説明

ブラシレスモータ

【課題】簡易な構成でモータ軸のスラスト方向の抜け止めとロータの跳ね上がりによる軸受部との衝突音を緩和できるブラシレスモータを提供する。
【解決手段】モータ軸5がスラスト受け部18に支持された軸端近傍に設けられた周溝22と軸受部端面8aとの間に弾性を有するダンパーリング23が嵌め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プリンタ、複写機、DVD駆動装置などのOA機器やシート空調、冷却用ブロワなどの車載機器、プロジェクターなどに用いられるブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
アウターロータ型のDCブラシレスモータの一例について説明する。筒体状のハウジングはモータケースに組み付けられ、該ハウジングの内周側に軸受部が組み付けられ、外周部にはモータ基板やステータコアが組み付けられる。マグネットを有するロータはモータ軸と一体に組み付けられ、該モータ軸がハウジング内に挿入され軸受部を介して回転可能に支持されている。ハウジングはモータケースと一体に組み付けられている。
【0003】
図4に示すように、ロータを支持するモータ軸51の抜け止め構造としては、軸端部52の周溝に割り56aが入った抜け止めワッシャー56が嵌め込まれている。モータ軸51をラジアル方向に支持する軸受部端面57aと抜け止めワッシャー56との間には調整ワッシャー58,59が嵌め込まれてスラスト方向のガタを調整するようになっている。組み込みスペースがあれば抜け止めワッシャーのかわりに金属製止め輪が用いられる。
【0004】
また、モータ軸の抜け止めを兼ねつつスラスト軸受としてスラスト方向の負荷を受けるモータの軸受け構造が提案されている(特許文献1参照)。また、軸端をスラスト方向に付勢することでモータ軸に組み付けられた当接部を軸受に押し当てて組立性、密閉性の改善を図ったモータ軸の抜け止め構造も提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ただし、モータの騒音を極力小さくしようとする場合には、軸受もしくは軸受端に配したスラスト受けとの摺動を避け、図4に示すようなモータ軸51の軸端部52をR面形状に仕上げるか或いは図示しない鋼球(スチールボール)を軸端部52に圧入し、かつスラストカバー54の凹部55に樹脂製のスラスト受け53を収容して軸端部52を支持してスラスト方向の負荷を受ける構造とし、抜け止めの機能とスラスト負荷を受ける機能とを分ける構造となっている。
【特許文献1】特開平9−182356号公報
【特許文献2】特開2003−164100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抜け止め機能とスラスト負荷を受ける機能を分けたアウターロータ型のモータの場合、ロータはマグネットと固定子コアの磁気吸引力により軸端側に固定されている。このため、外部から振動や衝撃を受けた場合、ロータはスラストガタ分だけ軸方向に慣性により一時的に跳ね上がってはまた戻り、図4においては調整ワッシャー59と軸受部端面57aとの間、軸端部52とスラスト受け53との間で衝突音が各々発生する。これらのうち、軸端部52とスラスト受け53との衝突音は、スラスト受け53の弾力やスラストカバー54の形状で対応できるが、調整ワッシャー59と軸受部端面57aとの間の衝突音については何ら対策がとられていないのが現状である。
また、図4に示す従来の抜け止め構造及び特許文献1,2で開示された抜け止め構造においては、モータ軸との抜け止めは、周溝に嵌め込まれる割入りのワッシャーや金属製止め輪やスリット入りの樹脂成形品が用いられるため、部品のコストがかかり、金型構造が複雑になるなどの問題がある。また、割り入りやスリットを設けない場合には周溝との係合が浅くなって抜け止めが十分とは言えない。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成でモータ軸のスラスト方向の抜け止めとロータの跳ね上がりによる軸受部との衝突音を緩和できるブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
ロータを支持するモータ軸を軸受部によりラジアル方向に支持すると共に軸端部をスラスト方向に受けるスラスト受けを備えたブラシレスモータであって、前記モータ軸がスラスト受けに支持された軸端近傍に設けられた周溝と軸受部端面との間に弾性を有するダンパーリングが嵌め込まれていることを特徴とする。
上記ダンパーリングは弾性力が大きいため割りやスリットの必要性は無く、周溝との係合も深くとることができる。
また、前記ダンパーリングは、モータ軸の周溝に嵌り込む小径リング部と軸受部端面に対向して軸部に嵌め込まれる大径リング部が一体成形された弾性樹脂材であることを特徴とする。
また、前記ダンパーリングは軸受部端面との間に調整ワッシャーを介してモータ軸に嵌め込まれていることを特徴とする。
また、前記ダンパーリングは軸端部近傍の周溝に嵌め込まれた抜止めワッシャー若しくは金属製止め輪と軸受部端面との間に嵌め込まれていることを特徴とする。
尚、前記ダンパーリングはモータ軸に形成される周溝との係合が深く取れないものやスラスト負荷の大きいものに対しては、小径リング部を廃し大径リング部のみとし、軸端部近傍の周溝に嵌め込まれた抜止めワッシャーあるいは金属止め輪と併用使用することで対応可能である。
更には、前記ダンパーリングとして、熱可塑性エラストマー材が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述したブラシレスモータを用いれば、モータ軸がスラスト受けに支持された軸端近傍に設けられた周溝と軸受部端面との間に弾性を有するダンパーリングが嵌め込まれているので、ロータがスラスト方向に跳ね上がっても、ダンパーリングによって軸受部端面との衝突音を緩和することができる。また、ダンパーリングがモータ軸の周溝にはまり込む抜け止め部も兼用するので部品点数を減らして低コスト化を図ることができる。
また、ダンパーリングは、モータ軸の周溝に嵌り込む小径リング部と軸受部端面に対向して軸部に嵌め込まれる大径リング部が一体成形された弾性樹脂材であると、耐衝撃性、耐候性を有し、かつ一体成形可能であるので安価に大量生産に適する。
また、ダンパーリングは軸受部端面との間に調整ワッシャーを介してモータ軸に嵌め込まれていると、モータ軸のスラスト方向のガタを極力減らして、調整ワッシャーと軸受部端面との衝突音を小さくすることができる。
また、ダンパーリングは軸端部近傍の周溝に嵌め込まれた抜止めワッシャーと調整ワッシャーとの間に嵌め込まれている場合には、ダンパーリングの形状を簡素化することができる。
また、ダンパーリングとして、熱可塑性エラストマー材を用いると、ゴムの弾性とプラスチックの成形性を併有するため、耐衝撃性に強く、量産に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るブラシレスモータの最良の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施形態では、一例としてブロワーモータ(アウターロータ型のDCブラシレスモータ)を用いて説明する。
【0011】
図1を参照して、ブロワーモータの概略構成について説明する。
図1において、ロータ1は、インペラ2が円筒状のロータヨーク3と一体にインサート成形されたものが用いられる。インペラ2のハブ4にはモータ軸5の一端も一体に成形されている。ロータヨーク3の内周面には、リング状のマグネット6が固着されている。マグネット6は、周方向にN極とS極とで交互に着磁されている。モータ軸5は軸受ハウジング7に挿入された軸受部8によってラジアル方向及びスラスト方向に支持されている。
【0012】
固定子9は、固定子コア10が金属円筒状の軸受ハウジング7の外周側に嵌め込まれて組み付けられる。固定子コア10はインシュレータ11に覆われており、ティース部(極歯)にモータコイル12が巻付けられている。また、モータ駆動回路が設けられたモータ基板13も軸受ハウジング7に固定され、固定子9との組立体となり、モータケース14にねじ15により固定される。また、スラストカバー16は軸受ハウジング7にねじ17により固定されている。軸受ハウジング7は、内周側にモータ軸5をラジアル方向で支持する軸受部(例えば焼結含油軸受、ボールベアリングなど)8が組み付けられている。
【0013】
図1において、ロータ1のマグネット6の磁極中心と固定子コア10のティース部の中心はシフトして組み付けられ、モータ軸5は常時軸端部5aが、図2に詳細を示すスラストカバー16内に嵌め込まれたスラスト受け18に接する向きに軸方向に吸引されている。ロータ1が回転するとインペラ2が回転し、外気が軸方向にインペラ2に向かって吸引されモータケース14内を周回して送風口19より排出されるようになっている。
【0014】
図2は図1のA部の拡大断面図である。図2において、金属製のスラストカバー16はプレス加工により凹面部20が形成されている。この凹面部20の底部にはスラスト受け18が嵌め込まれ、モータ軸5の軸端部5aをスラスト方向に支持している。スラスト受け18には、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材などの耐摩耗性を有する低摩擦樹脂材が好適に用いられる。スラスト受け18は、凹面部20の底部に載置され、モータ軸5のR面に形成された軸端部5aが点接触している。また、スラストカバー16の凹面部20には、スラスト受け18のモータ軸端部5aとの接点を通過する延長線と交差する部位に凹部21が形成されている。
【0015】
次にモータ軸5の抜け止め構造について説明する。モータ軸5の軸端部5a近傍には、周溝22が設けられている。この周溝22と軸受8の端面部8aとの間に弾性を有するダンパーリング23が嵌め込まれている。ダンパーリング23は、ゴムの弾性とプラスチックの成形性を併有する熱可塑性エラストマー材、例えば商標名ハイトレルなどが好適に用いられる。ダンパーリング23と軸受8の端面部8aとの間には調整ワッシャー24が介在してスラスト方向のガタを吸収するようになっている。調整ワッシャー24が設けられていると、モータ軸5のスラスト方向のガタ量を少なく調整でき、調整ワッシャー24と軸受部端面8aとの衝突音を小さくすることができる。ダンパーリング23によって適正なガタ量が得られれば、調整ワッシャー24は省略することも可能である。
【0016】
ロータ1がスラスト方向に跳ね上がっても、ダンパーリング23によって調整ワッシャー24と軸受部端面8aとの衝突音を緩和することができる。また、ダンパーリング23がモータ軸5の周溝22に嵌り込む抜け止め部も兼用するので部品点数を減らして低コスト化を図ることができる。
【0017】
また、図3(a)(b)において、ダンパーリング23は、モータ軸5の周溝22に嵌り込む小径リング部23aと軸受部端面8aに対向して軸部に嵌め込まれる大径リング部23bが熱可塑性エラストマー材であると、ゴムの弾性を持ちながらも射出成形による一体成形が可能であるので安価に大量生産に適する。
【0018】
上記構成によれば、図2において、振動や衝撃負荷が外部から加わった場合、一時的にロータ1(図1参照)が浮き上がり調整ワッシャー24と軸受部端面8aが衝突し、吸引により戻って軸端部5aがスラスト受け18に衝突する。各々の衝突に対し、調整ワッシャー24と軸受部端面8aとの衝撃はダンパーリング23で緩和でき、また軸端部5a中央部の面圧の高い点衝突による衝撃は、スラスト受け18が直下の凹部21に向けてわずかな撓みを伴いながら拡散させるので、各々の衝撃音を抑制することができる。これにより振動や衝撃の多い車載用などの用途で特に商品価値を高めることができる。
【0019】
尚、軸径の制約で周溝22の深さが十分に取れない場合、また衝撃力の大きい場合などには、モータ軸5の周溝22に抜け止めワッシャーあるいは金属製の止め輪(図示せず)を用いても良い。この場合には、ダンパーリング23は形状を簡素化され、軸端部近傍の周溝22に嵌め込まれた抜止めワッシャーあるいは金属製止め輪と調整ワッシャー24との間に嵌め込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】アウターロータ型ブラシレスモータの断面説明図である。
【図2】図1のA部(モータ軸を支持するスラスト受け近傍)の拡大断面図である。
【図3】ダンパーリングの平面図及び垂直断面図である。
【図4】従来のモータ軸を支持するスラスト受け近傍の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ロータ
2 インペラ
3 ロータヨーク
4 ハブ
5 モータ軸
5a 軸端部
6 マグネット
7 軸受ハウジング
8 軸受
8a 軸受部端面
9 固定子
10 固定子コア
11 インシュレータ
12 モータコイル
13 モータ基板
14 モータケース
15,17 ねじ
16 スラストカバー
18 スラスト受け
19 送風口
20 凹面部
21 凹部
22 周溝
23 ダンパーリング
23a 小径リング部
23b 大径リング部
24 調整ワッシャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを支持するモータ軸を軸受部によりラジアル方向に支持すると共に軸端部をスラスト方向に受けるスラスト受け部を備えたブラシレスモータであって、
前記モータ軸がスラスト受け部に支持された軸端近傍に設けられた周溝と軸受部端面との間に弾性を有するダンパーリングが嵌め込まれているブラシレスモータ。
【請求項2】
前記ダンパーリングは、モータ軸の周溝に嵌り込む小径リング部と軸受部端面に対向して軸部に嵌め込まれる大径リング部が一体成形された弾性樹脂材である請求項1記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記ダンパーリングは軸受部端面との間に調整ワッシャーを介してモータ軸に嵌め込まれている請求項1又は2記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
前記ダンパーリングは軸端部近傍の周溝に嵌め込まれた抜止めワッシャー若しくは金属製止め輪と軸受部端面との間に嵌め込まれている請求項1又は3記載のブラシレスモータ。
【請求項5】
前記ダンパーリングとして、熱可塑性エラストマー材が用いられる請求項1乃至4のいずれか1項記載のブラシレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−254193(P2009−254193A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102013(P2008−102013)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】