説明

フリップチップ実装構造体

【課題】セラミック基板のうねりと半導体素子のスタッドバンプの高さばらつきとを吸収する導電性接着剤の転写量を確保でき、高い実装歩留まりとなるフリップチップ実装構造体を提供する。
【解決手段】スタッドバンプ1は、台座部8と頭頂部9とからなり、頭頂部9における台座部8との境界部分に先端寄りほど狭まるテーパ部分9aを有しており、前記テーパ部分9aの底部の直径をD1、台座部8の直径をD2としたときに、D2×0.6<D1<D2×0.8となるように形成しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子をセラミック基板に実装したフリップチップ実装構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子をセラミック基板に実装した半導体実装構造体としては、半導体素子の電極形成面を上面にして基板上に搭載し、金線やアルミ線を介して電気的に接続したワイヤーボンディング実装構造体と、半導体素子の電極形成面を下面にして基板上に搭載して接合したフリップチップ実装構造体とがある。携帯電話などの薄型化、小型化が求められる電子機器には、フリップチップ実装構造体が薄型化に有効であることから特に有用である。
【0003】
フリップチップ実装構造体を作製する工法には、半導体素子上にスタッドバンプを形成して導電性接着剤を介して基板の電極と接続するSBB実装、同スタッドバンプを異方性導電フィルムを介して基板の電極と接続するACF実装、半導体素子上に半田バンプを形成して基板と接続するC4実装などの様々な工法がある。
【0004】
SBB実装について説明する。図4(a)は、半導体素子2にスタッドバンプ101を形成した工程を示している。スタッドバンプ101を形成するには、図示しないキャピラリと呼ばれる治具の貫通孔から金線を押し出して、その先端に放電等による加熱により金ボールを形成し、この金ボールを半導体素子2の電極上に圧着して超音波による振動と熱とで接合させた後、キャピラリを引き上げて接続金属塊から引き離すとともに、金線を引きちぎるようにして切り離す。
【0005】
スタッドバンプ101を形成する目的は、半導体素子2に設けられた図示しない電極と実装基板に設けられたランドとの電気的接合を得るためである。スタッドバンプ101は、大きく分けて、台座部108と呼ばれる略円板状の部分と頭頂部109と呼ばれる略円柱あるいは略円すい状の部分とからなる。
【0006】
形成当初のスタッドバンプ101は高さのばらつきが大きいため、図4(b)に示すように平面状の金属板3に押し当てることで高さを均一に揃える。このときのスタッドバンプ101の高さは、金属板3に押し当てる圧力により制御可能である。
【0007】
この半導体素子2を、図4(c)(d)に示すように、スタッドバンプ101の頭頂部109を転写台5上の導電性接着剤4に浸漬させてから引き上げると、スタッドバンプ101に導電性接着剤4が表面張力により転写される。tは転写量と呼ばれる、スタットバンプ101の上面での導電性接着剤4の厚みを示す。
【0008】
その後に、図4(e)に示すように、半導体素子2に形成された認識用のパターン(図示せず)とセラミック基板6上に形成された認識用のパターン(図示せず)とを用いて位置を合わせた上で、半導体素子2を所定の荷重をかけながらセラミック基板6上に搭載する。この時の荷重は、上述のようにスタッドバンプ101の高さを補正するために平面状の金属板に押し当てる時の荷重より小さく設定することが一般的である。
【0009】
これにより、半導体素子2上のスタッドバンプ101とセラミック基板6上の電極7とが対向した状態で導電性接着剤4によって接合され、半導体素子2のセラミック基板6上へのSBB実装が完了する。さらに必要に応じてエポキシ樹脂等を用いて半導体素子2とセラミック基板6との間を封止したものがフリップチップ実装構造体である。
【0010】
ところで、セラミック基板6には焼成時の収縮ばらつきや積層工程の精度に起因する表面のうねり(コプラナリティ)が存在し、うねりの大きさは精度の良い基板を用いたとしても実装エリア内において5μm程度の大きさで存在する。またスタッドバンプ101の高さは、上述のように平面状の金属板3に押し当てて補正しても2μm程度のばらつきを有している。
【0011】
このため、半導体素子2をセラミック基板6上に実装して導電性接着剤4を介して電気的な接続を確保するためには、セラミック基板6のうねりの大きさとスタッドバンプ101の高さバラツキとの和よりも導電性接着剤4の転写量tが大きくなければならず、転写量tは少なくとも7μm必要である。
【0012】
しかし導電性接着剤4の転写量tを十分に確保しようとすると、その絶対量が多くなり、スタッドバンプ101の台座部108にも保持されずこぼれることがある。こぼれを防止するべく転写量tが十分に確保されていない場合は接続不良が発生する。
【0013】
そこで、キャピラリとして、貫通孔の先端部がロート状に拡開したものを用い、その先端面よりも直径が大きくなるように台座部108を形成するとともに、この台座部108の外周部に環状の隆起を有する形状とすることにより、スタッドバンプ101に十分な転写量tを確保し且つこぼれを防止することが提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−85472公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述した従来のスタッドバンプの形状では、台座部108からの導電性接着剤4のこぼれに対しては効果があるものの、頭頂部109を浸漬した導電性接着剤4から引き上げた後に、頭頂部109と台座部108との境界部分に導電性接着剤4が這い上がる場合と殆ど這い上がらない場合が生じる。這い上がりの発生を一定に制御することは非常に困難であり、導電性接着剤4の転写量tのばらつきが多くなったり、導電性接着剤4の転写量tが小さくなることがある。その結果、半導体素子2上の電極とセラミック基板6上の導電ランドとの電気的接合を確保することができず、実装歩留まりの低下を引き起こす。
【0015】
本発明は、上記問題に鑑み、セラミック基板のうねりと半導体素子のスタッドバンプの高さばらつきとを吸収する導電性接着剤の転写量を確保することができ、高い実装歩留まりとなるフリップチップ実装構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のフリップチップ実装構造体は、半導体素子と、セラミック基板と、前記半導体素子の電極上に金線を用いて形成された台座部と頭頂部とからなるスタッドバンプと、前記スタッドバンプ上に転写され当該スタッドバンプと前記セラミック基板上の導電ランドとを電気的に接続した導電性接着剤とを具備してなるフリップチップ実装構造体において、前記スタッドバンプは、前記頭頂部における台座部との境界部分に先端寄りほど狭まるテーパ部分を有しており、前記テーパ部分の底部の直径をD1、台座部の直径をD2としたときに、D2×0.6<D1<D2×0.8となるように形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフリップチップ実装構造体は、スタッドバンプが上記の形状および寸法を有することにより、セラミック基板のうねりとスタッドバンプの高さばらつきとを吸収する導電性接着剤の転写量を確保することができ、高い実装歩留まりを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図3に、本発明の一実施形態のフリップチップ実装構造体を作製するSBB実装を示す。基本的な構成は従来のものとほぼ同一であるため、先に図4を用いて説明した点に関しては簡単に図示および説明する。
【0019】
図1は、半導体素子の電極上にスタッドバンプを形成する工程を示す。
図1(a)に示すように、キャピラリ11の貫通孔10に金線12を通し、その先端を押し出して放電によって加熱することにより、キャピラリ11の先端に金ボール13を形成する。キャピラリ11の貫通孔10は先端部分がロート状に拡開している。
【0020】
図1(b)(c)に示すように、金ボール13を、200℃程度に加熱した半導体素子2の図示しない電極上に圧着して超音波振動を加えることにより、電極表面上に金を拡散させて接合させ、その後キャピラリ11を引き上げて接続金属塊14から引き離すとともに、金線12を引きちぎるようにして切り離すことにより、スタッドバンプ1を形成する。そしてその後に、スタッドバンプ1を所定の圧力にて平面状の金属板を押し当てることにより高さを揃えて、図1(d)に示す形状とする。
【0021】
スタッドバンプ1は、図2に拡大図示するように、従来のものと同様に、台座部8と呼ばれる略円板状の部分と頭頂部9と呼ばれる略円柱あるいは略円すい状の部分とで構成される。ただしこのスタッドバンプ1では、台座部8は、頭頂部9を中心とした円周の外方向に高くなる傾斜を有する形状である。頭頂部9は、台座部8との境界部分に先端寄りほど狭まるテーパ部分9aを有しており、このテーパ部分9aに連なる円柱部分9bを有している。
【0022】
たとえば、スタッドバンプ1の全体の高さh1は42μm、台座部8の直径D2は75μm程度、台座部8の高さh2は20μm程度、頭頂部9のテーパ部分9aの底部の直径D1は52.5μm、テーパ部分9aの底角θは45°〜60°、円柱部分9bの直径D3は35μm程度である。
【0023】
このようなスタッドバンプ1を形成する際に、上述のキャピラリ11は金ボール13に圧力を加えて塑性変形を起こさせるもので、台座部8と頭頂部9との境界付近の形状に大きく影響する。所望のバンプ形状を得るために、キャピラリ11の形状は重要な要素となるので、適切に設定され、高い精度で管理が行われる。
【0024】
図3は、上記のようにして準備した半導体素子2をセラミック基板上に実装するまでの工程を示す。
実装対象のセラミック基板は、アルミナ約50重量%とガラス約50重量%の粉体に有機バインダーを加えて作成したグリーンシートを900℃にて焼結したものであって、無収縮タイプの低温焼成セラミック多層基板である。セラミック基板の厚みは0.77mm、基板全体のサイズは100×110mm、モジュール単体のサイズは25×25mmである。セラミック基板上の導電ランドは、Ag系の電極ペーストをスクリーン印刷により半導体素子2の電極に対応した所定のパターンに形成し、150℃にて乾燥した後、ベルト式の焼成炉にて850℃をピークとするプロファイルで焼結し、その上に無電解方式のニッケル金メッキを施すことで形成する。導電ランドのピッチは0.3mm、サイズは0.15mm×0.3mm、厚みは10μmである。完成したセラミック基板のうねりは4μm〜5μmとなる。
【0025】
図3(a)(b)において、半導体素子2には、基板の所定のパターンに対応したスタットバンプ1を形成し、高さを揃えてある。半導体素子2は、サイズが6.0mm×6.0mm×0.5mm厚みであり、パッド数が80パッドである。高さを揃えた後もスタッドバンプ1の高さばらつきは2μm程度存在する。
【0026】
この半導体素子2をスタッドバンプ1形成面を下にして、転写台5上に20μmの厚みで塗布された導電性接着剤4に頭頂部9を浸漬してから引き上げることにより、当該スタッドバンプ1に導電性接着剤4を転写する。このときには、転写された導電性樹脂4が半導体素子2の表面に付着しないように、転写圧力、時間を所定の条件に制御する。tは導電性接着剤4の転写量である。
【0027】
その後に、図3(c)に示すように、半導体素子2とセラミック基板6とを位置を合わせした上で、半導体素子2を所定の荷重をかけながらセラミック基板6上に搭載し、120℃、1時間で導電性樹脂4を硬化させる。このことにより、半導体素子2上のスタッドバンプ1とセラミック基板6上の導電ランド7とが対向した状態で導電性接着剤4によって接合され、半導体素子2のセラミック基板6上へのSBB実装が完了する。さらにその後に、半導体素子2とセラミック基板6との間に図示しないエポキシ樹脂からなるアンダーフィルを充填し、120℃で1時間、150℃で1時間、加熱することで硬化をさせて、フリップチップ実装構造体を得る。
【0028】
ここで、スタッドバンプの形状と導電性樹脂の転写との関係について説明する。頭頂部のテーパ部分の底部の直径D1と台座部の直径D2との比率(=D1/D2)が各々、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0となるように、スタッドバンプを形成し、その各々について、頭頂部を導電性樹脂に浸漬して引き上げた後の導電性樹脂の転写量および転写状態を調べた。結果を表1に示す。
【0029】
導電性樹脂の転写量は、転写前に半導体素子からスタッドバンプの先端までの高さ(I)を測定しておき、転写後に半導体素子から導電性樹脂の先端までの高さ(II)を測定し、高さ(II)と高さ(I)との差として算出した。転写状態は、スタッドバンプの台座部から導電性接着剤がはみ出して半導体素子の表面に付着していないことを判断基準とした。なお、上述のように、実装対象のセラミック基板のうねりが最大5μm、スタッドバンプの高さばらつきが2μm存在するため、導電性接着剤の転写量は少なくとも7μm必要である。
【0030】
【表1】

表1によれば、D1/D2が0.6〜0.8の場合に、転写量の最小値が7μm以上確保されている。転写状態も良好である。これは、D1/D2が0.6〜0.8の範囲にある時に、頭頂部のテーパ部分が、浸漬した導電性接着剤を引き上げるために最適な形状となっていて、引き上げ効果が高いからと考えられる。またこのテーパ部分が存在するため、転写された導電性接着剤は、台座部と頭頂部の境界部分に対する這い上がりの進行が少なく、導電性樹脂の転写量は最も多く確保されるからと考えられる。
【0031】
D1/D2が0.5の場合(従来品の比率に相当する)は、転写量の最小値が6μmとなった。これは、テーパ部分が小さいため、導電性接着剤に浸積した時には十分な這い上がり量が確保されず、導電性接着剤から引き上げた後に、導電性接着剤の表面張力により、時間の経過とともに台座部8と頭頂部9との境界部分に這い上がりが進み、引き上げ直後よりも転写量が少なくなるからと考えられる。
【0032】
D1/D2が0.9以上の場合は、スタッドバンプ1を導電性接着剤4に浸積した時点でスタッドバンプ1から導電性接着剤4がはみ出して半導体素子の表面に付着する(こぼれと表記)という不具合が発生した。
【0033】
したがって、D1/D2が0.6〜0.8となるスタッドバンプを形成することが、セラミック基板のうねりとスタッドバンプの高さばらつきとを吸収する導電性接着剤の転写量を確保するうえで、そして実装歩留まりの高いフリップチップ実装方法を実現するうえで、効果的である。
【0034】
上述の方法でフリップチップ実装構造体を作製し、接続検査を実施したところ、D1/D2が0.8であるフリップチップ実装構造体(本発明品)においては不良率0.2%であり、D1/D2が0.5であるフリップチップ実装構造体(従来品)における不良率は0.3%であった。なおフリップチップ実装構造体は、60ピンの半導体素子4点と8ピンの半導体素子7点を搭載したマルチチップモジュールである。検査の母数は10000モジュールである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明にかかるフリップチップ実装構造体は、実装歩留まりが高く、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のフリップチップ実装構造体を製作する際の、スタッドバンプを形成する工程を示す断面図
【図2】図1で形成されるスタッドバンプの正面図
【図3】図1でスタッドバンプが形成された半導体素子をセラミック基板に実装するまでの工程を示す断面図
【図4】従来法によりスタッドバンプを半導体素子に形成しセラミック基板に実装するまでの工程を示す断面図
【符号の説明】
【0037】
1 スタッドバンプ
2 半導体素子
4 導電性接着剤
6 セラミック基板
7 導電ランド
8 台座部
9 頭頂部
9a テーパ部分
t 転写量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、セラミック基板と、前記半導体素子の電極上に金線を用いて形成された台座部と頭頂部とからなるスタッドバンプと、前記スタッドバンプ上に転写され当該スタッドバンプと前記セラミック基板上の導電ランドとを電気的に接続した導電性接着剤とを具備したフリップチップ実装構造体において、前記スタッドバンプは、前記頭頂部における台座部との境界部分に先端寄りほど狭まるテーパ部分を有しており、前記テーパ部分の底部の直径をD1、台座部の直径をD2としたときに、
D2×0.6<D1<D2×0.8
であることを特徴とするフリップチップ実装構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate