説明

フルオレン誘導体を用いた分子膜

【課題】フルオレン骨格を有する化合物により形成され、EUV(極端紫外光)用レジスト材料などとして有用な自己組織化分子膜を提供する。
【解決手段】フルオレン骨格を有する特定の化合物(例えば、9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類、および9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類から選択された化合物)含む20〜60重量%の割合で含む溶液を、基板に塗布する。このような特定の化合物を使用することにより、フルオレン骨格を有する新規な自己組織化分子膜を基板に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン誘導体により形成された分子膜(特に、自己組織化分子膜)、その製造方法および前記分子膜を得るための溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
自己組織化により形成された単分子膜は、ある特定の化合物が、固体表面に規則的に配向して形成された構造を有しており、このような単分子膜を形成できる自己組織化法は、固体表面に、触媒機能、生体機能などを付与するための方法の一つとして注目されている。
【0003】
自己組織化法は近年見出された技術であり、従来、固体の種類に応じて自己組織化可能な化合物を模索しているのが現状である。このような中、金属表面に自己組織化可能な化合物としては、例えば、チオール基などの官能基を有する特定の化合物が知られており、特開2004−315461号公報(特許文献1)には、金属基板上に物質の自己組織化単分子膜を形成する方法であって、アダマンタン構造を有する化合物(例えば、ビス(トリシクロ[3.3.1.1]デシルメチル)ジスルフィド)を含む溶液に、金属基板を浸漬して、該アダマンタン構造を有する化合物からなる自己組織化単分子膜を該金属基板表面に形成することを特徴とする方法が開示されている。この文献には、かご形分子としてアダマンタンという剛直な分子を単分子膜を構成する分子構造として選択することにより、金属基板上で、剛直なアダマンタン表面膜構造を有する自己組織化単分子膜が、従来では全く不可能であった分子レベルの精密構造制御を可能とする新しい自己組織化単分子膜を作製できると記載されている。
【0004】
また、特開2005−53116号公報(特許文献2)には、金属表面に、一般式HS−(CH−COOH(式中、nは3〜30の整数である。)で表わされるメルカプトカルボン酸(例えば、メルカプトヘキサデカン酸など)の分子膜を有し、その上に、一層目と二層目の結合のためのCuイオン、さらにその上に、一般式HS−R(式中、Rは炭素数5〜30のアルキル基を表す。)で表されるアルキルチオール(オクタデカンチオールなど)が結合した分子膜を有する自己組織化分子膜で被覆された金属が開示されている。この文献には、金属を上記二層の分子膜を被覆することにより、摩擦係数を、アルカンチオールの自己組織化単分子膜より低い0.15という値を達成することができたと記載されている。
【0005】
以上のように、自己組織化法を適用できる化合物として、さらなる優れた特性や異質の特性を有する化合物が求められている。
【特許文献1】特開2004−315461号公報(特許請求の範囲、段落番号[0045])
【特許文献2】特開2005−53116号公報(特許請求の範囲、段落番号[0005])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格を有する特定の化合物により形成される(特に、自己組織化により形成される)新規な分子膜(単分子膜など)、その製造方法および前記分子膜を形成するための溶液を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高屈折率、高耐熱性などの優れた特性を有する分子膜、その製造方法および前記分子膜を形成するための溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格を有する化合物の中でも、特定のフルオレン骨格を有する化合物が自己組織化により分子膜を形成可能であること、このような分子膜は、フルオレン骨格を有しているためか、高屈折率、高耐熱性、高撥水性などの優れた特性を有していること、さらにはこのような分子膜はEUV(極端紫外光)用レジスト材料などとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の分子膜は、下記式(1)で表される化合物により形成された分子膜である。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Xは直接結合、アルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yはヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数を示し、k、m又はnがそれぞれ、2以上であるとき、R、R又はYは、それぞれ、同一の又は異なる基であってもよい。ただし、Xが直接結合であり、Yがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上である。)
前記分子膜は、特に、式(1)で表される化合物の自己組織化により形成された分子膜であってもよい。
【0012】
前記式(1)において、代表的には、Xが直接結合又はメチレン基であり、Yがヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基又はアミノ基であり、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、RがC1−4アルキル基であり、kが0又は1であり、RがC1−4アルキル基又はC1−4アルコキシ基であり、mが0又は1であり、nが1〜3であってもよい。
【0013】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、例えば、9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシアリールアルキル)フルオレン類、9,9−ビス(メルカプトアリールアルキル)フルオレン類、9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類、および9,9−ビス(アミノアリールアルキル)フルオレン類から選択された化合物などが含まれる。より代表的な前記式(1)で表される化合物には、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−C1−4アルキルフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレンから選択された化合物などが含まれる。
【0014】
前記分子膜では、通常、分子膜全体の95重量%以上が式(1)で表される化合物で形成されていてもよく、前記式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物(単一の又は1種の構造を有する化合物)の割合が90重量%以上であってもよい。
【0015】
本発明の分子膜は、例えば、前記式(1)で表される化合物を含む溶液を、基板に塗布することにより製造できる。このような製造方法において、前記溶液中の式(1)で表される化合物の割合は、例えば、20〜60重量%程度であってもよい。
また、前記製造方法において、前記溶液中における式(1)で表される化合物の割合は、固形分全体に対して95重量%以上であり、かつ溶液中の前記式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物の割合は、90重量%以上であってもよい。
【0016】
本発明には、基板に分子膜を形成するための塗布液であって、下記式(1)で表される化合物を含む溶液(例えば、20〜60重量%の割合で含む溶液)も含まれる。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Xは直接結合、アルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yはヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数を示し、k、m又はnがそれぞれ、2以上であるとき、R、R又はYは、それぞれ、同一の又は異なる基であってもよい。ただし、Xが直接結合であり、Yがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上である。)
なお、本明細書において、化合物名などの「類」とは、「置換基を有さない」場合と「置換基を有する」場合とを含み、「置換基を有していてもよい」ことを意味する場合がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、フルオレン骨格を有する特定の化合物により(特に特定の化合物の自己組織化により)新規な分子膜(単分子膜)を形成できる。このような本発明の分子膜は、フルオレン骨格を有しているため、高屈折率、高耐熱性などの優れた特性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[式(1)で表される化合物]
本発明の分子膜(単分子膜)は、下記式(1)で表される化合物により形成されている。
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、Xは直接結合、アルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yはヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、RおよびRは同一又は異なる置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数を示し、k、m又はnがそれぞれ、2以上であるとき、R、R又はYは、それぞれ、同一の又は異なる基であってもよい。ただし、Xが直接結合であり、Yがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上である。)
上記式(1)のXにおいて、アルキリデン基としては、例えば、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、プロパン−2,2−ジイル基などのC1−10アルキリデン基、好ましくはC1−6アルキリデン基、さらに好ましくはC1−4アルキリデン基などが挙げられる。また、Xにおいて、アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2−10アルキレン基、好ましくはC2−6アルキレン基、さらに好ましくはC2−4アルキレン基などが挙げられる。好ましいXは、直接結合、C1−4アルキリデン基(特にメチレン基)である。なお、フルオレン(又はフルオレン骨格)の9位と環Zとを連結する2つの基Xは、同一であってもよく、異なっていてもよい。通常、2つのXは同一である場合が多い。
【0023】
前記式(1)において、Yは、前記のように、ヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基である。なお、Xが直接結合であるとき、Yは、カルボキシル基以外の基(ヒドロキシル基など)である場合が多い。
【0024】
環Zに置換する基Yの数nは、1以上であり、例えば、1〜8(例えば、1〜6)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3、特に1〜2であってもよい。なお、2つのnは、同一又は異なる数であってもよく、通常同一であってもよい。また、1つの環Zに対して、nが2以上であるとき、Yは同一又は異なる基であってもよい。さらに、異なる環Z(又は2つの環Z)において、Yは同一又は異なる基であってもよく、通常Yは同一であってもよい。
【0025】
なお、前記式(1)において、Xが直接結合であり、1つの環Zに置換するYがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上(例えば、2〜6、好ましくは2〜4、さらに好ましくは2〜3)である。すなわち、前記式(1)は、Xが直接結合であり、nが1であり、Yがヒドロキシル基である化合物を含まない。例えば、Xが直接結合であり、環Zに置換するYがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上(例えば、複数のYがヒドロキシル基の場合、Yの1つがヒドロキシル基であり、かつYの1つがヒドロキシル基以外の基(アミノ基など)である場合など)である。
【0026】
前記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0027】
好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環(特にベンゼン環)が含まれる。なお、環Zが、縮合多環式芳香族炭化水素環である場合、X又はフルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されず、例えば、X又はフルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0028】
また、基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0029】
前記式(1)において、基Rで表される置換基しては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−20アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基(置換ヒドロキシル基);アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基(置換メルカプト基);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)などのエステル基(置換カルボキシル基);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0030】
これらのうち、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基であるのが好ましく、特に、好ましい置換基Rは、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などである。
【0031】
なお、同一の環Zにおいて、mが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数mは、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。なお、2つの環Zにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0032】
また、環Zにおいて、mとnとの合計(m+n)は、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3であってもよい。
【0033】
前記式(1)において、好ましい組み合わせとしては、Xが直接結合又はメチレン基であり、Yがヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基、又はアミノ基であり、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、RがC1−4アルキル基であり、kが0又は1であり、RがC1−4アルキル基又はC1−4アルコキシ基であり、mが0又は1であり、nが1〜3である組み合わせなどが含まれる。
【0034】
代表的な前記式(1)で表される化合物としては、9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシアリールアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシベンジル)フルオレン類]、9,9−ビス(メルカプトアリールアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−メルカプトベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトベンジル)フルオレン類など]、9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン類など]、および9,9−ビス(アミノアリールアルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−アミノベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(アミノベンジル)フルオレン類など]などが含まれる。
【0035】
(i)9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類
9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類としては、9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(トリヒドロキシアリール)フルオレン類などが含まれる。
【0036】
9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン)、9,9−ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ジヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−8アリール−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アルコキシ−ジヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メトキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルコキシ−ジヒドロキシフェニル)フルオレン]など}などの9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス(ジヒドロキシナフチル)フルオレン類(例えば、前記9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物など)などが含まれる。
【0037】
9,9−ビス(トリヒドロキシアリール)フルオレン類としては、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4,5−トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などの9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス(トリヒドロキシナフチル)フルオレン類(例えば、前記9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物など)などが含まれる。
【0038】
(ii)9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類
9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類(特に、9,9−ビス(ヒドロキシ−モノメチロールアリール)フルオレン類)としては、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロールフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−アルキルフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−4−メチロール−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−C6−8アリールフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ポリヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−2−メチロールフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチロールフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−6−メチロールフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレンなど]などの9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン類;9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールナフチル)フルオレン類(例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシ−1−メチロール−ナフチル)]フルオレン、9−ビス[6−(2−ヒドロキシ−3−メチロール−ナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシ−6−メチロールナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシ−8−メチロールナフチル)]フルオレンなどの前記9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物など)などが挙げられる。
【0039】
(iii)9,9−ビス(ヒドロキシアリールアルキル)フルオレン類
9,9−ビス(ヒドロキシアリールアルキル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシベンジル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシベンジル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−アルキルベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−C1−4アルキルベンジル)フルオレンなど]など}、9,9−ビス(ヒドロキシナフチルメチル)フルオレン類{これらの9,9−ビス(ヒドロキシベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)メチル]フルオレン、9,9−ビス[2−(6−ヒドロキシナフチル)メチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチルメチル)フルオレン}、9,9−ビス(ヒドロキシフェネチル)フルオレン類{前記9,9−ビス(ヒドロキシベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェネチル)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシフェネチル)フルオレンなど]など}などの9,9−ビス(ヒドロキシアリールC1−4アルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリールC1−4アルキル)フルオレン類など]などが挙げられる。
【0040】
(iv)9,9−ビス(メルカプトアリールアルキル)フルオレン類
9,9−ビス(メルカプトアリールアルキル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(メルカプトベンジル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(メルカプトベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−メルカプトベンジル)フルオレンなど]、9,9−ビス(メルカプト−アルキルベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−メルカプト−3−メチルベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプト−C1−4アルキルベンジル)フルオレンなど]など}9,9−ビス(メルカプトナフチルメチル)フルオレン類{これらの9,9−ビス(メルカプトベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス[1−(5−メルカプトナフチル)メチル]フルオレン、9,9−ビス[2−(6−メルカプトナフチル)メチル]フルオレンなどの9,9−ビス(メルカプトナフチルメチル)フルオレン}、9,9−ビス(メルカプトフェネチル)フルオレン類{前記9,9−ビス(メルカプトベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(メルカプトフェネチル)フルオレン[9,9−ビス(4−メルカプトフェネチル)フルオレンなど]など}などの9,9−ビス(メルカプトアリールC1−4アルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(メルカプトC6−10アリールC1−4アルキル)フルオレン類などなどが挙げられる。
【0041】
(v)9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類
9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−カルボキシベンジル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシ−アルキルベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−カルボキシ−3−メチルベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシ−C1−4アルキルベンジル)フルオレンなど]など}、9,9−ビス(カルボキシナフチルメチル)フルオレン類{これらの9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス[1−(5−カルボキシナフチル)メチル]フルオレン、9,9−ビス[2−(6−カルボキシナフチル)メチル]フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシナフチルメチル)フルオレン}、9,9−ビス(カルボキシフェネチル)フルオレン類{前記9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(カルボキシフェネチル)フルオレン[9,9−ビス(4−カルボキシフェネチル)フルオレンなど]など}などの9,9−ビス(カルボキシアリールC1−4アルキル)フルオレン類[例えば、9−ビス(カルボキシC6−10アリールC1−4アルキル)フルオレン類など]などが挙げられる。
【0042】
(vi)9,9−ビス(アミノアリールアルキル)フルオレン類
9,9−ビス(アミノアリールアルキル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(アミノベンジル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(アミノベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−アミノベンジル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アミノ−アルキルベンジル)フルオレン[9,9−ビス(4−アミノ−3−メチルベンジル)フルオレンなどの9,9−ビス(アミノ−C1−4アルキルベンジル)フルオレンなど]など}9,9−ビス(アミノナフチルメチル)フルオレン類{これらの9,9−ビス(アミノベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス[1−(5−アミノナフチル)メチル]フルオレン、9,9−ビス[2−(6−アミノナフチル)メチル]フルオレンなどの9,9−ビス(アミノナフチルメチル)フルオレン}、9,9−ビス(アミノフェネチル)フルオレン類{前記9,9−ビス(アミノベンジル)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(アミノフェネチル)フルオレン[9,9−ビス(4−アミノフェネチル)フルオレンなど]など}などの9,9−ビス(アミノアリールC1−4アルキル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(アミノC6−10アリールC1−4アルキル)フルオレン類など]などが挙げられる。
【0043】
式(1)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、合成したものを用いてもよい。合成方法としては、式(1)においてXが直接結合である化合物(A)の合成方法、式(1)においてXがアルキリデン基又はアルキレン基である化合物(B)の合成方法とに大別できる。
【0044】
好ましい前記式(1)で表される化合物としは、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−C1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレンなど]などが挙げられる。
【0045】
(化合物(A)の製造方法)
化合物(A)のうち、Yがヒドロキシル基である化合物は、種々の合成方法、例えば、(a)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(b)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(c)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(d)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させてビスフェノールフルオレンを製造する方法(特開2003−221352号公報)を利用して製造できる。例えば、前記9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類は、上記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、対応する多価アルコール類(ジヒドロキシフェノール類、トリヒドロキシフェノール類など)を使用することにより製造できる。
【0046】
また、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類は、例えば、塩基触媒の存在下、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類(9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類など)と、アルデヒド類とを反応させることにより製造できる。なお、9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、前記のような方法により製造でき、また、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類は、前記方法においてフェノール類に代えて対応するナフトール類を用いることにより製造できる。
【0047】
このような方法において、アルデヒド類としては、通常、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド類(又はホルムアルデヒド源)を好適に使用できる。アルデヒド類は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。アルデヒド類との反応(メチロール化反応)に使用する9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類の純度は、通常、95重量%以上、好ましくは99重量%以上であってもよい。
【0048】
前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類の反応(又はメチロール体の調製)において用いるアルデヒド類の割合は、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類1モルに対して、ホルミル基(HCO−)又はメチロール基換算で、例えば、0.1〜100モル、好ましくは0.5〜50モル、さらに好ましくは1〜30モル、特に1.5〜20モル程度であってもよい。特に、アルデヒド類の割合は、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のフェノール性水酸基1モルに対して、ホルミル基(HCO−)又はメチロール基換算で、例えば、0.3〜30モル(例えば、0.5〜20モル)、好ましくは0.7〜15モル(例えば、0.8〜10モル)、さらに好ましくは1モル以上(例えば、1.1〜8モル程度)であってもよく、通常1〜7モル(例えば、1.1〜5モル)程度であってもよい。
【0049】
このような方法において、塩基触媒(塩基性触媒)としては、特に限定されず、金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物など)、金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸(水素)塩など)、アンモニアなどの無機塩基;アミン類[例えば、第1〜3級アミン類(特に、第3級アミン、例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン)などのモノアミン類など]、カルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩など)などの有機塩基などが例示できる。塩基触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。塩基触媒の使用割合は、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類100重量部に対して、0.1〜50重量部(例えば、0.3〜20重量部)、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。
【0050】
なお、反応は、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、特に限定されず、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール、シクロヘキサノールなど)、ケトン類(アセトン、ジイソプロピルケトンなどのアルキルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノメチルエーテルなど)、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類(メチルセロソルブアセテートなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、ニトリル類、セロソルブ類、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)など]などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0051】
溶媒の使用量は、特に限定されず、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類1重量部に対して、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0052】
(化合物(B)の製造方法)
化合物(B)は、例えば、塩基触媒の存在下、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させることにより製造できる。このような方法では、式(2)で表される化合物(フルオレン類)と塩基触媒とを反応させることにより、フルオレンアニオンが生成し、この生成したフルオレンアニオンを求核剤として、式(3)で表される化合物と求核置換反応させることによって、式(1)で表される化合物(Xがアルキリデン基又はアルキレン基である化合物)が得られる。
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、Rはハロゲン原子を示し、Xはアルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yは、Y又はYを生成可能な基を示し、Z、R、R、k、m、nは前記と同じ。)
上記方法において、上記式(2)で表される化合物としては、フルオレン類(例えば、フルオレン)などが挙げられる。なお、式(2)で表される化合物(フルオレン類)の純度は、通常、95重量%以上、好ましくは99重量%以上であってもよい。
【0055】
前記式(3)で表される化合物は、前記式(3)においてYがYである化合物に代えて、Yを生成可能な化合物を使用してもよい。前記式(3)のYにおいて、Yを生成可能な基としては、(A)Yが保護基(脱離可能な保護基)により保護された基、(B)置換反応によりYを生成可能な基[例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)など]などが挙げられる。
【0056】
前記(A)では、式(2)で表される化合物との反応後、脱保護することにより目的化合物を得ることができる。例えば、Yがヒドロキシル基やメルカプト基である場合、Yがアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基など)などの保護基により保護された化合物を用いてもよく、Yがカルボキシル基である場合、Yがアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基などのC1−4アルキル基など)などの保護基により保護された化合物を用いてもよい。なお、脱保護は、酸や塩基などを用いた慣用の方法により行うことができる。
【0057】
また、前記(B)では、式(2)で表される化合物との反応前、又は式(2)で表される化合物との反応後の適当な段階で、公知の反応を利用して、Yの種類に応じてYを生成可能な基YをYに置換(例えば、水酸化物を用いたヒドロキシル基への置換、アミド化合物(カリウムアミドなど)を用いたアミノ基への置換など)することにより目的化合物を得ることができる。
【0058】
代表的な前記式(3)で表される化合物としては、例えば、ヒドロキシベンジルハライド類(例えば、4−クロロメチルフェノール、4−ブロモメチルフェノールなどのヒドロキシベンジルハライドなど)、メルカプトベンジルハライド類(例えば、4−クロロメチルチオフェノール、4−ブロモメチルチオフェノールなどのメルカプトベンジルハライドなど)、カルボキシベンジルハライド類(例えば、4−カルボキシベンジルクロライド、4−カルボキシベンジルブロマイドなどのカルボキシベンジルハライド)、アミノベンジルハライド類(例えば、4−クロロメチルアニリン、4−クロロブロモアニリンなどのアミノベンジルハライド)などのベンジルハライド類;これらのベンジルハライド類に対応し、前記式のY(ヒドロキシル基、カルボキシル基など)が保護基により保護された化合物(アルキルエーテル、アルキルエステルなど);これらのベンジルハライド類に対応し、Y(ヒドロキシル基、カルボキシル基など)を生成可能な化合物(例えば、4−クロロベンジルクロライド、4−ブロモベンジルブロマイドなどのハロベンジルハライドなど);これらの化合物に対応し、ベンジル基がナフチルメチル基である化合物;前記化合物(ベンジルハライド類)に対応し、ベンジル基がフェネチル基である化合物などのアリールアルキルハライド類(C6−10アリールメチルハライド類などのC6−10アリールC1−4アルキルハライド類など)などが挙げられる。なお、ベンジルハライド類は、特開2003−238458号公報に記載の方法などにより合成することもできる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0059】
反応において、前記式(2)で表される化合物と、前記式(3)で表される化合物との割合は、前者/後者(モル比)=1/10〜1/0.8、好ましくは1/8〜1/1、さらに好ましくは1/5〜1/1.5程度であってもよい。
【0060】
前記反応において、塩基触媒としては、フルオレンアニオン(前記式(2)で表される化合物のアニオン)を生成可能であれば特に限定されず、慣用の無機塩基や有機塩基を使用できる。無機塩基としては、金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物など)などが挙げられる。有機塩基としては、金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド)、第4アンモニウム水酸化物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなど)などが例示できる。塩基性触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0061】
塩基触媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物(フルオレン類)1モルに対して、1〜10当量(モル当量)、好ましくは1.2〜8当量、さらに好ましくは1.5〜5当量程度であってもよい。
【0062】
反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、前記塩基触媒に対して非反応性で、かつフルオレン類(および前記式(3)で表される化合物)を溶解可能であれば特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。代表的な溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類など)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アニソールなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
なお、反応系中(溶媒中)にプロトン性溶媒(水、アルコールなど)が存在すると、中間体であるフルオレンアニオンの活性が失われる場合があるため、予め脱水などによりプロトン性溶媒を除去した溶媒を反応に使用してもよい。
【0064】
溶媒の使用量は、少なくともフルオレン類が溶解すればよく、フルオレン類(前記式(2)で表される化合物)1重量部に対して、例えば、0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは2〜40重量部程度であってもよい。
【0065】
反応温度は、特に限定されないが、フルオレンアニオンの安定性の観点から、通常、−10℃〜120℃、好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは20〜70℃程度で行ってもよい。また、反応時間は、原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜36時間、さらに好ましくは2〜24時間程度であってもよい。
【0066】
また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応は、通常、各成分を混合することにより行われるが、混合は、段階的に行ってもよい。
【0067】
なお、生成した化合物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0068】
[分子膜およびその製造方法]
本発明の分子膜(単分子膜)は、前記のように、前記式(1)で表される化合物により形成されている。すなわち、前記式(1)で表される化合物は、低分子化合物であるにもかかわらず、膜(分子膜)を形成する。このような本発明の分子膜は、前記式(1)で表される化合物により形成されていれば、その膜形成の態様は限定されないが、特に、前記式(1)で表される化合物の自己組織化により形成された分子膜(前記式(1)で表される化合物の自己組織化分子膜)である。
【0069】
自己組織化により形成された分子膜(自己組織化分子膜)は、前記式(1)で表される化合物が分子レベルである秩序をもって二次元的に規則正しく配列又は配向して形成された単分子層で構成されている。なお、前記式(1)で表される化合物が、自己組織化する理由は定かではないが、配列しやすい剛直なフルオレン骨格と、隣接する基Y同士の相互作用(水素結合など)とが相まって、自己組織化するものと考えられる。そして、このような配列は、X線回折からも明らかになっている。
【0070】
前記自己組織化分子膜(自己組織化膜)は、この単分子層のみで構成されていてもよいが、通常、この単分子層と、この単分子層の規則的な配列を反映した形で上層に配列した複数の単分子層とで構成されている。このように、自己組織化分子膜は、無秩序に配列して形成された膜とはその構造において大きく異なる。
【0071】
なお、自己組織化分子膜の形成および形状は、原子間力顕微鏡、透過型電子顕微鏡などにより確認できる。また、自己組織化による配列は、X線回折やIRなどにより確認することもできる。
【0072】
前記分子膜は、前記式(1)で表される化合物で形成されている限り、他の化合物を含んでいてもよいが、通常、前記分子膜では、分子膜全体の30重量%以上(例えば、35〜100重量%)、好ましくは40重量%以上(例えば、45〜100重量%)、さらに好ましくは50重量%以上(例えば、55〜100重量%)が前記式(1)で表される化合物で形成されている。
【0073】
また、前記分子膜は、前記式(1)で表される化合物の単一化合物又は混合物で形成されていてもよいが、通常、その大部分が単一化合物(1種の化合物、単一の構造を有する化合物)で構成されている。例えば、前記分子膜において、前記式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物の割合は、例えば、85重量%以上(例えば、88〜100重量%)、好ましくは90重量%以上(例えば、92〜99.9重量%)、さらに好ましくは93重量%以上(例えば、94〜99.5重量%)、特に95重量%以上(例えば、96〜99重量%)であってもよい。なお、「単一化合物」には、位置異性体などの構造異性体も含まれる。
【0074】
本発明の分子膜の平均厚みは、例えば、0.1〜30μm、好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜10μm程度であってもよい。
【0075】
また、本発明の自己組織化分子膜は、分子が上層に亘って規則正しく配列して形成されているため、その表面は通常のポリマーなどにより形成される膜と同様に平坦である。例えば、前記分子膜において、分子膜表面の平均高低差は、分子サイズ(ナノサイズ)、例えば、3nm以下(例えば、0.1〜2.7nm程度)、好ましくは2.5nm以下(例えば、0.2〜2.2nm程度)、さらに好ましくは2nm以下(例えば、0.3〜1.5nm程度)であってもよい。
【0076】
本発明の分子膜(特に自己組織化分子膜)は、フルオレン骨格を有する特定の化合物(前記式(1)で表される化合物)で形成されているため、高耐熱性、高屈折率などの優れた特性を有している。例えば、前記分子膜の屈折率は、例えば、589nmにおいて、1.6〜1.8、好ましくは1.63〜1.78、さらに好ましくは1.65〜1.75、特に1.68〜1.73程度であってもよい。
【0077】
特に、前記式(1)で表される化合物のうち、Xがアルキリデン基又はアルキレン基(例えば、メチレン基)である化合物は、従来のフルオレン骨格を有する化合物(ビスフェノールフルオレンなど)に比べて、柔軟性の向上、溶融粘度の低減、炭素密度の向上などを実現できる。そのため、分子膜においても、これらの特性のさらなる向上や改善効果が期待できる。例えば、炭素密度の向上により、エッチング耐性の向上などを実現できる。
【0078】
また、前記分子膜において、前記式(1)で表される化合物のYの種類やその数、さらには置換基Rの種類などを適宜選択することにより、分子膜に高撥水性を付与したり、親水性を付与することもできる。
【0079】
本発明の分子膜は、通常、前記式(1)で表される化合物を含む溶液を、基板に塗布することにより製造できる。
【0080】
前記溶液を構成する溶媒としては、前記式(1)で表される化合物を溶解可能であれば特に限定されず、例えば、炭化水素類(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノールなどのアルカノール類など)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、ケトン類(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのアルカノン類、シクロヘキサノンなど)、グリコールエーテル類(例えば、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
前記溶液において、溶液中の前記式(1)で表される化合物の割合は、例えば、10〜80重量%(例えば、15〜70重量%)、好ましくは20〜60重量%(例えば、25〜55重量%)、さらに好ましくは30〜50重量%(例えば、35〜45重量%)程度であってもよい。上記のような濃度で溶液を調製すると、自己組織化膜を効率よく形成できる。そのため、本発明には、基板に分子膜を形成するための塗布液(自己組織化により形成された膜を形成するための溶液)として、上記のような溶液も含まれる。
【0082】
また、前記のように、自己組織化膜は、その大部分が前記式(1)で表される化合物で形成されている。そのため、前記溶液中における前記式(1)で表される化合物の割合は、固形分全体に対して、例えば、30重量%以上(例えば、35〜100重量%)、好ましくは40重量%以上(例えば、45〜99重量%)、さらに好ましくは50重量%以上(例えば、55〜98重量%)であってもよい。
【0083】
さらに、前記のように、自己組織化膜を効率よく形成するためには、前記式(1)で表される化合物の単一化合物を多く含む溶液を用いるのが好ましい。そのため、前記溶液中の前記式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物の割合は、例えば、85重量%以上(例えば、88〜100重量%)、好ましくは90重量%以上(例えば、92〜99.9重量%)、さらに好ましくは93重量%以上(例えば、94〜99.5重量%)、特に95重量%以上(例えば、96〜99重量%)であってもよい。
【0084】
上記のような観点から、溶液の調製に用いる前記式(1)で表される化合物の純度(又は単一化合物の濃度)は、例えば、90重量%以上(例えば、93〜100重量%)、好ましくは95重量%以上(例えば、97〜99.99重量%)、さらに好ましくは99重量%以上(例えば、99〜99.9重量%)であってもよい。
【0085】
基板(基体)としては、例えば、金属(アルミニウムなど)、ガラス、セラミックス(アルミナ、銅ドープアルミナ、タングステンシリケートなど)、プラスチックなどから適当に選択でき、シリコンウェハーなどの半導体基板であってもよい。
【0086】
なお、基板は、表面処理されていてもよい。表面処理には、例えば、ケイ素含有化合物(シランカップリング剤、シラザン系化合物)などによる表面処理、アンカーコート剤又は下地剤(ポリビニルアセタール、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂など)又はこれらの下地剤と無機微粒子との混合物によるコーティング処理などが含まれる。
【0087】
基板の厚みは、例えば、0.01〜10mm、好ましくは0.05〜5mm、さらに好ましくは0.1〜3mm程度であってもよい。
【0088】
基板への前記溶液の塗布は、慣用のコーティング方法、例えば、スピンコーティング法、ディッピング法、キャスト法などにより行うことができる。塗布量は、例えば、分子膜の厚みに応じて適宜選択できる。
【0089】
塗布後の塗膜には、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては、塗膜の加熱(例えば、加熱温度40〜170℃、好ましくは60〜150℃程度)などにより行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の分子膜(自己組織化により形成された分子膜)は、フルオレン骨格を有する特定の化合物で形成されており、高耐熱性、高屈折率などを特性を有している。このような分子膜は、刺激応答材料、複合材料(ホストゲスト相互作用複合材料など)、レジスト材料、触媒材料(例えば、生体システム類似の触媒作用を示す材料)などに適用可能である。
【0091】
特に、このような分子膜は、分子レベルの配列により形成されているため、ナノテクノロジーの分野における適用が期待できる。例えば、本発明の分子膜は、フルオレン骨格を有しているとともに、分子レベルの規則的な配列により形成されているため、優れたRIE(反応性イオンエッチング)耐性とLER(ラインエッジラフネス)の低減とを実現でき、従来のレジスト材料では適用が困難であったEUV(極端紫外光)用レジスト材料として好適である。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0093】
(合成例1)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)454重量部と、p−ホルムアルデヒド86重量部と、溶媒としての水840重量部およびメタノール120重量部と、アルカリとしての水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)104重量部とを混合し、50℃にて攪拌しながら6時間反応させた。得られた反応物をH−NMRにより分析したところ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレン(下記式で表される化合物)であることを確認した。
【0094】
【化5】

【0095】
以下に、得られた反応物のH−NMRスペクトルデータを示す。
【0096】
H−NMR(CDCl,δ):2.0ppm[6H(CH)]、4.55ppm[4H(メチロール基のメチレン基の水素)]、4.95ppm[2H(メチロール基のヒドロキシル基の水素)]、6.6〜6.7ppm[2H(フルオレンの9位に置換したベンゼン環の2位の水素)]、6.8〜6.9ppm[2H(フルオレンの9位に置換したベンゼン環の6位の水素)]、7.1〜7.4ppm[6H(フルオレンの2〜4位および5〜7位の水素)]、7.7ppm[2H(フルオレンの1位および8位の水素)]、8.2ppm[2H(フェノール性ヒドロキシル基の水素)]。
【0097】
(合成例2)
300mLの三口フラスコに、フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)0.83g(5.00mmol)およびカリウムブトキシド(ナカライテスク製)1.68g(15.0mmol)を入れ、溶媒としてのジメチルスルホキシド(DMSO)(ナカライテスク製)35.0mLを混合し、50℃で10分撹拌した。撹拌しながら、4−カルボキシルベンジルブロミド(アルドリッチ製)2.58g(12.0mmol)を0.43gずつ6回に分割して10分おきに加えた。その後、50℃で19時間撹拌した。反応後、溶液を氷中に注いでクエンチし、得られた固体にジエチルエーテル(ナカライテスク製)15.0gを加え3回抽出した。硫酸ナトリウム(ナカライテスク製)8.00gで乾燥後、エバポレータにて溶媒を留去したところ、2.72gのサンプルが得られた。
【0098】
さらに得られたサンプルのH−NMRを測定した結果、目的とする9,9−ビス(4−カルボキシルベンジル)フルオレン(下記式)であることを確認した。
【0099】
【化6】

【0100】
以下に、得られた反応物のH−NMRスペクトルデータを示す。
【0101】
H−NMR(CDCl,δ):3.45ppm(s、4H)、6.70ppm(d、4H)、7.22(d、4H)、7.17−7.66(m、8H)
また、マススペクトルデータを測定した結果、分子量434にピークが認められたことから、目的物ができていることを確認した。
【0102】
(実施例1)
合成例1で得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレン(純度約90%)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解し、固形分濃度40重量%の溶液を得た。この溶液を、シリコンウェハーに、回転塗布機を用いて、回転速度1000rpmで20秒間塗布した後、ホットプレート上で110℃、2分間プリべークすると、膜が形成された。なお、乾燥後の膜を取り出してシリコンウェハーを逆さにしたところ、膜が剥離しないことを確認した。
【0103】
また、得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像を図1に示す。図1から、膜表面の凹凸が1nm程度の非常に平らな膜(自己組織化膜)を形成できたことがわかる。
【0104】
さらに、得られた膜のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を図2に示す。図2から、膜の所定の方向に分子が秩序よく配列していることがわかる。
【0105】
そして、得られた膜の水により接触角を測定したところ、68.7°であり、高い撥水性を示した。なお、接触角は、協和界面科学株式会社製「ドロップマスター500を」用いて2.0μlの水滴を垂らして測定した。
【0106】
(実施例2)
9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、純度99%以上)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解し、固形分濃度40重量%の溶液を得た。この溶液を、シリコンウェハーに、回転塗布機を用いて、回転速度1000rpmで20秒間塗布した後、ホットプレート上で110℃、2分間プリべークすると、膜が形成された。なお、乾燥後の膜を取り出してシリコンウェハーを逆さにしたところ、膜が剥離しないことを確認した。
【0107】
また、得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像を図3に示す。図3から、膜表面の凹凸が1nm程度の非常に平らな膜(自己組織化膜)を形成できたことがわかる。
【0108】
(実施例3)
合成例2で得られた9,9−ビス(4−カルボキシベンジル)フルオレン(純度約50%)をテトラヒドロフランに溶解し、固形分濃度40重量%の溶液を得た。この溶液を、シリコンウェハーに、回転塗布機を用いて、回転速度1000rpmで20秒間塗布した後、ホットプレート上で100℃、2分間プリべークすると、膜が形成された。なお、乾燥後の膜を取り出してシリコンウェハーを逆さにしたところ、膜が剥離しないことを確認した。
【0109】
また、得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像を図4に示す。図4から、膜表面の凹凸が1〜2nm程度の非常に平らな膜(自己組織化膜)を形成できたことがわかる。
【0110】
さらに、得られた膜の屈折率を測定したところ、1.71であり、高い屈折率を示すことがわかった。なお、屈折率は、フィルメトリックス社製、薄膜測定装置F20を用い、波長は589nmにおける屈折率を測定した。
【0111】
(比較例1)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレンに変えて、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、純度99.3%)を使用した以外は、実施例1と同様にして溶液を調製し、膜の形成を試みたが、自己組織化した膜は形成されなかった。
【0112】
(比較例2)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレンに変えて、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、純度98.5%)を使用した以外は、実施例1と同様にして溶液を調製し、膜の形成を試みたが、自己組織化した膜は形成されなかった。
【0113】
(比較例3)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレンに変えて、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、純度99.3%)を使用した以外は、実施例1と同様にして溶液を調製し、膜の形成を試みたが、自己組織化した膜は形成されなかった。
【0114】
(比較例4)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチロール−5−メチルフェニル)フルオレンに変えて、9,9−ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、純度99.3%)を使用した以外は、実施例1と同様にして溶液を調製し、膜の形成を試みたが、自己組織化した膜は形成されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は実施例1で得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像である。
【図2】図2は、実施例1で得られた膜のTEM(透過型電子顕微鏡)画像である。
【図3】図3は実施例2で得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像である。
【図4】図4は実施例3で得られた膜のDFM(ダイナミック フォース モードの略)でのAFM(原子間力顕微鏡)画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物により形成された分子膜。
【化1】

(式中、Xは直接結合、アルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yはヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数を示し、k、m又はnがそれぞれ、2以上であるとき、R、R又はYは、それぞれ、同一の又は異なる基であってもよい。ただし、Xが直接結合であり、Yがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上である。)
【請求項2】
式(1)で表される化合物の自己組織化により形成された分子膜である請求項1記載の分子膜。
【請求項3】
Xが直接結合又はメチレン基であり、Yがヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基又はアミノ基であり、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、RがC1−4アルキル基であり、kが0又は1であり、RがC1−4アルキル基又はC1−4アルコキシ基であり、mが0又は1であり、nが1〜3である請求項1又は2に記載の分子膜。
【請求項4】
式(1)で表される化合物が、9,9−ビス(ポリヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシアリールアルキル)フルオレン類、9,9−ビス(メルカプトアリールアルキル)フルオレン類、9,9−ビス(カルボキシアリールアルキル)フルオレン類、および9,9−ビス(アミノアリールアルキル)フルオレンから選択された化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の分子膜。
【請求項5】
式(1)で表される化合物が、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロールフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ−メチロール−C1−4アルキルフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(カルボキシベンジル)フルオレンから選択された化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の分子膜。
【請求項6】
分子膜全体の95重量%以上が式(1)で表される化合物で形成されており、かつ式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物の割合が90重量%以上である請求項1〜5のいずれかの記載の分子膜。
【請求項7】
式(1)で表される化合物を含む溶液を、基板に塗布することにより、請求項1記載の分子膜を製造する方法。
【請求項8】
溶液中の式(1)で表される化合物の割合が20〜60重量%である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
溶液中における式(1)で表される化合物の割合が、固形分全体に対して95重量%以上であり、かつ溶液中の前記式(1)で表される化合物全体に対する単一化合物の割合が、90重量%以上である請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
基板に分子膜を形成するための塗布液であって、下記式(1)で表される化合物を20〜60重量%の割合で含む溶液。
【化2】

(式中、Xは直接結合、アルキリデン基又はアルキレン基を示し、Yはヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、メルカプト基、メルカプトメチル基、カルボキシル基又はアミノ基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数を示し、k、m又はnがそれぞれ、2以上であるとき、R、R又はYは、それぞれ、同一の又は異なる基であってもよい。ただし、Xが直接結合であり、Yがヒドロキシル基を含むとき、nは2以上である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−96783(P2009−96783A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272332(P2007−272332)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】