説明

プライマー組成物およびそれを用いたプライマー処理方法

【課題】 優れた導電性を示すプライマー組成物であり、それを用いてプライマー処理を行うことで補修モルタルの接着性を高めることが可能となる、補修モルタルと下地コンクリートとの接着性を高めるためのプライマー組成物およびプライマー処理方法を提供する。
【解決手段】 非導電性ポリマーと導電性ポリマーとを含有してなるプライマー組成物であり、非導電性ポリマーと導電性ポリマーとを含有してなるプライマー組成物を用いるプライマー処理方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー組成物およびそれを用いたプライマー処理方法、特に、コンクリート構造物の断面修復工法において、補修モルタルを打ち継ぐ場合、補修モルタルと下地コンクリートとの接着性を高めるためのプライマー組成物およびそれを用いたプライマー処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中の補修工事では、劣化した部分を除去し、新たに補修モルタルを打ち継ぐ断面修復工事が行われている。その際、補修モルタルと下地コンクリートとの接着性を高めるためにプライマー処理が行われている。
【0003】
従来、プライマーは、JIS A 6203に規定されているセメント混和用ポリマーを使用しており、種類としては、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル重合体エマルジョン、アクリル酸エステル重合体エマルジョン、及びこれらの混合エマルジョンが提案されている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。
また、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、スチレン−ブタジエン系エマルジョン、及びアクリル酸エステル系エマルジョンよりも接着性が高く、耐アルカリ性等の耐久性も高いエポキシ系プライマーを使用することも提案されている(特許文献4参照)。
【0004】
一方、導電性ポリマーは、電池、コンデンサー、塗料、帯電防止材、有機EL発光材料、電磁波シールド、及び印刷基盤等の電気・電子分野の用途で使用されているが、セメントコンクリート分野では使用されていない。
【0005】
【特許文献1】特公昭44−018757号公報
【特許文献2】特公昭62−059068号公報
【特許文献3】特公昭50−038404号公報
【特許文献4】特開2000−345101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらプライマーは塗布することで接着性を高めることはできるが、断面修復部分と既設コンクリート部分との界面で導電性を低下させることとなり、未補修部分の鉄筋に腐食電流が流れやすくなる場合があった。
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、導電性ポリマーを含有するプライマー組成物を使用するプライマー処理方法を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非導電性ポリマーと導電性ポリマーとを含有してなるプライマー組成物であり、該プライマー組成物を用いるプライマー処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプライマー組成物は、優れた導電性を示し、それを用いてプライマー処理を行うことで補修モルタルの接着性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0011】
本発明で使用する非導電性ポリマーとは、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマーであり、従来よりセメント混和用として、一般的に使用されてきたポリマーであり、中性化、塩害、及び凍害等の耐久性を向上させる目的で使用するものである。例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及び天然ゴムなどのゴムラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂エマルジョン、並びに、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマーなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上の混合物も使用可能である。
非導電性ポリマーの使用量は、セメント100部に対して、0.5〜20部が好ましく、2〜10部がより好ましい。0.5部より少ないと耐久性を向上させることが難しい場合があり、20部を超えると導電性ポリマーと併用しても導電効果が無くなる場合がある。
【0012】
本発明で使用する導電性ポリマーとは、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、及びポリチエニレンビニレン類等のヘテロ原子含有導電性ポリマーや、ポリアセチレン類、ポリアズレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類、ポリフェニルアセチレン類、及びポリジアセチレン類等の炭化水素系導電性ポリマーが挙げられる。これらの導電性ポリマーは、粉末状や水を分散させたディスパージョンのいずれでも使用可能である。これらのうち、比較的高い導電性を示すポリチオフェン類の使用が好ましい。
導電性ポリマーの使用量は、非導電性ポリマー100部に対して、0.1〜20部が好ましく、0.5〜10部がより好ましい。0.1部未満ではモルタルに導電性を付与することが難しい場合があり、20部を超えるとモルタルの強度が低下する場合がある。
【0013】
本発明において、電子供与剤を併用することは、さらに導電性を向上させることができるので好ましい。
電子供与剤としては、塩素、臭素、ヨウ素、及びこれらの化合物等のハロゲン類、五フッ化リン、五フッ化ヒ素、及び五フッ化アンチモンなどのルイス酸が挙げられる。
【0014】
本発明において、プライマー組成物に、水硬性物質であるセメント類、アルカリにより刺激され硬化するポゾラン物質、及び急硬性を付与することができるカルシウムアルミネート類からなる群より選ばれる一種又は二種以上を、接着性や導電性に悪影響を与えない範囲で併用することが可能である。さらに、砂を適度に混合したモルタルをプライマー組成物として使用することも可能である。
【0015】
さらに、本発明のプライマー組成物には、品質に悪影響を与えない範囲で、カーボンブラック、界面活性剤、繊維、増粘剤、粘土鉱物、凝結促進剤、防錆剤、防凍剤、防水剤、及び抗菌剤等の各種添加剤を併用することが可能である。
【0016】
本発明のプライマー組成物は、水と混合し、希釈して使用することも可能であり、下地コンクリートの吸水状態や気温等を考慮し、調整して使用することが可能である。
【0017】
本発明のプライマー組成物の施工方法は、例えば、噴霧機を用いて下地コンクリート面に吹き付けてもよく、刷毛やローラーで塗りつけることも可能である。
【実施例】
【0018】
実験例1
非導電性ポリマー100部に対して、水100部、及び表1に示す導電性ポリマーを配合してプライマー組成物を調製し、導電性試験と付着強度試験とを行った。結果を表1に併記する。
【0019】
<使用材料>
非導電性ポリマー:エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、固形分45%、市販品
導電性ポリマーA:ポリエチレンオキシジオキシチオフェン水分散液、固形分1.2%、市販品
導電性ポリマーB:ポリピロール、市販品
補修モルタル:コテ塗り用ポリマーセメント系補修モルタル、市販品
【0020】
<測定方法>
抵抗率 :導電性試験、JIS R 5201で規定されている砂、セメント、及び水で調製したモルタルを4cm×40cm×16cmに成形し、材齢28日後に、全表面に塗り量200g/m2を目安とし、プライマー組成物を刷毛で塗布した。プライマー組成物が乾燥したらアルミニウム製の電極をその両端に取り付け、インピーダンス測定装置を用いて材齢28日の試験体の抵抗率を、抵抗率(Ω・cm)=(抵抗×電極面積)/電極間距離の式から算出した。プライマー組成物を塗布した試験体の養生温度は20℃、湿度は60%
付着強度 :付着強度試験、表面をサンドブラストした縦30cm×横30cm×厚さ6cmのコンクリート製平版に、200g/m2の塗り量を目安に調製したプライマー組成物を塗布し、乾燥後、補修モルタルを厚さ20mmとなるように塗り付け、補修モルタルを塗り付けて5日目に、径55mmのコアドリルで下地コンクリートまで削孔し、切れ目を入れ、測定材令は7日で建研式付着力試験機で付着強度を測定
【0021】
【表1】

【0022】
実験例2
横35cm×縦15cm×厚さ20cmの角柱の試験体ができる型枠を作り、打設上面から鉄筋までの位置が9cmになるように、幅5cm間隔で、長さ30cmのD16鉄筋2本を型枠内に配置した。
そして、打設上面から、横15cm×縦15cm×厚さ10cmの領域に発泡スチロールを充填して断面修復箇所とするために、コンクリートを打設しても遮蔽できるようにした。
次いで、1m3あたり5kgの塩を添加した、呼び強度24N/mm2のコンクリートで、横15cm×縦15cm×深さ10cmの模擬断面修復箇所を図1のとおり作成した。
実験例1の実験No.1- 5と実験No.1- 9のプライマー組成物を、断面修復をする面全体に200g/m2を目安として塗布し、補修モルタルで断面修復した。修復後1年に修復部分を解体し内部の鉄筋表面の発錆面積率を測定した。
比較として、従来のプライマーを塗布した場合の発錆面積率も測定した。結果を表2に併記する。
【0023】
<使用材料>
従来のプライマー:エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、固形分45%、市販品100部に対して、水200部を混合したもの
【0024】
<測定方法>
発錆面積率:断面修復箇所の鉄筋を切断し、トレーシングペーパーで発錆箇所をスケッチし、発錆面積率(%)=(錆びの面積/鉄筋表面積)×100の式から全鉄筋表面積に対する発錆面積率を求めた。
【0025】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係わる試験体の模式図であり、aは平面図、bは側面図、及びcは補修モルタルで補修した後の側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 D16鉄筋
2 1m3あたり5kgの塩を添加した呼び強度24N/mm2のコンクリート
3 補修モルタルで断面修復した部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性ポリマーと導電性ポリマーとを含有してなるプライマー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のプライマー組成物を用いるプライマー処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265039(P2006−265039A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85550(P2005−85550)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】