説明

フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒

【課題】 アルコールの酸化により対応するカルボニル化合物を得る反応において、反応性の低いアルコール類に対しても高い活性を示し、高収率で対応するカルボニル化合物を与えることのできる触媒、及び該触媒を使用したカルボニル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 フルオロアパタイト表面にRuカチオンを固定化したフルオロアパタイト表面固定化金属触媒。フルオロアパタイト表面には、Ruカチオンに加えてさらに1又は2種以上の遷移金属カチオンが固定化されていることが好ましい。上記触媒を使用して、例えば、シクロヘキサノール等の反応性の低いアルコールを効率よく酸化し、高収率で対応するカルボニル化合物を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの酸化によりカルボニル化合物を得る反応に有用な触媒、及び該触媒を使用したカルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールからカルボニル化合物への変換は有機合成上もっとも重要な反応の一つであり、従来種々の触媒等が検討されている。例えば、Ru、Mg及びAlを骨格中に含む合成ハイドロタルサイト(特許文献1)や、Ru、Al及びCo、Mn、Fe、Znから選択される金属を基本骨格中に含む合成ハイドロタルサイト(特許文献2)をα,β−不飽和アルコールなど特定の構造を有するアルコール類の酸化触媒として使用する技術が知られている。又、より高活性の触媒としてハイドロタルサイト表面にRuなどの金属を固定化した酸化触媒(特許文献3)や、ヒドロキシアパタイトにパラジウムを固定化した酸化触媒(特許文献4)などが開示されており、種々のアルコールの酸化反応に使用されている。しかし、これらの触媒では十分満足できる活性は得られておらず、特に、反応性の低いアルコール(例えば、シクロヘキサノールなど)を簡易に酸化して高い収率で対応するカルボニル化合物を与えることのできる触媒が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開2000−70723号公報
【特許文献2】特開2000−86245号公報
【特許文献3】特開2002−274852号公報
【特許文献4】特開2002−275116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アルコールを酸化して対応するカルボニル化合物を製造する方法において、簡易かつ効率よくカルボニル化合物の製造を行うことができ、特に、従来、酸化反応により十分な高収率でカルボニル化合物を得るのが難しかった反応性の低いアルコール類に対しても、高い活性を示す触媒と、該触媒を用いたカルボニル化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フルオロアパタイト表面に、Ruカチオンを固定したフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒が、高い触媒活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、フルオロアパタイト表面にRuカチオンを固定化したフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を提供する。
【0007】
本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、Ruカチオンに加えて、さらに、1又は2種以上の遷移金属カチオンがフルオロアパタイト表面に固定化されていることが好ましい。
【0008】
本発明は又、フルオロアパタイト表面にRuカチオンを固定化したフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の存在下、アルコールを酸化して対応するカルボニル化合物を製造することを特徴とするカルボニル化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、簡易に製造することが出来、アルコールの酸化により対応するカルボニル化合物を得る反応に対して高い活性を示す。特に、反応性が低く、従来十分な収率で対応するカルボニル化合物を得ることが難しかったシクロヘキサノールなど脂環式アルコール類に対しても高い活性を示す。さらに、本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、容易に再利用可能であり、特に再生処理を必要とせずに、高い活性を保持したまま繰り返し再利用することができる。
【0010】
本発明の方法によれば、簡易な操作により効率よくアルコールの酸化を行い、対応するカルボニル化合物を高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒]
本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、フルオロアパタイトの表面に少なくともRuカチオンを含む、遷移金属カチオンが固定化された固体触媒である。上記フルオロアパタイトは、例えば、下記式(1)
Ca10-n(HPO4n(PO46-n(OH)2-n-mm・sH2O (1)
(式(1)中nは0又は1であり、mは1又は2であり、n+m=2を満たす。sは0〜3の数である)
で表される化合物であり、特に、下記式(2)
Ca10(PO462 (2)
で表される化合物である。
【0012】
フルオロアパタイトは例えば、水酸化カルシウムスラリーにフッ素化水素アンモニウムとリン酸水溶液を滴下し、得られたスラリーを回収、焼成することにより調製することができる。
あるいは、フッ化カルシウムと炭酸カルシウムとリン酸カルシウム又はリン酸水素カルシウム二水和物の粉末を純水中で混合撹拌し、スラリーを生成した後、該スラリーを乾燥、焼成することにより調製することができる。フッ化カルシウム:炭酸カルシウム:リン酸カルシウム又はリン酸水素カルシウム二水和物の混合比はモル比で1:3:6程度とすることができる。これらを純水中で撹拌する際の温度は50〜150℃程度であり、撹拌時間は5〜30時間程度である。得られたスラリーを乾燥し、焼成する温度はおよそ800℃程度であり、焼成時間は0.5〜3時間程度とすることができる。
【0013】
本発明において好適に使用できるフルオロアパタイトの市販の例としては、例えば、和光純薬株式会社製、商品名「アパタイトFAP、六方晶」が挙げられる。
【0014】
フルオロアパタイト表面に少なくとも1種の遷移金属カチオンを固定することにより、アルコール類の酸化反応に活性を示す触媒を調製できるが、十分な触媒活性を確保するためには、遷移金属カチオンとして少なくともRuカチオンを採用することが必要である。上記Ruカチオンには、Ru+、Ru2+、Ru3+、Ru4+、Ru5+、Ru6+、Ru7+、Ru8+などが含まれるが、本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒においてルテニウムカチオンは主としてRu3+、又はRu4+の酸化状態で存在すると考えられる。
【0015】
本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒において、上記Ruカチオンに加えて、さらにその他の1種又は2種以上の遷移金属カチオンがフルオロアパタイト表面に固定化されていることが好ましい。その他の遷移金属カチオンとしては、例えば、Cr2+、Cr3+、Mn2+、Mn3+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Ni+、Ni2+、Ni3+、Cu+、Cu2+、Cu3+、Zn+、Zn3+、Mo3+、Mo4+、Mo5+、Mo6+、Rh3+、Pd2+、Ag+、Ag2+などが挙げられるがこれらに制限されない。これらの中で、Co2+、Co3+などのCoカチオン、Ni+、Ni2+、Ni3+などのNiカチオン、Mn2+、Mn3+などのMnカチオン及びFe2+、Fe3+などのFeカチオンを好適に使用することができる。
【0016】
すなわち、本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の特に好ましい形態としては、フルオロアパタイト表面にRuカチオン及びCoカチオンが固定化されたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒(Ru/Co/FAP)、フルオロアパタイト表面にRuカチオン及びNiカチオンが固定化されたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒(Ru/Ni/FAP)、フルオロアパタイト表面にRuカチオン及びMnカチオンが固定化されたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒(Ru/Mn/FAP)、及びフルオロアパタイト表面にRuカチオン及びFeカチオンが固定化されたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒(Ru/Fe/FAP)などが挙げられる。とりわけ、フルオロアパタイト表面にRuカチオン及びCoカチオンが固定化されたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒(Ru/Co/FAP)は、RuカチオンとCoカチオンとの特異な共同効果が発現し、Ruカチオンの触媒活性が飛躍的に向上し、例えば、シクロヘキサノールなどの反応性の低いアルコールに対しても、極めて高い活性を示し、高い収率で対応するカルボニル化合物を与える。
【0017】
本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、3種以上の遷移金属カチオンが固定化されていてもよく、例えば、Ruカチオン、Coカチオン及びNiカチオンの3種の金属カチオンが固定化された形態や、Ruカチオン、Coカチオン及びFeカチオンの3種が固定化された形態などが例示できるが、これらに限定されない。
【0018】
フルオロアパタイト表面に上記遷移金属カチオンを固定化する方法としては、例えば、上記金属を含む化合物の溶液とフルオロアパタイトとを混合し、撹拌することによりフルオロアパタイト表面に金属カチオンを固定化する方法が挙げられる。金属を含む化合物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の金属塩の他、金属錯体等を使用することもできる。溶媒としては、使用する金属化合物を溶解できればよく特に制限されないが、水、アセトン、アルコール類等を例示することができる。金属の固定化処理を行う際の金属を含む化合物の溶液の濃度は特に制限されず、例えば、0.1〜1000mMの範囲から選択することができる。撹拌時の温度は、例えば20〜150℃の範囲から選択することができるが、通常室温で行うことができる。フルオロアパタイト表面固定化金属粒子触媒の金属含有率は特に制限されないが、例えば、フルオロアパタイト1gに対して0.01〜10mmol、好ましくは2.5〜10mmolの範囲から選択することができる。撹拌時間は撹拌時の温度によっても異なるが、例えば1〜240分間、好ましくは5〜90分間の範囲から選択することができる。撹拌終了後は、必要に応じて水や有機溶媒等で洗浄し、乾燥することにより本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を調製することができる。
【0019】
金属を含む化合物として、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物を使用する場合であれば、フルオロアパタイト表面にハロゲン化物を固定化した後で、炭酸ナトリウム水溶液等で処理することにより、ハロゲンアニオンと水酸化物イオンとを交換してもよい。
【0020】
上記金属を含む化合物として、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物を使用する場合であれば、ハロゲン化物の状態でフルオロアパタイト表面に固定化した後、脱ハロゲン化剤と反応させることによりフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を調製することができる。RuCl3を使用してRuカチオンを固定化する場合を例にとって説明すると、フルオロアパタイトを三塩化ルテニウム(III)RuCl3溶液で処理することにより一塩化ルテニウムがフルオロアパタイト表面に固定化された状態フルオロアパタイトスラリーが得られる。続いて、該スラリーを脱ハロゲン化剤で処理し、本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオンが得られる。脱ハロゲン化剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属が例示できる。なお、脱ハロゲン化剤処理を行う際は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0021】
フルオロアパタイト表面に2種以上の遷移金属カチオンを固定化する場合、すなわちRuカチオンとその他の遷移金属カチオンを固定化する場合は、例えば、その他の遷移金属を含む化合物の溶液でフルオロアパタイトを処理したところへ、Ru化合物(RuCl3など)の溶液を添加し、さらに撹拌等の処理を行うことにより固定化を行ってもよく、Ru化合物の溶液で処理した後にその他の遷移金属を含む化合物の溶液で処理してもよい。あるいは、Ru化合物とその他の遷移金属を含む化合物との両方を含む溶液を調製し、2種以上の金属の固定化を同時に行ってもよい。
【0022】
[カルボニル化合物の製造]
上述の本発明のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を用いて、種々のアルコール類を酸化することにより対応するカルボニル化合物を製造することができる。本発明の方法によって、脂環式アルコール及び非環式アルコール(鎖状脂肪族アルコール)のいずれをも効率よく酸化して対応するカルボニル化合物を高収率で製造することができる。
【0023】
脂環式アルコールは、脂環式炭化水素の環を構成する炭素原子に水酸基が結合した化合物であって、具体的には例えば、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロドデカノールなどの脂環式飽和アルコール;シクロペンテノール、シクロヘキセノールなどの脂環式不飽和アルコール;1−アダマンタノール、2−アダマンタノールなどの多環系脂環式飽和又は不飽和アルコールなどが挙げられる。
【0024】
非環式アルコール(鎖状脂肪族アルコール)としては具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノールなどの第1級の直鎖状脂肪族飽和アルコール;2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール等の第2級の直鎖状脂肪族飽和アルコール;アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2,4−ヘキサジエン−1−オールなどの第1級の直鎖状不飽和アルコール;4−ペンテン−2−オールなどの第2級の直鎖状不飽和アルコール;3−メチル−1−ブタノールなどの第1級の分岐鎖状脂肪族飽和アルコール;3−メチル−2−ブタノールなどの第2級の分岐鎖状脂肪族飽和アルコール;3−メチル−2−ブテン−1−オール、4−メチル−2−プロペン−1−オールなどの第1級の分岐鎖状脂肪族不飽和アルコール;5−メチル−3−ヘキセン−2−オールなどの第2級の分岐鎖状脂肪族不飽和アルコール;1−ヒドロキシメチルアダマンタン、1−シクロヘキシル−2−プロパノール、ミルテノール、ペリリルアルコールなどの飽和又は不飽和の脂環式基を置換基として有する鎖状脂肪族アルコールが例示できる。
【0025】
上記脂環式アルコール及び非環式アルコール(鎖状脂肪族アルコール)は、置換基として、芳香族炭化水素基や複素環式基を有していてもよい。芳香族炭化水素基はフェニル基などの単環を含むものでもよく、ナフチル基、アズレニル基などの縮合多環を含むものでもよい。また、芳香族炭化水素基は、ニトロ基、スルホ基、クロロ基、フルオロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などの置換基を有していてもよい。置換基として芳香族炭化水素基を有するアルコールとしては、具体的には例えば、ベンジルアルコール、p−メチルベンジルアルコール、p−イソプロピルベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−クロロベンジルアルコール、1−フェニルエタノール、ベンズヒドロール、シンナミルアルコール、フェニルシクロプロピルメタノールなどが例示できる。
【0026】
上記複素環式基としては、例えば、フラニル基、ベンゾジオキソール基などの含O複素環式基、ピロリル基などの含N複素環式基、チオニル基などの含S複素環式基が挙げられる。
【0027】
本発明の方法により酸化することができるアルコール類にはヒドロキシケトン、ヒドロキシアルデヒドなども含まれる。ヒドロキシケトンとしては、例えば、6−ヒドロキシデカン−5−オン、アセトイン、ベンゾインなどのα−ヒドロキシケトンが挙げられ、これらの脱水素により対応するα−ジケトンが得られる。
【0028】
上記アルコール類をフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の存在下、酸化することにより対応するカルボニル化合物を製造することができる。原料として第1級アルコールを使用した場合には対応するアルデヒドが、第2級アルコールを使用した場合には対応するケトンがそれぞれ得られる。
【0029】
反応は、例えば、上記原料アルコールとフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を混合撹拌することにより行うことができる。触媒の使用量は特に制限されないが、例えば、原料アルコール1molに対して、金属カチオンが0.001〜1mol、好ましくは0.05〜0.1mol、特に好ましくは0.01〜0.05molとなるような範囲から選択することができる。反応は、液相で行ってもよく、気相で行うこともできる。作業性などを考慮して、本発明においては液相で反応を行うことが好ましい。
【0030】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒としては、原料として使用するアルコール類を溶解しうるものであり、反応を阻害しないものであれば特に制限されず、公知慣用の溶媒から適宜選択して使用することができる。例えば、トリフルオロトルエン、フルオロベンゼン、フルオロヘキサンなどのフッ素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル;水;これらの混合物等が挙げられる。これらの中で、フッ素系溶媒を好適に使用でき、特にトリフルオロトルエンを好適に使用できる。
【0031】
反応は、通常分子状酸素等の酸化剤(水素補足剤)の存在下に行われる。反応は常圧、又は加圧下において行うことができる。反応温度は、原料として使用するアルコールの種類や溶媒の種類に応じて選択することができ、特に制限されないが例えば、0〜250℃、好ましくは60〜200℃、特に好ましくは150〜190℃の範囲から選択することができる。
【0032】
反応時間は、原料として使用するアルコールの種類や溶媒の種類、反応温度等に応じて適宜選択することができ特に制限されないが、例えば0.5〜200時間、好ましくは1〜150時間の範囲から選択することができる。反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方式で行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、ろ過、濃縮、蒸溜、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0033】
反応終了後、フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、ろ過や遠心分離等の操作により回収し、そのまま、又は必要に応じて水や有機溶媒などにより洗浄後、繰り返しアルコールの酸化触媒として使用することができる。フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒を繰り返し使用して反応を行った場合であっても、触媒活性は低下せず、高い収率で対応するカルボニル化合物を製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0035】
(実施例1−0)
RuCl3・2H2O(0.0364g(Ru:0.15mmol))を水(10mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、室温で15分間撹拌後、脱イオン水で洗浄し、さらに110℃にて12時間乾燥することにより、フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒A(Ru/FAP)を得た。
【0036】
(実施例1−1)
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例1−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒A(Ru/FAP)0.2gをガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率22%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0037】
(実施例2−0)
CoCl2・6H2O(0.1330g)を水(30mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、さらにNa2CO3(0.8g)を水(5mL)に溶かして得た溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後に、RuCl3・2H2O(0.0364g(Ru:0.15mmol))を水(10mL)に溶解して得た溶液を加えてさらに室温で15分撹拌後、脱イオン水で洗浄し、110℃にて12時間乾燥することによりフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)を得た。
【0038】
(実施例2−1)
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例2−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率96%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0039】
(実施例2−2)
シクロペンタノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例2−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率99%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロペンタノン)を得た。
【0040】
(実施例2−3)
シクロオクタノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例2−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率99%以上に相当する対応するカルボニル化合物(シクロオクタノン)を得た。
【0041】
(実施例2−4)
2−アダマンタノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例2−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて2時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率99%に相当する対応するカルボニル化合物(2−アダマンタノン)を得た。
【0042】
(実施例2−5)
2−オクタノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例2−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率99%に相当する対応するカルボニル化合物(2−オクタノン)を得た。
【0043】
(実施例3−0)
NiCl2・6H2O(0.03562g)を水(30mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、さらにNa2CO3(0.8g)を水(5mL)に溶かして得た溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後に、RuCl3・2H2O(0.0364g(Ru:0.15mmol))を水(10mL)に溶解して得た溶液にを加えてさらに室温で15分撹拌後、脱イオン水で洗浄し、110℃にて12時間乾燥することによりフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒C(Ru/Ni/FAP)を得た。
【0044】
(実施例3−1)
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例3−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒C(Ru/Ni/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率78%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0045】
(実施例4−0)
MnCl2・4H2O(0.0345g)を水(30mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、さらにNa2CO3(0.8g)を水(5mL)に溶かして得た溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後に、RuCl3・2H2O(0.0364g(Ru:0.15mmol))を水(10mL)に溶解して得た溶液を加えてさらに室温で15分撹拌後、脱イオン水で洗浄し、110℃にて12時間乾燥することによりフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒D(Ru/Mn/FAP)を得た。
【0046】
(実施例4−1)
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例4−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒D(Ru/Mn/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率66%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0047】
(実施例5−0)
FeCl3・6H2O(0.0269g)を水(30mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、さらにNa2CO3(0.8g)を水(5mL)に溶かして得た溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後に、RuCl3・2H2O(0.0364g(Ru:0.15mmol))を水(10mL)に溶解して得た溶液にを加えてさらに室温で15分撹拌後、脱イオン水で洗浄し、110℃にて12時間乾燥することによりフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒E(Ru/Fe/FAP)を得た。
【0048】
(実施例5−1)
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、実施例5−0で得られたフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒E(Ru/Fe/FAP)0.2g(Ru含量:0.02mmol)をガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率61%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0049】
(比較例1)
CoCl2・6H2O(0.1330g)を水(30mL)に溶解して得た溶液に、フルオロアパタイト(和光純薬株式会社製:商品名『アパタイトFAP、六方晶』)1.5gを加え、さらにNa2CO3(0.8g)を水(5mL)に溶かして得た溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後に、脱イオン水で洗浄し、110℃にて12時間乾燥することによりフルオロアパタイト表面固定化Coカチオン触媒(Co/FAP)を得た。
シクロヘキサノール1mmol、トリフルオロトルエン2.4ml、上述のフルオロアパタイト表面固定化Coカチオン触媒(Co/FAP)0.2gをガラス製耐圧反応管に入れ、酸素雰囲気下、1atm(0.1MPa)、180℃にて3時間撹拌した。GC(ガスクロマトグラフィー)収率7%に相当する対応するカルボニル化合物(シクロヘキサノン)を得た。
【0050】
(実施例6)
[フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の再利用]
フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の再利用を以下の手順により11回まで行った。実施例2−1で、反応終了後、反応液を回収した後の、使用済みのフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒B(Ru/Co/FAP)が入ったままの反応管に、シクロヘキサノール(各再利用につき約1.1〜1.4mmol)を添加し、実施例2−1と同様の条件で反応を行った。フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒Bの再利用は11回まで行い、各々得られたシクロオクタノンのGC(ガスクロマトグラフィー)収率を求めた。表1にシクロオクタノンの収率及び、RuあたりのTON(ターンオーバー数)を示す。フルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒は、11回の再利用後も活性の低下はほとんどみられなかった。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロアパタイト表面にRuカチオンを固定化したフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒。
【請求項2】
フルオロアパタイト表面にRuカチオンに加えてさらに、1又は2種以上の遷移金属カチオンを固定化した請求項1記載のフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒。
【請求項3】
フルオロアパタイト表面にRuカチオンを固定化したフルオロアパタイト表面固定化金属カチオン触媒の存在下、アルコールを酸化して対応するカルボニル化合物を製造することを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−221079(P2008−221079A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60484(P2007−60484)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】