説明

フロー式光化学反応装置およびそれを用いた光化学反応生成物質の製造方法

【課題】反応効率、エネルギー効率、メンテナンス性に優れ、かつ、所望の光化学反応を生じさせるうえで最適となる反応環境を容易に設定できるフロー式光化学反応装置を提供すること。
【解決手段】フロー式光化学反応装置は、光透過性流路により形成される反応部と、反応部へ被反応物質を送液する送液部と、反応部を照射し光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じせしめる少なくとも1つの光源を備える光源部と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部とを備え、反応部は1つのユニットとしてユニット化され、光源部と一体をなすように光源部に対して着脱可能に装着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロー式光化学反応装置およびそれを用いた光化学反応生成物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明に関連する従来技術としては、被反応物質を収容したフラスコに対し、紫外領域にブロードな波長特性を有する高輝度の高圧水銀灯やキセノンランプから光を照射し、フラスコ内の被反応物質に光化学反応を生じさせ、所望の光化学反応生成物質を得るバッチリアクター方式による光化学反応生成物質の製造方法が知られている。
また、光化学反応の効率を改善し得るものとして、板状基材に繰り返し屈曲し蛇行する溝を形成し、この溝を覆うようにガラス板を重ね合わせたマイクロリアクターも知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、水を紫外光により酸化処理する装置として、直管形状の紫外線ランプの外周に、細径の反応管が螺旋状に巻き回された構成を有し、被処理流体としての水が反応管に通水される光酸化器も知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、紫外光によって光触媒反応を生じさせる装置として、透明なチタニア被膜を表面に形成した透明なガラス管を、紫外光を発する光源の周りに多数環状に列設するとともに、隣合うガラス管の始端と終端とを連通連結させ、ガラス管内に流体を通過させるようにした光触媒反応器も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−7529号公報
【特許文献2】特開2003−211159号公報
【特許文献3】特開平10−15393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光化学反応は有機合成の分野における重要な反応の1つである。一般的には、上述の背景技術の項で紹介したような、バッチリアクター方式が主流となっている。
しかし、バッチリアクター方式では、反応基質や生成物自身、あるいは溶媒による光吸収によって生ずる光の減衰が生ずるため反応効率としては十分と言えず、また過剰な光照射による生成物分解等が生じる恐れもある。
【0004】
そこで、反応効率を改善するため、特許文献1に記載されているようなマイクロリアクターを利用して光化学反応を行うことも試みられている。
しかし、マイクロリアクターは、光化学反応を行ううえで流路長が十分とは言えず、反応を確実なものとするためにはバッチリアクター方式と同様に、高輝度の高圧水銀灯やキセノンランプでマイクロリアクターを照射する必要がある。
【0005】
つまり、光化学反応によって光化学反応生成物質を製造するには、数百ワットから数十キロワットの高圧水銀灯やキセノンランプが必要となるが、これらの大規模光源は一般に高価であり、さらには、多様な波長の光のピークから必要な波長を選択するには多くのフィルターを必要とし、これによってエネルギー損失が生ずる。
【0006】
また、上記のような大規模光源から発せられる光のうち、光化学反応に寄与する光は主に短波長の光のうちのごく一部であるが、短波長の高エネルギー光子は反応生成物自身を分解・破壊する場合があるため、フィルター等でその作用を抑制する必要もある。
さらには、被照射領域が決して大きいとは言えないフラスコやマイクロリアクターに対して、上記のような大規模光源から光を照射することは、照射領域と被照射領域との関係においてアンバランスであり、エネルギー効率の観点からみても望ましいものとは言えない。
【0007】
また、微細な流路を有するマイクロリアクターを用いて光化学反応を行えば、反応効率の点ではバッチリアクター方式よりも改善されるが、マイクロリアクターは一般に高価であり、微細な流路に閉塞が生ずると、高価なマイクロリアクター自体を交換するしかない。特許文献1のものでは、マイクロリアクターが分解可能に構成されているため、流路に閉塞が生じた場合には、マイクロリアクターを分解して清掃することにより閉塞を取り除くことが可能であるが、マイクロリアクターと光源部とが複雑に組合されている場合、マイクロリアクターのみを取り出すことは容易ではない。
【0008】
また、光化学反応は、被反応物質に所望の光化学反応を生じさせるうえで、好ましい条件、すなわち光源の出力や波長、或いはマイクロリアクターを用いる場合には流路構成や流路長など、様々な要因を考慮する必要があり、所望の光化学反応を生じさせるうえで、最適となる反応環境を設定することは容易ではなく、手間を要する。
【0009】
この発明は以上のような事情を考慮してなされたものであり、反応効率、エネルギー効率、メンテナンス性に優れ、かつ、所望の光化学反応を生じさせるうえで最適となる反応環境を容易に設定できるフロー式光化学反応装置とそれを用いた光化学反応生成物質の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、光透過性流路により形成される反応部と、反応部へ被反応物質を送液する送液部と、反応部を照射し光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じせしめる少なくとも1つの光源を備える光源部と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部とを備え、反応部は1つのユニットとしてユニット化され、光源部と一体をなすように光源部に対して着脱可能に装着されることを特徴とするフロー式光化学反応装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、反応部は1つのユニットとしてユニット化され、光源部と一体をなすように光源部に対して着脱可能に装着されるので、反応効率が改善され、反応効率の改善により小規模の光源部を使用することが可能となりエネルギー効率の向上も図られる。
つまり、反応部を形成する光透過性流路が光源部に極めて近接することにより、光透過性流路内の被反応物質に効率良く光が照射されることとなり、反応効率が向上する。そして、反応効率が向上することにより小規模の光源であっても十分な光化学反応を生じせしめることが可能となり、エネルギー効率の向上も図られる。
また、反応部がユニット化され光源部に対して着脱可能に配設されるので、光透過性流路の流路長、光透過度等の諸条件が異なる複数種の反応部を予め用意しておくことにより、目的とする光化学反応を生じせしめるうえで最適とな条件を備えた反応部を適宜選択して装着することができ、所望の光化学反応を生じさせるうえで最適となる反応環境を非常に容易に設定できるようになる。
また、反応部がユニット化され光源部に対して着脱可能であるため、反応部の光透過性流路が閉塞したような場合でも、反応部を光源部から容易に取り外すことができ、反応部の取り替えや分解メンテナンスなどが容易に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明によるフロー式光化学反応装置は、光透過性流路により形成される反応部と、反応部へ被反応物質を送液する送液部と、反応部を照射し光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じせしめる少なくとも1つの光源を備える光源部と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部とを備え、反応部は1つのユニットとしてユニット化され、光源部と一体をなすように光源部に対して着脱可能に装着されることを特徴とする。
【0013】
この発明において光透過性流路とは、外部から照射される光が透過する流路であって送液部より送液される被反応物質を流すことができるものであればよく、その構成は特に限定されない。
反応部とは、光透過性流路により形成され、光源部に対して着脱可能となるように1つのユニットとしてユニット化され、マイクロリアクターとして機能するものを意味する。
送液部とは、被反応物質を反応部の光透過性流路に送液できる機能を備えていればよく、その構成は特に限定されない。
【0014】
光源部とは、少なくとも1つの光源を備え、ユニット化された反応部と一体となって光透過性流路を照射できるものであればよく、その構成は特に限定されない。光源としては、特に限定されるものではないが、例えば、高圧水銀灯や冷陰極蛍光管を用いることができる。
なかでも、蛍光体の組成により紫外領域から可視領域まで個々に特定波長の蛍光を発する冷陰極蛍光管(ブラックライト)が、反応効率およびエネルギー効率の観点からみて好適である。
回収部とは、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を収容できるものであればよく、その構成は特に限定されない。
【0015】
また、この発明によるフロー式光化学反応装置において、反応部と光源部が一体をなすとは、反応部が光源部に対して装着された状態で、反応部と光源部が実質的に一体の構成体となり、反応部の光透過性流路と光源部の光源が極めて近接した状態となることを意味する。
【0016】
この発明によるフロー式光化学反応装置は、様々な光化学反応に利用できるが、具体的な光化学反応としては、例えば、シス−トランス異性化反応、光環化反応(例、スチルベンからフェナントレンへの環化、ノルボルナジエンの分子内光環化反応、[2+2]付加環化反応等)、光Fries転位反応、Puterno−Buchi反応、シクロブタン光合成反応、スーパーオキシドの付加反応、Norrish TypeI/II開裂反応、光ピナコールカップリング反応、光化学ブロム化反応、光バートン反応等が挙げられる。
【0017】
この発明によるフロー式光化学反応装置において、反応部は、光透過性の筒状体と、筒状体の外周面に巻き回され光透過性流路を形成する光透過性のチューブとからなり、光源部は筒状体の内周面から筒状体を介してチューブを照射するように筒状体の内部に配設されていてもよい。
【0018】
このような構成によれば、光透過性の筒状体の外周面に巻き回される光透過性のチューブを、筒状体の内部に配設された光源部によって照射するので、チューブ内の被反応物質に極めて効率良く光を照射することができ、反応効率とエネルギー効率の面からみて非常に好ましいフロー式光化学反応装置を提供できる。
【0019】
なお、チューブとしては、例えば、フッ素樹脂からなる可撓性のテフロン(登録商標)チューブや、或いは、石英ガラスやライムソーダガラスからなるガラスチューブなどを用いることができる。
また、筒状体としては、例えば、透明なアクリル樹脂やフッ素樹脂からなる筒状体や、或いは、石英ガラスやライムソーダガラスからなる筒状体などを用いることができる。
【0020】
筒状体の外周面にチューブが巻き回される上記構成において、筒状体はその外周面に溝が形成され、チューブは筒状体の溝に沿って巻き回されることが好ましい。
このような構成によれば、チューブと筒状体との間に隙間がなくなるので、チューブ内に光が入射し易くなり、可撓性チューブ内の被反応物質により一層効率良く光を照射できるようになり、反応効率およびエネルギー効率のより一層の向上を図ることができる。
【0021】
この発明によるフロー式光化学反応装置において、反応部は、光透過性流路に対応する溝が形成された第1基板と、第1基板に形成された溝を覆うように第1基板上に重ねられる光透過性の第2基板とからなり、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、第1基板に形成された溝と光透過性の第2基板によって光透過性流路が形成され、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えるので、反応部が光源部の反応部収容部に受け入れられた状態において前記光透過性流路は光源部に非常に近接した状態となる。
これにより、光透過性流路内の被反応物質に極めて効率良く光を照射でき、反応効率とエネルギー効率の面からみて非常に好ましいフロー式光化学反応装置を提供できることとなる。
【0023】
なお、溝が形成される第1基板としては、例えば、銅やFe−Ni合金からなる金属基板、フッ素樹脂からなる樹脂基板、或いは、石英ガラスやライムソーダガラスからなるガラス基板などを用いることができる。
また、第2基板としては、例えば、石英ガラスやライムソーダガラスなどからなるガラス基板を用いることができる。
【0024】
この発明によるフロー式光化学反応装置において、反応部は、光透過性流路に対応する開口パターンが形成された第1基板と、第1基板に形成された開口パターンを塞ぐように第1基板を挟み少なくとも一方が光透過性を有する第2および第3基板とからなり、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えていてもよい。
【0025】
このような構成によれば、第1基板に形成された開口パターンと、少なくとも一方が光透過性を有する第2および第3基板によって光透過性流路が形成され、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えるので、反応部が光源部の反応部収容部に受け入れられた状態において前記光透過性流路は光源部に非常に近接した状態となる。
これにより、光透過性流路内の被反応物質に極めて効率良く光を照射でき、反応効率とエネルギー効率の面からみて非常に好ましいフロー式光化学反応装置を提供できることとなる。
【0026】
なお、開口パターンが形成される第1基板としては、例えば、銅やFe−Ni合金からなる金属基板、フッ素樹脂からなる樹脂基板、或いは、石英ガラスやライムソーダガラスからなるガラス基板などを用いることができる。
また、第2および第3基板としては、例えば、石英ガラスやライムソーダガラスなどからなるガラス基板を用いることができる。
【0027】
反応部が、溝を有する第1基板および光透過性の第2基板、若しくは、開口を有する第1基板と、第1基板を挟み少なくとも一方が光透過性を有する第2および第3基板とからなる上記構成において、光源部は複数の光源を備え、複数の光源は光透過性流路の上流側から下流側へ向かって並ぶように配設されていてもよい。
このような構成によれば、複数の光源が光透過性流路の流路に沿って並ぶように配設されるので、光透過性流路の流路長が長い場合であっても、大規模の光源を使用することなく小規模の複数の光源によって光透過性流路内の被反応物質に効率良く光を照射することが可能となる。
【0028】
反応部が、溝を有する第1基板および光透過性の第2基板、若しくは、開口を有する第1基板と、第1基板を挟み少なくとも一方が光透過性を有する第2および第3基板とからなる上記構成において、反応部は光透過性流路の流路に沿って複数の排出口が部分的に設けられていてもよい。
このような構成によれば、排出口から被反応物質をサンプリングして反応の進行状況をモニタリングし、反応の進行状況に応じて光源部の点灯制御や、送液部からの送液量を調整することにより、被反応物質に過剰に光照射することによる反応生成物の分解・破壊を抑えることができる。
特に、光源部が複数の光源を備え、それらが光透過性流路に沿って並ぶように配設されている場合には、複数の光源をそれぞれ点灯制御し、同時点灯や時系列的な点灯制御などを行うことにより、所望の光化学反応を生じさせるうえでより好ましい光照射を行えるようになる。
【0029】
反応部が、溝を有する第1基板および光透過性の第2基板、若しくは、開口を有する第1基板と、第1基板を挟み少なくとも一方が光透過性を有する第2および第3基板とからなる上記構成において、第1基板および第2基板、若しくは、第2基板および第3基板は、第1基板の溝又は開口への露光を妨げないような開口を有する一対のクランプ板によって挟まれて分解可能なように密着させられていてもよい。
【0030】
このような構成によれば、一対のクランプ板の係合状態を解くことにより、第1および第2基板、若しくは、第1、第2および第3基板を容易に分解して清掃できるようになるので、同一の反応部を様々な被反応物質に利用できるようになり、また、光透過性流路に閉塞が生じた場合であっても、分解清掃により閉塞状態を容易に解消できるので光化学反応生成物質の製造に係るコストの低減が図れると共に、フロー式光化学反応装置の稼動率を改善することができる。
なお、一対のクランプ板としては、アルミやSUSからなる金属板を用いることができ、これらは第1および第2基板、若しくは、第1、第2および第3基板を挟んだ状態でネジやボルトで固定されていてもよい。
【0031】
また、光源部が複数の光源を備える上記構成において、複数の光源はそれらのピーク波長が互いに異なるものであってもよい。
このような構成によれば、光透過性流路の上流側から下流側へ向けて送液される被反応物質に、時系列的に異なる波長の光を照射することが可能となり、光透過性流路内で複数種の光反応を時系列に生じさせることが可能となる。
【0032】
この発明によるフロー式光化学反応装置において、光源部は温度調節機構を備えていてもよい。
このような構成によれば、所望の光化学反応を生じせしめるうえで好ましくない反応部の加熱を抑えることができると共に、光源の表面温度を適正な範囲に保つことができ、光出力の安定化を図ることができる。
【0033】
この発明は別の観点からみると、この発明による上述のフロー式光化学反応装置を用い、送液部により反応部の光透過性流路に所定の被反応物質を送液し、光源により反応部に光を照射して光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じさせ、回収部に所望の光化学反応生成物質を得ることを特徴とする光化学反応生成物質の製造方法を提供するものでもある。
【0034】
この発明による上記の光化学反応生成物質の製造方法は、送液部により送液される被反応物質が式(I):
【化1】

で示される亜硝酸エステルであり、光化学反応としての光バートン反応によって得られる光化学反応生成物質が式(II):
【化2】

で示されるオキシイミノアルコールであってもよい。
【0035】
上記の式(I)で示される亜硝酸エステルに、光バートン反応を生じさせて上記の式(II)に示されるオキシイミノアルコールを製造する光化学反応生成物質の製造方法において、保護されてもよいヒドロキシの保護基としては、例えば、アラルキル(メトキシベンジル、ニトロベンジル、2,4−ジメトキシベンジル、トリチル等)、アルキルカルボニル(アセチル、ハロゲン化アセチル、ピバロイル、ホルミル、シクロヘキシルアセチル等)、アリールカルボニル(ベンゾイル、トルオイル、キシリル、インダニル等)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、シクロプロポキシカルボニル等)、アルケニルオキシカルボニル(プロペニルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル(フェノキシカルボニル等)、アラルキルオキシカルボニル(ニトロベンジルオキシカルボニル等)、シリル型(トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、ジメチルフェニルシリル、t−ブトキシジフェニルシリル等)およびエーテル型(アルキルエーテル、アリールエーテル、アラルキルエーテル、メトキシメチル、テトラヒドロフラニル等)等が例示される。好ましくは、アセチル等のアルカノイルである。
また、一緒になって保護されてもよいオキソの保護基としては、例えば、ジアルキルアセタール型(ジメチルアセタール、ジエチルアセタール等)、アルキレンジチオ、プロピレンジオキシ等)およびアルキレンジチオ型(エチレンジチオ、プロピレンジチオ等)が例示され、特に好ましくは、エチレンジオキシ等のアルキレンジオキシ型である。
【0036】
以下、図面に示す実施例に基づいてこの発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1
この発明の実施例1によるフロー式光化学反応装置について図1〜6に基づいて説明する。図1は、この発明の実施例1によるフロー式光化学反応装置の全体構成を示す概略図、図2は反応部の斜視図、図3は図2に示される反応部のA−A断面図、図4は図2に示される反応部の内部に光源部が配設された状態を示す斜視図、図5は変形例に係る反応部の断面図、図6は変形例に係る反応部の要部拡大図である。
【0038】
概して、図1に示されるように、実施例1によるフロー式光化学反応装置1は、テフロン(登録商標)チューブ(光透過性流路)2により形成される反応部3と、反応部3へ被反応物質を送液するマイクロシリンジからなる送液ポンプ(送液部)4と、反応部3を照射しシリコンチューブ2a内の被反応物質に光化学反応を生じせしめるブラックライト(光源)5を備える光源部6と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部7とを備え、反応部3は1つのユニットとしてユニット化され、光源部6と一体をなすように光源部6に対して着脱可能に装着されている。
【0039】
図2および図3に示されるように、反応部3は、透明な石英ガラス製の筒状体8の外周にテフロンチューブ(内径1.2mm、長さ2.85m)2が螺旋状に巻き回された構成を有している。
筒状体8の外周に螺旋状に巻き回されたテフロンチューブ2は、螺旋状の始端と終端となる位置がクランプ9によってそれぞれ固定され、螺旋状に巻きまわれた形状が崩れないように保持されている。
【0040】
テフロンチューブ2の両端には、送液ポンプ4および回収部7から延びるチューブを接続するために、コネクティングアダプター10がそれぞれ取り付けられている。
テフロンチューブ2の両端に取り付けられたコネクティングアダプター10は、筒状体8の両端にそれぞれ嵌め入れられ反応部3の蓋体を兼ねるアルミニウム製の上側カラー11および下側カラー12の貫通孔にネジ止めされ、両カラー11,12の間には筒状体8、テフロンチューブ2を覆う円筒状のアルミニウム製のボディ本体13が挟まれ、1つのユニット化された反応部3を構成している。
【0041】
図2〜4に示されるように、上側カラー11および下側カラー12は、ブラックライト(東芝ライテック株式会社製、ネオボール5(登録商標)、消費電力15W、ピーク波長352nm)5の外径50mmよりも僅かに大きい51mmの口径を有する開口11a,12aを有し、ブラックライト5は上側カラー11の開口11aから挿入され下側カラー12に装着されたコの字形のストッパー14に突き当たるまで挿入される。
つまり、ブラックライト5が反応部3に挿入された状態において、筒状体8の内周面とブラックライト5の外周面はほぼ当接した状態となる。
【0042】
これにより、テフロンチューブ2内の被反応物質に効率良く光を照射することが可能となり、反応効率とエネルギー効率の向上が図られる。また、ブラックライト5が発する近紫外光により筒状体8やテフロンチューブ2が劣化しても、反応部3を光源部6から取り外し、新しい筒状体8やテフロンチューブ2に容易に交換できる。
もちろん、反応部3そのものを新しいものに取り替えてもよい。反応部3を新しいものに交換する場合であっても、上述のように反応部3は安価な材料で構成され、かつその構成も簡略なものであるため、光反応物質の製造に係るトータルコストからみれば、反応部3の交換に要するコストは無視できる程度のものである。
【0043】
以上のような構成からなる実施例1のフロー式光化学反応装置において、送液ポンプ4から被反応物質を送液すると、被反応物質は反応部3のテフロンチューブ2に流入し、螺旋状に巻き回されたテフロンチューブ2内を流れる際に、ブラックライト5から発せられるピーク波長352nmの近紫外光の照射により光化学反応を生じ、回収部7に流入する。この際、光化学反応の進行状況に応じて、送液ポンプ4から送り出される被反応物質の流速を適宜調整することが好ましい。
【0044】
なお、この実施例1は上記の構成に限られるものではなく、ブラックライト5の光源強度・発光色・波長や、テフロンチューブ2の光透過度などは、所望の光化学反応を生じさせるうえで好ましいものを適宜選択すればよい。
また、テフロンチューブ2に代えて、石英ガラスやライムソーダガラスからなるガラス管が用いられてもよいし、石英ガラスからなる筒状体8に代えて、フッ素樹脂、アクリル樹脂、或いは、ライムソーダガラスからなる筒状体が用いられてもよい。
【0045】
また、所望の光化学反応を生じさせるうえで、好ましい流路長・流路径を有する反応部3を予め複数種用意し、所望の光化学反応を生じさせるうえで最も適した条件を有する反応部3を適宜選択して使用するようにすれば、多くの物質の光化学反応に対して素早く最適の反応環境を設定できるようになり、反応部3が1つのユニットとして光源部6に着脱可能に配設されるという利点をより一層活かすことができる。
【0046】
反応例1
図1〜4に示される実施例1によるフロー式光化学反応装置1を用いて、以下の式(III)に示すようなベンゾフェノンとプレニルアルコールとの2+2付加環化反応を行った。なお、以下に示す反応例1では、比較例1として、実質的に実施例1と同様の装置構成を有するが、光源に300Wの高圧水銀灯を用いたフロー式光化学反応装置を別途用意し、それらの反応効率を消費電力あたりの収率で比較した。
【0047】
【化3】

【0048】
【表1】

【0049】
表1に示されるように、光源として300Wの高圧水銀灯を用いた比較例1のrun1では消費電力あたりの収率が0.18であるのに対し、光源として15Wのブラックライトを用いた実施例1のrun2では消費電力あたりの収率が1.63となり、反応効率(収率/Wh)において、実施例1によるフロー式光化学反応装置1は約9倍程度も向上していることが分かる。これにより、実施例1によるフロー式光化学反応装置1は、反応効率とエネルギー効率の両面において優れていることが確認された。
【0050】
反応部の変形例
実施例1によるフロー式光化学反応装置における反応部の変形例を図5および図6に示す。図5は変形例に係る反応部の断面図であり、図6は要部拡大図である。
図5に示されるように、変形例に係る反応部103の筒状体108は、その外周面に溝108aが形成され、テフロンチューブ2は溝108aに収まるように溝108aに沿って巻き回されている。
【0051】
これにより、図6に示されるように、テフロンチューブ2と筒状体108の外周面との間に隙間が生じなくなり、テフロンチューブ2と筒状体108の外周面は密着した状態となるので、ブラックライト5から発せられる光成分のうち、テフロンチューブ2の表面でけられて反射する光成分が少なくなり、ブラックライト5から発せられる光がテフロンチューブ2内に入射し易くなる。このため、変形例による反応部103では、反応効率とエネルギー効率のより一層の向上を図ることが可能となる。
【0052】
実施例2
この発明の実施例2によるフロー式光化学反応装置について、図7〜14に基づいて説明する。図7は実施例2によるフロー式光化学反応装置の全体構成を示す概略図、図8は反応部の分解斜視図、図9は反応部の斜視図、図10は光源部の斜視図、図11は図9に示される反応部が図10に示される光源部に挿入される様子を示す斜視図、図12は変形例に係る反応部の分解斜視図、図13は変形例に係る反応部の斜視図、図14は変形例に係る光源部の斜視図である。
【0053】
概して、図7に示されるように、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は、光透過性流路22(図9参照)により形成される反応部23と、反応部23へ被反応物質を送液する送液ポンプ(送液部)24と、反応部23を照射し光透過性流路22内の被反応物質に光化学反応を生じせしめるブラックライト(光源)25を備える光源部26と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部27とを備え、反応部23は1つのユニットとしてユニット化され、光源部26と一体をなすように光源部26に対して着脱可能に装着されている。
【0054】
フロー式光化学反応装置21は、さらに、電源28と、CPU、ROM、RAM、タイマー、I/Oポートおよび入出力ドライバ等により構成される制御部29と、制御部29に接続された温度調節機構30とを備えている。温度調節機構30は、制御部29の制御により光化学反応を安定化・促進するうえで最適となる温度に反応部23の温度を調節すると共に、ブラックライト25の表面温度を適正な範囲に保ち、光出力の安定化を図る。
また、制御部29は光源部26にも接続され、反応の進行状況に応じて、ブラックライト25の点灯制御を行う。また、後述するように、光源部26が複数のブラックライト25を備える場合には、反応の進行状況に応じて、複数のブラックライト25の点灯制御、すなわち同時点灯、時系列的な点灯制御などを行う。
【0055】
図8および図9に示されるように、反応部23は、光透過性流路22に対応する幅1mm、深さ107μm、長さ2.2mの溝22aが形成された厚さ200μmのFe−Ni合金からなる金属薄板(第1基板)31、この金属薄板31に形成された溝22aを覆うように金属薄板31上に重ねられる石英ガラス板(第2基板)32と、金属薄板31および石英ガラス板32を挟んで固定するための一対の上側クランプ板33および下側クランプ板34とから主に構成されている。光透過性流路22に対応する溝22aはフォトエッチング、切削加工、プレス加工等により形成される。
【0056】
一対のクランプ板33,34のうち、上側クランプ板33は、金属薄板31の溝22a、すなわち光透過性流路22に対する光照射を阻害しないように開口33aが形成されている。一対のクランプ板33,34は、周縁の8ヶ所がアレンボルト35によってボルト止めされ、金属薄板31と石英ガラス板32を強く密着させている。すなわち、反応部23は、一対のクランプ板33,34のボルト止めを解除することにより、容易に分解して清掃でき、流路22の閉塞等にも容易に対処できる利便性の高い構造となっている。もちろん、分解・清掃を行うことにより同一の反応部23を様々な被反応物質に対して利用することもできる。
【0057】
金属薄板31に形成された溝22aは、光透過性流路22の2箇所に第1流入部36および第2流入部37、並びに、3箇所に第1排出部38、第2排出部39および第3排出部40がそれぞれ形成されるようにデザインされ、石英ガラス板32の前記第1および第2流入部36,37および第1、第2および第3排出部38,39,40に対応する位置には貫通孔がそれぞれ形成され、各貫通孔に弾性材料からなるセプタムが嵌め込まれることにより、反応部の第1流入口41および第2流入口42、並びに、第1排出口43、第2排出口44および第3排出口45を形成している。
なお、光透過性流路22に対応する溝22aが形成された金属薄板31に代えて、同様の溝が形成された石英ガラス板、ライムソーダガラス板、或いは、フッ素樹脂板を用いてもよい。
また、金属薄板31を覆う石英ガラス板32に代えてライムソーダガラス板が用いられてもよい。
【0058】
上述のような構成を有する反応部23によれば、例えば、A被反応物質、B被反応物質を第1流入口41および第2流入口42からそれぞれ供給し、光透過性流路22の途中で合流させて光化学反応を生じさせ、光透過性流路22の終端となる第3排出口45までの間に存在する第1および第2排出口43,44から反応の進行途上にある光化学反応生成物質を採取し、ガスクロマトグラフ装置等を利用して分析することにより、反応の進行状況を随時モニタリングすることが可能となる。
【0059】
具体的には、第1流入口41からシクロヘキセノンを供給し、第2流入口42からビニルアセテート(酢酸ビニル)を供給し、光化学反応を生じさせて第3排出口45から環化付加体シクロブタン誘導体を得ようとする場合、第1排出口43および第2排出口44から反応の進行途上にある光化学反応生成物質をそれぞれ採取し、それぞれの成分をガスクロマトグラフ装置で分析することにより、第1排出口43の位置では反応が40%進行している、第2排出口44の位置では反応が80%進行しているかのごとく、光化学反応の進行状況を随時モニタリングすることが可能となる。
【0060】
また、光化学反応を生じさせるうえで、長い流路長を必要としない場合は、第1排出口43を流入口として利用し、第2排出口44又は第3排出口45から光化学反応生成物質を回収するなどの利用方法も可能であり、実施例2の反応部23は、様々な利用方法が可能な利便性の高い流路構成となっている。
もちろん、実施例1と同様に、所望の光化学反応を生じさせるうえで、好ましい諸条件を有する複数種の反応部23を予め用意しておき、所望の光化学反応を生じさせるうえで最も好ましい反応部23を適宜選択し、光源部に装着するようにすれば、多くの物質の光化学反応に対して素早く最適な反応環境を設定できるようになり、反応部23が1つのユニットとして光源部26に対して着脱可能に装着されるという利点をより一層活かすことができる。
【0061】
一方、図10に示されるように、光源部26は、反応部23を着脱可能に受け入れる反応部収容部47を有するアルミニウム製の筐体46と、筐体46の上側内壁に取り付けられたクランプ板48によって支持されるブラックライト(東芝ライテック株式会社製、ネオボール5、消費電力15W、ピーク波長352nm)25とから主に構成されている。
筐体46は、ブラックライト25から発せられる光を反射して反応部23への照射効率が高められるよう、その内面に鏡面加工が施され、さらに、上面の2箇所には開閉可能な蓋49を備えている。
【0062】
図11に示されるように、反応部収容部47に反応部23が収容されると、送液ポンプ24から延びる流路の先端に装着されたニードル(図示せず)、および回収部27へ繋がる流路の先端に装着されたニードル(図示せず)が、前記蓋49を介して反応部の第1流入口41及び/又は第2流入口42および第3排出口45にそれぞれ接続される。反応状態をモニタリングする場合にはシリンジの先端のニードルを第1排出口43及び/又は第2排出口44に蓋49を介して必要に応じて接続し、サンプリングする。
また、反応部収容部47は、受け入れる反応部23の幅に応じて反応部収容部47の幅を規制する可動式の一対の規制板50を備えており、様々な幅の反応部23に対して利用できるように構成されている。
【0063】
反応例2
図7〜11に示される実施例2によるフロー式光化学反応装置21を用いて、以下の式(IV)に示すようなベンゾフェノンとプレニルアルコールとの2+2付加環化反応を行った。なお、以下に示す反応例2では、比較例2として、実質的に実施例2と同様の装置構成を有するが、光源に300Wの高圧水銀灯を用いたフロー式光化学反応装置を別途用意し、それらの反応効率を消費電力あたりの収率で比較した。
【0064】
【化4】

【0065】
【表2】

【0066】
表2に示されるように、光源として300Wの高圧水銀灯を用いた比較例2のrun1では消費電力あたりの収率が0.25であるのに対し、光源として15Wのブラックライトを用いた実施例2のrun2では消費電力あたりの収率が2.3となり、反応効率(収率/Wh)において、実施例2によるフロー式光化学反応装置は約9.2倍程度も向上していることが分かる。
これにより、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は、反応効率とエネルギー効率の両面において優れていることが確認された。
【0067】
反応例3
反応例3では、反応例2と同様に実施例2によるフロー式光化学反応装置21と比較例2のフロー式光化学反応装置を用い、以下の式(V)に示すようなシクロヘキセノンとビニルアセテートの2+2付加環化反応を行い、それらの反応効率を消費電力あたりの収率で比較した。
【0068】
【化5】

【0069】
【表3】

【0070】
表3に示されるように、光源として300Wの高圧水銀灯を用いた比較例2のrun1では消費電力あたりの収率が0.11であるのに対し、光源として15Wのブラックライトを用いた実施例2のrun2では消費電力あたりの収率が2.6となり、反応効率(収率/Wh)において、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は約23.6倍程度も向上していることが分かる。これにより、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は、別の光化学反応、すなわち、シクロヘキセノンとビニルアセテートの2+2付加環化反応においても反応効率とエネルギー効率の両面において優れていることが確認された。
なお、run1とrun2では、流速、滞留時間が若干相違しているが、上記のように約23.6倍も消費電力あたりの収率が向上していることを考慮すると、流速と滞留時間の相違は無視できる程度のものと考えられる。
【0071】
反応例4
反応例4では、反応例2および反応例3と同様に実施例2によるフロー式光化学反応装置21と比較例2のフロー式光化学反応装置を用い、以下の式(VI)に示すような多環型のナイトライト体(亜硝酸エステル)からオキシム体(オキシイミノアルコール)への光バートン反応を行い、それらの反応効率を消費電力あたりの収率で比較した。なお、反応例4では、原料のナイトライト体をアセトンで9mmol/Lに希釈し、ピリジンを原料に対し0.2mol当量加えたものを被反応材料とした。
【0072】
【化6】

【0073】
【表4】

【0074】
表4に示されるように、光源として300Wの高圧水銀灯を用いた比較例2のrun1では消費電力あたりの収率が1.89であるのに対し、光源として15Wのブラックライトを用いた実施例2のrun2では消費電力あたりの収率が23.7となり、反応効率(収率/Wh)において、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は約12.5倍程度も向上していることが分かる。
これにより、実施例2によるフロー式光化学反応装置21は、多環型のナイトライト体(亜硝酸エステル)からオキシム体(オキシイミノアルコール)への光バートン反応においても反応効率とエネルギー効率の両面において優れていることが確認された。
【0075】
反応部の変形例
実施例2によるフロー式光化学反応装置における反応部の変形例を図12および図13に示す。図12は変形例に係る反応部の分解斜視図であり、図13は変形例に係る反応部の斜視図である。
【0076】
図12および図13に示されるように、変形例に係る反応部123は、金属薄板131に光透過性流路22に対応する開口パターン122aを形成し、金属薄板131の表面および裏面を石英ガラス板132,133で挟み、上側クランプ板134および下側クランプ板135の両方に、光透過性流路22に対する光照射を阻害しないように開口134a,135aを形成したものである。金属薄板131の開口パターン122aはフォトエッチング、切削加工、或いは、打ち抜き加工により形成される。
【0077】
変形例による反応部123では、反応部123の表面側および裏面側の双方から光が入射するため、反応効率とエネルギー効率のより一層の向上を図ることが可能となる。
なお、変形例による反応部123においても、開口パターン122aが形成された金属薄板131に代えて、同様の開口パターンが形成された石英ガラス板、ライムソーダガラス板、或いは、フッ素樹脂板を用いることができる。
また金属薄板131を挟む石英ガラス板132,133に代えてライムソーダガラス板が用いられてもよい。
【0078】
光源部の変形例
実施例2によるフロー式光化学反応装置における光源部の変形例を図14に示す。図14は変形例に係る光源部の斜視図である。
図14に示されるように、変形例に係る光源部126は、2つのブラックライト(東芝ライテック株式会社製、ネオボール5、消費電力15W、ピーク波長352nm)25を光透過性流路22の上流側に相当する位置から下流側に相当する位置に向けて並ぶように配設したものである。
【0079】
このような変形例に係る光源部126を用いると、光透過性流路22の流路長が長い場合であっても、光透過性流路22の流路に沿って被反応物質に均一に効率良く光を照射することが可能となり、流路長の長い反応部にも対応できるようになる。
また、上述のように、第1排出口43および第2排出口44から反応途上の被反応物質をサンプリングして反応の進行状況を確認し、反応の進行状況に応じて制御により2つのブラックライト25を点灯制御、すなわち同時点灯、時系列的な点灯制御等を行うことにより、光化学反応を生じさせるうえでより望ましい条件で光照射を行うことができる。もちろん、上述のような点灯制御により、光被反応物質に過剰に光照射することによる反応生成物の分解・破壊を抑えることもできる。
【0080】
なお、ブラックライト25は、必ずしも同じピーク波長のものである必要はなく、互いに異なるピーク波長を有するブラックライトが用いられてもよい。
この場合、光透過性流路22の上流側から下流側へ向けて送液される被反応物質に、時系列的に異なる波長の光を照射することが可能となり、光透過性流路22内で複数種の光反応を時系列に生じさせることが可能となる。
【0081】
以上の実施例1および実施例2では、光源としてブラックライトを用いたが、もちろん光源としてはブラックライトに限られるものではなく、比較例1および比較例2で用いたような高出力の高圧水銀灯が用いられてもよい。
つまり、この発明によるフロー式光化学反応装置は、反応効率、エネルギー効率、メンテナンス性に優れ、かつ、所望の光化学反応を生じさせるうえで最適となる反応環境を容易に設定できる点に利点を有するものであり、光源として高出力の高圧水銀灯が用いられてもこれらの利点は同様に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明の実施例1によるフロー式光化学反応装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】反応部の斜視図である。
【図3】図2に示される反応部のA−A断面図である。
【図4】図2に示される反応部の内部に光源部が配設された状態を示す斜視図である。
【図5】変形例に係る反応部の断面図である。
【図6】変形例に係る反応部の要部拡大図である。
【図7】実施例2によるフロー式光化学反応装置の全体構成を示す概略図である。
【図8】反応部の分解斜視図である。
【図9】反応部の斜視図である。
【図10】光源部の斜視図である。
【図11】図9に示される反応部が図10に示される光源部に挿入される様子を示す斜視図である。
【図12】変形例に係る反応部の分解斜視図である。
【図13】変形例に係る反応部の斜視図である。
【図14】変形例に係る光源部の斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1,21・・・フロー式光化学反応装置
2・・・テフロンチューブ(光透過性流路)
3,23,103,123・・・反応部
4,24・・・送液ポンプ
5,25・・・ブラックライト
6,26,126・・・光源部
7,27・・・回収部
8,108・・・筒状体
9・・・クランプ
10・・・コネクティングアダプター
11・・・上側カラー
11a,12a,33a,134a,135a・・・開口
12・・・下側カラー
13・・・ボディ本体
14・・・ストッパー
22・・・光透過性流路
22a・・・溝
28・・・電源
29・・・制御部
30・・・温度調節機構
31・・・金属薄板
32,132,133・・・石英ガラス板
33,134・・・上側クランプ板
34,135・・・下側クランプ板
35・・・アレンボルト
36・・・第1流入部
37・・・第2流入部
38・・・第1排出部
39・・・第2排出部
40・・・第3排出部
41・・・第1流入口
42・・・第2流入口
43・・・第1排出口
44・・・第2排出口
45・・・第3排出口
46・・・筐体
47・・・反応部収容部
48・・・クランプ板
49・・・蓋
50・・・規制板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性流路により形成される反応部と、反応部へ被反応物質を送液する送液部と、反応部を照射し光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じせしめる少なくとも1つの光源を備える光源部と、光化学反応が生じた光化学反応生成物質を回収する回収部とを備え、反応部は1つのユニットとしてユニット化され、光源部と一体をなすように光源部に対して着脱可能に装着されることを特徴とするフロー式光化学反応装置。
【請求項2】
反応部は、光透過性の筒状体と、筒状体の外周面に巻き回され光透過性流路を形成する光透過性のチューブとからなり、光源部は筒状体の内周面から筒状体を介してチューブを照射するように筒状体の内部に配設されることを特徴とする請求項1に記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項3】
筒状体はその外周面に溝が形成され、チューブは筒状体の溝に沿って巻き回されることを特徴とする請求項2に記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項4】
反応部は、光透過性流路に対応する溝が形成された第1基板と、第1基板に形成された溝を覆うように第1基板上に重ねられる光透過性の第2基板とからなり、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えることを特徴とする請求項1に記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項5】
反応部は、光透過性流路に対応する開口パターンが形成された第1基板と、第1基板に形成された開口パターンを塞ぐように第1基板を挟み少なくとも一方が光透過性を有する第2基板および第3基板とからなり、光源部は反応部を着脱可能に受け入れる反応部収容部を備えることを特徴とする請求項1に記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項6】
光源部は複数の光源を備え、複数の光源は光透過性流路の上流側から下流側へ向かって並ぶように配設されることを特徴とする請求項4又は5に記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項7】
光源部が温度調節機構を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のフロー式光化学反応装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のフロー式光化学反応装置を用い、送液部により反応部の光透過性流路に所定の被反応物質を送液し、光源部により反応部に光を照射して光透過性流路内の被反応物質に光化学反応を生じさせ、回収部に所望の光化学反応生成物質を得ることを特徴とする光化学反応生成物質の製造方法。
【請求項9】
送液部により送液される被反応物質が式(I):
【化1】

で示される亜硝酸エステルであり、光化学反応としての光バートン反応によって得られる光化学反応生成物質が式(II):
【化2】

で示されるオキシイミノアルコールであることを特徴とする請求項8に記載の光化学反応生成物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−75682(P2007−75682A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264103(P2005−264103)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】