説明

フロントフォーク

【課題】 フロントフォークにおいて、減衰力発生の応答性を向上し、アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室のシール性も向上すること。
【解決手段】 フロントフォーク10において、インナチューブ11に設けられて環状隙間室60に連通する孔61と、中空パイプ22の外周の下油室25Bとの間に絞り流路70を設けてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等のフロントフォークとして、特許文献1に記載の如く、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に、インナチューブの内周に摺接する隔壁部を備えた中空パイプを立設し、インナチューブの先端部の内周に設けたピストンが進退する油室を中空パイプの外周に設け、この油室をピストンにより該ピストンの上部の上油室と該ピストンの下部の下油室に仕切り、中空パイプの内周に、インナチューブの上部に及ぶ油溜室を区画するとともに、該油溜室の上部をエア室とし、中空パイプの外周の油室と中空パイプの内周の油溜室とを連通し、インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに設け、アウタチューブとインナチューブの間に、アウタチューブの内周に固定される摺動ガイドとインナチューブの外周に固定される摺動ガイドに挟まれる環状隙間室を設け、この環状隙間室を中空パイプの外周の油室に連通する孔をインナチューブに設けてなるものがある。アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室は、中空パイプの外周の油室から充填される油により、アウタチューブとインナチューブの摺動ガイドを潤滑可能にする。
【0003】
特許文献1に記載のフロントフォークは、圧縮行程で、インナチューブのピストンが中空パイプの外周の油室に進入するとき、下油室の圧力が上昇し、ピストンに設けてあるチェック弁を開いて下油室の油を上油室の側に置換するとともに、インナチューブの断面積×ストローク分の油が下油室から中空パイプの孔を通って油溜室へ移動するときに、該孔で生ずる通路抵抗に起因する減衰力を生ずる。
【0004】
また、伸長行程で、インナチューブのピストンが中空パイプの外周の油室から退出するとき、上油室の圧力が上昇し、上油室の油がピストンに設けてあるチェック弁が形成している絞り流路から下油室に移動するときに、該絞り流路で生ずる通路抵抗に起因する減衰力を生ずる。同時に、インナチューブの断面積×ストローク分の油が油溜室から中空パイプの孔を通って下油室に補給される。
【0005】
尚、インナチューブがアウタチューブに対して伸縮するとき、アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室も拡縮する。このため、圧縮行程で拡張する環状隙間室には中空パイプの外周の油室の油が加圧充填される。また、伸長行程で収縮する環状隙間室の油が中空パイプの外周の油室に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-161940
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のフロントフォークでは、アウタチューブにインナチューブを挿入等したサブ組立体を立て、インナチューブの上端開口部から作動油を注入し、中空パイプの外周の油室、中空パイプの内周の油溜室、アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室に油を充填する組立段階で、該環状隙間室内の上部スペースにエア溜まり生ずる。このエア溜まりは、エア抜き困難であり、フロントフォークの組立後にも滞留する。
【0008】
そこで、フロントフォークの圧縮行程で、中空パイプの外周の下油室の圧力が上昇し、この下油室の圧力がアウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室に及ぶとき、該環状隙間室に滞留しているエアが圧縮され、安定した圧側減衰力を発生することができず、その減衰力発生に応答遅れが出る。
【0009】
また、上述の圧側減衰力を高く設定する場合には、下油室の高圧力が直接環状隙間室のシール部材に及び、オイル漏れを誘発させるおそれがあるため、シール部材の耐圧性能を上げる必要がある。圧側減衰力の上昇がシール部材の耐圧性能により決まるものになる。
【0010】
本発明の課題は、フロントフォークにおいて、減衰力発生の応答性を向上し、アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室のシール性も向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に、インナチューブの内周に摺接する隔壁部を備えた中空パイプを立設し、インナチューブの先端部の内周に設けたピストンが進退する油室を中空パイプの外周に設け、この油室をピストンにより該ピストンの上部の上油室と該ピストンの下部の下油室に仕切り、中空パイプの内周に、インナチューブの上部に及ぶ油溜室を区画するとともに、該油溜室の上部をエア室とし、中空パイプの外周の油室と中空パイプの内周の油溜室とを連通し、インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに設け、アウタチューブとインナチューブの間に、アウタチューブの内周に固定される摺動ガイドとインナチューブの外周に固定される摺動ガイドに挟まれる環状隙間室を設け、この環状隙間室を中空パイプの外周の油室に連通する孔をインナチューブに設けてなるフロントフォークにおいて、インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に絞り流路を設けてなるようにしたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の上油室との間に、圧縮行程で上油室への油の流入を許容し、伸長行程で上油室から流出する油を絞るチェック弁が設けられてなるようにしたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において更に、前記チェック弁がピストンに設けられてなるようにしたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記絞り流路がピストンに設けられてなるようにしたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に、伸長行程で下油室への油の流入を許容し、圧縮行程で下油室から流出する油を絞るチェック弁が設けられてなり、このチェック弁が前記絞り流路を形成するようにしたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において更に、前記チェック弁の絞り流路が一定開度の絞り流路からなるようにしたものである。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項5に係る発明において更に、前記チェック弁の絞り流路が板バルブの開閉により開度を変化する絞り流路からなるようにしたものである。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項5〜7のいずれかに係る発明において更に、前記チェック弁がピストンに設けられてなるようにしたものである。
【0019】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれかに係る発明において更に、前記中空パイプが備える隔壁部の外周に、圧縮行程で該隔壁部の上部の油溜室から中空パイプの外周の油室への油の流入を許容し、伸長行程で中空パイプの外周の油室から該隔壁部の上部の油溜室への油の流出を阻止するチェック弁が設けられてなるようにしたものである。
【0020】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれかに係る発明において更に、前記インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに形成し、中空パイプの外周に被着される環状チェック弁を該容積補償流路に設け、環状チェック弁は、伸長行程でインナチューブの退出容積分の油を油溜室から容積補償流路を経て油室に補給することを許容し、圧縮行程で油室から容積補償流路を経て油溜室に排出されるインナチューブの進入容積分の油を絞る環状流路を中空パイプの外周との間に形成するようにしたものである。
【0021】
請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれかに係る発明において更に、前記インナチューブが圧縮行程で中空パイプの外周の油室に進入する容積分の油を該油室から油溜室に排出する流路に、圧側減衰力調整手段を設けてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0022】
(請求項1)
(a)フロントフォークにおいて、インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に絞り流路を設けた。これにより、下油室と環状隙間室とが絞り流路により分離される。即ち、圧縮行程で、下油室の圧力が上昇しても、この下油室の圧力が環状隙間室に及ぶことが、その絞り流路の存在により抑制される。従って、圧縮行程で環状隙間室の滞留エアが圧縮されることを回避し、安定した圧側減衰力を発生することができるし、その圧側減衰力の発生に応答遅れを生ずることもない。
【0023】
また、上述の圧側減衰力を高く設定した場合にも、下油室の高圧力が環状隙間室のシール部材に及ぶことを上述の絞り流路が抑える。これにより、シール部材の耐圧性能を上げなくてもオイル漏れを防止でき、環状隙間室のためのシール性も向上できる。
【0024】
(請求項2)
(b)インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の上油室との間に設けたチェック弁により、圧縮行程で上油室への油の流入を許容し、伸長行程で上油室から流出する油を絞ることができる。
【0025】
(請求項3)
(c)上述(b)のチェック弁をピストンに設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0026】
(請求項4)
(d)上述(a)の絞り流路をピストンに設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0027】
(請求項5)
(e)上述(a)の絞り流路が、圧縮行程で下油室から流出する油を絞るだけでなく、下油室へ流入しようとする油も絞る場合には、以下の不都合がある。即ち、伸長行程で、上油室の加圧された油が下油室へ移動することを上述(a)の絞り流路が抑える結果、その上油室で加圧された油がインナチューブの孔から環状隙間室に及ぶものになり、該環状隙間室に滞留しているエアを圧縮するものになる。これにより、安定した伸側減衰力を発生することができず、その減衰力発生に応答遅れを生ずる。また、上述の伸側減衰力を高く設定する場合には、上油室の高圧力が直接環状隙間室のシール部材に及び、オイル漏れを誘発させるおそれがあるため、シール部材の耐圧性能を上げる必要がある。伸側減衰力の上限がシール部材の耐圧性能により決まるものになる。
【0028】
これに対し、インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に、伸長行程で下油室への油の流入を許容し、圧縮行程で下油室から流出する油を絞るチェック弁を設け、このチェック弁により上述(a)の絞り流路を形成するものにした。これにより、圧縮行程では、このチェック弁の絞り流路が上述(a)の絞り流路として働き、上述(a)の如くに、圧側減衰力の応答性を向上するとともに、圧側減衰力を高く設定する場合にも、環状隙間室のシール性を向上することができる。
【0029】
更に、このチェック弁により、伸長行程では、上油室の加圧された油が直ちに下油室へ流れることを許容するから、その上油室で加圧された油がインナチューブの孔から環状隙間室に及ぶことがなく、該環状隙間室に滞留しているエアを圧縮することがない。これにより、伸側減衰力の発生を安定化するとともに、その応答性を向上することができる。また、上油室の高圧力が環状隙間室のシール部材に及ばないから、伸側減衰力の上限がシール部材の耐圧性能により決まることがなく、環状隙間室のシール性を向上することができる。
【0030】
(請求項6)
(f)上述(e)のチェック弁の絞り流路が一定開度の絞り流路からなるものとすることにより、チェック弁を簡素化できる。
【0031】
(請求項7)
(g)上述(e)のチェック弁の絞り流路が板バルブの開閉により開度を変化する絞り流路からなるものとすることにより、上述(a)の圧縮行程における圧側減衰力特性の設定調整幅が大きくなる。
【0032】
(請求項8)
(h)上述(e)〜(g)のチェック弁をピストンに設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0033】
(請求項9)
(i)中空パイプが備える隔壁部の外周に、圧縮行程で該隔壁部の上部の油溜室から中空パイプの外周の油室への油の流入を許容し、伸長行程で中空パイプの外周の油室から該隔壁部の上部の油溜室への油の流出を阻止するチェック弁が設けられる。これにより、圧縮行程で、上部の油溜室から上油室への油の供給を促進し、該上油室の負圧化を防止でき、伸長行程への反転時における伸側減衰力のさぼりの発生を防止できる。
【0034】
(請求項10)
(j)インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに形成し、中空パイプの外周に被着される環状チェック弁を該容積補償流路に設けた。そして、環状チェック弁は、伸長行程でインナチューブの退出容積分の油を油溜室から容積補償流路を経て油室に補給することを許容し、圧縮行程で油室から容積補償流路を経て油溜室に排出されるインナチューブの進入容積分の油を絞る環状流路を中空パイプの外周との間に形成した。
【0035】
圧縮行程で、下油室から容積補償流路を経て油溜室に排出される油に、環状チェック弁の環状流路が直線比例特性(粘性抵抗型)の減衰特性を与える。下油室から容積補償流路を経て油溜室に排出される流路が中空パイプに穿設した丸孔であると、減衰特性は二乗孔特性になる。
【0036】
伸長行程では、油溜室から下油室への油の供給を促進し、該下油室の負圧化を防止でき、圧縮行程への反転時における圧側減衰力のさぼりの発生を防止できる。
【0037】
(請求項11)
(k)インナチューブが圧縮行程で中空パイプの外周の油室に進入する容積分の油を該油室から油溜室に排出する流路に、圧側減衰力調整手段を設けることにより、圧側減衰力を微調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は実施例1のフロントフォークを示す全体断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5は中空パイプとピストンを示す断面図である。
【図6】図6はピストンを示す拡大断面図である。
【図7】図7は圧側減衰力調整手段を示す拡大断面図である。
【図8】図8は図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【図9】図9は実施例2のフロントフォークを示す要部断面図である。
【図10】図10はピストンを示す拡大断面図である。
【図11】図11は実施例3のフロントフォークを示す要部断面図である。
【図12】図12はピストンを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(実施例1)(図1〜図8)
フロントフォーク10(油圧緩衝器)は、自動二輪車等に用いられ、図1〜図4に示す如く、車輪側の、一端が閉じ、他端が開口するアウタチューブ11(車輪側チューブ)に、車体側のインナチューブ12(車体側チューブ)を摺動自在に挿入している。アウタチューブ11のインナチューブ12が挿入される開口端には、摺動ガイド13、シールスペーサ14、オイルシール15、ストッパリング16、ダストシール17が設けられる。インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入される下端外周部には、摺動ガイド19が設けられる。
【0040】
アウタチューブ11の底部には銅パッキン21Aを介してボルト21が挿入され、このボルト21により固定される中空パイプ22が立設している。ボルト21は中空パイプ22の下端テーパ部の下の縮径部の内周のねじ部に螺着する。インナチューブ12の上端部にはOリング23Aを介してキャップボルト23の下端部の外周が螺着され、キャップボルト23の中央部にはばね荷重調整手段30が設けられる。
【0041】
ばね荷重調整手段30は、キャップボルト23の中心部の内外にOリング31Aを介して貫通されるとともに、螺着されるアジャストボルト31を有する。アジャストボルト31においてキャップボルト23を貫通してインナチューブ12の内部に挿入された端部には板状の上ばね受部32が固定され、上ばね受部32の下面にばね受カラー33が突き当て支持されている。上ばね受部32及びばね受カラー33と、中空パイプ22の上端部に設けられる拡径状隔壁部22Aの上端面からなる下ばね受部34との間には、圧縮コイルばね35が介装される。アジャストボルト31の螺動により、圧縮コイルばね35の初期荷重が調整され、設定される。
【0042】
中空パイプ22の上端部には上述の隔壁部22Aが設けられ、隔壁部22Aの外周の環状溝22B内に、インナチューブ12の内周に摺接するチェック弁24を嵌挿している。中空パイプ22における隔壁部22Aの下側部分の外周に後述する油室25を設ける。
【0043】
チェック弁24は、中空パイプ22の隔壁部22Aの外周の環状溝22Bに上下動可能に装填されるC字状ピストンリングからなり、インナチューブ12の内周に摺接するとともに、環状溝22Bの溝底部との間に環状流路26を形成する。チェック弁24は、隔壁部22Aの環状溝22B内で、油室25寄りとなる下端面に、径方向に貫通する切欠部24Aを形成して備える。これにより、チェック弁24は、圧縮行程で、下動(インナチューブ12の中空パイプ22に対する相対的な下向き移動に連れて下動する)し、チェック弁24の上端面と隔壁部22Aの環状溝22Bの上側壁部との間に隙間を形成し、隔壁部22Aの上部の後述する油溜室27の油が環状流路26、切欠部24A経由で中空パイプ22の外周の油室25(上油室25A)に流入することを許容する。他方、チェック弁24は、伸長行程で、上動(上油室25Aの高圧化と、インナチューブ12の中空パイプ22に対する相対的な上向き移動に連れて上動する)し、チェック弁24の上端面を隔壁部22Aの環状溝22Bの上側壁部に密着させて閉弁し、中空パイプ22の外周の油室25(上油室25A)から隔壁部22Aの上部の油溜室27への油の流出を阻止する。
【0044】
インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入された先端部(下端部)の内周にはピストン40が設けられる。ピストン40は、インナチューブ12の内径段差部に係止された環状上ピース41と、インナチューブ12の下端かしめ部12Aにより上ピース41に固定化される筒状下ピース42、ワッシャ43とからなり、下ピース42の上テーパ部42Aの内周にチェック弁44を配置している。チェック弁44については後述する。
【0045】
インナチューブ12の先端部のピストン40は、中空パイプ22の外周の油室25を進退し、この油室25を上下に仕切る。即ち、インナチューブ12と中空パイプ22と隔壁部22Aとピストン40により上油室25Aを、ピストン40の下部のアウタチューブ11と中空パイプ22により下油室25Bを形成する。
【0046】
中空パイプ22の内周に、インナチューブ12の上部に及ぶ油溜室27を区画し、油溜室27に作動油を充填するとともに、油溜室27の上部をエア室28とする。そして、中空パイプ22の外周の油室25と、中空パイプ22の内周の油溜室27とを連通し、インナチューブ12が中空パイプ22の外周の油室25に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路50を、中空パイプ22に設けている。容積補償流路50については後述する。
【0047】
アウタチューブ11とインナチューブ12の間に、アウタチューブ11の内周に固定される摺動ガイド13と、インナチューブ12の外周に固定される摺動ガイド19に挟まれる環状隙間室60を設ける。インナチューブ12のピストン40を設けた部分に孔61を穿設するとともに、ピストン40の下ピース42に孔62を穿設し、これらの孔61、62によって環状隙間室60を中空パイプ22の外周の油室25(上油室25A、下油室25B)に連通する。これにより、環状隙間室60に作動油を供給し、摺動ガイド13、19の潤滑、容積補償を行なう。
【0048】
ここで、前述のピストン40に設けたチェック弁44は、環状隙間室60に連通するインナチューブ12の孔61及びピストン40の下ピース42の孔62と、中空パイプ22の外周の上油室25Aとの間に設けられる。チェック弁44は、上ピース41により背面支持される皿ばね状(コイルでも可)スプリング44Aにより付勢され、そのテーパ面を下ピース42の上テーパ部42Aのテーパ面に着座せしめられるとともに、その内周と中空パイプ22の外周との間に環状隙間44Bを形成している。これにより、チェック弁44は、圧縮行程で、高圧化する下油室25Bの油圧により開弁し、下油室25Bから上油室25Aへの油の流入を許容する。他方、チェック弁44は、伸長行程で、高圧化する上油室25Aの油圧により下ピース42の上テーパ部42Aに着座し、上油室25Aから流出する油をその環状隙間44Bにより絞る。
【0049】
中空パイプ22は、伸長行程で高圧化する上油室25Aの油の一部を中空パイプ22の内周の油溜室27に流出させるオリフィス45を、隔壁部22Aの直下に穿設している。
【0050】
尚、インナチューブ12に設けたピストン40の上ピース41と、中空パイプ22に設けた隔壁部22Aの間に、伸長行程のストローク端である最大伸長時のリバウンドスプリング36を設け、最伸長ストロークを規制する。また、中空パイプ22の下端部とアウタチューブ11の底部との間にオイルロックピース37を挟持し、圧縮行程のストローク端である最大圧縮時にピストン40の下ピース42の下端内周に設けたオイルロックカラー38によりオイルロックピース37の周囲の作動油を加圧して最圧縮ストロークを規制する。
【0051】
ピストン40の下ピース42とワッシャ43の間には、下ピース42の内周との間に微小な隙間を介する上述のオイルロックカラー38が上下移動自在に嵌装される。オイルロックカラー38は、フロントフォーク10の最圧縮近辺で、中空パイプ22の側に設けたオイルロックピース37との間に微小隙間を介して嵌合し、最圧縮時の緩衝をする。そして、最圧縮状態からの伸長時には、下方に移動してオイルロックカラー38の外周の微小な隙間からなる油路を開放する。
【0052】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、減衰力発生の応答性を向上し、アウタチューブ11とインナチューブ12の間の環状隙間室60のシール性も向上するため、以下の構成を具備する。
【0053】
フロントフォーク10は、環状隙間室60に連通するインナチューブ12の孔61、及びピストン40の下ピース42の孔62と、中空パイプ22の外周の下油室25Bとの間に、圧縮行程のストローク当初からストローク端に至る全域で下油室25Bから流出する油を絞り、下油室25Bの圧力が環状隙間室60に及ぶことを抑制する絞り流路70を設ける。本実施例の絞り流路70は、ピストン40の下ピース42の中間部(孔62より下油室25B寄りになる部分)に設けられ、下ピース42のその中間部の内径を縮径した縮径部71により構成される。縮径部71の縮径された内径が中空パイプ22の外周との間に形成する環状隙間流路が絞り流路70になる。
【0054】
また、フロントフォーク10は、前述の、油室25と油溜室27を連通し、インナチューブ12が中空パイプ22の外周の油室25に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路50を、アウタチューブ11の底部にボルト21により立設してある中空パイプ22の下端部とオイルロックピース37に設けている。即ち、中空パイプ22の下端テーパ部がオイルロックピース37の上端内径部に嵌合するとき、オイルロックピース37により囲まれる中空パイプ22の下端テーパ部の周方向複数位置に穿設される孔51と、中空パイプ22の下端テーパ部が嵌合するオイルロックピース37の上端内径部の周方向複数位置に刻設される複数条の溝52とが、容積補償流路50を構成する。
【0055】
本実施例では更に、中空パイプ22の外周に被着される環状チェック弁53を容積補償流路50に設けている。環状チェック弁53は、環状体の内径の周方向に沿う環状流路53Aを中空パイプ22の外周との間に形成する(図8)。本実施例では、環状チェック弁53は周方向にて相隣る3個の円弧状環状流路53Aを形成し、中空パイプ22の外周に設けた止め輪54に係止されるワッシャ55がバックアップするバルブスプリング56によりオイルロックピース37の上端面に弾発的に当接する閉弁状態と、下油室25Bの負圧によりオイルロックピース37の上端面から離隔する開弁状態とに切換わり可能にされる。57は中空パイプ22に組込まれた環状チェック弁53等の脱落防止用止め輪である。これにより、環状チェック弁53は、伸長行程で開弁し、インナチューブ12の退出容積分の油を油溜室27から容積補償流路50(孔51、溝52)を経て下油室25Bに補給することを許容する。また、環状チェック弁53は、圧縮行程で閉弁し、インナチューブ12の進入容積分の油を環状流路53Aにより絞り、下油室25Bから容積補償流路50(孔51、溝52)を経て油溜り室27に排出する。
【0056】
また、フロントフォーク10は、容積補償流路50を迂回して油室25と油溜室27を連通するバイパス流路80であって、インナチューブ12が圧縮行程で油室25に進入する容積分の油を下油室25Bから油溜室27に排出するバイパス流路80に、圧側減衰力調整手段90を設けている。即ち、バイパス流路80は、アウタチューブ11の下部に穿設される孔状流路81と、ボルト21に穿設される孔状流路82により構成される。圧側減衰力調整手段90は、アウタチューブ11の下部に螺着されたキャップ91に装填されてなるニードル92をアウタチューブ11の孔状流路81に対して進退させ、孔状流路81の流路面積を絞り調整することにより、圧縮行程で下油室25Bから油溜室27に排出される油を絞り、圧側減衰力を微調整する。
【0057】
フロントフォーク10にあっては、車両が受ける衝撃を圧縮コイルばね35とエア室28の空気ばねによって吸収して緩和し、この衝撃の吸収に伴なう圧縮コイルばね35の振動を以下の減衰作用により制振する。
【0058】
(圧縮行程)(図2の実線)
フロントフォーク10の圧縮行程では、インナチューブ12が伸長状態から下降して下油室25Bの圧力が上昇し、ピストン40のチェック弁44が上向き移動して開くことにより下油室25Bの油が上油室25Aの側に置換するとともに、インナチューブ12の断面積×ストローク分の油が下油室25Bから容積補償流路50に設けた環状チェック弁53の環状流路53A、又は容積補償流路50のバイパス流路80を通って油溜室27へ移動する際に、環状流路53Aで生ずる通路抵抗、又は圧側減衰力調整手段90により絞られた孔状流路81で生ずる通路抵抗に起因する減衰力を生ずる。
【0059】
また、この圧縮行程では、油室25の油が、インナチューブ12の孔61、ピストン40の孔62から、インナチューブ12の下降によって拡張する、アウタチューブ11とインナチューブ12の間の環状隙間室60に補給される。
【0060】
(伸長行程)(図2の破線)
フロントフォーク10の伸長行程では、インナチューブ12が圧縮状態から上昇して上油室25Aの圧力が上昇し、上油室25Aの油がピストン40の上テーパ部42Aに着座せしめられるチェック弁44の環状隙間44Bから下油室25Bに移動する際に環状隙間44Bで生ずる通路抵抗、及び上油室25Aの油が中空パイプ22のオリフィス45から出て油溜室27、中空パイプ22の容積補償流路50経由で下油室25Bに移動する際に生ずる通路抵抗に起因する減衰力を生ずる。
【0061】
また、この伸長行程では、インナチューブ12の断面積×ストローク分の油が油溜室27から下油室25Bに補給される。
【0062】
また、この伸長行程では、インナチューブ12の上昇によって収縮する、アウタチューブ11とインナチューブ12の間の環状隙間室60の油が、インナチューブ12の孔61、ピストン40の孔62から、油室25に排出される。
【0063】
しかるに、本実施例のフロントフォーク10によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク10において、インナチューブ12に設けられて環状隙間室60に連通する孔61と、中空パイプ22の外周の下油室25Bとの間に絞り流路70を設けた。これにより、下油室25Bと環状隙間室60とが絞り流路70により分離される。即ち、圧縮行程で、下油室25Bの圧力が上昇しても、この下油室25Bの圧力が環状隙間室60に及ぶことが、その絞り流路70の存在により抑制される。従って、圧縮行程で環状隙間室60の滞留エアが圧縮されることを回避し、安定した圧側減衰力を発生することができるし、その圧側減衰力の発生に応答遅れを生ずることもない。
【0064】
また、上述の圧側減衰力を高く設定した場合にも、下油室25Bの高圧力が環状隙間室60のシール部材(オイルシール15)に及ぶことを上述の絞り流路70が抑える。これにより、シール部材(オイルシール15)の耐圧性能を上げなくてもオイル漏れを防止でき、環状隙間室60のためのシール性も向上できる。
【0065】
(b)インナチューブ12に設けられて環状隙間室60に連通する孔61と、中空パイプ22の外周の上油室25Aとの間に設けたチェック弁44により、圧縮行程で上油室25Aへの油の流入を許容し、伸長行程で上油室25Aから流出する油を絞ることができる。
【0066】
(c)上述(b)のチェック弁44をピストン40に設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0067】
(d)上述(a)の絞り流路70をピストン40に設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0068】
(e)中空パイプ22が備える隔壁部22Aの外周に、圧縮行程で該隔壁部22Aの上部の油溜室27から中空パイプ22の外周の油室25への油の流入を許容し、伸長行程で中空パイプ22の外周の油室25から該隔壁部22Aの上部の油溜室27への油の流出を阻止するチェック弁24が設けられる。これにより、圧縮行程で、上部の油溜室27から上油室25Aへの油の供給を促進し、該上油室25Aの負圧化を防止でき、伸長行程への反転時における伸側減衰力のさぼりの発生を防止できる。
【0069】
(f)インナチューブ12が中空パイプ22の外周の油室25に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路50を中空パイプ22に形成し、中空パイプ22の外周に被着される環状チェック弁53を該容積補償流路50に設けた。そして、環状チェック弁53は、伸長行程でインナチューブ12の退出容積分の油を油溜室27から容積補償流路50を経て油室25に補給することを許容し、圧縮行程で油室25から容積補償流路50を経て油溜室27に排出されるインナチューブ12の進入容積分の油を絞る環状流路53Aを中空パイプ22の外周との間に形成した。
【0070】
圧縮行程で、下油室25Bから容積補償流路50を経て油溜室27に排出される油に、環状チェック弁53の環状流路53Aが直線比例特性(粘性抵抗型)の減衰特性を与える。下油室25Bから容積補償流路50を経て油溜室27に排出される流路が中空パイプ22に穿設した丸孔であると、減衰特性は二乗孔特性になる。
【0071】
伸長行程では、油溜室27から下油室25Bへの油の供給を促進し、該下油室25Bの負圧化を防止でき、圧縮行程への反転時における圧側減衰力のさぼりの発生を防止できる。
【0072】
(g)インナチューブ12が圧縮行程で中空パイプ22の外周の油室25に進入する容積分の油を該油室25から油溜室27に排出する流路に、圧側減衰力調整手段90を設けることにより、圧側減衰力を微調整できる。
【0073】
(実施例2)(図9、図10)
実施例2が実施例1と異なる点は、環状隙間室60に連通するインナチューブ12の孔61、及びピストン40の下ピース42の孔62と、中空パイプ22の外周の下油室25Bとの間に、伸長行程(図9の破線)で下油室25Bへの油の流入を許容し、圧縮行程(図9の実線)で下油室25Bから流出する油を絞るチェック弁110を設け、このチェック弁110により前述の絞り流路70に代わる絞り流路111を形成することにある。
【0074】
チェック弁110は、ピストン40の環状隙間室60に連通する孔62より上油室25A寄りに設けた前述のチェック弁44と同様の構造からなる。尚、実施例2では、ピストン40の上ピース41とワッシャ43の間に設けられていた下ピース42を、ピストン体101、バルブストッパ102、スペーサ103からなるものにし、スペーサ103とワッシャ43の間に実施例1におけると同様のオイルロックカラー38を嵌挿してある。ピストン40のピストン体101の上テーパ部101Aの内周に実施例1のチェック弁44を配置し、ピストン体101の下テーパ部101Bの内周にチェック弁110を配置した。尚、ピストン体101は実施例1の下ピース42に設けた孔62を備える。
【0075】
チェック弁110は、ピストン40のピストン体101の下テーパ部101Bの内周に配置される。チェック弁110は、ピストン40のバルブストッパ102により背面支持される皿ばね状(コイルでも可)スプリング104により付勢され、そのテーパ面をピストン体101の下テーパ部101Bのテーパ面に着座せしめられるとともに、その内周と中空パイプ22の外周との間に環状隙間110Aを形成する。チェック弁110は、環状隙間110Aにより一定開度の絞り流路111を形成するものになる。これにより、チェック弁110は、伸長行程で高圧化する上油室25Aの油圧により開弁し、上油室25Aから下油室25Bへの油の流入を許容する。圧縮行程では、高圧化する下油室25Bの油圧によりピストン体101の下テーパ部101Bに密着し、下油室25Bから流出する油をその環状隙間110A(絞り流路111)により絞る。
【0076】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)前述した実施例1の絞り流路70は、圧縮行程で下油室25Bから流出する油を絞るだけでなく、下油室25Bへ流入しようとする油も絞る場合には、以下の不都合がある。即ち、伸長行程で、上油室25Aの加圧された油が下油室25Bへ移動することを前述の絞り流路70が抑える結果、その上油室25Aで加圧された油がインナチューブ12の孔61から環状隙間室60に及ぶものになり、該環状隙間室60に滞留しているエアを圧縮するものになる。これにより、安定した伸側減衰力を発生することができず、その減衰力発生に応答遅れを生ずる。また、上述の伸側減衰力を高く設定する場合には、上油室25Aの高圧力が直接環状隙間室60のシール部材(オイルシール15)に及び、オイル漏れを誘発させるおそれがあるため、シール部材(オイルシール15)の耐圧性能を上げる必要がある。伸側減衰力の上限がシール部材(オイルシール15)の耐圧性能により決まるものになる。
【0077】
これに対し、インナチューブ12に設けられて環状隙間室60に連通する孔61と、中空パイプ22の外周の下油室25Bとの間に、伸長行程で下油室25Bへの油の流入を許容し、圧縮行程で下油室25Bから流出する油を絞るチェック弁110を設け、このチェック弁110により前述の絞り流路70に代わる絞り流路111を形成するものにした。これにより、圧縮行程では、このチェック弁110の絞り流路111が前述の絞り流路70として働き、前述の如くに、圧側減衰力の応答性を向上するとともに、圧側減衰力を高く設定する場合にも、環状隙間室60のシール性を向上することができる。
【0078】
更に、このチェック弁110により、伸長行程では、上油室25Aの加圧された油が直ちに下油室25Bへ流れることを許容するから、その上油室25Aで加圧された油がインナチューブ12の孔61から環状隙間室60に及ぶことがなく、該環状隙間室60に滞留しているエアを圧縮することがない。これにより、伸側減衰力の発生を安定化するとともに、その応答性を向上することができる。また、上油室25Aの高圧力が環状隙間室60のシール部材(オイルシール15)に及ばないから、伸側減衰力の上限がシール部材(オイルシール15)の耐圧性能により決まることがなく、環状隙間室60のシール性を向上することができる。
【0079】
(b)上述(a)のチェック弁110の絞り流路111が一定開度の絞り流路111からなるものとすることにより、チェック弁110を簡素化できる。
【0080】
(c)上述(a)、(b)のチェック弁110をピストン40に設けることにより、構成の簡素小型を図ることができる。
【0081】
(実施例3)(図11、図12)
実施例3が実施例2と異なる点は、ピストン40に設けたチェック弁44とチェック弁110を、板バルブ211、221からなるチェック弁210とチェック弁220に代えたことにある。
【0082】
実施例3では、インナチューブ12の先端部にかしめ固定される実施例2のピストン40を、ピストン体201と、その上下のバルブストッパ202、203と、スペーサ204からなるものにした。ピストン体201は実施例2の孔62を備える。
【0083】
チェック弁210は、ピストン体201と上バルブストッパ202との間に設けられ、ピストン体201の孔62に連通する流路201Aを開閉する板バルブ211と、板バルブ211を閉じ側に付勢するバルブスプリング212、バルブピース213とからなる。これにより、チェック弁210は、圧縮行程(図11の実線)で、高圧化する下油室25Bの油圧により板バルブ211をリフトして開弁し、下油室25Bから上油室25Aへの油の流入を許容する。他方、チェック弁210は、伸長行程(図11の破線)で、高圧化する上油室25Aの油圧により板バルブ211を撓み変形して絞り流路211Aとなる隙間を開き、上油室25Aから流出する油をその絞り流路211Aにより絞る。
【0084】
チェック弁220は、ピストン体201と下バルブストッパ203との間に設けられ、ピストン体201の孔62に連通する流路201Bを開閉する板バルブ221と、板バルブ221を閉じ側に付勢するバルブスプリング222、バルブピース223とからなる。これにより、チェック弁220は、伸長行程で、高圧化する上油室25Aの油圧により板バルブ221をリフトして開弁し、上油室25Aから下油室25Bへの油の流入を許容する。圧縮行程では、高圧化する下油室25Bの油圧により板バルブ221を撓み変形して絞り流路221Aとなる隙間を開き、下油室25Bから流出する油をその絞り流路221Aにより絞る。
【0085】
本実施例によれば、実施例2の前述した(a)、(c)と実質的に同様の作用効果を奏するとともに、以下の作用効果を奏する。
【0086】
即ち、チェック弁220の絞り流路221Aが板バルブ221の開閉により開度を変化する絞り流路221Aからなるものにした。これにより、圧縮行程における圧側減衰力特性の設定調整幅が大きくなる。
【0087】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に、インナチューブの内周に摺接する隔壁部を備えた中空パイプを立設し、インナチューブの先端部の内周に設けたピストンが進退する油室を中空パイプの外周に設け、この油室をピストンにより該ピストンの上部の上油室と該ピストンの下部の下油室に仕切り、中空パイプの内周に、インナチューブの上部に及ぶ油溜室を区画するとともに、該油溜室の上部をエア室とし、中空パイプの外周の油室と中空パイプの内周の油溜室とを連通し、インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに設け、アウタチューブとインナチューブの間に、アウタチューブの内周に固定される摺動ガイドとインナチューブの外周に固定される摺動ガイドに挟まれる環状隙間室を設け、この環状隙間室を中空パイプの外周の油室に連通する孔をインナチューブに設けてなるフロントフォークにおいて、インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に絞り流路を設けた。これにより、フロントフォークにおいて、減衰力発生の応答性を向上し、アウタチューブとインナチューブの間の環状隙間室のシール性も向上することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 フロントフォーク
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
13、19 摺動ガイド
22 中空パイプ
24 チェック弁
25 油室
25A 上油室
25B 下油室
27 油溜室
28 エア室
40 ピストン
44 チェック弁
50 容積補償流路
53 環状チェック弁
53A 環状流路
60 環状隙間室
61、62 孔
70 絞り流路
71 縮径部
80 バイパス流路
90 圧側減衰力調整手段
110 チェック弁
111 絞り流路
210、220 チェック弁
211、221 板バルブ
211A、221A 絞り流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、
アウタチューブ内の底部に、インナチューブの内周に摺接する隔壁部を備えた中空パイプを立設し、
インナチューブの先端部の内周に設けたピストンが進退する油室を中空パイプの外周に設け、この油室をピストンにより該ピストンの上部の上油室と該ピストンの下部の下油室に仕切り、
中空パイプの内周に、インナチューブの上部に及ぶ油溜室を区画するとともに、該油溜室の上部をエア室とし、
中空パイプの外周の油室と中空パイプの内周の油溜室とを連通し、インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに設け、
アウタチューブとインナチューブの間に、アウタチューブの内周に固定される摺動ガイドとインナチューブの外周に固定される摺動ガイドに挟まれる環状隙間室を設け、この環状隙間室を中空パイプの外周の油室に連通する孔をインナチューブに設けてなるフロントフォークにおいて、
インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に絞り流路を設けてなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の上油室との間に、圧縮行程で上油室への油の流入を許容し、伸長行程で上油室から流出する油を絞るチェック弁が設けられてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記チェック弁がピストンに設けられてなる請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記絞り流路がピストンに設けられてなる請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記インナチューブに設けられて環状隙間室に連通する孔と、中空パイプの外周の下油室との間に、伸長行程で下油室への油の流入を許容し、圧縮行程で下油室から流出する油を絞るチェック弁が設けられてなり、
このチェック弁が前記絞り流路を形成する請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記チェック弁の絞り流路が一定開度の絞り流路からなる請求項5に記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記チェック弁の絞り流路が板バルブの開閉により開度を変化する絞り流路からなる請求項5に記載のフロントフォーク。
【請求項8】
前記チェック弁がピストンに設けられてなる請求項5〜7のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項9】
前記中空パイプが備える隔壁部の外周に、圧縮行程で該隔壁部の上部の油溜室から中空パイプの外周の油室への油の流入を許容し、伸長行程で中空パイプの外周の油室から該隔壁部の上部の油溜室への油の流出を阻止するチェック弁が設けられてなる請求項1〜8のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項10】
前記インナチューブが中空パイプの外周の油室に進退する容積分の油を補償するための容積補償流路を中空パイプに形成し、
中空パイプの外周に被着される環状チェック弁を該容積補償流路に設け、
環状チェック弁は、
伸長行程でインナチューブの退出容積分の油を油溜室から容積補償流路を経て油室に補給することを許容し、
圧縮行程で油室から容積補償流路を経て油溜室に排出されるインナチューブの進入容積分の油を絞る環状流路を中空パイプの外周との間に形成する請求項1〜9のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項11】
前記インナチューブが圧縮行程で中空パイプの外周の油室に進入する容積分の油を該油室から油溜室に排出する流路に、圧側減衰力調整手段を設けてなる請求項1〜10のいずれかに記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−50157(P2013−50157A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188010(P2011−188010)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】