説明

フレキシブル配線板用基板とその製造方法、同基板を用いたフレキシブル配線板

【課題】 耐屈折性の良好なフレキシブル配線板用基板の提供を課題とする。
【解決手段】 絶縁性フィルム基材の少なくとも片面に乾式めっき法または無電解めっき法によりシード層を設けた後、該シード層上にめっき法により、銅めっき層とニッケルめっき層とを交互に少なくとも1回、形成する。この際、銅めっき層を電解めっき法により設け、ニッケルめっき層を電解めっき法または無電解めっき法により設ける。そして、導電層を構成するニッケルめっき層の層厚の合計値をTNiとし、銅めっき層の層厚の合計値をTCuとしたときに、この比S(TNi/TCu)が0.1〜0.7になるように各めっき層の厚さを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈折性の向上を図った配線用導電層からなるフレキシブル配線板用基板とその製造方法、および該基板を用いたフレキシブル配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板は、一般に屈曲性を必要とするハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッド、デジタルカメラ内の屈折配線板用などとして広く用いられている。
【0003】
フレキシブル配線板を製造するために用いられるフレキシブル配線板用基板には、大きく分けて、電解銅箔や圧延銅箔を接着剤でポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、PETフィルムなどの絶縁性フィルムに接着した3層基板(銅層/接着剤層/ベースフィルム層(絶縁層))と、絶縁性フィルム表面にめっき等で直接銅層を形成した配線基板(通称めっき基板)や銅箔に直接ポリイミドワニス等を塗って絶縁層を形成した配線基板(通称キャスト基板)等の2層フレキシブル配線基板(銅層/ベースフィルム層(絶縁層))、さらにポリイミドフィルムの両面に前記と同様な方法により銅層を設けた両面基板とがある。
こうした、フレキシブル配線板には、上記電子機器等の屈折配線板等に利用されていることから、近年、該フレキシブル配線板の配線に対する耐屈折性の向上が望まれている。
【0004】
フレキシブル配線板の配線に用いられる導電層の耐屈折性の評価としては、JIS−P−8115やASTM−D2176で規格されたMIT耐折度試験(folding endurance test)が商業上広く採用されている。この試験では、試験片回路を形成する回路パターンが断線するまでの屈折回数で、その配線基板の耐屈折性が評価され、屈折回数が大きいほど耐屈折性が良いとされている。
【0005】
かかる電気回路配線等に用いられる導電層用の銅箔の耐屈折性の向上を図るものとしては、例えば特許文献1にあるように、カーボン量が18ppm以下の銅箔を用いて該銅箔表面を100℃以上で加熱処理することにより耐屈曲性や常温及び高温時の伸びの向上を図ったり、また、特許文献2にあるように、伸び率が20〜40%の電解銅箔を用いて圧下率40〜80%の圧延加工を行うことにより耐屈折性の向上を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特開平8−283886号公報
【特許文献2】特開平6−269807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、特許文献2に記載の技術は、いずれも銅箔自体に対してしか適用することができず、こうした銅箔を用いたフレキシブル配線板用基板としては、前記3層基板や、キャスト基板にならざるを得なかった。
従って、絶縁性フィルム上に直接めっきで導電層が設けられるフレキシブル配線板用基板(めっき基板)では、絶縁性フィルム上の導電層のみに対し熱処理や圧延加工をすることができず、上記従来技術はいずれも採用することができなかった。
以上のような経緯から、フレキシブル配線板用基板のうち特にめっき基板においては、耐折性の良い導電層を有するものを得るための有効な提案は未だなされていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本第1の発明は、絶縁性フィルム基材と、該絶縁性フィルム基材の少なくとも片面に設けられたシード層と、該シード層上に設けられた導電層からなるフレキシブル配線板用基板において、前記導電層が銅めっき層とニッケルめっき層とからなる多層構造であることを特徴とするものである。
【0008】
そして、本第2の発明は、前記発明において、銅めっき層が電解めっき法で形成され、ニッケルめっき層が電解めっき法または無電解めっき法で形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
そして、本第3の発明は、前記第1または2のいずれかの発明において導電層を構成するニッケルめっき層の層厚の合計値TNiと銅めっき層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)が0.1〜0.7であることを特徴とするものである。
【0010】
そして、本第4の発明は、前記第1〜3の発明の何れかのフレキシブル配線板用基板の製造方法であり、絶縁性フィルム基材の少なくとも片面に乾式めっき法または無電解めっき法によりシード層を設けた後、該シード層上にめっき法により、銅めっき層とニッケルめっき層とを交互に少なくとも1回、形成するものである。
【0011】
そして、本第5の発明は、前記発明において銅めっき層を電解めっき法により設け、ニッケルめっき層を電解めっき法または無電解めっき法により設けるものである。
【0012】
そして、本第6の発明は、前記発明において、導電層を構成するニッケルめっき層の層厚の合計値TNiと銅めっき層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)を0.1〜0.7とすることを特徴とするものである。
【0013】
そして、本第7の発明は、前記第1〜3の発明の何れかのフレキシブル配線板用基板を用いて製造されたフレキシブル配線板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフレキシブル配線板用基板は、前記したごとく樹脂フィルム基材の少なくとも片面に形成したシード層の上に、銅めっき層とニッケルめっき層とを用いて多層構造の導電層を形成したものである。こうすることにより、折り曲げにより発生する応力を、微細なクラックをニッケル層に発生させることにより分散させ、銅層への応力の集中を回避させることができ、本発明のフレキシブル配線板用基板の耐屈折性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明方法によれば、既存の設備と完成された従来技術とを組み合わせることにより本発明のフレキシブル配線板用基板を製造することができるので、耐屈折特性に優れた本発明のフレキシブル配線用基板を高品質、低コストで製造することができる。
また、本発明の基板を用いて作成したフレキシブル配線板の耐屈折性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るフレキシブル配線板用基板を得るには、まず、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、PETフィルム等の絶縁性樹脂フィルム基材の少なくとも片面にシード層を設ける。シード層を設ける方法としては、蒸着法、スパッタリング法等の乾式めっき法、あるいは無電解めっき法を用いうる。シード層の材質としては、導電性を有するものであれば支障はないが、絶縁性フィルムとの密着性、配線形成時の簡便性等より、銅、ニッケル、クロム等の金属やこれらの合金とすることが好ましい。
なお、導電性酸化物粉を塗布してシード層を形成することも可能である。
その後、シード層の上に導電層を設ける。この導電層は銅めっき層とニッケルめっき層との多層構造とする。
【0017】
導電層を構成する銅めっき層には配線としての機能が強く求められるため、緻密であることが望まれる。このような銅層を設けるには電解めっき法を適用するのが好ましい。簡便に緻密な銅層を得ることができるからである。この際、市販のめっき浴が適用でき、該めっき浴に推奨される条件に従ってめっきを施すことが好ましい。
【0018】
ニッケルめっき層は、屈折時にニッケルめっき層内に微細なクラックを発生させ、もって屈折時に発生する応力を分散させてクラックの進行を遅延させ、銅めっき層でのクラックの発生を送らせようとするものである。従って、あまりに緻密なニッケル層ではこうした目的がかなえられないため、ニッケルめっき層は電解めっき法または無電解めっき法により設けることが好ましく、特に無電解めっき法によることが推奨される。この際にも市販のめっき浴が使用でき、めっき条件も当該めっき浴について推奨されるものとすればよい。
【0019】
導電層を銅めっき層とニッケルめっき層との多層構造としたのは、前記したように折り曲げ時に発生する応力を、折り曲げ時にニッケル層内で微細なクラックを発生させ、これにより当該応力を分散させ、銅層へのクラックの進行を遅延させるためである。
【0020】
この場合、導電層を構成する銅めっき層とニッケルめっき層との厚さの比を、ニッケルめっき層の層厚の合計値TNiと銅めっき層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)を0.1〜0.7とすると、より効果的である。この比Sを0.1未満とするとニッケルめっき層の機能が十分発揮されず、折り曲げ時に発生する応力が直接銅めっき層に作用し、銅めっき層へのクラックの進行が早くなり、断線も早まる。
【0021】
一方、この比Sが0.7を越えると、ニッケルめっき層の微細クラックが崩壊し、大きなクラックとなり、これまた銅めっき層に直接応力が作用することになり、断線が早まる。
【0022】
本発明のフレキシブル配線板用基板を用いてフレキシブル配線板を得るには、従来のように、ホトリソグラフィー法を用いることができる。
【0023】
以下、実施例を用いてさらに本発明を説明する。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
厚さ25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製 製品名 カプトン)の表面にスパッタリング法により厚さ0.2μmの銅層が設けられた銅−ポリイミド基板を用いて以下の用にしてフレキシブル配線板用基板を作成した。
前記した厚さ0.2μmの銅層をシード層とし、シード層の上に市販の硫酸銅めっき浴を用いて電解銅めっきを施して厚さ6μmの銅層を設けた。
次に、市販の無電解ニッケルめっき浴を用いて厚さ2μmの無電解ニッケルめっき層を前記銅層の上に設けた。
実際に得られた導電層を構成するニッケル層の層厚TNiと銅層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)は0.33であった。
【0025】
得られたフレキシブル配線用基板の耐屈折性を調べるため、JIS−P−8115のMIT試験法のパターンをホトリソグラフィー法にて形成し、これらをJIS−P−8115のMIT試験機(テスター産業株式会社 BE−203耐折性試験機)にセットし、R=0.38mm、荷重500g、屈折回転数175r.p.mの条件下で断線までの屈折回数を求めた。得られた結果を表1に示した。
【0026】
(実施例2)
電解銅めっき層の厚さを4μmとし、無電解ニッケルめっき層の厚さを3μmとし、その上に厚さ1μmの電解銅めっき層を設けた以外は実施例1と同様にしてフレキシブル配線板用基板を作成した。得られた導電層の比Sは0.6であった。
【0027】
得られたフレキシブル配線板用基板について実施例1と同様の条件でMIT試験を行なった。得られた結果を表1に併せて示した。
【0028】
(実施例3)
電解銅めっき層の厚さを7μmとし、厚さ1μmの電気ニッケルめっき層を設けた以外は実施例1と同様にしてフレキシブル配線板用基板を作成した。得られた導電層の比Sは0.1であった。なお、電気ニッケルめっき層を得るために使用しためっき浴は自家建浴のワット浴であった。
【0029】
得られたフレキシブル配線板用基板について実施例1と同様の条件でMIT試験を行なった。得られた結果を表1に併せて示した。
【0030】
(実施例4)
本例は、従来例に相当する。
導電層を厚さ8μmの電気銅めっき層とした以外は実施例1と同様にしてフレキシブル配線板用基板を作成した。
【0031】
得られたフレキシブル配線板用基板について実施例1と同様の条件でMIT試験を行なった。得られた結果を表1に併せて示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果より明らかなごとく、本発明のフレキシブル配線用基板は、従来品に比べて断線までの屈折回数が大幅に向上している。
【0034】
この結果とニッケルめっき層との特性とを考慮すると、本発明品では、MIT耐折度試験で受ける折り曲げ応力をニッケルめっき層で微細なクラックを形成することにより分散し、銅めっき層へのクラックの進行を抑制することができるものと推察できる。
なお、実施例4では、従来品と同様に導電層が銅めっき層のみであり、MIT耐折度試験で受ける折り曲げ応力が直接銅めっき層表面に、局部的にかかるため、当該部分にクラックが入り易く、そのクラックが厚さ方向に伝播し、断線につながることが試験後の破断面の観察により確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフレキシブル配線板用基板は、前記したごとく樹脂フィルム基材の少なくとも片面に形成したシード層の上に、銅めっき層およびニッケルめっき層を順次組み合わせて形成した多層構造の積層めっき層を設けた構成にしたことにより、折り曲げ特性に優れ、屈曲部、折り曲げ部を有する回路基板として優れたものとなる。このため、本発明のフレキシブル配線板用基板は特にハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなど、またデジタルカメラ内の屈折配線用回路基板などの良好な屈折特性や屈曲特性が求められる配線板用として優れた効果を発揮する。また、本発明の方法に従えば、このような高品質のフレキシブル配線板用基板を低コストで製造することができる。加えて、本発明のフレキシブル配線板用基板を用いて作成したフレキシブル配線板の耐屈折性は高く、信頼性が高い。従って本発明の工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルム基材と、該絶縁性フィルム基材の少なくとも片面に設けられたシード層と、該シード層上に設けられた導電層からなるフレキシブル配線板用基板において、前記導電層が銅めっき層とニッケルめっき層とからなる多層構造であることを特徴とするフレキシブル配線板用基板。
【請求項2】
前記銅めっき層が電解めっき法で形成され、前記ニッケルめっき層が電解めっき法または無電解めっき法で形成されたことを特徴とする請求項1記載のフレキシブル配線板用基板。
【請求項3】
ニッケルめっき層の層厚の合計値TNiと銅めっき層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)が0.1〜0.7であることを特徴とする請求項1または2記載のフレキシブル配線板用基板。
【請求項4】
絶縁性フィルム基材の少なくとも片面に乾式めっき法または無電解めっき法によりシード層を設けた後、該シード層上にめっき法により、銅めっき層とニッケルめっき層とを交互に少なくとも1回、形成することを特徴とするフレキシブル配線板用基板の製造方法。
【請求項5】
銅めっき層を電解めっき法により設け、ニッケルめっき層を電解めっき法または無電解めっき法により設けることを特徴とする請求項4記載のフレキシブル配線板用基板の製造方法。
【請求項6】
ニッケルめっき層の層厚の合計値TNiと銅めっき層の層厚の合計値TCuとの比S(TNi/TCu)を0.1〜0.7とすることを特徴とする請求項4または5記載のフレキシブル配線板用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3記載の何れかのフレキシブル配線板用基板を用いて製造されたフレキシブル配線板

【公開番号】特開2008−186970(P2008−186970A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18714(P2007−18714)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】