説明

ブーム作業車の作動制御装置

【課題】ブーム先端部をオペレータの意図する移動方向に移動させつつブーム先端部を効率的に所望の高所位置に到達させることが可能な構成のブーム作業車の作動制御装置を提供する。
【解決手段】ブーム作業車の作動制御装置は、ブーム30の先端部が目標軌道に沿って垂直方向に直線的に上昇移動しながらトレース線TRを超えようとするときに、ブーム30の先端部の目標軌道の方向を規制線K6の傾き角度αに従って補正して、ブーム30の先端部が規制線K6を超えないようにブーム30の起伏作動と伸縮作動とを組み合わせてブーム30の先端部を該補正された目標軌道TLに沿って直線的に上昇移動させる制御を行うように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行体上に設けられた旋回台に起伏及び伸縮自在なブームを有して構成されたブーム作業車に関し、更に詳細には、ブーム先端部の垂直方向への直線的な移動を制御する垂直作動制御機能を有するブーム作業車の作動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブーム作業車は、走行体上に水平旋回動自在に設けられた旋回台に起伏及び伸縮動自在なブームを有して構成され、例えば、ブームの先端部にオペレータ(作業者)搭乗用の作業台を有した高所作業車が知られている。このようなブーム作業車の多くは、ブームを起伏、伸縮、旋回させるための油圧アクチュエータを各々独立的に作動させてブーム先端部を移動させる構成を有するが、ブームの自重及び作業機の負荷等により生ずる転倒モーメントによって走行体が転倒することを防止する転倒防止装置や、オペレータが指定した水平若しくは垂直方向にブーム先端部が直線的に移動するようにブームを作動させる水平垂直作動制御装置を併有したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記の転倒防止装置には種々のものが知られているが、例えば、ブームの先端部の移動が予め定められた許容作業範囲内に限定されるタイプ(作業範囲規制タイプ)のものでは、ブームの先端部が許容作業範囲の規制線を外側へ超えるようなブームの作動が禁止されるようになっている。具体的には、このような転倒防止装置が備えられた高所作業車では、伸長して上方に展開されたブームの倒伏操作を行ってブームの起伏角度が一定角度以下になると、ブームの先端部が許容作業範囲の規制線を超えようとするため、走行体の転倒防止のために転倒防止装置が働きブームの倒伏作動が停止されるようになっている。
【0004】
一方、水平垂直作動制御装置は、オペレータが指定した水平若しくは垂直方向の目標移動方向に直線状の目標軌道を設定するとともに、この目標起動に沿ってブーム先端部が移動するように、上記油圧アクチュエータを連動作動させる構成となっている。このような水平垂直作動制御装置によれば、ブーム先端部を水平若しくは垂直方向に直線的に移動させたい場合に、ブームの起伏、伸縮、及び旋回操作を複合させて行っていた従来の操作上の難点がなく、初心者でも容易にブーム先端部(高所作業車であれば作業台、クレーン車であれば吊り上げ装置)の直線的移動を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−75577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般にブームの先端部の移動が許容される許容作業範囲は高所になるほど狭く設定されているため、上記のような水平垂直作動制御装置により、例えば地上付近で荷物を積載して所望の高さまでブーム先端部を垂直方向へ直線的に移動させる場合に、荷物を積載した地上付近の位置では許容作業範囲内であっても、高所に移動するに従って許容作業範囲の限界に達するおそれが高くなっている。すなわち、図10に示すように、初めにブーム30の先端部が地上近傍の位置(点P30)に位置する状態から垂直作動制御されてブーム30の先端部を垂直方向上方に直線的に移動させると、所定の高所位置(点P31)でブーム30の先端部が許容作業範囲S(規制線K6)の限界に到達して、転倒防止装置の働きによってブーム30の当該作動が停止されることとなる。これによりブーム30の先端部が許容作業範囲Sを超えて移動するようなことはないが、その後、所望の高さH位置まで更に上昇移動するために再びブーム30の先端部の垂直移動を開始させるためには、水平垂直作動制御装置(水平作動制御)により、一度ブーム30の先端部を許容作業範囲S内において水平方向内側(走行体10側)へ退避させた後に始めてブーム先端部の垂直移動が再開されるようになっていた(図10におけるブーム先端部の移動軌跡を参照)。ブーム30の垂直作動が規制される度に水平作動を行って規制を解除するのはオペレータにとって非常に煩わしいものであり、このようにオペレータがブーム30の先端部を垂直移動させる操作と水平移動させる操作とを交互に繰り返すことにより作業効率が極めて低くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ブーム先端部をオペレータの意図する移動方向に移動させつつブーム先端部を効率的に所望の高所位置に到達させることが可能な構成のブーム作業車の作動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係るブーム作業車の作動制御装置は、走行体上に水平旋回自在に設けられた旋回台に起伏および伸縮自在なブームを有して構成されたブーム式作業車(例えば、実施形態における高所作業車1)に備えられ、垂直方向において指定された目標移動方向にブームの先端部が直線的に移動するようにブームを作動させる制御を行うブーム式作業車の作動制御装置であって、ブームを起伏、伸縮および旋回作動させる油圧アクチュエータと、ブームの先端部の位置を検出する位置検出手段(例えば、実施形態における位置算出部62)と、ブームの先端部の目標移動方向を垂直方向において指定する移動方向指定手段(例えば、実施形態における操作装置50)と、移動方向指定手段により指定されたブームの先端部の目標移動方向にブームの先端部を基点とする直線状の目標軌道を設定する目標軌道設定手段(例えば、実施形態における目標軌道設定部65)と、ブームの先端部の移動が禁止される領域との境界線である規制線が高位置になるほど狭く設定されるとともに、規制線上に若しくは規制線よりも内側の領域内に基準線(例えば、実施形態におけるトレース線TR)が設定された記憶手段(例えば、実施形態における記憶部63)と、位置検出手段により検出されるブームの先端部の位置近傍において基準線の鉛直線に対する傾き角度を算出する角度算出手段(例えば、実施形態における規制線角度算出部64)と、ブームの先端部が目標軌道に沿って垂直方向に直線的に上昇移動しながら基準線を超えようとするときに、ブームの先端部の目標軌道の方向を角度算出手段により算出された傾き角度に従って補正して、ブームの先端部が基準線を超えないようにブームの起伏作動と伸縮作動とを組み合わせてブームの先端部を該補正された目標軌道に沿って直線的に上昇移動させる制御を行う概垂直作動制御手段(例えば、実施形態におけるブーム作動制御部61およびノンストップ作動制御部66)を備えて構成される。
【0009】
上記構成のブーム作業車の作動制御装置において、角度算出手段により算出される傾き角度と予め設定された許容角度とを比較する比較手段(例えば、実施形態における比較部67)を備え、比較手段は、ブーム先端部が目標軌道に沿って移動しながら基準線を超えようとするときに、傾き角度が許容角度を超えると判断した場合、概垂直作動制御手段による目標軌道の補正をさせることなく、ブームの作動を停止させる制御を行うように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るブーム作業車の作動制御装置によれば、ブーム先端部が垂直作動制御により指定された方向に(垂直方向上方に設定された目標軌道に沿って)直線的に移動しているときに、ブーム先端部が基準線に達するような場合、ブーム先端部の目標軌道の方向を角度算出手段により算出された傾き角度に従って補正し、この補正された新たな目標軌道に沿って直線的にブーム先端部を上昇移動させる制御を実行するので、ブーム先端部が規制線に達して上昇移動が途中で停止することはなく、オペレータの意図する移動方向(垂直方向)に近い方向にブーム先端部を継続して上昇移動させることができる。このため、作業の中断が防止されるとともに、ブーム先端部を所望の高所位置まで移動させるために従来行われていたブーム先端部の垂直移動と水平移動との煩雑な繰り返し操作が解消されるので、作業効率を向上させることが可能になる。また、ブームの先端部は規制線若しくは基準線の傾き角度に従って補正される目標軌道に沿って上昇移動されることにより、ブーム先端部を規制線から逸脱させることなく最も効率的に且つ逸早く所望の高所位置まで到達させることができるので、作業の安全性を確保しつつ作業効率をより向上させることができる。さらに、目標軌道が補正された後のブーム先端部の移動方向は厳密には垂直方向ではないが垂直方向成分を有した方向であるので、オペレータの意図する方向(垂直方向)に近い方向(概垂直方向)にブームの先端部を移動させることができる。
【0011】
また、ブーム先端部が目標軌道に沿って垂直方向上方に直線的に移動しながら基準線を超えようとするときに、比較手段が、角度算出部により算出される傾き角度が予め定められた許容角度を超えると判断した場合、概垂直作動制御手段による目標軌道の補正をすることなく、ブーム作動を停止させる構成とすることで、過大な傾き角度によって水平方向成分の大きくなった目標軌道に沿ってブーム先端部が移動するのを規制することができる。このため、例えば作業台(ブーム先端部)に搭乗したオペレータは自分の意図する移動方向(垂直方向)と大きく異なる方向に作業台が移動していると認識して、故障が発生したものと勘違いしてしまうのを防止することができる。また、オペレータの意図と異なる方向へのブームの先端部の移動により、作業台が周囲の構造物と干渉したり、オペレータが作業台内でバランスを崩したりするのが防止されるため、より安全な高所作業を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る作動制御装置が適用された高所作業車におけるブームおよび作業台の作動系統を示すブロック図である。
【図2】上記高所作業車を示す斜視図である。
【図3】作業台上に設けられた操作装置の斜視図である。
【図4】ブーム操作レバーの操作方向とブームの作動方向もしくはブーム先端部の移動方向との関係を示す図であり、(A)は通常モードが選択されているとき、(B)はHVモードが選択されている状態を示す。
【図5】HVモードが選択されている状態において、(A)はブーム先端部が水平方向に移動する様子を示す図であり、(B)はブーム先端部が垂直方向に移動する様子を示す図である。
【図6】上記高所作業車における或るブームの旋回角度姿勢に対応して設定されるブーム起伏面内(垂直面内)での許容作業範囲の一例を示す模式図である。
【図7】上記高所作業車において概垂直作動制御を実行したときのブーム先端部の移動軌跡を示す模式図である。
【図8】上記概垂直作動制御において、ブームの起伏作動量と伸縮作動量との関係を示す模式図である。
【図9】上記概垂直作動制御の実行中にブームの旋回作動を連動させたときに、当該旋回角度において設定される起伏面内の許容作業範囲を示す模式図である。
【図10】HVモードが選択されている状態において、ブーム先端部が所望の高さに達するまでの従来の移動軌跡を説明するための模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図2に本実施形態に係る作動制御装置が適用された高所作業車(ブーム式高所作業車)を示しており、まず始めに、この図を参照して高所作業車1の全体構成について説明する。
【0014】
高所作業車1は、タイヤ車輪11,11,…を備えて運転キャブ12から走行運転操作が可能なトラック式の走行体10と、走行体10上に設けられた旋回台20に基端部がフートピン21を介して枢結され上下揺動自在に取り付けられた伸縮ブーム(以下、単に「ブーム」と称する)30と、このブーム30の先端部に取り付けられたオペレータ(作業者)搭乗用の作業台40とを有して構成されている。
【0015】
旋回台20は、走行体10の後部に上下軸まわり360度回動自在に取り付けられており、走行体10に内蔵された旋回モータ23を油圧駆動することにより水平旋回作動させることができる。ブーム30は、基端ブーム30a、中間ブーム30b、及び先端ブーム30cが入れ子式に組み立てられた構成を有しており、その内部に設けられた伸縮シリンダ31を油圧駆動することにより各ブーム30a,30b,30cを相対的に移動させて、ブーム30全体を軸方向に伸縮作動させることができる。また、基端ブーム30aと旋回台20との間には起伏シリンダ24が跨設されており、この起伏シリンダ24を油圧駆動することによりブーム30全体を上下面内で起伏作動させることができる。
【0016】
先端ブーム30cの先端部にはブームヘッド32が取り付けられており、このブームヘッド32に枢結されて垂直ポスト33が上下に揺動可能に取り付けられている。この垂直ポスト33は、先端ブーム30c先端あるいはブームヘッド32と垂直ポスト33との間に配設されたレベリング装置(図示しない)により垂直ポスト33の揺動制御が行われ、ブーム30の起伏の如何に拘らず垂直ポスト33が常に垂直に延びて位置するように垂直ポスト33が揺動制御される。このように常時垂直に保持される垂直ポスト33には、首振りモータ43により水平旋回自在(首振り自在)に作業台40が取り付けられており、作業台40はブーム30の起伏に拘らず常に水平に保持される。
【0017】
走行体10の前後左右各箇所には、作業中の走行体10を安定状態に支持するためのアウトリガジャッキ13,13,…が設けられている。各アウトリガジャッキ13は、上下方向に延びたアウタポスト13aと、アウタポスト13a内に図示しないジャッキシリンダにより下方に向かって伸縮可能に挿入されたインナポスト13bと、インナポスト13bの下端に設けられたジャッキパッド13cとから構成されており、不図示のジャッキシリンダの伸縮作動により(ジャッキパッド13cが接地するまで)アウタポスト13aに対してインナポスト13bを下方に張り出すことにより、走行体10を持ち上げ状態に支持させることができる。また、各アウトリガジャッキ13は走行体10の側方に張り出させることも可能であり、より高い走行体10の安定が得られるようになっている。
【0018】
作業台40上にはこれに搭乗したオペレータ(図示せず)が操作するレバー類が備えられた操作装置50が設けられている。この操作装置50には、図3に示すように、ブーム操作レバー51と作業台操作レバー52、更にモード選択スイッチ53が設けられている。ブーム操作レバー51は垂直方向に延びた中立位置から前後および左右方向を含む360度いずれの方向へも傾動操作すること、および軸まわり左右両方向に捻り操作することが可能であり、作業台操作レバー52は垂直方向に延びた中立位置から左右両方向に傾動操作することが可能である。また、モード選択スイッチ53は、前後いずれかの位置に傾動させておくことが可能なトグルスイッチであり、その操作位置に応じて、後述する通常モードと水平垂直作動制御モード(以下、「HVモード」と称する)との何れか一方を選択することができる。
【0019】
ここで、通常モードとは、ブーム操作レバー51の操作により起伏シリンダ24、伸縮シリンダ31、および旋回モータ23をそれぞれ単独に或いは同時に作動させることができるモードであり、HVモードとは、ブーム操作レバー51の操作によりブーム30の先端部(このブーム30の先端部とは、作業台40をも含む概念であり、以下の説明において「ブーム先端部」と称することがある)を水平方向もしくは垂直方向に直線的に移動させることができるモードである。
【0020】
ここで、モード選択スイッチ53が通常モードの側に選択されている場合、ブーム操作レバー51の操作(操作方向および操作量)は、ブーム30を作動させる油圧アクチュエータ(起伏シリンダ24,伸縮シリンダ31,旋回モータ23)の選択と、その選択した油圧アクチュエータの作動方向及び作動速度の入力として後述するコントローラ60(ブーム作動制御部61)に受け入れられる。コントローラ60は、図4(A)に示すように、ブーム操作レバー51が中立位置から前後方向に傾動操作されたときには、その操作量に応じた作動速度で起伏シリンダ24を伸縮作動させてブーム30を上下面内で起伏作動させ、ブーム操作レバー51が中立位置から左右方向に傾動操作されたときには、その操作量に応じた作動速度で伸縮シリンダ31を伸縮作動させてブーム30を軸方向に伸縮作動させる。また、ブーム操作レバー51が左回り方向に捻り操作されたときには、その操作量に応じた作動速度で旋回モータ23を正方向に回転駆動させてブーム30を左まわり方向に旋回作動させ、ブーム操作レバー51が右まわり方向に捻り操作されたときには、その操作量に応じた作動速度で旋回モータ23を逆方向に回転駆動させてブーム30を右回り方向に旋回作動させる。なお、ブーム操作レバー51が斜め方向に傾動操作されたときには、その傾動方向に応じた作動速度の比率で起伏シリンダ24と伸縮シリンダ31とを同時に伸縮作動させる(これによりブーム30は起伏と伸縮の連動作動を行う)。
【0021】
また、作業台操作レバー52が中立位置から左方に傾動操作されたときには、その操作量に応じた作動速度で首振りモータ43を正方向へ回転作動させて作業台40を左回り方向に旋回作動させ、作業台操作レバー52が中立位置から右方に傾動操作されたときにはその操作量に応じた作動速度で首振りモータ43を逆方向に回転作動させて作業台40を右まわり方向に旋回作動させる。
【0022】
一方、モード選択スイッチ53がHVモードの側に選択されている場合には、ブーム操作レバー51の操作(操作方向および操作量)は、水平若しくは垂直方向において指定したブーム先端部の目標移動方向の指定および移動速度の入力としてコントローラ60(バルブ制御部61)に受け入れられる。コントローラ60は、図4(B)に示すように、ブーム操作レバー51が中立位置から左右方向に傾動操作されたときには、ブーム30の軸線を含む垂直面内(起伏面内)においてその傾動操作がなされたときのブーム先端部Pの位置から前後いずれかの方向(図5(A)に示す水平線に沿った方向)に、その操作量に応じた作動速度でブーム先端部Pが移動するように起伏シリンダ24および伸縮シリンダ31を連動作動させる。また、ブーム操作レバー51が中立位置から前後方向に傾動操作されたときには、上記垂直面内においてその傾動操作がなされたときのブーム先端部Pの位置から上下いずれかの方向(図5(B)に示す鉛直線に沿った方向)に、その操作量に応じた作動速度でブーム先端部Pが移動するように起伏シリンダ24および伸縮シリンダ31を連動作動させる。
【0023】
また、モード選択スイッチ53がHVモードの側に選択されている場合には、通常モードが選択されている場合と同様に、ブーム操作レバー51を左回りあるいは右回り方向に捻り操作することでブーム30を旋回作動させ、作業台操作装置52を左右方向に傾動操作することで作業台40を旋回作動させるようになっている。
【0024】
このように作業台40に搭乗したオペレータは、モード選択スイッチ53により通常モードを選択した状態でブーム操作レバー51を操作することによりブーム30を起伏、伸縮、旋回動させることができるとともに、作業台操作レバー52を操作することにより作業台40を垂直ポスト33まわりに水平旋回動させることができる。また、モード選択スイッチ53によりHVモードを選択した状態で、ブーム操作レバー51を左右方向に傾動操作することによりブーム先端部Pを水平方向(前後方向)に直線的に移動させることができ(図5(A)を参照)、ブーム操作レバー51を前後方向に傾動操作することによりブーム先端部Pを垂直方向に直線的に移動させることができる(図5(B)を参照)。また、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されているときでも、ブーム操作レバー51を捻り操作することによりブーム30を旋回作動させることができ、作業台操作レバー52を操作することにより作業台40を垂直ポスト33まわりに水平旋回動させることができる。このため、作業台40上のオペレータは、いずれのモードを選択した状態によっても自らのレバー操作により、自身の搭乗した作業台40を所望に移動させて任意の位置での作業を行うことが可能である。
【0025】
ここで、図1は高所作業車1におけるブーム30および作業台40の作動系統を示すブロック図である。コントローラ60には、ブーム作動制御部61、位置算出部62、記憶部63、規制線角度算出部64、目標軌道設定部65、ノンストップ作動制御部66、および比較部67が設けられている。
【0026】
前述のように、操作装置50におけるブーム操作レバー51もしくは作業台操作レバー52が作業台40上のオペレータによって操作されると、各モード(通常モード、HVモード)に応じてその操作レバーの操作方向および操作量に対応した電圧信号が出力され、コントローラ60のブーム作動制御部61に入力されるようになっている。
【0027】
コントローラ60のブーム作動制御部61は、モード選択スイッチ53で選択された各モードにおいて、ブーム操作レバー51の操作により出力される電圧信号に応じた駆動方向および駆動量に基づいて対応する第1制御バルブ81、第2制御バルブ82、および第3制御バルブ83の各スプール(図示しない)を電磁駆動して、起伏シリンダ24、伸縮シリンダ31、旋回モータ23を油圧作動させる制御を行う。また同様に、このブーム作動制御部61は、作業台操作レバー52の操作により出力される電圧信号に応じた駆動方向および駆動量に基づいて対応する第4制御バルブ84のスプール(図示しない)を電磁駆動して、首振りモータ43を油圧作動させる制御を行う。
【0028】
制御バルブ81,82,83,84の各スプールの駆動方向は対応する油圧アクチュエータ(起伏シリンダ24、伸縮シリンダ31、旋回モータ23、および首振りモータ43を総称して「油圧アクチュエータ」と称する)の駆動方向(伸縮もしくは回転方向)に関係し、各スプールの駆動量は対応する油圧アクチュエータに供給される作動油の流量(単位時間当たりの流量)、すなわち各油圧アクチュエータの作動速度に関係する。したがって、各制御バルブ81〜84におけるスプールの駆動方向が逆になると対応する油圧アクチュエータの作動方向が逆になり、各制御バルブ81〜84におけるスプールの駆動量が大きくなるほど対応する油圧アクチュエータの作動速度は大きくなる。
【0029】
走行体10内に設けられた図1に示す油圧ポンプPは図示しない動力源(エンジンや電動モータ等)により駆動され、この油圧ポンプPより吐出される作動油(圧油)は制御バルブ81〜84経由で各油圧アクチュエータ24,31,23,43に供給されるようになっている。
【0030】
コントローラ60の位置算出部62は、基端ブーム30a内に設けられてブーム30の起伏角度θ(図6を参照)を検出する起伏角度検出器71、基端ブーム30aの先端部に設けられてブーム30の長さL(図6を参照)を検出する長さ検出器72、および走行体10内に設けられてブーム30の旋回角度φ(図6を参照)を検出する旋回角度検出器73からの検出情報に基づいて、走行体10の所定の基準位置に対するブーム30の先端部P(図6を参照)の位置を算出し、その結果得られたブーム先端部Pの位置の情報を検出器71,72,73が検出する各情報とともにコントローラ60のブーム作動制御部61等に出力する。ここで、位置算出部62は、検出器71,72,73からの各情報に基づいて、直接的にはブーム30の先端部Pの位置を座標(θ,L,φ)として求めるが、ブーム30の作業半径R(図6に示すようにフートピン21を含む鉛直線PLからブーム30の先端部Pまでの間の水平距離)およびブーム30の先端部の高さH(図6に示すようにフートピン21を含む水平線WLからのブーム30の先端部Pの高さ)はそれぞれθとLとを用いて表すことができるので、ブーム30の先端部Pの位置を座標(R,H,φ)として同時に求めている。
【0031】
コントローラ60の記憶部63には、走行体10を転倒させることなく作業台40(ブーム30の先端部)を移動させることができる領域として予め定められた許容作業範囲S(図6を参照)のデータが記憶されている。なお、ブーム30および作業台40等から構成される高所作業装置により走行体10に対して発生する転倒モーメントは、ブーム30の起伏角度θ、長さ(伸長量)L、および作業台40の積載荷重等によって決まり、この転倒モーメントを支持する力は、ブーム30の旋回角度φ、およびアウトリガジャッキ13の張出量等によって決定される。よって、この転倒モーメントを支えられる範囲内、すなわち許容作業範囲S内で作業が可能になる。
【0032】
許容作業範囲Sの外縁は、ブーム30の長さLが取り得る範囲とブーム30の起伏角度θが取り得る範囲との関係から自ずと画定される外縁(「作動限界線」と称する)と、構造上はブーム30の先端部を移動させ得るが、走行体10の転倒を防止する(転倒モーメントが過大となるのを防止する)観点からブーム30の先端部の移動を禁止せざる得ない限界線として設定した外縁(「規制線」と称する)とから構成される。
【0033】
ここで図6を用いて高所作業車1に設定される許容作業範囲Sを説明する。図6は、或るブーム30の旋回姿勢(旋回角度φ)等に対応して走行体10の側方に設定されるブーム30の起伏面内における許容作業範囲Sの一例を示したものであり、ここでは図中に示す線K1,K2,K3,K4,K5,K6によって囲まれた領域が許容作業範囲Sに該当する。図中に示す線K1〜K5は作動限界線であり、線K6は規制線である。また、破線で示す線K5′は、規制線K6が仮に設定されなかったとした場合に形成されるであろう、仮想の作動限界線である。すなわち、規制線K6と仮想の作動限界線K5′との間の領域は、ブーム30の先端部の移動が禁止される領域(構造上はブーム30の先端部を移動させ得るが、転倒防止の観点からその移動が禁止される領域)であり、規制線K6は、このブーム30の先端部の移動が禁止される領域との境界線ということになる。
【0034】
上記説明からも分かるように、ブーム30の先端部は作動限界線K1〜K5を外側に超えて移動することはあり得ないが、ブーム30の作動に対する何の規制もなければ規制線K6の外側へ移動することはあり得る。このとき、コントローラ60のブーム作動制御部61は、位置算出部62において算出されたブーム30の先端部の位置と記憶部63に設定された許容作業範囲Sとの双方のデータを取り込んでこれらを比較し、ブーム30の先端部が規制線K6に達していると判断したときには、ブーム30の先端部を規制線K6(許容作業範囲S)の外側へ移動させるようなブーム操作レバー51の操作信号を無視してブーム30の作動を停止させるようになっている。例えば、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている状態において、ブーム30の先端部が垂直方向上方に直線的に移動した場合に、このブーム先端部が規制線K6に達したとき、ブーム30の作動は規制停止される。このためブーム30の先端部が許容作業範囲S(規制線K6)を大きく超えて移動することはなく、作業台40上のオペレータは自身が搭乗した高所作業車1の転倒を心配することなく安心して作業台40(ブーム先端部)の移動操作を行うことができる。
【0035】
ところで、上記のように設定される許容作業範囲Sは転倒防止の観点から高所になるほど許容される作業半径Rが狭くなった範囲となっている。このため、ブーム30の垂直作動制御(HV制御)により、例えば地上近傍の位置から所望の高さまで作業台40(ブーム先端部)を直線的に上昇移動させるような場合に、オペレータが作業台40に乗り込んだ地上近傍の位置では許容作業範囲S内であっても、ブーム先端部を垂直上方に移動させるに従ってブーム先端部が許容作業範囲Sの限界に達するおそれが高くなっていく。
【0036】
具体的には、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている状態において、図10に示すように、ブーム先端部を地上近傍位置(点P30)から垂直作動制御を用いて垂直方向上方に直線的に移動させると、所定の高所位置(点P31)でブーム先端部が規制線K6(許容作業範囲Sの限界)に到達して、ブーム先端部の当該上昇移動が規制停止されることとなる。これによりブーム先端部が許容作業範囲Sを大きく超えて移動するようなことはないが、その後、作業台40を所望の高さHまで到達させるためにブーム先端部の上方への垂直移動を再開させるためには、ブーム30の先端部を許容作業範囲S内において規制線K6から離反する方向へ、すなわち水平作動制御によりブーム先端部を水平方向内側(走行体10側)へ一度退避させた後で始めて再開させることができるようになっていた。ブーム先端部をHVモードにより所望の高さHまで上昇移動させる途中において、ブーム30の先端部が規制線K6に達してブーム先端部の垂直移動が規制される度に、一旦ブーム30の先端部を規制線K6から離反する方向に水平移動させて規制を解除するのはオペレータにとって非常に煩わしいものであり(図10におけるブーム先端部の移動軌跡を参照)、このようにオペレータがブーム先端部を垂直移動させる操作と水平移動させる操作とを交互に繰り返し行うことにより作業効率が極めて低くなるという問題があった。
【0037】
そこで、コントローラ60の記憶部63には、規制線K6よりも内側(走行体10側)の領域内に規制線K6に沿って設けられたトレース線TR(図6を参照)のデータが数式或いは点(座標)の集合として記憶されており、コントローラ60のノンストップ作動制御部66は、HVモードにおける垂直作動制御中にブーム30の先端部がトレース線TRに達するような場合(ブーム30の先端部が垂直移動中に、ブーム先端部がトレース線TRに達しようとしていると判断したとき)には、詳細は次述するように、ブーム30の先端部が許容作業範囲Sから逸脱しないような制御をしつつ、連続してブーム30の先端部をオペレータの意図に合致する移動方向(概垂直方向)に直線的に上昇移動させることを可能とした制御(以下、このような制御を「概垂直作動制御」又は「ノンストップ作動制御」と称する)を実行するようになっている。
【0038】
ここで、コントローラ60の規制線角度算出部64は、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている状態において、位置算出部62により検出されるブーム30の先端部の位置情報(R,H,φ)と記憶部63に設定された許容作業範囲Sのデータとを取り込んで、ブーム30の先端部が現在位置する高さH近傍の規制線K6の傾き角度αを算出する。ここで傾き角度αは、図6に示すように、ブーム30の軸線を含む垂直面内(起伏面内)での規制線K6上においてブーム先端部Pの現在位置の高さHと同一高さとなる位置(点P10)を通る鉛直線PL′を基準線(零度線)として、点P10における高さHに対して所定高さ(例えば1メートル)だけ上方に位置する規制線K6上の点P11と基準となる点P10とを結んだ直線がなす角度である。
【0039】
目標軌道設定部65は、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている状態において、ブーム操作レバー51により指定されたブーム先端部の目標移動方向にブーム先端部を基点とする直線状の目標軌道(目標ライン)を設定する。ここで、図5(B)中において二点鎖線で示す鉛直線TLが、HVモードによりブーム先端部Pが垂直方向に上昇移動している場合に、この目標軌道設定部65によって設定される目標軌道の一例である。
【0040】
コントローラ60のノンストップ作動制御部66は、上記の概垂直作動制御(ノンストップ作動制御)を開始する条件となる、ブーム30が垂直作動制御中であることの検知をモード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている状態において、目標軌道設定部65により設定される目標軌道に基づいて、或いはブーム操作レバー51の操作状態を検出することにより行う。また、ブーム30の先端部がトレース線TRに達しようとしているか否かの判断は、位置算出部62が検出するブーム30の先端部の位置がトレース線TR上に達した状態もしくは近接した状態まで到達したか否かに基づいて行う。そして、ノンストップ作動制御部66は、ブーム先端部が垂直方向に直線的に(目標軌道に沿って)上昇移動中にトレース線TRに達しようとしている場合には、その時点でブーム30の作動を停止してしまうのではなく、ブーム30の先端部が許容作業範囲S内に収まるように、目標軌道設定部65により設定されたブーム先端部の目標軌道を規制線角度算出部64により求められた傾き角度αに従って補正させる制御を行うとともに、ブーム作動制御部61にブーム30の起仰作動と伸長作動とを組み合わせた複合作動を行わせてブーム先端部をこの傾き補正された目標軌道に沿って移動させる制御を行う(図7におけるブーム先端部の移動軌跡P→P→P→Pを参照)。これにより、概垂直作動制御(ノンストップ作動制御)が開始された後のブーム30の先端部の移動方向は厳密には垂直方向ではないが、ブーム30の当該作動を途中で停止させることなく、オペレータの意図していた方向に近い方向(概垂直方向)にブーム先端部を移動させることができる。
【0041】
なお、ブーム作動制御部61は、この概垂直作動制御中(ノンストップ作動制御中)においては、ブーム先端部を垂直方向に直線的に上昇移動させているときと同様に、ブーム30の起仰作動と伸長作動とを同時に行う連動制御を行っているが、概垂直作動制御(ノンストップ作動制御)と通常の垂直作動制御とにおけるブーム30の各作動量(起仰作動量および伸長作動量)は互いに異なる制御量となっている。すなわち、図8に示すように、ブーム先端部が点Pに位置する状態から概垂直作動制御が開始された場合の移動軌跡(P→P→P)と、仮に何の規制もなくブーム先端部が点Pに位置する状態から上方への垂直作動制御が開始された場合の仮想の移動軌跡(P→P13→P14)とを比較することで分かるように、概垂直作動制御(ノンストップ作動制御)と垂直作動制御とでは、同一の起伏角度θ,θ(同一の起伏作動量)に対して伸長作動量がΔL(PとP13間の距離),ΔL(PとP14間の距離)だけ異なる作動量となっている。したがって、この概垂直作動制御においては、それまで実行されていた垂直作動制御に対してこの作動量(伸長作動量)だけ実質的に補正する制御を行うことで、鉛直線に対して傾き角度αだけ補正された目標軌道に沿ってブーム先端部を概垂直方向に直線的に上昇移動させることができるようになっている。
【0042】
比較部67は、記憶部63に予め設定された許容角度αlmt(例えば0〜10°の範囲内で設定される)と、ブーム先端部の移動に伴って規制線角度算出部64により時々刻々と算出される傾き角度αとを比較して、傾き角度αが許容角度αlmtを超えるような場合(α>αlmt)には、ブーム作動制御部61に規制信号を出力して、ブーム作動制御部61に入力されるブーム操作レバー51からの操作信号とノンストップ作動制御部66からの制御指令信号とを無視させることで、それまで行われていたブーム30に対する概垂直作動制御を停止させる(ブーム30の作動を停止させる)。このように傾き角度αの大きさによってブーム30の概垂直作動を規制するのは、ブーム30の先端部の目標軌道が許容角度αlmtを超えるような過大な傾き角度α(例えば10°以上の角度)で補正される場合、ブーム30の先端部の移動方向において水平方向成分が大きくなるため、オペレータは自分の意図する方向(垂直方向)と大きく異なる方向に作業台40が移動していると認識して故障と勘違いしたり、意図と異なる方向への作業台40の移動がオペレータに危険を及ぼすおそれがあるからである。したがって、許容角度αlmtの値は、HVモードにおける垂直作動制御中に、例えばオペレータにとって自身の搭乗する作業台40(ブーム先端部)が直線的に移動しても違和感のない移動方向に即した角度で設定されることが好ましく、作業の目的・用途等に応じて適宜変更して用いられることが望ましい。
【0043】
なお、本高所作業車1が備える作動制御装置とは、油圧アクチュエータ(起伏シリンダ24、伸縮シリンダ31、および旋回モータ23)、操作装置50、コントローラ60、検出器71,72,73、制御バルブ81,82,83等からなる装置を意味する。
【0044】
次に、上記のように構成された作動制御装置を搭載した高所作業車1におけるブーム30の作動制御について説明する。まず始めに、図7に示す許容作業範囲S内の点Pで示す地上近傍の位置にブーム先端部(作業台40)が位置している状態において、ブーム先端部をその現在位置Pから目的とする高さH位置まで上昇移動させる場合を説明する。
【0045】
作業台40に搭乗するオペレータが操作装置50のモード選択スイッチ53をHVモードに切り換えてブーム操作レバー51の中立位置から前方(前後方向)への傾動操作を開始すると、これによりブーム先端部の目標移動方向が垂直方向上方に指定され、その操作信号がコントローラ60に入力される。コントローラ60の目標軌道設定部65がブーム操作レバー51により指定された目標移動方向にブーム先端部を基点とする直線状の目標軌道(目標ライン)を設定すると(図5(B)に示す目標軌道TLを参照)、ブーム作動制御部61はブーム先端部がその操作量に応じた速度レベルで目標軌道に沿って移動するように起伏シリンダ24と伸縮シリンダ31とを連動作動させる。これにより、オペレータの搭乗する作業台40が垂直方向に直線的に上昇移動を始める。
【0046】
ブーム先端部の上昇移動に伴って、位置算出部62は起伏角度検出器71と長さ検出器72とから検出されたブーム30の起伏角度および伸長量からブーム先端部の現在位置を時々刻々と算出する。一方で、規制線角度算出部64はブーム先端部の位置する高さに応じた規制線K6の傾き角度αを時々刻々と算出し、比較部67は規制線角度算出部64により求められた傾き角度αが許容角度αlmtを超えるか否かを判断している。
【0047】
許容作業範囲S内においてブーム先端部は直線的に上昇移動するに従って規制線K6に徐々に接近していき、このときノンストップ作動制御部66は位置算出部62により算出されたブーム30の先端部の位置情報と記憶部63に記憶されたトレース線TRの情報とを比較しており、ブーム先端部がトレース線TR(点P)に達していると判断すると、規制線角度算出部64により算出される傾き角度αが許容角度αlmtを超えていないことを条件に、ブーム先端部の目標軌道(の方向)をその高さ位置Hでの規制線の傾き角度α(=α)に従って補正して、ブーム先端部をこの補正された目標軌道(図7中の目標軌道TLを参照)に沿って(つまり概垂直方向に)上昇移動させる制御を行う。すなわち、ノンストップ作動制御部66とブーム作動制御部61とが協働して、ブーム30の起仰作動と伸長作動とを組み合わせた連動作動を継続して行わせ、ブーム先端部を概垂直方向に設定された目標軌道に沿って直線的に上昇移動させる制御を行う。(図7に示すブーム先端部の移動軌跡P→P→Pを参照)。これによりブーム先端部を許容作業範囲Sから逸脱させることなくオペレータの意図する方向(概垂直方向)に上昇移動させて、オペレータの搭乗する作業台40を上記の所望の高さH位置まで到達させることができる。
【0048】
このように本実施形態に係る作動制御装置によれば、ブーム30の先端部がHVモードで垂直方向に直線的に上昇移動しているときに、このブーム先端部がトレース線TRに到達しようとすると、ブーム先端部の目標軌道の方向を規制線角度算出部64により算出された規制線K6の傾き角度αに従って補正し、この補正された目標軌道に沿ってブーム先端部を移動させる作動制御(概垂直作動制御)を実行するので、ブーム先端部が規制線K6に達してブーム先端部の上昇移動が途中で停止することはなく、オペレータが意図する移動方向に近い方向にブーム先端部を継続して移動させることができる。このため、作業の中断が防止されるとともに、作業台40を所望の高所位置まで移動させるために従来行われていたブーム先端部の垂直移動と水平移動との煩雑な繰り返し操作が解消されるので、作業効率を向上させることができる。
【0049】
また、概垂直作動制御の実行にあたり目標軌道の方向はオペレータに違和感を与えない程度で設定される許容角度αlmt(例えば上述の0〜10°)の範囲内で補正されるため、ブーム先端部の移動方向は厳密には垂直方向ではないものの、オペレータが意図する移動方向に極近い方向(概垂直方向)にブーム先端部を継続して移動させることができる。このため、オペレータが搭乗する作業台40が自身の意図する方向とは異なる方向に移動する事態が未然に防止されるので、オペレータは違和感や不安感を覚えることなくブーム操作を行うことが可能となる。
【0050】
また、ブーム30の先端部を許容作業範囲Sから逸脱することなく目標軌道に沿って概垂直方向に直線的に上昇移動させることができるため、最初に作業台40を上昇させた出発位置(図7における点P)から最も効率的に且つ逸早く作業台40を所望の高さ(図7における高さH)に到達させることができるので、作業の安全性を確保しつつ作業効率をより向上させることが可能になる。
【0051】
なお、上記のように構成される作動制御装置において、ブーム30の概垂直作動制御(ノンストップ作動制御)が実行されてブーム先端部(作業台40)が目標軌道に沿って概垂直方向に上昇移動している際に、作業台40に搭乗したオペレータにとっては作業台40の上昇移動を継続させつつもブーム30の旋回作動を連動させて所望の作業を行うことを望む場合がある。
【0052】
ところが、ブーム30の概垂直作動制御中に同時にブーム30の旋回作動を行うと、ブーム30の規制半径が急激に変化する(すなわち許容作業範囲Sが狭くなる)ことがあるため、このような場合にも、コントローラ60の比較部67が規制線角度算出部64により算出される傾き角度αと記憶部63に予め設定された許容角度αlmtとを比較して、傾き角度αが許容角度αlmtを超えようとしているときには、ブーム30の作動を停止させる制御を行うようになっている。
【0053】
例えば、図7に示すブーム30の旋回角度φの起伏面内においてブーム先端部が点Pに位置する状態(概垂直作動制御中)から、オペレータによりブーム操作レバー51が捻り操作されると、ブーム30の所定方向への旋回作動が同時に行われる。このとき、位置算出部62は各検出器71,72,73から検出されたブーム30の起伏角度、伸長量および旋回角度からブーム先端部の位置を時々刻々と算出し、規制線角度算出部64はブーム先端部の位置する高さHに応じた規制線K6の傾き角度αを時々刻々と算出し、比較部67は規制線角度算出部64により求められた傾き角度αが許容角度αlmtを超えるか否かを判断している。
【0054】
ブーム30が旋回角度φまで旋回作動されて、ブーム先端部が図9に示す旋回角度φの起伏面内の位置Pまで達したところで、規制線角度算出部64により算出されたこの起伏面内での規制線K6の傾き角度α(=α)が許容角度αlmtを超えると比較部67により判断されると、比較部67がブーム作動制御部61に対して規制信号を出力して、ブーム30の作動を停止させる制御が行われる(水平方向成分の大きくなった目標軌道に沿ってブーム先端部が移動するのを規制する制御が行われる)。このため、オペレータは自分の意図する方向(垂直方向)と大きく異なる方向に作業台40が移動していると認識して、故障が発生したものと勘違いしてしまう事態を防止することができる。また、オペレータの意図と異なる方向への作業台40の移動により、作業台40が周囲の構造物と干渉したり、オペレータが作業台40内でバランスを崩したりするのが防止されるため、より安全な高所作業を実現することが可能になる。
【0055】
なお、記憶部63に設定される許容作業範囲Sが作業台40の積載荷重を加味して設定される構成においては、例えば、ブーム30の概垂直作動制御の実行中に所定の高所位置で荷物が作業台40内に積み込まれた場合、規制半径が急激に変化する(すなわち許容作業範囲Sが狭くなる)ことがあり得るが、このときも上記と同様に、コントローラ60の比較部67によって傾き角度αが許容角度αlmtを超えると判断されたときには、ブーム作動を停止する制御が行われるようになっている。
【0056】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示されたものに限定されない。例えば、上述の実施形態では、ブーム30を或る旋回角度φまで旋回させた状態でブーム30の高さ(地上揚程)Hを一定に保持したまま、ブーム先端部を起伏面内において水平方向(前後方向)および垂直方向(上下方向)に移動させるようにブーム30を作動させるHVモードの水平垂直作動を説明したが、これに限定されるものではなく、起伏シリンダ24、伸縮シリンダ31および旋回モータ23を組み合わせて駆動することでブーム先端部を水平面内における任意の方向(360°の方向)に移動させるとともに垂直方向(上下方向)に移動させるようにブーム30を作動させる構成としてもよい。
【0057】
また、モード選択スイッチ53によりHVモードが選択されている場合においてブーム操作レバー51の傾動操作により水平および垂直作動を連動させてブーム先端部を斜め上方に直線的に移動させることが可能な構成としてもよい。この構成によれば、ブーム先端部が斜め上方に移動してトレース線TRに達するようなときでも、目標軌道を規制線K6の当該傾き角度αに従って補正して、ブーム先端部をこの新たに設定された目標軌道に沿って上方に移動させることができる。
【0058】
さらに、上述の実施形態では、本発明が適用される対象は走行体がタイヤ車輪式である高所作業車であったが、走行体は必ずしもタイヤ車輪式に限定されるものではなく、クローラ装置等により走行するものであってもよい。或いは軌道走行用車輪を備えて軌道上を走行する軌道走行用の高所作業車、さらにはタイヤ車輪と軌道走行用車輪との両方を備えた軌陸両用の高所作業車等であってもよい。
【0059】
また、本発明が適用される対象は必ずしも高所作業車でなくてもよく、走行体に起伏、伸縮、および旋回作動自在に設けたブームの先端部に作業機を有して構成されるブーム作業車であれば、他のブーム作業車(例えば、クレーン車や穴掘り建柱車など)であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 高所作業車(ブーム作業車)
10 走行体
23 旋回モータ(油圧アクチュエータ)
24 起伏シリンダ(油圧アクチュエータ)
30 ブーム
31 伸縮シリンダ(油圧アクチュエータ)
50 操作装置(移動方向指定手段)
60 コントローラ
61 ブーム作動制御部(概垂直作動制御手段)
62 位置算出部(位置検出手段)
63 記憶部(記憶手段)
64 規制線角度算出部(角度算出手段)
65 目標軌道設定部(目標軌道設定手段)
66 ノンストップ作動制御部(概垂直作動制御手段)
67 比較部(比較手段)
71 起伏角度検出器(位置検出手段)
72 長さ検出器(位置検出手段)
73 旋回角度検出器(位置検出手段)
P ブーム先端部
K 規制線
TR トレース線(基準線)
α 傾き角度
αlmt 許容角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体上に水平旋回自在に設けられた旋回台に起伏および伸縮自在なブームを有して構成されたブーム式作業車に備えられ、垂直方向において指定された目標移動方向に前記ブームの先端部が直線的に移動するように前記ブームを作動させる制御を行うブーム式作業車の作動制御装置であって、
前記ブームを起伏、伸縮および旋回作動させる油圧アクチュエータと、
前記ブームの先端部の位置を検出する位置検出手段と、
前記ブームの先端部の目標移動方向を垂直方向において指定する移動方向指定手段と、
前記移動方向指定手段により指定された前記ブームの先端部の目標移動方向に前記ブームの先端部を基点とする直線状の目標軌道を設定する目標軌道設定手段と、
前記ブームの先端部の移動が禁止される領域との境界線である規制線が高位置になるほど狭く設定されるとともに、前記規制線上に若しくは前記規制線よりも内側の領域内に基準線が設定された記憶手段と、
前記位置検出手段により検出される前記ブームの先端部の位置近傍において前記基準線の鉛直線に対する傾き角度を算出する角度算出手段と、
前記ブームの先端部が目標軌道に沿って垂直方向に直線的に上昇移動しながら前記基準線を超えようとするときに、前記ブームの先端部の前記目標軌道の方向を前記角度算出手段により算出された傾き角度に従って補正して、前記ブームの先端部が前記基準線を超えないように前記ブームの起伏作動と伸縮作動とを組み合わせて前記ブームの先端部を該補正された目標軌道に沿って直線的に上昇移動させる制御を行う概垂直作動制御手段を備えて構成されるブーム作業車の作動制御装置。
【請求項2】
前記角度算出手段により算出される傾き角度と予め設定された許容角度とを比較する比較手段を備え、
前記比較手段は、前記ブーム先端部が前記目標軌道に沿って移動しながら前記基準線を超えようとするときに、前記傾き角度が前記許容角度を超えると判断した場合、前記概垂直作動制御手段による目標軌道の補正をさせることなく、前記ブームの作動を停止させる制御を行うように構成されることを特徴とする請求項1に記載のブーム作業車の作動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−260698(P2010−260698A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113656(P2009−113656)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000116644)株式会社アイチコーポレーション (168)
【Fターム(参考)】