説明

ブローバイガス還元装置

【課題】油分離器内の壁面に付着したエンジンオイルが油分離器内で生成する硝酸により凝集し、スラッジとなって油分離器内に堆積してしまう。
【解決手段】クランク室19からブローバイガスを吸気通路25aへと導くブローバイガス回収通路31と、このブローバイガス回収通路31の途中に設けられ、ブローバイガス回収通路31の上流側に接続する入口ポート32aと、ブローバイガス回収通路31の下流側に接続する出口ポート32bと、入口ポート32aと出口ポート32bとを仕切るように配されてブローバイガスに含まれるエンジンオイル16を捕捉するフィルター38と、フィルター38によって捕捉されたエンジンオイル16をクランク室19側に導くための油回収ポート32cとを有する油分離器32とを具えた本発明によるブローバイガス還元装置30は、油分離器32のフィルター38が油凝集阻止部材を含み、入口ポート32aを覆うように配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室からクランクケース内に吹き抜けるブローバイガスを吸気系に送り戻すためのブローバイガス還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブローバイガス還元装置は、内燃機関の燃焼室からシリンダーとピストンとの隙間を通ってクランク室に吹き抜ける未燃混合気、つまりブローバイガスがそのまま大気中に排出されないように、これを吸気系に送り戻すためのものである。このブローバイガス還元装置においてクランク室に介在するブローバイガスを吸気系に送り戻す場合、ブローバイガス中にはミスト状のエンジンオイルが含まれているため、これを油分離器(オイルミストセパレーター)によって除去する必要がある。特許文献1には、このような油分離器に関する技術が開示されている。
【0003】
ところで、オイルミストセパレーターのフィルターにブローバイガスに含まれる水分が捕捉されると、この水分とブローバイガスに含まれる窒素酸化物NOXとが反応して硝酸が生成する。さらに、フィルターに捕捉されたエンジンオイルがこの硝酸によって凝集し、スラッジとなってフィルターの目詰まりを起こす。このため、引用文献1においては、オイルミストセパレーターのフィルターに硝酸などの酸性物質を中和させるための中和剤、例えば炭酸カルシウムを塗布し、酸性物質を中和剤によって中和させ、これによりスラッジの生成を防ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−275670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に開示された油分離器においては、フィルターの表面に塗布された中和剤の一部がエンジンオイルの油膜で覆われてしまい、この中和剤を酸性物質に対して効率よく反応させることが困難となる可能性がある。この結果、油分離器内の壁面に付着したエンジンオイルが油分離器内で生成する硝酸により凝集し、スラッジとなって油分離器内に堆積してしまう問題が生ずる。
【0006】
[発明の目的]
本発明の目的は、オイルミストセパレーター内に堆積するスラッジの発生を従来のものよりも抑制し得るブローバイガス還元装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるブローバイガス還元装置は、内燃機関のクランク室からブローバイガスを内燃機関の吸気通路へと導くブローバイガス回収通路と、
このブローバイガス回収通路の途中に設けられ、当該ブローバイガス回収通路の上流側に接続する入口ポートと、該ブローバイガス回収通路の下流側に接続する出口ポートと、これら入口ポートと出口ポートとを仕切るように配されてブローバイガスに含まれる油を捕捉するフィルターと、このフィルターによって捕捉された油を前記内燃機関のクランク室側に導くための油回収ポートとを有する油分離器と
を具えたブローバイガス還元装置であって、
前記油分離器のフィルターは油凝集阻止部材を含み、前記入口ポートを覆うように配されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、クランク室に介在するブローバイガスは、ブローバイガス回収通路から吸気通路へと戻される。ブローバイガスに含まれるミスト状のエンジンオイルは、ブローバイガス回収通路の途中に設けられた油分離器のフィルターによって捕捉される。この場合、油凝集阻止部材を含むフィルターが油分離器の入口ポートを覆うように配されているため、エンジンオイルは油分離器内に流入することなく捕捉され、かつこれが凝集することなく油回収ポートからクランク室側へと排出される。
【0009】
本発明によるブローバイガス還元装置において、油分離器の入口ポートに流入するブローバイガスを加熱するための加熱手段をさらに具えることができる。この場合、ブローバイガス回収通路を流れるブローバイガスの温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段によって検出された温度に基づいて加熱手段の作動を制御する制御手段とをさらに具えることができる。
【0010】
油凝集阻止部材は、ブローバイガスに含まれる水分と反応して酸性を示す物質の共役塩基を吸着するイオン交換樹脂を含むものであってよい。
【0011】
内燃機関のシリンダーヘッドカバー内や、シリンダーブロックに接して油分離器を設けたり、あるいはカム室と吸気通路との間のブローバイガス回収通路に油分離器を配することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブローバイガス還元装置によると、油分離器のフィルターが油凝集阻止部材を含み、これが入口ポートを覆うように配されているので、ミスト状のエンジンオイルが油分離器に流入する前にこれをフィルターによって捕捉することができる。また同時に、油の凝集を促進する成分がブローバイガスに含まれていても、フィルターにより捕捉されたエンジンオイルは、油凝集阻止部材によって凝集することなく、油回収ポートからクランク室側に排出される。この結果、油分離器にエンジンオイルが留まらず、スラッジの発生も抑えることができる。
【0013】
油分離器の入口ポートに流入するブローバイガスを加熱するための加熱手段を具えている場合、ブローバイガスに含まれる水蒸気の凝縮を防止することができる。この結果、油分離器を通過するブローバイガスと共に水蒸気を吸気系へと戻すことが可能であり、水分がフィルターに捕捉されることによる悪影響を未然に防止ことができる。また、ブローバイガス回収通路を流れるブローバイガスの温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段によって検出された温度に基づいて加熱手段の作動を制御する制御手段とを具えている場合、加熱手段の作動による無駄を防止することができる。
【0014】
油凝集阻止部材がブローバイガスに含まれる水分と反応して酸性を示す物質の共役塩基を吸着するイオン交換樹脂を含む場合、ブローバイガスに含まれるNOXと水との反応による硝酸の生成を未然に防止することができる。この結果、硝酸によってエンジンオイルがスラッジ化するような不具合を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるブローバイガス還元装置が組み込まれた火花点火方式の内燃機関の一実施形態の概略構造を表す概念図である。
【図2】図1に示した実施形態におけるフィルターの外観を模式的に表す立体投影図である。
【図3】フィルターの他の実施形態の外観を模式的に表す立体投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるブローバイガス還元装置を火花点火方式の多気筒内燃機関に応用した実施形態について、その概念を模式的に表す図1を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態に限らず、軽油を燃料噴射弁から圧縮状態にある燃焼室内に直接噴射することにより、自然着火させる圧縮点火方式の内燃機関に対してもそのまま応用することができる。
【0017】
本実施形態におけるエンジン10は、オイルパン11と、クランクケース12と、シリンダーブロック13と、シリンダーヘッド14と、シリンダーヘッドカバー15とで主要部が構成されている。エンジンオイル16を溜めるオイルパン11は、クランク軸17を収容するクランクケース12の一端部に取り付けられ、このクランクケース12の他端部にはピストン18を収容するシリンダーブロック13の一端側が連結されている。これらオイルパン11と、クランクケース12と、シリンダーブロック13と、ピストン18とでクランク室19が画成され、これはピストン18の往復運動に伴って容積が周期的に可変となる。シリンダーブロック13の他端側には、動弁機構20を組み込んだシリンダーヘッド14の一端側が連結されている。これらシリンダーブロック13とシリンダーヘッド14とピストン18とで燃焼室21が画成され、これもピストン18の往復運動に伴って容積が周期的に可変となる。さらにシリンダーヘッド14の他端側にはシリンダーヘッドカバー15が取り付けられ、これらの間にカム室22を画成する。
【0018】
このエンジン10は、ガソリンやアルコールまたはこれらの混合物あるいは液化天然ガスなどの燃料を燃料噴射弁23から吸気ポート13a内に噴射し、点火プラグ24によって着火させる火花点火方式の多気筒内燃機関である。しかしながら、本発明の特性上、単気筒の内燃機関であってもかまわない。また、このポート噴射形式の燃料噴射弁23に代え、燃料を燃焼室21内に直接噴射する直噴形式のものを採用することも可能である。
【0019】
シリンダーヘッド14には、燃焼室21にそれぞれ臨む吸気ポート13aおよび排気ポート13bが形成されている。このシリンダーヘッド14には、吸気ポート13aを開閉する吸気弁20aおよび排気ポート13bを開閉する排気弁20bならびにこれら吸気弁20aおよび排気弁20bを駆動するカム20cなどを含む先の動弁機構20も組み込まれている。先の燃料噴射弁23や、燃焼室21内の混合気を着火させる点火プラグ24などもこのシリンダーヘッド14に組み付けられている。
【0020】
吸気ポート13aに連通するようにシリンダーヘッド14に連結されて吸気ポート13aと共に吸気通路25aを画成する吸気管25の上流端側には、大気中に含まれる塵埃などを除去して吸気通路25aに導くためのエアークリーナー26が設けられている。このエアークリーナー26と、吸気管25の途中に形成されたサージタンク27との間の吸気管25の部分には、スロットル弁28が組み込まれている。本実施形態におけるスロットル弁28は、運転者によって操作される図示しないアクセルペダルの踏み込み量に基づき、図示しないスロットルアクチュエータを介して吸気通路25aの開度を電気的に調整するようになっている。しかしながら、アクセルペダルとスロットル弁28とを機械的に連結したものであってもよく、この場合にはスロットルアクチュエータなどが不要となる。
【0021】
シリンダーブロック13に収容されたピストン18は、クランクケース12に取り付けられたクランク軸17に連接棒29を介して連結されており、ピストン18の往復運動がクランク軸17の回転運動に変換される。つまり、エアークリーナー26を通って吸気管25から燃焼室21内に供給される吸気は、燃料噴射弁23から吸気ポート13a内に噴射される燃料と混合気を形成し、点火プラグ24の火花により着火して燃焼し、これによりピストン18を往復運動させる。
【0022】
このようなエンジン10に付設される本実施形態におけるブローバイガス還元装置30は、ブローバイガス回収通路31と、油分離器32と、グロープラグ33と、温度センサー34と、ECU(Electronic Control Unit)35と、換気通路36とを具えている。
【0023】
エンジン10のクランク室19からブローバイガスをエンジン10の吸気通路25aへと導くブローバイガス回収通路31は、エンジン10に形成された連通路31aと、ブローバイガス戻し配管31bとで画成される。連通路31aは、クランク室19と、シリンダーヘッドカバー15内に画成される油分離器32とに連通するように、シリンダーブロック13とシリンダーヘッド14とに跨がって形成されている。油分離器32と吸気管25とに接続するブローバイガス戻し配管31bは、その一端側がシリンダーヘッドカバー15内に画成された油分離器32に接続すると共に他端側がサージタンク27とスロットル弁28との間の吸気通路25a内に連通している。このため、ブローバイガス回収通路31および油分離器32内は、吸気通路25aを流れる吸気負圧に伴って負圧状態となることに注意されたい。何れにしろ、燃焼室21からクランク室19に吹き抜けるブローバイガスは、連通路31aから油分離器32を通ってブローバイガス戻し配管31bにより吸気通路25aへと戻され、再度燃焼室21へと導かれるようになっている。
【0024】
ブローバイガス回収通路31の途中に設けられる本実施形態による油分離器32は、エンジン10のシリンダーヘッドカバー15に配された仕切り部材37によって、シリンダーヘッドカバー15内に画成されている。このように、シリンダーヘッドカバー15内に油分離器32を配することにより、ブローバイガスがカム室22に流入しないようにすることができる。この油分離器32は、仕切り部材37に形成された入口ポート32aと、シリンダーヘッドカバー15に形成された出口ポート32bと、ブローバイガスに含まれる油を捕捉するフィルター38と、エンジン10のカム室22に連通する油回収ポート32cとを有する。
【0025】
入口ポート32aはブローバイガス回収通路31の上流側、つまり先の連通路31aに接続し、出口ポート32bはブローバイガス回収通路31の下流側、つまりブローバイガス戻し配管31bに接続する。
【0026】
油凝集阻止部材を含むフィルター38は、入口ポート32aと出口ポート32bとを仕切って入口ポート32aを覆うように配され、ブローバイガスに含まれるミスト状のエンジンオイルを捕捉してこれを仕切り部材37と一体の油溜め37aに導く。本実施形態における油凝集阻止部材は、ブローバイガスに含まれる水分と反応して酸性を示す物質の共役塩基を吸着するイオン交換樹脂を含む。より具体的には、ブローバイガス中のNOXと水とにより生じ得る硝酸イオンNO3-や、ブローバイガス中のSOXと水とにより生じ得る硫酸イオンSO42-の除去を図るべく、これらのイオンを吸着する機能を有するアニオン性イオン交換樹脂を含む。このようなアニオン性イオン交換樹脂は、上述したNO3-,SO42-を吸着する代わりにエンジンオイル16の劣化を抑制または促進しないイオン、例えば水酸化物イオンOH-を放出する機能を有する。
【0027】
なお、油凝集阻止部材としてアニオン性イオン交換樹脂を用いる場合、吸着されることが望まれるイオンには、上述した硝酸イオンや硫酸イオン以外に以下のイオンを挙げることができる。すなわち、ブローバイガスから生成し得る酢酸イオンCH3COO-,ギ酸イオンHCOO-,塩化物イオンCl-,クロム酸イオンCrO42-などである。従って、これらのうちの少なくとも1つのイオンを吸着する機能を有するアニオン性イオン交換樹脂を用いることが可能である。
【0028】
このようなイオン交換樹脂は、粒状または多孔質のシート状など、種々の形状のものを採用することができ、本実施形態におけるフィルター38の外観を模式的に図2に示す。すなわち、本実施形態では多数の開口39aが形成された金属製の板材、いわゆるパンチングメタル製のケース39と、このケース39内に充填された図示しない粒状のイオン交換樹脂とでフィルター38が形成されている。この場合、ケース39に形成された開口39aの径よりもイオン交換樹脂の粒径を大きくする必要があり、また実際のケース39の輪郭形状は、シリンダーヘッドカバー15の形状に対応させる必要があることは言うまでもない。ケース39として金網などを加工して形成することも可能であり、他の形態によるフィルター38の外観を模式的に表す図3のように、多孔質のシート状をなすイオン交換樹脂40を2枚以上積層することによって形成することも有効である。この場合には、イオン交換樹脂40の積層体自体に形状保持性を持たせることにより、ケースを不要とすることができる。
【0029】
なお、油凝集阻止部材として上述したアニオン性イオン交換樹脂に限定されるわけではないことに注意されたい。すなわち、フィルター38にエンジンオイル16が凝集してスラッジ化するのを阻止するような機能を有する無機イオン交換体やキレート樹脂および/または合成吸着剤を油凝集阻止部材として用いることが可能である。従って、油凝集阻止部材によってブローバイガスまたはフィルター38の周囲の雰囲気から除去されるべき成分は、上述した硝酸イオンや硫酸イオンなどに止まらない。例えば、エンジンオイル16に含まれる添加物から生じた成分や、エンジン10の構成部材の磨耗および/または溶出により生じた金属粉などの不要成分または不純物などを含むことができる。このように、エンジンオイル16中の不要成分や不純物を除去することができる油凝集阻止部材を用いた場合、このような不要成分や不純物をエンジンオイル16が含む可能性のある材料や薬剤などの物質を添加剤として添加することができる。より具体的には、これらを酸化防止剤,金属系洗浄剤,摩擦調整剤,無灰分散剤,pH調整剤としてエンジンオイル16に添加することが可能である。
【0030】
前記油回収ポート32cは、仕切り部材37と一体の油溜め37aに形成され、フィルター38によって捕捉された油をカム室22に導くようになっている。従って、エンジンオイル16がブローバイガス戻し配管31bを通って吸気通路25aに混入されてしまうような不具合を未然に防止することができる。
【0031】
このように、油凝集阻止部材を含む油分離器32のフィルター38が入口ポート32aを覆うように配されているので、油分離器32の入口ポート32aにてフィルター38により捕捉されたミスト状のエンジンオイル16が凝集するような不具合をもたらさない。捕捉されたエンジンオイル16は、フィルター38を伝わって油回収ポート32cからカム室22に排出されて動弁機構20の潤滑を行い、さらに換気用連通路36aを通ってクランク室19へと導かれる。この結果、油分離器32にエンジンオイル16が留まらず、スラッジの発生も抑えることができる。
【0032】
本発明における加熱手段としてのグロープラグ33は、油分離器32の入口ポート32aに流入するブローバイガスを加熱し、ブローバイガスに含まれる水蒸気の凝縮を防止するためのものである。もちろん、本実施形態のようなグロープラグ33に代えて他の加熱手段を採用することも可能である。
【0033】
本発明における温度検出手段としての温度センサー34は、ブローバイガス回収通路31を流れるブローバイガスの温度を検出してこれをECU35に出力する。
【0034】
本発明における制御手段としてのECU35は、温度センサー34によって検出された温度に基づき、グロープラグ33の作動、つまりグロープラグ33に対する通電のオン/オフを制御する。具体的には、ブローバイガスが露点温度を越えるように、ECU35はグロープラグ33に対する通電のオン/オフを切り換える。これにより、水滴がフィルター38に捕捉されてブローバイガスに含まれるNOXなどと反応し、硝酸などを生成するような不具合を抑制することができる。換言すれば、ブローバイガスが露点温度を越えている場合、水蒸気の結露が起こらないので、グロープラグ33に対する通電はなされず、無駄な電力消費を避けることができる。
【0035】
このように、温度センサー34からの検出信号に基づき、ブローバイガスが露点温度以下であるとECU35が判断した場合、ECU35はグロープラグ33に対する通電を行ってブローバイガスを加熱し、ブローバイガスに含まれる水蒸気の凝縮を防止する。この結果、油分離器32を通過するブローバイガスと共に水蒸気を吸気系へと戻すことが可能であり、水分がフィルター38に捕捉されることによる悪影響を未然に防止ことができる。特に、ブローバイガスに含まれる水分と反応して酸性を示す物質の共役塩基を吸着するアニオン性イオン交換樹脂を用いることにより、ブローバイガスに含まれるNOXと水との反応による硝酸の生成を未然に防止することができる。この結果、硝酸によってエンジンオイル16がスラッジ化するような不具合を確実に抑制することが可能である。
【0036】
スロットル弁28よりも上流側の吸気通路25aから清浄な空気をクランク室19へと導く換気通路36は、エンジン10に形成された換気用連通路36aと、空気導入配管36bとで画成される。換気用連通路36aは、シリンダーヘッドカバー15内に仕切り部材41によって画成されたチャンバー42と先のカム室22を介してクランク室19とに連通するように、シリンダーヘッド14とシリンダーブロック13とに跨がって形成されている。吸気管25とチャンバー42とに接続する空気導入配管36bは、その一端側がエアーフィルター38とスロットル弁28との間の吸気通路25a内に連通すると共に他端側がシリンダーヘッドカバー15内に画成されたチャンバー42に接続している。従って、この換気通路36およびチャンバー42内は大気圧とほぼ同じ正圧状態となる。シリンダーヘッドカバー15と共にチャンバー42を画成する仕切り部材41は、カム室22に介在するエンジンオイル16が空気導入配管36b内に流入するのを回避するためのものであり、チャンバー42とカム室22とを連通する開口41aが形成されている。従って、清浄な空気は、空気導入配管36bからチャンバー42およびカム室22に導かれ、さらに換気用連通路36aを通ってクランク室19に送り込まれることとなる。
【0037】
上述した実施形態では、油分離器32をエンジン10のシリンダーヘッドカバー15内に設け、エンジン10と一体化させることによってブローバイガス還元装置のコンパクト化を可能としている。しかしながら、油分離器をシリンダーブロック13に接して設けたり、カム室22と吸気通路25aとの間のブローバイガス戻し配管31bの途中に配するようにしてもよい。油分離器をシリンダーブロック13に接して設けた場合、シリンダーブロック13からの放熱によって油分離器の温度を上昇させることができ、ブローバイガス中の水分の凝縮を防止することができる。また、フィルター38の油凝集阻止部材としてイオン交換樹脂を用いた場合には、これを活性状態に保ってイオン交換機能を充分に発揮させることが可能である。油分離器をカム室22と吸気通路25aとの間のブローバイガス戻し配管31bの途中に配した場合、加熱手段や温度検出手段を油分離器32よりも上流側のブローバイガス戻し配管31b内に配することが好ましい。
【0038】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0039】
10 エンジン
11 オイルパン
12 クランクケース
13 シリンダーブロック
13a 吸気ポート
13b 排気ポート
14 シリンダーヘッド
15 シリンダーヘッドカバー
16 エンジンオイル
17 クランク軸
18 ピストン
19 クランク室
20 動弁機構
20a 吸気弁
20b 排気弁
20c カム
21 燃焼室
22 カム室
23 燃料噴射弁
24 点火プラグ
25 吸気管
25a 吸気通路
26 エアークリーナー
27 サージタンク
28 スロットル弁
29 連接棒
30 ブローバイガス還元装置
31 ブローバイガス回収通路
31a 連通路
31b ブローバイガス戻し配管
32 油分離器
32a 入口ポート
32b 出口ポート
32c 油回収ポート
33 グロープラグ
34 温度センサー
35 ECU
36 換気通路
36a 換気用連通路
36b 空気導入配管
37 仕切り部材
37a 油溜め
38 フィルター
39 ケース
39a 開口
40 イオン交換樹脂
41 仕切り部材
41a 開口
42 チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク室からブローバイガスを内燃機関の吸気通路へと導くブローバイガス回収通路と、
このブローバイガス回収通路の途中に設けられ、当該ブローバイガス回収通路の上流側に接続する入口ポートと、該ブローバイガス回収通路の下流側に接続する出口ポートと、これら入口ポートと出口ポートとを仕切るように配されてブローバイガスに含まれる油を捕捉するフィルターと、このフィルターによって捕捉された油を前記内燃機関のクランク室側に導くための油回収ポートとを有する油分離器と
を具えたブローバイガス還元装置であって、
前記油分離器のフィルターは油凝集阻止部材を含み、前記入口ポートを覆うように配されていることを特徴とするブローバイガス還元装置。
【請求項2】
前記油分離器の入口ポートに流入するブローバイガスを加熱するための加熱手段をさらに具えたことを特徴とする請求項1に記載のブローバイガス還元装置。
【請求項3】
前記ブローバイガス回収通路を流れるブローバイガスの温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段によって検出された温度に基づいて前記加熱手段の作動を制御する制御手段とをさらに具えたことを特徴とする請求項2に記載のブローバイガス還元装置。
【請求項4】
前記油凝集阻止部材は、ブローバイガスに含まれる水分と反応して酸性を示す物質の共役塩基を吸着するイオン交換樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のブローバイガス還元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−7589(P2012−7589A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146476(P2010−146476)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】