説明

ブラシユニット及び直流モータ

【課題】比較的簡易な構成により電機子への給電を確実に遮断することが可能なブラシユニットを提供する。
【解決手段】本発明のブラシユニットは、ブラシと、ブラシを保持する保持部材と、ブラシを整流子側に押圧するためにブラシに接触するスプリングと、ブラシとの間で前記スプリングを挟むように保持部材に被さるキャップ部材とを備える。また、キャップ部材は、ブラシが発熱して所定温度に達すると、係合部と前記突出部との係合状態が解除されるように変形する材質からなり、係合状態が解除されると、スプリングの弾性力によって保持部材から外れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシユニットおよび直流モータに係り、特に、スプリングの弾性力によりブラシを整流子側に押圧するブラシユニット、当該ブラシユニットが搭載された直流モータに関する。
【背景技術】
【0002】
直流モータにおいて、電機子に給電するために整流子に当接するブラシは、スプリングにより押圧されることで整流子に適宜な当接圧にて当接する。一方、例えば、直流モータにおいて回転がロックしたり過度の負荷が掛かったりした場合、ブラシを介して電機子に過大な電流が流れることになり、かかる過大電流に起因してモータ内温度が異常上昇してしまう虞がある。
【0003】
上記の課題に対しては、従来から既に対策が講じられてきており、例えば、モータ内温度が異常上昇した際に電機子への給電を遮断するためにヒューズが取り付けられることがある。ただし、かかる構成のモータは、ヒューズを取り付ける分、部品点数が増え、製造コストも割高になってしまう。また、モータ内温度が異常上昇した際に電機子の巻線がその熱によって溶断する構成も考えられるが、かかる構成では、モータ内温度が異常上昇した際に電機子への給電を遮断することができる反面、巻線の溶断時に不可避的に発煙を生じ、結果として発火等の事故に繋がる虞がある。
【0004】
さらに、特許文献1に記載の直流モータでは、ヒューズを取り付ける構成や溶断可能な巻線を用いる構成に代わり、ブラシの位置決めをする位置決め壁が熱によって変形する構成が採用されている。かかる構成によれば、図4A及び図4Bに示すように、モータ内温度の異常上昇により位置決め壁が変形し、変形後の位置決め壁にブラシが引き続き押し付けられる結果、ブラシの先端と整流子とが非接触になるようになる。図4A及び図4Bは、従来の直流モータ(具体的には、特許文献1に記載の直流モータ)の構成を示す模式断面図であり、図4Aは、定常時の状態を示し、図4Bは、モータ内温度が異常上昇した時の状態を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−143207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の直流モータであれば、確かに、モータ内温度の異常上昇時に電機子への給電を適切に遮断することが可能であるが、より簡易な機構によって確実に電機子への給電を確実に遮断することが可能な構成の実現が求められている。
そこで、本発明の目的は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、具体的には、比較的簡易な構成により電機子への給電を確実に遮断することが可能なブラシユニット、及び、当該ブラシユニットを搭載した直流モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明のブラシユニットによれば、整流子と当接するブラシと、該ブラシを保持し、前記ブラシが位置する側とは反対側に突出した突出部が形成された保持部材と、前記ブラシを前記整流子側に押圧するために前記ブラシに接触するスプリングと、前記突出部に係合可能な係合部を備え、該係合部が前記突出部に係合した状態で、前記ブラシとの間で前記スプリングを挟むように前記保持部材に被さるキャップ部材と、を備え、該キャップ部材は、前記ブラシが発熱して所定温度に達すると前記係合部と前記突出部との係合状態が解除されるように変形する材質からなり、前記係合状態が解除されると、前記スプリングの弾性力によって前記保持部材から外れる、ことにより解決される。
上記のブラシユニットであれば、電機子へ過大電流が流れることに伴ってブラシが異常発熱した場合、その熱によって保持部材の突出部とキャップ部材の係合部との係合状態が解除され、これに伴って、キャップ部材がスプリングの弾性力によって保持部材から外れる(脱離する)ようになる。換言すると、キャップ部材とブラシとの間に挟まれて圧縮していた状態のスプリングは、自然長まで復元するようになる。これにより、スプリングの押圧力を受けることで整流子との当接状態を維持していたブラシは、上記の押圧力から解放される結果、整流子から離れるようになる。すなわち、電機子への給電が遮断されるようになる。以上のように、本発明のブラシユニットでは、比較的簡易な構成により電機子への給電を確実に遮断することが可能となる。
【0008】
また、上記のブラシユニットにおいて、前記ブラシは、先端部にて前記整流子と当接し、前記保持部材は、前端及び後端に開口が形成され、前端側の開口から前記ブラシの先端部を露出させた状態で前記ブラシを収容する中空体であり、前記キャップ部材は、前記ブラシの後端との間で前記スプリングを挟むように前記中空体の後端側から前記中空体に被さり、前記係合状態が解除されると、前記弾性力によって前記中空体の外側表面に沿って、前記中空体の前端から後端に向う向きに移動する構成であれば、より好適である。上記の構成は、ブラシの異常発熱が生じた場合に電機子への給電を確実に遮断するための構成として、より簡易なものとなる。
【0009】
さらに、上記のブラシユニットにおいて、前記中空体は、前端側に、前記ブラシと接触する接触部位を有し、前記係合部は、前記ブラシから前記接触部位及び前記突出部を通じて伝達される熱によって所定温度まで加熱されると、前記突出部に係合可能な形状から前記突出部に係合不能な形状へと熱変形する構成であれば、ブラシの異常発熱が生じた場合に電機子への給電を確実に遮断するための構成として、より一層好適なものとなる。
【0010】
また、上記のブラシユニットにおいて、前記接触部位は、前記中空体の内側表面から前記ブラシに向かって隆起した一対の隆起部であり、前記ブラシは、前記隆起部の間に挟まれた状態で前記中空体内に収容され、前記隆起部は、前記ブラシから伝達される熱によって加熱されて熱膨張することにより、前記スプリングが前記整流子に向けて前記ブラシを押圧する際の押圧力に抗して、前記ブラシの前記整流子側への移動を規制すると、さらに好適である。
かかる構成であれば、ブラシの異常発熱が生じた場合には、ブラシがスプリングの押圧力から解放されることに加え、ブラシを挟む一対の隆起部による挟み圧が増加することでブラシの整流子側への移動が規制されるので、ブラシと整流子との非接触化を効率よく達成することができる。
【0011】
また、上記のブラシユニットにおいて、前記中空体及び前記キャップ部材のうち、少なくとも一方は熱可塑性樹脂からなる構成であれば、なお好適である。かかる構成であれば、上述した形状(例えば、突出部あるいは係合部を有した形状)を具備した部材を容易に成形することが可能になる。さらに、前記中空体は、ノボラック樹脂からなる構成であれば、より好適である。
【0012】
また、上記のブラシユニットにおいて、前記ブラシは、前記ブラシの先端部が鉛直方向において前記ブラシの後端部よりも上方に位置するように傾けられていると、好適である。かかる構成であれば、ブラシの異常発熱が生じた場合には、ブラシがスプリングの押圧力から解放されるとともに、ブラシの自重(重力)の分力としてブラシを整流子から離そうとする力が作用するので、ブラシと整流子との非接触化を効率よく達成することができる。
【0013】
また、前記課題は、本発明の直流モータによれば、整流子と、該整流子と当接するブラシと、該ブラシを保持し、前記ブラシが位置する側とは反対側に突出した突出部が形成された保持部材と、前記ブラシを前記整流子側に押圧するために前記ブラシに接触するスプリングと、前記突出部に係合可能な係合部を備え、前記ブラシとの間で前記スプリングを挟むように前記保持部材に被さるキャップ部材と、を備えたブラシユニットと、を有し、前記キャップ部材は、前記ブラシが発熱して所定温度に達すると前記係合部と前記突出部との係合状態が解除されるように変形する材質からなり、前記係合状態が解除されると、前記スプリングの弾性力によって前記保持部材から外れる、ことにより解決される。かかる構成の直流モータであれば、モータ内温度の異常上昇時には、比較的簡易な機構によって電機子への給電を適切に遮断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブラシユニット及び直流モータによれば、電機子へ過大電流が流れてブラシが異常発熱した場合、その熱によって保持部材の突出部とキャップ部材の係合部との係合状態が解除され(具体的には、係合部が熱変形して上記の係合状態が解除される)、これに伴って、キャップ部材がスプリングの弾性力によって保持部材から外れる(脱離する)ようになる。換言すると、キャップ部材とブラシとの間に挟まれて圧縮していた状態のスプリングが自然長まで復元するようになる。この結果、スプリングの押圧力を受けることで整流子との当接状態を維持していたブラシは、スプリングの押圧力から解放されて整流子から離れるようになり、電機子への給電が遮断されるようになる。
以上のように、本発明の効果として、比較的簡易な構成により電機子への給電を確実に遮断することが可能なブラシユニット及び直流モータが実現されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る直流モータの全体構成を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態に係るブラシユニットを示す模式平面図である。
【図3A】定常時のブラシユニットの状態を示す図である。
【図3B】ブラシが異常発熱した時のブラシユニットの状態を示す図である。
【図4A】従来の直流モータの構成を示す模式断面図である(その1)。
【図4B】従来の直流モータの構成を示す模式断面図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係るブラシユニット、及び、当該ブラシユニットを搭載した直流モータについて、図1〜図3Bを参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る直流モータの全体構成を示す模式断面図である。図2は、本実施形態に係るブラシユニットを示す模式平面図である。図3Aは、定常時のブラシユニットの状態を示す図である。図3Bは、ブラシが異常発熱した時のブラシユニットの状態を示す図である。なお、図1〜図3Bの各々は、説明を分かり易くするために簡略化されており、各図中に図示された部材の中には、実際のものとは異なる大きさや形状等にて示されているものが在る。
【0017】
本実施形態に係るブラシユニット(以下、本ブラシユニット1)は、直流モータ(以下、単にモータMという)に搭載されており、ブラシが異常発熱した場合には後述する電機子3への給電を遮断することが可能である。かかる構成について説明するにあたり、モータMの全体構成について概説する。
【0018】
モータMは、図1に示すように、有底円筒状のモータヨーク2aと、モータヨーク2aの開口側でモータヨーク2aに組み付けられる略椀状のハウジング2bとを有し、その内部空間には電機子3(ロータ)と界磁体4(ステータ)と本ブラシユニット1とを備えている。特に、本実施形態において、モータMは、電機子3のシャフト5の軸方向が鉛直方向に沿った状態(換言すると、縦置きの姿勢)で使用される。ただし、モータMの使用中の姿勢については上記の姿勢に限定されることはなく、モータMは任意の姿勢で使用することが可能である。
【0019】
電機子3は、その回転軸をなすシャフト5の軸方向一端部をハウジング2b外に突出させた状態で、軸受10a、10bを介してモータヨーク2a及びハウジング2bに支持されており、シャフト5を中心に回転自在にモータM内に収容されている。なお、本実施形態の電機子3は、正逆双方向に回転することが可能であるが、正転方向にのみ回転する構成のものであってもよい。
【0020】
また、図1に示すように、電機子3は、シャフト5に貫通させて積層した複数枚の電磁鋼板からなるコア6を有し、コア6の周囲には、コア6の外周を囲むように界磁体4が配置されている。一方、コア6には、励磁電流が流れる回路をなすコイル(不図示)が巻回されている。
【0021】
さらに、電機子3には、複数の整流子片11a(所謂セグメント)を環状に配置して構成される整流子11が取り付けられている。各整流子片11aには上述のコイルの端末が接続されており、これによりブラシ7が整流子片11aに摺接すると、コイルに励磁電流が流れるようになる。
【0022】
界磁体4は、界磁磁束を発生させるためのものである。本実施形態の界磁体4は、N極の磁極を示す永久磁石片4aと、S極の磁極を示す永久磁石片4bからなり、各永久磁石片4a、4bはモータヨーク2aの内周面上に固定されている。
【0023】
本ブラシユニット1は、整流子11周りに配置され、構成要素であるブラシ7を整流子11の各整流子片11aに当接させて電機子3に給電する(換言すると、上述のコイルに励磁電流を流す)ためのユニットである。本ブラシユニット1の構成については後に詳述する。
【0024】
以上のような構成のモータMは、本ブラシユニット1の構造を除き、公知である。一方、モータMは、本ブラシユニット1を搭載していることから、例えば電機子3へ過大電流が流れることによってブラシ7が異常発熱した場合、比較的簡易な構成により電機子3への給電を確実に遮断することが可能である。
以下では、上記の効果を実現する本ブラシユニット1の構造について具体的に説明する。
【0025】
<<本ブラシユニット1の構造について>>
本ブラシユニット1は、図2に示すように、ブラシ7と、保持部材としてのブラシホルダ8と、スプリングSと、キャップ部材としてのスプリングキャップ9と、を有している。
【0026】
ブラシ7は、略直方体状の部材であり、整流子11の径方向において整流子11と対向する側の端部にて整流子11(具体的には、整流子片11a)と当接する。一方、ブラシ7には不図示のリード線が接続されている。これにより、ブラシ7が整流子11に当接すると、不図示の外部電源からの電流(すなわち、励磁電流)が上記のリード線、ブラシ7及び整流子片11aを経由して、最終的に電機子3のコア6のコイルに流れるようになる。
【0027】
また、本実施形態では、図1に示すように、ブラシ7が整流子片11aの外周面に対して傾いた状態でセットされている。具体的に説明すると、本実施形態において、ブラシ7は、先端部7aが鉛直方向において後端部7bよりも上方に位置するように傾けられている(より詳しくは、上記の如く傾くように後述のブラシホルダ8により保持されている)。一方、前述したように、本実施形態では、モータMが電機子3のシャフト5の軸方向が鉛直方向に沿った状態で使用され、整流子11についても鉛直方向を中心軸方向として環状に整流子片11aが並ぶようにセットされる。この結果、ブラシ7は、図1に示すように、エッジ(先端の下側角部)にて整流子11に当接することになる。
【0028】
ブラシホルダ8は、略直方体の外形形状を有する中空体であり、不図示の支持部材を介してハウジング2bに固定支持されている。そして、ブラシホルダ8は、前端及び後端(長手方向両端)に開口が形成されており、前端側の開口からブラシ7の先端部7aを露出させた状態でブラシ7を内部に収容する。また、ブラシホルダ8は、図3Aに示すように、前端側に、ブラシ7と接触する接触部位(具体的には、後述の隆起部8b)を左右一対有し、接触部位間でブラシ7を挟み込んでブラシ7を保持する。
【0029】
ブラシホルダ8の形状についてより詳細に説明すると、図3Aに示すように、ブラシホルダ8には、ブラシ7が位置する側とは反対側に突出した突出部8aが形成されている。この突出部8aは、ブラシホルダ8の先端より幾分後端側に位置した段差状の突起であり、左右両方の側壁8cの外側表面にそれぞれ設けられている。
【0030】
また、ブラシホルダ8には、その内側表面からブラシに向かって隆起した隆起部8bが形成されている。この隆起部8bは、前述した接触部位に相当する部分であり、左右両方の側壁8cにそれぞれ形成されている(すなわち、左右一対設けられている)。より具体的に説明すると、図3Aに示すように、ブラシホルダ8の各側壁8cでは壁厚が前端側で最も大きく、後端側に向けて徐々に減少している。上記の隆起部8bは、上記のように側壁8cの中で壁厚が最も大きくなった前端部分としてブラシホルダ8に備わっている。そして、ブラシホルダ8は、一対の隆起部8bの各々にてブラシ7に接触しながら、その内部にブラシ7を収容する。換言すると、ブラシ7は、一対の隆起部8bの間に挟まれた状態でブラシホルダ8内に収容されるようになる。
【0031】
以上のような形状のブラシホルダ8は、熱可塑性樹脂からなり、特に本実施形態では、フェノール樹脂の一つであるノボラック樹脂からなる。つまり、上記の形状を有するブラシホルダ8は、ノボラック樹脂により成形され、樹脂合成の際には硬化剤としてヘキサミンが添加される。
【0032】
スプリングSは、ブラシ7を整流子11側に押圧するためのものであり、ブラシホルダ8の後端側の開口を通じてブラシホルダ8内に進入させたスプリング一端部にて、ブラシホルダ8内に収容されたブラシ7の後端に接触する。なお、スプリングSは、ブラシ7を整流子11側に押圧するにあたり、弾性圧縮した状態でブラシ7の後端に接触することになる。
【0033】
スプリングキャップ9は、一端が開口端となった有底箱状の部材であり、本実施形態では、図3Aに示すように、ブラシホルダ8の後端側からブラシホルダ8に組み付けることが可能である。そして、スプリングキャップ9は、ブラシホルダ8に被せられることにより、ブラシホルダ8内に収容されたブラシ7との間でスプリングSを挟み込んで弾性圧縮する。かかる意味で、スプリングキャップ9は、スプリングSにブラシ7を整流子11側に押圧させるために、ブラシ7の後端との間でスプリングSを挟むようにブラシホルダ8に被さる部材であると言える。
【0034】
スプリングキャップ9の構造についてより詳しく説明すると、図3Aに示すように、スプリングキャップ9の、開口が形成されている側の端部(以下、開口側端部)は、段差を形成するように折り曲げられている。かかる折り曲げによって開口側端部に形成された段差は、スプリングキャップ9がブラシホルダ8に被せられた際に、ブラシホルダ8の突出部8aと係合可能である。すなわち、スプリングキャップ9の開口側端部に形成された段差は、ブラシホルダ8の突出部8aと係合可能な係合部9aを構成する。つまり、上記の係合部9aとブラシホルダの突出部8aとは、スナップフィットを構成しており、ブラシホルダ8に対してスプリングキャップ9を組み付ける際には、スプリングキャップ9をブラシホルダ8の後端側からブラシホルダ8に被せてから、上記係合部9aがブラシホルダ8の突出部8aに係合するまでスプリングキャップ9をブラシホルダ8の外側表面に沿って移動させることになる。
【0035】
そして、上記係合部9aがブラシホルダ8の突出部8aに係合された状態では、ブラシ7の後端とスプリングキャップ9とのクリアランスが、スプリングSの自然長よりも幾分短くなる。したがって、上記係合部9aとブラシホルダ8の突出部8aとの係合状態が維持されている間、ブラシ7の後端とスプリングキャップ9との間に配置されたスプリングSは、弾性圧縮された状態でブラシ7の後端に接触し、これにより、ブラシ7は整流子11側に押圧されるようになる。すなわち、スプリングSは、上記の係合状態が維持される間、ブラシホルダ8の後端側の開口を通じてブラシホルダ8内に収容されたブラシ7の後端を押圧し続ける。
【0036】
以上のような形状のスプリングキャップ9は、熱可塑性樹脂からなり、特に、加熱等により温度が所定温度まで上昇した場合には上記の係合部9aが熱変形する構造となっている。より具体的に説明すると、スプリングキャップ9は、ブラシ7が発熱して所定温度に達すると係合部9aとブラシホルダ8の突出部8aとの係合状態が解除されるように変形する材質からなる。そして、係合部9aは、ブラシ7から伝達される熱によって所定温度まで加熱されると、突出部8aに係合可能な形状から突出部8aに係合不能な形状へと熱変形するようになる。
【0037】
以上までに説明してきた構成の本ブラシユニット1は、定常時には図3Aに示す状態、すなわち、スプリングキャップ9の係合部9aがブラシホルダ8の突出部8aに係合され、スプリングSが弾性圧縮された状態で保持されることになる。一方、ブラシ7が異常発熱した場合には、ブラシ7と整流子11との接触状態が断たれて電機子3への給電が遮断されるようになる。以下では、ブラシ7が異常発熱した場合における、本ブラシユニット1の状態の遷移について説明する。
【0038】
先ず、前述したように、ブラシ7が異常発熱する前の時点では、スプリングキャップ9の係合部9aがブラシホルダ8の突出部8aに係合され、スプリングSが弾性圧縮された状態にある。換言すると、上記の係合部9aは、ブラシホルダ8の突出部8aに係合可能な形状になっており、ブラシ7には、整流子11側へ向かうような押圧力(すなわち、図3A中、記号F2にて示した弾性力)が作用している。なお、この間、ブラシホルダ8は、前述した一対の隆起部8bの間にブラシ7を挟んだ状態で保持している。
【0039】
そして、上記の状態から、電機子3に過大電流が流れてブラシ7が異常発熱すると、伝導により、ブラシ7と接触部位(具体的には隆起部8b)にて接触するブラシホルダ8へ、ブラシ7からの熱が流入するようになる。このため、ブラシホルダ8各部の温度が上昇し、ブラシホルダ8の突出部8aについても昇温されることになる。この結果、当該突出部8aに係合しているスプリングキャップ9の係合部9aにも熱が伝達され、係合部9aの温度が徐々に上昇するようになる。すなわち、係合部9aは、ブラシ7から隆起部8b及び突出部8aを通じて伝達される熱によって加熱される。
【0040】
係合部9aでの昇温が進行し、やがて所定温度まで達した時点で、係合部9aは、図3Bに示すように、ブラシホルダ8の突出部8aに係合不能な形状となる。つまり、係合部9aは、上記の熱伝達により、突出部8aに係合可能な形状から突出部8aに係合不能な形状へと熱変形する。ここで、突出部8aに係合不能な形状とは、段差状に形成されたブラシホルダ8の突出部8aに掛止することができない形状である。具体的に説明すると、スプリングキャップ9の開口側端部が、段差を形成するように折り曲げられた形状(図3Aに示す形状)が、突出部8aに係合可能な形状に該当し、開口側の端がやや内側に位置する程度に屈曲しただけの形状(図3Bに示す形状)が、突出部8aに係合不能な形状に該当する。
【0041】
以上のような係合部9aの熱変形により、スプリングキャップ9の係合部9aとブラシホルダ8の突出部8aとの係合状態は、解除されることになる。つまり、スプリングキャップ9の係合部9aとブラシホルダ8の突出部8aとの係合状態は、ブラシ7における発熱(異常発熱)によって解除可能であり、より具体的に説明すると、ブラシにおける発熱によって係合部9aが所定温度まで加熱されて熱変形することにより解除される。
【0042】
そして、スプリングキャップ9の係合部9aとブラシホルダ8の突出部8aとの係合状態が解除されると、弾性圧縮された状態のスプリングSの弾性力(より具体的には、スプリングSがブラシ7を整流子11側に押圧する際の押圧力の反力)により、スプリングキャップ9がブラシホルダ8の外側表面に沿って、ブラシホルダ8の前端から後端に向う向きに移動するようになる。この結果、ブラシホルダ8に被さっていたスプリングキャップ9は、ブラシホルダ8から外れる(脱離する)ようになる。換言すると、スプリングキャップ9とブラシ7との間に挟まれて圧縮していた状態のスプリングSは、自然長まで復元するので、スプリングSの押圧力を受けることで整流子11との当接状態を維持していたブラシ7は、上記の押圧力から解放される結果、整流子11から離れるようになる。
【0043】
一方、ブラシ7の異常発熱によりブラシホルダ8各部の温度が上昇した場合、ブラシ7との接触部位である隆起部8bが所定温度以上に加熱されると熱膨張する。この熱膨張は、ブラシホルダ8を構成するノボラック樹脂に添加されたヘキサミンが加熱分解されることにより発生するアンモニアガスが樹脂内部から外部に放出されることに起因して発生する。そして、この熱膨張により、ブラシ7を挟んでいた一対の隆起部8bによる挟み圧(図3B中、記号F3にて示す圧力)が増加する。この挟み圧の増加により、上記の隆起部8bは、スプリングSが整流子11に向けてブラシ7を押圧する際の押圧力に抗して、ブラシ7の整流子11側への移動を規制するようになる。
以上のように、ブラシ7をスプリングSの押圧力から解放してブラシ7を整流子11から離すにあたり、上述した隆起部8bの作用が加わることにより、ブラシ7と整流子11との非接触化を効率よく達成することが可能になる。
【0044】
さらに、本実施形態では、前述したように、ブラシ7が水平方向に対して傾いた状態でセットされており、より具体的には、先端部7aが鉛直方向において後端部7bよりも上方に位置するように傾けられている。これにより、ブラシ7の異常発熱が生じた場合には、ブラシ7がスプリングSの押圧力から解放される際に、ブラシ7の自重(重力)の分力としてブラシ7を整流子11から離そうとする力(図1中、記号F1が付された力)が発生して、ブラシ7に作用するようになる。この結果、ブラシ7と整流子11との非接触化をより一層効率よく達成することが可能になる。
【0045】
上述した諸処の作用により、本ブラシユニット1では、ブラシ7の異常発熱によりブラシ温度が所定温度に達すると、ブラシ7と整流子11との接触が断たれ、電機子3への給電が遮断される。以上のように、本ブラシユニット1であれば、異常時に電機子3への給電を遮断するにあたり、ヒューズ等の部品を別途設ける必要もなく、さらに、コイルの溶断のように発火を生じさせる危険性もない。すなわち、本ブラシユニット1は、比較的簡易な構成により、安全かつ確実に電機子3への給電を遮断することができるものである。
【0046】
<<その他の実施形態>>
上記の実施形態には、主として本発明のブラシユニット及び直流モータについて説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0047】
また、上記の実施形態では、ブラシホルダ8及びスプリングキャップ9が、いずれも熱可塑性樹脂からなることとしたが、これに限定されるものではなく、少なくともブラシホルダ8及びスプリングキャップ9のうちの一方が熱可塑性樹脂からなればよく、例えば、ブラシホルダ8(あるいはスプリングキャップ9)のみが熱可塑性樹脂からなることとしてもよい。
【0048】
なお、上記の実施形態では、ブラシホルダ8がノボラック樹脂から構成されることとしたが、これに限定されるものではなく、加熱した際に熱膨張する材料であれば他の材料であってもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、ブラシホルダ8の内側表面からブラシ7に向かって隆起した一対の隆起部8bが設けられ、ブラシ7において異常発熱が生じた場合には、各隆起部8bが熱膨張してブラシ7の整流子11側への移動を規制することとした。ただし、これに限定されるものではなく、上記の隆起部8bがブラシホルダ8の内側表面に形成されていなくてもよい。換言すると、ブラシホルダ8の内側表面が隆起部8bを有しない平坦面であることとしてもよい。
【0050】
また、上記の実施形態では、ブラシ7が整流子11に対して傾いた状態でセットされているため(具体的には、先端部7aが鉛直方向において後端部7bよりも上方に位置するように傾けられている)、エッジにて整流子11に当接することとした。ただし、これに限定されるものではなく、ブラシ7が略水平にセットされ、先端面全体にて整流子11に当接(腹当たり)することとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 本ブラシユニット、2a モータヨーク、2b ハウジング、3 電機子、
4 界磁体、4a 永久磁石片、4b 永久磁石片、5 シャフト、6 コア、
7 ブラシ、7a 先端部、7b 後端部、
8 ブラシホルダ、8a 突出部、8b 隆起部、8c 側壁、
9 スプリングキャップ、9a 係合部、10a 軸受、10b 軸受、
11 整流子、11a 整流子片、
M モータ、S スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子と当接するブラシと、
該ブラシを保持し、前記ブラシが位置する側とは反対側に突出した突出部が形成された保持部材と、
前記ブラシを前記整流子側に押圧するために前記ブラシに接触するスプリングと、
前記突出部に係合可能な係合部を備え、該係合部が前記突出部に係合した状態で、前記ブラシとの間で前記スプリングを挟むように前記保持部材に被さるキャップ部材と、を備え、
該キャップ部材は、前記ブラシが発熱して所定温度に達すると前記係合部と前記突出部との係合状態が解除されるように変形する材質からなり、前記係合状態が解除されると、前記スプリングの弾性力によって前記保持部材から外れることを特徴とするブラシユニット。
【請求項2】
前記ブラシは、先端部にて前記整流子と当接し、
前記保持部材は、前端及び後端に開口が形成され、前端側の開口から前記ブラシの先端部を露出させた状態で前記ブラシを収容する中空体であり、
前記キャップ部材は、前記ブラシの後端との間で前記スプリングを挟むように前記中空体の後端側から前記中空体に被さり、前記係合状態が解除されると、前記弾性力によって前記中空体の外側表面に沿って、前記中空体の前端から後端に向う向きに移動することを特徴とする請求項1に記載のブラシユニット。
【請求項3】
前記中空体は、前端側に、前記ブラシと接触する接触部位を有し、
前記係合部は、前記ブラシから前記接触部位及び前記突出部を通じて伝達される熱によって所定温度まで加熱されると、前記突出部に係合可能な形状から前記突出部に係合不能な形状へと熱変形することを特徴とする請求項2に記載のブラシユニット。
【請求項4】
前記接触部位は、前記中空体の内側表面から前記ブラシに向かって隆起した一対の隆起部であり、
前記ブラシは、前記隆起部の間に挟まれた状態で前記中空体内に収容され、
前記隆起部は、前記ブラシから伝達される熱によって加熱されて熱膨張することにより、前記スプリングが前記整流子に向けて前記ブラシを押圧する際の押圧力に抗して、前記ブラシの前記整流子側への移動を規制することを特徴とする請求項3に記載のブラシユニット。
【請求項5】
前記中空体及び前記キャップ部材のうち、少なくとも一方は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のブラシユニット。
【請求項6】
前記中空体は、ノボラック樹脂からなることを特徴とする請求項5に記載のブラシユニット。
【請求項7】
前記ブラシは、前記ブラシの先端部が鉛直方向において前記ブラシの後端部よりも上方に位置するように傾けられていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載のブラシユニット。
【請求項8】
整流子と、
該整流子と当接するブラシと、該ブラシを保持し、前記ブラシが位置する側とは反対側に突出した突出部が形成された保持部材と、前記ブラシを前記整流子側に押圧するために前記ブラシに接触するスプリングと、前記突出部に係合可能な係合部を備え、前記ブラシとの間で前記スプリングを挟むように前記保持部材に被さるキャップ部材と、を備えたブラシユニットと、を有し、
前記キャップ部材は、前記ブラシが発熱して所定温度に達すると前記係合部と前記突出部との係合状態が解除されるように変形する材質からなり、前記係合状態が解除されると、前記スプリングの弾性力によって前記保持部材から外れることを特徴とする直流モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2013−5632(P2013−5632A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135710(P2011−135710)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】