説明

フレーム構造体の溶接構造

【課題】本発明は、十分な接合強度を確保しつつ、溶接によるフレーム材の変形を抑制することができるフレーム構造体の溶接構造を提供することを目的とする。
【解決手段】一方のフレーム材10の側面に、筒状の他方のフレーム材20の端面を突き当てた状態で、その突き当て部を溶接したフレーム構造体の溶接構造であって、他方のフレーム材20の端面における溶接部30の長さに対する非溶接部31の長さの比率を10〜40%とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のアルミニウム系の押出材等を溶接接合し、車体フレーム等のフレーム構造体を構築する際の溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラックの車体フレーム等のフレーム構造体は、アルミニウム系押出材等からなる角筒状のフレーム材を溶接して組み立てることにより形成されている。溶接によりフレーム構造体に変形が生じると、決められた寸法精度を得ることができないため、各フレーム材を溶接する際には、各部材を治具により拘束する等して、溶接により生じるフレーム構造体の変形を抑制している。
【0003】
また、特許文献1では、左右一対のフレーム材(サイドメンバ)同士の間に複数のフレーム材(クロスメンバ)を突き当てて溶接する際に、変形を抑制するため、サイドメンバに対するクロスメンバの突き当て部での溶接の向きと順序の最適化を図っている。
【0004】
また、特許文献2では、他方のフレーム材(サイドメンバ)に突き当てるべき一方のフレーム材(クロスメンバ)の端面を予めテーパ状に形成することで、突き当て部の四辺部のうち一辺部に相当する位置において他方のフレーム材との間にV溝状の開先を形成しておき、開先を形成した一辺部を最初に溶接し、その後に反対側の一辺部の溶接を行うことで、倒れ量(変形量)を相殺している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002‐356177号公報
【特許文献2】特開2005‐21933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら従来技術では、フレーム材の横方向(倒れ方向)の変形を拘束することは可能であるが、溶接時の凝固収縮による長さ方向の変形を拘束することは難しい。このため、溶接前のフレーム材の寸法設計において、凝固収縮分を経験値から予測して、その分を大きく設定しておくのが現状であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、十分な接合強度を確保しつつ、溶接時の凝固収縮によるフレーム材の変形を抑制するフレーム構造体の溶接構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフレーム構造体の溶接構造は、一方のフレーム材の側面に、筒状の他方のフレーム材の端面を突き当てた状態で、その突き当て部を溶接したフレーム構造体の溶接構造であって、前記他方のフレーム材の端面における溶接部の長さに対する非溶接部の長さの比率を10〜40%としたことを特徴とする。
【0009】
他方のフレーム材の端面において溶接施工しない部分(非溶接部)、つまり接合時に凝固収縮しない部分を設定することにより、溶接部における凝固収縮による変形を非溶接部が拘束するので、全体の変形を抑制することができる。この場合、非溶接部の比率を10〜40%とすることにより、フレーム材の変形を有効に抑制し、かつ必要な接合強度も確保することができる。10%未満では非溶接部による拘束効果が乏しく、変形が生じ易い。40%を超えると、溶接長さが短くなるとともに、非溶接部が長くなり、この非溶接部の部分で接合部に隙間が生じて接合強度を損なうおそれがある。10〜40%の範囲に設定することにより、接合部が確実に密接し、変形を抑制しつつ突き当て部の全長を溶接したときとほぼ同等の接合強度を確保することができる。
【0010】
本発明のフレーム構造体の溶接構造において、少なくとも前記他方のフレーム材はアルミニウム合金の押出材により形成されているとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非溶接部により溶接部の凝固収縮を拘束することができ、その非溶接部の長さを溶接部に対して所定の比率で設定したことにより、溶接時の凝固収縮による変形を抑制するとともに、突き当て部の全長を溶接したときとほぼ同等の接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態のフレーム構造体の溶接構造を示すもので、(a)がフレーム構造体の全体斜視図、(b)が接合部の溶接部と非溶接部とを示す拡大断面図である。
【図2】接合部の変形例を示す図1(b)同様の拡大断面図である。
【図3】接合部の他の変形例を示す図1(b)同様の拡大断面図である。
【図4】接合強度の測定方法を説明する斜視図である。
【図5】図2に相当する断面形状での実施例及び比較例における各試料の条件及び評価を一覧にした表である。
【図6】図3に相当する断面形状での実施例及び比較例における各試料の条件及び評価を一覧にした表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフレーム構造体の溶接構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態のフレーム構造体の溶接構造は、図1に示すように、2本の角筒状に形成されたサイドフレーム(本発明の一方のフレーム材)10が相互に平行に並べられ、あるいは車体前方から後方に向かって広がるように並べられ、これらサイドフレーム10の間に、同じく角筒状に形成された2本のクロスフレーム(本発明の他方のフレーム材)20が相互に平行に並べられた状態に接合され、全体として矩形の枠状に構築されている。この場合、サイドフレーム10の側面に、クロスフレーム20の端面を突き当てた状態で、その突き当て部が溶接されている。
サイドフレーム10及びクロスフレーム20は、アルミニウム合金の押出成形によって角筒状に形成されており、例えば、高さH:50〜150mm、幅W:50〜150mm、厚さt:2〜6mmの範囲で形成される。
【0014】
また、突き当て部のうちの一部が溶接部30とされ、この溶接部30以外は溶接していない非溶接部31とされている。また、図1に示す例では、クロスフレーム20は、中央にリブ21が形成されていることにより横断面正方形の「日」の字状をなしており、その周壁部22が溶接部30とされ、リブ21が非溶接部31とされている。図1(b)では二点鎖線で囲むハッチングした領域が溶接部30を示し、ハッチングしていない領域のうちリブ21の部分が非溶接部31を示す。したがって、この図1(b)では、溶接部30の長さに対する非溶接部31の長さの比率は25%に設定される。
この溶接部30の長さに対する非溶接部31の長さの比率としては10〜40%が良く、溶接部30と非溶接部31との長さの比率をこの範囲内に収めつつ突き当て部に溶接を施すことにより、変形の抑制と必要な接合強度との両方を満足する溶接構造とすることができる。
【0015】
なお、突き当て部に非溶接部31を設ける場合、図1(b)に示すように周壁部22の内側にリブ21を設けてもよいし、図2に示すフレーム材(本発明の他方のフレーム材)40のように周壁部22の一部を非溶接部31としてもよい。また、図3に示すフレーム材(本発明の他方のフレーム材)50ように、周壁部22の外側に張り出し部51を形成して、その張り出し部51を非溶接部31としてもよい。さらに、これらの構造を組み合わせるなど、適宜に設計することができる。
【0016】
このように、このフレーム構造体の溶接構造によれば、他方のフレーム材20,40,50の突き当て部に、溶接部30と非溶接部31とを設け、溶接部30の全長に対する非溶接部31の長さの比率を10〜40%とすることにより、溶接時の凝固収縮を非溶接部31により拘束し、他方のフレーム材20,40,50の突き当て部の全面を溶接する場合に比較してひずみの発生量を減少させ、かつ突き当て部の全長を溶接したときとほぼ同等の接合強度を得ることができる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明のフレーム構造体の溶接構造に係る実施例を比較例と比較しながら説明する。
高さH:75mm、幅W:75mm、厚さt:2.5mmの図2に示す横断面正方形の角筒状のフレーム材で形成された長さL1:500mmのサイドフレームと、同じ断面の長さL2:300mmのクロスフレームとを用意し、図5に示す条件の溶接構造により、試料1〜9の溶接構造のフレーム構造体を組立て、各フレーム構造体の変形量及び接合強度(継手強度)を確認した。
また、クロスフレームについて同様の断面形状のものに張り出し長さ:75mmの張り出し部を両側面に形成したフレーム材についても、図6に示す条件の溶接構造により、試料11〜19の溶接構造のフレーム構造体を組立て、各フレーム構造体の変形量及び継手強度(接合強度)を確認した。
【0018】
なお、いずれも、フレーム材の材料には、JIS規格における6000系合金のアルミニウムを使用した。また、各フレーム構造体の溶接は、アーク溶接による溶解溶接法を用い、溶接条件としては、溶接電流160A、溶接速度100cm/minとした。
図5及び図6において、溶接部及び非溶接部は、角筒をなす正方形の一辺の長さを「1」として記載した。例えば、試料1は、溶接部の長さが「4」に対して非溶接部の長さは「0」であり、その割合(溶接部の長さに対する非溶接部の長さの比率)は0%である。試料2は、溶接部の長さが「4」に対して非溶接部の長さは「0.2」であり、その割合は5%である。これら図5及び図6で、溶接部は実線で表わし、非溶接部は破線で表わしている。
【0019】
変形量は、溶接前後のクロスフレームの長さの変化量により評価した。
継手強度(接合強度)は、図4に示すように接合後のフレーム構造体100のサイドフレーム10を垂直に立てた状態に図示しない治具で固定し、水平方向に配置されたクロスフレーム40,50を長さ方向に引っ張り、サイドフレーム10とクロスフレーム40,50との接合部15に破断が生じるまで荷重Fを加え続け、その際に記録された最大荷重について、非溶接部を形成しないフレーム材をそれぞれ100%としたときの比率により評価した。図5においては試料1、図6においては試料11をそれぞれ100%として、比率を求めた。継ぎ手強度が80%以上であれば、試料1あるいは試料11とほぼ同等の継手強度であると見なした。
【0020】
図5に示すように、溶接部に対する非溶接部の割合が12.5〜33.3%の場合(試料3,4,7,8)で変形を抑制しつつ継手強度(接合強度)を確保することが確認できた。5.3%以下(試料1,2,6)では変形抑制効果がない。50%(試料5)では変形は抑制できるが、その効果は飽和している。60%(試料9)以上となると、継手強度が大幅に低下する。
【0021】
一方、図6に示す例では、溶接部に対する非溶接部の割合が10〜33%の場合(試料13,14,15,17,18)で変形を抑制しつつ接合強度を確保することができた。5%以下(試料11,12,16)では変形抑制効果がない。54%(試料19)では変形抑制効果はあるが、継手強度が低下した。
【0022】
これらの結果から、溶接部の全長に対する非溶接部の長さの比率を10〜40%とすることにより、溶接時の凝固収縮による変形を抑制し、突き当て部の全長を溶接したときとほぼ同等の接合強度を確保することができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、アーク溶接による溶解溶接法により溶接を行ったが、これに限定されるものではない。例えば、レーザー溶接法、電子ビーム溶接等によっても行うことができる。
また、サイドフレーム及びクロスフレームを構成するフレーム材は、断面が角筒状のものに限定されるものではなく、例えば、円筒状に設けることもできる。
【符号の説明】
【0024】
10 サイドフレーム(フレーム材)
20 クロスフレーム(フレーム材)
21 リブ
22 周壁部
30 溶接部
31 非溶接部
40 クロスフレーム(フレーム材)
50 クロスフレーム(フレーム材)
51 張り出し部
100 フレーム構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のフレーム材の側面に、筒状の他方のフレーム材の端面を突き当てた状態で、その突き当て部を溶接したフレーム構造体の溶接構造であって、前記他方のフレーム材の端面における溶接部の長さに対する非溶接部の長さの比率を10〜40%としたことを特徴とするフレーム構造体の溶接構造。
【請求項2】
少なくとも前記他方のフレーム材はアルミニウム合金の押出材により形成されていることを特徴とする請求項1記載のフレーム構造体の溶接構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91382(P2013−91382A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233933(P2011−233933)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】