説明

フルオロポリマーを処理する方法、およびその生成物

【課題】フルオロポリマー粒子を表面処理する方法を提供する。
【解決手段】フルオロポリマー粒子を、高エネルギー処理に供して、粒子表面の化学官能基を変化させ、それによってこの粒子の表面特徴を変化させる。これらの特徴によって、これらの粒子の有用性は改善されて、それらは水中であっても高度に分散性になり得る。高エネルギー処理は、フルオロポリマー粒子の表面処理だけでなくいくつかの実施形態にも用いることが可能であり、これはまた、フルオロポリマーの鎖切断を生じて、これによってこのフルオロポリマー粒子の分子量を減少させることが可能である。表面処理されたフルオロポリマー粒子は、種々の基板上にフルオロポリマーコーティングを形成するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマーに関する。より詳細には、本発明は、高エネルギー源を用いることによって新規なフルオロポリマーを生成して、フルオロポリマー粒子の表面上に高分子を固定するか、および/またはこのフルオロポリマー粒子の分子量を変更する工程に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、非水和性でかつ化学的に不活性な表面を有する、ホモポリマー、コポリマーおよびターポリマーを含む任意のフッ素含有ポリマー(または不活性ポリマー)として本明細書において広く規定されるが、このような表面は、いくつかの適用においては所望されるが、他の適用においてはこれらの物質の使用を制限する。
【0003】
フルオロポリマーを用いて物質をコーティングする技術は、粉末およびラテックスのフルオロポリマーの物理的形態に基づいて、2つの基礎的な特有の方向に発展されてきている。いずれの場合でも、最終コーティングは、連続的なフィルム層であってもよいが、例えば、これは典型的には、塗布したフルオロポリマーをその融点を超えて加熱することによって得られる。
【0004】
粉末およびラテックスのフルオロポリマーの塗布に特定の利点を提供するプロセスおよび生成物が開発されている。粉末化されたフルオロポリマーを用いる技術のために、改変されたポリマー組成および粒子サイズおよび形状が開発されて、塗布の収率(通過あたりの収率)および単位フィルム厚みあたり得られるフィルムの能力の両方が向上されている。粉末化されたフルオロポリマーの使用における進歩に対して内在される主な障害は、それらの電気的な表面電気伝導度が乏しいということである。
【0005】
ラテックスについては、フルオロポリマー(それらは完全に疎水性であると規定され得る)に固有の極めて低い表面エネルギーおよび高い比重によって、異なる製造技術の採用が強制されている。なぜなら、ベースのポリマー合成(例えば、分散)は、この粉末よりも2ケタ小さい平均直径を有するポリマー粒子によって、ならびに合成の間に用いられるフッ化界面活性剤および合成から得られる希釈された分散の乳化のための水素化界面活性剤という両方の界面活性剤の過剰な使用によって、ならびに塗布の技術(例えば、スプレー、ロール、カーテンコーティング)によって管理可能な濃縮されたラテックスの安定化および形成について特徴付けられるからである。しかし、両方の種類の界面活性剤とも、この技術に固有であるが、コーティングの適用には有害であってフィルム層の収率および特徴(例えば、フィルムの連続性、基板への接着など)に悪影響を及ぼす。
【0006】
これらの2つの基本的なアプローチから逃れる方法が理論的に考えられ、これは、広範なスペクトルの利用可能な極性キャリア手段(例えば、水)にさらに適合させるが、フルオロポリマーのバルクの特性を変更することも障害することもない、フルオロポリマー粒子表面の改変を包含する。
【0007】
フルオロポリマーの表面処理は、当該分野で公知でありかつ確立されている。フルオロポリマーはシート、フィルムおよび形成された物体の形態で化学的に処理されており、コロナ放電およびプラズマを用いて電気的に荷電しやすく、火炎処理しやすく、そして化学的吸着手段などの物理的処理をしやすい。各々の場合、望ましい結果はしばしば、十分満たされていない。例えば、化学的処理によって達成された表面変化は、表面の黒ずみを生じて、化学的吸着手段は劣化されやすく、経時的に失われる。
【0008】
火炎処理は、適切に管理されなければ、望ましくない損傷をもたらし得る。
【0009】
電気的な処理は、望ましい長期間の効果のために最も受け入れられるプロセスとなっているようである。しかし、以下に考察するように、これらの処理プロセスには限界がある。
【0010】
コロナ放電および火炎処理のプロセスは、ポリマーフィルムおよび他の基板、例えば、ホイル、紙などの表面を処理するために用いられる。これらの処理プロセスは、基板の表面エネルギーを増大し、これが次にこれらの表面の水和性、印刷性および接着性を改善する。コロナ放電は、ストリーマーとして知られる局所的に集中された放電を生じ得る。これらのストリーマーは、フィルム表面の処理にある程度の不均一性をもたらし、このストリーマーの集中されたエネルギーがまた、このフィルム表面に顕微鏡レベルの損傷を与え得る。さらに、コロナ処理は、裏側の処理を生じ得、これは多くの適用に望ましくない。
【0011】
火炎処理もまた、酸化表面改質に関して限界を有し、制御の困難性および過剰な熱負荷の可能性を有する。
【0012】
プラズマ処理は、表面エネルギーを増大して、水和性、印刷性および接着性を改善するように表面を処理するための有効な方法である。プラズマは、基板の裏側の処理を生じることなく、均一な表面処理を生じる。
【0013】
表面処理のための既存の科学技術を上回る固有の利点を提供する、低圧プラズマ処理あるいは大気プラズマ処理(APT)プロセスが開発されている。大気プラズマ処理において用いられる装置は、真空システムを必要とせず、常圧下で作動しながら、高密度のプラズマを生じて、低温で種々の基板の処理をもたらす。プラズマ処理の利点としては、表面形態の劣化を軽減すること、より高度な処理(ダイン)レベル、裏側の処理が生じないこと、および処理時間を超える寿命の延長が挙げられる。
【0014】
A.Yializisら(Atmospheric Plasma−The New Functional Treatment for Film,2000 TAPPI Polymers,Laminations,& Coatings Conference 第1343〜1352頁)に報告されたとおり、大気プラズマ処理プロセスは、連続繊維およびフィルムを処理するために開発されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、フルオロポリマー粒子の処理の方法を提供する。この方法は、1つの局面において、高エネルギー源、例えば、大気プラズマ、X線照射、電子線照射、イオンビーム照射、紫外線照射または他の適切な方法を用いてフルオロポリマー粒子に高分子を結合させて、フルオロポリマー粒子の機能的な特徴を変化させる工程を包含する。本明細書において、「照射(radiation)」および「照射(irradiation)」は各々一般に、放射線に対する曝露による処理をいう。
【0016】
本特許出願の親出願である米国特許出願第10/128,185号は、フルオロポリマーの処理のための方法を記載しているが、そこでは、乾燥フルオロポリマー粉末を溶媒中の高分子と混和し、続いて溶媒をエバポレートして乾燥し、次いで、例えば、大気プラズマ処理の形態で高エネルギーを付与し、これにより粉末中の個々のフルオロポリマー粒子にこの高分子を結合させる。この方式では、その上に固定された高分子を有するフルオロポリマーが生成されるが、これは、親水性であり、水和性であり、他の所望の機能的特性を示す。
【0017】
本明細書においてさらに記載される方法では、フルオロポリマーは、「ウエットシステム(wet system)」で処理されてもよいことが見出されており、このシステムでは、例えば電子ビーム処理のような高エネルギーが、液体媒体中で分散されたままのフルオロポリマーに与えられる。
【0018】
本発明の1つの局面において、高分子をフルオロポリマー粒子の液体分散に添加し、次いで、この混合物を高エネルギー処理、例えば、電子ビーム処理などに供し、これがこの高分子をフルオロポリマー粒子に結合させ、それによって、その上に固定された高分子を有するフルオロポリマー粒子の分散を形成する。この方式では、その上に固定された高分子を有するフルオロポリマー粒子の分散が生成され、これは親水性であり、水和性であり、そして他の所望の機能的特性を示す。必要に応じて、この分散を乾燥させて、乾燥され、処理されたフルオロポリマー粉末を形成してもよい。
【0019】
さらに、フルオロポリマー粒子および高分子の液体分散の高エネルギー処理は、この高分子をフルオロポリマー粒子上に固定するだけでなく、このフルオロポリマー内の鎖の切断または架橋ももたらし得、これによって、それぞれフルオロポリマーの分子量の減少または増加が生じる。この分散は、表面処理されたフルオロポリマーの微小粉末を生成するために必要に応じて乾燥されてもよい。
【0020】
架橋剤をまた、高分子内および/または高分子間の架橋を形成するために本発明の方法において用いてもよい。例えば、架橋剤は、高エネルギー処理の前に分散に添加されてもよく、ここで、この分散への高エネルギーの適用の間、この架橋剤は、この高分子内および/または高分子間の架橋、ならびにこの高分子とフルオロポリマーとの間の共有結合を形成して、このフルオロポリマー粒子上のこの高分子の固定を強化する。あるいは、架橋は、加熱を介して実行することが可能で、これによって、この高分子は、高分子とフルオロポリマーとの間の共有結合なしに、このフルオロポリマー粒子上に固定される。
【0021】
とりわけ、必要に応じてその中に界面活性剤を含むが高分子は含まないフルオロポリマー粒子の分散が高エネルギーで処理される場合、フルオロポリマーの分子量の変更が生じることが見出されている。例えば、PTFE分散の照射によって、PTFE内で鎖の切断が生じ、これによって分子量が低下する。この分散は必要に応じて乾燥されてもよい。この方式では、フルオロポリマー粒子、またはフルオロポリマー粉末のいずれかの分散が効率的、かつ安価に生成される。PTFE内の鎖の切断を誘導する高エネルギー処理の有効性は、フルオロポリマーに対する親和性を有する低分子で可動性の反応性分子種、例えば、酸素の存在下で増大されることが見出されている。任意の可動性の反応性分子源が用いられてもよい。高エネルギー処理の有効性を増大するために、適切な酸素源、例えば過酸化水素またはオゾンなどを、高エネルギー処理の前に液体フルオロポリマー分散に添加してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0022】
それらの1つの形態において、本発明は、個々のフルオロポリマー粒子を含む組成物であって、このフルオロポリマー粒子が、高エネルギー処理によってそこに結合した高分子を有する、組成物を提供する。
【0023】
それらの別の形態において、本発明は、フルオロポリマーを処理するための方法を提供し、この方法は、フルオロポリマー粒子および高分子の混合物を提供する工程;ならびにこの混合物を高エネルギー処理に供して、これによってこのフルオロポリマー粒子に高分子を結合させる工程を包含する。
【0024】
それらのさらなる形態において、本発明は、フルオロポリマー粒子を表面処理する方法を提供し、この方法は、液体分散中にフルオロポリマー粒子を提供する工程;およびこの分散を高エネルギー処理に供する工程、を包含する。
【0025】
それらのさらなる形態において、本発明は、ポリマー粉末粒子を不活性化するために水和性の表面特徴を提供する方法を提供し、この方法は、以下の工程:a)液体分散中に不活性なポリマー粉末を提供する工程;b)この分散に表面処理剤を添加する工程;およびc)工程b)由来の分散に照射を与えて、この不活性なポリマー粉末を表面処理する工程、を包含する。
【0026】
それらのさらなる形態において、本発明は、フルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法を提供し、この方法は、以下の工程:a)液体分散中にフルオロポリマー粒子を提供する工程;およびb)この分散を高エネルギー処理に供して、このフルオロポリマー粒子の鎖の切断を生じる工程、を包含する。
【0027】
それらのさらなる形態において、フルオロポリマー粒子を表面処理する方法が提供され、この方法は、以下の工程:a)液体分散中にフルオロポリマー粒子を提供する工程;b)この分散に高分子種および架橋剤を添加する工程;ならびにc)この分散を熱処理に供して、これによってこの高分子種をこのフルオロポリマー粒子上に固定させる工程、を包含する。
【0028】
本発明は、添付の図面を参照して記載されるが、この図面は非限定的な例としてのみ示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、フルオロポリマーに関するが、フルオロポリマーとは、本明細書において規定されおり、これには、ホモポリマー、コポリマーおよびターポリマーを含む任意のフッ素含有ポリマー、ならびにフルオロエラストマーが挙げられる。フルオロポリマーの例としては、以下が挙げられる:
1.以下を含むホモポリマー:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、およびポリフッ化ビニル(PVF);
2.以下を含むコポリマー:フッ化エチレン−プロピレン(FEP)として公知のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン、MFAおよびPFAとして公知のテトラフルオロエチレンおよびペルフルオロビニルエーテル、ETFEとして公知のエチレンおよびテトラフルオロエチレン、ECTFEとして公知のエチレンおよびクロロトリフルオロエチレン、フルオロエラストマーとして公知のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロペン;ならびに
3.以下を含むターポリマー:THVとして公知のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン、ターポリマーフルオロエラストマーとして公知のフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペンおよびテトラフルオロエチレン。
【0030】
概して、これらは、以下を含むフルオロモノマーの以下の特異的な例の1つ以上を用いて作製されたポリマーである:テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびペルフルオロビニルエーテル。不活性である他の非フルオロポリマー、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド−イミド(PAI)、ポリ酸化フェニレン(PPO)、ポリ硫化フェニレン(PPS)、ポリスルホン(PS)、およびポリエーテルスルホン(PES)がまた、本発明によって処理され得る。
【0031】
フルオロポリマーは、不活性であることが周知であり、その極端な低表面エネルギーおよび非極性のために非水和性である。その不活性さによって、フルオロポリマーは、軸受け(ベアリング)材料、焦げ付きのない調理用表面などを含む種々の適用における使用に適する。しかし、水和できないことおよび粉末としてのそれらの過剰な化学的不活性さのために、そうでなければ極めて望ましいと思われる他の使用分野においては、その適用は制限される。本発明の表面処理プロセスは、フルオロポリマー粉末粒子表面の化学的性質を変化させ、そのためこの粒子の表面は、バルクのフルオロポリマー特性の全体的特徴を保ったままで、化学的に反応性であり、かつ極性溶媒と相互作用する。
【0032】
本発明の経過の間、本発明者らは、フルオロポリマーのシート、フィルムおよびフルオロポリマー粒子に対する他の成形された物体を商業的に処理するために現在用いられている、最も有効な表面処理の科学技術を適用することを決定した。これらの労力の結果として、本発明者らは予期せぬことに、フルオロポリマー粉末に加えられる場合、全ての公知の表面処理技術が有効でないということを発見した。
【0033】
本発明によれば、粉末は、100ミクロン未満の物理的な粒子サイズを有する物質として規定され、直径に限定する長さの制限や最小粒子径もない。
【0034】
既存の技法および科学技術を用いてフルオロポリマー粉末に大気プラズマ処理を加えることを企図したところ、粉末の表面積が大きければ、大気プラズマ処理が気相の反応性分子の存在下で実行された場合でさえ、処理の有効性を妨げることが発見された。これは、個々のフッ素原子が他の低分子化学種と反応して置換され、このシート表面上に反応性の基が残るという、これらの技法および科学技術がPTFEシート表面を処理するために用いられるときの、これらの技法および科学技術の有効性とは対照的である。この異なる結果は、PTFEのシートまたはフィルムの単位表面積が、1〜20m/グラムの表面積を有し得る粉末に比べて極めて小さいという事実に起因し得ると考えられる。これらの試験の最初の結果によって、既存の技法および科学技術は、大きい表面積値のフルオロポリマー粉末を取り扱うのについて競合するものではないということが示される(滞留時間および電力がかなり大きすぎる)。
【0035】
従って、本発明は、フルオロポリマー粉末を大気プラズマ処理に供する前に、それらのフルオロポリマー粉末を化学的に処理する工程を包含する。この処理手順を試験した結果によって、新しい表面処理が、事前の化学処理なしでの表面処理よりも、かなり有効であり、かつ永続的であるということが実証される。さらに、粉末の事前の化学的処理はその大きい表面積にもかかわらず粉末の引き続く大気プラズマ処理が可能になるということが、予期せぬことに発見された。
【0036】
本発明は、粉末と高分子化学種(これは、水を含む溶媒に溶解され得る)とを最初に接触させることによってフルオロポリマー粉末を表面処理する。この化学種を、フルオロポリマー粉末と一緒に混合することによって、最初の混合物を得る。この混合は、PKブレンダーのような任意の適切な撹拌容器中で達成することができる。さらに、下記に記載されるように、架橋剤が含まれてもよい。
【0037】
混合後、得られた産物を加熱プロセスに供して、これによって溶媒を除去して乾燥高分子を残し、これはフルオロポリマー粉末粒子の表面上に均一に分布されて緊密に保持される。高分子化学種の濃度は、約0.1〜約25重量%であり、約0.2〜約5重量%の濃度が本発明の目的に一般に有用である。ポリマー粉末の表面領域が大きいほど、小さい表面積のポリマー粉末よりも多くの高分子化学種を必要とする。濃度はまた、この高分子化学種の分子量に依存して変化し得る。
【0038】
反復性単位を有する高分子は、本発明の目的のために特に有用である。ポリビニルアルコール(「PVOH」)、ポリ酪酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリリドン(「PVP」)、ポリビニルピリジン、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリアクリル酸(「PAA」)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、それらのコポリマーおよびそれらの混合物が、分子に重要な官能基を提供するこのような高分子の非限定的な例である。本明細書において用いる場合、「高分子(macromolecule)」という用語は、多数の1種またはいくつかの比較的簡単な構造の単位を有する任意の比較的大きい分子量の分子であって、この各々の構造単位が、一緒に結合された、いくつかの原子からなる分子をいう。
【0039】
大気プラズマ処理においてポリアクリル酸を添加することはそのモノマーを添加することよりも有効であることが見出されている。なぜなら、この分子がポリマー粉末粒子の表面に結合される密度は、粉末の表面上の分子の濃度およびプラズマ中のイオン化された反応誘導性種の密度の両方に依存性があるからである。さらに、高分子および事前に混和する技術を用いて得られる粉末粒子の表面上のモノマー濃度と等価な濃度を得ることは不可能である。イオン化された種は、純粋な架橋の場合のように高分子を両方に架橋するだけでなく、鎖の切断およびフルオロポリマー表面との共有結合も生じるということが推測される。高分子の分子量の低下が観察されており、これはプラズマ中のイオン化された種が、化学反応さらには高分子の鎖切断さえ誘発するのに有効であるという事実と一致する。この高分子は、フルオロポリマー粉末粒子表面と強力な物理的相互作用を発達させるが、これは驚くべきことに架橋後には不可逆になる(それらはもはや極性溶媒中では溶解できない)。従って、官能基は、大きいイオン密度および/またはプラズマ中での長い滞留時間に頼ることなく粉末粒子表面に有効に結合され得る。
【0040】
表面処理されたフルオロポリマー粉末粒子のアルコールおよび酸の両方の作用を滴定することによって、本発明者らは、表面処理の程度が、理論的な計算と一致するということを結論した。これらの化学種が他の種と反応可能であり、従って組み込みを改善して、良好な混和および物理的特性を生じるということが推測される。この想定は、生成された比較するフィルムの均一性および硬度の増大、混合温度の上昇、ならびにこの最終生成物の物理的特性によって、表面処理されていない等価物と比べて、フルオロエラストマー/微小粉末の両方の均一性を比較することによって実験的に証明されている。
【0041】
引き続く抽出試験によって、フルオロポリマー粉末粒子の表面に結合された高分子化学種の割合が、約40〜約100重量%に変化し、そしてこれは高分子の濃度に対して反比例しており(すなわち濃度が低いほど、より多く固定される;高分子およびフルオロポリマー種に依存して;プラズマ中の滞留時間およびプラズマのガス/ガス混合物のタイプに依存して);そしてプラズマの出力密度に比例する、ということが示されている。これはまた、高分子架橋にも有効である。
【0042】
プラズマガス、ガス混合物および高分子化学種は全て表面処理の化学に影響する。本発明による1つの実施例では、PVOHを用いた処理の間、酸素がPTFE粉末に添加された場合、このサンプルの酸性度は、類似の非酸素化された処理プロセスに比べて、3つの要因(酸へのアルコールの酸化によって生じる)によって上昇される。
【0043】
前処理されていないフルオロポリマー粉末が大気プラズマ処理に供される試験を実施し、この間には、アンモニアおよび低分子量反応性ガスを添加した。これらの試験の結果によって、ポリマー粉末粒子の表面への反応性ガス添加から反応した種の濃度は乏しかったことが示された。これらの試験によって、大気プラズマ処理の間の低分子化学種の添加は、フルオロポリマー粉末を表面処理するには無効であることが示される。
【0044】
高分子化学種の添加は、事前の溶媒混合と、それに続く加熱による溶媒除去を用いて行なわれなければならないという必要はないと結論された。あるいは、大気プラズマ処理の直前または同時の、この高分子化学種を取り込む溶媒溶液の同時の添加は、本発明によって見通しが立てられる。さらなる実施形態によれば、この高分子は、溶媒なしに液体形態で提供されて、フルオロポリマー粉末に直接加えられてもよい。
【0045】
本発明によって生成された、表面処理されたフルオロポリマー粉末の水和性を試験するために、PVOHを用いてPTFEを前処理すること、および得られた事前処理されたポリマー粉末を大気プラズマ処理に供することによってサンプルを作製した。表面処理されたPTFEの最大50重量%を水と混合して、加圧ミル中で撹拌してしっかりしたペーストを生成したが、これは貯蔵安定性であることが見出されるか、または単純な混合によって容易に再懸濁することができた。他の処方では、40重量%の表面処理されたPTFE粉末を水と混合してペーストを形成した。これらのペーストは界面活性剤または他の保湿剤を用いることなく他のシステムに容易に組み込むことができる。
【0046】
比較試験において、未処理のPTFE粉末は、かなり疎水性であること、これは界面活性剤の添加なしには水と混合できず、界面活性剤は典型的には約1〜約7重量%の濃度が必要であることが見出された。
【0047】
本発明の技術を用いて、PTFE(微小粉末)、バージンPTFE、FEPおよびPVDFの表面処理された粉末からペーストを作製した。これらのペーストをアルミニウムパネルに(希釈有りまたは無しで)噴霧して、残りの水を200°Fでフラッシュして除いた。次いで、パネル上のコーティングを、フルオロポリマー粉末の融点を超える温度で硬化させた。
【0048】
硬化が終了したとき、表面処理したポリマーペーストは、全ての場合にアルミニウムパネルに優れた接着性を示した(未処理のPTFE粉末は、界面活性剤の補助なしには水に懸濁可能でなく、界面活性剤を用いてさえ粘着性フィルムは形成できない)。0.03〜約1ミルの種々の厚みのマッドクラックのないフィルムを生成した。全てのフィルムは均一であって、良好な光沢の特徴を有した。表面処理されたFEP、ECTFEおよびPVDFフィルムはどれも、極めて良好な物理的特性を示した。
【0049】
表面処理したPVDFは、界面活性剤の使用で懸濁された未処理のPVDF粉末に比べてかなり良好なMEK摩擦耐性を示し、0ベンドを上回る煮沸水に供された場合でもひび割れなかった。言及されたMEK摩擦耐性は、標準的な溶媒耐性試験であって、この試験には、メチルエチルケトンに浸漬された布でコーティングされた表面を摩擦する工程、およびフィルムにわたって摩擦するダブルフィンガー摩擦(ダブルの摩擦は一方が前で一方が逆に摩擦する)の回数を数える工程を包含する。
【0050】
表面処理されたPTFE微小粉末をアウジモント(Ausimont)のフルオロエラストマーTNラテックスに加えた場合、これは、処理されていないPTFEに比べて優れた組み込みを示し、そして噴霧されて805°Fで硬化された場合、強固で強力なフィルムを生成した。ガラスパネルに塗布された、同様の表面処理されたフルオロポリマー粉末コーティングは優れた接着性を示した。
【0051】
水中に表面処理されたフルオロポリマー粉末を混合することによって生成された水性ペーストは、新規な特性を示す。
【0052】
界面活性剤によって懸濁されたフルオロポリマー粉末システムにおいて、この界面活性剤は、ポリマー粉末粒子に「ロック(locked)」されていない。むしろ、これは水相、粒子および他の疎水性表面の間で平衡である。これは通常有害な結果を生じる。例えば、表面コーティングの適用では、達成可能な接着は、水と、ポリマーと、コーティングされるべき表面との間の界面活性剤の平衡力によって減少され、接着に対する障壁となる。
【0053】
また、界面活性剤によって懸濁されたフルオロポリマー粉末システムにおいて、この界面活性剤は、比較的高温まで水を「保持(holds)」し、それによって、このコーティングシステムが乾燥するにつれてマッドクラッキングが増大し得る。
【0054】
PTFEの重合された水性分散において、フルオロ界面活性剤(APFO)が通常に示されるが、これは通常の界面活性剤、例えばTriton X−100と組み合わせて用いられる場合、安定な分散を形成する。顆粒状のPTFEから作製された本発明の表面処理されたフルオロポリマー粉末の水性ペースト組成物には、炭化水素およびAPFO界面活性剤は全く存在しない。APFOが公知の生体蓄積物であり、コーティングシステムにおけるその役割が通常有害であることを考慮すれば、このことは重要である。
【0055】
代表的な界面活性剤に比べて、本発明の表面処理されたフルオロポリマー粉末は、その上に結合された完全に親水性の分子を有し、安定な粉末粒子分散を維持することができる。この親水性分子は界面活性剤に対して類似の様式で挙動するにもかかわらず、それらは固定されており(移動できない)、そして驚くべきことに、フルオロポリマーに対する割合が当該分野のラテックスに対してよりもかなり低いという濃度で安定な分散を提供することに有効である。
【0056】
本発明の表面処理されたフルオロポリマー粉末の水性ペースト組成物において用いられる分子は、「環境に優しい(environmantally friendly)」。
【0057】
本発明に従って生成された、異なる表面処理がされたフルオロポリマー粉末の水性ペースト組成物を混合して、改善され、かつ予期されなかった結果を得ることができる。例えば、低分子量のPTFE微小粉末に対してFEP表面処理された粉末を添加することによって、得られたフィルムの物理的強度は増強される。
【0058】
本発明は、当該分野で既に利用可能なプロセス工程の新規な組み合わせを通じて、本発明にそって処理された種々のフルオロポリマー表面の粉末によって代表される新しい生成物を提供する。この生成物は、当該分野のフルオロポリマー粉末とフルオロポリマーラテックスとの間におさまっており、各々に対する利点のおかげで、有効かつ環境に優しい手段の適用とさらに適合するフルオロポリマーを作製するこの新規な3番目の方法に向かって既存の塗布技術を分極することができる。
【0059】
本発明の別の実施形態によれば、高分子化学種の固定は、フルオロポリマー粉末粒子のコーティングの前(または間)に高分子化学種と結合され得る架橋剤、例えば、有機過酸化物の使用によって達成できる。その後、このコーティングされたフルオロポリマー粉末粒子を加熱して、その後の大気プラズマ処理なしに(これは、必要に応じて依然として用いることができる)、この高分子の架橋を達成することができる(反応性種へのこの架橋剤の分解によって)。
【0060】
以下の非限定的な実施例は、本発明の種々の特色および特徴を例示しているが、これはそれらの実施例に限定されると解釈されるべきではない。本実施例および本明細書のいずれかの場所を通じて、パーセンテージは、他に示さない限り、重量によるパーセンテージである。
【実施例1】
【0061】
(粉末の表面処理)
本実施例では、多数の高分子化学種を用いてフルオロポリマー粉末粒子を表面処理した。
【0062】
表1は、フルオロポリマー粉末、それらの平均粒子サイズおよび分子量を列挙している。表2は、高分子化学種、それらの分子量、最小濃度および最大濃度、架橋剤、ならびに架橋剤の濃度を列挙している。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

ポリカップ(Polycup)172=ポリアミド−エピクロロヒドリン
ダイアック(Diak)#3=ダイアミン
【0065】
フルオロポリマー粉末粒子を表面コーティングするために、測定した量のフルオロポリマー粉末(典型的には2Kg)を、市販の固体/液体ブレンダー(ミキサー)に充填した。次いで、このブレンダーをスタートさせて、所望の量の高分子化学種(典型的には10gm)および所望の量の架橋剤(典型的には0.25gm)をこのブレンダーに添加して、ブレンディングブレードをスタートさせた。この混合物を15分間混和した。混合後、この物質をトレイの上に置いて、104℃のオーブン中で約2時間乾燥させた。重量損失を測定することによってエバポレーションを決定した。乾燥後、この乾燥した物質を150℃のオーブン中で加熱して、架橋剤を活性化した。
【0066】
振動トラフ(vibrating trough)にそって粉末をプラズマを通過させることによって、表面コーティングされたフルオロポリマー粉末を大気プラズマ処理に供した。振動トラフ、プラズマ電極、容易にイオン化可能なガス供給装置、必要に応じて反応性ガス供給装置、ならびに電極および振動トラフ(プラズマを通じてフルオロポリマー粉末を輸送する)のための冷却システムを備える処理装置を設定した。電極を冷却するために空気のフローを開始して、水を用いて振動トラフを冷却した。必要に応じて反応性ガスが用いられる場合(例えば、300ml/分の酸素)、イオン化可能なガスのフロー(例えば、2990ml/分のヘリウム)を、この反応性ガスとともに提供した。この電極に対する電源は、約1.5キロワットに調整してプラズマを生み出した。このプラズマを通じて約0.25kg/分のフルオロポリマーを移動するように振動トラフを調節した。所望の特性を得るためにプラズマを通してこのフルオロポリマー粉末を何回も繰り返し通過させてもよい。高分子化学種で予め処理された(コーティングされた)かまたは予め処理さていない、いずれかのフルオロポリマー粉末について、同様のAPTプロセスを用いる。
【実施例2】
【0067】
(ヒドロキシルおよび酸価)
表面処理されたフルオロポリマー粉末粒子のアルコールおよび酸の官能性の滴定によって、表面処理の程度を決定することができる。
【0068】
本実施例においては、ASTM D 1957−86の方法に従った。この方法は、アセチル化反応を利用し、これが無水酢酸との反応を通じて第一級アルコールをエステルに変換して、1モルの酢酸を遊離させる。加水分解の際に、フェノールフタレイン終点(中和)に達するのに、同じことが、コントロールに対して少ない水酸化カリウムで済み、この時、加水分解で2モルの酢酸が生じる。
【0069】
本実施例では、10.0gの各々の個々の表面処理された粉末を250mlのエーレンマイヤーフラスコに入れて、このサンプルおよびフラスコの総重量を記録した。5mlの3:1容積のピリジン:無水酢酸の混合物をこのフラスコに添加した。
[0062]酸価の滴定のために9.0〜11.0gの同じサンプルを第二のフラスコに入れて、このサンプルおよびフラスコの総重量を記録した。10mlのピリジンを第二のフラスコに添加した。
【0070】
両方のフラスコを灌流冷却器に入れて、この内容物を撹拌して、100°Fに1時間加熱した。加熱後、10mlの水を各々のフラスコに添加して、その内容物を10分間冷却させた。
【0071】
冷却後、25mlのブチルアルコールを、この灌流冷却器を通じて各々のフラスコに添加した。次いで、1mlのフェノールフタレインを各々のフラスコに添加して、0.5Nの水酸化カリウムを含有するエタノール溶液で中和した。
【0072】
ヒドロキシル価を、以下の式によって算出した:
ヒドロキシル価=B+(SA/C)−V/S×N(56.1)
ここで、A=酸価の滴定に必要なKOH溶液(ml);B=試薬ブランクの滴定に必要なKOH溶液(ml);C=酸価に用いられるサンプル(グラム);V=アセチル化検体の滴定に必要なKOH溶液(ml);そしてS=アセチル化のためのサンプル(グラム);そしてN=規定度(0.5)。
【0073】
表面処理されたフルオロポリマー粉末のいくつかのサンプルの代表的なヒドロキシル価および酸価を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
本実施例の結果を用いて、実際に達成された表面処理の程度が概して理論的な計算と一致しているということが確認された。
【実施例3】
【0076】
(重量低減および抽出結果)
本実施例においては、抽出試験を実施して、フルオロポリマー粉末に共有結合もしておらず、永続的に吸着もされていない表面処理された物質の量を決定した。
【0077】
約5gの各々のサンプルを、化学天秤の上に置いて、その重量を記録した。60mlの適切な溶媒(ポリエチレングリコールについてはイソプロパノール、ポリビニルアルコールについては脱イオン水など)を、このサンプルと混合した。この混合物を低熱(約100°F)で2時間以上混合した。加熱後、このサンプル混合物を150mlのDurapore(商標)0.22μm濾過デバイスに注いだ。溶媒として除去された物質はこのフィルターを通過して回収された。溶媒の総重量(抽出された物質を含む)を記録した。約1gの溶媒をアルミニウム秤量皿において、その溶媒および皿の総重量を秤量した。この溶媒を、100℃に加熱したベント型オーブン中でエバポレートさせた。抽出された物質の割合を以下の式によって算出した:
E=100×[(F−P)/S]×T/W
ここで、E=抽出された表面処理の割合;F=エバポレーション後の天秤皿および抽出された物質の最終重量;P=天秤皿自重;S=固体パーセント試験のための溶媒のサンプル重量;T=溶媒の総重量;W=フルオロポリマーサンプルの重量。
【0078】
本実施例の手順を用いて、図1のグラフを作成した。このグラフは、PTFE上での5%PEGについての大気プラズマ処理の通過回数に対する大気プラズマ処理による重量損失を示す。このグラフは、実際に測定された値と予測重量損失の間の比較を含む。図1において、重量損失は200℃で2時間測定した。過剰の水を用いるポリマーの洗浄によって抽出を達成した。
【0079】
図1は、処理されたPTEFがAPTを反復して通過するにつれて、ポリマーに結合された(そしてエバポレーションによっても抽出によっても除去されない)PEGの量が、増大するということを示す。ヒドロキシル価は、APTでの下向きの傾向を示す、図1において経験的に予測される重量に従わないので、PEGはエバポレートされていなかったと結論できる。
【実施例4】
【0080】
(噴霧試験の結果)
本実施例においては、表面処理されたフルオロポリマー粉末を、ペーストに形成し、これをアルミニウムパネルの上に噴霧してコーティング特性を試験した。
【0081】
所望の量の脱イオン水を混合ボウルにいれて攪拌することによって、40重量%の固体を有するペーストを調製した。次に、十分なフルオロポリマー粉末をこの攪拌中の混合物に直接入れて、40重量%の固体を有する混合物を生成した。この混合物が均質になるまでこの混合を続けて、次いでこの混合物を水平ミルに通した。
【0082】
#66S液体ノズルおよび#66SDエアキャップを備える空気補助式のBinks Model 69スプレーガンを用いて、粉末ペーストをアルミニウムQパネルの上に噴霧した。操作者によって決定される場合、噴霧の容易さのために必要な場合、さらなる水を用いてもよい。噴霧コーティング後、次にこのパネルをフラッシュして、100℃で2分間、換気のよいオーブン中で水を除去した。次いで、このコーティングされたパネルを、このフルオロポリマーの融点を約30℃上回る温度で約10分間硬化させた。
【0083】
このフィルムの厚みは、0.1〜1.0ミルの範囲である(乾燥フィルム厚み)。このフィルムを、重大なクラッキングの深さ、フィルムの完全性、可撓性、および光沢、色などを含む全体的外観によってランク付けした。
【0084】
いくつかのコーティングのデータおよび解析を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4に示される結果によって、本発明によって生成された表面処理されたフルオロポリマー粉末は、比較的簡単かつ有効な噴霧プロセスによってフルオロポリマー表面コーティングを生成するために用いることができるということが示される。
【0087】
本発明の表面処理されたフルオロポリマーは、種々の物品、組成物および添加物を生成するために用いることができる。いくつかの例示的な例としては、充填材、押し出し補助剤、オイル中の添加物、グリースおよび他の潤滑剤、ならびにインク中の添加物、塗料およびコーティング組成物が挙げられる。
【0088】
大気プラズマ処理に加えて、本発明の経過中に、X線照射、電子線照射および紫外線照射のような他の高エネルギープロセスを用いてフルオロポリマー粉末の表面上に高分子を固定できることがまた確認された。
【0089】
上記のように、そして本明細書において実施例1〜4において具体化されるように、フルオロポリマー粒子を大気プラズマ処理に対して供することによってこのフルオロポリマー粒子を表面処理するプロセスは、この粉末の粒子サイズが小さくなるにつれて次第に困難になる。
【0090】
2ミクロン以下の粒子サイズを有する粒子を含む微小粉末を処理するために、本発明者はフルオロポリマー粒子が液体媒体中に分散され、液体媒体中のままで高エネルギー処理に供されるプロセスを開発した。このような高エネルギー処理としては、総称して本明細書においては「イオン化照射」と呼ばれる大気プラズマ、X線照射、電子線照射、紫外線照射などが挙げられる。
【0091】
詳細には、フルオロポリマーは「ウエットシステム(wet system)」において処理され得るということが見出されている。1つの局面において、フルオロポリマー粒子を、高分子とともに液体媒体中に分散し、その後に、その上にこの高分子を固定することによってこのフルオロポリマー粉末を表面処理するために、高エネルギー処理、例えばイオン化照射、特に電子ビーム照射に供する。さらに、PTFEのために、この照射処理は同時にこのフルオロポリマー内の鎖の切断を同時に誘導し、それによってこのフルオロポリマーの分子量を減らして、多くの付加的な適用に極めて所望され得る、表面処理されたフルオロポリマー分散を形成する。この表面処理されたフルオロポリマー分散を必要に応じて乾燥して、表面処理されたフルオロポリマー微小粉末を形成してもよい。
【0092】
またとりわけ、その中に高分子を含まないPTFEの液体分散を、高エネルギー処理に供する場合、鎖の切断がフルオロポリマー内で誘導され、それによってこのフルオロポリマーの分子量が低下して、フルオロポリマー分散が形成される。これはフルオロポリマー微小粉末を形成するために乾燥されてもよい。高エネルギー処理の前後にこの分散に界面活性剤が必要に応じて添加されてもよい。
【0093】
1つの実施形態によれば、このフルオロポリマー粉末は、高分子化学種もしくは上記で言及された表面処理剤、または界面活性剤のいずれかと一緒に水のような極性の液体媒体中に分散されて粒子分散を形成する。次いで、得られた粒子分散を照射中に置くか、または照射に通してこの分散を通過、例えばポンピングさせることによるかのいずれかによって、この得られた粒子分散を高エネルギー処理、例えばイオン化照射処理に供する。1つの実施形態によれば、この分散は放射線内に位置する薄壁の低放射線吸収導管を通じてポンピングされる。この導管は、所望のレベルの処理を生成するようにこの放射線内で十分な滞留時間を提供する任意の都合のよい構成を有し得る。この構成としては、この放射線を通じた分散のセグメントの数回の通過を提供する構成が挙げられる。
【0094】
本発明の過程において、フルオロポリマー粉末が、界面活性剤または加えられた界面活性剤有りまたは無しで直接重合化から作製された分散とともに水中に分散され、そして低レベル(5Mrad以下)のイオン化照射処理に供され乾燥された場合、このプロセスは、乾燥の際に高度に凝集された物質を生じる照射を受けなかった物質とは異なり自由流動粉末を生じたということが、驚くべきことに発見された。この結果によって、このフルオロポリマー粒子の表面が化学的変化および/または物理的変化を受けたということが示される。
【0095】
本発明による、フルオロポリマー粉末を処理するための「ウエットシステム」を用いるプロセスは、大きいサイズ範囲にわたって粒子サイズの処理を可能にする。このサイズとしては、例えば、振動トラフまたは他の粉末輸送手段を用いて効率的に乾燥処理できる粉末のサイズよりもかなり小さいサイズが挙げられる。本明細書において言及された「ウエットシステム」は、100ミクロン以下のサイズ範囲を有する粒子を処理するために用いることができるが、0.05ミクロン以下程度の小ささの粒子サイズを有する粉末は、本明細書に言及される「ウエットシステム」を用いて有利に表面処理することができる。さらに、最大500ミクロンまでのサイズを有する顆粒フルオロポリマー物質も、本発明の「ウエットシステム」において表面処理できる。
【0096】
本発明による「ウエットシステム」においてフルオロポリマー粒子を表面処理する工程に関連する別の利点は、液体媒体が、イオン化照射処理の間、照射による熱を吸収し、これによってこの粉末粒子および表面処理剤が熱の影響に曝されることから保護するということである。液体媒体が処理の間に照射による熱を吸収する能力によって、等価な乾燥プロセスに対して、照射処理の間に用いられるべき1通過あたりの照射線量は2〜10倍になり、これによって処理プロセスの生産性が向上する。代表的な電子ビーム照射線量は、約0.1〜約300Mrad、より好ましくは約2〜約90Mradである。
【0097】
以下の非限定的な実施例は、ウエットプロセシングシステムの使用に関連する、本発明の種々の特色および特徴を例示している。
【実施例5】
【0098】
(フルオロポリマー粒子の水性照射)
本実施例では、表面処理剤、例えば、高分子の有無においてフルオロポリマー粉末のウエットシステムを準備して、電子ビーム照射に供した。このウエットシステムは例えば、フルオロポリマー粒子の懸濁物、市販のフルオロポリマー粒子懸濁物、またはフルオロモノマーの直接重合から、市販の分散品を介して生成されてもよい。
【0099】
2〜4重量%のPAAおよびPVOHを、重合された安定化されていない水性PTFEおよびPVDFラテックスに直接添加して(固体重量%は、水中で15〜40重量%に変化する)、得られた混合物は凝集しなかったことが見出された。この混合物の格子は、安定であると思われ、長時間経過後に極めて緩慢に沈下して、この液体の上部20%に透明な層を生じるだけである。再懸濁は極めて容易に得られた。これらの結果によって、この混合物は照射処理に対して十分に安定であったことが示される。2重量%未満の表面処理剤が用いられ得ることがさらに決定された。実際には、本明細書において言及された表面処理剤は、約0.1重量%〜約10重量%の量で用いられ得る。
【0100】
上記で調製された混合物を、5〜100Mradの吸収線量での電子ビーム照射へ曝すことによって照射した。さらに、水中に60%の固体PTFEを含有する市販の分散およびTriton−X 100(界面活性剤)を、10〜100Mradの吸収線量での電子ビーム照射へこの混合物を曝すことによって照射した。
【0101】
PTFEについて、乾燥粉末の電子ビーム照射は、鎖の切断を達成するため、およびポリマーの分子量を低下させるための一般に認められた方法である。しかし、本発明の液体分散または「ウェット」システムにおけるPTFEの照射効率は、フルオロポリマーおよび水の重量パーセンテージに基づいて期待される効率よりもかなり高いことが見出された。製粉されたPTFEの40重量%の固体分散を、1.5重量%のPAAを含有する水で処理して、40Mradの電子ビーム照射で照射したところ、照射効率は、乾燥粉末の照射の効率とほぼ等しいことが見出された。しかし、直接重合された分散は、それより低い効率であった。この相違は、0.2ミクロンの直接重合されたPTFE分散の分散粒子の内側の低い酸素レベルに起因すると考えられるが、製粉された顆粒PTFE粒子はかなり高い酸素含量を有する。酸素含量は照射の効率に劇的に影響することが見出されている。例えば、300ppmの過酸化水素(ポリマーの重量あたり)を液体分散に添加した実験によって、電子線照射の有効性の増大が示された。これらの結果は、ポリマー粒子の内側の酸素が、照射効率における主な決定要因の1つであるということを示す。
【実施例6】
【0102】
(フルオロポリマー粒子の水性照射−分子量の変更および照射効率)
本発明によるウエットシステムにおいて、PTFE粒子の照射によるPTFEの分子量の変更を実証するため、および照射効率に対するこのウエットシステムにおける酸素の存在の効果を実証するため、顆粒および水性の分散の両方の形態においてPTFEの一部を水と混合してウエットシステムを形成し、得られた混合物を照射した。その結果を以下の表5に示す。また、界面活性剤、高分子および過酸化水素を、照射の前に示されたとおりこの混合物に添加した。この混合物を10〜100メガラド(Mrad)の吸収線量で電子ビーム照射した。
【0103】
【表5】

【0104】
混合物を照射して乾燥させた後、示差走査熱量測定(DSC)によってPTFEの融点を決定した。概して、予期される値よりも低いPTFEの融点は、PTFEの分子量の低下を示し、そして予期される値よりもPTFEの融点が高いことは、PTFEの分子量の増大を示す。試行1、2および4において、顆粒PTFEのウエットシステムは、照射によって分子量を低下され、ここで質量の低下は、水中で顆粒PTFEを混合する前に開口された顆粒PTFE構造に取り込まれた空気に由来する少量の酸素の存在によって促進されると考えられる。試行3において、顆粒PTFEは、添加された過酸化水素と一緒になって、試行1、2および4の顆粒PTFEで観察されたよりも、分子量のかなりの低下を示した。試行5におけるPTFEの分子量は低下されずにむしろ増大されて、これは、試行5のウエットシステムには利用可能な酸素が不足していたことに起因し得ると考えられる。なぜならこの場合、PTFEは、無酸素下で水性媒体中で直接重合され、次いで各々の粒子はかなりの重量の炭化水素界面活性剤によって囲まれ、これがさらに酸素吸収の障壁として機能するからである。試行6は、やはり界面活性剤の添加無しだが高分子を添加して、水性分散形態中でPTFEを直接重合して、融点に変化がないことを示し、このことは分子量の代表的な改変を示しており、おそらく、この場合、反応性種の有効な供給源としてカルボキシル末端基を用いている。試行7では、少量の界面活性剤および過酸化水素の両方を添加された、水性分散形態で直接重合されたPTFEは、分子量の低下を示した。
【実施例7】
【0105】
(架橋剤でのフルオロポリマー処理、および処理されたフルオロポリマーの基板への塗布)
以下の実施例は、改善された機能的特徴を有する表面処理されたフルオロポリマーを形成するために、高分子を架橋することによるフルオロポリマー粒子上への高分子の固定を例示する。ポリアクリル酸(PAA)を0.5重量%で各々のポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)の粉末に添加して、前述の混合物を40重量%の固体含量で水中に分散してスラリーを形成した。次いで、市販されている架橋剤である0.5重量%(PAAに基づく)のJeffermine D230(ポリオキシプロピレンジアミン)を前述の混合物の各々に添加した。次いで、前述の混合物の各々を1時間90℃に加熱して、そこでの架橋を誘導した。次いで、この混合物を乾燥させて水和性のPVDFおよびETFEの粉末を形成したが、この粉末粒子はその上に固定された架橋PAAを有している。
【0106】
熱処理されたPVDF粉末を水と混合して、得られた混合物をアルミニウム「Q」パネルの上に噴霧し、続いてこのパネルを熱処理してフルオロポリマーを硬化させ、PVDFフィルムを得た。水中に分散した未処理のPVDF粉末の混合物に、界面活性剤であるTriton X−100をコントロールして添加し、さらにアルミニウム「Q」パネルの上に噴霧して硬化させフィルムを形成した。このパネルを各々180°に曲げ、次いで煮沸水に曝した。処理されたPVDFのフィルムは、曲げられた領域でさえ、パネルに対する良好な接着性を示し、クラッキングも、変色も剥離もなかった。対照的に、未処理のPVDFのフィルムは、高レベルのクラッキングおよびパネルからの実質的な剥離を示し、パネルが180°曲げられた領域ではかなりの程度まで剥離が生じた。
【0107】
本発明を、前述の記載から、特定の手段、物質および実施形態を参照して記載してきたが、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に突き止めることが可能であり、そして種々の変化および改変を、上記のような本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく種々の用途および特徴に適合するように行なうことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】PTFE上での5%PEGについての大気プラズマ処理の通過回数に対する重量損失を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、以下の工程:
a)液体分散体中にフルオロポリマー粒子を提供する工程;
b)該分散体を高エネルギー処理に供して、該フルオロポリマー粒子の鎖の切断を生じる工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記工程b)の前に、該分散体に対して低分子で可動性の反応性分子種を添加するさらなる工程をさらに包含する、方法。
【請求項3】
請求項3に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記低分子で可動性の反応性分子種が酸素源を含む、方法。
【請求項4】
請求項4に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記酸素源が過酸化水素を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記分散体を乾燥させて、フルオロポリマー微小粉末を提供する工程c)、
をさらに包含する、方法。
【請求項6】
請求項2に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記工程b)が、フルオロポリマー粒子の分子量の低下を生じる、方法。
【請求項7】
請求項1に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、前記工程b)の高エネルギー処理が、大気プラズマ処理、X線照射、電子線照射、イオンビーム照射および紫外線照射のうちの1つを含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載のフルオロポリマー粒子の分子量を変更する方法であって、該フルオロポリマー粒子が:
以下のポリマー:ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル;または
以下のコポリマー:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル、テトラフルオロエチレン−エチレン、ヘキサフルオロエチレン−フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−エチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン;または
以下のターポリマー:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン、またはそれらの混合物、
のうちの少なくとも1つを含む、方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−223036(P2008−223036A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120690(P2008−120690)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願2003−587871(P2003−587871)の分割
【原出願日】平成15年2月13日(2003.2.13)
【出願人】(504390919)ラウレル プロダクツ,エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】