結合していることが好ましい(請求項7)。
【0024】
さらに、前記式(II)中、Arの炭素骨格がベンゼン骨格又はナフタレン骨格であることが好ましい(請求項8)。
【0025】
また、前記C1に結合する任意の置換基が、炭素数1以上30以下の有機基であることが好ましい(請求項9)。
【0026】
また、前記炭素数1以上30以下の有機基が、メチル基であることが好ましい(請求項10)。
【0027】
また、前記C1に結合する任意の置換基が、アルケニル基であることが好ましい(請求項11)。
【0028】
さらに、前記フラーレン骨格が、フラーレンC60であることが好ましい(請求項12)。
【0029】
またこの時、波長193nmの光に対する屈折率が1.45より大きく、消衰係数が0.45より小さいことが好ましい(請求項13)
【0030】
また、本発明の別の要旨は、請求項1〜13の何れか一項に記載のフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなることを特徴とする、フラーレン誘導体溶液に存する(請求項14)。
【0031】
このとき、前記溶媒が、エステル溶媒又はケトン溶媒であることが好ましい(請求項15)。
【0032】
また、本発明の更なる別の要旨は、請求項1〜13の何れか一項に記載のフラーレン誘導体を含有することを特徴とする、フラーレン誘導体膜に存する(請求項16)。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ケトン溶媒、エステル溶媒等の極性有機溶媒への高溶解性を維持するとともに、波長193nmの光に対する吸光度が低いため消衰係数が低く、且つ屈折率が高いフラーレン誘導体、並びにそのフラーレン誘導体を含有するフラーレン誘導体溶液、及びフラーレン誘導体膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0035】
なお、以下の記載では、上記式(I)で表わされる部分構造のC1〜C10で表わされる炭素原子を、単に「C1」〜「C10」で表わす場合がある。
さらに、以下の記載では、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造においてC6〜C10に結合する置換基を「付加置換基」という場合がある。
【0036】
また、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体を、付加置換基の総数に応じて呼ぶ場合がある。この呼び名に従えば、3重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「3重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「5重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「6重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造と5重付加部分構造とを一つずつ有するフラーレン誘導体は「8重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「10重付加フラーレン誘導体」となる。
また、上記の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を一つ以上有するフラーレン誘導体を、「多重付加フラーレン誘導体」と総称するものとする。
【0037】
[1.フラーレン誘導体]
[1−1.フラーレン誘導体の構造]
本発明のフラーレン誘導体は、以下で説明する特定の部分構造を有するフラーレン誘導体である。ここで、「フラーレン」とは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60以上130以下の偶数である。
【0038】
フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。なお、以下の説明においては、炭素数i(iは任意の自然数を表わす。)のフラーレン骨格を適宜、式「Ci」で表わす。
【0039】
また、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。即ち、フラーレン誘導体には、フラーレン骨格上に置換基を有したものの他、フラーレン骨格の内部に金属及び/又は化合物等を内包するもの若しくは他の金属原子及び/又は化合物と錯体を形成したもの等も含まれる。
【0040】
本発明のフラーレン誘導体が有するフラーレン骨格は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、中でもC60又はC70が好ましく、C60がより好ましい。C60及びC70はフラーレンの製造時に主生成物として得られるので、入手が容易であるという利点がある。即ち、本発明のフラーレン誘導体は、C60又はC70の誘導体であることが好ましく、C60の誘導体であることがより好ましい。
【0041】
本発明のフラーレン誘導体は、下記式(I)で表わされるフラーレン骨格の部分構造を有すると共に、C1が、水素原子又は任意の置換基と結合し、C6〜C8が、各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基と結合していることを特徴とする。なお、以下の説明において、C1に結合する水素原子及び任意の置換基を総称して、適宜「R10」という。また、下記式(II)で表わされる構造の有機基を、適宜「R20」という。
【化6】

(前記式(I)中、C1〜C10は何れもフラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【0042】
【化7】

(前記式(II)中、Arは炭素数6以上18以下の芳香族性を有する炭化水素基を表し、nは1以上7以下の整数を表す。また、Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である。なお、フラーレン誘導体1分子中、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基を1つ以上含む。)
【0043】
(C1に結合する水素原子及び任意の置換基(R10))
式(I)において、C1は水素原子又は任意の置換基(即ち、R10)と結合している。前記の置換基は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、その種類に制限は無い。
【0044】
10が置換基である場合、その例としては、ハロゲン原子、有機基、その他の置換基等が挙げられる。なお、置換基は、フラーレン誘導体1分子中、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0045】
10がハロゲン原子である場合、その具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、製造の容易さの観点から、塩素原子、臭素原子が好ましい。ハロゲン原子は、フラーレン誘導体1分子中、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0046】
10が有機基である場合、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基等の直鎖又は分岐状の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリル基、クロチル基、シンナミル基等のアルケニル基;ベンジル基、p−メトキシベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、トルイル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリーロキシ基;モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノジエチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アリーロキシカルボニル基;チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基等の5員複素環基;ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピペリジル基、ピペラジル基、モルホリル基等の6員複素環基;チオホルミル基、チオアセチル基、チオベンゾイル基等のチオカルボニル基;トリメチルシリル基、ジメチルシリル基、モノメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジエチルシリル基、モノエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジイソプロピルシリル基、モノイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルシリル基、モノフェニルシリル基等の置換シリル基等が挙げられる。
【0047】
また、R10が有機基である場合には、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、前記有機基は更に別の置換基を有していてもよい。R10の有機基が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。なお、これらの置換基は、1種が単独で置換しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0048】
10が有機基である場合、炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、その上限は、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。R10が置換基を有する場合には、置換基を含めた炭素数が、上記の範囲を満たすことが好ましい。炭素数が多すぎる場合、R10をフラーレン骨格に結合させることが困難となる可能性がある。
【0049】
なお、有機基は、フラーレン誘導体1分子中、1種を単独で置換しても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。
【0050】
また、R10がその他の置換基である場合、その具体例としては、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、シアノ基、シリル基、ニトロ基等が挙げられる。
【0051】
なお、その他の置換基も、フラーレン誘導体1分子中、1種が単独で置換していても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換していても良い。
【0052】
10としての好ましい原子又は置換基としては、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;アリル基、クロチル基、シンナミル基等のアルケニル基等が挙げられる。中でも、R10としては、合成の容易さ及び耐酸化性の観点からアルキル基がより好ましく、熱安定性や製造コストの観点からメチル基が特に好ましい。また、合成の容易さ及び溶解性向上の観点からは、アルケニル基も好ましく、中でも製造コストの観点からアリル基、クロチル基、シンナミル基も特に好ましい。
【0053】
(上記式(II)で表わされる構造の有機基(R20))
20は、上記式(II)で表わされる構造の有機基である。式(II)中、芳香族性を有する炭化水素基Arには1個以上7個以下のOX基が結合しており、OX基のOは酸素原子を表す。また、Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である。
【0054】
芳香族性を有する炭化水素基Arが有する炭素数としては、通常6以上、また、その上限は、通常18以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。炭素数が多すぎる場合、原料の入手が困難となる可能性がある。
【0055】
また、芳香族性を有する炭化水素Arに含まれる芳香環の数は、通常1以上であり、また、その上限は、通常4以下、好ましくは2以下である。芳香環の数が少なすぎる場合、共役が伸びず、波長193nmの光に対する消衰係数が高くなる可能性があり、多すぎる場合、原料の入手が困難となる可能性がある。
【0056】
芳香族性を有する炭化水素基Arの具体的な例としては、式(II)においてn=1の場合、フェニレン基;ビニルフェニレン基、ジビニルフェニレン基、トリビニルフェニレン基等のビニルフェニレン基;ペンタレニレン基、インデニレン基、ナフチレン基、アズレニレン基、ヘプタレニレン基、ビフェニレニレン基、as−インダセニレン基、s−インダセニレン基、アセナフチレニレン基、フルオレニレン基、フェナレニレン基、フェナントレニレン基、アントラセニレン基、フルオラセニレン基、アセフェナンチレニレン基、アセアンチレニレン基、トリフェニレニレン基、ピレニレン基、クリセニレン基、テトラセニレン基等の縮合多環炭化水素基が挙げられる。これらの中で、原料調達の観点からフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナレニレン基、ピレニレン基が好ましく、合成の容易さからフェニレン基又はナフチレン基が特に好ましい。即ち、式(II)においてn=2以上の場合も同様であるが、芳香族性を有する炭化水素基Arとしては、その炭素骨格がベンゼン骨格又はナフタレン骨格であることが特に好ましい。
【0057】
式(II)において、芳香族性を有する炭化水素基Arと結合しているOX基の数(n)は、通常1以上であり、また、その上限は、通常7以下、原料調達の観点から好ましくは5以下、そして更なる反応を行なう際の反応制御が容易である観点から、より好ましくは3以下である。
【0058】
20における芳香族性を有する炭化水素基Arとフラーレン骨格との結合の位置は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば、炭化水素基Arの炭素骨格がナフタレン骨格である場合、原料調達の観点や合成の容易さからβ位で結合していることが好ましい。他の炭化水素基に関しては、上記観点で好ましい結合位置を各々決めることができる。
【0059】
また、OX基と芳香族性を有する炭化水素基Arとの結合の位置は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。さらに、複数のOX基が炭化水素基Ar中の芳香環に直接結合している場合、それらOX基の相対的な位置関係も、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば、炭化水素基Arの炭素骨格がナフタレン骨格の場合、原料調達の観点からamphiの位置、即ちβ位(2位)でフラーレン骨格と結合し、ナフタレン骨格の6位の位置にOX基が結合していることが好ましい。また、例えば、炭化水素基Arの炭素骨格がベンゼン骨格の場合、ベンゼン骨格の1位でフラーレン骨格と結合し、ベンゼン骨格の3位、4位、5位からなる群より選ばれる1種以上の任意の位置でOX基が結合していることが好ましい。他の炭化水素基に関しては、上記観点で好ましい結合位置を各々決めることができる。
【0060】
Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である。Xが脂肪族環状炭化水素基を含む有機基である場合、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。
【0061】
脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が有する炭素数は、通常3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、また、その上限は、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。炭素数が少なすぎると波長193nmの光に対する屈折率が低くなる可能性があり、多すぎると原料の入手が困難となる可能性がある。
【0062】
また、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が有する環の数は、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が環を含む限り任意であるが、通常1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、また、その上限は、通常8個以下、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下である。環の数が多すぎる場合、原料の入手が困難となる可能性がある。
【0063】
さらに、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基は、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0064】
なお、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0065】
また、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基は、脂肪族環状炭化水素基(R)と酸素原子との間に、連結基(Y1)を有することが好ましい。
【0066】
脂肪族環状炭化水素基(R)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。
脂肪族環状炭化水素基(R)が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、また、その上限は、通常12以下、好ましくは11以下、より好ましくは10以下である。炭素数が少なすぎると脂肪族環状炭化水素基(R)に含まれる環が不安定となる可能性があり、多すぎると原料の入手が困難となる可能性がある。
【0067】
また、脂肪族環状炭化水素基(R)が有する環の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、また、その上限は、通常6個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下である。環の数が多すぎる場合、原料の入手が困難となる可能性がある。
【0068】
さらに、脂肪族環状炭化水素基(R)は、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。脂肪族環状炭化水素基(R)が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0069】
なお、脂肪族環状炭化水素基(R)は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0070】
脂肪族環状炭化水素基(R)の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルネニル基、デカヒドロナフタレニル基、アダマンチル基等が挙げられる。これらの中でも、波長193nmの光に対する屈折率の向上の観点からノルボルネニル基、アダマンチル基が好ましく、アダマンチル基がより好ましい。従って、脂肪族環状炭化水素基(R)を含む有機基がアダマンチル基を含む有機基であることが、より好ましい。
【0071】
また、脂肪族環状炭化水素基(R)は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、別の置換基を有していてもよい。脂肪族環状炭化水素基(R)が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。なお、これらの置換基は、1種が単独で置換しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。なお、置換基を有する場合、置換基の炭素数も含めた全ての炭素数が、上記の炭素数の範囲を満たすことが好ましい。
【0072】
次に、連結基(Y1)は、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基中、通常、脂肪族環状炭化水素基(R)と酸素原子との間に有されるものである。連結基(Y1)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0073】
連結基(Y1)が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数が多すぎると原料入手が困難となる可能性がある。
【0074】
さらに、連結基(Y1)は、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。連結基(Y1)が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0075】
なお、連結基(Y1)は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0076】
連結基(Y1)の具体例としては、カルボニル基(−C(=O)−)、アルキレン基、カルボニルアミノ基(−C(=O)−N−)、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)等が挙げられる。なお、連結基(Y1)がアルキレン基である場合、アルキレン基が有する炭素数は、通常1以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下であることが望ましい。炭素数が多すぎる場合、原料入手が困難となる可能性がある。
【0077】
これらの中でも、連結基(Y1)は、カルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であることが好ましく、合成が容易である点、耐熱性向上等の観点から、連結基(Y1)はカルボニル基であることがより好ましい。また、これらの連結基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。さらに、連結基(Y1)は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、別の置換基を有していてもよい。別の置換基としては、例えば、上記の脂肪族環状炭化水素基(R)が有していてもよい別の置換基を挙げることができるが、これらの置換基は、1種が単独で置換しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。なお、置換基を有する場合、置換基の炭素数も含めた全ての炭素数が、上記の炭素数の範囲を満たすことが好ましい。
【0078】
従って、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基としては、以下の式(III)で表される有機基であることが特に好ましい。
【化8】

(式(III)中、Y1はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、Rは炭素数5以上12以下の脂肪族環状炭化水素基である。)
【0079】
そして、さらに、上記式(III)において、Y1とRとの組み合わせとしては、Y1がカルボニル基であり、Rがアダマンチル基であることが特に好ましい。
【0080】
次に、Xが硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基である場合、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。
【0081】
硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2以上、好ましくは3以上、また、その上限は、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。炭素数が少なすぎると酸素原子との結合が困難となる可能性があり、多すぎると原料入手が困難となる可能性がある。
【0082】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が有する硫黄原子の量も、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。中でも、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が有する硫黄原子の数は、通常1個以上、また、その上限は、通常6個以下、好ましくは4個以下、より好ましくは2個以下である。硫黄原子の量が多すぎると、原料入手が困難となる可能性がある。
【0083】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が有する環の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0084】
さらに、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、不飽和結合を有していても良い。また、不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0085】
なお、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0086】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)と酸素原子との間に連結基(Y2)を有することが好ましい。
【0087】
硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2以上、好ましくは3以上、また、その上限は、通常12以下、好ましくは10以下である。炭素数が少なすぎると酸素原子との結合が困難となる可能性があり、多すぎると原料入手が困難となる可能性がある。
【0088】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有する硫黄原子の量も、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。中でも、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有する硫黄原子の数は、通常1個以上、また、その上限は、通常6個以下、好ましくは4個以下、より好ましくは2個以下である。硫黄原子の量が多すぎると、原料入手が困難となる可能性がある。
【0089】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していても良い。硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有する環の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0090】
さらに、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)は、不飽和結合を有していても良い。また、不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0091】
なお、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0092】
硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)の具体例としては、メチルチオメチル基(−CH2−S−CH3)、2−メチルチオエチル基(−(CH22−S−CH3)、3−メチルチオプロピル基(−(CH23−S−CH3)、4−メチルチオブチル基(−(CH24−S−CH3)、5−メチルチオペンチル基(−(CH25−S−CH3)、6−メチルチオへキシル基(−(CH26−S−CH3)、7−メチルチヘプチル基(−(CH27−S−CH3)、8−メチルチオクチル基(−(CH28−S−CH3)、エチルチオメチル基(−CH2−S−C25)、2−エチルチオエチル基(−(CH22−S−C25)等の硫黄原子を含有する脂肪族炭化水素基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基等の硫黄原子を含有する芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0093】
これらの中でも、硫黄原子を含有する脂肪族炭化水素基が好ましく、原料調達の観点から硫黄原子を含有するアルキル基であることがより好ましい。
【0094】
また、硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、別の置換基を有していてもよい。硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。なお、これらの置換基は、1種が単独で置換しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。なお、置換基を有する場合、置換基の炭素数も含めた全ての炭素数が、上記の炭素数の範囲を満たすことが好ましい。
【0095】
次に、連結基(Y2)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0096】
連結基(Y2)が有する炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。炭素数が多すぎると原料入手が困難となる可能性がある。
【0097】
さらに、連結基(Y2)は、不飽和結合を有していても良い。不飽和結合の種類は、二重結合でも三重結合でも良い。連結基(Y2)が有する不飽和結合の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0098】
なお、連結基(Y2)は、鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。
【0099】
上記連結基(Y2)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。連結基(Y2)の具体例としては、カルボニル基(C(=O))、アルキレン基、カルボニルアミノ基(−C(=O)−N−)、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)、等が挙げられる。なお、連結基(Y2)がアルキレン基である場合、アルキレン基が有する炭素数は、通常1以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下であることが望ましい。炭素数が多すぎる場合、原料入手が困難となる可能性がある。
【0100】
これらの中でも、連結基(Y2)は、カルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であることが好ましく、合成が容易である点、耐熱性向上等の観点から、連結基(Y2)はカルボニル基であることがより好ましい。また、これらの連結基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。さらに、連結基(Y2)は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、別の置換基を有していてもよい。別の置換基としては、例えば、上記の硫黄原子を含有する炭化水素基(R’)が有していてもよい別の置換基を挙げることができるが、これらの置換基は、1種が単独で置換しても良く、2種以上が任意の比率及び組み合わせで置換しても良い。なお、置換基を有する場合、置換基の炭素数も含めた全ての炭素数が、上記の炭素数の範囲を満たすことが好ましい。
【0101】
即ち、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基は、下記式(IV)で表される有機基であることが特に好ましい。
【化9】

(式(IV)中、Y2はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、R’は硫黄原子を含有する炭化水素基である。)
【0102】
そして、さらに、上記式(IV)において、Y2とR’との組み合わせとしては、Y2がカルボニル基であり、R’が硫黄原子を含有する炭素数が2以上12以下のアルキル基であることが特に好ましい。
【0103】
OX基中のXは、水素原子、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であれば特に制限はないが、波長193nmの光に対する屈折率の向上、及び消衰係数の低下を容易にする観点から、フラーレン誘導体1分子中、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基を1つ以上含む。
【0104】
本発明のフラーレン誘導体1分子中の全OX基に含まれるX全体に対する水素原子の割合は用途によって大きく異なるが、フラーレン誘導体に含まれるXの全体に対して、通常0%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上である。また、その上限は、通常95%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下である。水素原子の量が多すぎる場合、屈折率の向上、及び/又は消衰係数の低下を制御しにくくなる可能性がある。
【0105】
また、本発明のフラーレン誘導体1分子中の全OX基に含まれるX全体に対する脂肪族環状炭化水素基を含む有機基の割合も用途によって大きく異なるが、フラーレン誘導体に含まれるXの全体に対して、通常5%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上である。また、その上限は、通常100%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下である。脂肪族環状炭化水素基を含む有機基の量が少なすぎる場合、屈折率の向上、及び/又は消衰係数の低下を制御しにくくなる可能性があり、多すぎる場合、極性溶媒への溶解性が低下する可能性がある。
【0106】
さらに、本発明のフラーレン誘導体1分子中の全OX基に含まれるX全体に対する硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基の割合も用途によって大きく異なるが、フラーレン誘導体に含まれるXの全体に対して、通常5%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上である。また、その上限は、通常100%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下である。硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基の量が少なすぎる場合、屈折率の向上、及び/又は消衰係数の低下を制御しにくくなる可能性があり、多すぎる場合、極性溶媒への溶解性が低下する可能性がある。
【0107】
これらの中でも、波長193nmの光に対する屈折率の向上、及び消衰係数の低下を容易にする観点から、全てのXが、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基、及び/又は、硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基であることが好ましい。ただし、極性有機溶媒への溶解性及びヒドロキシル基を含有することによる更なる反応性の確保といった観点から、Xとして水素原子をも含むことが好ましい。
【0108】
(R10及びR20の結合部位)
本発明のフラーレン誘導体では、式(I)のC6〜C8は、各々独立に、上記式(II)で表わされる構造の有機基(即ち、R20)と結合している。ただし、溶解性を高める観点や屈折率の向上、消衰係数の低下を容易にする観点からは、C6〜C8に加えて、C9〜C10も各々独立に、R20と結合していることが好ましい。
【0109】
以下の説明においては、式(I)のC1が、R10と結合し、C6〜C8が、各々独立に、R20と結合した部分構造を、適宜「本発明の3重付加部分構造」と言う。また、式(I)のC1が、R10と結合し、C6〜C10が、各々独立に、R20と結合した部分構造を、適宜「本発明の5重付加部分構造」と言う。
【0110】
本発明のフラーレン誘導体の具体例としては、以下に記載する誘導体が挙げられる。ただし、本発明のフラーレン誘導体は、以下に挙げる例に制限されるものではない。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を1つ有する、式Ci(R203(R10)で表わされる3重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を1つ有する、式Ci(R205(R10)で表わされる5重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を2つ有する、式Ci(R206(R102で表わされる6重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を1つ、本発明の5重付加部分構造を1つ有する、式Ci(R208(R102で表わされる8重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を2つ有する、式Ci(R2010(R102で表わされる10重付加フラーレン誘導体。
【0111】
これらの中でも、本発明のフラーレン誘導体としては、フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を1つ有する、式Ci(R205(R10)で表わされる5重付加フラーレン誘導体が、製造が容易であるため好ましい。
【0112】
なお、本発明のフラーレン誘導体において、上記式(I)の部分構造は、フラーレン骨格の閉殻構造の内側から観察される構造であってもよく、外側から観察される構造であってもよい。換言すると、あるフラーレン誘導体を、そのフラーレン骨格の閉殻構造の内側又は外側から観察した場合に、本発明の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造が少なくとも1つ存在すれば、本発明のフラーレン誘導体に該当するものとする。
【0113】
[1−2.フラーレン誘導体の性質]
本発明のフラーレン誘導体は、従来のフラーレン誘導体と比較して波長193nmの光に対する屈折率が高く、消衰係数が低い。屈折率及び消衰係数の具体的な最適値は、本発明のフラーレン誘導体の用途によって、また、同じ用途であってもプロセスにより異なる。例えば、ArFレジスト及びその下層膜に用いる場合、波長193nmの光に対する屈折率は、通常1.40より大きく、好ましくは1.45より大きく、特に好ましくは1.50より大きい。屈折率が小さすぎる場合、上記レジスト及びその下層膜用途で微細加工ができなくなる可能性がある。なお、屈折率は、例えば、ホリバジョバンイボン製分光エリプソメーターUVISEL及び制御解析ソフトDeltaPsi2を用いて測定することができる。
【0114】
さらに、波長193nmの光に対する消衰係数が、通常0.50より小さく、好ましくは0.45より小さく、より好ましくは0.40より小さい。消衰係数が大きすぎる場合、上記レジスト及びその下層膜用途で微細加工ができなくなる可能性がある。なお、消衰係数は、例えば、ホリバジョバンイボン製分光エリプソメーターUVISEL及び制御解析ソフトDeltaPsi2を用いて測定することができる。
【0115】
本発明のフラーレン誘導体は、上記範囲にある屈折率及び消衰係数を満たすことが好ましい。
【0116】
また、本発明のフラーレン誘導体は、極性有機溶媒に対する溶解性が高い。具体的には、25℃、常圧下において、シクロヘキサノンに対して、シクロヘキサノン溶媒の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が、好ましくは50mg以上、より好ましくは75mg以上、特に好ましくは100mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体は極性有機溶媒に対する溶解性が高いと判断する。フラーレン誘導体が50mg以上溶解しない場合、フラーレン濃度が低くなり、成膜ができないなど特定の用途に使用できなくなる可能性がある。なお、本発明において、フラーレン誘導体が「極性有機溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体を極性有機溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。
【0117】
本発明のフラーレン誘導体を極性有機溶媒に溶解させる場合、極性有機溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。極性有機溶媒の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルペンチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類が挙げられる。
【0118】
中でも、直鎖状のエステル類、エーテルエステル類、環状ケトン類が好ましく、具体的にはプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル、シクロヘキサノンが好ましい。なお、極性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0119】
これらの極性有機溶媒は、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料用等の溶媒として一般的に使用されている極性有機溶媒である。また、前記の極性有機溶媒は、特に、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)等の光源短波長化に適応したフォトレジスト、反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜用として好適に用いられる溶媒である。
【0120】
従って、前記の極性有機溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、上記のような産業上広く使用されている溶媒に可溶であることを示している。また、フラーレン誘導体が前記の極性有機溶媒に可溶である場合、そのフラーレン誘導体は同様に他の有機溶媒にも可溶である場合が多い。したがって、本発明のフラーレン誘導体の極性有機溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、例えば、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池等の有機太陽電池、有機トランジスタ・ダイオード、有機電界発光素子(有機EL素子)、非線形光学材等の有機デバイス全般;樹脂添加剤;潤滑剤;絶縁膜、リチウム二次電池・燃料電池等の電池若しくはキャパシタにおける基材及びその添加剤・表面修飾等のコーティング材、その他セパレータ等の部材を構成する材料及び添加剤;セラミクス添加剤;固体潤滑剤及び潤滑油添加剤等摺動用途への添加剤、触媒用、更には塗料・インク・医薬・化粧品・診断薬等、多方面での産業分野に適用可能であることを示している。
【0121】
また、上記の極性有機溶媒に対するフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なる。例えば、半導体集積回路作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路作製及び液晶画面製造用レジスト材料用途の塗膜を本発明のフラーレン誘導体を用いて形成するためには、本発明のフラーレン誘導体は極性有機溶媒に対して、通常10mg/mL以上、好ましくは50mg/mL以上、より好ましくは100mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
【0122】
また、本発明のフラーレン誘導体は、上記OX基のXが1個以上水素原子である場合は、アルカリ溶媒に可溶である。なお、本発明において、フラーレン誘導体が「アルカリ溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体をアルカリ溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。また、フラーレン誘導体1分子中の全OX基に含まれるX全体に対する水素原子の割合が、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上の時、フラーレン誘導体のアルカリ溶液に対する溶解性が高い。具体的には、25℃、常圧下において、1規定の水酸化ナトリウム水溶液に対して、水酸化ナトリウム水溶液の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が、好ましくは50mg以上、より好ましくは75mg以上、特に好ましくは100mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体は水酸化ナトリウム水溶液に対する溶解性が高いと判断する。
【0123】
本発明のフラーレン誘導体をアルカリ溶媒に溶解させて用いる場合、アルカリ溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。アルカリ溶媒の
具体例としては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、メチルジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−7−ウンデセン、ジメチルエタノールアミン等のアルカリ有機溶媒や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。また、アルカリ水溶液の場合、その溶質の濃度は任意である。
【0124】
中でも、アルカリ溶媒としては、アルカリ水溶液が好ましく、製品への金属混入を避けることが望ましい用途に関しては、非金属系のアルカリ水溶液であるアンモニア水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等の水溶液が好ましい。なお、これらのアルカリ溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0125】
また、上記のアルカリ溶媒に対する本発明のフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なるが、アルカリ溶媒に対して、通常50mg/mL以上、好ましくは100mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
【0126】
[2.フラーレン誘導体の製造方法]
本発明のフラーレン誘導体の合成方法に制限は無く、任意の方法により合成することができる。以下に、本発明のフラーレン誘導体の合成方法の一例を示すが、本発明のフラーレン誘導体の合成方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0127】
1に水素原子又は置換基が結合した3重付加部分構造及び5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体の製造方法としては、既に開示されている。具体的には、C1が有機基と結合している場合は、特開2005−15470号公報やChemistry Letters,2004年,p.328に記載されている方法等を参照することができる。また、C1に水素原子が結合している場合には、Nature,419,2002年,p.702−705に記載されている方法を参照することができる。さらに、C1にハロゲン原子が結合している場合は、特開2002−241389号公報に記載されている方法を参照することができる。本発明のフラーレン誘導体も上記文献記載の方法で製造することが可能であり、その場合の反応温度、溶媒の種類、試薬の配合順序、反応時間等の諸条件として、上記文献記載の条件を採用することが可能である。
【0128】
中でも本発明のフラーレン誘導体は、以下に例示する製造方法により製造することが好ましい。ただし、以下に例示する製造方法は本発明のフラーレン誘導体の製造方法の一例であり、本発明のフラーレン誘導体の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
【0129】
本発明のフラーレン誘導体は、通常、フラーレンへの付加反応、脱保護反応、修飾反応(再保護反応)の工程を経て、製造することができる。以下に、詳細な製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と言う。)を示す。
【0130】
[2−1.フラーレンへの付加反応]
本発明の製造方法においては、フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬(Grignard試薬)、及び、R10を導入し得る原料(以下、適宜「R10導入剤」という)を用意し、これらを反応させて、本発明のフラーレン誘導体中間体を得ることが好ましい。この際、通常は反応溶媒を用い、当該反応溶媒中で反応を進行させる。
【0131】
(フラーレン)
フラーレンとしては、上記[1.フラーレン誘導体]の欄でフラーレンの具体例として挙げた各種のフラーレン(以下、適宜「原料フラーレン」と言う。)を用いることができる。なお、フラーレンは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0132】
(遷移金属)
本発明の製造方法においては、反応系に少なくとも一種の遷移金属を存在させることが好ましい。遷移金属の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、長周期型周期表の第10族に属する金属及び第11族に属する金属から選択される遷移金属であることが好ましく、中でも反応性の観点から、第11族に属する金属の銅が特に好ましい。なお、遷移金属としては、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0133】
また、これらの遷移金属としては、反応が進行すれば、遷移金属の単体を使用してもよく、遷移金属の錯体を使用してもよく、その遷移金属を含有する金属化合物(遷移金属化合物)等を使用しても良い。前記の遷移金属の単体、錯体及び金属化合物の例としては、臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅ジブチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジメチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジブチルスルフィド錯体、塩化銅ジメチルスルフィド錯体、塩化銅ジブチルスルフィド錯体、シアン化銅、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、有機銅−ホスフィン錯体、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、フッ化金、塩化金、ヨウ化金、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、ニッケルシクロオクタジエン錯体、パラジウムシクロオクタジエン錯体、白金シクロオクタジエン錯体、ニッケル−ホスフィン錯体、パラジウム−ホスフィン錯体、白金−ホスフィン錯体等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、1価の11族金属の金属化合物である臭化銅、金属錯体であるジメチルスルフィド錯体が好ましい。なお、遷移金属の単体、錯体及び金属化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0134】
反応系に存在する遷移金属の含有量は、前記の反応が進行する限り任意であるが、原料フラーレンに対する比率で、通常4倍モル以上、好ましくは6倍モル以上、また、通常32倍モル以下、好ましくは16倍モル以下とすることが望ましい。遷移金属の含有量が少なすぎると、反応が完結しない可能性があり、多すぎると、製造コストが増大するうえ、フラーレン誘導体との分離が困難となる場合がある。なお、2種以上の遷移金属を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。さらに、遷移金属の単体、錯体、金属化合物のうちの2種以上を用いる場合には、用いる当該遷移金属の単体、錯体、金属化合物に含まれる遷移金属の合計量が、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0135】
(グリニャール試薬)
本発明の製造方法においては、反応系に少なくとも一種のグリニャール試薬を存在させることが好ましい。上記の特許文献及び非特許文献に記載されている手法に従って、反応系にグリニャール試薬を共存させることにより、フラーレン骨格に式(II)で表わされる構造の有機基の中間体であるR20中間体(構造式:−Ar(−OH)n)を付加することができる。ただし、上記の式(II)において、Xが水素原子である場合には、このR20中間体がそのままR20となる。
なお、R20中間体が有するヒドロキシル基により、グリニャール試薬が分解する可能性があるので、後述の通り、当該ヒドロキシル基に予め保護基を導入することが特に好ましい。
【0136】
これらのグリニャール試薬の系内への供給時期は、目的とするフラーレン誘導体が得られる限り制限は無い。ただし、本発明の製造方法においては、R10を導入する前に、式(I)の部分構造のC6〜C8又はC6〜C10にR20中間体を付加する反応を行なうことが好ましい。このため、通常、R10導入剤を反応系に供給する前に、グリニャール試薬を反応系に導入するようにする。
【0137】
グリニャール試薬としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、例えば、(Ar(−OH)n)−MX’で表わされる化合物を使用することができる。ここで、(Ar(−OH)n)基については上記の通りであり、目的とする本発明のフラーレン誘導体の構造に応じて選択すればよい。また、Mは、金属元素を表わす。Mも、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。Mの具体例としては、マグネシウム、亜鉛、水銀、リチウム等が挙げられるが、中でもマグネシウムが好ましい。さらに、X’は、ハロゲン原子を表わす。X’の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、中でも臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0138】
また、上記の(Ar(−OH)n)−MX’において、R20中間体が有するヒドロキシル基には、通常、保護基を導入しておき、その保護基を導入したR20中間体をグリニャール試薬として使用することが好ましい。R20中間体が有する水酸基に導入される保護基は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限は無い。保護基の具体例としては、メチル基、テトラヒドロピラニル基、シリル基等が挙げられる。なお、保護基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0139】
保護基の導入方法は保護基によって異なるため、保護基の種類に応じた方法で導入すればよい。例えば、保護基がテトラヒドロピラニル基である場合は、弱酸存在下でジヒドロピランを作用させる等の方法が挙げられる。
【0140】
また、保護基として上記の式(II)における脂肪族環状炭化水素基を含む有機基、及び/又は硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基を用いる場合、保護基を導入したR20中間体がそのままR20となることがある。例えば、保護基として脂肪族環状炭化水素基を含む有機基を用いた場合、保護基を導入したR20中間体がそのままR20となる。
【0141】
グリニャール試薬の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、原料フラーレンに対する比率で、通常4倍モル以上、好ましくは6倍モル以上、また、通常32倍モル以下、好ましくは16倍モル以下とすることが望ましい。グリニャール試薬の使用量が少な過ぎると反応が完結しない場合があり、多過ぎると製造コストが増大するうえ、反応停止に使用する後述のR10導入剤が大量に必要となる場合がある。なお、グリニャール試薬は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。2種以上のグリニャール試薬を用いる場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0142】
(R10導入剤)
10導入剤は、フラーレン骨格のC1に結合する水素原子及び任意の置換基(即ち、R10)を導入するために用いられ、導入するR10の種類によって、適切なものを用いればよい。例えば、R10が水素原子であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格のC1に水素原子を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の具体例を挙げると、塩化アンモニウム水溶液、塩化水素水溶液等の酸性水溶液等が挙げられる。また、酸化反応を抑制するためには、上記酸性水溶液の中に酸素が混入しないように、脱気等の酸化反応抑制操作を行なうことが好ましい。
【0143】
また、例えば、R10が有機基であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に当該有機基を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の具体例を挙げると、上記の有機基R10と脱離基X”とが結合した構造の化合物R10−X”を用いることができる。この際、脱離基X”としては、求核置換反応の脱離基となり得る基であればその種類に制限はないが、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等のアシロキシ基;メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;等が挙げられる。中でも、反応性や原料調達の観点から、脱離基X”としてはハロゲン原子が好ましく、特に臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0144】
さらに、例えばR10がハロゲン原子であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に当該ハロゲン原子を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の例を挙げると、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、N−ブロモコハク酸イミド、N−クロロコハク酸イミド、N−ヨードコハク酸イミド等のハロゲン化剤等が挙げられる。中でも、反応性の観点からN−ブロモコハク酸イミドが好ましい。
【0145】
なお、R10が有機基であるフラーレン誘導体を製造する場合、及び、R10がハロゲン原子であるフラーレン誘導体を製造する場合には、例えば、遷移金属が存在している系中にR10導入剤を供給しin situで製造する方法を用いてもよく、また、先ずフラーレン骨格のC1に水素原子を導入した後、適切な塩基で処理し、その後上記のR10導入剤により所望のR10を導入する方法を用いてもよい。この際、導入するR10によって適切な方法を選択すればよい。塩基を用いる場合は、特開2005−15470号公報に記載されている方法を参照することができる。
【0146】
10導入剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。ただし、単一の化合物を得るためには、1種を単独で用いることが好ましい。中でも、R10導入剤としては、反応の容易さ、生成物の安定性及びコスト削減の観点からヨウ化メチルを、また、溶解性向上の観点からアリルブロマイド、アリルアイオダイド、クロチルブロマイド、クロチルアイオダイド、シンナミルブロマイド、シンナミルアイオダイドをそれぞれ単独で用いることが好ましい。
【0147】
10導入剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限は無いが、原料フラーレンに対する比率で、通常1倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、また、通常100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下とすることが望ましい。R10導入剤の量が少な過ぎると、反応系に残存しているグリニャール試薬と反応して、反応が途中で停止し、目的とする化合物(本発明のフラーレン誘導体)が得られなくなる可能性があり、R10導入剤の量が多過ぎると、製造コストの点で不利となる可能性がある。なお、R10導入剤を2種以上用いる場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0148】
(反応溶媒)
本発明の製造方法では、少なくとも上記の原料フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤を使用することが好ましいが、更に、反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒を使用する場合、上記の原料フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤を溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
【0149】
反応溶媒の具体例を挙げると、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン置換芳香族溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル溶媒;ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン等のピリジン溶媒等が挙げられる。反応溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0150】
反応溶媒は、フラーレンを好適に溶解させることができるハロゲン置換芳香族溶媒と、グリニャール試薬を安定に溶解させることができるエーテル溶媒との組み合わせて用いることが好ましく、具体的にはODCBとTHFとを組み合わせて用いることが好ましい。この際の混合比率としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。
【0151】
反応溶媒を使用する場合、その使用量は、原料フラーレンに対する比率で、反応溶媒中の原料フラーレンを通常1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、また、通常40mg/mL以下、好ましくは20mg/mL以下とすることが望ましい。反応溶媒の使用量が少な過ぎると原料及び生成物が溶解できず、反応が完全に進行しない可能性があり、多過ぎると、原料濃度が薄くなり、反応速度が遅くなる可能性がある。なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0152】
(操作及び反応条件)
上記の原料フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒等を混合する順序や反応条件は、本発明のフラーレン誘導体が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上記したもの以外の成分を含有させても良い。
【0153】
ただし、通常は、反応溶媒中に遷移金属の単体、錯体、金属化合物からなる群より選ばれる1種以上の金属材料が懸濁している状態で、グリニャール試薬を混合した後、原料フラーレンを混合し、次いでR10導入剤を混合することが好ましい。この手順においては、グリニャール試薬を混合した後、R20中間体又は保護基を導入したR20中間体を付加したフラーレン誘導体と遷移金属とが、錯体構造を有する中間体を形成していると考えられる。従って、この段階でR10導入剤を加えることが好ましい。
【0154】
なお、C60誘導体及び/又はC70誘導体と銅金属とで形成される中間体に関しては、「季刊・化学総説43 炭素第三の同素体 フラーレンの化学」p.169−170に、その推定構造が記載されている。
【0155】
反応時の温度条件は、反応が進行する限り制限されないが、反応系にR10導入剤を供給した後の反応系の温度を、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下とすることが望ましい。
反応時間も制限されないが、反応系にR10導入剤を供給した後、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下反応させることが望ましい。
【0156】
また、上記の原料フラーレン、遷移金属及びグリニャール試薬並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒等を混合した後、R10導入剤は、通常、フラーレンの転化率が所定の数値以上になった段階で反応系中に加えられる。ただし、中でも、R10導入剤は、生成物の酸化防止のために、窒素バブリングや真空脱気等の脱気操作を行なってから反応系に加えることが好ましい。ここで、上記の所定の数値とは、フラーレンの転化率が、通常75%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、また、その上限は、通常100%以下、好ましくは99.5%以下、より好ましくは99.0%以下の状態を表す。なお、製造に関する他の操作は、これまで上記の特許文献や非特許文献等で報告されている方法を採用することが出来る。
【0157】
[2−2.脱保護反応]
上記の反応において、グリニャール試薬に含まれる(Ar(−OH)n)として上記の保護基を導入したR20中間体を用いた場合、反応により生成する本発明のフラーレン誘導体中間体は、R20中間体のヒドロキシル基に保護基が導入された状態となっている(これを、以下、適宜「ヒドロキシル基保護フラーレン誘導体」と言う。)。従って、得られたヒドロキシル基保護フラーレン誘導体に対し、保護基の種類に対応した脱保護剤を作用させ、保護基を脱離させる(この反応を以下、適宜「脱保護反応」と言う。)ことで、目的とする本発明のフラーレン誘導体の中間体(以下、適宜「原料フラーレン誘導体」と言う。)を製造することができる。この際、脱保護剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0158】
例えば、保護基がメチル基である場合、脱保護剤の例としては、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三塩化アルミニウム、トリメチルシリルヨージド等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、三臭化ホウ素、トリメチルシリルヨージドが好ましい。なお、これらの脱保護剤の取扱が困難な場合は、in situで発生させる方法を用いても構わない。
【0159】
これらの脱保護剤の使用量は、前記の保護基を脱離させることができる限り任意であるが、例えば、メチル基に対する割合で、通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは3倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応が完結しない可能性があり、脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となる可能性がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0160】
また、例えば保護基がテトラヒドロピラニル基である場合、脱保護剤の例としては、パラトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸等の酸性物質等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸が好ましい。
【0161】
これらの脱保護剤の使用量は、前記の保護基を脱離させることができる限り任意であるが、例えば、テトラヒドロピラニル基に対する割合で、通常0.01倍モル以上、好ましくは0.03倍モル以上、また、通常2倍モル以下、好ましくは1倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応時間が長くなる可能性があり、脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となったり、得られるフラーレン誘導体への不純物の影響が大きくなったりする可能性がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望好ましい。
【0162】
上記の脱保護反応は、通常、ヒドロキシル基保護フラーレン誘導体を有機溶媒に溶解又は懸濁させた状態で行なう。脱保護反応に使用する有機溶媒は、脱保護反応を阻害したり、好ましからぬ反応を生じたりするものでない限り、任意に選択して構わない。有機溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン系炭化水素;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0163】
また、使用する有機溶媒の量も任意であるが、有機溶媒中におけるヒドロキシル基保護フラーレン誘導体の濃度が、通常1mg/mL以上、好ましくは10mg/mL以上、より好ましくは15mg/mL以上、また、通常1000mg/mL以下、好ましくは500mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下となるようにすることが好ましい。
【0164】
また、所望の脱保護反応が進行する限り、ヒドロキシル基保護フラーレン誘導体、脱保護剤、有機溶媒等の混合順序は任意である。さらに、所望の脱保護反応が進行する限り、反応条件も任意である。ただし、脱保護反応時の温度条件は、保護基の種類、脱保護反応の方法によって大きく異なるが、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常180℃以下、好ましくは120℃以下とすることが望ましい。さらに、反応時間は、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは15時間以下とすることが望ましい。
【0165】
反応終了後、通常は、原料フラーレン誘導体を反応液から公知の任意の方法で、公知の任意の装置を用いて単離する。単離操作は、保護基の種類、脱保護反応の方法によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水や亜硫酸水溶液等を加えて反応を停止させ、そのまま適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去したりすることにより、原料フラーレン誘導体を単離することができる。
【0166】
[2−3.修飾反応]
本発明のフラーレン誘導体は、得られた上記の原料フラーレン誘導体(構造式:Ci(−Ar(−OH)n)のヒドロキシル基に、適当量の特定有機基を導入することによって製造することができる。従って、得られた原料フラーレン誘導体のヒドロキシル基に対し、修飾反応剤を作用させる(この反応を以下、適宜「修飾反応」と言う。)ことで、目的とする本発明のフラーレン誘導体を製造することができる。この際、修飾反応剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0167】
また、本発明のフラーレン誘導体を合成する際、その製造方法は任意であるが、例えば、上記の原料フラーレン誘導体を用いて、以下の(1)〜(4)の方法により、修飾反応剤と反応させることにより製造することができる。
(1)原料フラーレン誘導体を、エステル化剤と反応させて、エステル化する。
(2)原料フラーレン誘導体を、カーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。(3)原料フラーレン誘導体を、エーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(4)原料フラーレン誘導体を、ウレタン化剤と反応させて、ウレタン化する。
【0168】
さらに、上記(1)〜(4)の方法で製造を行なう場合は、通常、塩基存在下、有機溶媒に溶解又は懸濁させた状態で修飾反応を行なう。反応系に存在する塩基の種類は任意であり、本発明のフラーレン誘導体の製造時には、反応の種類によって適当なものを選択すれば良い。塩基の具体例としては、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、水酸化テトラブチルアンモニウム、ジアザビシクロウンデセン、イミダゾール等の有機塩基、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が挙げられる。なお、上記の塩基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0169】
また、使用する塩基の量は、反応を阻害しない限り任意である。
【0170】
さらに、使用する有機溶媒の種類も任意であり、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。有機溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。また、有機溶媒も、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。なお、修飾反応の種類によっては、水が修飾反応を阻害する可能性があることから、有機溶媒は脱水操作をしたものを用いる方が効率的に合成することが可能である。
【0171】
有機溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。中でも、原料フラーレン誘導体の量が、有機溶媒に対する割合で、通常0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上、また、その上限は、通常1000mg/mL以下、好ましくは100mg/mL以下、より好ましくは50mg/mL以下となる有機溶媒の量を用いることが望ましい。
【0172】
以下、例示した前記の合成方法(1)〜(4)についてそれぞれ説明する。
(1)エステル化による合成方法
この合成方法では、原料フラーレン誘導体に対して、RaC(=O)Xaで表わされる酸ハライド、RbC(=O)OC(=O)Rcで表わされる酸無水物等のエステル化剤を用いて、エステル化を行なう。ここで、上記のエステル化剤を表わす式におけるRa、Rb、Rcは、各々独立に、原料フラーレン誘導体とエステル化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルネニル基、デカヒドロナフタレニル基、アダマンチル基等の脂肪族環状炭化水素基や、メチルチオメチル基(−CH2−S−CH3)、2−メチルチオエチル基(−(CH22−S−CH3)、3−メチルチオプロピル基(−(CH23−S−CH3)、4−メチルチオブチル基(−(CH24−S−CH3)、5−メチルチオペンチル基(−(CH25−S−CH3)、6−メチルチオへキシル基(−(CH26−S−CH3)、7−メチルチヘプチル基(−(CH27−S−CH3)、8−メチルチオクチル基(−(CH28−S−CH3)、エチルチオメチル基(−CH2−S−C25)、2−エチルチオエチル基(−(CH22−S−C25)等の硫黄原子を含有する脂肪族炭化水素基や、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基等の硫黄原子を含有する芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、アダマンチル基、硫黄原子を含有する脂肪族炭化水素基が好ましく、さらには、アダマンチル基、硫黄原子を含有するアルキル基が特に好ましい。
【0173】
また、Xaは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表わす。なお、エステル化剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。これにより、原料フラーレン誘導体のヒドロキシル基部分がエステル化され、本発明のフラーレン誘導体を合成することができる。
【0174】
エステル化による合成方法では、エステル化剤は、目的のヒドロキシル基に対して通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上、また、その上限は、通常5倍モル以下、好ましくは3倍モル以下、より好ましくは2倍モル以下用いる。これらの量が少なすぎる場合、屈折率及び/又は消衰係数を十分に制御できない可能性があり、これらの量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。
【0175】
また、エステル化反応が進行すれば、原料フラーレン誘導体、塩基、有機溶媒、エステル化剤等の混合順序は問わないが、通常、原料フラーレン誘導体と塩基とを上記の適当な溶媒中で混合してから、エステル化剤を加えることにより反応を行う。さらに、エステル化による製造方法では、原料フラーレン誘導体のエステル化が起きる限り、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、その上限は、通常120℃以下、好ましくは70℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数分以上、好ましくは30分以上、また、通常数十時間以下、好ましくは5時間以下反応させることが望ましい。
【0176】
(2)カーボネート化による合成方法
この合成方法では、原料フラーレン誘導体に対して、RdOC(=O)OC(=O)OReで表わされる二炭酸エステル等のカーボネート化剤を用いて、カーボネート化を行う。ここで、上記のカーボネート化剤を表わす式におけるRd、Reは、それぞれ独立に、原料フラーレン誘導体とカーボネート化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては、エステル化剤を表わす基の具体例で例示した基Ra〜Rcと同様の基を挙げることができる。なお、カーボネート化剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。これにより、原料フラーレン誘導体のヒドロキシル基部分がカーボネート化され、本発明のフラーレン誘導体を合成することができる。
【0177】
カーボネート化による合成方法では、カーボネート化剤は、目的のヒドロキシル基に対して通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上、また、その上限は、通常5倍モル以下、好ましくは3倍モル以下、より好ましくは2倍モル以下用いる。これらの量が少なすぎる場合、屈折率及び/又は消衰係数を十分に制御できない可能性があり、これらの量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。
【0178】
また、カーボネート化反応が進行すれば、原料フラーレン誘導体、塩基、有機溶媒、カーボネート化剤等の混合順序は問わないが、通常、原料フラーレン誘導体と塩基とを上記の適当な溶媒中で混合してから、カーボネート化剤を加えることにより反応を行う。さらに、カーボネート化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のカーボネート化が起きる限り、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は通常−20℃以上、好ましくは15℃以上、また、その上限は、通常120℃以下、好ましくは70℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数分以上、好ましくは30分以上、また、通常数十時間以下、好ましくは3時間以下反応させることが望ましい。
【0179】
(3)エーテル化による合成方法
この合成方法では、原料フラーレン誘導体に対して、Xb−(CH2m−Rf等のハロゲン化物等のエーテル化剤を用いて、エーテル化を行なう。ここで、上記のエーテル化剤を表わす式におけるXbは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表わし、mは0以上10以下の整数を表わす。また、Rfは、原料フラーレン誘導体とエーテル化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては、エステル化剤及びカーボネート化剤を表わす基の具体例で例示した基Ra〜Reと同様の基を挙げることができる。
【0180】
また、上記のハロゲン化物のハロゲン原子に代えて、求核置換反応の脱離基となりうる官能基を有するものをエーテル化剤として用いても構わない。求核置換反応の脱離基となりうる官能基としては、例えば、アセトキシ基、トリフロロアセトキシ基等のアシロキシ基;メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基等が挙げられる。なお、エーテル化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。これにより、原料フラーレン誘導体のヒドロキシル基部分がエーテル化され、本発明のフラーレン誘導体を合成することができる。
【0181】
エーテル化による合成方法では、エーテル化剤は、目的のヒドロキシル基に対して通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上、また、その上限は、通常5倍モル以下、好ましくは3倍モル以下、より好ましくは2倍モル以下用いる。これらの量が少なすぎる場合、屈折率及び/又は消衰係数を十分に制御できない可能性があり、これらの量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。
【0182】
また、エーテル化反応が進行すれば、原料フラーレン誘導体、塩基、有機溶媒、エーテル化剤等の混合順序は問わないが、通常原料フラーレン誘導体と塩基とを上記の適当な溶媒中で混合してから、エーテル化剤を加えることにより反応を行なう。さらに、エーテル化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のエーテル化が起きる限り、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、その上限は、通常120℃以下、好ましくは70℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数時間以上、好ましくは5時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは30時間以下反応させることが望ましい。
【0183】
(4)ウレタン化による合成方法
この合成方法では、原料フラーレン誘導体に対して、RgNCOで表わされるイソシアネート類等のウレタン化剤を用いて、ウレタン化を行なう。ここで、上記のウレタン化剤を表わす式におけるRgは、原料フラーレン誘導体とウレタン化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては、エステル化剤、カーボネート化剤、エーテル化剤を表わす基の具体例で例示した基Ra〜Rfと同様の基を挙げることができる。なお、ウレタン化剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。これにより、原料フラーレン誘導体のヒドロキシル基部分がウレタン化され、本発明のフラーレン誘導体を合成することができる。
【0184】
ウレタン化による合成方法では、ウレタン化剤は、目的のヒドロキシル基に対して通常0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上、また、その上限は、通常5倍モル以下、好ましくは3倍モル以下、より好ましくは2倍モル以下用いる。これらの量が少なすぎる場合、屈折率及び/又は消衰係数を十分に制御できない可能性があり、これらの量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。
【0185】
また、ウレタン化反応が進行すれば、原料フラーレン誘導体、塩基、有機溶媒、ウレタン化剤等の混合順序は問わないが、通常原料フラーレン誘導体と塩基とを上記の適当な溶媒中で混合してから、ウレタン化剤を加えることにより反応を行う。さらに、ウレタン化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のウレタン化が起きる限り、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、その上限は、通常120℃以下、好ましくは70℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数分以上、好ましくは30分以上、また、通常数十時間以下、好ましくは5時間以下反応させることが望ましい。
【0186】
また、上記の修飾反応剤、即ち、エステル化剤、カーボネート化剤、エーテル化剤及びウレタン化剤は、それぞれ単独で使用する他、任意の比率及び組み合わせで用いて、上記の(1)〜(4)の各方法を任意に組み合わせて行ってもよい。さらに、上記の(1)〜(4)の方法に示した各反応(即ち、エステル化、カーボネート化、エーテル化及びウレタン化)を妨げなければ、原料フラーレン誘導体、エステル化剤、カーボネート化剤、エーテル化剤、ウレタン化剤等の修飾反応剤、塩基、有機溶媒以外の物質が存在していても構わない。
【0187】
得られた本発明のフラーレン誘導体は、必要に応じて適宜、高速液体クロマトグラフィー(以下、適宜「HPLC」と言う。)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。単離収率は、上記の好ましい反応条件で行なえば、フラーレン誘導体中間体からの収率として通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。
【0188】
なお、本発明のフラーレン誘導体は、通常、プロトン核磁気共鳴スペクトル法(以下、適宜「1H−NMR」と言う。)、カーボン核磁気共鳴スペクトル法、赤外線吸収スペクトル法、質量分析法、元素分析等の一般的な有機分析により、その構造を確認することができる。この他、フラーレン誘導体の結晶性がよい場合は、X線結晶回折法によって構造を確認できる場合もある。
【0189】
[3.フラーレン誘導体溶液]
本発明のフラーレン誘導体は、適切な溶媒に溶解させて溶液とすることにより、上記の様々な用途に用いることができる。以下、本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させた本発明のフラーレン誘導体溶液を、適宜「本発明の溶液」と言う。
【0190】
本発明の溶液における溶媒の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましい例としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒は、公知の任意の有機溶媒を用いることができる。中でも、本発明のフラーレン誘導体は極性が大きいことから、極性有機溶媒に対して高い溶解性を示すので、本発明の溶液の溶媒としても極性有機溶媒を使用することが好ましい。なお、溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0191】
極性有機溶媒は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されない。極性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類(以下、適宜「ケトン溶媒」と言う。);酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート等のエステル類(以下、適宜「エステル溶媒」と言う。);テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類(以下、適宜「エーテル溶媒」と言う。);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のエーテルアルコール類;前記エーテルアルコール類と酢酸等の酸とのエステル化合物であるエーテルエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0192】
中でも、工業的な用途で用いられることが多い観点で、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン溶媒、エステル溶媒を使用することが好ましく、特に、シクロヘキサノン等の環状ケトン溶媒、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル等の高沸点エステル溶媒を用いることが好ましい。なお、極性有機溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0193】
また、本発明の溶液における溶媒として、アルカリ溶媒も用いることができる。アルカリ溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されないが、例としては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、メチルジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−7−ウンデセン、ジメチルエタノールアミン等のアルカリ有機溶媒;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。なお、アルカリ溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0194】
本発明の溶液における、本発明のフラーレン誘導体の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。濃度が小さすぎる場合、フラーレン誘導体濃度が低くなり、成膜ができないなど特定の用途に使用できなくなる可能性があり、大きすぎる場合、フラーレン誘導体が析出し、安定な溶液として使用できなくなる可能性がある。
【0195】
また、本発明の溶液における、本発明のフラーレン誘導体の濃度としては、通常0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、また、その上限は、通常500mg/mL以下、好ましくは400mg/mL以下、より好ましくは300mg/mL以下であっても良い。即ち、本発明の溶液における、本発明のフラーレン誘導体の濃度としては、上記の範囲の少なくともいずれか一方を満たすことが好ましい。
【0196】
また、本発明の溶液において、本発明のフラーレン誘導体は溶媒に完全に溶解していることが好ましいが、一部でも溶解していれば良く、不溶分が懸濁又は沈殿していても構わない。
【0197】
本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、本発明の溶液は、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。本発明の溶液は、その他の成分の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0198】
本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させることができれば、本発明の溶液の調製方法に制限はないが、通常、任意の装置で攪拌しながら溶解させる手法、超音波を照射する手法等で調製できる。また、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒、並びに必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
【0199】
本発明の溶液は、安定性や操作性の観点から通常25℃程度で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながら溶解させ、保管することができる。また、本発明のフラーレン誘導体が析出する可能性があるが、溶液に含まれる本発明のフラーレン誘導体が全て析出されない限り、25℃以下の低温下で調製、保管することもできる。
【0200】
[4.フラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体を含有するものである。本発明の誘導体膜の製造方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、中でも、本発明のフラーレン誘導体は、上記記載の有機溶媒、特にエステル溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒に高溶解性を示すため、これらの有機溶媒にフラーレン誘導体を溶解した溶液を任意の基材に塗布し、加熱乾燥することでフラーレン誘導体膜(以下、適宜「本発明の膜」と言う。)を製造することが好ましい。なお、フラーレン誘導体溶液には、フラーレン誘導体、有機溶媒のほか、本発明のフラーレン誘導体が有する優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、他の任意の成分が含有されていても良い。
【0201】
塗布方法としては、例えばスプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等任意の方法を選択することができる。また、塗布される基材にも制限はなく、例えば、有機被膜、シリコン基板、ポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜等のシリコン被膜、金属配線等の無機被膜が挙げられる。
【0202】
なお、塗布方法は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。また、塗布する基材も1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0203】
塗布膜の加熱乾燥処理は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意に行うことができる。例えば、加熱乾燥時の温度は、通常80℃以上、また、その上限は、通常300℃以下である。また、加熱乾燥時間は、通常10秒以上、また、その上限は、通常300秒以下である。本発明のフラーレン誘導体は通常の有機化合物に比べて熱安定性に優れるため、熱分解することなく安定な膜を形成することができる。また、加熱は大気下、又はアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0204】
本発明のフラーレン誘導体膜における膜厚は、用途によって大きく異なり一律に限定することはできないが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0205】
本発明の溶液を任意の基材に塗布することで、均一なフラーレン誘導体膜を形成させることができるため、分光エリプソメーター等で本発明のフラーレン誘導体膜の屈折率及び消衰係数(以下、適宜これらの2つの定数をまとめて「光学係数」と言う。)を測定することができる。また、これらの光学係数を用い、本発明のフラーレン誘導体膜の誘電率を計算することができる。これらの光学係数は、そのフラーレン誘導体膜の用途によって、また同じ用途でもプロセスの種類、フラーレン誘導体膜に含有する他の成分の種類及び量によって求められる数値が大きく異なっている。従って、本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体膜が有する優れた物性を効果的に活用できる用途に用いられることが好ましい。なかでも、本発明のフラーレン誘導体膜は、その成分であるフラーレン誘導体が、フラーレン骨格のπ電子共役を大量に保持しているうえ、置換基として芳香族性を有する炭化水素基が導入されているため、高エッチング耐性が期待できることから、フォトレジスト用途及び下層膜等に好適に用いられる。
【0206】
上記の中でも、本発明のフラーレン誘導体を含有する膜は、波長193nmの光に対する屈折率が高く、消衰係数が低い事が特徴であり、この物性を効果的に活用できる用途に特に好適に用いられる。
【0207】
[4.本発明のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜の用途]
本発明のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜は、上記の用途に用いることができる。以下、いくつかの用途の例に関して具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜の機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0208】
[4−1.フォトレジスト用途]
従来、フォトレジスト用途においては、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系又はノボラック系樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤、感光剤等とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のフラーレン誘導体は、フォトレジストに使用される有機溶媒への溶解度が高いことから、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、フラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能である。
【0209】
このように本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をフォトレジストの分野に用いた場合、含有するフラーレン誘導体がフラーレン骨格を有する事から、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いて形成したレジスト膜は、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層としても優れた機能を発揮することが期待できる。特に、本発明のフラーレン誘導体を含有する膜は、193nmの波長における屈折率が高く、消衰係数が低いことから、ArFエキシマレーザー用途に好適に用いる事ができる。
【0210】
[4−2.半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法として、ナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
【0211】
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;等が知られている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記熱可塑性重合体や硬化性物質に使用される有機溶媒への溶解度が高いことから、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で含有させることが可能である。
【0212】
このように、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いた場合、有機溶媒に対する本発明のフラーレン誘導体の溶解性が高いことから、本発明のフラーレン誘導体の熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能となり、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0213】
[4−3.低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央演算処理装置(CPU)用回路基板には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記用途に使用される有機溶媒への溶解度が高いことから、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、フラーレン誘導体を単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0214】
[4−4.太陽電池用途]
有機太陽電池への応用も可能である。しかし、シリコン系の無機太陽電池と比較して、有機太陽電池は優位な点が多数あるもののエネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するために、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン並びにフラーレン誘導体とが分子レベルで混じり合い、その結果、非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
【0215】
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いため、p型半導体との効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレン誘導体は、n型半導体としてのフラーレンの性質を本質的に保持している。これらのことにより、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いることにより、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。さらに、この高溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御、誘導体分子の整列配向性・細密充填性等のモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できるうえ、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0216】
[4−5.半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが検討されている。フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが一般的に知られている。本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いことから、塗布による成膜が容易であるとともに、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。従って、本発明のフラーレン誘導体は、低コスト、高性能な有機半導体として期待できる。
【実施例】
【0217】
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、以下の記載において、THFはテトラヒドロフランを表わし、ODCBはオルトジクロロベンゼンを表わし、DMSOはジメチルスルホキシドを表わす。さらに、Meはメチル基を表わし、Npはナフチル基、Phはフェニル基、THPはテトラヒドロピラニル基、Adはアダマンチル基、Acはアセチル基を表す。
【0218】
[実施例1:C60(−β−C106−6−O(C(=O))−C10155(−CH2CH=CH(CH3))の製造]
臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(6.48g、31.5mmol)のTHF懸濁
液(56mL)を5℃まで冷却した後、2−ブロモ−6−ナフトールをTHP保護した原料から合成したグリニャール試薬のBrMg−C106−6−O−THP/THF溶液(1mol/L;34mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(2.0g、2.78mmol)のODCB溶液(90mL)を加え、4時間攪拌した。そこに、クロチルブロマイド(10mL、98mmol)を加え、さらに10時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、アルミナカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)にかけた。溶液を濃縮し、ヘキサン(200mL)、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、C60(−β−C106−6−O−THP)5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色の固体(4.99g、2.61mmol、収率93.9%)として得た。
【0219】
次に、C60(−β−C106−6−O−THP)5(−CH2CH=CH(CH3))(4.00g、2.09mmol)のメタノール(50mL)、塩化メチレン(50mL)混合溶液を調製し、メタンスルホン酸(21μL)を加え、室温下で3時間攪拌した。反応液を塩化メチレン(30mL)で希釈した後、ヘキサン(500mL)で晶析を行った。その後、50℃真空乾燥を3時間行なうことで、C60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色の固体(2.42g、1.62mmol、収率77.5%)として得た。
【0220】
次に、C60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))(2.00g、1.34mmol)のTHF(100mL)溶液を調製し、トリエチルアミン2.0mL、1−アダマンタンカルボン酸クロライド(Cl−C(=O)−C1015)(2.67g、13.4mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.50g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(15mL)を加え、反応を停止した後、クロロホルム(150mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物C60(−β−C106−6−O(C(=O)−C1015))5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色の固体(2.44g、収率79.0%)として得た。
【0221】
得られた生成物を1H−NMR及びHPLCにて測定した。なお、1H−NMRはCDCl3を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、0.5mg/mLのトルエン溶液を調製し、以下の測定条件で測定した。
【0222】
カラム種類:オクタデシル基結合シリカゲル(ODS)カラム
カラムサイズ:150mm×4.6mmφ
溶離液:トルエン/メタノール=4/6
検出器:UV290nm
【0223】
HPLC測定の結果、リテンションタイム19.94minに、97.8(Area%)で観測された。
【0224】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。なお、各構造式中の斜体の水素原子は、各ピークにおけるピークの由来する水素原子を表す。以下、特に断らない限り、同様の表記を行うものとする。
【0225】
【化10】

【0226】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物のフラーレン誘導体C60(−β−C106−6−O(C(=O)−C1015))5(−CH2CH=CH(CH3))であることが確認された。
【0227】
更に、得られた生成物を、25℃、常圧下において、シクロヘキサノンに溶解させ、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0228】
さらに、得られたフラーレン誘導体のシクロヘキサノン溶液を調製し(2重量%)、アドバンテック製0.2μmのフッ素樹脂製のフィルターで濾過することによって塗布液を調製した。当該溶液をシリコン基板上に塗布して、回転速度500rpmで10秒間、その後3000rpmで40秒間回転させた。その後コンタクトベーク100℃、1分間で乾燥させ、膜厚50nmの薄膜を形成した。
【0229】
これをホリバジョバンイボン製分光エリプソメーターUVISELおよび制御解析ソフトDeltaPsi2を用い、光線入射角60°検出角60°、波長範囲2600nm〜190nmで測定解析をおこなって屈折率、消衰係数(即ち、光学係数)を求めた。その結果のうち、193nmにおける光学係数を表2に示す。また波長範囲1680〜190nmの範囲における光学係数の波長スペクトルは図1に示す。
【0230】
[実施例2:C60(−β−C106−6−O(C(=O)−C1015))2.5(−β−C106−6−OH)2.5(−CH2CH=CH(CH3))の製造]
実施例1と同様の方法で製造したC60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))(1.00g、0.67mmol)をTHF(100mL)に溶解させ、トリエチルアミン1.0mL、1−アダマンタンカルボン酸クロライド(Cl−C(=O)−C1015)(0.40g、2.01mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.50g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(10mL)を加え、反応を停止したあとクロロホルム(100mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(75mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるアダマンタンカルボニル基を部分修飾したC60(−β−C106−6−O(C(=O)−C1015))2.5(−β−C106−6−OH)2.5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色の固体(1.02g、収率77.0%)として得た。
なお、得られたオレンジ色の固体は、C60(−β−C106−6−OH)5中のヒドロキシル基に含まれる水素原子のうち、全ての水素原子が置換されないか、又は、1個〜5個の水素原子が任意の割合で上記のアダマンチル基に置換されているフラーレン誘導体の混合物である。従って、後述する積分比の結果から、フラーレン誘導体の水素原子の50%が置換されず、残りの50%がアダマンチル基に置換されたとした。
【0231】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0232】
HPLC測定の結果、リテンションタイム19.8min(100%アダマンタンカルボニル修飾体)と3.36min(0%アダマンタンカルボニル修飾体)の間で、80%、60%、40%、20%のアダマンタンカルボニル修飾体及びそれらの構造異性体が正規分布状に観測された。
【0233】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3、400MHz)]
ヒドロキシル基修飾数及び構造異性体の混合物であるため、多数のピークが観測された。ナフチル基相当部分(8.5ppm〜7.0ppm)とアダマンチル基相当部分(2.10〜1.65ppm)の積分比から、フラーレン誘導体1分子に含まれる5個のナフトール基の水酸基5個に対して平均50.0%の修飾率と算出した。
【0234】
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0235】
更に、得られたフラーレン誘導体のシクロヘキサノンとプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート溶液(以下、適宜「PGMEA」と言う。)の混合溶液(1/1重量比)を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。また光学係数の波長スペクトルは図2に示す。
【0236】
[実施例3:C60(−β−C106−6−O(C(=O)−C24SCH3))5(−CH2CH=CH(CH3))の製造]
実施例1と同様の方法で製造したC60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))(2.00g、1.34mmol)をTHF(100mL)に溶解させ、トリエチルアミン2.0mL、3−メチルチオプロピオニルクロライド(Cl−C(=O)−C24SCH3)(1.55mL、13.4mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.50g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(30mL)を加え、反応を停止したあとクロロホルム(200mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(400mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるC60(−β−C106−O(C(=O)−C24SCH3))5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色固体物(2.24g、収率83.4%)の生成物として得た。
【0237】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0238】
HPLC測定の結果、リテンションタイム4.23minに、85.2(Area%)で観測された。
【0239】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
【0240】
【化11】

【0241】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物のフラーレン誘導体C60(−β−C106−6−O(C(=O)−C24SCH3))5(−CH2CH=CH(CH3))であることが確認された。
【0242】
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0243】
更に、得られたフラーレン誘導体のシクロヘキサノン溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。また光学係数の波長スペクトルは図3に示す。
【0244】
[実施例4:C60(−β−C62−3,4,5−(O−C(=O)−C101535(−CH3)の製造]
ヨウ素(13.33g,52.4mmol)のODCB溶液(30mL)にヘキサメチルジシラン(9.98mL,48.8mmol)を加え、90℃で1時間加熱攪拌した溶液に、C60(−β−C62−3,4,5−(O−CH335(−CH3)(5.00g,3.18mmol)のODCB(25mL)溶液を添加し、90℃で11時間加熱を行った。5℃まで冷却し、イオン交換水10.5mLで反応を停止させ、さらに亜硫酸水10.5mLを加えた。酢酸エチル70mLを添加し、有機層を抽出した後、亜硫酸水(14mL)及びイオン交換水(30mL)で2回洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を濃縮しヘキサン(140mL)で晶析し、170℃で真空乾燥することでC60(−β−C62−3,4,5−(OH)35(−CH3)をオレンジ色固体(4.10g,3.01mmol,収率94.7%)として得た。
【0245】
次に、C60(−β−C62−3,4,5−(OH)35(−CH3)(0.50g、0.37mmol)をTHF(50mL)に溶解させ、トリエチルアミン0.5mL、1−アダマンタンカルボン酸クロライド(Cl−C(=O)−C1015)(1.32g、6.62mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.25g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(20mL)を加え、反応を停止したあとクロロホルム(150mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるC60(−β−C62−3,4,5−(O−C(=O)−C101535(−CH3)をオレンジ色固体物(0.87g、収率66.6%)の生成物として得た。
【0246】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0247】
HPLC測定の結果、リテンションタイム14.21minに、92.6(Area%)で観測された。
【0248】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3、400MHz)]
6.9〜7.6ppm(m,Ph,10H),1.9〜2.2ppm(m,Ad,120H), 1.6〜1.8ppm(m,Ad+CH3,108H)
【0249】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物のフラーレン誘導体C60(−β−C62−3,4,5−(O−C(=O)−C101535(−CH3)であることが確認された。
【0250】
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0251】
更に、得られたフラーレン誘導体のシクロヘキサノン溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。また光学係数の波長スペクトルは図4に示す。
【0252】
[実施例5:C60(−C62−3,4,5−(O−C(=O)−C101532.5(−C62−3,4,5−(OH)32.5(−CH3)の製造]
実施例4に記載の方法により製造したC60(−β−C62−3,4,5−(OH)35(−CH3)(0.50g、0.37mmol)をTHF(50mL)に溶解させ、トリエチルアミン0.5mL、1−アダマンタンカルボン酸クロライド(Cl−C(=O)−C1015)(0.66g、3.31mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.25g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(20mL)を加え、反応を停止した後、酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるアダマンタンカルボニル基を部分修飾したC60(−β−C62−3,4,5−(O−C(=O)−C101532.5(−β−C62−3,4,5−(OH)32.5(−CH3)をオレンジ色固体物(0.74g、収率75.8%)の生成物として得た。
なお、得られたオレンジ色の固体は、C60(−β−C62−3,4,5−(OH)35中のヒドロキシル基に含まれる水素原子のうち、全ての水素原子が置換されないか、又は、1個〜15個の水素原子が任意の割合で上記のアダマンチル基に置換されているフラーレン誘導体の混合物である。従って、後述する積分比の結果から、フラーレン誘導体の水素原子の50%が置換されず、残りの50%がアダマンチル基に置換されたとした。
【0253】
実施例1と同様にして、得られた生成物を1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0254】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3、400MHz)]
ヒドロキシル基修飾数及び構造異性体の混合物であるため、多数のピークが観測された。フェニル基相当部分(6.7ppm〜7.8ppm)とアダマンチル基+メチル基相当部分(1.6〜2.2ppm)の積分比から、フラーレン誘導体1分子に含まれる多価フェノール基の水酸基15個に対して平均50.2%の修飾率と算出した。
【0255】
更に、得られた生成物について、実施例1の溶媒をPGMEAに変更する以外は実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0256】
更に、得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。また光学係数の波長スペクトルは図5に示す。
【0257】
[実施例6:C60(−β−C63−3,4−(O−C(=O)−C101522.5(−β−C63−3,4−(OH)22.5(−CH3)の製造]
特開2006−56878号公報の実施例9に記載の製造方法に基づいて製造したC60(−β−C63−3,4−(OH)25(−CH3)(0.50g、0.39mmol)をTHF(50mL)に溶解させ、トリエチルアミン0.5mL、1−アダマンタンカルボン酸クロライド(Cl−C(=O)−C1015)(0.47g、2.34mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.25g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(20mL)を加え、反応を停止した後、酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(300mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるアダマンタンカルボニル基を部分修飾したC60(−β−C63−3,4−(O−C(=O)−C101522.5(−β−C63−3,4−(OH)22.5(−CH3)をオレンジ色固体物(0.55g、収率66.9%)の生成物として得た。
なお、得られたオレンジ色の固体は、C60(−β−C63−3,4−(OH)25中のヒドロキシル基に含まれる水素原子のうち、全ての水素原子が置換されないか、又は、1個〜10個の水素原子が任意の割合で上記のアダマンチル基に置換されているフラーレン誘導体の混合物である。従って、後述する積分比の結果から、フラーレン誘導体の水素原子の50%が置換されず、残りの50%がアダマンチル基に置換されたとした。
【0258】
実施例1と同様にして、得られた生成物を1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0259】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3、400MHz)]
ヒドロキシル基修飾数及び構造異性体の混合物であるため、多数のピークが観測された。フェニル基相当部分(6.7ppm〜7.8ppm)とアダマンチル基+メチル基相当部分(1.6〜2.2ppm)の積分比から、フラーレン誘導体1分子に含まれる多価フェノール基の水酸基10個に対して平均53.3%の修飾率と算出した。
【0260】
更に、得られた生成物について、実施例5と同様にして、溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0261】
更に、得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。また光学係数の波長スペクトルは図6に示す。
【0262】
[比較例1:C60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))の製造]
実施例1と同様の方法により、C60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))を製造した。
【0263】
HPLC溶離液の比をトルエン/メタノール=2/8に変更する以外は、実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0264】
HPLC測定の結果、リテンションタイム6.44minに、96.7(Area%)で観測された。
【0265】
【化12】

【0266】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物のフラーレン誘導体C60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))であることが確認された。
【0267】
更に、得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。
【0268】
[比較例2:C60(−β−C106−6−O(C(=O)−CH3))5(−CH2CH=CH(CH3))の製造]
実施例1と同様の方法で製造したC60(−β−C106−6−OH)5(−CH2CH=CH(CH3))(0.94g、0.63mmol)をTHF(60mL)に溶解させ、トリエチルアミン0.6mL、アセチルクロライド(Cl−C(=O)−CH3)(0.27mL、3.78mmol)を添加した後、4−ジメチルアミノピリジン(0.50g)を加え、室温で5時間攪拌した。反応液に希塩酸(30mL)を加え、反応を停止した後、酢酸エチル(200mL)で抽出した。有機層をイオン交換水(100mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮した後、メタノール(500mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を行なうことで、表題化合物であるC60(−β−C106−6−O(C(=O)−CH3))5(−CH2CH=CH(CH3))をオレンジ色の固体(0.77g、収率71.9%)として得た。
【0269】
HPLC溶離液の比をトルエン/メタノール=3/7に変更する以外は、実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0270】
HPLC測定の結果、リテンションタイム7.11minに、93.86(Area%)で観測された。
【0271】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
【0272】
【化13】

【0273】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(−β−C106−6−O(C(=O)−CH3))5(−CH2CH=CH(CH3))であることが確認された。
【0274】
更に、得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。
【0275】
[比較例3:C60(−β−C62−3,4,5−(OH)35(−CH3)の製造]
実施例5に記載の製造方法に基づいて、C60(−β−C62−3,4,5−(OH)35(−CH3)を製造した。
【0276】
HPLCの溶離液にメタノール/水/リン酸=900/100/1を用いた他、以下の条件でHPLCの測定を行った。
カラム:L−Column(ODS:3μm)
カラムサイズ:100mm×4.6mmφ
検出器:UV290nm
また、DMSO−d6を溶媒として、1H−NMR(270MHz)を測定した。
【0277】
HPLC測定の結果、リテンションタイム5.20minに95.2(Area%)で観測された。
【0278】
【化14】

【0279】
得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。
【0280】
[比較例4:C60(−β−C63−3,4−(OH)25(−CH3)の製造]
特開2006−56878号公報の実施例9に記載の製造方法に基づいて、C60(−β−C63−3,4−(OH)25(−CH3)を製造した。
【0281】
得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(2重量%)、実施例1と同様にして成膜した。また、実施例1と同様に得られた膜の光学係数を求めた。その結果を表2に示す。
【0282】
表1は、実施例1〜6及び比較例1〜4で製造したフラーレン誘導体におけるR10及びR20に相当する基を示したものである。
【0283】
【表1】

【0284】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0285】
本発明のフラーレン誘導体は、極性有機溶媒に対して高い溶解性を有し、且つ、低コストで容易に製造可能であるという特徴を有することから、例えば、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料等の用途に好適に使用することができる。また、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)等の光源短波長化に適応したフォトレジストや反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜の用途に特に好適に使用することができる。中でも、波長193nmの光に対する屈折率が高く消衰係数が低いため、屈折率が高い事を利用したArFエキシマレーザーを光源とするフォトレジスト、反射防止膜の機能を有した下層膜材料に特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0286】
【図1】実施例1のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。
【図2】実施例2のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。
【図3】実施例3のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。
【図4】実施例4のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。
【図5】実施例5のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。
【図6】実施例6のフラーレン誘導体膜の波長スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされるフラーレン骨格の部分構造を有すると共に、
1が、水素原子又は任意の置換基と結合し、
6〜C8が、各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基と結合している
ことを特徴とするフラーレン誘導体。
【化1】

(式(I)中、C1〜C10は何れもフラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【化2】

(式(II)中、Arは炭素数6以上18以下の芳香族性を有する炭化水素基を表し、nは1以上7以下の整数を表す。また、Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である。なお、フラーレン誘導体1分子中、脂肪族環状炭化水素基を含む有機基及び硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基からなる群より選ばれる1種以上の有機基を1つ以上含む。)
【請求項2】
該式(II)中、該脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が、アダマンチル基を含む有機基である
ことを特徴とする、請求項1記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
該式(II)中、該脂肪族環状炭化水素基を含む有機基が、下記式(III)で表される構造の有機基である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラーレン誘導体。
【化3】

(式(III)中、Y1はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、Rは炭素数5以上12以下の脂肪族環状炭化水素基である。)
【請求項4】
該式(II)中、該硫黄原子を含有する炭化水素基を含む有機基が、下記式(IV)で表される構造の有機基である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【化4】

(式(IV)中、Y2はカルボニル基、アルキレン基、カルボニルアミノ基、カルボニルオキシ基からなる群より選ばれる1種以上の有機基であり、R’は硫黄原子を含有する炭化水素基である。)
【請求項5】
該式(III)中、Y1がカルボニル基であり、Rがアダマンチル基である
ことを特徴とする、請求項3に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
該式(IV)中、Y2がカルボニル基であり、R’が硫黄原子を含有する炭素数2以上12以下のアルキル基である
ことを特徴とする、請求項4記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
該式(I)のC6〜C8に加えて、C9〜C10が各々独立に、該式(II)で表される構造の有機基と結合している
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項8】
該式(II)中、Arの炭素骨格がベンゼン骨格又はナフタレン骨格である
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項9】
該C1に結合する任意の置換基が、炭素数1以上30以下の有機基である
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項10】
該炭素数1以上30以下の有機基が、メチル基である
ことを特徴とする、請求項9に記載のフラーレン誘導体。
【請求項11】
該C1に結合する任意の置換基が、アルケニル基である
ことを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項12】
該フラーレン骨格が、フラーレンC60である
ことを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項13】
波長193nmの光に対する屈折率が1.45より大きく、消衰係数が0.45より小さい
ことを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載のフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなる
ことを特徴とする、フラーレン誘導体溶液。
【請求項15】
該溶媒が、エステル溶媒又はケトン溶媒である
ことを特徴とする、請求項14記載のフラーレン誘導体溶液。
【請求項16】
請求項1〜13の何れか一項に記載のフラーレン誘導体を含有する
ことを特徴とする、フラーレン誘導体膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120538(P2009−120538A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296505(P2007−296505)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】