説明

ブロックトメルカプトシランの製造方法

【課題】 カップリング剤用のブロックトメルカプトシランの製造方法の提供。
【解決手段】 (a)一般式(RSiG)(式中、各Rは、少なくとも1個のR基がメトキシ又はエトキシであることを条件として、独立にメトキシ、エトキシ又は炭素原子数1〜約6のアルキルであり、Gは炭素原子数1〜約12のアルキレン基であり、nは2〜約8である。)の1種以上のポリスルファン含有有機ケイ素化合物を、1種以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性誘導体と反応させて、対応ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を得る段階、及び(b)ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩をアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物と反応させて、ブロックトメルカプトシランを得る段階を含むブロックトメルカプトシランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物からのブロックトメルカプトシランの製造方法であって、ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を、ポリスルファン含有有機ケイ素とアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の強塩基誘導体との反応で形成する方法に関する。本発明は、ゴム混合物におけるカップリング剤としてのブロックトメルカプトシランの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
含イオウ有機ケイ素化合物は、シリカ充填タイヤの製造における必須成分として有用である。シリカ充填タイヤは、自動車用途で向上した性能、特に向上した耐摩耗性、転がり抵抗及びウェット滑り特性を与える。シリカ充填タイヤのカップリング剤として広範な含イオウ有機ケイ素化合物が用いられている。メルカプト含有有機ケイ素化合物は、少ない配合量で優れたカップリングをもたらすが、有機ポリマーとの化学反応性のため加工時に許容できないほど高い粘度を生じると共に早期加硫を生ずる。ブロックト(封鎖)メルカプトシランは、こうした問題を生じることなく、メルカプト含有有機ケイ素化合物の有益な効果を保持することが示されている。ブロックトメルカプト含有有機ケイ素化合物、特にチオカルボン酸含有ケイ素化合物は、メルカプト含有ケイ素化合物と酸ハロゲン化物との反応によって製造することができる。この反応の副生物である塩化水素は有機ケイ素化合物と反応し、所望生成物を分解してクロロシランを発生させる。こうした塩化水素との反応は非常に速く、生成物中への塩化水素の溶解度が高いため従来の機械的手段、つまり温度又は圧力では防ぐことができない。ナトリウムアルコキシドやプロピレンオキシドのような塩基の使用によって上記クロロシランを中和することができるが、生成物の分解及び/又は不都合な混合物を生じ、この方法は望ましくないものとなってしまう。
【0003】
従前もちいられてきた別の方法は、酸受容体つまり第3級アミンを使用して塩化水素をその場で中和することであるが(2002年11月4日出願の米国仮特許出願第60/423577号参照。)、この方法は化学量論量のアミンを必要とするためバッチ収量が低下し、また後段で除去しなければならない大量の不都合な塩を生じる(米国特許第6229036号参照。)。公知の通り、第3級アミン塩はその溶解度のため除去するのが困難であり、従来の濾過法は機械集約的で収量が不十分となることが多い。さらに、フィルターケークをさらに加工することは、第3級アミンと塩化水素塩自体の廃棄処分のような追加のコストが加わり、また大きな環境問題を生じる。
【0004】
上述の通り、メルカプト含有有機ケイ素化合物の金属塩と酸ハロゲン化物との反応は所望のブロックトメルカプトシラン及び金属ハロゲン化物塩を生じるが(米国特許第6414061号参照、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)、上述の問題に加えて、メルカプト含有有機ケイ素化合物が高価であることから、その使用範囲を拡大することができない。そこで、安価で上述のような化学的及び環境的問題を生じない方法を用いて、ブロックトメルカプトシランを開発することに関心がもたれている。イオウ−イオウ結合を切断する方法は、アミン、ホスフィン、金属シアン化物、金属水素化物及びアルカリ金属のような塩基の使用など、多数知られているが、ホスフィン及び金属水素化物は高価であり、金属シアン化物は多大な安全上の問題をもたらす。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/423577号明細書
【特許文献2】米国特許第6229036号明細書
【特許文献3】米国特許第6414061号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリスルファン含有ケイ素化合物は、安価で広く入手可能であり、その値ごろ感に加え、金属ハロゲン化物副生物はブロックトメルカプトシラン生成物と反応しないし、またポリスルファン含有ケイ素化合物には、第3級アミンハロゲン化物塩のような環境上の問題もない。アルカリ金属は安全で安価である。アルカリ金属とポリスルファン含有有機ケイ素化合物との反応でポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を生じさせると、所望の酸受容体がその場で得られ、これを用いて所望のブロックトメルカプトシラン化合物及び金属ハロゲン化物塩を生成することができる。
【0006】
さらに、生成物の水洗を用いると、上述のコスト及び金属塩除去の問題が最小限に抑えられる。濾過又は遠心分離器の使用による金属ハロゲン化物塩の除去では、集中的な機械ユニット操作及び設備投資が必要とされるが、水洗ではこれらは必要なく、ブロックトメルカプトシランが一方の相に含まれ、金属ハロゲン化物の水溶液がもう一方の相に含まれる二相系が得られる。この方法の主な問題点は、ブロックトメルカプトシランの加水分解及び有機官能性シランの可能性があることである。しかし、金属ハロゲン化物の存在によって、水相のイオン性が高まり、そのため加水分解反応は最小限に抑えられる(米国特許第6294683号参照)。
【0007】
本発明の目的は、カップリング剤用のブロックトメルカプトシランの製造方法であって、ブロックトメルカプトシランと反応する副生物の生成を最小限に抑え、中和又は濾過を必要とせず、商用として手ごろな方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記その他の目的を踏まえて、ブロックトメルカプトシランの製造方法であって、
(a)以下の一般式の1種以上のポリスルファン含有有機ケイ素化合物を、1種以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性誘導体と反応させて、対応ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を得る段階
(RSiG)
(式中、各Rは、少なくとも1個のR基がメトキシ又はエトキシであることを条件として、独立にメトキシ、エトキシ又は炭素原子数1〜約6のアルキルであり、Gは炭素原子数1〜約12のアルキレン基であり、nは2〜約8である。)、及び
(b)ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩をアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物と反応させて、ブロックトメルカプトシランを得る段階
を含んでなる方法を提供する。
【0009】
前記の米国特許第6414061号に記載の方法とは対照的に、本発明の方法は、容易に入手可能なポリスルファン含有有機ケイ素化合物からブロックトメルカプトシランを合成できる。そのため、高純度のブロックトメルカプトシランが得られ、ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物との反応で生じる副生物の金属ハロゲン化物を除去するための中和も濾過も必要とされない。
【0010】
本発明のもう一つの目的は最終生成物溶液の水洗を伴う方法を提供することであり、これは、前記の米国特許第6414061号で必要とされる蒸留段階とは異なり、金属ハロゲン化物副生物からブロックトメルカプトシラン生成物を分離するための便利で効率的な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法では、式(RSiG)(式中、R、G及びnは上記の通りの意味を有する。)のポリスルファン含有有機ケイ素化合物が、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の強塩基誘導体と反応して、以下の反応(ナトリウムのようなアルカリ金属で例示する)に従ってポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を形成すると考えられる。
金属+(RSiG) → (RSiG)S−金属
【0012】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を、例えば式RC(O)X(式中、R及びXは上記の通りの意味を有する。)のアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物のような反応性ハロゲン化物と反応させると、以下の反応に従って、ブロックトメルカプトシラン生成物と金属ハロゲン化物副生物を生じると考えられる。
(RSiG)S−金属+RC(O)X → RC(O)SGSiR+金属−X
【0013】
有用なポリスルファン含有有機ケイ素化合物としては、例えば、ビス[(トリエトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(メチルジエトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(トリエトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン、ビス[(メチルジエトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン、ビス[(トリメトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(メチルジメトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(トリメトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン及びビス[(メチルジメトキシシリル)イソブチル]ポリスルファンが挙げられる。
【0014】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物を、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の強塩基誘導体と反応させる。有用なアルカリ金属、アルカリ土類金属及び塩基性金属誘導体としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド及びこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
得られたポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を、例えば上記の一般式RC(O)X(式中、Rは、ハロゲン又は炭素原子数18以下以下のアルキル、アルケニル、アリール、アルカリールもしくはアラルキルであり、Xはハロゲンである。)のアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物と反応させて、ブロックトメルカプトシランを生じさせる。有用なアシルハロゲン化物としては、塩化アセチル、塩化プロパノイル、塩化ブタノイル、塩化ペンタノイル、塩化ヘキサノイル、塩化ヘプタノイル、塩化オクタノイル、塩化2−エチルヘキサノイル、塩化ラウロイル、塩化オレオイル、クロロギ酸オクチル、塩化アジポイル、塩化フェニルアセチル、塩化ベンゾイル、塩化テレフタロイル及びクロロギ酸フェニルが挙げられる。有用なカルボニルジハロゲン化物としては、二塩化カルボニル(ホスゲン)、ジホスゲン、トリホスゲン、チオホスゲン及び塩化オキサリルが挙げられる。
【0016】
上述の方法で得られるブロックトメルカプトシラン生成物は一般式RC(O)SGSiR(式中、R、R及びGは上記の通りの意味を有する。)のものである。ブロックトメルカプトシランの具体例としては、例えば、2−トリエトキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−トリメトキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジメトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、3−トリメトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、トリエトキシシリルメチルチオアセテート、トリメトキシシリルメチルチオアセテート、トリイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、メチルジエトキシシリルメチルチオアセテート、メチルジメトキシシリルメチルチオアセテート、メチルジイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルエトキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルメトキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、2−トリイソプロポキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジエトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジイソプロポキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルエトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルメトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルイソプロポキシシリル)−1−エチルチオアセテート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−トリイソプロポキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジエトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジメトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジイソプロポキシシリル−1−プロピルチオアセテート、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルシクロへキサン、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−3−チオアセチルシクロへキサン、2−トリエトキシシリル−5−チオアセチルノルボルネン、2−トリエトキシシリル−4−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−5−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルノルボルネン、6−トリエトキシシリル−1−ヘキシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−5−ヘキシルチオアセテート、8−トリエトキシシリル−1−オクチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−7−オクチルチオアセテート、6−トリエトキシシリル−1−ヘキシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−5−オクチルチオアセテート、8−トリメトキシシリル−1−オクチルチオアセテート、1−トリメトキシシリル−7−オクチルチオアセテート、10−トリエトキシシリル−1−デシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−9−デシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−2−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−メチル−2−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−メチル−3−ブチルチオアセテート、3−トリメトキシシリル−1−プロピルチオオクタノエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオパルミテート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオオクタノエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオベンゾエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオ−2−エチルヘキサノエート、3−メチルジアセトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−トリアセトキシシリル−1−プロピルチオアセテート及び2−メチルジアセトキシシリル−1−エチルチオアセテートが挙げられる。
【0017】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物とアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性誘導体との反応は約1:1〜約1:10のモル当量、好ましくは約1:2.0〜約1:2.5のモル当量で実施する。ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物との反応は1.25:1〜約1:1の範囲で実施でき、カルボニルジハロゲン化物との反応は約2.25:1〜約2:1の範囲で実施できる。
【0018】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は塩基性金属誘導体との反応は、周囲温度程度から、用いる金属又は金属誘導体の融点程度までの範囲で実施される。その表面積を増すため使用する金属が液体状態にある温度、例えば約25〜約150℃で実施するのが好ましく、さらに好ましくは約80〜約120℃の範囲内である。これに続くポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物との反応は、周囲温度程度から使用する溶媒の沸点程度までの温度、好ましくは約10〜約50℃の温度で実施される。ブロックトメルカプトシラン生成物と金属ハロゲン化物の水洗は約4〜約100℃、好ましくは約10〜約50℃の範囲で実施される。さらに、この方法全体又はそのいずれかの段階は、周囲圧力、加圧又は減圧下で実施できる。
【0019】
本発明の方法全体又はそのいずれかの段階は溶媒中で実施し得る。有用な溶媒には、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレンのような芳香族化合物、及びヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、オクタンのような炭化水素溶媒がある。
【実施例】
【0020】
以下の実施例は、本発明の方法の例示である。
【0021】
操作はすべて窒素雰囲気中で行った。Silquest(登録商標)A−1589(ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファン)、Silquest(登録商標)A−15304「Silquest(登録商標)A−1589よりも精製されたジスルフィド」(ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファン)、Silquest(登録商標)A−1289(ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスフスルファン)、トルエン及びナトリウムは、それ以上精製せずに入手したままの状態で使用した。脱イオン水は入手したままの状態で使用した。GCデータはすべて重量質量%(wt/wt)単位で表すが、このデータはHewlett−Packard 5890 Series IIガスクロマトグラフを用いたGC実験から得た。実施例では、以下の略語及び商標(それらの詳細と共に)を用いた。
【0022】
【表1】

【0023】
比較例1
周囲温度で、トルエン515.20gをナトリウム25.00g(1.076モル)で処理し、約105℃に加温した。溶融したナトリウム−トルエン懸濁液を、265.21gのMPTES(1.079モル)で30分間処理したところ、水素が発生した。MPTESの添加完了後、得られた無色透明の溶液を約45℃に冷却し、塩化オクタノイル164.75g(0.982モル)で処理した。塩化オクタノイルの添加によって、発熱反応が生じ、塩が生成した。塩化オクタノイルを1時間にわたって添加したところ、反応温度がゆっくりと62℃まで上昇した。反応系を50℃に冷却したところで、脱イオン水215.0gを添加した。その結果、塩が溶解し、二層を形成した。水層を除去し、トルエンを真空除去してトルエン504.72gを回収した(回収率98%)。ブロックトメルカプトシラン387.59gが無色透明の液体として回収され、そのGC組成は以下の通りであった(効率98%)。
【0024】
【表2】

【0025】
比較例2
周囲温度で、50L反応器にトルエン45.0lb(20.4kg)を仕込んだ後、ナトリウム2.4lb(1015g、43.7モル)を仕込んだ。この懸濁液を約105℃に加温し、得られた溶融ナトリウムを24.3lbのMPTES(11.0kg、44.8モル)で1時間22分処理したところ、水素が発生した。MPTESの添加完了後、透明な溶液を周囲温度に冷却し、次いで塩化オクタノイル15.5lb(7.0kg、42.8モル)で1時間35分処理したところ、反応温度が58℃に達した。得られた混合物を32℃に冷却し、次いで脱イオン水19.0lb(8.6kg)を添加した。その結果、塩が溶解し、二層を形成した。水層を除去して水性廃棄物25.4lb(11.5kg)を回収し、トルエンを真空除去してトルエン46.1lb(20.9kg、回収率102%)を回収した。生成物を、5ミクロンのフィルターパッドを用いたKunoフィルターで濾過し、ブロックトメルカプトシラン31.0lb(14.0kg)が黄色透明な液体として回収され、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率85%)。
【0026】
【表3】

【0027】
実施例1
周囲温度で、トルエン526.82gをナトリウム29.28g(1.261モル)で処理し、約110℃に加温した。溶融ナトリウム−トルエン懸濁液を、Silquest(登録商標)A−1589 299.15g(0.590モル)で45分間処理した。Silquest(登録商標)A−1589の添加で発熱が起こり、濃赤紫色の不透明な溶液を生じた。Silquest(登録商標)A−1589の添加完了後、反応混合物を約45℃に冷却し、塩化オクタノイル189.26g(1.152モル)を1時間にわたって添加したところ、粘稠な塩懸濁液が得られ、反応系は60℃に達した。約45℃で反応系を水278.42gで処理すると、塩が溶解し、透明な黄橙色のトルエン層と、暗色で不透明な水層とが得られ、水層を除去した。水性廃棄物382.62gが回収された。トルエンを真空ストリッピングしてトルエン576.93gを回収した(回収率106%、水分を含んでいた)。ブロックトメルカプトシラン373.53gが透明な濃橙色の液体として回収され、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率87%)。
【0028】
【表4】

【0029】
実施例2
周囲温度で、50L反応器にトルエン46.0lb(20.9kg)を仕込んだ後、ナトリウム2.3 bl(164g、45.8モル)を添加し、約110℃に加温した。溶融ナトリウムを、Silquest(登録商標)A−1589 22.7lb(10.3kg)で69分間処理したところ、発熱反応が生じた。Silquest(登録商標)A−1589の添加完了後、得られた暗色の懸濁液を約38℃に冷却し、次いで塩化オクタノイル13.8lb(6.3kg、38.1モル)で2時間処理したところ、反応温度は48℃に達した。得られた懸濁液を周囲温度に冷却し、次いで脱イオン水22.0lb(10.0kg)で処理した。5℃の発熱が観察され、塩が溶解して、二層を生じた。暗色で不透明な水層を除去し、水性廃棄物31.4lb(14.2kg)を回収した。トルエンをストリッピングし、43.9lb(19.9kg、回収率95%)を回収した。生成物を、5ミクロンのフィルターパッドを用いたKunoフィルターで濾過し、ブロックトメルカプトシラン31.0lb(14.1kg)が透明で黄色の液体として得られ、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率92%)。
【0030】
【表5】

【0031】
実施例3
周囲温度で、トルエン509.88gをナトリウム30.04g(1.299モル)で処理し、約110℃に加温した。溶融ナトリウム−トルエン懸濁液を、Silquest(登録商標)Y−15304 300.97g(0.590モル)で45分間処理した。Silquest(登録商標)Y−15304を添加すると発熱し、濃赤紫色の不透明な溶液を生じた。Silquest(登録商標)Y−15304の添加完了後、反応混合物を約45℃に冷却し、塩化オクタノイル196.01g(1.169モル)を1時間にわたって添加したところ、粘稠な塩懸濁液が得られ、このときの反応は60℃に達した。約45℃で、反応を水270.72gで処理した結果、塩が溶解し、透明な黄橙色のトルエン層と暗色で不透明の水層とが得られ、水層を除去した。水性廃棄物330.89gを回収した。トルエンを真空ストリッピングし、トルエン382.98gを回収した(回収率75%)。ブロックトメルカプトシラン433.06gが透明な濃黄色の液体として回収され、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率95%)。
【0032】
【表6】

【0033】
実施例4
周囲温度で、50L反応器にトルエン45.0lb(20.4kg)及びナトリウム 2.34lb(1061g、45.7モル)を仕込み、110℃に加温した。溶融したナトリウムを、Silquest(登録商標)Y−15304 22.8lb(10.3kg)で69分間処理したところ、発熱反応が生じた。Silquest(登録商標)Y−15304の添加完了後、得られた暗色不透明の懸濁液を35℃に冷却し、塩化オクタノイル13.6lb(6.2kg、37.6モル)を1時間49分にわたって添加したところ、発熱反応が起こり反応温度は約50℃に達した。塩化オクタノイルの添加完了後、得られた懸濁液を脱イオン水22.2lb(10.1kg)で処理すると、塩が溶解して、二層を形成した。得られた暗色の水層を除去し、30.0lb(13.7kg)回収した。トルエンを真空除去し、45.7lb(20.7kg、回収率102%)回収した。生成物を5ミクロンのフィルターパッドを用いたKunoフィルターに通し、ブロックトメルカプトシラン30.6lb(13.9kg)が透明で濃黄色の液体として回収され、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率92%)。
【0034】
【表7】

【0035】
実施例5
周囲温度で、Solvent(登録商標)140 160gをナトリウム11g(0.478モル)で処理して、約110℃に加温した。溶融ナトリウム−Solvent(登録商標)140懸濁液を、Silquest(登録商標)A−1289 63g(0.117モル)で45分間処理した。Silquest(登録商標)A−1289を添加すると発熱が起こり、濃赤紫色の不透明な溶液を生じた。Silquest(登録商標)A−1289の添加完了後、反応混合物を約45℃に冷却し、塩化オクタノイル76g(0.468モル)を1時間にわたって添加したところ、粘稠な塩懸濁液が得られ、このときの反応温度は104℃に達した。約45℃で反応系を水175gで処理すると、塩が溶解して、透明な黄橙色のSolvent(登録商標)140層と、暗色で不透明な層とが得られ、不透明層を除去した。水性廃棄物236gを回収した。トルエンを真空ストリッピングし、Solvent(登録商標)140 155gを回収した(回収率97%)。ブロックトメルカプトシラン110gが透明な濃黄色の液体として回収され、そのGC分析結果は以下の通りであった(効率89%)。
【0036】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックトメルカプトシランの製造方法であって、
(a)以下の一般式の1種以上のポリスルファン含有有機ケイ素化合物を、1種以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性誘導体と反応させて、対応ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩を得る段階
(RSiG)
(式中、各Rは、少なくとも1個のR基がメトキシ又はエトキシであることを条件として、独立にメトキシ、エトキシ又は炭素原子数1〜約6のアルキルであり、Gは炭素原子数1〜約12のアルキレン基であり、nは2〜約8である。)、及び
(b)ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩をアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物と反応させて、ブロックトメルカプトシランを得る段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記ポリスルファン含有有機ケイ素化合物が、ビス[(トリエトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(メチルジエトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(トリエトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン、ビス[(メチルジエトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン、ビス[(トリメトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(メチルジメトキシシリル)プロピル]ポリスルファン、ビス[(トリメトキシシリル)イソブチル]ポリスルファン及びビス[(メチルジメトキシシリル)イソブチル]ポリスルファンからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性誘導体が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記アシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物が以下の一般式のものである、請求項1記載の方法。
C(O)X
式中、Rは、ハロゲン又は炭素原子数18以下のアルキル、アルケニル、アリール、アルカリールもしくはアラルキルであり、Xはハロゲンである。
【請求項5】
前記アシルハロゲン化物が、塩化アセチル、塩化プロパノイル、塩化ブタノイル、塩化ペンタノイル、塩化ヘキサノイル、塩化ヘプタノイル、塩化オクタノイル、塩化2−エチルヘキサノイル、塩化ラウロイル、塩化オレオイル、クロロギ酸オクチル、塩化アジポイル、塩化フェニルアセチル、塩化ベンゾイル、塩化テレフタロイル及びクロロギ酸フェニルである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記カルボニルジハロゲン化物がホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲン、チオホスゲン及び塩化オキサリルである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記ブロックトメルカプトシラン生成物が以下の一般式のものである、請求項4記載の方法。
C(O)SGSiR
式中、R、R及びGは前記の意味を有する。
【請求項8】
前記ブロックトメルカプトシラン生成物が、2−トリエトキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−トリメトキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジメトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、3−トリメトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、トリエトキシシリルメチルチオアセテート、トリメトキシシリルメチルチオアセテート、トリイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、メチルジエトキシシリルメチルチオアセテート、メチルジメトキシシリルメチルチオアセテート、メチルジイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルエトキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルメトキシシリルメチルチオアセテート、ジメチルイソプロポキシシリルメチルチオアセテート、2−トリイソプロポキシシリル−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジエトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(メチルジイソプロポキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルエトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルメトキシシリル)−1−エチルチオアセテート、2−(ジメチルイソプロポキシシリル)−1−エチルチオアセテート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−トリイソプロポキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジエトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジメトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−メチルジイソプロポキシシリル−1−プロピルチオアセテート、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルシクロへキサン、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−3−チオアセチルシクロへキサン、2−トリエトキシシリル−5−チオアセチルノルボルネン、2−トリエトキシシリル−4−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−5−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルノルボルネン、6−トリエトキシシリル−1−ヘキシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−5−ヘキシルチオアセテート、8−トリエトキシシリル−1−オクチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−7−オクチルチオアセテート、6−トリエトキシシリル−1−ヘキシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−5−オクチルチオアセテート、8−トリメトキシシリル−1−オクチルチオアセテート、1−トリメトキシシリル−7−オクチルチオアセテート、10−トリエトキシシリル−1−デシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−9−デシルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−2−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−メチル−2−ブチルチオアセテート、1−トリエトキシシリル−3−メチル−3−ブチルチオアセテート、3−トリメトキシシリル−1−プロピルチオオクタノエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオパルミテート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオオクタノエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオベンゾエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオ−2−エチルヘキサノエート、3−メチルジアセトキシシリル−1−プロピルチオアセテート、3−トリアセトキシシリル−1−プロピルチオアセテート及び2−メチルジアセトキシシリル−1−エチルチオアセテートからなる群から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性誘導体とポリスルファン含有有機ケイ素化合物とのモル当量の範囲が約1:1〜約10:1、好ましくは2:1〜2.5:1である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物との範囲が約1.25:1〜約1:1のモル当量であり、又はカルボニルジハロゲン化物との範囲が約2.25:1〜約2:1のモル当量である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物とアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性誘導体との反応を該金属又は金属誘導体が液体状態にある温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ポリスルファン含有有機ケイ素化合物の金属塩とアシルハロゲン化物又はカルボニルジハロゲン化物との反応を約10〜約50℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
溶媒中で実施される請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒がトルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン及びオクタンからなる群から選択される、請求項13記載の方法。

【公表番号】特表2006−519864(P2006−519864A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509016(P2006−509016)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/006422
【国際公開番号】WO2004/078813
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】