説明

ブレーキパッド

【課題】裏金の保持面に生じる錆を抑制でき、その上で製造効率の低下を防止可能なブレーキパッドの提供。
【解決手段】フェノール樹脂の含有量が6〜8重量%の摩擦材14と、摩擦材14を保持面13に保持する板材であって保持面13の表面粗さが5〜15μmで板厚方向に貫通孔を持たない裏金12とを有し、裏金12にエポキシ−フェノール樹脂の接着剤を表面粗さの最頂部から5〜10μmの厚さで塗布して摩擦材14を接着してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用のブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ブレーキパッドは、板厚方向に貫通孔が形成された金属製の裏金に、摩擦材をその一部をこの貫通孔に入り込ませた状態で接着することにより形成されている。しかしながら、貫通孔が形成されていると、この貫通孔から水分が入り込んで裏金の摩擦材を保持する保持面に錆を発生させることがあり、その結果、摩擦材の裏金への接着力が低下してしまうことがあった。これを防止するために、貫通孔にかえて有底の凹部が保持面に形成された裏金を用いるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−323351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、裏金の保持面に凹部を形成するためには、多くの工程が必要になり、製造効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、裏金の保持面に生じる錆を抑制でき、その上で製造効率の低下を防止可能なブレーキパッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、保持面の表面粗さが5〜15μmで板厚方向に貫通孔を持たない裏金にエポキシ−フェノール樹脂の接着剤を前記表面粗さの最頂部から5〜10μmの厚さで塗布して摩擦材を接着した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、裏金の保持面に生じる錆を抑制でき、その上で製造効率の低下を防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキパッドを示すもので、(a)は正面図、(b)は下面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るブレーキパッドを示す要部の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るブレーキパッドの製造工程の順番を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るブレーキパッドの裏金の保持面近傍を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係るブレーキパッドを以下に説明する。
【0010】
本実施形態に係るブレーキパッド11は、車両用のディスクブレーキに設けられ、車輪とともに回転するディスクに接触して制動力を発生させるもので、図1に示すように、板状の裏金12と、裏金12の板厚方向一側の保持面13に保持される摩擦材14とを有している。
【0011】
裏金12は、金属製であり、ディスク回転方向(図1の左右方向)に長い平板状をなしている。裏金12は、板厚方向に直交して広がる上記した保持面13の内側所定範囲が摩擦材14を保持する保持領域15となっており、保持面13の保持領域15の外側範囲が摩擦材14を保持しない非保持領域16となっている。裏金12には、保持領域15を含む全体にわたって、板厚方向に貫通する貫通孔は形成されていない。
【0012】
摩擦材14は、裏金12と同様、ディスク回転方向に長い形状をなしており、その長さ方向の中央部に裏金12とは反対側から裏金12に向けて凹むスリット18がディスク半径方向(図1(a)の上下方向)に沿って形成されている。また、摩擦材14の長さ方向の両端部には、裏金12とは反対側に、端側ほど裏金12からの高さが低くなるように面取り19が形成されている。
【0013】
ここで、裏金12の保持面13には、保持領域15を含む全面に接着剤が塗布されており、この接着剤の保持領域15の範囲に摩擦材14が接着されている。後述するように、摩擦材14の接着は、加圧されて行われるため、摩擦材14が接着される裏金12の保持領域15には基本的に接着剤が所定厚さ以上の膜の状態では存在しない。しかしながら、図2に示すように、裏金12の保持面13の非保持領域16には摩擦材14の接着時のように加圧されないため、接着剤層20が所定厚さ以上の膜の状態として残ることになる。
【0014】
また、裏金12には、保持領域15以外の部分の全面に防錆塗料が塗布されて塗料層21が形成されている。よって、裏金12の保持面13のうちの非保持領域16に形成された接着剤層20にも塗料が塗布されるため、塗料層21が表面に形成されている。
【0015】
本実施形態のブレーキパッド11は、図3に示す工程の順番で製造される。
【0016】
裏金12の作製は、まず、平板形状の圧延鋼板からなる素材をプレス成形で上記外形形状に打ち抜き(工程A1)、脱脂洗浄後(工程A2)、乾燥させる(工程A3)。次に、保持面13にスチールボールを打ち付けるショットブラスト処理を行い(工程A4)、保持面13の全面を所定の表面粗さに形成する。その際に、保持面13の表面粗さRzを5〜15μmとする。ここで、この表面粗さRzは、粗さ曲線より求めた最大高さ粗さ(JIS B0601:2001)である。
【0017】
次に、エアブロー等により裏金12を洗浄し(工程A5)、裏金12の保持面13の全面にエポキシ−フェノール樹脂の接着剤を、図4に示すように、表面粗さの最頂部23からの厚さtを5〜10μmの範囲で塗布し(工程A6)、乾燥させて、接着剤層20を形成する(工程A7)。
【0018】
一方で、摩擦材14を作製するに当たり、結合材であるフェノール樹脂の含有量が6〜8重量%となるように配合材料各種を秤量し(工程B1)、レーディゲミキサを用いて混合して、混合材を得る(工程B2)。この混合材をパッド一枚あたりに必要な量を計り取り(工程B3)、摩擦材14の形状よりも一回り小さい予備成形型に投入し、室温にて加圧成形して予備成形品を作製し(工程B4)、予備成形型から取り出した予備成形品を乾燥させる(工程B5)。
【0019】
そして、上記したように接着剤が塗布後、乾燥した状態にある裏金12と、上記した摩擦材14の予備成形品とを150℃に加熱した成形型に投入し(工程C1)、40MPaで4分間加熱圧縮成形した後(工程C2)、成形型から取り出して、恒温槽にて220℃に昇温、放置冷却の合計8時間の焼成処理を行う(工程C3)。
【0020】
その後、塗装を行って上記した塗料層21を形成するとともに焼付処理を行い(工程C4)、摩擦材14のディスクに接触することになる表面を研磨するとともに、スリット18および面取り19を切削加工により形成することで(工程C5)、ブレーキパッド11が作製される。なお、できあがったブレーキパッド11は、加圧されているため、摩擦材14が接着される裏金12の保持領域15の接着剤が所定厚さ以上の膜の状態では存在しないが、裏金12の非保持領域16には接着剤層20が所定厚さ以上の膜の状態として残っており、この部分の接着剤層20の厚さを測ることで、上記した裏金12の保持面13の接着剤の塗布厚さが分かる。また、この非保持領域16の接着剤層20を剥がして表面粗さを測ることで、保持面13の表面粗さRzが分かる。
【0021】
ここで、上記実施形態のブレーキパッド11は、以下の評価に基づくものである。
【0022】
「新品時の信頼性の評価」
保持面13の表面粗さRzを4,5,10,15,16,20μmとした6種類の裏金12を準備し、各種類それぞれについて、接着剤を表面粗さの最頂部23から、0μm,4μm,5μm,10μm,11μm,15μmの膜厚で塗布して、摩擦材14を接着して新品のブレーキパッドを合計36種類作製した。
【0023】
そして、上記新品のブレーキパッドの各種類について、自動車部品外観腐食試験方法(JASO M610)に記載された塩水噴霧2時間、乾燥4時間、湿潤2時間を1サイクルとした処理を200サイクル行い、その後、摩擦材14を裏金12から剥がすために接着強度試験(JIS D4422)を行い、裏金12の保持面13の保持領域15における錆の発生率(保持領域15の面積を100としたときの錆の発生面積)を調べた。
【0024】
その結果は、以下の表の通りである。
【0025】
【表1】

【0026】
この表から明らかなように、新品時における保持領域15の錆発生状況は、保持面13の表面粗さRzが5μm以上であって、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が5μm以上であれば、錆が発生しないことが分かる。
【0027】
これは、表面粗さが4μm以下と小さい場合には接着強度が低くなり、成形、焼成後に摩擦材14と裏金12との間に隙間が生じ易いためであり、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が4μm以下と薄いものは、加熱圧縮成形時に接着剤が流動し、一部薄くなるため裏金12に接着剤の途切れた部分が発生し、接着不良が生じることによる。言い換えれば、表面粗さが5μm以上であれば、接着強度が高くなり、成形、焼成後に摩擦材14と裏金12との間に隙間が生じ難く、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が5μm以上と厚いものは、加熱圧縮成形時に裏金12に接着剤の途切れた部分が発生し難く、接着不良が生じ難くなる。
【0028】
「ブレーキ使用時の信頼性の評価」
保持面13の表面粗さRzを4,5,10,15,16,20μmとした6種類の裏金を準備し、各種類それぞれについて、接着剤を表面粗さの最頂部23から、0μm,4μm,5μm,10μm,11μm,15μmの膜厚で塗布して、摩擦材14を接着して新品のブレーキパッドを合計36種類作製した。
【0029】
そして、上記新品のブレーキパッドの各種類について、常用ブレーキ装置繰り返し強度台上試験方法(JASO C441)にて200000回試験後の外観、特に裏金12と摩擦材14の界面の亀裂の有無を調査した。
【0030】
その結果は、以下の表の通りである。
【0031】
【表2】

【0032】
この表から明らかなように、保持面13の表面粗さRzが5μm,10μmであって、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が4μm以上10μm以下であれば、亀裂が発生せず、また、保持面13の表面粗さRzが15μmであって、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が5μm以上10μm以下であれば、亀裂が発生しないことが分かる。
【0033】
これは、繰り返し強度試験では、保持面13の表面粗さRzが4μmと小さいもの、および接着剤の膜厚が4μm以下の薄いものでは接着強度が不足していることによる。また、保持面13の表面粗さRzが16μm以上の粗すぎるものや、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が11μm以上の厚いものでは、摩擦材14との間で接着剤が一部膜状に残る箇所があり、その部分が接着剤の樹脂の強度となって、接着強度より低くなることによる。言い換えれば、保持面13の表面粗さRzが5μm以上15μm以下で、接着剤の膜厚が5μm以上10μm以下のものは、接着強度が十分であり、摩擦材14との間で接着剤が一部膜状に残る箇所も生じ難い。
【0034】
また、上記した繰り返し強度試験後のブレーキパッドのそれぞれについて、自動車部品外観腐食試験方法(JASO M610)に記載された塩水噴霧2時間、乾燥4時間、湿潤2時間を1サイクルとした処理を200サイクル行い、その後、摩擦材14を裏金12から剥がすために接着強度試験(JIS D4422)を行い、裏金12の保持面13の保持領域15における錆の発生率(保持領域15の面積を100としたときの錆の発生面積)を調べた。
【0035】
その結果は、以下の表の通りである。
【0036】
【表3】

【0037】
この表から明らかなように、繰り返し強度試験後の保持領域15の錆発生状況は、亀裂の発生していない、保持面13の表面粗さRzが5μm以上15μm以下であって、接着剤の表面粗さの最頂部23からの膜厚が5μm以上10μm以下であれば、錆が発生しないことが分かる。
【0038】
これは、新品時に錆が発生したものに加えて、繰り返し強度試験により亀裂が発生したブレーキパッドについては亀裂からの浸水で錆が発生することによる。言い換えれば、使用により亀裂が発生しないブレーキパッドは浸水し難いため錆が発生し難くなる。
【0039】
なお、摩擦材14のフェノール樹脂の含有量が8重量%を超えるものでは、摩擦材14の強度が接着強度より高いため、繰り返し強度試験において、裏金12と摩擦材14の界面に亀裂が入る可能性が高くなり、好ましくない。また、摩擦材14のフェノール樹脂の含有量が6重量%未満では、摩擦材14の摩耗量が多くなる等の他の不具合を生じる可能性が高くなり、好ましくない。
【0040】
また、接着剤に、エポキシ−フェノール樹脂以外のゴム−フェノール樹脂の接着剤を用いた場合や、フェノール樹脂のみの接着剤を用いた場合も、繰り返し強度試験にて裏金12と摩擦材14の界面に亀裂が入る可能性が高くなり、好ましくない。
【0041】
以上から、貫通孔を持たない裏金12の表面粗さが5〜15μmの保持面13に、エポキシ−フェノール樹脂の接着剤を、表面粗さの最頂部23から5〜10μmの厚さで塗布して、フェノール樹脂の含有量が6〜8重量%の摩擦材14を接着してなる本実施形態のブレーキパッド11は、板厚方向に貫通孔を持たない裏金12とすることで、裏金12を介しての水分の浸入経路をなくすことができる。また、フェノール樹脂の含有量が6〜8重量%の摩擦材14を、裏金12の表面粗さが5〜15μmの保持面13に、エポキシ−フェノール樹脂の、表面粗さの最頂部23から5〜10μmの厚さで塗布された接着剤により接着するため、使用時の制動の繰り返しによるせん断力で摩擦材14が保持面13から剥がれないようにでき、かつ、せん断力により容易に摩擦材14に亀裂が入らないようにすることができる。したがって、裏金12の保持面13に生じる錆を抑制することができる。
【0042】
しかも、裏金12が平板状をなすため、製造効率の低下を防止することができるとともに、加熱圧縮成形時に摩擦材14にかかる圧力を均等にできることから、摩擦材の密度を均一にでき、スキール音等のブレーキ鳴き異音の発生を抑制できる。
【0043】
また、裏金12の保持面13がショットブラスト処理により表面粗さが5〜15μmとされるため、容易に表面粗さを5〜15μmとすることができ、製造効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0044】
11 ブレーキパッド
12 裏金
13 保持面
14 摩擦材
15 保持領域
16 非保持領域
20 接着剤層
23 最頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂の含有量が6〜8重量%の摩擦材と、
該摩擦材を保持面に保持する板材であって、前記保持面の表面粗さが5〜15μmで板厚方向に貫通孔を持たない裏金とを有し、
該裏金にエポキシ−フェノール樹脂の接着剤を前記表面粗さの最頂部から5〜10μmの厚さで塗布して前記摩擦材を接着してなることを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記裏金の前記保持面はショットブラスト処理により前記表面粗さが形成されていることを特徴とする請求項1記載のブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−94663(P2011−94663A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247544(P2009−247544)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】