説明

ブレードベアリングの位相変更方法及び位相変更用治具

【課題】簡単な工程によってブレードベアリング30のブレード側転動輪32のブレード10に対する位相を変更可能なブレードベアリングの位相変更方法等を提供する。
【解決手段】風力発電装置のハブ20に固定されるハブ側転動輪31及びブレード10に固定されるブレード側転動輪32を有するブレードベアリング30におけるブレード側転動輪のブレードに対する位相を変更するブレードベアリングの位相変更方法を、ブレードの下垂時にブレードの自重によって伸縮可能なバネ要素を有する第1の治具110と、ハブとブレードとを離間可能なジャッキ機構を有する第2の治具120とを使用してブレードとブレード側転動輪とを切り離し、ブレード側転動輪をブレードに対して相対回転させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置のブレードをハブに対して回転可能に保持するブレードベアリングの転動輪の位相を変更する位相変更方法及び位相変更用治具に関し、特に簡単な工程によって位相変更が可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置は、地表等から上方へ突き出したタワーによって高所に支持されたナセル内に発電機を収容し、この発電機を風車であるロータによって回転駆動して発電を行なうものである。
ロータは、風力を受けて揚力を発生する翼部であって、複数が放射状に配置されたブレードと、ブレードの基部として機能し、発電機の主軸と接続されたハブとを有して構成されている。
【0003】
ロータは、風力発電装置の運転状態に応じてブレードのピッチ角を変更可能となっている。
このため、ブレードは、ハブに対してブレードベアリングを介して回転可能に支持されている。
また、ロータには、上述したピッチ制御のため、ハブに対してブレードを回転駆動する駆動機構が設けられている。
【0004】
このようなブレードベアリング及び駆動機構の一例として、ブレードベアリングの一方の転動輪をハブに固定するとともに、他方の転動輪をブレードに固定し、ブレード側の転動輪にピッチ駆動用のリングギヤを形成することが提案されている。
【0005】
また、風力発電装置のブレードピッチ駆動機構に関する従来技術として、例えば特許文献1には、複数のブレードをそれぞれ回動させる風車ブレードのピッチ角制御装置において、伝達手段を囲むカバーの一方の側に減速機を配置し、他方の側にメインモータ等を配置して、いずれかの部品が故障した際の修理作業性を向上したものが記載されている。
また、特許文献2には、ブレードに設けられたリングギヤを駆動する出力軸歯車のメインテナンス時に、ブレードが回転しないよう保持する保持部材を設けたピッチ駆動装置が記載されている。
また、特許文献3には、ブレードベアリングの軸受リングに形成されるギヤセグメントを安価に製作するために、軸受リングの周上における一部の領域にのみギヤセグメントを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4229764号
【特許文献2】特開2007−138751号公報
【特許文献3】特表2009−516118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ブレードベアリングのブレード側転動輪に形成されたギヤを駆動するピッチ駆動機構において、一般的には頻繁に使用するピッチ角は所定の範囲内に集中することから、ギヤを転動輪の全周にわたって形成した場合であっても、実際に負荷を受ける部分は限られている。
このため、リングギヤの一部が損傷した場合であっても、リングギヤ及び転動輪をブレードから一旦切り離し、ブレードに対して位相をずらせば問題なく継続使用が可能となり、製品の部材寿命を最大限に使用できる。
【0008】
しかし、従来はブレードベアリングのブレード側転動輪をブレードに対して相対回転させるためには、クレーン等の重機を用いてブレードを地上に降ろした状態で作業をする必要があり、工程が煩雑であるとともに、多大なコストも必要であった。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡単な工程によってブレードベアリングのブレード側転動輪のブレードに対する位相を変更可能なブレードベアリングの位相変更方法及び位相変更用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、風力発電装置のナセルに回転可能に支持されたハブと、前記ハブから放射状に突き出して配置され風力を受けて前記ハブを回転駆動する揚力を発生するブレードと、前記ハブに固定されるハブ側転動輪及び前記ブレードに固定されるブレード側転動輪を有し、前記ブレードを前記ハブに対して回転可能に支持するブレードベアリングと、前記ブレード側転動輪に設けられたリングギヤ及び前記リングギヤを駆動する駆動ギヤを有するピッチ駆動機構とを備える風力発電装置における前記ブレード側転動輪の前記ブレードに対する位相を変更するブレードベアリングの位相変更方法であって、前記ブレードが前記ハブの上方となる状態で、前記ハブと前記ブレードとの接続部に、前記ハブと前記ブレードとを接続するとともに、前記ブレードの下垂時に前記ブレードの自重によって伸縮可能なバネ要素を有する第1の治具と、前記ハブと前記ブレードとを離間可能なジャッキ機構を有する第2の治具とを装着し、前記ブレードと前記ブレード側転動輪との固定を解除し、前記ブレードが下垂するよう前記ハブを回転させて前記第1の治具の前記バネ要素を伸長させ前記ブレードと前記ブレード側転動輪との間の一部の領域に隙間を形成し、前記ブレードと前記ブレード側転動輪とが当接する領域の近傍に配置された前記第2の治具の前記ジャッキ機構を用いて前記ブレードと前記ブレード側転動輪とを切り離し、前記ブレード側転動輪を前記ブレードに対して相対回転させることを特徴とするブレードベアリングの位相変更方法である。
【0010】
請求項2の発明は、前記ハブの回転中心軸は、前記ナセルから遠い側が高くなるようチルト角が設けられ、前記ロータは、先端部が前記ナセルを支持するタワーから遠くなるようコーン角が設けられ、前記第2の治具は、前記ハブと前記ブレードとの接続部における前記ナセルに近い側の領域に装着されることを特徴とする請求項1に記載のブレードベアリングの位相変更方法である。
請求項3の発明は、前記第1の治具及び前記第2の治具の前記ハブ側の端部は、前記ハブ側転動輪を前記ハブに固定している締結手段を用いて前記ハブ側転動輪に固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブレードベアリングの位相変更方法である。
【0011】
請求項4の発明は、風力発電装置のナセルに回転可能に支持されたハブと、前記ハブから放射状に突き出して配置され風力を受けて前記ハブを回転駆動する揚力を発生するブレードと、前記ハブに固定されるハブ側転動輪及び前記ブレードに固定されるブレード側転動輪を有し、前記ブレードを前記ハブに対して回転可能に支持するブレードベアリングと、前記ブレード側転動輪に設けられたリングギヤ及び前記リングギヤを駆動する駆動ギヤを有するピッチ駆動機構とを備える風力発電装置における前記ブレード側転動輪の前記ブレードに対する位相を変更する際に用いられるブレードベアリングの位相変更用治具であって、前記ハブと前記ブレードとの接続部に装着され、前記ハブと前記ブレードとを接続するとともに、前記ブレードの下垂時に前記ブレードの自重によって伸縮可能なバネ要素を有する第1の治具と、前記ハブと前記ブレードとの接続部に装着され、前記ハブと前記ブレードとを離間可能なジャッキ機構を有する第2の治具とを有して構成されるブレードベアリングの位相変更用治具である。
【0012】
請求項5の発明は、前記ハブの回転中心軸は、前記ナセルから遠い側が高くなるようチルト角が設けられ、前記ロータは、先端部が前記ナセルを支持するタワーから遠くなるようコーン角が設けられ、前記第2の治具は、前記ハブと前記ブレードとの接続部における前記ナセルに近い側の領域に装着されることを特徴とする請求項4に記載のブレードベアリングの位相変更用治具である。
請求項6の発明は、前記第1の治具及び前記第2の治具の前記ハブ側の端部は、前記ハブ側転動輪を前記ハブに固定している締結手段を用いて前記ハブ側転動輪に固定されることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のブレードベアリングの位相変更用治具である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブレードを下垂させた際にブレードの自重によってハブとブレードとが離間する領域はバネ要素を有する第1の治具によってハブとブレードとの間に隙間を設けるとともに、ブレードの自重によってハブとブレードとが密着する領域はジャッキ機構を有する第2の治具で強制的に離間させることによって、ブレードを転動体から切り離し可能な状態に保持することができる。
そして、この状態で転動体をブレードに対して相対回転させて位相を変更することによって、例えばクレーン等の重機でブレードを降ろすことなく、簡単な工程によってブレードベアリングの位相を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のブレードベアリングの位相変更方法の実施例の対象となりかつ本発明のブレードベアリングの位相変更用治具の実施例が装着される風力発電装置のハブ部周辺を示す図である。
【図2】図1のII部拡大図である。
【図3】実施例におけるバネ治具の構成を示す図である。
【図4】実施例におけるジャッキ治具の構成を示す図である。
【図5】実施例のブレードベアリングの位相変更方法の工程を示す図であって、ブレードをハブの上方に配置してバネ治具及びジャッキ治具を装着した状態を示す図である。
【図6】実施例におけるバネ治具及びジャッキ治具の配置を示す図であって、図1のVI−VI部矢視相当の図である。
【図7】実施例のブレードベアリングの位相変更方法の工程を示す図であって、ブレードベアリングの内輪をブレードに固定しているボルトを取り外した状態を示す図である。
【図8】実施例のブレードベアリングの位相変更方法の工程を示す図であって、ブレードが下垂するようにハブを回転させた直後の状態を示す図である。
【図9】実施例のブレードベアリングの位相変更方法の工程を示す図であって、ジャッキ治具によってブレードと内輪とを切り離し内輪を回転駆動している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、簡単な工程によってブレードベアリングのブレード側転動輪のブレードに対する位相を変更可能なブレードベアリングの位相変更方法及び位相変更用治具を提供する課題を、ハブとブレードとの間にバネ要素を有するバネ治具及びジャッキ機構を有するジャッキ治具を装着してブレードとベアリングの内輪との締結を解除し、ブレードを下垂させてブレードの自重及びジャッキ機構でブレードとベアリング内輪とを切り離した状態で内輪をブレードに対して相対回転させることによって解決した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を適用したブレードベアリングの位相変更方法及び位相変更用治具の実施例について説明する。
図1は、実施例のブレードベアリングの位相変更方法の対象となりかつ実施例のブレードベアリングの位相変更用治具が装着される風力発電装置のハブ部周辺を示す図である。
図2は、図1のII部拡大図である。
このハブ部は、風力発電装置のロータ中央部に設けられる。
風力発電装置は、地表、海底又は浮体等から上方へ突出したタワーによって高所に支持されたナセル内に発電機を設置し、この発電機を風車であるロータによって回転駆動するものである。
【0017】
図1に示すように、ロータ1は、ブレード10、ハブ20、ブレードベアリング30を備えて構成されている。
また、図2に示すように、ロータ1は、ピッチ駆動装置40を備えている。
ブレード10は、風力を受けて揚力を発生し、ロータ1の回転力を発生する翼部である。
ブレード10は、複数本がハブ20を中心に放射状に設けられている。
ブレード10のハブ20側の端部(翼根部)11は、中空のほぼ円筒状に形成されている。
ブレード10の端部11近傍の外周面部には、ブレード10の外周面からボルトの締結が可能なバレルナット12が設けられている。
バレルナット12は、ブレード10の端部11の周方向に、ほぼ等間隔に分散して複数設けられている。
【0018】
ハブ20は、ロータ1の中央部に配置され、ブレード10が取り付けられる基部である。
ハブ20は、図示しないナセル側に突き出した回転軸21回りに、回転可能に支持されている。
回転軸21は、図示しない発電機の主軸に接続され、ロータ1の回転力を発電機に伝達する。
また、ハブ20と発電機との間には、必要に応じて増速機構が設けられる場合もある。
ハブ20の外周面には、ブレードベアリング30が取り付けられる円形の座部22がブレード10の本数分、周方向にほぼ等間隔に分散して形成されている。
座部22には、ロータ1の径方向に突き出し、ブレードベアリング30の締結に用いられるボルトB1が設けられている。ボルトB1は、座部の周方向に分散して複数設けられている。
【0019】
ブレードベアリング30は、ブレード10をハブ20に対してピッチ角変更方向に回転可能に支持するものである。
ブレードベアリング30は、一例として外輪31、内輪32、鋼球33を有する複列の深溝玉軸受である。
【0020】
外輪31は、周方向に切って見た断面形状がほぼ矩形に形成された円環状の部材であって、内周面部に軌道面となる溝が形成されている。
外輪31は、軸方向に形成された貫通穴に、座部22から突き出したボルトB1を通し、このボルトにナットN1を締結することによって、ハブ20に固定される。
【0021】
内輪32は、周方向に切って見た断面形状がほぼ矩形に形成された円環状の部材であって、外周面部に軌道面となる溝が形成されている。
内輪32は、外輪31の内径側に同心に配置される。
内輪32は、軸方向に形成された貫通穴に、ハブ20側からボルトB2を挿入し、ボルトB2のネジ部をブレード10の端部11に形成された貫通穴を経由して、バレルナット12のネジ穴に締結することによって、ブレード10に固定される。
【0022】
鋼球33は、外輪31の軌道面と内輪32の軌道面との間に組み込まれる転動体である。
また、内輪32の内周面には、ピッチ駆動装置40によって駆動される内歯歯車であるリングギヤ34が形成されている。
【0023】
図2等に示すピッチ駆動装置40は、ピニオンギヤ41、アクチュエータユニット42等を備えて構成されている。ピッチ駆動装置40は、上述したリングギヤ34と協働してピッチ角を変更する駆動機構を構成する。
ピニオンギヤ41は、リングギヤ34と噛合ってリングギヤ34を駆動する駆動ギヤである。
アクチュエータユニット42は、ピニオンギヤ41を回転駆動するモータ及び減速機構等を有して構成されている。
尚、リングギヤ34は、本実施例では内輪32についており、ピッチ駆動装置40はハブ20内部に配置されているが、リングギヤが外輪側、ピッチ駆動装置がハブの外側に配置されていても良い。その場合、バネ治具およびジャッキ治具はブレード内部に配置される。
【0024】
また、図1に示すように、ブレード10には、ロータ1の回転中心軸と直交する方向に対して、突端部がナセル及びタワーから遠ざかるようにコーン角αが設けられている。
また、ロータ1の回転中心軸には、ナセルから離れた側がナセル側よりも高くなるようにチルト角βが設けられている。
【0025】
以下、上述したロータ1において、リングギヤ34の一部が損傷した場合に、ブレードベアリング30の内輪32をブレード10に対して相対回転させて位相を変更する方法及び、この方法において用いられる位相回転用治具について説明する。
本実施例においては、以下説明するバネ治具110及びジャッキ治具120を用いる。
図3及び図4は、それぞれバネ治具110及びジャッキ治具120の構成を示す図であって、図2に示す断面に装着した状態を示すものである。
【0026】
図3に示すバネ治具110は、ブレード側固定部111、ハブ側固定部112、バネ部113、連結部114を有して構成されている。
ブレード側固定部111は、ブレード10の外周面に固定される平板状の面部である。
ブレード側固定部111は、ボルト孔を有し、ボルトB3をボルト孔に通しバレルナット12に締結することによってブレード10に固定される。
【0027】
ハブ側固定部112は、ブレードベアリング30の外輪31を介してハブ20に固定される部分である。
ハブ側固定部112は、ボルトB1と直交する方向に延びた平板状の面部である。ハブ側固定部112は、ボルトB1が挿入されるボルト孔が形成されている。
ハブ側固定部112は、ボルト孔にボルトB1を挿入し、ナットN2によって締結される。このとき、ハブ側固定部112は、ナットN1とナットN2との間に挟まれた状態となる。
【0028】
バネ部113は、ブレード側固定部111と連続して配置され、弾性を有する材料によって形成されたプレートをU字状に屈曲させて構成されている。
この屈曲部は、ブレード側固定部111に対して、ブレードベアリング30の径方向外側へ突出して配置されている。
バネ部113は、主に屈曲部を弾性変形させることによって、ブレード側固定部111とハブ側固定部112との間のブレード10長手方向への伸縮及び微小な傾斜を許容するようになっている。
【0029】
連結部114は、バネ部113とハブ側固定部112とを接続する部分であって、ブレード10の外周面にほぼ沿って伸びた平板状のプレートとして形成されている。
以上説明したブレード側固定部111、ハブ側固定部112、バネ部113、連結部114は、例えば鋼板等の弾性を有する材料からなる帯状のプレートを曲げ加工することによって、一体に形成されている。
【0030】
図4に示すジャッキ治具120は、ブレード側固定部121、ジャッキ部122を有して構成されている。
ブレード側固定部121は、ブレード10の外周面に固定される平板状の面部である。
ブレード側固定部121は、ボルト孔を有し、ボルトB4をボルト孔に通しバレルナット12に締結することによってブレード10に固定される。
【0031】
ジャッキ部122は、ブレード側固定部121のハブ20側の端部から、ブレードベアリング30の径方向外側へ突き出した平板状の面部である。ジャッキ部122は、ブレードベアリング31の端面と対向して配置されている。
ジャッキ部122には、ネジ孔が形成され、このネジ孔にはボルトB5がロータ1の外径側から挿入されている。
ボルトB5の突端部は、ボルトB1の突端部と対向して配置されている。
ボルトB5は、これを締めこんでいくことによって、その突端部でボルトB1の突端部を押圧し、ブレード10をハブ20の座部22から強制的に離間させるジャッキ機能を発揮する。
ブレード側固定部121及びジャッキ部122は、例えば、鋳物に機械加工を施して一体に形成することが可能であるが、材質、製法等は特に限定されない。また、これらを別部品として形成し、結合してもよい。
但し、ジャッキ治具120においては、ジャッキ部122を利用してブレード10と外輪31とを離間させる際に、過度に撓まないだけの剛性が必要である。
【0032】
以下、上述したバネ治具110及びジャッキ治具120を用いたブレードベアリング30の内輪32の位相変更方法について詳細に説明する。
先ず、ロータ1を回転させて、内輪32の位相変更を必要とするブレード10がハブ20の上方となるように配置する。
この状態で、図5に示すように、ブレード10のバレルナット12とブレードベアリング30の外輪31との間に、複数のバネ治具110及び複数のジャッキ治具120を装着する。
このとき、ジャッキ治具120のボルトB5は、突端部がボルトB1から離間した状態となっている。
【0033】
図6は、バネ治具及びジャッキ治具の配置を示す図であって、図1のVI−VI部矢視相当の図である。
ジャッキ治具120は、ブレード10の端部11のうちナセル側の領域に重点的に配置される。
図6に示す例では、バネ治具110及びジャッキ治具120は、例えば周上24箇所に設けられるが、ジャッキ治具120は5個が設けられ、ナセル側の領域においてはジャッキ治具120とバネ治具110とが1つおきに配置されている。
また、その他の箇所には、全てバネ治具110が装着されている。
【0034】
次に、図7に示すように、ブレードベアリング30の内輪32をブレード10に固定しているボルトB2を引き抜いて除去する。
【0035】
次に、図8に示すように、ブレード10が下垂するようにロータ1を回転させる。
ここで、バネ治具110のバネ部113のバネ定数を適切に調整することによって、ブレード10の自重、コーン角α、チルト角βによって生じるブレード10の重心位置のオフセット効果によって生ずるモーメントにより、ナセルから遠い側においては、ブレード10と内輪32との間に隙間が生じる。一方、ナセルから近い側においては、ブレード10と内輪32とが密着した状態となっている。
【0036】
次に、図9に示すように、ジャッキ治具120のボルトB5を締めこみ、ブレード10と外輪31とを強制的に離間させる。
これによって、ブレード10の端部11と内輪32との間には、全周にわたって隙間が形成され、これらは完全に切り離された状態となる。また、ブレード10は、各治具によってハブ20に対する相対回転が規制される。
この状態で、ピッチ駆動装置40によって内輪32をブレード10に対して相対回転させ、リングギヤ34の未損傷部分が常用範囲となるように位相を変更することが可能である。
【0037】
そして、ブレード10に対して内輪32を所定の位相まで変位させた後、上述した手順と逆の手順によって、内輪32をブレード10に締結し、各治具を取り外して位相変更作業は終了する。
【0038】
以上説明した実施例によれば、ブレードベアリング30の内輪32に形成されたリングギヤ34の一部に損傷が生じた場合に、例えばクレーン等の重機でブレード10を降ろすことなく内輪32をブレード10に対して相対回転させて再固定することが可能である。このため、リングギヤ34の未損傷箇所を常用範囲に移動させることによって、内輪32及びリングギヤの継続使用が可能となり、部材寿命を延長することができる。
【0039】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、各治具の形状、構造等は適宜変更することが可能である。
例えば、バネ治具は、実施例のような一体成型のものに限らず、別部品からなるバネ要素を備えるものであってもよい。また、バネ要素も板バネには限定されない。
また、ジャッキ治具のジャッキ機構も、実施例のようなネジ式のものに限らず適宜変更することが可能である。
また、本発明の適用対象となるハブ、ブレード、ブレードベアリングの構成も上述した実施例には限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1 ロータ 10 ブレード
11 端部 12 バレルナット
20 ハブ 21 回転軸
22 座部
30 ブレードベアリング 31 外輪
32 内輪 33 鋼球
34 リングギヤ 40 ピッチ駆動装置
41 ピニオンギヤ 42 アクチュエータユニット
110 バネ治具 111 ブレード側固定部
112 ハブ側固定部 113 バネ部
114 連結部 120 ジャッキ治具
121 ブレード側固定部 122 ジャッキ部
B1〜B5 ボルト N1〜N2 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置のナセルに回転可能に支持されたハブと、
前記ハブから放射状に突き出して配置され風力を受けて前記ハブを回転駆動する揚力を発生するブレードと、
前記ハブに固定されるハブ側転動輪及び前記ブレードに固定されるブレード側転動輪を有し、前記ブレードを前記ハブに対して回転可能に支持するブレードベアリングと、
前記ブレード側転動輪に設けられたリングギヤ及び前記リングギヤを駆動する駆動ギヤを有するピッチ駆動機構と
を備える風力発電装置における前記ブレード側転動輪の前記ブレードに対する位相を変更するブレードベアリングの位相変更方法であって、
前記ブレードが前記ハブの上方となる状態で、前記ハブと前記ブレードとの接続部に、前記ハブと前記ブレードとを接続するとともに、前記ブレードの下垂時に前記ブレードの自重によって伸縮可能なバネ要素を有する第1の治具と、前記ハブと前記ブレードとを離間可能なジャッキ機構を有する第2の治具とを装着し、
前記ブレードと前記ブレード側転動輪との固定を解除し、
前記ブレードが下垂するよう前記ハブを回転させて前記第1の治具の前記バネ要素を伸長させ前記ブレードと前記ブレード側転動輪との間の一部の領域に隙間を形成し、
前記ブレードと前記ブレード側転動輪とが当接する領域の近傍に配置された前記第2の治具の前記ジャッキ機構を用いて前記ブレードと前記ブレード側転動輪とを切り離し、
前記ブレード側転動輪を前記ブレードに対して相対回転させること
を特徴とするブレードベアリングの位相変更方法。
【請求項2】
前記ハブの回転中心軸は、前記ナセルから遠い側が高くなるようチルト角が設けられ、
前記ロータは、先端部が前記ナセルを支持するタワーから遠くなるようコーン角が設けられ、
前記第2の治具は、前記ハブと前記ブレードとの接続部における前記ナセルに近い側の領域に装着されること
を特徴とする請求項1に記載のブレードベアリングの位相変更方法。
【請求項3】
前記第1の治具及び前記第2の治具の前記ハブ側の端部は、前記ハブ側転動輪を前記ハブに固定している締結手段を用いて前記ハブ側転動輪に固定されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブレードベアリングの位相変更方法。
【請求項4】
風力発電装置のナセルに回転可能に支持されたハブと、
前記ハブから放射状に突き出して配置され風力を受けて前記ハブを回転駆動する揚力を発生するブレードと、
前記ハブに固定されるハブ側転動輪及び前記ブレードに固定されるブレード側転動輪を有し、前記ブレードを前記ハブに対して回転可能に支持するブレードベアリングと、
前記ブレード側転動輪に設けられたリングギヤ及び前記リングギヤを駆動する駆動ギヤを有するピッチ駆動機構と
を備える風力発電装置における前記ブレード側転動輪の前記ブレードに対する位相を変更する際に用いられるブレードベアリングの位相変更用治具であって、
前記ハブと前記ブレードとの接続部に装着され、前記ハブと前記ブレードとを接続するとともに、前記ブレードの下垂時に前記ブレードの自重によって伸縮可能なバネ要素を有する第1の治具と、
前記ハブと前記ブレードとの接続部に装着され、前記ハブと前記ブレードとを離間可能なジャッキ機構を有する第2の治具と
を有して構成されるブレードベアリングの位相変更用治具。
【請求項5】
前記ハブの回転中心軸は、前記ナセルから遠い側が高くなるようチルト角が設けられ、
前記ロータは、先端部が前記ナセルを支持するタワーから遠くなるようコーン角が設けられ、
前記第2の治具は、前記ハブと前記ブレードとの接続部における前記ナセルに近い側の領域に装着されること
を特徴とする請求項4に記載のブレードベアリングの位相変更用治具。
【請求項6】
前記第1の治具及び前記第2の治具の前記ハブ側の端部は、前記ハブ側転動輪を前記ハブに固定している締結手段を用いて前記ハブ側転動輪に固定されること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載のブレードベアリングの位相変更用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154267(P2012−154267A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14995(P2011−14995)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】