説明

ブレーキディスクとその表面改質方法及びブレーキディスクの表面改質装置

【課題】耐熱性と強度に優れ表面改質が容易で安価であり再使用することができるブレーキディスクとその表面改質方法及びブレーキディスクの表面改質装置を提供する。
【解決手段】粗面化処理層6cは、ディスク本体6の表層を粗面化処理して形成された処理層であり、ブラスト処理によってディスク本体6の表層に形成されている。金属結合層7は、ディスク表面6aを金属によって被覆した被覆層であり、ディスク本体6とセラミックス被覆層8とを結合させる。金属結合層7は、ディスク本体6側の金属と化学成分が類似する特性の金属によってディスク表面6aを被覆している。セラミックス被覆層8は、金属結合層7の表面をセラミックスによって被覆した被覆層であり、ジルコニアなどのセラミックスを金属結合層7の表面に溶射して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディスク本体の表面が改質されたブレーキディスクとその表面改質方法及びブレーキディスクの表面改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新幹線などの鉄道車両には、ブレーキディスクに制輪子を圧着させてブレーキ力を得るディスクブレーキ装置が搭載されており、このようなブレーキディスクには優れた熱伝導性、耐摩耗性及び耐熱性が要求されている。このため、従来のブレーキディスクは、例えば、ディスク本体の裏面の放熱用フィンの形状や数を変更したり、ディスク形状を二分割構造から一体構造に変化させたり、ディスク素材自体を鋳鉄から鋳鉄と鍛鋼とのクラッド構造や鍛造品に変更したりして、熱伝導性、耐摩耗性及び耐熱性を向上させている。
【0003】
従来のブレーキディスク(従来技術1)は、ディスク本体の裏面に多数の放熱用フィンを形成している(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、摩擦面の過大な発熱による熱膨張をディスク本体の厚さ方向に逃がし、ディスク本体の周方向の熱応力を緩和してクラックや変形の発生を防止している。また、従来のブレーキディスク(従来技術2)は、周方向にディスク本体を二分割して分割面で突き合わせ、半径方向に移動可能なように固定している(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、ディスク本体が摩擦熱によって膨張しても、分割されたディスク本体が径方向に移動可能であるため、ディスク本体との結合部分に無理な力が加わるのを防止している。また、従来のブレーキディスク(従来技術3)は、アルミニウム合金を鍛造又は鋳造して成形したディスク本体を鋳型内に設置して予熱し、アルミニウム又はアルミニウム合金にセラミックス粒子又はセラミックス繊維を分散させた複合材料の溶湯をこのディスク本体の摩擦面に流し込み一体化鍛造して製造されている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、アルミニウム合金によってディスク本体を成形することによって軽量化を図るとともに、複合材料によって耐摩耗性を向上させている。さらに、従来のブレーキディスク(従来技術4)は、アルミニウム合金からなるディスク本体の表面にめっき又は溶射によって摩擦面となる硬化層が形成されている(例えば、特許文献4参照)。この従来技術4では、ディスク本体の表面をショットピーニング処理した後に溶射又はめっきにより硬化層を形成して耐摩耗性を高めている。この従来技術4では、ショットピーニング処理することによってディスク本体の表面に凹凸面を形成し、この凹凸面と硬化層との固着面積を増加させこれらの結合度を向上させている。
【0004】
【特許文献1】特開2000-170805号公報
【0005】
【特許文献2】特開2003-130102号公報
【0006】
【特許文献3】特開平10-89389号公報
【0007】
【特許文献4】特開2002-61685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
新幹線電車用のブレーキディスクには、強度、耐摩耗性の他に、耐熱疲労性及ぶ耐熱衝撃性が重要であり、今後の高速ブレーキディスク用の素材開発には、強度及び破壊靭性を確保しながら、耐熱疲労性や耐熱衝撃性のバランスの取れた設計が必要になる。しかし、従来技術1では、ディスク本体の裏面に多数の放熱用フィンを形成する必要があるため、特別の金型を製作する必要がありコストが高くなる問題点があった。また、従来技術2では、径方向に移動可能なようにディスク本体を分割構造にする必要があり、製造や組立に手間がかかる問題点があった。また、従来技術3では、ディスク本体と複合材料とを熱間鍛造などによって一体化する必要があり、製造工程が複雑になり製造に手間がかかる問題点があった。さらに、従来技術4では、ディスク本体の表面に鉄などを溶射又はめっきして硬化層を形成しているため、高速で走行する新幹線などの鉄道車両に使用した場合には硬化層とディスク本体との結合状態を長時間維持できない問題点があった。
【0009】
この発明の課題は、耐熱性と強度に優れ表面改質が容易で安価であり再使用することができるブレーキディスクとその表面改質方法及びブレーキディスクの表面改質装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図10及び図13に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)が改質されたブレーキディスクであって、前記ディスク本体の表面を被覆するセラミックス被覆層(8)を備えることを特徴とするブレーキディスク(5)である。
【0011】
請求項2の発明は、図4及び図7に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)が改質されたブレーキディスクであって、前記ディスク本体の表面を被覆する金属結合層(7)と、前記金属結合層の表面を被覆するセラミックス被覆層(8)とを備え、前記金属結合層は、前記ディスク本体と前記セラミックス層とを結合させることを特徴とするブレーキディスク(5)である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2に記載のブレーキディスクにおいて、前記金属結合層は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆することを特徴とするブレーキディスクである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3に記載のブレーキディスクにおいて、前記金属結合層は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆することを特徴とするブレーキディスクである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、前記金属結合層は、前記ディスク本体の表面に金属を溶射して形成されていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、前記セラミックス被覆層は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にセラミックスを溶射して形成されていることを特徴としているブレーキディスクである。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、前記セラミックス被覆層は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にジルコニアを溶射して形成されていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、図4及び図10に示すように、前記ディスク本体の表層に粗面化処理された粗面化処理層(6c)が形成されていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0018】
請求項9の発明は、請求項8に記載のブレーキディスクにおいて、前記粗面化処理層は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層に形成されていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0019】
請求項10の発明は、図11、図12及び図14に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)を改質するブレーキディスク(5)の表面改質方法であって、前記ディスク本体の表面をセラミックス被覆層(8)によって被覆するセラミックス被覆工程(#130)を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法(#100)である。
【0020】
請求項11の発明は、図5、図6、図8及び図9に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)を改質するブレーキディスク(5)の表面改質方法であって、前記ディスク本体の表面を金属結合層(7)によって被覆する金属被覆工程(#120)と、前記金属結合層の表面をセラミックス被覆層(8)によって被覆するセラミックス被覆工程(#130)とを含み、前記金属被覆工程は、前記ディスク本体と前記セラミックス層とを前記金属結合層によって結合させる工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法(#100)である。
【0021】
請求項12の発明は、請求項11に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記金属被覆工程は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0022】
請求項13の発明は、請求項11又は請求項12に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記金属被覆工程は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0023】
請求項14の発明は、請求項11から請求項13までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記金属被覆工程は、前記ディスク本体の表面を金属の溶射によって被覆する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0024】
請求項15の発明は、請求項10から請求項14までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記セラミックス被覆工程は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にセラミックスを溶射して被覆する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0025】
請求項16の発明は、請求項10から請求項15までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記セラミックス被覆工程は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にジルコニアを溶射して被覆する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0026】
請求項17の発明は、請求項10から請求項16までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、図5、図6、図11及び図12に示すように、前記ディスク本体の表層を粗面化処理する粗面化処理工程(#110)を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0027】
請求項18の発明は、請求項17に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、前記粗面化処理工程は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層を粗面化処理する工程を含むことを特徴とするブレーキディスクの表面改質方法である。
【0028】
請求項19の発明は、図15及び図16に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)を改質するブレーキディスク(5)の表面改質装置であって、前記ディスク本体の表面をセラミックス被覆層(8)によって被覆する被覆装置(13)と、前記被覆装置の動作条件を設定する設定装置(16)と、前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御する制御装置(17)とを備えるブレーキディスクの表面改質装置(11)である。
【0029】
請求項20の発明は、図15及び図16に示すように、ディスク本体(6)の表面(6a)を改質するブレーキディスク(5)の表面改質装置であって、前記ディスク本体の表面を金属結合層(7)によって被覆するとともに、この金属結合層の表面をセラミックス被覆層(8)によって被覆する被覆装置(13)と、前記被覆装置の動作条件を設定する設定装置(16)と、前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御する制御装置(17)とを備えるブレーキディスクの表面改質装置(11)である。
【0030】
請求項21の発明は、請求項20に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記被覆装置は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0031】
請求項22の発明は、請求項20又は請求項21に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記被覆装置は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0032】
請求項23の発明は、請求項20から請求項22までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面に前記金属を溶射することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0033】
請求項24の発明は、請求項19から請求項23までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面又は前記金属の表面にセラミックスを溶射することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0034】
請求項25の発明は、請求項19から請求項24までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面又は前記金属の表面にジルコニアを溶射することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0035】
請求項26の発明は、請求項19から請求項25までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記ディスク本体の表層を粗面化処理する粗面化処理装置(12)を備え、前記設定装置は、前記粗面化処理装置の動作条件を設定し、前記制御装置は、前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【0036】
請求項27の発明は、請求項26に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、前記粗面化処理装置は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層を粗面化処理することを特徴とするブレーキディスクの表面改質装置である。
【発明の効果】
【0037】
この発明によると、耐熱性と強度に優れ表面改質が容易で安価であり再使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクを備える車輪の縦断面図である。図2は、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの平面図である。図3は、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。図4は、図3のIV部分を拡大して示す断面図である。以下では、新幹線などの鉄道車両のディスクブレーキ装置を例に挙げて説明する。
【0039】
図1に示す車輪1は、鉄道用レールと回転接触する鉄道用車輪であり、リム部1aと、ボス部1bと、板部1cとを備えている。リム部1aは、車輪1の外周部であり、レール頭頂面と接触して摩擦抵抗を受ける踏面1dと、脱輪を防止するために車輪1の外周に連続して形成されたフランジ1eとを備えている。ボス部1bは、車輪1の中心部であり、車軸が圧入される貫通孔1fと、締結ボルト4aが挿入される貫通孔1gとを備えている。板部1cは、リム部1aとボス部1bとの間の中間部である。図1に示す車輪1は、高炭素鋼を圧延してタイヤと輪心とが一体に製造される一体圧延車輪であり、ブレーキディスク5を板部1cの両側面に取り付けたディスク付き車輪である。
【0040】
ディスクブレーキ装置2は、ブレーキディスク5の摩擦面5aに発生する摩擦力によって制動させる装置であり、ブレーキシリンダが発生する駆動力をブレーキてこ機構によって制輪子3に伝達して摩擦面5aに制輪子3を圧着させブレーキ力を発生させる。図1に示すディスクブレーキ装置2は、板部1cの両側面にブレーキディスク5が取り付けられた車輪付きディスクブレーキ装置である。ディスクブレーキ装置2は、図1に示すように、制輪子3と、固定部材4と、ブレーキディスク5などを備えている。
【0041】
制輪子3は、ブレーキディスク5の摩擦面5aに押し付けられてブレーキ力を発生する摩擦材であり、ブレーキ機構部によって駆動されて摩擦面5aと接触及び離間する。制輪子3は、例えば、耐熱性が高く湿潤条件下で適度な増粘着効果がある焼結合金制輪子であり、ブレーキディスク5の摩擦面5aと接触する側の表面にブレーキライニングが装着されている。
【0042】
固定部材4は、ブレーキディスク5を車輪1に固定する部材であり、車輪1及びブレーキディスク5の周方向に所定の間隔をあけて配置されている。固定部材4は、図1に示すように、貫通孔1g及び貫通孔6eに挿入される締結ボルト4aと、この締結ボルト4aと噛み合う締結ナット4bなどを備えている。
【0043】
ブレーキディスク5は、ディスク表面6aが改質された部材であり、制動時(ブレーキ時)に制輪子3が摩擦面5aに押し付けられる円板状の摩擦材である。図1〜図3に示すブレーキディスク5は、車輪1の板部1cの両側面に取り付けられる車輪側ディスクである。ブレーキディスク5は、例えば、車輪径が910mmの新幹線用車輪側ディスクの場合には外径が725mm程度であり、内径が295mm程度であり、板厚が18mm程度である。ブレーキディスク5は、図4に示すように、ディスク本体6と、金属結合層7と、セラミックス被覆層8などを備えている。
【0044】
図4に示すディスク本体6は、ブレーキディスク5の本体部分を構成する部材(基材)である。ディスク本体6の材質としては、例えば、熱伝導性及び耐摩耗性からパーライト鋳鉄が好ましく、新幹線用ではNi-Cr-Mo鋼のような耐熱性の低合金鋳鉄材が使用され、高速新幹線用では一体形低合金鍛鋼材が使用される。ディスク本体6は、図4に示すディスク表面6aと、図3及び図4に示すディスク裏面6bと、図4に示す粗面化処理層6cと、図1及び図3に示すフィン部6dと、図2及び図3に示す貫通孔6eなどを備えている。図4に示すディスク表面6aは、制輪子3と対向する側に形成された面であり、図3及び図4に示すディスク裏面6bは車輪1の板部1cと対向する側の面である。
【0045】
図4に示す粗面化処理層6cは、ディスク本体6の表層を粗面化処理して形成された処理層であり、ブラスト処理によってディスク本体6の表層に形成されている。粗面化処理層6cは、例えば、現場での取扱が容易で安価なアルミナ、シリカ又はこれらの混合物などの無機質素材粒子からなるブラスト粒子をディスク表面6aに所定の圧力で噴射して形成されており、粗面化処理層6cには圧縮残留応力が付与されている。粗面化処理層6cは、ディスク表面6aの酸化物や汚れを除去するとともに、ディスク表面6aに対する金属結合層7の密着性を向上させるためにディスク表面6aに形成される。
【0046】
図1及び図3に示すフィン部6dは、制動時に発生する熱を放熱させるための冷却用の放熱部である。フィン部6dは、図3に示すディスク裏面6bの放熱面積が大きくなるように、このディスク裏面6bに鍛造などによって放射状に多数形成されている。フィン部6dの先端部は、図1に示すように、板部1cに接触しており、制輪子3が摩擦面5aに押し付けられたときに、ブレーキディスク5が板部1c側に移動して制輪子3と摩擦面5aとの間の摩擦力が低下するのを防いでいる。図2及び図3に示す貫通孔6eは、締結ボルト4aが挿入される孔であり、図2に示すようにブレーキディスク5の周方向に所定の間隔をあけて形成されている。
【0047】
図4に示す金属結合層7は、ディスク表面6aを金属によって被覆した被覆層であり、ディスク本体6とセラミックス被覆層8とを結合させるために、ディスク表面6aとセラミックス被覆層8との間に形成されている。金属結合層7は、ディスク本体6側の金属と化学成分が類似する特性の金属によってディスク表面6aを被覆しており、例えばNi-Co-Cr-Al-Y合金などのニッケル系金属によってディスク表面6aを被覆している。金属結合層7は、ディスク表面6aに金属を溶射して形成されており、ニッケル系金属などの溶射材料を溶融させてディスク表面6a(粗面化処理層6cの表面)に吹き付けて付着させた皮膜である。
【0048】
セラミックス被覆層8は、金属結合層7の表面をセラミックスによって被覆した被覆層である。セラミックス被覆層8は、例えば、耐熱性及び靭性に優れたジルコニアなどのセラミックスを金属結合層7の表面に溶射して形成されている。セラミックス被覆層8は、ジルコニアなどの溶射材料を溶融させて金属結合層7の表面に吹き付けて付着させた皮膜である。セラミックス被覆層8は、制動時に発生する熱がディスク本体6側に伝わるのを抑制することによって、このディスク本体6に熱による微小亀裂が発生するのを抑制し、耐熱亀裂特性を向上させている。セラミックス被覆層8の表面は、ブレーキディスク5の摩擦面5aであり、制輪子3と接触することによって摩擦力が作用するしゅう動面(ブレーキ面)である。
【0049】
次に、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法について説明する。
図5は、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。図6は、この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、図6(A)は粗面化処理工程の模式図であり、図6(B)は金属被覆工程の模式図であり、図6(C)はセラミックス被覆工程の模式図である。
【0050】
図5に示す表面改質方法#100は、ディスク表面6aを改質する方法であり、粗面化処理工程#110と、金属被覆工程#120と、セラミックス被覆工程#130とを含む。粗面化処理工程#110は、ディスク本体6の表層を粗面化処理する工程であり、図6(A)に示すようにブラスト処理によってディスク本体6の表層を粗面化処理する。図6(A)に示すブラスト装置9は、ブラスト粒子9aを圧縮気体によってディスク表面6aに吹き付けてこのディスク表面6aを粗面化する装置である。この粗面化処理工程#110では、アルミナなどの無機質素材粒子をディスク表面6aにブラスト装置9によって吹き付けてディスク本体6の表層に粗面化処理層6cが形成される。
【0051】
図5に示す金属被覆工程#120は、ディスク表面6aを金属結合層7によって被覆する工程であり、図6(C)に示すようにディスク本体6とセラミックス層8とを金属結合層7によって結合させる。図6(B)(C)に示す溶射装置10は、溶射材料10a,10bを溶融させてディスク表面6aに吹き付けて付着させる装置である。この金属被覆工程#120では、図6(B)に示すように、ディスク本体6側の金属と化学成分が類似する特性の金属(例えばニッケル系金属)からなる溶射材料10aをディスク表面6aに溶射装置10によって吹き付けてディスク表面6aを金属結合層7によって被覆する。
【0052】
図5に示すセラミックス被覆工程#130は、金属結合層7の表面をセラミックス被膜層8によって被覆する工程である。このセラミックス被覆工程#130では、図6(C)に示すように、ジルコニアなどの溶射材料10bを金属結合層7の表面に溶射装置10によって吹き付けて金属結合層7の表面をセラミックス被覆層8によって被覆する。
【0053】
この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクとその表面改質方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、ディスク表面6aを金属結合層7が被覆し、この金属結合層7の表面をセラミックス被覆層8が被覆し、ディスク本体6とセラミックス層8とを金属結合層7が結合させている。その結果、耐熱性を有し遮熱作用が高いセラミックス層8が摩擦を受けるため、制動時に摩擦面5aに発生する熱がディスク本体6側に伝わるのを抑えることができる。また、金属結合層7が中間層となるため熱膨張を緩和し熱疲労を低減することができる。このため、ディスク本体6には殆ど熱影響がなく、ディスク本体6に亀裂が発生するのを抑え、厳しい熱環境化であっても強度を維持することができる。
【0054】
(2) この第1実施形態では、ディスク本体6側の金属と化学成分が類似する特性の金属によってディスク表面6aを金属結合層7が被覆する。このため、セラミックス被覆層8とディスク表面6aとの密着性を向上させることができる。
【0055】
(3) この第1実施形態では、ニッケル系金属によってディスク表面6aを金属結合層7が被覆する。このため、例えば、ディスク本体6がニッケル系金属である場合には、ディスク本体6と金属結合層7との密着性が向上し、ディスク本体6とセラミックス被覆層8とを金属結合層7を介して強固に結合することができる。
【0056】
(4) この第1実施形態では、ディスク表面6aに金属を溶射して金属結合層7が形成されている。また、この第1実施形態では、金属結合層7の表面にセラミックスを溶射してセラミックス被覆層8が形成されている。このため、安価で簡単な構造のスプレー方式の溶射装置10などを利用して、金属結合層7及びセラミックス被覆層8を簡単に形成することができ、ブレーキディスク5を現場で容易に表面改質することができる。また、市販の溶射装置10からなる現状の表面改質設備を利用可能であるため、特別な溶射装置などの新規設備を開発する必要がなくなり、ブレーキディスク5を低コストで表面改質することができる。さらに、金属結合層7及びセラミックス被覆層8を溶射によって形成するため、金属結合層7及びセラミックス被覆層8が剥離したときには短時間で簡単に補修可能であり、何度も保守を繰り返すことによって、ブレーキディスク5を長期間わたり再使用することができる。
【0057】
(5) この第1実施形態では、金属結合層7の表面にジルコニアを溶射してセラミックス被覆層8が形成されている。その結果、セラミックス被覆層8の耐熱性を向上させることができるため、制動時に発生する熱がディスク本体6に伝わるのを抑えることができる。
【0058】
(6) この第1実施形態では、ディスク本体6の表層に粗面化処理された粗面化処理層6cが形成されている。このため、ディスク表面6aから酸化物や汚れが除去されて、ディスク表面6aに金属を溶射しやすい状態にすることができるとともに、ディスク表面6aと金属結合層7との密着性を向上させることができる。
【0059】
(7) この第1実施形態では、ブラスト処理によってディスク本体6の表層に粗面化処理層6cが形成されている。このため、既存の安価なブラスト装置9を利用して、ディスク本体6の表層を簡単に粗面化処理することができる。
【0060】
(第2実施形態)
図7は、この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。図8は、この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。図9は、この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、図9(A)は金属被覆工程の模式図であり、図9(B)はセラミックス被覆工程の模式図である。以下では、図4及び図6に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略し、図5に示す工程と同一の工程については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
図7に示すブレーキディスク5は、図4に示す粗面化処理層6cを備えておらず、ディスク表面6aを被覆する金属結合層7と、この金属結合層7の表面を被覆するセラミックス被覆層8とを備えている。図8に示す表面改質方法#100は、図5に示す粗面化処理工程#110を省略しており、図9(A)に示すようにディスク本体6の表面を金属結合層7によって被覆する金属被覆工程#120と、図9(B)に示すように金属結合層7の表面をセラミックス被膜層8によって被覆するセラミックス被覆工程#130とを含む。この第2実施形態では、粗面化処理層6cが省略されているため、第1実施形態に比べてより一層短時間にブレーキディスク5を表面改質することができる。
【0062】
(第3実施形態)
図10は、この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。図11は、この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。図12は、この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、図12(A)は粗面化処理工程の模式図であり、図12(B)はセラミックス被覆工程の模式図である。
【0063】
図10に示すブレーキディスク5は、図4及び図7に示す金属結合層7を備えておらず、ディスク表面6aを被覆するセラミックス被覆層8を備えている。図11に示す表面改質方法#100は、図5及び図8に示す金属被覆工程#120を省略しており、図12(A)に示すようにディスク本体6の表層を粗面化処理する粗面化処理工程#110と、図12(B)に示すようにディスク表面6aをセラミックス被膜層8によって被覆するセラミックス被覆工程#130とを含む。この第3実施形態では、金属被覆工程#120が省略されているため、第1実施形態に比べてより一層短時間にブレーキディスク5を表面改質することができる。
【0064】
(第4実施形態)
図13は、この発明の第4実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。図14は、この発明の第4実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図である。
図13に示すブレーキディスク5は、図4及び図10に示す粗面化処理層6cと、図4及び図7に示す金属結合層7とを備えておらず、図14に示すようにディスク表面6aを被覆するセラミックス被覆層8を備えている。セラミックス被覆層8は、図14に示すように、ディスク表面6aにジルコニアなどのセラミックスを溶射して形成されている。この第4実施形態では、図5及び図11に示す粗面化処理工程#110と、図5及び図8に示す金属被覆工程#120とが省略されているため、第1実施形態〜第3実施形態に比べてより一層短時間にブレーキディスク5を表面改質することができる。
【0065】
(第5実施形態)
図15は、この発明の第5実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置を概略的に示す模式図である。
図15に示す表面改質装置11は、ディスク表面6aを改質する装置であり、粗面化処理装置12と、被覆装置13と、駆動装置14,15と、設定装置16と、制御装置17などを備えている。粗面化処理装置12は、ディスク本体6の表層を粗面化処理する装置であり、ブラスト粒子9aをディスク表面6aに噴射するブラスト処理によってディスク本体6の表層を粗面化処理し、図6(A)及び図12(A)に示すようにディスク表面6aの表層に粗面化処理層6cを形成する。
【0066】
被覆装置13は、図4及び図7に示すように、ディスク表面6aを金属結合層7によって被覆するとともに、この金属結合層7の表面をセラミックス被覆層8によって被覆する装置である。被覆装置13は、ディスク本体6側の金属と化学成分が類似する特性の金属(例えばニッケル系金属)によってディスク表面6aを被覆するとともに、金属結合層7の表面をセラミックス(例えばジルコニア)によって被覆する。また、被覆装置13は、図10及び図13に示すように、ディスク表面6aをセラミックス被覆層8によって被覆する。被覆装置13は、図4及び図7に示すようにディスク表面6aに溶射材料10aを溶射して金属結合層7を形成するとともにこの金属結合層7の表面に溶射材料10bを溶射してセラミックス被覆層8を形成したり、図10及び図13に示すようにディスク表面6aに溶射材料10bを溶射してセラミックス被覆層8を形成したりする。
【0067】
駆動装置14は、粗面化処理装置12及び被覆装置13を駆動する装置であり、ディスク表面6aに沿ってディスク本体6の径方向に粗面化処理装置12及び被覆装置13を駆動するモータなどを備えている。駆動装置15は、ディスク本体6を駆動する装置であり、ディスク本体6の中心を回転中心としてこのディスク本体6を回転するモータなどを備えている。設定装置16は、粗面化処理装置12、被覆装置13及び駆動装置14,15の動作条件を設定する装置である。設定装置16は、粗面化処理装置12がブラスト粒子9aを噴射するときの噴射圧力及び噴射時間などの動作条件を設定したり、被覆装置13が溶射材料10a,10bを噴射するときの溶射距離及び膜厚などの動作条件を設定したり、駆動装置14が粗面化処理装置12及び被覆装置13を駆動するときの駆動速度などの動作条件を設定したり、駆動装置15がディスク本体6を回転駆動するときの駆動速度などの動作条件を設定したりするための入力装置などを備えている。制御装置17は、表面改質装置11の種々の動作を制御する装置であり、設定装置16によって設定された動作条件に基づいて、粗面化処理装置12、被覆装置13及び駆動装置14,15の動作を制御する。
【0068】
次に、この発明の第5実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置の動作を説明する。以下では、図4に示すように、粗面化処理層6c、金属結合層7及びセラミックス被覆層8をディスク本体6に形成する場合を例に挙げて説明する。
図15に示す設定装置16によって動作条件が設定されると、この動作条件に従って粗面化処理装置12、被覆装置13及び駆動装置14,15を制御装置17が動作させる。その結果、ディスク本体6を駆動装置15が周方向に回転させ、粗面化処理装置12を駆動装置14がディスク表面6aに沿って移動させると、図6(A)に示すように粗面化処理装置12がディスク表面6aにブラスト粒子9aを噴射し、ディスク本体6の表層に粗面化処理層6cが形成される。次に、ディスク本体6を駆動装置15が周方向に回転させながら、被覆装置13を駆動装置14がディスク表面6aに沿って移動させると、図6(B)に示すように被覆装置13がディスク表面6aに溶射材料10aを噴射し、ディスク表面6aに金属結合層7が形成される。最後に、ディスク本体6を駆動装置15が周方向に回転させながら、被覆装置13を駆動装置14がディスク表面6aに沿って移動させると、図6(C)に示すように被覆装置13がディスク表面6aに溶射材料10aを噴射し、金属結合層7の表面にセラミックス被覆層8が形成される。
【0069】
この発明の第5実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第5実施形態では、ディスク表面6aを金属結合層7によって被覆するとともに、この金属結合層7の表面をセラミックス被覆層8によって被覆装置13が被覆し、この被覆装置13の動作条件を設定装置16が設定し、この動作条件に従って被覆装置13の動作を制御装置17が制御する。また、この第5実施形態では、ディスク表面6aをセラミックス被覆層8によって被覆装置13が被覆し、この被覆装置13の動作条件を設定装置16が設定し、この動作条件に従って被覆装置13の動作を制御装置17が制御する。このため、最適な膜厚の金属結合層7やセラミックス被覆層8を自動的に形成して、ブレーキディスク5の耐熱性を向上させることができる。
【0070】
(2) この第5実施形態では、粗面化処理装置12の動作条件を設定装置16が設定し、この動作条件に基づいて被覆装置13の動作を制御装置17が制御する。このため、金属結合層7又はセラミックス被覆層8とディスク本体6とが密着するように、最適な粗さのディスク表面6aを自動的に形成することができる。
【0071】
(第6実施形態)
図16は、この発明の第6実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置を概略的に示す模式図であり、図16(A)は正面図であり、図16(B)は側面図である。以下では、図15に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図16に示す表面改質装置11は、粗面化処理装置12と、被覆装置13と、駆動装置14と、設定装置16と、制御装置17と、駆動装置18などを備えている。表面改質装置11は、左右の車輪1のそれぞれに対応して配置されており、以下では一方の側の表面改質装置11について説明し、他方の側の表面改質装置11については説明を省略する。粗面化処理装置12及び被覆装置13は、図16(B)に示すように、車輪1の両側に装着された左右のブレーキディスク5に対応してそれぞれ配置されている。駆動装置18は、車輪1を駆動させる装置であり、回転体18a,18bと、回転駆動部18cと、昇降駆動部18dとを備えている。回転体18a,18bは、車輪1と回転接触するローラであり、車輪1が転がり接触するレール19のレール端部19aとレール端部19bとの間のレール分断部19cに配置されている。回転駆動部18cは、回転体18a,18bの外周面を車輪1の踏面1dに接触させた状態でこれらの回転体18a,18bを回転駆動させる装置である。昇降駆動部18dは、回転体18a,18bを昇降駆動させる装置であり、車輪1を表面改質するときには回転体18a,18bを上昇させて踏面1dに接触させ、車輪1の表面改質を終了したときには回転体18a,18bを下降させて踏面1dから離間させる。
【0072】
次に、この発明の第6実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置の動作を説明する。以下では、図4に示すように、粗面化処理層6c、金属結合層7及びセラミックス被覆層8をディスク本体6に形成する場合を例に挙げて説明する。
図16に示すように、ディスク本体6を表面改質する場合には、レール19に沿って車輪1が転がりながら移動してレール分断部19cに位置したときに、駆動装置18を動作させる。その結果、昇降駆動部18dが回転体18a,18bを上昇させて車輪1と接触させるとともに、この状態で回転駆動部18cが回転体18a,18bを回転させて車輪1をA方向に回転させる。次に、回転駆動部18cが車輪1を回転させた状態で、図6(A)に示すように粗面化処理装置12がブラスト粒子9aをディスク表面6aに投射し、ディスク本体6の表層に粗面化処理層6cが形成される。次に、回転駆動部18cが車輪1を回転させた状態で、図4(B)に示すように被覆装置13が溶射材料10aをディスク表面6aに噴射し、ディスク表面6aに金属結合層7が形成される。最後に、回転駆動部18cが車輪1を回転させた状態で、図4(C)に示すように被覆装置13が溶射材料10bを金属結合層7の表面に噴射し、この金属結合層7の表面にセラミックス被覆層8が形成される。ブレーキディスク5の表面改質を終了する場合には、図16に示す回転駆動部18cが回転体18a,18bの回転を停止させて昇降駆動部18dが回転体18a,18bを下降させると、車輪1が回転体18a,18bから離間する。表面改質後の車輪1がレール19に沿って転がりながら移動してレール分断部19cから離れると、次の車輪1がレール分断部19cに位置し同様の表面改質処理が繰り返される。
【0073】
この発明の第6実施形態には、第5実施形態の効果に加えて、ブレーキディスク5を車輪1から取り外す作業が不要になり、ディスク本体6を車輪1とともに回転させながらこのディスク表面6aを改質することができる。その結果、一編成当たりに膨大な数になるブレーキディスク5を車両基地などで自動的に表面改質することができ、作業時間が短縮化されるとともに作業負担を軽減することができる。
【実施例】
【0074】
次に、この発明の実施例について説明する。
セラミックスによる最適な被覆手法を検討するために、二種類の被覆材に繰り返し熱衝撃試験及び熱疲労試験を行って特性を比較した。試験に用いた溶射試験材を以下の表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す単層被覆材は、基盤表面にセラミック層を被覆したセラミック層単体被覆による溶射試験材である。二層被覆材は、基盤表面を結合層によって被覆しこの結合層の表面をセラミック層によって被覆した二層被覆(熱遮蔽セラミックコーティング(TBC))による溶射試験材である。基盤は、新幹線電車用の現行品として使用されているNi-Cr-Mo鋼製のブレーキディスクであり、このブレーキディスクを鋸引き及び精密切断機で切出し仕上げ加工を行って、基盤の厚み方向がディスクの断面方向と一致するように作製した。結合層は、表1に示すNi-Co-Cr-Al-Yの溶射材料を基盤表面にプラズマ溶射によって厚さ50μm形成し、セラミック層はZrO2-8mass%Y2O3の溶射材料を結合層の表面にプラズマ溶射によって厚さ300mm形成した。
【0077】
図17は、この発明の実施例に係る二層被覆材の断面の画像である。
図17に示す画像は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM))による拡大写真であり、セラミック層(Ceramic Layer)が溶射材独特の多孔質組織であり、界面の凹凸の大きな構造であることがこの画像から確認された。また、溶射の利点である結合層(Bond Layer)と基盤(Substrate)との密着性が良いことが確認された。
【0078】
図18は、この発明の実施例に係る二層被覆材及び単層被覆材の最大加熱温度と損傷発生までの繰り返し数との関係を示すグラフであり、図18(A)は二層被覆材の試験結果であり、図18(B)は単層被覆材の試験結果である。
図18に示す縦軸は、損傷発生までの繰り返し数(回)であり、横軸は最大加熱温度(K)である。繰り返し熱衝撃試験は、最大加熱温度まで加熱し、600sec保持後に水中に急冷する過程を1サイクルとして繰り返し与えた。繰り返し熱疲労試験は、加熱保持後に空冷及び炉冷で冷却する過程を1サイクルとして与えた。特性は、損傷発生までの繰り返し数で評価し、損傷発生までの繰り返し数はセラミック層の表面に目視寸法の割れ発生が認められるまでの回数とした。
【0079】
図18に示すように、損傷発生までの繰り返し数は、結合層の有無で比較すると約2〜5倍異なることが確認された。例えば、ブレーキディスクの負荷時における最大瞬間温度である1023Kで比較すると、二層被覆材は単層被覆材に比べて5倍程度改善することが確認された。また、セラミック層及び結合層を剥離した後の基盤に亀裂の発生は認められなかった。以上より、ブレーキディスクへの適用に対してはセラミック被覆が有効であり、二層被覆を適用することによって熱サイクル性が向上し、さらなる耐熱衝撃性及び耐熱疲労性が向上することが確認された。
【0080】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、鉄道車両のブレーキディスク5を例に挙げて説明したが、自動車、自動二輪車又は自転車などのブレーキディスクについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、粗面化処理としてブラスト処理を例に挙げて説明したが、ショットピーニング処理などについてもこの発明を適用することができる。
【0081】
(2) この実施形態では、金属結合層7をニッケル系金属によって形成する場合を例に挙げて説明したが、クロム系金属によって金属結合層7を形成することもできる。また、この実施形態では、金属結合層7及びセラミックス被覆層8を溶射によって形成する場合を例に挙げて説明したが、溶射以外の被覆方法によってこれらを形成することもできる。
【0082】
(3) この第5実施形態では、粗面化処理装置12及び被覆装置13を駆動装置14によって駆動し、ディスク本体6を駆動装置15によって駆動する場合を例に挙げて説明したが、このような駆動方法に限定するものではない。例えば、粗面化処理装置12及び被覆装置13のみを駆動装置14によってディスク本体6の周方向及び径方向に駆動させたり、ディスク本体6のみを駆動装置14によって周方向及び径方向に駆動させたりすることもできる。また、この第5実施形態及び第6実施形態では、表面改質装置11が粗面化処理装置12を備える場合を例に挙げて説明したが、粗面化処理装置12を省略することもできる。さらに、この第5実施形態及び第6実施形態では、1つの被覆装置13によって金属結合層7及びセラミックス被覆層8を形成しているが、金属被覆用の被覆装置とセラミックス被覆用の被覆装置とをそれぞれ設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクを備える車輪の縦断面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの平面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
【図4】図3のIV部分を拡大して示す断面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、(A)は粗面化処理工程の模式図であり、(B)は金属被覆工程の模式図であり、(C)はセラミックス被覆工程の模式図である。
【図7】この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
【図8】この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。
【図9】この発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、(A)は金属被覆工程の模式図であり、(B)はセラミックス被覆工程の模式図である。
【図10】この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
【図11】この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法の工程図である。
【図12】この発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図であり、(A)は粗面化処理工程の模式図であり、(B)はセラミックス被覆工程の模式図である。
【図13】この発明の第4実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
【図14】この発明の第4実施形態に係るブレーキディスクの表面改質方法を説明するための模式図である。
【図15】この発明の第5実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置を概略的に示す模式図である。
【図16】この発明の第6実施形態に係るブレーキディスクの表面改質装置を概略的に示す模式図であり、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【図17】この発明の実施例に係る二層被覆材の断面の画像である。
【図18】この発明の実施例に係る二層被覆材及び単層被覆材の最大加熱温度と損傷発生までの繰り返し数との関係を示すグラフであり、(A)は二層被覆材の試験結果であり、(B)は単層被覆材の試験結果である。
【符号の説明】
【0084】
1 車輪
2 ディスクブレーキ装置
5 ブレーキディスク
6 ディスク本体
6a ディスク表面
6b ディスク裏面
6c 粗面化処理層
7 金属結合層
8 セラミックス被覆層
9 ブラスト装置
9a ブラスト粒子
10 溶射装置
10a,10b 溶射材料
11 表面改質装置
12 粗面化処理装置
13 被覆装置
14,15 駆動装置
16 設定装置
17 制御装置
18 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク本体の表面が改質されたブレーキディスクであって、
前記ディスク本体の表面を被覆するセラミックス被覆層を備えること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
ディスク本体の表面が改質されたブレーキディスクであって、
前記ディスク本体の表面を被覆する金属結合層と、
前記金属結合層の表面を被覆するセラミックス被覆層とを備え、
前記金属結合層は、前記ディスク本体と前記セラミックス層とを結合させること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキディスクにおいて、
前記金属結合層は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆すること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のブレーキディスクにおいて、
前記金属結合層は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆すること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、
前記金属結合層は、前記ディスク本体の表面に金属を溶射して形成されていること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、
前記セラミックス被覆層は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にセラミックスを溶射して形成されていること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、
前記セラミックス被覆層は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にジルコニアを溶射して形成されていること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のブレーキディスクにおいて、
前記ディスク本体の表層に粗面化処理された粗面化処理層が形成されていること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキディスクにおいて、
前記粗面化処理層は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層に形成されていること、
を特徴とするブレーキディスク。
【請求項10】
ディスク本体の表面を改質するブレーキディスクの表面改質方法であって、
前記ディスク本体の表面をセラミックス被覆層によって被覆するセラミックス被覆工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項11】
ディスク本体の表面を改質するブレーキディスクの表面改質方法であって、
前記ディスク本体の表面を金属結合層によって被覆する金属被覆工程と、
前記金属結合層の表面をセラミックス被覆層によって被覆するセラミックス被覆工程とを含み、
前記金属被覆工程は、前記ディスク本体と前記セラミックス層とを前記金属結合層によって結合させる工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記金属被覆工程は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記金属被覆工程は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項14】
請求項11から請求項13までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記金属被覆工程は、前記ディスク本体の表面を金属の溶射によって被覆する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項15】
請求項10から請求項14までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記セラミックス被覆工程は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にセラミックスを溶射して被覆する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項16】
請求項10から請求項15までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記セラミックス被覆工程は、前記ディスク本体の表面又は前記金属結合層の表面にジルコニアを溶射して被覆する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項17】
請求項10から請求項16までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記ディスク本体の表層を粗面化処理する粗面化処理工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項18】
請求項17に記載のブレーキディスクの表面改質方法において、
前記粗面化処理工程は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層を粗面化処理する工程を含むこと、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質方法。
【請求項19】
ディスク本体の表面を改質するブレーキディスクの表面改質装置であって、
前記ディスク本体の表面をセラミックス被覆層によって被覆する被覆装置と、
前記被覆装置の動作条件を設定する設定装置と、
前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御する制御装置と、
を備えるブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項20】
ディスク本体の表面を改質するブレーキディスクの表面改質装置であって、
前記ディスク本体の表面を金属結合層によって被覆するとともに、この金属結合層の表面をセラミックス被覆層によって被覆する被覆装置と、
前記被覆装置の動作条件を設定する設定装置と、
前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御する制御装置と、
を備えるブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項21】
請求項20に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記被覆装置は、前記ディスク本体側の金属と化学成分が類似する特性の金属によって前記ディスク本体の表面を被覆すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項22】
請求項20又は請求項21に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記被覆装置は、ニッケル系金属によって前記ディスク本体の表面を被覆すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項23】
請求項20から請求項22までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面に前記金属を溶射すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項24】
請求項19から請求項23までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面又は前記金属の表面にセラミックスを溶射すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項25】
請求項19から請求項24までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記被覆装置は、前記ディスク本体の表面又は前記金属の表面にジルコニアを溶射すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項26】
請求項19から請求項25までのいずれか1項に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記ディスク本体の表層を粗面化処理する粗面化処理装置を備え、
前記設定装置は、前記粗面化処理装置の動作条件を設定し、
前記制御装置は、前記動作条件に基づいて前記被覆装置の動作を制御すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。
【請求項27】
請求項26に記載のブレーキディスクの表面改質装置において、
前記粗面化処理装置は、ブラスト処理によって前記ディスク本体の表層を粗面化処理すること、
を特徴とするブレーキディスクの表面改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−63072(P2009−63072A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231123(P2007−231123)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】