説明

フロントフォーク

【課題】 フロントフォークにおいて、油室の内圧を低く抑えて車両の乗り心地を向上しつつ、高い減衰力を得ること。
【解決手段】 フロントフォーク10において、インナチューブ12内の上部からピストンロッド41を垂下し、ピストンロッド41に設けた上部ピストン40に、油室70からリザーバ室80へ通ずる圧側流路43Aと、この圧側流路43Aを開閉する圧側減衰バルブ43を設けるとともに、リザーバ室80から油室70へ通ずる伸側流路44Aと、この伸側流路44Aを開閉する伸側減衰バルブ44を設けてなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等のフロントフォークとして、特許文献1に記載の如く、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に中空パイプを立設し、中空パイプの上部外周をインナチューブの内周に摺接し、中空パイプの外側にインナチューブの下部に設けたチェックバルブにより区画される上油室と下油室とを形成し、中空パイプ内に中空室を設け、この中空室は中空パイプに形成した下部ポートを介して下油室に連通し、更に中空パイプの上方にインナチューブを伸長方向に付勢する懸架スプリングを設けたフロントフォークにおいて、懸架スプリングの下端にバルブケースの上部に形成したばね受を保持させ、該バルブケースの下部を中空パイプの上端部内周に挿入し、バルブケースには上記中空室をリザーバ側の油溜室に連通するポートを形成し、このポートの出口端に圧側リリーフバルブとチェックバルブとを配置したものがある。
【0003】
特許文献1に記載のフロントフォークは、圧縮行程でアウタチューブ内の油室に進入するインナチューブの肉厚断面積に相当する容積の油が圧側リリーフバルブを通ってリザーバ側の油溜室に流出するときに、該圧側リリーフバルブが圧側減衰力を発生させる。これにより、車両のブレーキング時や連続凹凸路走行時の走行安定性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3932251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のフロントフォークでは、圧縮行程でアウタチューブ内の油室に進入していくインナチューブの受圧面積が該インナチューブの肉厚断面積であって小さい。従って、インナチューブに及ぶ減衰力を高くする必要がある場合には、圧側リリーフバルブの剛性を強くし、該圧側リリーフバルブが閉じる油室の内圧を高くしなければならない。これにより、車両の乗り心地が悪化するおそれがある。
【0006】
また、特許文献1に記載のフロントフォークでは、圧側リリーフバルブとチェックバルブが設けられるバルブケースが懸架スプリングの下側、即ちばね下のアウタチューブ側に設置される。即ち、フロントフォークのばね下の荷重が大きく、その慣性が伸縮ストロークの切換性を損ない、車両の乗り心地が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、フロントフォークにおいて、油室の内圧を低く抑えて車両の乗り心地を向上しつつ、高い減衰力を得ることにある。
【0008】
本発明の他の課題は、ばね下の荷重を小さくして車両の乗り心地を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブとインナチューブの内部に、インナチューブを伸長方向に付勢する懸架スプリングを設けてなるフロントフォークにおいて、アウタチューブ内の底部に中空パイプを立設するとともに、インナチューブ内の上部からピストンロッドを垂下し、ピストンロッドと中空パイプの間に前記懸架スプリングを介装し、ピストンロッドに設けた上部ピストンをインナチューブ内に嵌合し、上部ピストンの下部にアウタチューブ内に及ぶ油室を区画するとともに、上部ピストンの上部に油溜室と気室からなるリザーバ室を区画し、上部ピストンに、油室からリザーバ室へ通ずる圧側流路と、この圧側流路を開閉する圧側減衰バルブを設けるとともに、リザーバ室から油室へ通ずる伸側流路と、この伸側流路を開閉する伸側減衰バルブを設けてなるようにしたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記ピストンロッドに設けた上部ピストンの下部に、懸架スプリングを支持する上ばね受を設けてなるようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記中空パイプがインナチューブの内周に摺接する隔壁部を備え、インナチューブの先端部の内周に設けた下部ピストンに中空パイプの外周に摺接するフリーバルブを設け、中空パイプの外周まわりで下部ピストンの上部に上油室を区画するとともに、下部ピストンの下部に下油室を区画し、中空パイプの内部の中空室と、中空パイプの上部の懸架スプリングを収容しているスプリング室とが、下油室に連通されてなり、伸長行程で上油室から下油室、中空室又はスプリング室に流出する油を絞る伸側減衰力発生手段を有してなるようにしたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記フリーバルブが、前記伸側減衰力発生手段を構成し、圧縮行程で下油室から上油室への油の流れを許容し、伸長行程で上油室から下油室に流出する油を絞るようにしたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記リザーバ室の気室に封入されるガス圧を調整するガス圧調整手段を有してなるようにしたものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに係る発明において更に、前記ピストンロッドに、外部操作される減衰力調整手段を設けてなるようにしたものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明において更に、前記上部ピストンの下部の油室と上部のリザーバ室を連絡するバイパス流路をピストンロッドに設け、外部操作される減衰力調整手段がこのバイパス流路の流路面積を調整可能にするようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1、2)
(a)圧縮行程でアウタチューブ内の油室に進入するインナチューブの面積(インナチューブの外径Dが規定する面積(πD2/4))に相当する容積の油が圧側減衰バルブを通ってリザーバ室の油溜室に流出するとき、該圧側減衰バルブが圧側減衰力を発生させる。
【0017】
この圧縮行程でアウタチューブ内の油室に進入していくインナチューブ及び上部ピストンの受圧面積は該インナチューブの外径Dにより規定される面積(πD2/4)であって大きい。従って、圧側減衰バルブが閉じる油室の内圧を低く抑えて車両の乗り心地を向上しつつ、インナチューブに及ぶ圧側減衰力を高くすることができる。
【0018】
また、圧側減衰バルブと伸側減衰バルブが設けられる上部ピストン(及び上ばね受)が懸架スプリングの上側、即ちばね上のインナチューブ側に設置される。即ち、フロントフォークのばね下の荷重が小さく、その慣性が伸縮ストロークの切換性を損なうことがなく、車両の乗り心地を向上できる。
【0019】
(請求項3)
(b)前記中空パイプがインナチューブの内周に摺接する隔壁部を備え、インナチューブの先端部の内周に設けた下部ピストンに中空パイプの外周に摺接するフリーバルブを設け、中空パイプの外周まわりで下部ピストンの上部に上油室を区画するとともに、下部ピストンの下部に下油室を区画し、中空パイプの内部の中空室と、中空パイプの上部の懸架スプリングを収容しているスプリング室とが、下油室に連通されてなり、伸長行程で上油室から下油室、中空室又はスプリング室に流出する油を絞る伸側減衰力発生手段を有する。
【0020】
伸側減衰力発生手段により伸長行程で伸側減衰力を発生させることができる。
この伸長行程での伸側減衰力を主として上述の伸側減衰力発生手段によりまかなうものとするとき、上部ピストンの伸側減衰バルブで発生させる伸側減衰力は弱くて足りる。上部ピストンの伸側減衰バルブをチェックバルブとすることにより、圧縮行程から伸長行程への反転時に、リザーバ室の油溜室の油を伸側減衰バルブを経て速やかに油室に戻し、その反転の応答性を向上できる。
【0021】
(請求項4)
(c)前記下部ピストンに設けたフリーバルブにより、上述(b)の伸側減衰力発生手段を構成できる。
【0022】
(請求項5)
(d)前記リザーバ室の気室に封入されるガス圧を調整するガス圧調整手段を有する。
ガス圧調整手段により調整されたガス圧が油溜室の油を加圧する結果、この油が伸長行程で上部ピストンの伸側減衰バルブに押し込まれ、圧縮行程から伸長行程への反転の応答性を向上し、伸側減衰力を確実に発生できる。また、ガス圧が油室内の油に気泡が発生することを抑え、上述(b)の伸側減衰力発生手段で確実に伸側減衰力を発生できる。
【0023】
(請求項6、7)
(e)前記車体側のインナチューブに垂下したピストンロッドに減衰力調整手段を設けることにより、減衰力調整手段の外部操作部をインナチューブのキャップボルト等に簡易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は実施例1のフロントフォークを示す断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5は図1の上部ピストンを拡大して示す断面図である。
【図6】図6は実施例2のフロントフォークを示す断面図である。
【図7】図7は図6の上部断面図である。
【図8】図8は実施例3のフロントフォークを示す断面図である。
【図9】図9は図8の上部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例1)(図1〜図5)
フロントフォーク10(油圧緩衝器)は、自動二輪車等に用いられ、図1〜図4に示す如く、車輪側の、一端が閉じ、他端が開口するアウタチューブ11(車輪側チューブ)に、車体側のインナチューブ12(車体側チューブ)を摺動自在に挿入している。アウタチューブ11のインナチューブ12が挿入される開口端には、摺動ガイド13、シールスペーサ14、オイルシール15、ストッパリング16、ダストシール17が設けられる。インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入される下端外周部には、摺動ガイド19が設けられる。
【0026】
アウタチューブ11内の底部には銅パッキン21を介してボトムボルト20が挿入され、このボトムボルト20により固定される中空パイプ22がアウタチューブ11の内部に立設している。インナチューブ12の上端部にはOリング31を介してキャップボルト30の下端部の外周が螺着され、このキャップボルト30の中央部に螺着されてロックナット32により固定されるピストンロッド41がインナチューブ12の内部に垂下している。
【0027】
ピストンロッド41の下端部に後述する如くに設けられる上ばね受61と、中空パイプ22の上端部に後述する如くに設けられる下ばね受62との間に圧縮コイルばねからなる懸架スプリング60が介装されている。懸架スプリング60は、アウタチューブ11とインナチューブ12の内部に設置され、インナチューブ12をアウタチューブ11に対して伸長方向に付勢するものになる。
【0028】
ピストンロッド41の下端部には、図5に示す如く、バルブストッパ42、板バルブからなる圧側減衰バルブ43、上部ピストン40、板バルブからなる伸側減衰バルブ44、バルブストッパ45、カップ状の上ばね受61がこの順で挿着され、ピストンロッド41の先端に締結される締結ナット46により固定化されている。上ばね受61はカップの周方向複数カ所にて上下に貫通する切欠流路61Aを備える。
【0029】
上部ピストン40は外周環状溝に装填されたOリング41Aを介してインナチューブ12の内周に液密に嵌合され、上部ピストン40の下部にアウタチューブ11内に及ぶ油室70を区画するとともに、上部ピストン40の上部に油溜室81と気室82からなるリザーバ室80を区画している。気室82は空気等のガスが封入されている。図1においてLは油溜室81の油面を示す。
【0030】
上部ピストン40は、油室70からリザーバ室80へ通ずる圧側流路43Aを備え、この圧側流路43Aを開閉する圧側減衰バルブ43が設けられている。また、上部ピストン40は、リザーバ室80から油室70へ通ずる伸側流路44Aを備え、この伸側流路44Aを開閉する伸側減衰バルブ44が設けられている。
【0031】
中空パイプ22の上端部は拡径されて上方に開口する隔壁部23とされ、隔壁部23の上端面を下ばね受62としている。中空パイプ22は外周環状溝に装填されたピストンリング22Aを介してインナチューブ12の内周に摺接する。
【0032】
インナチューブ12の下端内周部(先端部)には下部ピストン50が設けられる。下部ピストン50は、インナチューブ12の内径段差部に係止された環状上ピース51(通路51A)と、インナチューブ12の下端かしめ部12Aにより上ピース51に固定化された筒状下ピース52、ワッシャ53とからなり、下ピース52の上テーパ部52Aの内周にフリーバルブ54を配置している。フリーバルブ54は中空パイプ22の外周に摺接(本実施例では後述する如くに環状隙間54Aを介して摺接)する。中空パイプ22の外周まわりで、下部ピストン50の上部かつ隔壁部23より下部に上油室71を区画するとともに、下部ピストン50の下部かつアウタチューブ11の底部より上部に下油室72を区画する。中空パイプ22の内部の中空室73と、中空パイプ22の上部で懸架スプリング60を収容しているスプリング室74とが、中空パイプ22の下端側に穿設した連通孔22Bにより、下油室72に連通される。
【0033】
フロントフォーク10は、伸長行程で上油室71から下油室72、中空室73又はスプリング室74に流出する油を絞る伸側減衰力発生手段90を有する。伸側減衰力発生手段90は、上油室71と下油室72との間に配置される上述のフリーバルブ54により構成されるとともに、中空パイプ22の上端側に穿設されて上油室71と中空室73とを連通するオリフィス91により構成される。
【0034】
伸側減衰力発生手段90を構成するフリーバルブ54は、上ピース51により背面支持される皿ばね(又はコイルばねでも可)バルブスプリング55により付勢され、その外周テーパ面を下ピース52の上テーパ部52Aのテーパ面に着座せしめられるとともに、その内周と中空パイプ22の外周との間に環状隙間54Aを形成する。フリーバルブ54は、圧縮行程で、下ピース52の上テーパ部52Aから離隔して下油室72から上油室71への油の流れを許容する。フリーバルブ54は、伸長行程で、上油室71から下油室72に流出する油を環状隙間54Aに通して絞り、伸側減衰力を発生する。
【0035】
尚、インナチューブ12に設けた下部ピストン50の上ピース51と、中空パイプ22に設けた隔壁部23の間に、最大伸長時のリバウンドスプリング24を設け、最伸長ストロークを規制する。
【0036】
また、中空パイプ22の下端部とアウタチューブ11の底部との間にオイルロックピース25を挟持し、最大圧縮時に下部ピストン50の下ピース52の下端内周に設けたオイルロックカラー26によりオイルロックピース25の周囲の作動油を加圧して最圧縮ストロークを規制する。下部ピストン50の下ピース52とワッシャ53の間には、下ピース52の内周との間に微小な隙間を介する上述のオイルロックカラー26が上下移動自在に嵌装される。オイルロックカラー26は、フロントフォーク10の最圧縮近辺で、中空パイプ22の側に設けたオイルロックピース25との間に微小隙間を介して嵌合し、最圧縮時の緩衝をする。そして、最圧縮状態からの伸長時には、下方に移動してオイルロックカラー26の外周の微小な隙間からなる油路を開放する。
【0037】
また、下部ピストン50の下ピース52に孔52Bを設け、かつインナチューブ12の下部ピストン50を設けた部分に孔12Bを設け、アウタチューブ11の摺動ガイド13、インナチューブ12の摺動ガイド19、及びそれら摺動ガイド13、19に挟まれるチューブ間スペースに油室70(下油室72)の作動油を供給し、摺動ガイド13、19の潤滑、チューブ間スペースの容積補償を行なう。
【0038】
フロントフォーク10にあっては、車両が受ける衝撃を懸架スプリング60と気室82の気体ばねによって吸収して緩和し、この衝撃の吸収に伴なう懸架スプリング60の振動を以下の減衰作用により制振する。
【0039】
(圧縮行程)(図2、図3の実線)
フロントフォーク10の圧縮行程では、インナチューブ12が伸長状態から下降し、インナチューブ12とピストンロッド41により一体化されている上部ピストン40が油室70を加圧し、上部ピストン40の圧側減衰バルブ43が開く。インナチューブ12の総面積A(インナチューブ12の外径Dが規定する面積(πD2/4))×インナチューブ12のストロークSの容積(A×S)の油が油室70(スプリング室74)から圧側流路43Aを通ってリザーバ室80(油溜室81)へ移動するときに、圧側減衰バルブ43が形成する通路抵抗に起因する圧側減衰力を生ずる。
【0040】
尚、この圧縮行程では、インナチューブ12の先端部の下部ピストン50が伸長状態から下降して下油室72の圧力が上昇し、フリーバルブ54が上向き移動して開くことにより下油室72の油が上油室71の側に置換する。
【0041】
(伸長行程)(図2、図3の破線)
フロントフォーク10の伸長行程では、インナチューブ12が圧縮状態から上昇してリザーバ室80の圧力が上昇するとともに、油室70の圧力が低下し、油室70とリザーバ室80の差圧により上部ピストン40の伸側減衰バルブ44が開き、伸側減衰バルブ44が形成する通路抵抗に起因する伸側減衰力を生ずる。
【0042】
更に、この伸長行程では、インナチューブ12の先端部の下部ピストン50が圧縮状態から上昇して上油室71の圧力が上昇し、上油室71の油が下部ピストン50の上テーパ部52Aに着座せしめられるフリーバルブ54の環状隙間54Aから下油室72に移動する際に環状隙間54Aで生ずる通路抵抗、及び上油室71の油が中空パイプ22のオリフィス91から出て中空室73に移動する際にオリフィス91で生ずる通路抵抗に起因する伸側減衰力を生ずる。
【0043】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)圧縮行程でアウタチューブ11内の油室70に進入するインナチューブ12の面積(インナチューブ12の外径Dが規定する面積(πD2/4))に相当する容積の油が圧側減衰バルブ43を通ってリザーバ室80の油溜室81に流出するとき、該圧側減衰バルブ43が圧側減衰力を発生させる。
【0044】
この圧縮行程でアウタチューブ11内の油室70に進入していくインナチューブ12及び上部ピストン40の受圧面積は該インナチューブ12の外径Dにより規定される面積(πD2/4)であって大きい。従って、圧側減衰バルブ43が閉じる油室70の内圧を低く抑えて車両の乗り心地を向上しつつ、インナチューブ12に及ぶ圧側減衰力を高くすることができる。
【0045】
また、圧側減衰バルブ43と伸側減衰バルブ44が設けられる上部ピストン40(及び上ばね受61)が懸架スプリング60の上側、即ちばね上のインナチューブ12側に設置される。即ち、フロントフォーク10のばね下の荷重が小さく、その慣性が伸縮ストロークの切換性を損なうことがなく、車両の乗り心地を向上できる。
【0046】
(b)伸側減衰力発生手段90により伸長行程で伸側減衰力を発生させることができる。
この伸長行程での伸側減衰力を主として上述の伸側減衰力発生手段90によりまかなうものとするとき、上部ピストン40の伸側減衰バルブ44で発生させる伸側減衰力は弱くて足りる。上部ピストン40の伸側減衰バルブ44をチェックバルブとすることにより、圧縮行程から伸長行程への反転時に、リザーバ室80の油溜室81の油を伸側減衰バルブ44を経て速やかに油室70に戻し、その反転の応答性を向上できる。
【0047】
(c)前記下部ピストン50に設けたフリーバルブ54により、上述(b)の伸側減衰力発生手段90を構成できる。
【0048】
(実施例2)(図6、図7)
実施例2のフロントフォーク10が、実施例1におけると異なる点は、図6、図7に示す如く、リザーバ室80の気室82に封入されるガス圧を調整するガス圧調整手段100を有するようにしたことにある。
【0049】
本実施例のガス圧調整手段100は、エア封入バルブ101からなる。エア封入バルブ101は、キャップボルト30の内外に貫通したガス給排口102に螺着されて設けられる。
【0050】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
ガス圧調整手段100により調整されたガス圧が油溜室81の油を加圧する結果、この油が伸長行程で上部ピストン40の伸側減衰バルブ44に押し込まれ、圧縮行程から伸長行程への反転の応答性を向上し、伸側減衰力を確実に発生できる。また、ガス圧が油室70内の油に気泡が発生することを抑え、前述の伸側減衰力発生手段90(フリーバルブ54又はオリフィス91)で確実に伸側減衰力を発生できる。
【0051】
(実施例3)(図8、図9)
実施例3のフロントフォーク10が、実施例1におけると異なる点は、図8、図9に示す如く、外部操作される減衰力調整手段200をピストンロッド41に設けたことにある。
【0052】
本実施例の減衰力調整手段200は、キャップボルト30の中央部に外方から穿設した孔にアジャスタ201を液密に挿着するとともに、螺着する。キャップボルト30の中央部から垂下され、アジャスタ201と同軸をなすピストンロッド41を中空状にする。アジャスタ201の下端部にかしめ固定されたアジャストロッド202をピストンロッド41の中空部に通し、アジャストロッド202の下端部(先端部)にニードルバルブ203を設ける。
【0053】
他方、ピストンロッド41の中央部の下端側に小内径の縦孔204Aを形成し、ピストンロッド41の中空部の縦孔204Aに対する直上部に横孔204Bを穿設する。縦孔204Aは、油室70(スプリング室74)に開口させ、横孔204Bはリザーバ室80(油溜室81)に開口させる。縦孔204Aと横孔204Bが、上部ピストン40を迂回し、上部ピストン40の下部の油室70と上部のリザーバ室80を連絡するバイパス流路204を構成する。インナチューブ12の上端部のキャップボルト30に対する外部からアジャスタ201を回転操作するとき、アジャスタ201の螺動とともに上下動するニードルバルブ203が縦孔204Aの上端シート204Sに対して進退し、バイパス流路204の流路面積を調整する。これにより、アウタチューブ11に対するインナチューブ12の伸縮ストローク時に、油室70とリザーバ室80の間でバイパス流路204を通過する油量が調整され、圧縮行程では圧側減衰力を調整し、伸長行程では伸側減衰力を調整するものになる。
【0054】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
前記車体側のインナチューブ12に垂下したピストンロッド41に減衰力調整手段200を設けることにより、減衰力調整手段200の外部操作部としてのアジャスタ201をインナチューブ12のキャップボルト30に簡易に設置できる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブとインナチューブの内部に、インナチューブを伸長方向に付勢する懸架スプリングを設けてなるフロントフォークにおいて、アウタチューブ内の底部に中空パイプを立設するとともに、インナチューブ内の上部からピストンロッドを垂下し、ピストンロッドと中空パイプの間に前記懸架スプリングを介装し、ピストンロッドに設けた上部ピストンをインナチューブ内に嵌合し、上部ピストンの下部にアウタチューブ内に及ぶ油室を区画するとともに、上部ピストンの上部に油溜室と気室からなるリザーバ室を区画し、上部ピストンに、油室からリザーバ室へ通ずる圧側流路と、この圧側流路を開閉する圧側減衰バルブを設けるとともに、リザーバ室から油室へ通ずる伸側流路と、この伸側流路を開閉する伸側減衰バルブを設けた。これにより、フロントフォークにおいて、油室の内圧を低く抑えて車両の乗り心地を向上しつつ、高い減衰力を得ることができる。また、ばね下の荷重を小さくして車両の乗り心地を向上することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 フロントフォーク
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
22 中空パイプ
23 隔壁部
40 上部ピストン
41 ピストンロッド
43 圧側減衰バルブ
43A 圧側流路
44 伸側減衰バルブ
44A 伸側流路
50 下部ピストン
54 フリーバルブ
54A 環状隙間
60 懸架スプリング
61 上ばね受
62 下ばね受
70 油室
71 上油室
72 下油室
73 中空室
74 スプリング室
80 リザーバ室
81 油溜室
82 気室
90 伸側減衰力発生手段
91 オリフィス
100 ガス圧調整手段
200 減衰力調整手段
201 アジャスタ(外部操作部)
203 ニードルバルブ
204 バイパス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側のアウタチューブ内に車体側のインナチューブを摺動自在に挿入し、
アウタチューブとインナチューブの内部に、インナチューブを伸長方向に付勢する懸架スプリングを設けてなるフロントフォークにおいて、
アウタチューブ内の底部に中空パイプを立設するとともに、インナチューブ内の上部からピストンロッドを垂下し、ピストンロッドと中空パイプの間に前記懸架スプリングを介装し、
ピストンロッドに設けた上部ピストンをインナチューブ内に嵌合し、上部ピストンの下部にアウタチューブ内に及ぶ油室を区画するとともに、上部ピストンの上部に油溜室と気室からなるリザーバ室を区画し、
上部ピストンに、油室からリザーバ室へ通ずる圧側流路と、この圧側流路を開閉する圧側減衰バルブを設けるとともに、リザーバ室から油室へ通ずる伸側流路と、この伸側流路を開閉する伸側減衰バルブを設けてなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記ピストンロッドに設けた上部ピストンの下部に、懸架スプリングを支持する上ばね受を設けてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記中空パイプがインナチューブの内周に摺接する隔壁部を備え、
インナチューブの先端部の内周に設けた下部ピストンに中空パイプの外周に摺接するフリーバルブを設け、中空パイプの外周まわりで下部ピストンの上部に上油室を区画するとともに、下部ピストンの下部に下油室を区画し、
中空パイプの内部の中空室と、中空パイプの上部の懸架スプリングを収容しているスプリング室とが、下油室に連通されてなり、
伸長行程で上油室から下油室、中空室又はスプリング室に流出する油を絞る伸側減衰力発生手段を有してなる請求項1又は2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記フリーバルブが、前記伸側減衰力発生手段を構成し、圧縮行程で下油室から上油室への油の流れを許容し、伸長行程で上油室から下油室に流出する油を絞る請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記リザーバ室の気室に封入されるガス圧を調整するガス圧調整手段を有してなる請求項1〜4のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記ピストンロッドに、外部操作される減衰力調整手段を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記上部ピストンの下部の油室と上部のリザーバ室を連絡するバイパス流路をピストンロッドに設け、外部操作される減衰力調整手段がこのバイパス流路の流路面積を調整可能にする請求項6に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−61035(P2013−61035A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200730(P2011−200730)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】