ブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路
【課題】フセット補正用抵抗素子の温度係数TCRの調整、設定が容易なブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路を得る。
【解決手段】電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、前記温度特性調整抵抗素子を、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層の積層構造とした。
【解決手段】電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、前記温度特性調整抵抗素子を、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層の積層構造とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ出力等を測定するブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力センサ、荷重センサ、加速度センサ等のセンサ出力を環境、回路内の温度変化による変動を極力排除するために、ブリッジ回路が使用されている。従来のグランド接続を有し、定電流駆動するブリッジ回路111を、図10に示した。定電流電源113から供給された定電流Isは、ブリッジ回路111を構成する、直列接続された2組の直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3に流れる。直列抵抗素子R1、R4の間の中点電圧Vout1、直列抵抗素子R2、R3の間の中点電圧Vout2がセンサ出力として取り出され、オペアンプ115の非反転入力端子、反転入力端子に入力され、差動増幅されて出力電圧Voとして出力される。これらの直列抵抗素子R1、R4、直列抵抗素子R2、R3は、例えば磁気抵抗素子やピエゾ素子などの感応抵抗素子で形成されている。図11(A)、(B)に、センサ出力、出力電圧と圧力との関係をグラフとして示した。同図において、横軸は圧力(kPa)、縦軸は、(A)がセンサ出力(Vout1 - Vout2)、(B)が出力電圧(Vo)である。
【0003】
このブリッジ回路111では、抵抗素子R1乃至R4は、0(kPa)時のセンサ出力(Vout1 - Vout2)が0となるようにオフセット調整されている。このセンサ出力(Vout1 - Vout2)を入力したときの出力電圧Voは、オペアンプ115の出力レンジの最低値となり、センサ出力(Vout1 - Vout2)が増大すると、出力電圧Voは比例して増大する。この出力電圧Voを測定することにより、抵抗素子R1乃至R4に負荷された圧力を測定していた。
【0004】
また、ブリッジ回路111は温度変化の影響を受けて誤差を生じる。このような温度特性を補償するために、抵抗素子R1乃至R4よりも温度係数の小さいオフセット補正用抵抗素子を接続する構成が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000-310504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のブリッジ回路構成では、オペアンプ115の増幅レンジの半分しか利用できないので、本来備えたオペアンプ115の分解能の半分しか利用できていなかった。しかも従来のオフセット補正用抵抗素子を接続する構成は、オフセット補正用抵抗素子の温度特性を考慮していないので、ブリッジ回路出力の温度特性が変化してしまい、温度特性も悪化してしまう問題があった。
【0006】
また、一般的に温度係数TCRの値はその材料固有の値であるため、膜厚や形状によってTCRの値を調整することは困難であり、適切な温度係数TCR値のオフセット補正用抵抗素子を得ることが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、差増増幅回路の全分解能を利用可能として分解能を高めるとともに、温度特性を高めることができるブリッジ回路において、オフセット補正用抵抗素子の温度係数TCRの調整、設定が容易なブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明は、電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、上記温度特性調整抵抗素子を、Ni、又はNiFeとCrとからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層を含む積層構造としたことに特徴を有する。
【0009】
実際的には、NiFeCrの組成比を、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%の範囲で設定する。
より好ましくは、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8〜1、 y=35〜42at%の範囲で設定する。
【0010】
本発明において前記温度特性調整抵抗素子の温度係数は、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層の厚さと、Ta又はTaNからなる薄膜層の厚さによって設定される。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り本発明によれば、温度特性の変化が小さく、温度変化による影響が小さいブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路の温度特性調整用抵抗素子が、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層の積層によって形成されるので、温度係数を所望の値に設定することが容易になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明について、図に示した実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明を適用したブリッジ回路の実施形態を示す図である。このブリッジ回路11は、直列に接続された直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3の2組が、グランドに接続されるノードと定電流電源13からの入力ノードとの間に並列接続され、定電流電源13から供給された定電流Isが入力され、直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3に流れる。そうして直列抵抗素子R1、R4の間に生じる中点電圧Vout1及び直列抵抗素子R2、R3の間に生じる中点電圧Vout2が、センサ出力として取り出される。この実施形態の抵抗素子R1乃至R4は、磁気に感応する磁気抵抗素子、又は圧力に感応するピエゾ素子などの、感応抵抗素子である。
【0013】
センサ出力として取り出された中点電圧Vout1、中点電圧Vout2は、オペアンプ15の非反転入力端子、反転入力端子に入力され、差動増幅されて、出力電圧Voとして出力される。つまり、中点電圧Vout1、Vout2の差(Vout1-Vout2)がセンサ出力(電圧)として出力され、オペアンプ15により差動増幅され、出力電圧Voとして出力される。
【0014】
さらにこのブリッジ回路11では、中点電圧Vout1、Vout2を挟んだ対角位置に、つまり抵抗素子R4と中点電圧Vout1の間、及び中点電圧Vout2と抵抗素子R2との間に、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2が直列に配置されている。温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値は、センサ出力(Vout1 - Vout2)の出力レンジの中央値が、オペアンプ15の出力レンジの中央値となるように設定されている。
【0015】
このブリッジ回路11において、圧力(kPa)とセンサ出力(Vout1-Vout2)との関係、及び圧力(kPa)と出力電圧Voとの関係をシミュレートした結果を、図2(A)、(B)に示した。このシミュレートでは、定電流電源13からの入力電流Isは0.15mA、センサ出力(Vout1 - Vout2)の出力レンジは圧力換算で0乃至100(kPa)、オペアンプ15の出力電圧Voのレンジは0乃至5.0(V)であって、圧力レンジの中央値である圧力50(kPa)のときに、出力電圧Voが出力レンジの中央値である2.5(V)となるように、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値を設定してある。図2(A)において、縦軸はセンサ出力(Vout1-Vout2)、横軸は圧力(kPa)、図2(B)において、縦軸は出力電圧(V)、横軸は圧力(kPa)である。
【0016】
このような条件に基づき温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値を設定することにより、オペアンプ15の出力レンジ全域を使用することが可能になり、出力電圧Voのレンジが2倍になり、分解能も2倍になる。
【0017】
さらに本発明の実施形態では、温度特性を補償するために、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは、他の抵抗素子R1乃至R4よりも小さく設定し、温度特性を悪化させることなくオフセット電圧をシフトさせることを可能にした。
【0018】
次に、このブリッジ回路11において、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の最適な温度係数TCRを求めたシミュレーション結果を添付の図に示したグラフを参照して説明する。
【0019】
抵抗素子R1乃至R4は、ピエゾ素子により形成してある。
温度5℃、圧力100(kPa)のとき、抵抗素子R1、R3は4.993(Ω)抵抗素子R2、R4は4.743(Ω)、温度係数TCRは、約1500(ppm/℃)である。
温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2は、 dR2=dR4=160(Ω) 温度係数TCRは、1500〜-800 (ppm/℃)の範囲で設定できる。以上の通り数値設定されたブリッジ回路11において、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRを 500、 200、 100、 0 (ppm/℃)に設定した場合のシミュレーション結果を図3乃至図6にグラフ化して示した。
【0020】
なお、上記シミュレーションのように抵抗素子R1、R3と抵抗素子R2、R4との間に抵抗差があるときは、抵抗の小さい方である抵抗素子R2と中点との間及び抵抗素子R4と中点との間に、温度特性調整用抵抗素子dR2、dR4を入れる方が好ましい。オフセット方向が逆にならないようにするためである。
【0021】
この実施形態において、感度温度測定の変化率、オフセット温度特性の変化率、オフセット温度特性の変化レンジを、以下の通り定義する。
感度温度特性の変化率:
圧力をある範囲、この実施形態では26から110(kPa)に変化させたときに得られる出力電圧のレンジが感度となるが、この感度は温度毎に変化する。そこでこの実施形態では、10℃環境での感度を基準として、-20、-10、10、25、40℃環境における感度差を求め、これらを10℃における感度で除算し、パーセント(%)表示したものを感度温度特性の変化率としてある。
オフセット温度特性の変化率:
ある圧力で得られる出力電圧がオフセット電圧であるが、温度が変化するとオフセット電圧も変化する。この実施形態では、10℃環境でのオフセット電圧を基準として、各温度におけるオフセット電圧との差を求め、基準のオフセット電圧で除算して%表示したものがオフセット温度特性の変化率である。この実施形態では、圧力が、26、68、110(kPa)の場合について、環境温度を-20、-10、10、25、40℃と変化させてシミュレーションしている。
オフセット温度特性の変化レンジ:
ある圧力でのオフセット温度特性の変化率について、最大値と最小値の差を算出したものがオフセット温度特性の変化レンジである。
【0022】
図3(A)乃至(D)は、圧力(kPa)と出力電圧(Vout1-Vout2)との関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。温度係数TCRは、(A)が500(ppm/℃)、(B)が200(ppm/℃)、(C)が100(ppm/℃)、(D)が 0 (ppm/℃)である。図3において、黒塗り三角形、菱形、正方形はそれぞれ温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2を有しない場合の、温度−20℃、25℃、40℃の場合のシミュレーション結果、白抜き三角形、菱形、正方形はそれぞれ本発明のブリッジ回路11における、温度−20℃、25℃、40℃の場合のシミュレーション結果である。このグラフによれば、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRが大きいほど温度によるオフセット電圧のバラツキが大きくなる傾向があることが分かる。
【0023】
図4(A)乃至(D)は、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2と感度温度特性の関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。温度係数TCRは、(A)が500(ppm/℃)、(B)が200(ppm/℃)、(C)が100(ppm/℃)、(D)が 0 (ppm/℃)である。図4において、縦軸は感度温度特性の変化率(%)、横軸は温度(℃)であって、菱形は温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2を有しないブリッジ回路、正方形は本実施形態のブリッジ回路11であるが、グラフは重なっている。このグラフによれば、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の有無にかかわらず、特性が一定であること、つまり、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは感度温度特性には影響を与えないことが分かる。
【0024】
図5(A)乃至(C)は、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の値と温度特性変化の関係を異なる圧力毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図であって、(A)は圧力26(kPa)の場合、(B)は68(kPa)の場合、(C)は110(kPa)の場合である。図5の各グラフにおいて、縦軸はオフセット温度特性の変化率(%)、横軸は温度(℃)であって、温度係数TCRは、菱形が1500(ppm/℃)、正方形が800(ppm/℃)、三角形が500(ppm/℃)、X印が200(ppm/℃)、*印が0(ppm/℃)、黒丸が-200(ppm/℃)、+印が-500(ppm/℃)、−印が-800(ppm/℃)である。
【0025】
このシミュレーション結果から、温度補償特性TCRは、0(ppm/℃)のときに温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2が無い場合と同じ特性となること、及び各圧力毎に、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の最適温度係数TCRがあることが分かる。
【0026】
図6には、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRとオフセット温度特性の変化レンジとの関係をシミュレーションした結果をグラフで示した図である。図6において、縦軸はオフセット温度特性の変化レンジ(%、パーセント)、横軸は温度係数TCR(ppm/℃)であって、菱形は圧力26(kPa)の場合、正方形は圧力68(kPa)の場合、三角形は圧力110(kPa)の場合のシミュレーション結果である。
【0027】
このシミュレーション結果から、このブリッジ回路11における温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは、0乃至200(ppm/℃)が最適であることが分かる。したがって、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRの値は、ブリッジ回路11の仕様に応じて変動するが、前記シミュレーションによって設定することができる。
【0028】
温度係数TCRは、0乃至200(ppm/℃)を満足する温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の材料、組成及び構造に関する実施例を表1に示した。これらの実施例1乃至9は、NiFeCr(ニッケル、鉄、クロム)と、Ta(タンタル)又はTaN(窒化タンタル)により二層薄膜構造とし、抵抗値Rs及び温度係数TCRを測定した。なお、各実施例1乃至9は、スパッタリング装置、真空蒸着装置等による薄膜形成工程によって二層に製造される。
【0029】
表1において、温度係数TCRは、雰囲気温度85℃と25℃における測定結果から下記式によって求めている。
TCR [ppm/℃]=[R(85℃)-R(25℃)]/[R(25℃)×(85℃-25℃)]×1000000
但し、R(85℃)は雰囲気温度85℃のときの抵抗値、R(25℃)は雰囲気温度25℃のときの抵抗値である。
NiFeCrの組成比は、NiとFeの比が0.8:0.2のNiFeが60at%と、Crが40at%である。つまり、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8、y=40at%である。
【表1】
【0030】
実施例1乃至5は、NiFeCr層上にTa層を積層しており(図7(A))、実施例6はTa層上にNiFeCr層を積層し(図7(B))、実施例7乃至実施例9は、NiFeCr層上にTaN層を積層している(図7(A))。なお、図7(C)のように、NiFeCr層の上下にTa層又はTaN層を積層してもよい。また、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2と直列抵抗素子R1、R4、直列抵抗素子R2、R3を導通する導電層17は、例えばAlで形成される。
実施例7乃至9は、Taによる薄膜を形成するスパッタリング工程において、アルゴンArに対して窒素N2をそれぞれ、3体積パーセント(Vol%)、6体積パーセント(Vol%)、8体積パーセント(Vol%)加えて、TaN層を形成してある。
実施例2、5の結果から、これらの実施例において、NiFeCr層とTa層又はTaN層の積層順は問わず、いずれを下層に形成してもよいことが分かる。
【0031】
図8には、Ta層の厚さ(膜厚)を一定とし、NiFeCr層の厚さ(膜厚)変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示し、図9にはNiFeCr層の厚さ(膜厚)を一定とし、Ta層の厚さ(膜厚)を変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した。図8では、NiFeCr層の厚さを、41.5(nm)、43.5(nm)、45.5(nm)に設定し、図9ではTa層の厚さを、41.5(nm)、43.5(nm)、45.5(nm)に設定してある。各図において、横軸は膜厚、縦軸はシート抵抗Rs(Ω/□)、温度係数TCR(ppm/℃)である。
【0032】
図8及び図9のグラフでは、シート抵抗Rsの値は膜厚が増加すると、いずれの場合も減少するが、温度係数TCRはNiFeCr層の厚さ増加で増加傾向となり、Ta層の厚さ増加で減少傾向となっている。つまり温度係数TCRに対してはNiFeCrはプラスの効果、Taはマイナスの効果があることが分かる。
【0033】
図8及び図9の測定結果及び実施例1乃至9から、NiFeCr層の厚さとTa層の厚さを適切な膜厚とすることで、シート抵抗Rsと温度係数TCRを回路に合わせた所望の値に容易に設定可能であることが分かる。
【0034】
またNiFeCrの組成については、組成式 (NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%になる範囲で設定すればよい。より好ましい範囲は、x=0.8〜1、y=35〜42at%である。なお、xが0.3〜1の下限を下回る(30at%未満になる)と、Feの割合が多くなり、錆びやすくなるという問題が生じる。
【0035】
一方、Taについては、窒化物のTaNとすれば、Nの添加量を増やすことでTCRのマイナス側寄与を大きくできるので、温度係数TCRの調整幅を大きくすることができる。
単層のNiCr又はNiFeCrを組成調整のみでTCRを改善することはばらつきが大きくなる。本発明は、積層して各層の膜厚を調整することでばらつきを吸収し、目的のTCRに設定することが容易になる。
【0036】
図示したブリッジ回路の場合、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2は、2組の直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3の中点を挟んだ対角位置であれば、いずれの対角位置に配置してもよい。図示実施形態では感応抵抗素子として圧力に感応する感応抵抗素子を使用したが、本発明は、加速度、磁場、磁気等他の物理量に感応する感応抵抗素子、例えば磁気抵抗効果素子を使用したブリッジ回路に適用することもできる。
同実施形態は定電流電源を使用したブリッジ回路であるが、本発明は、定電圧電源を使用したブリッジ回路にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の出力電圧オフセット調整回路を適用したブリッジ回路の一実施形を示す回路図である。
【図2】同実施形態のブリッジ回路によりオフセットされたセンサ出力、増幅後出力と圧力との関係をグラフで示す図であって、(A)はセンサ出力と圧力、(B)は増幅後の出力電圧と圧力との関係を示す図である。
【図3】(A)乃至(D)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して、圧力(kPa)と出力電圧(Vout1-Vout2)との関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図4】(A)乃至(D)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して、温度特性調整用抵抗素子と感度温度特性の関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図5】(A)乃至(C)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して温度特性調整用抵抗素子の値と温度特性変化の関係を異なる圧力毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図6】同実施形態のブリッジ回路を使用して、温度特性調整用抵抗素子の温度係数TCRとオフセット温度特性の変化レンジとの関係をシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図7】同実施形態のブリッジ回路において、温度調整用抵抗素子部分を縦断して示した断面図である。
【図8】同実施形態の温度特性調整用抵抗素子を、Ta層の厚さ(膜厚)を一定としてNiFeCr層の厚さ(膜厚)変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した図である。
【図9】同実施形態の温度特性調整用抵抗素子を、NiFeCr層の厚さ(膜厚)を一定とし、Ta層の厚さ(膜厚)を変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した図である。
【図10】従来のブリッジ回路の回路図である。
【図11】同従来のブリッジ回路によるセンサ出力、増幅後出力と圧力との関係をグラフで示す図であって、(A)はセンサ出力と圧力、(B)は増幅後出力と圧力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
11 ブリッジ回路
13 定電流電源
15 オペアンプ(差動増幅器)
R1 R4 直列抵抗素子
R2 R3 直列抵抗素子
dR4 dR2 温度特性調整用抵抗素子
Vout1 Vout2 中点電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ出力等を測定するブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力センサ、荷重センサ、加速度センサ等のセンサ出力を環境、回路内の温度変化による変動を極力排除するために、ブリッジ回路が使用されている。従来のグランド接続を有し、定電流駆動するブリッジ回路111を、図10に示した。定電流電源113から供給された定電流Isは、ブリッジ回路111を構成する、直列接続された2組の直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3に流れる。直列抵抗素子R1、R4の間の中点電圧Vout1、直列抵抗素子R2、R3の間の中点電圧Vout2がセンサ出力として取り出され、オペアンプ115の非反転入力端子、反転入力端子に入力され、差動増幅されて出力電圧Voとして出力される。これらの直列抵抗素子R1、R4、直列抵抗素子R2、R3は、例えば磁気抵抗素子やピエゾ素子などの感応抵抗素子で形成されている。図11(A)、(B)に、センサ出力、出力電圧と圧力との関係をグラフとして示した。同図において、横軸は圧力(kPa)、縦軸は、(A)がセンサ出力(Vout1 - Vout2)、(B)が出力電圧(Vo)である。
【0003】
このブリッジ回路111では、抵抗素子R1乃至R4は、0(kPa)時のセンサ出力(Vout1 - Vout2)が0となるようにオフセット調整されている。このセンサ出力(Vout1 - Vout2)を入力したときの出力電圧Voは、オペアンプ115の出力レンジの最低値となり、センサ出力(Vout1 - Vout2)が増大すると、出力電圧Voは比例して増大する。この出力電圧Voを測定することにより、抵抗素子R1乃至R4に負荷された圧力を測定していた。
【0004】
また、ブリッジ回路111は温度変化の影響を受けて誤差を生じる。このような温度特性を補償するために、抵抗素子R1乃至R4よりも温度係数の小さいオフセット補正用抵抗素子を接続する構成が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000-310504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のブリッジ回路構成では、オペアンプ115の増幅レンジの半分しか利用できないので、本来備えたオペアンプ115の分解能の半分しか利用できていなかった。しかも従来のオフセット補正用抵抗素子を接続する構成は、オフセット補正用抵抗素子の温度特性を考慮していないので、ブリッジ回路出力の温度特性が変化してしまい、温度特性も悪化してしまう問題があった。
【0006】
また、一般的に温度係数TCRの値はその材料固有の値であるため、膜厚や形状によってTCRの値を調整することは困難であり、適切な温度係数TCR値のオフセット補正用抵抗素子を得ることが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、差増増幅回路の全分解能を利用可能として分解能を高めるとともに、温度特性を高めることができるブリッジ回路において、オフセット補正用抵抗素子の温度係数TCRの調整、設定が容易なブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明は、電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、上記温度特性調整抵抗素子を、Ni、又はNiFeとCrとからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層を含む積層構造としたことに特徴を有する。
【0009】
実際的には、NiFeCrの組成比を、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%の範囲で設定する。
より好ましくは、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8〜1、 y=35〜42at%の範囲で設定する。
【0010】
本発明において前記温度特性調整抵抗素子の温度係数は、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層の厚さと、Ta又はTaNからなる薄膜層の厚さによって設定される。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り本発明によれば、温度特性の変化が小さく、温度変化による影響が小さいブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路の温度特性調整用抵抗素子が、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層の積層によって形成されるので、温度係数を所望の値に設定することが容易になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明について、図に示した実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明を適用したブリッジ回路の実施形態を示す図である。このブリッジ回路11は、直列に接続された直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3の2組が、グランドに接続されるノードと定電流電源13からの入力ノードとの間に並列接続され、定電流電源13から供給された定電流Isが入力され、直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3に流れる。そうして直列抵抗素子R1、R4の間に生じる中点電圧Vout1及び直列抵抗素子R2、R3の間に生じる中点電圧Vout2が、センサ出力として取り出される。この実施形態の抵抗素子R1乃至R4は、磁気に感応する磁気抵抗素子、又は圧力に感応するピエゾ素子などの、感応抵抗素子である。
【0013】
センサ出力として取り出された中点電圧Vout1、中点電圧Vout2は、オペアンプ15の非反転入力端子、反転入力端子に入力され、差動増幅されて、出力電圧Voとして出力される。つまり、中点電圧Vout1、Vout2の差(Vout1-Vout2)がセンサ出力(電圧)として出力され、オペアンプ15により差動増幅され、出力電圧Voとして出力される。
【0014】
さらにこのブリッジ回路11では、中点電圧Vout1、Vout2を挟んだ対角位置に、つまり抵抗素子R4と中点電圧Vout1の間、及び中点電圧Vout2と抵抗素子R2との間に、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2が直列に配置されている。温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値は、センサ出力(Vout1 - Vout2)の出力レンジの中央値が、オペアンプ15の出力レンジの中央値となるように設定されている。
【0015】
このブリッジ回路11において、圧力(kPa)とセンサ出力(Vout1-Vout2)との関係、及び圧力(kPa)と出力電圧Voとの関係をシミュレートした結果を、図2(A)、(B)に示した。このシミュレートでは、定電流電源13からの入力電流Isは0.15mA、センサ出力(Vout1 - Vout2)の出力レンジは圧力換算で0乃至100(kPa)、オペアンプ15の出力電圧Voのレンジは0乃至5.0(V)であって、圧力レンジの中央値である圧力50(kPa)のときに、出力電圧Voが出力レンジの中央値である2.5(V)となるように、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値を設定してある。図2(A)において、縦軸はセンサ出力(Vout1-Vout2)、横軸は圧力(kPa)、図2(B)において、縦軸は出力電圧(V)、横軸は圧力(kPa)である。
【0016】
このような条件に基づき温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の抵抗値を設定することにより、オペアンプ15の出力レンジ全域を使用することが可能になり、出力電圧Voのレンジが2倍になり、分解能も2倍になる。
【0017】
さらに本発明の実施形態では、温度特性を補償するために、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは、他の抵抗素子R1乃至R4よりも小さく設定し、温度特性を悪化させることなくオフセット電圧をシフトさせることを可能にした。
【0018】
次に、このブリッジ回路11において、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の最適な温度係数TCRを求めたシミュレーション結果を添付の図に示したグラフを参照して説明する。
【0019】
抵抗素子R1乃至R4は、ピエゾ素子により形成してある。
温度5℃、圧力100(kPa)のとき、抵抗素子R1、R3は4.993(Ω)抵抗素子R2、R4は4.743(Ω)、温度係数TCRは、約1500(ppm/℃)である。
温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2は、 dR2=dR4=160(Ω) 温度係数TCRは、1500〜-800 (ppm/℃)の範囲で設定できる。以上の通り数値設定されたブリッジ回路11において、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRを 500、 200、 100、 0 (ppm/℃)に設定した場合のシミュレーション結果を図3乃至図6にグラフ化して示した。
【0020】
なお、上記シミュレーションのように抵抗素子R1、R3と抵抗素子R2、R4との間に抵抗差があるときは、抵抗の小さい方である抵抗素子R2と中点との間及び抵抗素子R4と中点との間に、温度特性調整用抵抗素子dR2、dR4を入れる方が好ましい。オフセット方向が逆にならないようにするためである。
【0021】
この実施形態において、感度温度測定の変化率、オフセット温度特性の変化率、オフセット温度特性の変化レンジを、以下の通り定義する。
感度温度特性の変化率:
圧力をある範囲、この実施形態では26から110(kPa)に変化させたときに得られる出力電圧のレンジが感度となるが、この感度は温度毎に変化する。そこでこの実施形態では、10℃環境での感度を基準として、-20、-10、10、25、40℃環境における感度差を求め、これらを10℃における感度で除算し、パーセント(%)表示したものを感度温度特性の変化率としてある。
オフセット温度特性の変化率:
ある圧力で得られる出力電圧がオフセット電圧であるが、温度が変化するとオフセット電圧も変化する。この実施形態では、10℃環境でのオフセット電圧を基準として、各温度におけるオフセット電圧との差を求め、基準のオフセット電圧で除算して%表示したものがオフセット温度特性の変化率である。この実施形態では、圧力が、26、68、110(kPa)の場合について、環境温度を-20、-10、10、25、40℃と変化させてシミュレーションしている。
オフセット温度特性の変化レンジ:
ある圧力でのオフセット温度特性の変化率について、最大値と最小値の差を算出したものがオフセット温度特性の変化レンジである。
【0022】
図3(A)乃至(D)は、圧力(kPa)と出力電圧(Vout1-Vout2)との関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。温度係数TCRは、(A)が500(ppm/℃)、(B)が200(ppm/℃)、(C)が100(ppm/℃)、(D)が 0 (ppm/℃)である。図3において、黒塗り三角形、菱形、正方形はそれぞれ温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2を有しない場合の、温度−20℃、25℃、40℃の場合のシミュレーション結果、白抜き三角形、菱形、正方形はそれぞれ本発明のブリッジ回路11における、温度−20℃、25℃、40℃の場合のシミュレーション結果である。このグラフによれば、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRが大きいほど温度によるオフセット電圧のバラツキが大きくなる傾向があることが分かる。
【0023】
図4(A)乃至(D)は、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2と感度温度特性の関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。温度係数TCRは、(A)が500(ppm/℃)、(B)が200(ppm/℃)、(C)が100(ppm/℃)、(D)が 0 (ppm/℃)である。図4において、縦軸は感度温度特性の変化率(%)、横軸は温度(℃)であって、菱形は温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2を有しないブリッジ回路、正方形は本実施形態のブリッジ回路11であるが、グラフは重なっている。このグラフによれば、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の有無にかかわらず、特性が一定であること、つまり、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは感度温度特性には影響を与えないことが分かる。
【0024】
図5(A)乃至(C)は、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の値と温度特性変化の関係を異なる圧力毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図であって、(A)は圧力26(kPa)の場合、(B)は68(kPa)の場合、(C)は110(kPa)の場合である。図5の各グラフにおいて、縦軸はオフセット温度特性の変化率(%)、横軸は温度(℃)であって、温度係数TCRは、菱形が1500(ppm/℃)、正方形が800(ppm/℃)、三角形が500(ppm/℃)、X印が200(ppm/℃)、*印が0(ppm/℃)、黒丸が-200(ppm/℃)、+印が-500(ppm/℃)、−印が-800(ppm/℃)である。
【0025】
このシミュレーション結果から、温度補償特性TCRは、0(ppm/℃)のときに温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2が無い場合と同じ特性となること、及び各圧力毎に、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の最適温度係数TCRがあることが分かる。
【0026】
図6には、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRとオフセット温度特性の変化レンジとの関係をシミュレーションした結果をグラフで示した図である。図6において、縦軸はオフセット温度特性の変化レンジ(%、パーセント)、横軸は温度係数TCR(ppm/℃)であって、菱形は圧力26(kPa)の場合、正方形は圧力68(kPa)の場合、三角形は圧力110(kPa)の場合のシミュレーション結果である。
【0027】
このシミュレーション結果から、このブリッジ回路11における温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRは、0乃至200(ppm/℃)が最適であることが分かる。したがって、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の温度係数TCRの値は、ブリッジ回路11の仕様に応じて変動するが、前記シミュレーションによって設定することができる。
【0028】
温度係数TCRは、0乃至200(ppm/℃)を満足する温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2の材料、組成及び構造に関する実施例を表1に示した。これらの実施例1乃至9は、NiFeCr(ニッケル、鉄、クロム)と、Ta(タンタル)又はTaN(窒化タンタル)により二層薄膜構造とし、抵抗値Rs及び温度係数TCRを測定した。なお、各実施例1乃至9は、スパッタリング装置、真空蒸着装置等による薄膜形成工程によって二層に製造される。
【0029】
表1において、温度係数TCRは、雰囲気温度85℃と25℃における測定結果から下記式によって求めている。
TCR [ppm/℃]=[R(85℃)-R(25℃)]/[R(25℃)×(85℃-25℃)]×1000000
但し、R(85℃)は雰囲気温度85℃のときの抵抗値、R(25℃)は雰囲気温度25℃のときの抵抗値である。
NiFeCrの組成比は、NiとFeの比が0.8:0.2のNiFeが60at%と、Crが40at%である。つまり、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8、y=40at%である。
【表1】
【0030】
実施例1乃至5は、NiFeCr層上にTa層を積層しており(図7(A))、実施例6はTa層上にNiFeCr層を積層し(図7(B))、実施例7乃至実施例9は、NiFeCr層上にTaN層を積層している(図7(A))。なお、図7(C)のように、NiFeCr層の上下にTa層又はTaN層を積層してもよい。また、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2と直列抵抗素子R1、R4、直列抵抗素子R2、R3を導通する導電層17は、例えばAlで形成される。
実施例7乃至9は、Taによる薄膜を形成するスパッタリング工程において、アルゴンArに対して窒素N2をそれぞれ、3体積パーセント(Vol%)、6体積パーセント(Vol%)、8体積パーセント(Vol%)加えて、TaN層を形成してある。
実施例2、5の結果から、これらの実施例において、NiFeCr層とTa層又はTaN層の積層順は問わず、いずれを下層に形成してもよいことが分かる。
【0031】
図8には、Ta層の厚さ(膜厚)を一定とし、NiFeCr層の厚さ(膜厚)変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示し、図9にはNiFeCr層の厚さ(膜厚)を一定とし、Ta層の厚さ(膜厚)を変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した。図8では、NiFeCr層の厚さを、41.5(nm)、43.5(nm)、45.5(nm)に設定し、図9ではTa層の厚さを、41.5(nm)、43.5(nm)、45.5(nm)に設定してある。各図において、横軸は膜厚、縦軸はシート抵抗Rs(Ω/□)、温度係数TCR(ppm/℃)である。
【0032】
図8及び図9のグラフでは、シート抵抗Rsの値は膜厚が増加すると、いずれの場合も減少するが、温度係数TCRはNiFeCr層の厚さ増加で増加傾向となり、Ta層の厚さ増加で減少傾向となっている。つまり温度係数TCRに対してはNiFeCrはプラスの効果、Taはマイナスの効果があることが分かる。
【0033】
図8及び図9の測定結果及び実施例1乃至9から、NiFeCr層の厚さとTa層の厚さを適切な膜厚とすることで、シート抵抗Rsと温度係数TCRを回路に合わせた所望の値に容易に設定可能であることが分かる。
【0034】
またNiFeCrの組成については、組成式 (NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%になる範囲で設定すればよい。より好ましい範囲は、x=0.8〜1、y=35〜42at%である。なお、xが0.3〜1の下限を下回る(30at%未満になる)と、Feの割合が多くなり、錆びやすくなるという問題が生じる。
【0035】
一方、Taについては、窒化物のTaNとすれば、Nの添加量を増やすことでTCRのマイナス側寄与を大きくできるので、温度係数TCRの調整幅を大きくすることができる。
単層のNiCr又はNiFeCrを組成調整のみでTCRを改善することはばらつきが大きくなる。本発明は、積層して各層の膜厚を調整することでばらつきを吸収し、目的のTCRに設定することが容易になる。
【0036】
図示したブリッジ回路の場合、温度特性調整用抵抗素子dR4、dR2は、2組の直列抵抗素子R1、R4と直列抵抗素子R2、R3の中点を挟んだ対角位置であれば、いずれの対角位置に配置してもよい。図示実施形態では感応抵抗素子として圧力に感応する感応抵抗素子を使用したが、本発明は、加速度、磁場、磁気等他の物理量に感応する感応抵抗素子、例えば磁気抵抗効果素子を使用したブリッジ回路に適用することもできる。
同実施形態は定電流電源を使用したブリッジ回路であるが、本発明は、定電圧電源を使用したブリッジ回路にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の出力電圧オフセット調整回路を適用したブリッジ回路の一実施形を示す回路図である。
【図2】同実施形態のブリッジ回路によりオフセットされたセンサ出力、増幅後出力と圧力との関係をグラフで示す図であって、(A)はセンサ出力と圧力、(B)は増幅後の出力電圧と圧力との関係を示す図である。
【図3】(A)乃至(D)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して、圧力(kPa)と出力電圧(Vout1-Vout2)との関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図4】(A)乃至(D)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して、温度特性調整用抵抗素子と感度温度特性の関係を異なる温度係数TCR毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図5】(A)乃至(C)は、同実施形態のブリッジ回路を使用して温度特性調整用抵抗素子の値と温度特性変化の関係を異なる圧力毎にシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図6】同実施形態のブリッジ回路を使用して、温度特性調整用抵抗素子の温度係数TCRとオフセット温度特性の変化レンジとの関係をシミュレーションした結果をグラフで示した図である。
【図7】同実施形態のブリッジ回路において、温度調整用抵抗素子部分を縦断して示した断面図である。
【図8】同実施形態の温度特性調整用抵抗素子を、Ta層の厚さ(膜厚)を一定としてNiFeCr層の厚さ(膜厚)変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した図である。
【図9】同実施形態の温度特性調整用抵抗素子を、NiFeCr層の厚さ(膜厚)を一定とし、Ta層の厚さ(膜厚)を変えた場合のシート抵抗Rsと温度係数TCRの変化をグラフにして示した図である。
【図10】従来のブリッジ回路の回路図である。
【図11】同従来のブリッジ回路によるセンサ出力、増幅後出力と圧力との関係をグラフで示す図であって、(A)はセンサ出力と圧力、(B)は増幅後出力と圧力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
11 ブリッジ回路
13 定電流電源
15 オペアンプ(差動増幅器)
R1 R4 直列抵抗素子
R2 R3 直列抵抗素子
dR4 dR2 温度特性調整用抵抗素子
Vout1 Vout2 中点電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、
前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、
前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、
前記温度特性調整抵抗素子が、Ni、又はNiFeとCrとからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層を含む積層構造であることを特徴とするブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項2】
請求項1記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%の範囲で設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項3】
請求項1記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8〜1、 y=35〜42at%の範囲で設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、前記温度特性調整抵抗素子の温度係数は、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層の厚さと、Ta又はTaNからなる薄膜層の厚さによって設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項1】
電源入力端子と接地端子との間に、感応抵抗素子が直列接続された直列抵抗素子が二組並列に接続され、各直列抵抗素子の中点の電圧が中点電圧として取り出され、
前記中点電圧差の中央値が前記差動増幅器の出力レンジの中央値となるようにオフセットする温度特性調整抵抗素子が、前記各直列抵抗素子の前記各中点を挟んだ対角位置に、各直列抵抗素子と直列となるように配置され、
前記各温度特性調整抵抗素子の温度係数を、前記直列抵抗素子の温度係数よりも小さく設定された、ブリッジ回路の出力電圧オフセット調整回路であって、
前記温度特性調整抵抗素子が、Ni、又はNiFeとCrとからなる薄膜層と、Ta又はTaNからなる薄膜層を含む積層構造であることを特徴とするブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項2】
請求項1記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.3〜1、y=20〜45at%の範囲で設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項3】
請求項1記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、NiFeCrの組成比は、組成式、(NixFe(1-x))(100-y)Cry において、x=0.8〜1、 y=35〜42at%の範囲で設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載のブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路において、前記温度特性調整抵抗素子の温度係数は、Ni、Fe及びCrからなる薄膜層の厚さと、Ta又はTaNからなる薄膜層の厚さによって設定されているブリッジ回路出力電圧のオフセット調整回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−2231(P2011−2231A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271745(P2007−271745)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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