フローセル
【課題】流路内の気泡が検出対象領域へ侵入することを低減することができるフローセルを提供する。
【解決手段】液体試料を流通させる流路14bであって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に被検体の検出対象領域13が配置される流路を、溝14aが形成された面を基板12の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、溝の底面から突出した突出部位(T,T1−T7)が形成され、検出対象領域に対して液体試料の流通の上流側に、突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、突出部位の高さは、溝の深さに対して10%以上80%以下であり、突出部位の幅は、溝の幅に対して30%以上80%以下である。
【解決手段】液体試料を流通させる流路14bであって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に被検体の検出対象領域13が配置される流路を、溝14aが形成された面を基板12の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、溝の底面から突出した突出部位(T,T1−T7)が形成され、検出対象領域に対して液体試料の流通の上流側に、突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、突出部位の高さは、溝の深さに対して10%以上80%以下であり、突出部位の幅は、溝の幅に対して30%以上80%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を流通させることにより物質の光学的特性を変化させこれを検出するための流路を形成するフローセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応などの生体分子同士の分子間相互作用や、有機高分子同士の分子間相互作用などの結合の測定は、一般的に、放射性物質や蛍光体などの標識を用いることで行われてきた。この標識には手間がかかり、特にタンパク質への標識は方法が煩雑な場合や標識によりタンパク質の性質が変化する場合があった。近年では、生体分子や有機高分子間の結合を、簡便に標識を用いることなく直接的に検出する手段として、光学薄膜の干渉色変化を利用したRIfS方式(Reflectometric interference spectroscopy:反射型干渉分光法)が知られている。その基本原理は特許文献1や非特許文献1などに言及されている。
【0003】
RIfS方式について簡単に説明すると、この方式では、図14に示す検出器100が用いられる。図14(a)に示すとおり、検出器100は基板102を有しており、基板102上に光学薄膜104が設けられている。この状態の検出器100に対し白色光を照射した場合、図15に示すとおり、白色光そのものの分光強度は実線106で表され、その反射光の分光強度は実線108で表される。照射した白色光とその反射光との各分光強度から反射率を求めると、図16に示すとおり、実線で表された反射スペクトル110が得られる。
【0004】
分子間相互作用を検出するにあたっては、図14(b)に示すとおり、光学薄膜104上にリガンド120が設けられる。光学薄膜104上にリガンド120を設けると、光学的厚さ112が変化して光路長が変化し、干渉波長も変化する。すなわち、反射光の分光強度分布のピーク位置がシフトし、その結果図16に示すとおり、反射スペクトル110が反射スペクトル122(点線部参照)にシフトする。この状態において、検出器100上にサンプル溶液を流し込むと、図14(c)に示すとおり、検出器100のリガンド120とサンプル溶液中のアナライト130とが結合する。リガンド120とアナライト130とが結合すると、光学的厚さ112がさらに変化し、図16に示すとおり、反射スペクトル122が反射スペクトル132(1点鎖線部参照)にシフトする。そして、反射スペクトル122のピーク波長(ボトムピーク波長)と反射スペクトル132のボトムピーク波長との変化量を検出することにより、分子間相互作用を検出することができるようになっている。
【0005】
ボトムピーク波長の変化の推移を経時的に観測すると、図17に示すとおり、時点140において、リガンド120によるボトムピーク波長の変化を確認することができ、時点142において、リガンド120とアナライト130との結合によるボトムピーク波長の変化を確認することができる。
【0006】
従来、検出器100上に上述のサンプル溶液を流し込むために、シリコーンゴム製の透明な部材等からなるフローセルを使用されている。フローセルの溝が形成された面を、基板102の光学薄膜104が設けられた面に密着させることで、サンプル溶液を流通させる密閉流路が形成される。フローセルの上記溝の両端部はフローセルの表面に露出する孔に連通しており、一方の孔がサンプル溶液の流入口として、他方の孔がその流出口14dとしてそれぞれ機能する。
【0007】
このようなフローセルを用いて流路を形成する構成にあっては、流路内に残留する気泡が光学的検出のノイズとなって現れることがしばしば問題となる。
検出器の検出対象領域を気泡が通過した際に、図16に示したような分光反射率のグラフが大きく乱れてしまう。このような乱れにより、ボトムピーク波長の変化をプロットした際、図18に示すように、あたかもスパイクのような形状143が描かれることとなってしまう。このような針状の局所的変化143は、無論正しく分子間相互作用を反映したものでなく、ノイズである(以後、このような局所的ノイズをスパイクノイズという)。
このスパイクノイズ143は実際の実験結果を分析するうえで障害となり、出来る限り排除されることが望まれる。
このようなスパイクノイズの排除方法としては、気泡の発生を防ぐ、抑制するなど、気泡が検出器の検出対象領域を通過しないようにする手段のほか、データを分析することで、非連続なスパイクノイズを削除する手段が考えられる。
このうち、後者については、即時性に欠けるとともに、わずかな反射率変化とノイズとの切り分けが難しい場合については奏効しない場合がある。
そのため、前者のように、気泡が検出器の検出対象領域に至らないようにせしめる工夫が望ましい。
【0008】
以上の問題を解決することを目的に、特許文献2,3には、検出器に形成される流路内の気泡の除去を目的とした発明が記載されている。
特許文献2は、流路内の気泡の発生を抑制した液体試料の送液方法を提案する。
特許文献3は、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に設けられ、疎水性及び通気性を有し、前記第1の基板上に所定の流路を形成する、中間部材とを有し、前記中間部材と前記第2の基板との間の少なくとも一部に、前記流路内の気泡を前記流路外へ脱気可能な隙間を有することを特徴とするチップを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3786073号公報
【特許文献2】特許第4273252号
【特許文献3】特許第4407271号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sandstrom et al, APPL.OPT., 24, 472, 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2,3に記載されるような技術の適用により、気泡の発生を抑制したり、脱気を行ったりしても、流路内の気泡を完全に消失させることは難しく、気泡に起因する検出ノイズを完全に避けることは難しい。
【0012】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルにおいて、流路内の気泡が検出対象領域へ侵入することを低減することができるフローセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、
前記溝の底面から突出した突出部位が形成され、
前記検出対象領域に対して前記液体試料の流通の上流側に、前記突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、
前記突出部位の高さは、前記溝の深さに対して10%以上80%以下であり、
前記突出部位の幅は、前記溝の幅に対して30%以上80%以下であるフローセルである。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセルである。
【0015】
請求項3記載の発明は、前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域外に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセルである。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記突出部位の高さが一定であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0017】
請求項5記載の発明は、前記突出部位は、上流側に向かって先細りに形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記突出部位の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0019】
請求項7記載の発明は、前記突出部位の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流路を形成する溝の底面から突出した突出部位であって、上流側に望む先端が検出対象領域に対して上流側に配置される突出部位が、検出対象領域より上流の気泡に作用し、この気泡が検出対象領域を避けるように流路内の気泡の流れを整流するので、流路内の気泡が検出対象領域へ侵入することを低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る分子間相互作用の測定システムの概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係り、検出器と、光ファイバを内臓したプローブとによる検出の様子を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係り、検出器と、光ファイバを内臓したプローブとによる検出の様子を示す斜視図である。図2に対して密閉流路を幅広にしたものである。
【図4】本発明の一実施形態に係るリガンドとアナライトとの結合の様子を模式的に表した断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るフローセルの斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図7】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図8】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図9】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図10】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図11】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図12】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図13】従来の形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図14】RIfS方式の概略を説明するための模式図である。
【図15】波長と分光強度との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【図16】波長と反射率との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【図17】ボトムピーク波長の変化の概略的な推移を示す一例のグラフである。
【図18】スパイクノイズが含まれた場合のボトムピーク波長の変化の概略的な推移を示す一例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
本実施形態においては、本発明に係るフローセルをRIfS方式の分子間相互作用の測定システムに適用する場合を例に挙げて説明する。
【0023】
図1に示すとおり、分子間相互作用の測定システム1は主に、検出器10,白色光源20,分光器30,光ファイバ40,制御演算装置50などから構成されている。
測定システム1において制御演算装置50は、白色光源20や分光器30などの制御手段及び検出情報の演算手段並びに制御指令や検出情報の出入力を行う出入力手段(インターフェース)を構成する。検出器10,白色光源20,分光器30,光ファイバ40等は分子間相互作用が進捗する光学薄膜の反射光の分光特性を検出する検出手段を構成する。
検出器10は基本的にはセンサーチップ12,フローセル14から構成されている。図2、図3に検出器10と、光ファイバ40を内臓したプローブ41とによる検出の様子を示す斜視図を示す。
センサーチップ12は矩形状を呈したシリコン基板12aを有している。シリコン基板12a上にはSiN膜12b(窒化シリコン)が蒸着されている。SiN膜12bは光学薄膜の一例である。
フローセル14はシリコーンゴム製の透明な部材である。フローセル14には溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される(図1参照)。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部がサンプル溶液の流入口14cとして、他方の端部がその流出口14dとしてそれぞれ機能する。溝14aの底部にはリガンド16が結合されている(図1参照)。
【0024】
検出器10では、センサーチップ12に対しフローセル14を貼り替え可能となっており、フローセル14はディスポーザブル(使い捨て)使用が可能となっている。センサーチップ12の表面には、シランカップリング剤などにより、表面修飾をおこなってもよく、この場合フローセル14の貼り替えが容易となる。
【0025】
図1に示すとおり、フローセル14の密閉流路14bの上方には光ファイバ40が設置されている。光ファイバ40の一方の端部には白色光源20が接続されている。白色光源20としては例えばハロゲン光源が使用される。光ファイバ40の他方の端部には分光器30が接続されている。白色光源20が点灯すると、その光が光ファイバ40を介して密閉流路14bに照射され、その反射光が再度光ファイバ40を介して分光器30で検出される。白色光源20や分光器30は制御演算装置50に接続され、制御演算装置50はこれらモジュールの動作を制御する。
また、制御演算装置50は、分子間相互作用の測定プログラムの実行により、検出動作制御に連動した所定のタイミングでインターフェースを介して反射光の分光特性の入力を得るとともに、入力された反射光の分光特性に基づき各種測定値を算出する演算手段として機能する。
【0026】
続いて、測定システム1の動作及び測定方法について説明する。
【0027】
図1に示すとおり、アナライト62を含むサンプル溶液60を、流入口14cから密閉流路14bを経て流出口14dに流通させる。このとき制御演算装置50は、サンプル溶液60の送液駆動装置(図示せず)の制御を行う。アナライト62とは、リガンド16と特異的に結合する物質であり、検出しようとする目的の分子である。アナライト62としては、例えばタンパク質,核酸,脂質,糖などの生体分子や、薬剤物質,内分泌錯乱化学物質などの生体分子と結合する外来物質などが使用される。
【0028】
制御演算装置50は、サンプル溶液60が密閉流路14bを流通している間も、白色光源20を点灯させる。白色光はフローセル14を透過してセンサーチップ12に照射され、その反射光が分光器30で検出される。分光器30により検出された反射光の検出強度は制御演算装置50に送信される。
【0029】
この場合に、図4に示すとおり、サンプル溶液60中のアナライト62がリガンド16と結合すると、光学的厚さ70が変化し、干渉色(分光器30による検出強度が最も小さくなる波長)が変化する。制御演算装置50は、分光器30から、分子間相互作用の開始前や進捗中、終了後の反射光の分光特性の入力を得る。制御演算装置50は、入力された反射光の分光特性に基づき各種測定値を算出する。この測定値としては、例えば、分光反射率のボトムピーク波長や、その変化量である。
【0030】
さて、以上の測定システムに適用されるフローセル14の本発明に係る実施形態として、図5に、突出部位Tを有したフローセル14Tを示す。また、突出部位Tの形状が異なった実施形態として、図6に示すフローセル14T1、図7に示すフローセル14T2、図8に示すフローセル14T3、図9に示すフローセル14T4、図10に示すフローセル14T5、図11に示すフローセル14T6、及び図12に示すフローセル14T7の7つの形態を例示する。また、本発明との比較用として従来の形態の図13に示すフローセル14T0を例示する。
【0031】
本発明の実施形態であるフローセル14T,14T1〜14T7は、溝14aの底面から突出した突出部位T,T1〜T7が形成されたものであり、従来の形態のフローセル14T0は、溝14aに突出部位を有さないものであり、突出部位以外の溝14a、流入口14c及び流出口14d等の形態は共通である。フローセル14Tと,フローセル14T1とは、その突出部位Tと、突出部位T1とが矩形状である点で同タイプのものである。なお、本発明の実施形態に適用される密閉流路14bとしては、図3に示すような幅広のものが好ましい。本発明との比較用の従来例のフローセル14T0についても幅広の密閉流路14bが採用される。
【0032】
説明の便宜のため、図5から図13に共通の直交3軸X−Y−Z座標を併記した。X軸は密閉流路14bを流れるサンプル溶液60の進行方向に相等する。Z軸は溝14aの深さ方向に相等する。Y軸は溝14aの幅方向に相等する。
【0033】
図6から図13に検出対象領域13を示す。白色光源20が点灯すると、その光が光ファイバ40を介して密閉流路14bの検出対象領域13に照射され、検出対象領域13からの反射光が再度光ファイバ40を介して分光器30で検出される。光源からの光照射方向及び光ファイバ40に受光される反射光のフローセルにおける通過方向がZ軸方向である。検出を良好にするため各フローセルは、少なくともその検出対象領域13内の部材が、400〜800(nm)の波長域にわたっての平均透過率が80%以上に構成される。
【0034】
本発明の実施形態であるフローセル14T1〜14T7に形成された突出部位T1〜T7の上流側に望む先端、すなわち、X軸の負の方向の端は、図6〜図12に示すように、検出対象領域13に対して上流側に配置される。これは、上流から流れてくる気泡が検出対象領域13を避けるように整流するためである。
突出部位T1〜T7は、その高さ(Z軸方向の寸法)が溝14aの深さ(Z軸方向の寸法)に対して10%以上80%以下に形成される。
突出部位T1〜T7は、その幅(Y軸方向の寸法)が溝14aの幅(Y軸方向の寸法)に対して30%以上80%以下に形成される。
溝14aの底面に垂直な方向、すなわち、Z軸方向に見て検出対象領域13は突出部位T1〜T5,T7の形成領域内に配置される。これは、検出対象領域13における流路断面積を小さくすることで、気泡が検出対象領域13に侵入することを避けるためである。
突出部位T1〜T4,T6については、その高さが一定である。
【0035】
さらに各突出部位につき説明する。
図6に示すようにフローセル14T1は、突出部位T1を有する。
突出部位T1は、図6(a)に示すようにX−Y平面において矩形状の形状を有する。突出部位T1は、図6(b)に示すようにX−Z平面において矩形状の断面形状を有する。突出部位T1の側辺はX軸に平行で、突出部位T1の先端辺及び後端辺はY軸に平行である。
【0036】
図7に示すようにフローセル14T2は、突出部位T2を有する。
突出部位T2は、突出部位T1に対して上流側に望む先端部を三角形状に先細りに形成したものである。突出部位T2は、その最先端点がX軸方向に検出対象領域13の中央と一致するように形成されており、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導するように整流する作用を奏する。
【0037】
図8に示すようにフローセル14T3は、突出部位T3を有する。
突出部位T3は、突出部位T1に対して図8(a)に示すように外形を楕円状に形成したものである。突出部位T1の長軸方向がX軸方向とされ、長軸位置が検出対象領域13の中央と一致するように形成されている。突出部位T3は、上流側に望む先端部及び下流側に望む後端部が先細りである。この突出部位T3により、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導しつつ、上流側から下流側への流れを円滑に整流することができる。
【0038】
図9に示すようにフローセル14T4は、突出部位T4を有する。
突出部位T4は、突出部位T1に対して一方の側部が溝14aの側面に連続したものである。したがって、突出部位T4の側方の隙間は片方にのみ形成される。なお、他の突出部位T1〜T3,T5〜T7については、両側に隙間が形成される。
【0039】
図10に示すようにフローセル14T5は、突出部位T5を有する。
突出部位T5は、突出部位T1に対して後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたものである。この突出部位T5の後端部の傾斜により、突出部位T5の後流の渦流等の乱流化を低減することができる。
【0040】
図11に示すようにフローセル14T6は、突出部位T6を有する。
図11(a)に示すように溝14aの底面に垂直な方向、すなわち、Z軸方向に見て検出対象領域13は突出部位T6の形成領域外に配置されている。これは、検出対象領域13における流路断面積を縮小しないためである。突出部位T6は、検出対象領域13の一方の側部から上流側を通って相対する側部までに亘って堤防状に形成され、さらに、その上流側に望む先端部は上流に向かって先細りに形成され、最先端点がX軸方向に検出対象領域13の中央と一致するように形成されており、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導するように整流する作用を奏する。
【0041】
図12に示すようにフローセル14T7は、突出部位T7を有する。
突出部位T7は、突出部位T2に対して図12(b)に示すように上端を凸な曲面で形成したものである。突出部位T7の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられるとともに、突出部位T7の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられる。この突出部位T7により上流側から下流側への流れを円滑に整流することができ、後流の渦流等の乱流化を低減することができる。
【0042】
以上のいずれの突出部位T1〜T7によっても、検出対象領域13への気泡の侵入を低減することができるという効果を奏する。この効果を確認するためのスパイクノイズの計測結果を以下に開示する。
【0043】
〔スパイクノイズの計測〕
検出対象領域に気泡が侵入すると、図18に例示したスパイクノイズ143のようにスパイクノイズが検出されるので、最初にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測した。
計測手段としては、上述した測定システム1に従ったものを用い、分光反射率のボトムピーク波長を出力させて、40℃のサンプル溶液60の送液開始から当該出力信号にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測した。
【0044】
表1に示す比較例1〜5及び本発明の実施例1〜11について計測を行った。表1に、各例に適用されるフローセルタイプを、上記と共通の符号及び掲載図番により示した。また表1に示すように密閉流路14bを形成する溝14aの深さは100(μm)、流路幅(Y軸方向内寸)は2.5(mm)で共通とした。比較例1は突出部位を有さないフローセル14T0を適用したものである。その他の例は突出部位を有するフローセルを適用した。表1に、比較例2〜5及び本発明の実施例1〜11について、突出部位の最大高さ、突出部位の最大幅、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合、及び、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合をそれぞれ記載した。
【0045】
【表1】
【0046】
比較例2,3については、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が、上述した10%以上80%以下の範囲外である。比較例4,5については、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合が、上述した30%以上80%以下の範囲外である。
【0047】
以上の比較例1〜5及び本発明の実施例1〜11について、送液速度を20(μl/min)で4(hr)まで40℃のサンプル溶液60を送液し、サンプル溶液60の送液開始から上記出力信号にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測したところ、表1の「スパイクノイズ発生時間」の欄に記載したとおりの結果となった。
スパイクノイズ発生時間が長いほど効果が高いことを示す。
比較例に対して本発明の実施例は、著しく優れた結果を得た。
比較例1と比較例2とを比較すれば分かるように、突出部位を設けても、その高さが著しく低い場合には、あまり効果は発揮されず、比較例2と実施例8、さらに実施例2、実施例9と順に参照して比較すれば分かるように、同じフローセルタイプ14T1でも、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が10%以上であると、顕著な効果が奏される。さらに、比較例3を参照すれば分かるように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が80%を超え90%ともなると、スパイクノイズ発生時間は短くなった。
しかし、比較例4,5を参照すれば分かるように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が10%以上80%以下の範囲に含まれる50%であっても、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合が小さすぎたり大きすぎたりして30%以上80%以下の範囲外となる場合には、あまり効果は発揮されず、比較例4,5は、同割合が60%である点のみ異なる実施例2や他の実施例に比較して著しく短時間となった。
したがって、上述したように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合を10%以上80%以下の範囲に、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合を30%以上80%以下の範囲にすることが好ましい。
また、実施例1,3,6,7,11については、スパイクノイズ発生時間が360分以上という顕著な効果を得た。
【0048】
以上の実施形態においては、本発明に係るフローセルをRIfS方式の分子間相互作用の測定システムに適用する場合につき説明したが、本発明のフローセルはこれに限らず、SPR(surface plasmon resonance)方式等の他の方式の光学的検出手段に利用される検出器に分子間相互作用を生ぜしめる流路を形成するものとして広く適用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 測定システム
10 検出器
12 センサーチップ
12a シリコン基板
12b SiN膜
13 検出対象領域
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40 光ファイバ
50 制御演算装置
60 サンプル溶液
62 アナライト
T1〜T7 突出部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を流通させることにより物質の光学的特性を変化させこれを検出するための流路を形成するフローセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応などの生体分子同士の分子間相互作用や、有機高分子同士の分子間相互作用などの結合の測定は、一般的に、放射性物質や蛍光体などの標識を用いることで行われてきた。この標識には手間がかかり、特にタンパク質への標識は方法が煩雑な場合や標識によりタンパク質の性質が変化する場合があった。近年では、生体分子や有機高分子間の結合を、簡便に標識を用いることなく直接的に検出する手段として、光学薄膜の干渉色変化を利用したRIfS方式(Reflectometric interference spectroscopy:反射型干渉分光法)が知られている。その基本原理は特許文献1や非特許文献1などに言及されている。
【0003】
RIfS方式について簡単に説明すると、この方式では、図14に示す検出器100が用いられる。図14(a)に示すとおり、検出器100は基板102を有しており、基板102上に光学薄膜104が設けられている。この状態の検出器100に対し白色光を照射した場合、図15に示すとおり、白色光そのものの分光強度は実線106で表され、その反射光の分光強度は実線108で表される。照射した白色光とその反射光との各分光強度から反射率を求めると、図16に示すとおり、実線で表された反射スペクトル110が得られる。
【0004】
分子間相互作用を検出するにあたっては、図14(b)に示すとおり、光学薄膜104上にリガンド120が設けられる。光学薄膜104上にリガンド120を設けると、光学的厚さ112が変化して光路長が変化し、干渉波長も変化する。すなわち、反射光の分光強度分布のピーク位置がシフトし、その結果図16に示すとおり、反射スペクトル110が反射スペクトル122(点線部参照)にシフトする。この状態において、検出器100上にサンプル溶液を流し込むと、図14(c)に示すとおり、検出器100のリガンド120とサンプル溶液中のアナライト130とが結合する。リガンド120とアナライト130とが結合すると、光学的厚さ112がさらに変化し、図16に示すとおり、反射スペクトル122が反射スペクトル132(1点鎖線部参照)にシフトする。そして、反射スペクトル122のピーク波長(ボトムピーク波長)と反射スペクトル132のボトムピーク波長との変化量を検出することにより、分子間相互作用を検出することができるようになっている。
【0005】
ボトムピーク波長の変化の推移を経時的に観測すると、図17に示すとおり、時点140において、リガンド120によるボトムピーク波長の変化を確認することができ、時点142において、リガンド120とアナライト130との結合によるボトムピーク波長の変化を確認することができる。
【0006】
従来、検出器100上に上述のサンプル溶液を流し込むために、シリコーンゴム製の透明な部材等からなるフローセルを使用されている。フローセルの溝が形成された面を、基板102の光学薄膜104が設けられた面に密着させることで、サンプル溶液を流通させる密閉流路が形成される。フローセルの上記溝の両端部はフローセルの表面に露出する孔に連通しており、一方の孔がサンプル溶液の流入口として、他方の孔がその流出口14dとしてそれぞれ機能する。
【0007】
このようなフローセルを用いて流路を形成する構成にあっては、流路内に残留する気泡が光学的検出のノイズとなって現れることがしばしば問題となる。
検出器の検出対象領域を気泡が通過した際に、図16に示したような分光反射率のグラフが大きく乱れてしまう。このような乱れにより、ボトムピーク波長の変化をプロットした際、図18に示すように、あたかもスパイクのような形状143が描かれることとなってしまう。このような針状の局所的変化143は、無論正しく分子間相互作用を反映したものでなく、ノイズである(以後、このような局所的ノイズをスパイクノイズという)。
このスパイクノイズ143は実際の実験結果を分析するうえで障害となり、出来る限り排除されることが望まれる。
このようなスパイクノイズの排除方法としては、気泡の発生を防ぐ、抑制するなど、気泡が検出器の検出対象領域を通過しないようにする手段のほか、データを分析することで、非連続なスパイクノイズを削除する手段が考えられる。
このうち、後者については、即時性に欠けるとともに、わずかな反射率変化とノイズとの切り分けが難しい場合については奏効しない場合がある。
そのため、前者のように、気泡が検出器の検出対象領域に至らないようにせしめる工夫が望ましい。
【0008】
以上の問題を解決することを目的に、特許文献2,3には、検出器に形成される流路内の気泡の除去を目的とした発明が記載されている。
特許文献2は、流路内の気泡の発生を抑制した液体試料の送液方法を提案する。
特許文献3は、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に設けられ、疎水性及び通気性を有し、前記第1の基板上に所定の流路を形成する、中間部材とを有し、前記中間部材と前記第2の基板との間の少なくとも一部に、前記流路内の気泡を前記流路外へ脱気可能な隙間を有することを特徴とするチップを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3786073号公報
【特許文献2】特許第4273252号
【特許文献3】特許第4407271号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sandstrom et al, APPL.OPT., 24, 472, 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2,3に記載されるような技術の適用により、気泡の発生を抑制したり、脱気を行ったりしても、流路内の気泡を完全に消失させることは難しく、気泡に起因する検出ノイズを完全に避けることは難しい。
【0012】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルにおいて、流路内の気泡が検出対象領域へ侵入することを低減することができるフローセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、
前記溝の底面から突出した突出部位が形成され、
前記検出対象領域に対して前記液体試料の流通の上流側に、前記突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、
前記突出部位の高さは、前記溝の深さに対して10%以上80%以下であり、
前記突出部位の幅は、前記溝の幅に対して30%以上80%以下であるフローセルである。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセルである。
【0015】
請求項3記載の発明は、前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域外に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセルである。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記突出部位の高さが一定であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0017】
請求項5記載の発明は、前記突出部位は、上流側に向かって先細りに形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記突出部位の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【0019】
請求項7記載の発明は、前記突出部位の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフローセルである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流路を形成する溝の底面から突出した突出部位であって、上流側に望む先端が検出対象領域に対して上流側に配置される突出部位が、検出対象領域より上流の気泡に作用し、この気泡が検出対象領域を避けるように流路内の気泡の流れを整流するので、流路内の気泡が検出対象領域へ侵入することを低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る分子間相互作用の測定システムの概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係り、検出器と、光ファイバを内臓したプローブとによる検出の様子を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係り、検出器と、光ファイバを内臓したプローブとによる検出の様子を示す斜視図である。図2に対して密閉流路を幅広にしたものである。
【図4】本発明の一実施形態に係るリガンドとアナライトとの結合の様子を模式的に表した断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るフローセルの斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図7】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図8】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図9】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図10】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図11】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図12】本発明の他の一実施形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図13】従来の形態に係るフローセルの平面図(a)及び流路中央線に沿った断面図(b)である。
【図14】RIfS方式の概略を説明するための模式図である。
【図15】波長と分光強度との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【図16】波長と反射率との概略的な関係を示す一例のグラフである。
【図17】ボトムピーク波長の変化の概略的な推移を示す一例のグラフである。
【図18】スパイクノイズが含まれた場合のボトムピーク波長の変化の概略的な推移を示す一例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
本実施形態においては、本発明に係るフローセルをRIfS方式の分子間相互作用の測定システムに適用する場合を例に挙げて説明する。
【0023】
図1に示すとおり、分子間相互作用の測定システム1は主に、検出器10,白色光源20,分光器30,光ファイバ40,制御演算装置50などから構成されている。
測定システム1において制御演算装置50は、白色光源20や分光器30などの制御手段及び検出情報の演算手段並びに制御指令や検出情報の出入力を行う出入力手段(インターフェース)を構成する。検出器10,白色光源20,分光器30,光ファイバ40等は分子間相互作用が進捗する光学薄膜の反射光の分光特性を検出する検出手段を構成する。
検出器10は基本的にはセンサーチップ12,フローセル14から構成されている。図2、図3に検出器10と、光ファイバ40を内臓したプローブ41とによる検出の様子を示す斜視図を示す。
センサーチップ12は矩形状を呈したシリコン基板12aを有している。シリコン基板12a上にはSiN膜12b(窒化シリコン)が蒸着されている。SiN膜12bは光学薄膜の一例である。
フローセル14はシリコーンゴム製の透明な部材である。フローセル14には溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される(図1参照)。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部がサンプル溶液の流入口14cとして、他方の端部がその流出口14dとしてそれぞれ機能する。溝14aの底部にはリガンド16が結合されている(図1参照)。
【0024】
検出器10では、センサーチップ12に対しフローセル14を貼り替え可能となっており、フローセル14はディスポーザブル(使い捨て)使用が可能となっている。センサーチップ12の表面には、シランカップリング剤などにより、表面修飾をおこなってもよく、この場合フローセル14の貼り替えが容易となる。
【0025】
図1に示すとおり、フローセル14の密閉流路14bの上方には光ファイバ40が設置されている。光ファイバ40の一方の端部には白色光源20が接続されている。白色光源20としては例えばハロゲン光源が使用される。光ファイバ40の他方の端部には分光器30が接続されている。白色光源20が点灯すると、その光が光ファイバ40を介して密閉流路14bに照射され、その反射光が再度光ファイバ40を介して分光器30で検出される。白色光源20や分光器30は制御演算装置50に接続され、制御演算装置50はこれらモジュールの動作を制御する。
また、制御演算装置50は、分子間相互作用の測定プログラムの実行により、検出動作制御に連動した所定のタイミングでインターフェースを介して反射光の分光特性の入力を得るとともに、入力された反射光の分光特性に基づき各種測定値を算出する演算手段として機能する。
【0026】
続いて、測定システム1の動作及び測定方法について説明する。
【0027】
図1に示すとおり、アナライト62を含むサンプル溶液60を、流入口14cから密閉流路14bを経て流出口14dに流通させる。このとき制御演算装置50は、サンプル溶液60の送液駆動装置(図示せず)の制御を行う。アナライト62とは、リガンド16と特異的に結合する物質であり、検出しようとする目的の分子である。アナライト62としては、例えばタンパク質,核酸,脂質,糖などの生体分子や、薬剤物質,内分泌錯乱化学物質などの生体分子と結合する外来物質などが使用される。
【0028】
制御演算装置50は、サンプル溶液60が密閉流路14bを流通している間も、白色光源20を点灯させる。白色光はフローセル14を透過してセンサーチップ12に照射され、その反射光が分光器30で検出される。分光器30により検出された反射光の検出強度は制御演算装置50に送信される。
【0029】
この場合に、図4に示すとおり、サンプル溶液60中のアナライト62がリガンド16と結合すると、光学的厚さ70が変化し、干渉色(分光器30による検出強度が最も小さくなる波長)が変化する。制御演算装置50は、分光器30から、分子間相互作用の開始前や進捗中、終了後の反射光の分光特性の入力を得る。制御演算装置50は、入力された反射光の分光特性に基づき各種測定値を算出する。この測定値としては、例えば、分光反射率のボトムピーク波長や、その変化量である。
【0030】
さて、以上の測定システムに適用されるフローセル14の本発明に係る実施形態として、図5に、突出部位Tを有したフローセル14Tを示す。また、突出部位Tの形状が異なった実施形態として、図6に示すフローセル14T1、図7に示すフローセル14T2、図8に示すフローセル14T3、図9に示すフローセル14T4、図10に示すフローセル14T5、図11に示すフローセル14T6、及び図12に示すフローセル14T7の7つの形態を例示する。また、本発明との比較用として従来の形態の図13に示すフローセル14T0を例示する。
【0031】
本発明の実施形態であるフローセル14T,14T1〜14T7は、溝14aの底面から突出した突出部位T,T1〜T7が形成されたものであり、従来の形態のフローセル14T0は、溝14aに突出部位を有さないものであり、突出部位以外の溝14a、流入口14c及び流出口14d等の形態は共通である。フローセル14Tと,フローセル14T1とは、その突出部位Tと、突出部位T1とが矩形状である点で同タイプのものである。なお、本発明の実施形態に適用される密閉流路14bとしては、図3に示すような幅広のものが好ましい。本発明との比較用の従来例のフローセル14T0についても幅広の密閉流路14bが採用される。
【0032】
説明の便宜のため、図5から図13に共通の直交3軸X−Y−Z座標を併記した。X軸は密閉流路14bを流れるサンプル溶液60の進行方向に相等する。Z軸は溝14aの深さ方向に相等する。Y軸は溝14aの幅方向に相等する。
【0033】
図6から図13に検出対象領域13を示す。白色光源20が点灯すると、その光が光ファイバ40を介して密閉流路14bの検出対象領域13に照射され、検出対象領域13からの反射光が再度光ファイバ40を介して分光器30で検出される。光源からの光照射方向及び光ファイバ40に受光される反射光のフローセルにおける通過方向がZ軸方向である。検出を良好にするため各フローセルは、少なくともその検出対象領域13内の部材が、400〜800(nm)の波長域にわたっての平均透過率が80%以上に構成される。
【0034】
本発明の実施形態であるフローセル14T1〜14T7に形成された突出部位T1〜T7の上流側に望む先端、すなわち、X軸の負の方向の端は、図6〜図12に示すように、検出対象領域13に対して上流側に配置される。これは、上流から流れてくる気泡が検出対象領域13を避けるように整流するためである。
突出部位T1〜T7は、その高さ(Z軸方向の寸法)が溝14aの深さ(Z軸方向の寸法)に対して10%以上80%以下に形成される。
突出部位T1〜T7は、その幅(Y軸方向の寸法)が溝14aの幅(Y軸方向の寸法)に対して30%以上80%以下に形成される。
溝14aの底面に垂直な方向、すなわち、Z軸方向に見て検出対象領域13は突出部位T1〜T5,T7の形成領域内に配置される。これは、検出対象領域13における流路断面積を小さくすることで、気泡が検出対象領域13に侵入することを避けるためである。
突出部位T1〜T4,T6については、その高さが一定である。
【0035】
さらに各突出部位につき説明する。
図6に示すようにフローセル14T1は、突出部位T1を有する。
突出部位T1は、図6(a)に示すようにX−Y平面において矩形状の形状を有する。突出部位T1は、図6(b)に示すようにX−Z平面において矩形状の断面形状を有する。突出部位T1の側辺はX軸に平行で、突出部位T1の先端辺及び後端辺はY軸に平行である。
【0036】
図7に示すようにフローセル14T2は、突出部位T2を有する。
突出部位T2は、突出部位T1に対して上流側に望む先端部を三角形状に先細りに形成したものである。突出部位T2は、その最先端点がX軸方向に検出対象領域13の中央と一致するように形成されており、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導するように整流する作用を奏する。
【0037】
図8に示すようにフローセル14T3は、突出部位T3を有する。
突出部位T3は、突出部位T1に対して図8(a)に示すように外形を楕円状に形成したものである。突出部位T1の長軸方向がX軸方向とされ、長軸位置が検出対象領域13の中央と一致するように形成されている。突出部位T3は、上流側に望む先端部及び下流側に望む後端部が先細りである。この突出部位T3により、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導しつつ、上流側から下流側への流れを円滑に整流することができる。
【0038】
図9に示すようにフローセル14T4は、突出部位T4を有する。
突出部位T4は、突出部位T1に対して一方の側部が溝14aの側面に連続したものである。したがって、突出部位T4の側方の隙間は片方にのみ形成される。なお、他の突出部位T1〜T3,T5〜T7については、両側に隙間が形成される。
【0039】
図10に示すようにフローセル14T5は、突出部位T5を有する。
突出部位T5は、突出部位T1に対して後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたものである。この突出部位T5の後端部の傾斜により、突出部位T5の後流の渦流等の乱流化を低減することができる。
【0040】
図11に示すようにフローセル14T6は、突出部位T6を有する。
図11(a)に示すように溝14aの底面に垂直な方向、すなわち、Z軸方向に見て検出対象領域13は突出部位T6の形成領域外に配置されている。これは、検出対象領域13における流路断面積を縮小しないためである。突出部位T6は、検出対象領域13の一方の側部から上流側を通って相対する側部までに亘って堤防状に形成され、さらに、その上流側に望む先端部は上流に向かって先細りに形成され、最先端点がX軸方向に検出対象領域13の中央と一致するように形成されており、上流から流れてくる気泡を検出対象領域13の両側に誘導するように整流する作用を奏する。
【0041】
図12に示すようにフローセル14T7は、突出部位T7を有する。
突出部位T7は、突出部位T2に対して図12(b)に示すように上端を凸な曲面で形成したものである。突出部位T7の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられるとともに、突出部位T7の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられる。この突出部位T7により上流側から下流側への流れを円滑に整流することができ、後流の渦流等の乱流化を低減することができる。
【0042】
以上のいずれの突出部位T1〜T7によっても、検出対象領域13への気泡の侵入を低減することができるという効果を奏する。この効果を確認するためのスパイクノイズの計測結果を以下に開示する。
【0043】
〔スパイクノイズの計測〕
検出対象領域に気泡が侵入すると、図18に例示したスパイクノイズ143のようにスパイクノイズが検出されるので、最初にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測した。
計測手段としては、上述した測定システム1に従ったものを用い、分光反射率のボトムピーク波長を出力させて、40℃のサンプル溶液60の送液開始から当該出力信号にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測した。
【0044】
表1に示す比較例1〜5及び本発明の実施例1〜11について計測を行った。表1に、各例に適用されるフローセルタイプを、上記と共通の符号及び掲載図番により示した。また表1に示すように密閉流路14bを形成する溝14aの深さは100(μm)、流路幅(Y軸方向内寸)は2.5(mm)で共通とした。比較例1は突出部位を有さないフローセル14T0を適用したものである。その他の例は突出部位を有するフローセルを適用した。表1に、比較例2〜5及び本発明の実施例1〜11について、突出部位の最大高さ、突出部位の最大幅、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合、及び、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合をそれぞれ記載した。
【0045】
【表1】
【0046】
比較例2,3については、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が、上述した10%以上80%以下の範囲外である。比較例4,5については、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合が、上述した30%以上80%以下の範囲外である。
【0047】
以上の比較例1〜5及び本発明の実施例1〜11について、送液速度を20(μl/min)で4(hr)まで40℃のサンプル溶液60を送液し、サンプル溶液60の送液開始から上記出力信号にスパイクノイズが検出されるまでの時間を計測したところ、表1の「スパイクノイズ発生時間」の欄に記載したとおりの結果となった。
スパイクノイズ発生時間が長いほど効果が高いことを示す。
比較例に対して本発明の実施例は、著しく優れた結果を得た。
比較例1と比較例2とを比較すれば分かるように、突出部位を設けても、その高さが著しく低い場合には、あまり効果は発揮されず、比較例2と実施例8、さらに実施例2、実施例9と順に参照して比較すれば分かるように、同じフローセルタイプ14T1でも、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が10%以上であると、顕著な効果が奏される。さらに、比較例3を参照すれば分かるように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が80%を超え90%ともなると、スパイクノイズ発生時間は短くなった。
しかし、比較例4,5を参照すれば分かるように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合が10%以上80%以下の範囲に含まれる50%であっても、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合が小さすぎたり大きすぎたりして30%以上80%以下の範囲外となる場合には、あまり効果は発揮されず、比較例4,5は、同割合が60%である点のみ異なる実施例2や他の実施例に比較して著しく短時間となった。
したがって、上述したように、突出部位の最大高さの溝深さに対する割合を10%以上80%以下の範囲に、突出部位の最大幅の流路幅に対する割合を30%以上80%以下の範囲にすることが好ましい。
また、実施例1,3,6,7,11については、スパイクノイズ発生時間が360分以上という顕著な効果を得た。
【0048】
以上の実施形態においては、本発明に係るフローセルをRIfS方式の分子間相互作用の測定システムに適用する場合につき説明したが、本発明のフローセルはこれに限らず、SPR(surface plasmon resonance)方式等の他の方式の光学的検出手段に利用される検出器に分子間相互作用を生ぜしめる流路を形成するものとして広く適用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 測定システム
10 検出器
12 センサーチップ
12a シリコン基板
12b SiN膜
13 検出対象領域
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40 光ファイバ
50 制御演算装置
60 サンプル溶液
62 アナライト
T1〜T7 突出部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、
前記溝の底面から突出した突出部位が形成され、
前記検出対象領域に対して前記液体試料の流通の上流側に、前記突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、
前記突出部位の高さは、前記溝の深さに対して10%以上80%以下であり、
前記突出部位の幅は、前記溝の幅に対して30%以上80%以下であるフローセル。
【請求項2】
前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域外に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセル。
【請求項4】
前記突出部位の高さが一定であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項5】
前記突出部位は、上流側に向かって先細りに形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項6】
前記突出部位の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項7】
前記突出部位の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項1】
液体試料を流通させる流路であって当該流路内に光学的手段により光学的特性が検出される被検体が構成され、当該流路中に前記被検体の検出対象領域が配置される流路を、溝が形成された面を基板の表面に密着させることにより形成するフローセルであって、
前記溝の底面から突出した突出部位が形成され、
前記検出対象領域に対して前記液体試料の流通の上流側に、前記突出部位の同上流側に望む先端が配置可能であり、
前記突出部位の高さは、前記溝の深さに対して10%以上80%以下であり、
前記突出部位の幅は、前記溝の幅に対して30%以上80%以下であるフローセル。
【請求項2】
前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
前記検出対象領域は、前記突出部位の形成領域外に配置されることを特徴とする請求項1に記載のフローセル。
【請求項4】
前記突出部位の高さが一定であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項5】
前記突出部位は、上流側に向かって先細りに形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項6】
前記突出部位の後端部に、下流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のフローセル。
【請求項7】
前記突出部位の先端部に、上流側に向かって高さが漸減する傾斜が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフローセル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−127860(P2012−127860A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280727(P2010−280727)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
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