説明

フルオレン誘導体の製造法

【課題】環境負荷が低減され工業的な実施に好適であり、且つ高純度で色相が良好なフルオレン誘導体の製造法を提供する。
【解決手段】酸触媒存在下、フルオレノンと式(I)で表される化合物とを反応させて、式(II)で表されるフルオレン誘導体を製造する方法において、反応終了後、フルオレン誘導体を含む混合液にアルカリを添加した後、添加したアルカリおよびアルカリの反応物を除去することなく、濃縮により未反応の式(I)で表される化合物を分離する事を特徴とするフルオレン誘導体の製造法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、変性アクリル樹脂等の原料として有用なフルオレン誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望であり、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基盤、耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの素材原料として期待されている。
【0003】
フルオレン誘導体の製造方法としては、硫酸とチオールを触媒としてフルオレノンと2−フェノキシエタノールとを反応をさせて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得る方法において、反応液に低級脂肪族アルコールを添加して溶解した後、水を添加し目的物を析出させて回収する方法(特許文献1)が開示されている。しかし、この方法では得られた粗結晶中に硫酸が混入している為、製品の着色や純度低下などの問題がある。この改善法として酸性反応液にアルカリ水溶液を添加した後、目的物と硫酸塩を共沈させ濾過回収する方法(特許文献2)が開示されている、しかし、この方法では、一旦濾過回収された共沈物から目的物と硫酸塩を分ける為に、抽剤で再溶解し目的物を有機相に分配した後、晶析、濾過により目的物を回収しており、工業的に煩雑な濾過回収操作を複数回行う必要がある。
【0004】
硫酸を使用しない方法として、ヘテロポリ酸を触媒としてフルオレノンとフェノキシエタノールとを反応をさせて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得る方法において、反応液に水と有機溶剤からなる抽剤を用いて目的物を有機相に分配させて回収する方法(特許文献3)が、また、塩酸およびチオール類を触媒としてフルオレノンとフェノール類を反応させフルオレン誘導体を得る方法において、特許文献3と同様、抽剤を用いて目的物を有機相に分配させて回収する方法(特許文献4)が開示されている。しかしこれらの方法では、反応液中に、水への溶解度が高い未反応のフェノール類を多く含むため、分液性が悪化し、色相や純度低下の原因となる場合がある。また、水相にフェノール類等の有機物が多量に混入したり、分液のために多量の有機溶媒を使用する必要があるなど環境負荷が高く工業的に有利な製造方法とはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開平7−165657
【0006】
【特許文献2】特開2005−104898
【0007】
【特許文献3】特開2007−197368
【0008】
【特許文献4】特開2002−47227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、環境負荷が低減され工業的な実施に好適であり、且つ高純度で色相が良好なフルオレン誘導体の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、酸性触媒存在下、フルオレノンと式(I)で表されるフェノール類またはフェノキシアルコール類を反応させて得られるフルオレン誘導体を含む反応混合液に、アルカリを添加した後、添加したアルカリおよびアルカリの反応物を除去することなく、そのまま反応液を濃縮することにより、目的物を分解することなく未反応のフェノール類やフェノキシアルコール類を分離回収できること、それにより色相が良好でポリマー原料として優れたフルオレン誘導体を得ることができること、また、有機溶媒量の削減や排水負荷の低減等、環境負荷が低く、工業的有利に製造が可能である事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記(1)〜(4)を提供するものである。
(1)酸触媒存在下、フルオレノンと式(I)
【化1】

(式中、Rはアルキレン基、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。nは0又は1以上の整数を示し、mは0又は1〜4の整数を示す。但しmが0のときnは1以上の整数である。)
で表される化合物とを反応させて、式(II)
【化2】

(式中、Rはアルキレン基、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。nは0又は1以上の整数を示し、mは0又は1〜4の整数を示す。但しmが0のときnは1以上の整数である。)
で表されるフルオレン誘導体を製造する方法において、反応終了後、フルオレン誘導体を含む反応混合液にアルカリを添加した後、添加したアルカリおよびアルカリの反応物を除去することなく、濃縮により未反応の式(I)で表される化合物を分離する事を特徴とするフルオレン誘導体の製造方法。
(2)式(I)において、Rが炭素数1〜4のアルキル基、Rが炭素数2〜6のアルキレン基、nが0〜5の整数である前記(1)項に記載の製造方法。
(3)式(I)で表される化合物がメチルフェノールまたは2−フェノキシエタノールである前記(1)〜(2)項に記載の製造方法。
(4)濃縮残分に、水及び水と分液可能な有機溶媒とからなる抽剤を加えてフルオレン誘導体を有機相に分配し回収することを特徴とする前記(1)〜(3)項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酸触媒存在下、フルオレノンとフェノール類またはフェノキシアルコール類の反応によるフルオレン誘導体の製造において、ポリマー原料として優れた製品を環境負荷が低減され、工業的有利に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のフルオレン誘導体の製造方法は、フルオレンと前記式(I)で表されるフェノール類またはフェノキシアルコール類とを酸触媒存在下に反応させて得られた反応液にアルカリを添加し、添加したアルカリおよびその反応物を除去することなく反応液中より未反応のフェノール類またはフェノキシアルコール類を分離する。
【0014】
前記式(I)で表される化合物は、前記式(II)で表されるフルオレン誘導体において、9位に置換したフェノール基またはフェノキシアルコール基に対応している。
【0015】
で表される置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの炭素数1〜20のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数5〜16のシクロアルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基などの炭素数6〜16のアリール基、ベンジル基、フェネチル基などの炭素数7〜16のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜12のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリ−ル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。Rは、同一のベンゼン環において同一もしくは異なっていてもよい。Rの置換位置は特に限定されるものではない。置換基数mは0又は1〜4であり、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0又は1である。
【0016】
で表されるアルキレン基としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。好ましくは炭素数2〜6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基である。置換基数nは0又は1以上であり、好ましくは0〜15、さらに好ましくは0〜5である。なお、 nが2以上の場合、ポリアルコキシ基は、同一のアルコキシ基で構成されていてもよく、異種のアルコキシ基(例えばエトキシ基とプロピレンオキシ基)が混在して構成されていてもよいが、通常、同一のアルコキシ基で構成されている。また、mが0の場合nは1以上である。
【0017】
前記式(I)で表される化合物の具体例としては、例えば、n=0の化合物として、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、などのアルキルフェノール、2,3−キシレノール、2,6−キシレノール、3,5−キシレノールなどのジアルキルフェノール、2−メトキシフェノール、2−エトキシフェノールなどのアルコキシフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノールなどのフェニルフェノールなどが挙げられる。n=1の化合物として、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、フェノキシブタノールなどのフェノキシアルキルアルコール、(2−メチル−フェノキシ)エタノール、(3−メチル−フェノキシ)エタノール、(3−エチル−フェノキシ)エタノール、(3−ブチル−フェノキシ)エタノール、(2−メチル−フェノキシ)プロパノール、(3−メチル−フェノキシ)プロパノールなどのアルキルフェノキシアルキルアルコール、(2,3−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,5−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,6−ジメチルフェノキシ)エタノール、(2,6−ジブチルフェノキシ)エタノールなどのジアルキルフェノキシアルキルアルコール、(2−メトキシフェノキシ)エタノールなどのアルコキシフェノキシアルキルアルコール、(2−シクロヘキシルフェノキシ)エタノールなどのシクロアルキルフェノキシアルキルアルコール、ビフェニリルオキシエタノールなどのアリールフェノキシアルキルアルコールなどが挙げられる。また、nが2以上の化合物としては、これらフェノキシアルキルアルコールに対応するポリオキシアルキレンフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中で特にメチルフェノールまたはフェノキシエタノールにおいて有効である。
【0018】
前記式(I)で表される化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、副反応抑制及び経済性の点から、通常、フルオレノン1モルに対して、3〜50モル、好ましくは4〜20モル、さらに好ましくは4〜10モルである。また、これらの化合物を反応溶媒として用いることもできる。
【0019】
本発明に用いられる酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、有機酸、イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸等が用いられる。これらの中でも特に塩酸、硫酸、イオン交換樹脂またはヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸以外の触媒を使用する場合は助触媒としてチオール類を併用することが好ましい。
【0020】
本発明に用いられる塩酸としては、5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%の塩化水素水溶液などを使用することができる。また、本発明に用いられる硫酸としては、希硫酸、濃度90%以上の濃硫酸、発煙硫酸などを使用することができる。
【0021】
本発明に用いられるイオン交換樹脂としてはスルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂やカルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂などが用いられ、その構造はミクロポアーを有するゲル型であってもよくミクロポアーの他に粒子内にマクロポアーを有するポーラス型であってもよい。これらのイオン交換樹脂の中でも、強酸性陽イオン交換樹脂、特にはポーラス型強酸性イオン交換樹脂が好ましい。
例えば、ダイヤイオン(三菱化学社製)、アンバーリスト(オルガノ社製)、レバチット(ランクセス社製)、ダウエックス(ダウケミカル社製)、デュオライト(住友化学社製)、ナフィオン(デュポン社製)などの市販のイオン交換樹脂を使用することができる。
【0022】
本発明に用いられるヘテロポリ酸とは、一般的には異なる2種以上の酸化物複合体からなる複合酸化物酸、およびこれらのプロトンの一部もしくはすべてを他のカチオンで置き換えたものである。ヘテロポリ酸は、例えば、リン、ヒ素、スズ、ケイ素、チタン、ジルコニウムなどの元素の酸素酸イオン(例えば、リン酸、ケイ酸)とモリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの元素の酸素酸イオン(例えば、バナジン酸、モリブデン酸、タングステン酸)とで構成されており、その組み合わせにより種々のヘテロポリ酸が可能である。具体的には、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンバナドモリブデン酸などが例示される。ヘテロポリ酸は無水物であってもよく、結晶水含有物であってもよい。また、ヘテロポリ酸は活性炭、アルミナ、シリカ−アルミナ、ケイソウ土などの担体に担持した形態で用いてもよい。これらのヘテロポリ酸は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明において必要に応じて助触媒として用いられるチオール類としては、例えば、チオ酢酸、β―メルカプトプロピオン酸、α―メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプルピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、ベンジルメルカプタンなどのアラルキルメルカプタンが挙げられる。チオール類は単独または2種類以上の組み合わせで使用することもできる。
【0024】
本発明に用いられるフルオレノンは特に限定されるものではないが、高純度で着色が少なく、更には溶媒溶解時の透過率が高いフルオレノンをもちいることにより反応および精製が容易でフルオレン誘導体を効率よく製造することができ、好ましい。
【0025】
本発明においてフルオレノンと前記式(I)で表される化合物との反応を実施する方法は、特に限定されるものではないが、通常、フルオレノンとフェノール類またはアルコキシフェノール類と酸触媒を反応装置に仕込み、空気中又は窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、トルエン、キシレンなどの不活性溶媒存在下又は非存在下で加熱攪拌することにより行うことができる。反応温度、酸触媒量は使用する酸触媒の種類により種々の条件が選択できる。
【0026】
式(II)で表されるフルオレン誘導体の具体例としては9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−ジアルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−シクロアルキルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アリールフェニル)フルオレンなどが挙げられる。本発明は、これらのフルオレン誘導体の中でも9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ−アルキルフェニル)フルオレンの製造において有効であり、特に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレンの製造において有効である。
【0027】
反応後、得られた反応液にアルカリを添加した後、添加したアルカリおよびその反応物を除去することなく、そのまま、反応液中から未反応のフェノール類またはフェノキシアルコール類の全部または一部を濃縮する。
【0028】
本発明に用いられるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニアなどが挙げられ、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリは固体のまま添加しても良いが、通常水溶液として添加する。アルカリの使用量は触媒の効果を失活させる量以上であれば特に限定されるものではないが、通常、触媒1当量に対し0.9〜2.0当量好ましくは1.0〜1.5当量である。アルカリ量が多いと製品中にアルカリが残存し着色の原因となる場合がある。アルカリ量が少ないと濃縮中に副生成物が生成し純度および収率が低下する場合がある。
【0029】
アルカリを添加することなく反応液中から未反応のフェノール類またはフェノキシアルコール類を濃縮した場合、残存する触媒の影響により副生成物の生成が促進され、純度低下、色相悪化および収率低下の原因となるが、前述のアルカリを添加することにより、製品の純度や収率を低下させることなく、濃縮により過剰のフェノール類またはフェノキシアルコール類を留去し回収することができる。回収されたフェノール類またはフェノキシアルコール類はそのまま原料として再使用できる。
【0030】
未反応のフェノール類またはフェノキシアルコール類の濃縮条件は特に限定されるものではないが、通常、減圧下、170℃以下、好ましくは30〜160℃、更に好ましくは50〜160℃の温度で実施される。濃縮温度が高いとフルオレノン誘導体が分解され、収率低下の原因となる場合がある。また、未反応のフェノール類またはフェノキシアルコール類はできるだけ多くの量を留去することが好ましいが、フェノール類またはフェノキシアルコール類の留去により濃縮残分に結晶が析出する場合はその一部を残したまま次の操作を施すこともできる。
【0031】
濃縮後、濃縮残分に水と、水と分液可能な有機溶剤とからなる抽剤を加えて、フルオレン誘導体を有機相に分配させて回収する。得られた有機相は、そのままフルオレノン誘導体の結晶を析出させてもよいが、通常、水洗、脱水等の操作を施した後に冷却晶析によりフルオレン誘導体の結晶を析出させる。析出した結晶は濾過等により回収される。得られた結晶は晶析に用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。
【0032】
精製に用いられる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジ-iso-プロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジフェニルエーテルなどの脂肪族エーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒などが挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒であり、更に好ましくは芳香族炭化水素溶媒、特にトルエンまたはキシレンである。その使用量は、特に限定されるものではないが、経済性の点から、通常、フルオレノンに対して、0.5重量倍以上、好ましくは1〜100重量倍、更に好ましくは1〜20重量倍である。
【0033】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例中、フルオレノン残存量およびフルオレン誘導体の純度は逆相カラム(5μm、4.6mmφ×150mm)を使用した液体クロマトグラフィー(島津製作所(株)製LC−2010C)を用い、254nmの波長で測定した面積百分率値である。また、排水中のフェノー分はJIS K0102 28.1に準拠し4−アミノアンチピリン(AP)法により測定した値である。
【実施例1】
【0034】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えた500mlのガラス製反応器に、フルオレノン40.0g、2−フェノキシエタノール306.7g、トルエン160gおよびリンタングステン酸1.0gを仕込み、トルエン還流下8時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。得られた反応混合液に29%水酸化ナトリウム水溶液1.0gを加えた後、減圧濃縮によりトルエンおよび2−フェノキシエタノール240.0gを留去した。得られた濃縮液にトルエン280g、水60gを加え80℃で攪拌後、水相を分液除去し目的物を有機相に分配回収した。分液排水を分析した結果、全有機炭素(以下TOCと称す)=850mg/L、化学的炭素要求量(以下CODと称す)=2500mg/L、生物学的酸素要求量(以下BODと称す)=200mg/L、フェノール分=0.1mg/L以下であった。
得られた有機相を水60gで2回洗浄した後、この有機相を20℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン76.8g(収率78.8%、LC純度98.2%)を得た。得られた9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はAPHAで100であった。製造に使用した全トルエン量は9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン1重量部に対して5.7重量部であった。
【実施例2】
【0035】
実施例1と同様に反応を行った後、得られた反応混合液に、29%水酸化ナトリウム水溶液1.0gに変えて50%水酸化カリウム水溶液0.9gを加えた以外は実施例1と同様な操作を施すことにより9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン76.5g(収率78.5%、LC純度98.5%)を得た。得られた9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はAPHAで100であった。また、分液排水の分析結果はTOC=920mg/L、COD=3100mg/L、BOD=250mg/L、フェノール分=0.1mg/L以下であった。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同様に反応を行った後、得られた反応混合液に、トルエン280g、水80gおよび29%苛性ソーダ水1.4gを加え80℃で攪拌中和後、水相を分液除去した。分液排水を分析した結果、TOC=11000mg/L、COD=32000mg/L、BOD=2300mg/L、フェノール分=830mg/Lであった。
更に有機相を水80gで2回洗浄した後、この有機相から減圧濃縮によりトルエンおよび2−フェノキシエタノール220.0gを留去した。得られた濃縮液にトルエン280gを加え、20℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン73.0g(収率75.0%、LC純度97.7%)を得た。得られた9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はAPHAで160であった。製造に使用した全トルエン量は9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン1重量部に対して9.9重量部であった。
【0037】
(比較例2)
実施例1と同様に反応を行った後、得られた反応混合液に、アルカリを添加することなく、減圧濃縮によりトルエンおよび2−フェノキシエタノールを回収した。得られた濃縮液に実施例1と同様の操作を施すことにより9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン71.6g(収率73.5%、LC純度95.3%)を得た。得られた9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はAPHAで200以上であり、溶液に濁りが生じた。
【実施例3】
【0038】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えた500mlのガラス製反応器に、フルオレノン23g、ドデシルメルカプタン1.3g、2−メチルフェノール161.0gを仕込み、35%塩酸13.0gを滴下した後、50℃で2時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。得られた反応混合液に29%水酸化ナトリウム水溶液18.5gを加えて後、減圧濃縮により有機層から2−メチルフェノール94.0gを留去した。得られた濃縮液にトルエン161g、水23gを加え80℃で攪拌後、水相を分液除去し目的物を有機相に分配回収した。更に有機相を水23gで2回洗浄した。この有機相を10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン37.9g(収率84.3%、LC純度99.3%)を得た。得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はガードナーで1であった。製造に使用した全トルエン量は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン1重量部に対して4.2重量部であった。
【実施例4】
【0039】
攪拌器、冷却器、および温度計を備えた500mlのガラス製反応器に、フルオレノン23.0g、ドデシルメルカプタン0.4g、2−メチルフェノール276.0gおよびナフィオンNR50(デュポン社製パーフルオロスルホン酸系陽イオン交換樹脂)17.5gを仕込み、95℃で8時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。ろ過によりイオン交換樹脂を除いて得られた反応混合液に29%水酸化ナトリウム水溶液0.5gを加えた後、減圧濃縮により有機層から2−メチルフェノール95.0gを留去した。得られた濃縮液にトルエン161g、水23gを加え80℃で攪拌後、水相を分液除去し目的物を有機相に分配回収した。更に有機相を水23gで2回洗浄した。この有機相を10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン38.5g(収率85.7%、LC純度99.5%)を得た。得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はガードナーで2であった。製造に使用した全トルエン量は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン1重量部に対して4.2重量部であった。
【0040】
(比較例2)
実施例3と同様に反応を行った後、得られた反応混合液に、トルエン135g、水23gおよび29%水酸化ナトリウム水溶液17.9gを加え、80℃で攪拌中和後、水相を分液除去した。さらに有機相を水23gで2回洗浄した。この有機相から減圧濃縮によりトルエンおよび2−メチルフェノール91.5gを留去した後、濃縮液にトルエン161gを加え、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン37.0g(収率82.5%、LC純度98.7%)を得た。得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はガードナーで4であった。製造に使用した全トルエン量は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン1重量部に対して8重量部であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒存在下、フルオレノンと式(I)
【化1】

(式中、Rはアルキレン基、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。nは0又は1以上の整数を示し、mは0又は1〜4の整数を示す。但しmが0のときnは1以上の整数である。)
で表される化合物とを反応させて、式(II)
【化2】

(式中、Rはアルキレン基、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。nは0又は1以上の整数を示し、mは0又は1〜4の整数を示す。但しmが0のときnは1以上の整数である。)
で表されるフルオレン誘導体を製造する方法において、反応終了後、フルオレン誘導体を含む反応混合液にアルカリを添加した後、添加したアルカリおよびアルカリの反応物を除去することなく、濃縮により未反応の式(I)で表される化合物を分離する事を特徴とするフルオレン誘導体の製造法。
【請求項2】
式(I)において、Rが炭素数1〜4のアルキル基、Rが炭素数2〜6のアルキレン基、nが0〜5の整数である請求項1に記載のフルオレン誘導体の製造法。
【請求項3】
式(I)で表される化合物がメチルフェノールまたは2−フェノキシエタノールである請求項1〜2に記載のフルオレン誘導体の製造法。
【請求項4】
濃縮残分に、水及び水と分液可能な有機溶媒とからなる抽剤を加えてフルオレン誘導体を有機相に分配し回収することを特徴とする請求項1〜3に記載のフルオレン誘導体の製造法。

【公開番号】特開2011−26257(P2011−26257A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174808(P2009−174808)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】