説明

ブレーキ装置

【課題】本発明の課題は、よりコンパクト化を図ることができると共にブレーキペダルを介して入力される荷重の検出精度に優れたブレーキ装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ブレーキペダル19aの操作により進退する入力軸15と、入力軸15の先端部を囲む穴16aを備える出力軸と、入力軸15と出力軸16との間で穴16aに配置されてブレーキペダル19aの操作により入力される荷重を検出する踏力検出手段11と、検出した荷重に基づき制動力を付与する駆動装置12とを備えたブレーキ装置10であって、踏力検出手段11は、磁歪膜22を備えた磁歪センサ20と、コイル23とを有し、磁歪センサ20に、磁歪センサ20とコイル23との間に所定の間隙Gを形成するための位置決め部21aを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機のトルクをブレーキ力に利用するブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機のトルクを利用したブレーキ装置としては、ブレーキペダルに連動して進退移動する入力軸と、ブレーキペダルを介して入力軸に入力される踏力を検出するひずみゲージと、ひずみゲージで検出した踏力に応じて駆動力を発生する電動機と、マスタシリンダのピストンに連動する出力軸と、電動機の駆動力を出力軸に伝達するボールネジとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このブレーキ装置は、入力軸の前端が出力軸の後端に接続されていると共に、出力軸の軸周りにボールネジが設けられている。そして、ボールネジのナット部には電動機の円板状のロータが互いに回転軸が一致するように取り付けられている。
このブレーキ装置では、ブレーキペダルの操作により入力軸から出力軸に荷重が入力されると、ひずみゲージで検出した荷重の大きさ(踏力の大きさ)に応じた大きさのトルクを電動機が発生する。このトルクがボールネジを介して出力軸に伝達されて、出力軸がマスタシリンダのピストンを突き動かす。つまり、ブレーキ装置は、踏力に加えて電動機の駆動力(トルク)をブレーキ力に利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−13855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)は、踏力の検出にひずみゲージを使用しており、ひずみゲージは踏力が伝達される被検出部に張り付けて使用される。また、ひずみゲージにはひずみに応じて変化する抵抗値を測定するためのリード線が設けられると共に微弱な抵抗値を検出するために、ブリッジ回路が必要となる。その結果、従来のブレーキ装置は、踏力の被検出部周りの部品点数が多くなってコンパクト性が損なわれる問題がある。
また、ブレーキペダルの操作によって適正なブレーキ力が発揮されるように、ブレーキペダルを介して入力される荷重の検出精度が従来よりも優れたブレーキ装置が望まれている。
【0005】
本発明の課題は、従来のブレーキ装置と比較して、よりコンパクト化を図ることができると共にブレーキペダルを介して入力される荷重の検出精度に優れたブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決した本発明は、車両のブレーキペダルに連結されて前記ブレーキペダルの操作により進退する入力軸と、前記入力軸の先端部を囲む開口部を備える出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間で前記出力軸の前記開口部に配置されて前記ブレーキペダルの操作により前記入力軸から前記出力軸に伝達する荷重を検出する荷重検出手段と、前記荷重検出手段で検出した荷重に基づきブレーキに制動力を付与する駆動装置と、を備えたブレーキ装置であって、前記荷重検出手段は、磁歪膜を備えた磁気変化部と、前記磁気変化部の表面に対向するように配置され前記入力軸が進退することで発生する前記磁気変化部の磁気特性の変化を検出するコイルと、を有し、前記磁気変化部に、前記磁気変化部と前記コイルとの間に所定の間隙を形成するための位置決め部を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明のブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作によって、入力軸から磁気変化部を介して出力軸に荷重が伝達されると、荷重検出手段は、磁歪膜を備えた磁気変化部の磁気特性の変化をコイルが検出することで、出力軸に伝達された荷重を検出する。したがって、このブレーキ装置によれば、従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)のように、ひずみゲージの抵抗値の変化を検出して出力軸に伝達された荷重を検出するものと異なって、磁気変化部の磁気特性の変化(磁歪の変化)を検出するので、荷重の検出精度に優れる。
【0008】
また、本発明のブレーキ装置は、位置決め部を設けることで、ブレーキペダルの操作によって磁気変化部に圧縮荷重が加わっても、磁気変化部(磁歪膜)とコイルとの間の間隙が所定の間隔となるように保持されるので、コイルは精度良く磁気特性の変化(磁歪の変化)を検出することができる。
【0009】
また、本発明のブレーキ装置の荷重検出手段は、入力軸と出力軸との間に配置された、磁歪膜を有する磁気変化部を備えて構成される。つまり、本発明のブレーキ装置は、例えば荷重検出手段(踏力検出手段)としてひずみゲージを使用した従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と比較して、踏力の被検出部周りの部品点数を低減することができる。したがって、本発明のブレーキ装置によれば、従来のブレーキ装置と比較して、よりコンパクト化を図ることができる。
【0010】
本発明のブレーキ装置においては、前記磁気変化部の前記入力軸が当接する軸心部分に切欠部を設けた構成とすることができる。
【0011】
この本発明のブレーキ装置は、磁気変化部の軸心部分に設けられた切欠部に入力軸が当接するので、ブレーキペダルの操作によって入力軸が磁気変化部を押圧する際に、入力軸は磁気変化部の軸心部分からずれて磁気変化部を押圧することが防止される。したがって、この本発明のブレーキ装置によれば、磁気変化部に対して偏荷重が加えられることが防止されるので、磁気変化部は、入力軸から出力軸に伝達される荷重を精度良く検出することができる。
【0012】
本発明のブレーキ装置においては、前記駆動装置は、前記荷重検出手段で検出した前記荷重に基づきトルクを発生させる電動機と、前記電動機の前記トルクを伝達するピニオンと、前記ピニオンと噛み合うように前記出力軸に設けられたラック歯と、を有し、前記出力軸を前記ピニオンに押し付けるラック押付機構を更に備えるように構成することができる。
【0013】
このブレーキ装置は、従来のボールネジからなる駆動装置を出力軸周りに設けたブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と異なって、駆動装置を出力軸に設けたラック歯と、このラック歯に噛み合うピニオンとで構成しているので、部品点数が大幅に低減されて更なるコンパクト化を図ることができる。
【0014】
また、このブレーキ装置のラック押付機構は、出力軸をピニオンに押し付けることで、出力軸に形成されたラック歯とピニオンとを、ガタ付くことなく互いに噛み合わせることができる。
【0015】
本発明のブレーキ装置においては、鉄系部材の表面に前記磁歪膜を設ける磁歪膜形成工程と、前記鉄系部材の少なくとも一方を前記鉄系部材の軸方向に引張荷重を印加する荷重印加工程と、前記引張荷重を印加した状態のままで前記磁歪膜を設けた前記鉄系部材を高周波加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、前記引張荷重を印加した状態のままで前記磁歪膜を設けた前記鉄系部材を冷却する冷却工程と、前記冷却工程の後に、前記引張荷重を解放する荷重解放工程と、を経て製造された前記磁気変化部を備えるように構成することができる。
【0016】
このブレーキ装置は、磁気変化部が剛性の高い鉄系部材を備えているので、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ際の違和感を無くし、ダイレクトなブレーキ操作フィーリングを得ることができる。
【0017】
また、このブレーキ装置は、磁気変化部の磁歪膜に圧縮ひずみが付与されることから、入力軸から出力軸に伝達される荷重を更に精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のブレーキ装置と比較して、よりコンパクト化を図ることができると共にブレーキペダルを介して入力される荷重の検出精度に優れたブレーキ装置を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るブレーキ装置の構成説明図である。
【図2】実施形態に係るブレーキ装置における、入力軸と出力軸との連結部分を示す部分断面図である。
【図3】図1のIII−III断面図である。
【図4】(a)から(e)は、磁歪センサの製造方法の工程図である。
【図5】実施形態に係るブレーキ装置で使用した磁歪センサにおける踏力(圧縮荷重)と、透磁率との関係を示すグラフである。
【図6】減速機を有する他の実施形態に係るブレーキ装置の構成説明図である。
【図7】磁歪センサ(磁気変化部)に入力軸が直接当接する他の実施形態に係るブレーキ装置の構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について適宜図を参照して説明する。
本実施形態に係るブレーキ装置は、例えば電気自動車(燃料電池自動車を含む)、ハイブリッド車等の車両に好適に使用することができる。
なお、以下の説明において、前後上下の方向は、このブレーキ装置を車両に搭載した際の方向に一致させた図1に示す前後上下の方向を意味する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るブレーキ装置10は、ブレーキペダル19aに連結されて運転者がブレーキペダル19aを踏み込んで操作する力で進退する入力軸15と、ケース18内に収容されて入力軸15に連結される出力軸16と、入力軸15に入力された運転者の踏力を検出する踏力検出手段11と、踏力検出手段11からの情報(検出した踏力)に基づいて出力軸16に駆動力を伝達する駆動装置12と、を備えている。なお、踏力検出手段11は、特許請求の範囲にいう「荷重検出手段」に相当する。
また、ブレーキ装置10は、出力軸16の推力でブレーキオイルを油圧回路40に送り込むマスタシリンダ30と、駆動装置12が出力軸16に駆動力を伝達する際に、踏力検出手段11からの情報(検出した踏力)に基づいて駆動装置12(電動機13)を制御すると共に、油圧回路40に組み込まれた図示しない油圧制御弁の開度を制御する制御部(ECU:Electronic control Unit)42と、を更に備えている。
【0022】
前記入力軸15は、ブレーキペダル19aと連結するためのヨーク部15aを後端に備えている。入力軸15は、その前端が次に説明する球面軸受17(図2参照)及び踏力検出手段11を構成する磁歪センサ20(図2参照)を介して出力軸16と連結されている。さらに詳しく説明すると、入力軸15は、図2に示すように、出力軸16側に延びた前端が球状に形成された球体部15bを備えると共に、球体部15bは、出力軸16の後端に開口する穴16a内に配置された球面軸受17に支持されている。なお、出力軸16の後端に開口する穴16aは、特許請求の範囲にいう「開口部」に相当する。
このような入力軸15は、図1に示すように、出力軸16を収容するケース18に弾性体のブーツ19bを介して支持されている。
【0023】
前記出力軸16は、図1に示すように、ケース18内に配置されると共に、前記したように、入力軸15と連結することで、踏力が入力された入力軸15に突き動かされるようになっている。
【0024】
また、出力軸16は、駆動装置12を構成する後記ピニオン14aと噛み合うラック歯14bが長手方向の略全長に亘って形成されている。出力軸16の後端に形成された図2に示す穴16aは、出力軸16の軸方向(図2の前後方向)に沿って形成され、略円柱形状の有底空間を形成している。そして、穴16aの奥止まりには、略円柱状の磁歪センサ20が配置されている。なお、穴16aの奥止まりは、後記する鉄系部材21の位置決め部21aを受け入れる窪み16bが形成されている。
【0025】
穴16a内には、入力軸15の球体部15bを支持する球面軸受17が配置されている。ちなみに、球面軸受17は、前端が磁歪センサ20に当接していると共に、その脚部17aが穴16aの開口に形成された突起16cに係止されることで、穴16aから抜け出ないようになっている。
【0026】
また、出力軸16は、図1に示すように、後端と反対側の端(前端)が、後記するマスタシリンダ30の第1ピストン31に連結されている。
【0027】
前記踏力検出手段11は、図1に示す入力軸15に入力された運転者の踏力を検出すると共に、その検出信号を制御部42に出力するようになっている。つまり、運転者がブレーキペダル19aを踏み込んだ際に、入力軸15が図2に示す穴16a内で出力軸16を押圧する力の検出信号を出力するようになっている。
【0028】
踏力検出手段11は、図2に示すように、磁歪センサ20と、コイル23とを備えている。なお、磁歪センサ20は、特許請求の範囲にいう「磁気変化部」に相当する。
前記磁歪センサ20は、略円柱形状の鉄系部材21と、その周面に被覆された磁歪膜22とで形成されている。鉄系部材21の前端には、鉄系部材21が部分的に前方に突出した位置決め部21aが形成されている。この位置決め部21aは、出力軸16の穴16aの奥止まりに形成された窪み16bに嵌合することで、穴16a内での磁歪センサ20の位置ずれを確実に防止している。言い換えれば、位置決め部21aは、穴16a内での磁歪センサ20の位置ずれ防止することで、磁歪センサ20と、コイル23との間に形成される後記する間隙Gが所定の間隔となるように保持している。
本実施形態での磁歪センサ20の製造方法は、後で詳しく説明する。
【0029】
前記コイル23は、磁歪センサ20の表面、つまり磁歪膜22の表面に対向するように配置されている。そして、磁歪膜22の表面とコイル23との間には、所定の間隔で間隙Gが形成されている。
このコイル23は、入力軸15が進退することで磁歪センサ20の磁気特性の変化を検出するものである。更に詳しく説明すると、コイル23は、磁歪センサ20が踏力によって軸方向(図2の前後方向)に圧縮された際に、その圧縮荷重の大きさに応じて変化する磁歪膜22の磁歪の変化(透磁率の変化)を誘起電圧(インダクタンス)の変化として検出する。
【0030】
前記駆動装置12は、図1に示すように、電動機13と、ラックアンドピニオン機構14とを備えている。
本実施形態での電動機13は、出力軸16の上方に配置されており、出力軸16を収容するケース18の外側に取り付けられている。この電動機13としては、例えばブラシ付き直流モータを使用することができる。電動機13のモータ軸13a(図3参照)は、ピニオン14aを有するピニオン軸54を同軸に連結している。このピニオン軸54は、ケース18内に向かって延びると共に、その上端が軸受44aを介してケース18の内側に支持され、その下端が軸受44bで支持されている。
【0031】
ラックアンドピニオン機構14は、ピニオン軸54に形成されたピニオン14aと、このピニオン14aと噛み合うように形成される出力軸16のラック歯14bとで構成されている。つまり、図3に示すように、出力軸16の軸方向(図3の紙面に対して垂直方向)と略直角をなすように、モータ軸13aとピニオン軸54とが同軸に連結され、ピニオン軸54に形成されたピニオン14aと、出力軸16のラック歯14bとが噛み合っている。
なお、モータ軸13aとピニオン軸54との連結方法としては、セレーションによる連結でも良いし、又はカップリングによる連結でも良い。
【0032】
出力軸16に大きい歯幅のラック歯14bを設けるには、出力軸16の断面形状(出力軸16の長手方向から見た断面形状)を矩形にすることが考えられる。しかし、矩形断面の出力軸16では、ラック歯14bを有していない背面の角の部分が外に出っ張るので、出力軸16を収容するケース18が大型になる。これに対し、本実施形態では、円形断面の出力軸16にラック歯14bを形成するので、出力軸16を収容するケース18を小型にすることができる。
【0033】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、図3に示すように、出力軸16をピニオン14aに押し付けるラック押付機構24を備えている。
ラック押付機構24は、ラック歯14bの設けられた出力軸16の背面を、摺動部材24aを介してガイド24bが押圧し、出力軸16をピニオン14aに押し付けるように構成されている。ちなみに、ピニオン14aに対するラック歯14bの押圧力の調節は、調整ボルト24cの締め付け具合によって圧縮コイルばね24dの付勢力を調節して行うことができる。
【0034】
このようなラック押付機構24によれば、ガイド24bは、ラック歯14bの背面側から出力軸16を支えると共に、出力軸16をその軸方向にスライド可能に案内する。摺動部材24aは、出力軸16とガイド24bとの間に介在し、ラック歯14bの背面側の出力軸16の外周面に直接接触して、スライド抵抗を低減する。この摺動部材24aは、耐摩耗性を有すると共に摩擦抵抗が小さい材料からなる。ロックナット24eは、調整ボルト24cの位置決めをした後の緩みを防止するものである。
【0035】
このように、ラック押付機構24では、ガイド24bによりラック歯14bをピニオン14aに押圧することで、ラック歯14bとピニオン14aとの噛み合いの遊び(バックラッシュ、ガタ付き)を無くし又は最小限に止めることができ、ピニオン14aの回転角が微小であっても、確実に出力軸16の第1ピストン31(図1参照)に対する推力に変換することができる。
【0036】
前記マスタシリンダ30は、図1に示すように、シリンダボディ34にリザーバタンク33を有し、ボルトBでケース18の前端に固着されている。シリンダボディ34内には第1ピストン31及び第2ピストン32が配置され、シリンダボディ34内(ピストンシリンダ)とリザーバタンク33とは連通している。
このマスタシリンダ30は、第1ピストン31を前方に突き動かすと、第1ピストン31は反発するように付勢するスプリング43a,43bに抗して第2ピストン32を前方に突き動かすようになっている。そして、第1ピストン31及び第2ピストン32は、第1圧力室38a及び第2圧力室38bに存在するブレーキオイルを、ポート37,37及び配管P1を介して油圧回路40に送り込むようになっている。
【0037】
油圧回路40と、車両の4つのブレーキディスクDFL,DFR,DRL,DRRにそれぞれ設けられたキャリパCFL,CFR,CRL,CRRとは、配管PFL,PFR,PRL,PRRを介して接続されている。
なお、配管PFL,PFR,PRL,PRRを介してキャリパCFL,CFR,CRL,CRRに供給されるブレーキオイルの油圧は、キャリパCFL,CFR,CRL,CRRのそれぞれに対応するように油圧回路40に設けられた前記油圧制御弁(図示省略)の開度を次に説明する制御部42が制御することで調節される。ちなみに、ブレーキディスクD、キャリパC、及び配管Pの符号の添付文字は、車両の4つの車輪の区別を示すものであり、FLは前方左側の車輪に対応するものを示し、FRは前方右側の車輪に対応するものを示し、RLは後方左側の車輪に対応するものを示し、RRは後方右側の車輪に対応するものを示している。
【0038】
図1に示す制御部42は、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路等を含んで構成されている。
図1に示す制御部42は、踏力検出手段11のコイル23(図2参照)が出力する検出信号に基づいて踏力の大きさを推定し、推定した踏力の大きさに比例して、より大きな推力が駆動装置12によって出力軸16に加えられるように、電動機13に指令信号を出力する。
【0039】
制御部42による踏力の推定手順としては、例えば、予めこのブレーキ装置10の使用を想定したシミュレーション試験を行って、入力軸15に踏力が入力された際の磁歪膜22(図2参照)に対する圧縮荷重と、磁歪膜22の透磁率に対応してコイル23が出力する誘起電圧(インダクタンス)の変化量との関係を示す関数、又はマップを求めておき、運転者がブレーキペダル19a(図1参照)を踏み込んだ際にコイル23が出力する誘起電圧の変化量から、前記関数等に基づいて踏力の大きさを推定する手順を挙げることができる。
【0040】
また、制御部42は、前記したように、油圧回路40に組み込まれた図示しない油圧制御弁の開度を制御する。この油圧制御弁の開度の制御は、例えば、車速、ブレーキ操作を行う前後の車両の加速度、ヨーレート等のパラメータを検出する手順と、検出したこれらのパラメータの大きさに応じて油圧回路40に設けられた油圧制御弁(図示省略)の開度を調節する手順とを実行して行うことができる。そして、制御部42に、このような制御手順を実行させることで、アンチロックブレーキ機構を構成することもできる。
【0041】
次に、前記した磁歪センサ20の製造方法について説明する。ここで参照する図4(a)から(e)は、磁歪センサの製造方法の工程図である。なお、図4(a)から(e)においては、作図の便宜上、鉄系部材の突起部は省略している。
【0042】
この製造方法は、図4(a)に示すように、まず鉄系部材21を準備する。鉄系部材21の材質は、鉄を含む機械構造用鋼材であれば特に制限はないが、高強度のクロムモリブデン鋼(SCM)が特に好ましい。鉄系部材21の形状は、本実施形態での断面視で円形(略円柱形状)のものに限定されず、断面視で楕円や多角形のものであっても良い。
【0043】
次に、図4(b)に示すように、鉄系部材21の表面(周面)に磁歪膜22が形成される。この工程は、特許請求の範囲にいう「磁歪膜形成工程」に相当する。
磁歪膜22の材質は、例えば、鉄ニッケル合金を挙げることができる。
【0044】
磁歪膜22の形成方法としては、例えば、電解めっき法、スパッタリング法、CVD法、プラズマ溶射法等が挙げられる。
【0045】
次に、図4(c)に示すように、磁歪膜22が形成された鉄系部材21を、その軸方向に荷重Fを掛けて引っ張る。この工程は、特許請求の範囲にいう「荷重印加工程」に相当する。本実施形態では、鉄系部材21の両端を軸方向にそれぞれ荷重Fで引っ張っているが、鉄系部材21の一方の端を引っ張るものであっても良い。
そして、図4(d)に示すように、引っ張った状態で、高周波加熱装置43を使用して加熱する。この工程は、特許請求の範囲にいう「加熱工程」に相当する。
加熱条件は、適宜に設定することができるが、400℃程度で数秒間加熱を行えば良い。
【0046】
そして、引っ張った状態で、常温まで自然冷却(自然放熱、冷風を使用した空冷を含む)を行う。この工程は、特許請求の範囲にいう「冷却工程」に相当する。
この冷却工程に続いて、荷重Fを解放することで、図4(e)に示す磁歪センサ20を得る。この工程は、特許請求の範囲にいう「荷重解放工程」に相当する。
【0047】
このような製造方法で得られた磁歪センサ20は、図4(d)に示す加熱工程で、磁歪膜22は引っ張りひずみが抜ける。特に磁歪膜22の表面での引っ張りひずみの抜けは顕著となる。そして、冷却してから荷重Fを解放することで鉄系部材21が収縮すると、磁歪膜22に圧縮ひずみが付与される。
【0048】
次に、図4(e)に示す磁歪センサ20と、図4(b)に示す磁歪膜22が形成された鉄系部材21、つまり高周波加熱を行っていないものとについて、入力した踏力(圧縮荷重)と、透磁率との関係について評価を行った。その結果を図5に示す。
【0049】
図4(b)に示す磁歪膜22が形成された鉄系部材21(以下、参考例と記す)は、図5に示すように、踏力(圧縮荷重)が0(無荷重)から大きくなるにしたがって、磁歪膜22の鉄ニッケル合金が負の磁歪定数を有するために、その透磁率は低下していく。この際、ブレーキペダル19aの動作範囲として通常設定される、踏力(圧縮荷重)が小さい領域では、透磁率の変化率が小さく、緩慢で不安定な透磁率の低下傾向を示すことが確認された。
【0050】
これに対して、図4(e)に示す磁歪センサ20(図5中、実施例と記す)は、磁歪膜22に圧縮ひずみが付与されていることから、踏力(圧縮荷重)と透磁率との関係を示すカーブが図5中、右側にシフトすることとなって、踏力(圧縮荷重)が小さいブレーキペダル19aの動作範囲で、透磁率の変化率が大きく、参考例と比較して直線性を有し、急峻で安定した透磁率の低下傾向を示すことが確認された。
【0051】
したがって、参考例の磁歪膜22を有する磁歪センサ20を使用したブレーキ装置10では、踏力(圧縮荷重)が0(無荷重)に近い場合に、安定して透磁率が検出できない場合があり、ブレーキペダル19aから足を離してもキャリパCFL,CFR,CRL,CRRの摩擦パッドがブレーキディスクDFL,DFR,DRL,DRRから離れずに、ブレーキの引きずりや、ブレーキ鳴き等の問題を発生する恐れがある。
【0052】
これに対して、実施例の磁歪膜22を有する磁歪センサ20を使用したブレーキ装置10によれば、踏力(圧縮荷重)が0(無荷重)に近い場合でも、透磁率の変化率が大きく、直線性を有し、急峻で安定した透磁率の低下傾向を示すので、正確に応答するスムーズで高品位のブレーキシステムを構築することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係るブレーキ装置10の動作について説明する。
運転者が図1に示すブレーキペダル19aを踏み込むことで入力軸15に踏力が入力されると、図2に示す踏力検出手段11を構成する磁歪センサ20が圧縮されることによって磁歪膜22は踏力(圧縮荷重)の大きさに応じて透磁率を変化させる。そして、図2に示す踏力検出手段11を構成するコイル23は、透磁率の変化(情報)を検出してその検出信号を制御部42(図1参照)に出力する。
【0054】
制御部42は、踏力検出手段11のコイル23(図2参照)が出力する検出信号に基づいて踏力の大きさを推定し、踏力の大きさに比例して、より大きな推力が駆動装置12によって出力軸16に加えられるように、電動機13に指令信号を出力する。
【0055】
電動機13は、制御部42からの指令信号に応じてトルクを発生し、トルクはラックアンドピニオン機構14を介して第1ピストン31を突き動かす推力に変換されて出力軸16に伝達される。
【0056】
運転者の踏力に、駆動装置12(電動機13)によるアシスト力が加えられた推力で、出力軸16が第1ピストン31及び第2ピストン32を前方に突き動かすことによって、前記したように、第1圧力室38a及び第2圧力室38bに存在するブレーキオイルが配管P1を介して油圧回路40に送り込まれる。この際、ブレーキオイルは、出力軸16の推力の大きさに応じた油圧で送り込まれる。そして、制御部42によって開度が調節された油圧回路40の油圧制御弁(図示省略)、及び配管PFL,PFR,PRL,PRRを介して、目的の油圧となったブレーキオイルがキャリパCFL,CFR,CRL,CRRに送り込まれてブレーキ機構41は制動力を発揮する。
【0057】
以上のようなブレーキ装置10によれば、次のような作用効果を奏することができる。
本実施形態に係るブレーキ装置10は、ブレーキペダル19aの操作によって、入力軸15から磁歪センサ20を介して出力軸16に荷重が伝達されると、踏力検出手段11は、磁歪センサ20の透磁率の変化をコイル23が検出することで、出力軸16に伝達された荷重を検出する。したがって、このブレーキ装置10によれば、従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)のように、ひずみゲージの抵抗値の変化を検出して出力軸に伝達された荷重を検出するものと異なって、磁歪センサ20の透磁率の変化を検出するので、荷重の検出精度に優れる。
【0058】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、位置決め部21aを設けることで、ブレーキペダル19aの操作によって磁歪センサ20に圧縮荷重が加わっても、磁歪センサ20(磁歪膜22)とコイル23との間の間隙Gが所定の間隔となるように保持されるので、コイル23は精度良く透磁率の変化を検出することができる。
【0059】
本実施形態に係るブレーキ装置10は、運転者がブレーキペダル19aを踏み込んだ際に、圧縮荷重が負荷される鉄系部材21の剛性が高いので、ブレーキペダル19aを踏み込んだ際の違和感を無くすことができ、ダイレクトなブレーキ操作フィーリングを得ることができる。
【0060】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、剛性が高い鉄系部材21の表面に磁歪膜22を形成した踏力検出手段11を使用しているので、ひずみゲージを踏力検出手段として使用した従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)よりも、長い耐用年数を実現することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、踏力を検出する部分にひずみゲージを張り付けて、ひずみゲージの抵抗値で踏力を検出する従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と異なって、抵抗値を測定するためのリード線やブリッジ回路等を必要としないので、踏力の被検出部周りの部品点数を低減することができる。したがって、本実施形態に係るブレーキ装置10によれば、従来のブレーキ装置と比較して、よりコンパクト化を図ることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、従来のボールネジからなる駆動装置を出力軸周りに設けたブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と異なって、駆動装置12を、出力軸16に設けたラック歯14bと、このラック歯14bに噛み合うピニオン14aとで構成しているので、部品点数が大幅に低減されて更なるコンパクト化を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、出力軸16をピニオン14aに押し付けるラック押付機構24を備えているので、出力軸16に形成されたラック歯14bとピニオン14aとを、ガタ付くことなく互いに噛み合わせることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るブレーキ装置10は、高周波加熱を行って磁歪膜22に残留応力(圧縮ひずみ)を有する磁歪センサ20を使用しているので、踏力がゼロに近い場合でも、磁歪膜22の透磁率の変化率が大きく、直線性を有し、急峻で安定した透磁率の低下傾向を示すので、正確に応答するスムーズで高品位のブレーキシステムを構築することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
【0066】
前記実施形態では、電動機13のモータ軸13aと同軸にピニオン14aを有するピニオン軸54を連結するように構成したが、本発明は、電動機13の駆動力(トルク)を、減速機を介してピニオン軸54(ピニオン14a)に伝達するものであっても良い。ここで参照する図6は、減速機を有するブレーキ装置の構成説明図である。なお、ここでの他の実施形態の説明において、前記実施形態と同様の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0067】
図6に示すように、このブレーキ装置10においては、電動機13のトルクが減速機50を介してピニオン軸54に伝達されるように構成されている。
【0068】
減速機50は、ウォーム軸52と、ウォームギヤ51と、ウォームホイール53とで主に構成されている。
【0069】
ウォーム軸52は、図6の紙面に対して垂直方向に延びる電動機13のモータ軸(図示省略)と同軸となるように連結されている。このウォーム軸52に取り付けられたウォームギヤ51は、ウォーム軸52の上端に取り付けられたウォームホイール53と噛み合うようになっている。
【0070】
このような減速機50を備えたブレーキ装置10によれば、電動機13のトルクを効率良く伝達することができると共に、出力軸16の推力を、より精度良く調節することができる。
【0071】
このような減速機50を備えるブレーキ装置10は、ピニオン軸54にトルクリミッタを設けても良い。
なお、図6中、符号18はケースであり、符号31は第1ピストンであり、符号34はシリンダボディである。
【0072】
また、前記実施形態では、入力軸15は、球面軸受17を介して磁歪センサ20と当接しているが、本発明は磁歪センサ20に入力軸15が直接当接するブレーキ装置10であってもよい。ここで参照する図7は、磁歪センサ(磁気変化部)に入力軸が直接当接する他の実施形態に係るブレーキ装置の構成説明図である。なお、ここでの他の実施形態の説明において、前記実施形態と同様の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0073】
図7に示すように、このブレーキ装置10は、磁歪センサ20の入力軸15が当接する軸心部分に切欠部21bを設けた構成となっている。
ここでの切欠部21bの形状は、側断面視でV字状となる窪みで構成されているが、入力軸15の球体部15bの半体を模った半球状の窪みであっても良い。
【0074】
このブレーキ装置10は、磁歪センサ20の軸心部分に設けられた切欠部21bに入力軸15が当接するので、ブレーキペダル19a(図1参照)の操作によって入力軸15が磁歪センサ20を押圧する際に、入力軸15は磁歪センサ20の軸心部分からずれて磁歪センサ20を押圧することが防止される。したがって、このブレーキ装置10によれば、磁歪センサ20に対して偏荷重が加えられることが防止されるので、磁歪センサ20は、入力軸15から出力軸16に伝達される荷重を精度良く検出することができる。
なお、図7中、符号16bは窪みであり、符号21aは位置決め部であり、符号Gは間隙である。
【0075】
また、前記実施形態では、位置決め部21aが、鉄系部材21が部分的に前方に突出するように形成され、出力軸16の穴16aの奥止まりに形成された窪み16bに嵌合するようになっているが、本発明は位置決め部21aが、鉄系部材21が部分的に後方に凹むように形成され、この凹みに出力軸16の穴16aの奥止まりに形成された突起が嵌合するよう構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 ブレーキ装置
11 踏力検出手段(荷重検出手段)
12 駆動装置
13 電動機
14 ラックアンドピニオン機構
14a ピニオン
14b ラック歯
15 入力軸
16 出力軸
16a 穴(開口部)
19a ブレーキペダル
20 磁歪センサ(磁気変化部)
21 鉄系部材
21a 位置決め部
21b 切欠部
22 磁歪膜
23 コイル
24 ラック押付機構
30 マスタシリンダ
31 第1ピストン
32 第2ピストン
38a 第1圧力室
38b 第2圧力室
40 油圧回路
41 ブレーキ機構
42 制御部
43 高周波加熱装置
50 減速機
54 ピニオン軸
F 荷重
G 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキペダルに連結されて前記ブレーキペダルの操作により進退する入力軸と、
前記入力軸の先端部を囲む開口部を備える出力軸と、
前記入力軸と前記出力軸との間で前記出力軸の前記開口部に配置されて前記ブレーキペダルの操作により前記入力軸から前記出力軸に伝達する荷重を検出する荷重検出手段と、
前記荷重検出手段で検出した荷重に基づきブレーキに制動力を付与する駆動装置と、
を備えたブレーキ装置であって、
前記荷重検出手段は、磁歪膜を備えた磁気変化部と、
前記磁気変化部の表面に対向するように配置され前記入力軸が進退することで発生する前記磁気変化部の磁気特性の変化を検出するコイルと、
を有し、
前記磁気変化部に、前記磁気変化部と前記コイルとの間に所定の間隙を形成するための位置決め部を設けたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記磁気変化部の前記入力軸が当接する軸心部分に切欠部を設けたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記荷重検出手段で検出した前記荷重に基づきトルクを発生させる電動機と、
前記電動機の前記トルクを伝達するピニオンと、
前記ピニオンと噛み合うように前記出力軸に設けられたラック歯と、
を有し、
前記出力軸を前記ピニオンに押し付けるラック押付機構を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
鉄系部材の表面に前記磁歪膜を設ける磁歪膜形成工程と、
前記鉄系部材の少なくとも一方を前記鉄系部材の軸方向に引張荷重を印加する荷重印加工程と、
前記引張荷重を印加した状態のままで前記磁歪膜を設けた前記鉄系部材を高周波加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後に、前記引張荷重を印加した状態のままで前記磁歪膜を設けた前記鉄系部材を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、前記引張荷重を解放する荷重解放工程と、
を経て製造された前記磁気変化部を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−11659(P2011−11659A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158276(P2009−158276)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】