説明

ブロー成形体

【課題】製品厚みが不均一でありながら、軽量で剛性に優れ、しかも成形時の成形不良を低減できるブロー成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなり、中空部を有する二重壁構造のブロー成形体1は、第1の壁部10aと、中空部を画定するように第1の壁部10aと間隔を置いて対向し、その間隔が相対的に短い領域11と相対的に長い領域12とを有する第2の壁部10bと、中空部内に設けられ、互いに実質的に平行に配置された複数のリブ列20と、を有し、各リブ列20は、一列に配列された複数のリブ21によって構成され、各リブ列20内で隣接するリブ21間には、ブロー成形用のエアーが流通する主通気路22が設けられ、主通気路22は、互いに隣接するリブ列20において、リブ列方向と直交する方向から見て互いに重ならないように配置され、リブ21には、ブロー成形用のエアーが流通する補助通気路23が開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にリブを有する中空のブロー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の後部には、荷物を収納するための荷室が設けられており、その荷室の床面を形成するデッキボードには、軽量化の目的から、ブロー成形によって得られるプラスチック中空体が多く用いられている。
【0003】
このようなデッキボードには、軽量化が求められる一方、載せられた荷物の荷重に耐えうるだけの剛性も求められる。軽量化と剛性向上とを両立させるために、例えば、特許文献1には、中空体内部に、補強用のリブ(インナーリブ)を千鳥状に配置したブロー成形体が開示されている。
【0004】
さらに近年では、荷室の床面を形成するデッキボードには、軽量で高剛性という性能だけでなく、その下の収納スペースに収納されたスペアタイヤ等の形状に合わせて、一部を薄厚化するというニーズもある。これは、収納スペースの有効利用のためであり、デッキボードの設置位置を少しでも下げることで荷室空間を広げるためである。したがって、プラスチック中空体からなるデッキボードに対して、前述した剛性の実現と、製品の一部薄厚化という2つの要求を満たすことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、一部が薄厚化され、内部にリブが設けられた製品を成形する場合には、以下のような課題がある。ここでは、その課題について、図6を参照しながら、車両の荷室に設けられ、その下の収納スペースにスペアタイヤが収納されるデッキボードを例に挙げて説明する。図6(a)は、このような従来のデッキボード(ブロー成形体)101を概略的に示す平面図であり、図6(b)および図6(c)は、それぞれ図6(a)のC−C’線およびD−D’線に沿った概略断面図である。
【0007】
内部にリブを有する中空のブロー成形体の成形は、分割式の成形型を用いて行われ、
1.分割式の成形型の一方にリブ形成用の進退可能なスライド型を設け、
2.分割式の成形型の間に、スライド型を突き出したままパリソン(樹脂材料)を配置し、
3.分割式の成形型間にエアーを供給し、
4.成形体内部にエアーを充填させ、
5.成形型を開く直前にスライド型を後退させて、製品を取り出す、
という工程を経る。
【0008】
図6に示すようなブロー成形体101の構成では、成形体101内部にエアーを充填する際に、エアー注入口から注入されるエアーは、リブ121とリブ121との間の主通気路122を流れて、成形体101内部に行き渡る。しかしながら、ブロー成形体101には、上述のスペアタイヤの形状に合わせて、製品厚みが相対的に薄い領域(凹部111)と、相対的に厚い領域(一般部112)とが形成されている。したがって、リブ121により画定されるエアー流路において、凹部111での流路面積は、一般部112での流路面積よりも小さくなる。その結果、凹部111を流れるエアーの量が少なくなり、凹部111から一般部112へのエアーの供給が不足することで、一般部112のエアー不充填という事態が生じ、成形不良となってしまう。
【0009】
この不具合を解決するための方法として、別途、一般部に差し込んだピン(エアーピン)などによって、一般部にエアーを補填することが行われている。しかしながら、このような方法では、製品に穴が空けられてしまうことや、ピンを設置するための費用がかかることから、意匠面およびコスト面から好ましくない。一方で、エアーの充填性を考慮すると、リブを千鳥状でなく、リブ間の主通気路が一直線上に並ぶように配置することが考えられるが、そのような場合には所望の剛性が得られなくなる。したがって、内部にリブを有するブロー成形体において、リブを千鳥状に配置することで必要な剛性を得つつ、エアーの充填性の低下による成形不良を引き起こさないような構成が求められている。
【0010】
そこで本発明は、製品厚みが不均一でありながら、軽量で剛性に優れ、しかも成形時の成形不良を低減できるブロー成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明のブロー成形体は、熱可塑性樹脂からなり、中空部を有する二重壁構造のブロー成形体であって、第1の壁部と、中空部を画定するように第1の壁部と間隔を置いて対向し、第1の壁部との間隔が相対的に短い領域と相対的に長い領域とを有する第2の壁部と、中空部内に設けられ、互いに実質的に平行に配置された複数のリブ列と、を有し、各リブ列は、一列に配列された複数のリブであって、それぞれが第1および第2の壁部の一方から他方に向かって突出するとともに、第1の壁部と第2の壁部とを連結する複数のリブによって構成され、各リブ列内で隣接するリブ間には、ブロー成形用のエアーが流通する主通気路が設けられ、主通気路は、互いに隣接するリブ列において、リブ列方向と直交する方向から見て互いに重ならないように配置され、リブには、ブロー成形用のエアーが流通する補助通気路が開口している。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、製品厚みが不均一でありながら、軽量で剛性に優れ、しかも成形時の成形不良を低減できるブロー成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードと、デッキボードが設置される車両の荷室との関係を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードを裏壁側から見た斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードを概略的に示す平面図および断面図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードを裏壁側から概略的に示す透視斜視図である。
【図5】本発明の別の実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードを裏壁側から概略的に示す透視斜視図である。
【図6】従来のブロー成形体としてのデッキボードを概略的に示す平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態におけるブロー成形体としてのデッキボードと、デッキボードが設置される車両の荷室との関係を示す斜視図である。
【0016】
実質的に平板状のデッキボード1は、車両のリアシート2の後方に設けられた、荷物を収納するための荷室の床面を形成する。デッキボード1は、スペアタイヤ3等を収納することができる収納スペース4の上方に、取り外し可能または回動可能に取り付けられる。したがって、利用者は、デッキボード1を取り外したり、または引き起こしたりすることで、収納スペース3へのアクセスが可能となり、収納スペース3を覆うようにデッキボード1を配置することで、デッキボード1上に荷物等を積載することが可能となる。
【0017】
次に、このデッキボード1の詳細な構成について、図2から図4を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、本実施形態のデッキボードを、デッキボード下の収納スペースに面する裏壁側から見た斜視図である。図3(a)は、本実施形態のデッキボードを裏壁側から見た概略平面図であり、図3(b)および図3(c)は、それぞれ図3(a)のA−A’線およびB−B’線に沿った概略断面図である。また、図4は、本実施形態のデッキボードの内部を裏壁側から概略的に示す透視斜視図である。
【0019】
本実施形態のデッキボード1は、熱可塑性樹脂からなり、中空部を有する二重壁構造のブロー成形体である。デッキボード1は、表壁(第1の壁部)10aと裏壁(第2の壁部)10bとを有し、それらが互いに間隔を置いて対向することによって、中空部が形成されている。
【0020】
デッキボード1の意匠面となる表壁10aは平坦であり、その表面には、表皮14が形成されている(図3(b)および図3(c)参照)。
【0021】
その一方で、収納スペースに面する裏壁10bは、図2に示すように、一部窪んだ形状を有しており、これにより、デッキボード1には、製品厚みの薄い(表壁10aと裏壁10bとの間隔が相対的に短い)領域である凹部11が形成される。本実施形態では、凹部11は、デッキボード1下の収納スペースに収納されるスペアタイヤの形状に合わせて、環状に形成されている。製品厚みが凹部11よりも相対的に厚い領域となる一般部12は、スペアタイヤの中心部分に対応する、デッキボード1の中央付近の部分と、凹部11の周囲にある部分とにおいて、同じ厚みを有している。成形上、一般部12の厚みをH、凹部の厚みをhとすると、その関係は、0.25H<h<0.75Hを満たしていることが好ましい。
【0022】
さらに、デッキボード1の裏壁10b側には、図2に示すように、複数の溝21が形成されている。この溝21は、言い換えれば、裏壁10bから表壁10aに向かって、中空のデッキボード1の内部に突出するリブである。裏壁10bから突出するリブ21は、その先端が表壁10aに溶着されており、これにより、図3(b)および図3(c)に示すように、裏壁10bと表壁10aとが連結され、デッキボード1が補強される。
【0023】
デッキボード1に複数形成されたリブ21は、図3(a)に示すように、互いに実質的に平行に配置された複数のリブ列20を構成している。各リブ列20は、一列に配列されたいくつか(図3に示す実施形態では2つまたは3つ)のリブ21によって構成され、このリブ21間には、ブロー成形用のエアーが流通する主通気路22となる隙間が設けられている。この主通気路22は、互いに隣接するリブ列20において、リブ列方向から見たときに、互いに重ならないように配置されている。言い換えれば、複数のリブ21は、いわゆる千鳥状に配置されており、これにより、デッキボード1に必要な剛性を与えている。
【0024】
このリブ21が内部に形成されたデッキボード(ブロー成形体)1は、次のように成形される。
【0025】
ブロー成形体の成形には、第1の成形型と第2の成形型とからなる分割式の成形型が用いられ、いずれかの成形型(本実施形態では裏壁を成形する型)に、リブを形成するためのスライド型が進退可能に設けられている。
【0026】
型を開いた状態にある第1の成形型と第2の成形型との間に、ブロー成形体の材料であるパリソンを配置した後、成形型を閉じる。このとき、スライド型は突き出た状態とする。そして、パリソン内部に加圧流体(エアー)を充填する。リブは、パリソンがスライド型によって表壁側に溶着されることで、表壁と裏壁との間を連結する壁として形成され、こうして、内側に突出するリブを有するブロー成形体が完成する。成形型を開く直前に、製品の脱型性を向上させるべくスライド型を後退させ、その後、成形型から製品を取り出す。
【0027】
本発明のブロー成形体は、上述のエアー充填時に一般部のエアー不充填が生じないように、成形体内部におけるエアー流路の流路抵抗を大きく低減させるため、前述のリブ間の主通気路に加えて、各リブに補助通気路(開口)が設けられていることが大きな特徴である。補助通気路は、裏壁側から突出するリブの一部に表壁側まで到達させない部分を設けることによって形成され、このようなリブは、リブ形成用のスライド型に補助通気路を形成するための形状を付与することで成形可能である。
【0028】
上述のように、各リブ21には、ブロー成形時の成形用エアーを流通させるための補助通気路23が開口している(図3(b)および図3(c)参照)。この補助通気路23は、図4からもわかるように、隣接する2つのリブ列20において、一方のリブ列20の補助通気路23と他方のリブ列20の主通気路22とが互いに対向するように設けられている。これにより、主通気路22を通過したエアーが、リブ21を迂回することなく補助通気路23を通過可能となるため、エアー流線が直線状となり、エアー流路の流路抵抗を大幅に低減することができる。その結果、エアー注入口から供給され、凹部11から一般部12へと流入するエアーの量を十分に確保することができ、成形不良の発生を低減することが可能となる。
【0029】
補助通気路23の開口面積は、主通気路22を通過する全てのエアーがそれに隣接する補助通気路23を通過することが望ましいという観点から、主通気路22の開口面積よりも大きいことが望ましい。ここで、リブ21内に形成される補助通気路23は、その高さ(製品厚み方向の長さ)が主通気路22よりも高くなることはないため、その幅(リブ列方向の長さ)が主通気路22よりも大きくなるように形成されている。
【0030】
図5は、上述した実施形態のリブの形状を変更した変形例を示す図であり、デッキボードの内部を裏壁側から概略的に示す透視斜視図である。
【0031】
図5に示す変形例では、各リブ21に、補助通気路23を2つに分割する柱部24が形成されており、これにより、製品の厚み方向に対する曲げ剛性をより一層向上させることが可能となる。より高剛性の製品が求められる場合には、エアーの流れを妨げない程度に、柱部を複数設けることも可能である。
【0032】
以上のように、本発明のブロー成形体は、千鳥状に配置されたリブが成形体内部に形成されていることで、必要な剛性を得ることが可能である。その一方で、このリブと製品厚みの不均一とに起因する成形時の成形不良は、各リブに補助通気路となる開口を設け、成形体内部のエアー流路の流路抵抗を低下させることで、成形体内部にエアーを十分に行き渡らせることができ、その発生を低減することが可能となる。
【0033】
なお、上述した実施形態では、溝(リブ)は、意匠面を考慮してデッキボードの裏壁側に形成されているが、デッキボードを補強するという観点からは、表壁側に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 デッキボード
10a 表壁
10b 裏壁
11 凹部
12 一般部
20 リブ列
21 リブ
22 主通気路
23 補助通気路
24 柱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなり、中空部を有する二重壁構造のブロー成形体であって、
第1の壁部と、前記中空部を画定するように前記第1の壁部と間隔を置いて対向し、該第1の壁部との前記間隔が相対的に短い領域と相対的に長い領域とを有する第2の壁部と、前記中空部内に設けられ、互いに実質的に平行に配置された複数のリブ列と、を有し、
前記各リブ列は、一列に配列された複数のリブであって、それぞれが前記第1および第2の壁部の一方から他方に向かって突出するとともに、前記第1の壁部と前記第2の壁部とを連結する複数のリブによって構成され、
前記各リブ列内で隣接する前記リブ間には、ブロー成形用のエアーが流通する主通気路が設けられ、該主通気路は、互いに隣接する前記リブ列において、リブ列方向と直交する方向から見て互いに重ならないように配置され、
前記リブには、ブロー成形用のエアーが流通する補助通気路が開口している、ブロー成形体。
【請求項2】
前記補助通気路は、該補助通気路が開口する前記リブに隣接する前記リブ列の前記主通気路と対向する位置に配置されている、請求項1に記載のブロー成形体。
【請求項3】
前記補助通気路の開口面積が、前記主通気路の開口面積よりも大きい、請求項1または2に記載のブロー成形体。
【請求項4】
前記リブには、前記補助通気路を複数に分割する柱部が形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のブロー成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−167962(P2011−167962A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34619(P2010−34619)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】