説明

プラスチックの分別方法

【課題】ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物が混在するプラスチック混合物を種類別に分離するプラスチックの分別方法を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るプラスチックの分別方法は、プラスチック混合物1を種類別に分離するに当り、当該プラスチック混合物1を温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素8に接触させた後、比重分離するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含むプラスチック混含物、特に電線・ケーブル用途のプラスチック混合物を種類別に分離、分別する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
循環型社会の構築に向けて、さまざまな産業分野でリサイクルが検討されている。電線分野でも廃電線のリサイクルに取り組んでいる。廃電線にはいろいろな品種の電線が混じりやすく、またケーブルでは絶縁体とシースに異なる種類のプラスチックを使うことも多い。その結果、廃電線から回収した被覆材には複数種のプラスチック材料が混在する。
【0003】
高品質なリサイクル製品を得るためには、プラスチック混合物を種類別に分ける作業が必要であり、プラスチックの比重差を利用した比重分離方式が広く用いられている。
【0004】
電線に使用されるプラスチックの代表はポリ塩化ビニル樹脂組成物であるが、廃電線被覆材を焼却すると有害なダイオキシンが発生したり、埋め立てると被覆材に含まれる鉛系配合剤が土壌に溶出するおそれがあるため、各種対策を講じる必要がある。
【0005】
これに対して、ダイオキシン発生の原因物質であるハロゲン元素や鉛系配合剤を含まないノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を被覆材として用いた電線が、環境に優しいエコ電線として需要を伸ばしている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−48807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物の比重は1.1〜1.5であり、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の比重1.3〜1.4と同等である。このため、回収した廃電線被覆材中にこれらの材料が混じっている場合、従来の比重分離方式を用いた分別が困難であり、電線のリサイクルを進める上で大きな障害になることが予想されている。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物が混在するプラスチック混合物を種類別に分離するプラスチックの分別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、プラスチック混合物を種類別に分離するに当り、当該プラスチック混合物を温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素に接触させた後、比重分離することを特徴とするプラスチックの分別方法である。
【0010】
請求項2の発明は、プラスチック混合物を種類別に分離するに当り、当該プラスチック混合物を、温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素に接触させて発泡物と無発泡物とし、これらを比重分離することを特徴とするプラスチックの分別方法である。
【0011】
請求項3の発明は、上記プラスチック混合物が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含む請求項1又は2記載のプラスチックの分別方法である。
【0012】
請求項4の発明は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含む上記プラスチック混合物が、電線・ケーブルの被覆材である請求項3記載のプラスチックの分別方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比重が同等の電線被覆材であるポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物のプラスチック混合物を種類別に比重分離することができ、また、その分離されたポリ塩化ビニル樹脂組成物においては可塑剤の抽出はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を添付図面により説明する。
【0015】
本発明は、プラスチック材料に超臨界状態の二酸化炭素を接触・含浸させた後、大気圧まで減圧したとき、発泡が生じる現象に基づいたものである。プラスチック材料に発泡が生じると比重が低下するので、同じ比重を持つプラスチック材料からなるプラスチック混合物の内、一方の材料が超臨界二酸化炭素で発泡することにより比重差が生じ、比重分離が可能になる。
【0016】
ところで、上述した特許文献1で、ポリ塩化ビニルとPET(ポリエチレンテレフタレート)の混合物を対象とし、同じく超臨界状態の二酸化炭素によりポリ塩化ビニルを発泡させ、比重差によってこの二つのプラスチックを分離する方法が提案されている。しかし、この方法の実施例で示される超臨界二酸化炭素の温度、圧力条件で分離、分別を行うと、電線被覆用途のポリ塩化ビニル樹脂組成物に柔軟性を付与するための必須成分であるフタル酸エステルやトリメリット酸エステルなどの可塑剤が同時に抽出されてしまう。このため、分離後のポリ塩化ビニル樹脂組成物は、元の樹脂組成物とは異なったものとなり、リサイクルに供することができない。
【0017】
本発明者らは、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は超臨界二酸化炭素によって発泡しやすく、他方、ノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物は超臨界二酸化炭素によって発泡しにくいことを見出すと共に、ポリ塩化ビニル樹脂組成物中に配合している可塑剤を超臨界二酸化炭素で抽出させることなく発泡させる条件を見出すことにより、本発明を完成するに到った。つまり、本発明は分離対象であるポリ塩化ビニル樹脂組成物に配合されている可塑剤の抽出が起きないように工夫したものである。
【0018】
本実施の形態に係るプラスチックの分別方法は、2種類以上のプラスチック材料からなるプラスチック混合物を種類別に比重分離するに当り、当該プラスチック混合物を、温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素に接触させて発泡物と無発泡物とし、その後、これらの発泡物と無発泡物を比重分離するものである。プラスチック混合物は、比重が同等のプラスチック材料、例えばポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含むものである。ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含むプラスチック混合物としては、例えば、回収された廃電線・ケーブルの被覆材が挙げられる。
【0019】
超臨界二酸化炭素とは、本来、温度31℃以上、圧力7.4MPa以上の状態にある二酸化炭素を意味するが、本実施の形態で使用する超臨界二酸化炭素の温度、圧力条件は次のように規定される。
【0020】
超臨界二酸化炭素の温度は60〜100℃の範囲である。温度が60℃より低いと発泡が起きにくい上に、ポリ塩化ビニル樹脂組成物に配合されている可塑剤の抽出が起きやすくなる。また、温度が100℃より高いとポリ塩化ビニル樹脂組成物が軟化・溶融して、取り扱い性が著しく低下する。
【0021】
超臨界二酸化炭素の圧力は7.4〜10MPaの範囲である。圧力が7.4MPaより低いと、電線被覆材中への超臨界二酸化炭素の含浸が不十分になり発泡が起きにくくなる。また、圧力が10MPaより高いとポリ塩化ビニル樹脂組成物中の可塑剤の抽出が起きやすくなる。
【0022】
超臨界二酸化炭素による電線被覆材の発泡プロセスを、図1に基づいて説明する。
【0023】
予め細かく裁断または粉砕しておいた電線被覆材(サンプル)1が、恒温槽2内に設けた圧力容器3内に配置される。液化二酸化炭素ボンベ4から供給される液体二酸化炭素6は、ポンプ7で圧力7.4〜10MPaに加圧され、供給ライン5を介して圧力容器3内に供給される。また、液体二酸化炭素6は恒温槽2内で60〜100℃に加熱される。圧力の調整は圧力調整バルブ11でなされる。
【0024】
圧力容器3内で、電線被覆材(サンプル)1を、温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素8に接触させて、電線被覆材1の内部に超臨界二酸化炭素8を含浸させた後、大気圧まで減圧し、電線被覆材1中に二酸化炭素の気泡を発生させる。超臨界二酸化炭素8と電線被覆材1の最適接触時間は、裁断または粉砕された電線被覆材1の大きさや超臨界二酸化炭素8の温度、圧力に応じて変わるが、おおよそ10分以内である。また、電線被覆材1を超臨界二酸化炭素8に接触させる前に、電線被覆材の裁断または粉砕物1を予め60〜100℃に加熱しておくことも可能である。このとき、恒温槽2による加熱や高周波加熱を用いることができる。特に高周波加熱は、極性の高いポリ塩化ビニル樹脂組成物の温度を選択的に高めるので有利である。
【0025】
上記接触、含浸プロセスにより、比重1.3〜1.4のポリ塩化ビニル樹脂組成物が発泡し、比重を1.3以下にすることができる。このとき、可塑剤が抽出されると回収ライン9を介して抽出物トラッパー10に回収されるが、可塑剤はほとんど抽出されない。一方、ノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物は発泡しないため、当初の比重1.1〜1.5を維持したままである。この結果、圧力容器3内に、発泡したポリ塩化ビニル樹脂組成物と無発泡のノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物が生成する。
【0026】
得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物には比重差が生じていることから、遠心式比重分離、浮沈分離、ハイドロサイクロン、ジグなど従来の比重分離方式による分別が可能になる。また、電線被覆材に、これらの材料の他に他の材料、例えばポリエチレン樹脂組成物(比重約0.9)が混在していても、比重差を利用して、容易に分別可能である。
【0027】
一方、本実施の形態に係る分別方法により得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物は発泡しているが、この発泡したポリ塩化ビニル樹脂組成物をリサイクルしてなる最終的なリサイクル製品から発泡は除かれる。なぜならば、リサイクル製品の加工に用いる押出機の溶融・圧縮ゾーンで、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は溶融、加圧され、発泡を含まない樹脂組成物が押出機出口側の計量ゾーン部に送られ、発泡を形成していた二酸化炭素は逆方向の押出機入口側の供給ゾーン部に分離・排出されるためである。
【0028】
本実施の形態に係る分別方法の対象となるポリ塩化ビニル樹脂組成物の組成には制約はない。一方、ノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体などのポリオレフィン系ポリマーに水和アルミナ、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を難燃剤として混和した樹脂組成物であり、ハロゲン元素および鉛系配合物を含まないことを特長としている。もちろん、べースとなるポリオレフィン樹脂には、スチレン系ゴムやエチレンプロピレンゴム、アクリルゴムなどゴム系材料をブレンドすることができるとともに、常法にしたがって、酸化防止剤、滑剤、軟化剤、充填剤、着色剤などを配合することができる。
【0029】
以上説明してきた通り、本実施の形態に係る分別方法を用いれば、比重が同等の電線被覆材であるポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物のプラスチック混合物を、種類別に分離することができる。また、分離されたポリ塩化ビニル樹脂組成物において、可塑剤の抽出はほとんど(又は全く)起きていない。
【0030】
また、本実施の形態に係る分別方法は、主に電線被覆材の分別に適用されるが、建築用途や包装用途など電線以外の用途で使用されるプラスチック材料の分別にも適用できることは言うまでもない。すなわち、本実施の形態に係る分別方法は、電線分野におけるプラスチックリサイクルの推進に大きく貢献する技術であり、また他の産業におけるポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物の分別にも有効と考えられ、本実施の形態に係る分別方法の工業的価値は著しく高い。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の効果を実施例と比較例を用いて説明する。
【0032】
はじめに実験方法について概説する。使用したポリ塩化ビニル樹脂組成物(比重1.30、色相は黄色)は、ポリ塩化ビニル樹脂に可塑剤としてフタル酸ジオクチルを30%、三塩基性硫酸鉛を5%、焼成クレーを5%配合して調製した電線被覆用のペレット(大きさ約2mm角)である。また、ノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物(比重1.30、色相は黒色)は、エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル量10%、メルトインデックス1)に水酸化マグネシウムを43%、力ーボンブラックを2%、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.2%配合して調製した電線被覆用のペレット(大きさ約2mm角)である。これらのペレットを重量比1:1でドライブレンドして分別用サンプルとした。
【0033】
図1に示した分別装置の加熱した圧力容器3内に分別用サンプル1を収め、0.2L/分の流量で超臨界二酸化炭素8を圧力容器3内に10分間導き、分別用サンプル1を超臨界二酸化炭素8に接触させた。その後、超臨界二酸化炭素8の供給を止め、大気圧まで減圧した。この超臨界二酸化炭素8に接触させた分別用サンプル1を、湿式の遠心比重分離機(加速度1000G)を使って、塩化ビニル樹脂組成物ペレットとノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物ペレットに分け、黒色のノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物ペレット中に混在する黄色のポリ塩化ビニル樹脂組成物ペレットの割合(重量%)を測定した。この割合を分別純度と定義し、99%以上のものを合格とした。
【0034】
同時に分別回収後のペレットに対して、断面の顕微鏡観察を行い、発泡の有無を調べるとともに比重測定を行った。さらに、ポリ塩化ビニル樹脂組成物ペレットに対して、40℃のジエチルエーテルを用いたソックスレー抽出を行い、ペレット中の可塑剤の量を測定した。可塑剤の量の最大値は30%である。
【0035】
実施例1〜5を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明の規定範囲である実施例1〜5では、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が発泡し、比重が初期の1.3から0.95〜1.1の範囲に低下している。ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物の分別純度はいずれも99%以上であり、十分に分離、分別されていた。また、分離回収されたポリ塩化ビニル樹脂組成物中に含まれる可塑剤の量は、いずれも29%以上であり、超臨界二酸化炭素による分別処理によっても可塑剤は殆ど(又は全く)抽出されなかった。
【0038】
一方、比較例1〜5を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
比較例1は超臨界二酸化炭素を接触・含浸させていない例である。両樹脂組成物の比重が同じであるため、比重分離を行うことができず、分別純度は55%と極めて低かった。
【0041】
比較例2、3は超臨界二酸化炭素の温度が本発明の規定を外れる例である。温度が低い比較例2の場合は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の発泡が不十分で、比重が低下しないため、分別純度60%と目標に達しなかった。温度が高い比較例3の場合は、樹脂組成物が溶融し、ペレット同士が融着するため、比重分別ができなかった。
【0042】
比較例4、5は超臨界二酸化炭素の圧力が本発明の規定を外れる例である。比較例4は圧力が低い場含であり、ペレット中への超臨界二酸化炭素の含浸が不十分であるため、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が十分に発泡せず、分別純度が目標に達しなかった。比較例5は圧力が高い場合であり、前記した特許文献1記載の実施例の一つである。分別純度は高いが可塑剤の抽出量が多いことから、初期と同等のポリ塩化ビニル樹脂組成物を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係るプラスチックの分別方法に用いる分別装置のフロー図である。
【符号の説明】
【0044】
1 分別用サンプル(プラスチック混合物)
8 超臨界二酸化炭素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック混合物を種類別に分離するに当り、当該プラスチック混合物を温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素に接触させた後、比重分離することを特徴とするプラスチックの分別方法。
【請求項2】
プラスチック混合物を種類別に分離するに当り、当該プラスチック混合物を、温度60〜100℃、圧力7.4〜10MPaの超臨界二酸化炭素に接触させて発泡物と無発泡物とし、これらを比重分離することを特徴とするプラスチックの分別方法。
【請求項3】
上記プラスチック混合物が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含む請求項1又は2記載のプラスチックの分別方法。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル樹脂組成物とノンハロゲン耐燃ポリオレフィン樹脂組成物を含む上記プラスチック混合物が、電線・ケーブルの被覆材である請求項3記載のプラスチックの分別方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−181979(P2007−181979A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1362(P2006−1362)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】