説明

プラスチックの金属メッキ前処理方法

【課題】基板となるプラスチックと金属メッキとの密着性および金属メッキの均一性を向上させるプラスチックの金属メッキ前処理方法を提供する。
【解決手段】プラスチックの金属メッキ前処理方法における表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマー1とフッ素化アルキル基をもつモノマー2とからなる2種のモノマー、重合開始剤3および有機金属キレート4を混合し、プラスチック5の表面に含浸させる工程(a)と、2種のモノマーM、重合開始剤3および有機金属キレート4を含浸させたプラスチック5に、加熱または光照射により2種のモノマーMを重合させて有機金属キレート4を含浸させた皮膜6を形成する工程(b)とを含む表面処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属メッキの前処理方法に係り、特に、プラスチックの表面に金属メッキを形成するためのプラスチックの金属メッキ前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックやセラミックなどの非導電性材料の表面に金属メッキを形成することで、金属的な性質(導電性、帯電防止、金属光沢など)を付与する方法として、無電解メッキ法が行われている。しかし、プラスチックやセラミックなどの非導電性材料に、何らの前処理を施すことなく金属メッキをすると、金属メッキと非導電性材料の密着性が不足するという問題や、金属メッキの均一性が得られないなどの問題があるため、金属メッキを行う場合には、非導電性材料を前処理する必要がある。この前処理の方法としては、金属メッキの密着性を上げるためや金属メッキが均一に形成されるようにするために、基板となる非導電性材料の表面を粗面化処理する方法や核剤などを使用した方法が用いられている。
【0003】
粗面化処理の方法としては、酸性溶液やアルカリ性水溶液などによる薬剤エッチングがあるが、この薬剤エッチングにおいて、薬剤でエッチングされる成分であるリン酸塩などの充填剤やシリカをあらかじめポリマー組成物に混錬しておく技術が開示されている(特許文献1参照)。また、ベース樹脂にゴム成分や結晶性の低い成分など、薬剤に反応しやすい物質を混ぜておく技術についても開示されている(特許文献2、3参照)。
【0004】
さらに、核剤を使用する方法として、基板を水溶性ポリマーで安定化した水性Pdゾルと接触させることにより前処理し、これにより基板上に吸着Pd核を堆積させる技術が開示されている(特許文献4参照)。
【0005】
また、Ni、Cu、Cr、Pt、Au、Ag、PdおよびFeなどの有機金属錯体を触媒として使用し、プラスチックなどの有機高分子基体の活性化のための表面改質処理を行う技術が開示されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2006−28207号公報(段落0002、0008)
【特許文献2】特開平8−269313号公報(段落0005〜0006)
【特許文献3】特開2003−96221号公報(段落0004、0014)
【特許文献4】特開平7−188936号公報(段落0009)
【特許文献5】特開2004−26986号公報(段落0010〜0015)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来の前処理方法には、以下に示す問題があった。
基板の表面を粗面化するために、薬剤に反応しやすい物質であるリン酸塩などの充填剤、シリカ、ゴム成分や、結晶性の低い成分などをプラスチックなどの基板に混合させておくと、これらの成分により、基板となるプラスチックなどの特性が損なわれるおそれがあった。
また、基板上に吸着Pd核を堆積する方法においては、この核剤は、基板表面に物理的に吸着しているにすぎないため、薬剤耐性の強いプラスチックでは、エッチングによる粗面化が困難であり、十分な金属メッキとの密着性および金属メッキの均一性が得られないという問題があった。
また、有機金属錯体を触媒として使用する方法においては、有機金属錯体を触媒として基板に固定させることで基板の表面を改質しているが、この触媒の固定による表面改質処理だけでは、金属メッキとの密着性および金属メッキの均一性を得るには不十分であった。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板となるプラスチックと金属メッキとの密着性および金属メッキの均一性を向上させたプラスチックの金属メッキ前処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、プラスチックの金属メッキ前処理方法において、前記プラスチックの表面に有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する表面処理を施すことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、メッキの核剤として、プラスチックの表面の皮膜に有機金属キレートを含浸させることにより、有機金属キレートが金属メッキの核となり、金属メッキとプラスチックとの密着性が向上し、また、金属メッキの均一性が向上する。
【0010】
請求項2に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマー、重合開始剤および有機金属キレートを混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、前記2種のモノマー、前記重合開始剤および前記有機金属キレートを含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて前記有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、炭化水素を側鎖にもつモノマーと、フッ素化アルキル基をもつモノマーとを重合させることにより、プラスチックの表面に有機金属キレートが含浸した耐久性の高い皮膜が形成される。また、超臨界COを用いることにより、皮膜の形成が容易になる。
【0012】
請求項3に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマーおよび重合開始剤を混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、前記超臨界CO中に有機金属キレートを混合し、前記2種のモノマーおよび前記重合開始剤を含浸させたプラスチックの表面に含浸させる工程と、前記2種のモノマー、前記重合開始剤および前記有機金属キレートを含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて前記有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、プラスチックの表面に2種のモノマーおよび重合開始剤とは別に有機金属キレートを含浸させることで、有機金属キレートの種類や量を変える場合の効率が向上する。
【0014】
請求項4に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマーおよび重合開始剤を混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、前記2種のモノマーおよび前記重合開始剤を含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて皮膜を形成する工程と、前記超臨界CO中に有機金属キレートを混合して前記皮膜に含浸させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、プラスチック表面に皮膜を形成した後に有機金属キレートを含浸させることで、皮膜を形成した後においても有機金属キレートの種類や量を変える場合の効率が向上する。
【0016】
請求項5に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記有機金属キレートは、ヘキサフルオロアセチルアセトネートおよびアルコキシドから選択される少なくとも1種以上からなることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、金属メッキとプラスチックとの密着性がさらに向上し、また、金属メッキの均一性がさらに向上する。
【0018】
請求項6に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記ヘキサフルオロアセチルアセトネートおよびアルコキシドがAg、Cu、Pd、Ni、Feから選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、金属メッキとプラスチックとの密着性がさらに向上し、また、金属メッキの均一性がさらに向上する。
【0020】
請求項7に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法は、前記炭化水素を側鎖にもつモノマーがn‐ステアリルメタクリレートであり、前記フッ素化アルキル基をもつモノマーが3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレートであることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、n‐ステアリルメタクリレート(SMA)と3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート(FOEMA)を混合することにより、プラスチックとの密着性の高い皮膜が形成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法によれば、基材となるプラスチックの表面に有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成することで、金属メッキとプラスチックとの密着性を向上させることができると共に、金属メッキの均一性を向上させることができる。また、炭化水素を側鎖にもつモノマーと、フッ素化アルキル基をもつモノマーとを重合させることにより、プラスチックの表面に有機金属キレートを含浸させた耐久性の高い皮膜を容易に形成することができる。そして、この有機金属キレートが核剤として金属メッキの核となり、金属メッキとプラスチックとの密着性を向上させることができると共に、金属メッキの均一性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明は、プラスチックの表面にメッキの核剤となる有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する表面処理を施すことを特徴とするものである。
[第1実施形態]
図1は、プラスチックの金属メッキ前処理方法を実施するための装置の概要を示す模式図であり、(a)は、混合溶液を高圧容器内に予め導入した装置を示す模式図、(b)は、薬液タンクを備えた装置を示す模式図、(c)は、飽和器を備えた装置を示す模式図である。図2は、プラスチックの金属メッキ前処理方法の第1の実施形態を模式的に示す模式図である。
【0024】
図1、図2に示すように、プラスチック5のメッキ前処理方法は、高圧容器11内の超臨界CO中に、炭化水素を側鎖にもつモノマー1、フッ素化アルキル基をもつモノマー2(炭化水素を側鎖にもつモノマー1およびフッ素化アルキル基をもつモノマー2は、以下、適宜「2種のモノマーM」という)、重合開始剤3および有機金属キレート4を混合し、これらを高圧容器11内にセットしたプラスチック5の表面に含浸させる工程(a)と、これらの物質を含浸させたプラスチック5に、加熱または光照射によりこれらの2種のモノマーMを重合させて有機金属キレート4を含浸させた皮膜6を形成する工程(b)とを含む表面処理を施すものである。
本発明に係る金属メッキ前処理方法は、前記したプラスチックの表面に含浸させる工程(a)と、皮膜を形成する工程(b)とからなるものである。
そして、このような前処理を施したプラスチック5にメッキ処理を施すことで、金属メッキ7を形成させる(c)。
以下、各工程について説明する。
【0025】
<プラスチックの表面に含浸させる工程(a)>
図1(a)に示すように、まず、高圧容器11内に、炭化水素を側鎖にもつモノマー1、フッ素化アルキル基をもつモノマー2、重合開始剤3、有機金属キレート4を溶解した混合溶液12とプラスチック5をセットする。
ここで、2種のモノマーM、重合開始剤3、有機金属キレート4は、そのままでは超臨界COに溶けにくいため、予めトルエンやエタノールなどの有機溶剤である相溶剤に溶解させ、混合溶液12とするが、高圧容器11内に、相溶剤に溶解させずに直接入れてもよい。
【0026】
次に、COポンプ13を使い、COボンベ14から高圧容器11内にCOを供給し、圧力調整弁15により高圧容器11内の圧力を制御し、COを超臨界状態とする。このとき、高圧容器11内は、2種のモノマーM、重合開始剤3、有機金属キレート4が、有機溶剤を使用する場合は有機溶剤と共に、超臨界COに溶解して含まれた混合流体の雰囲気となっている。そして、この混合流体に、プラスチック5を曝すことで、2種のモノマーM、重合開始剤3、有機金属キレート4をプラスチック5の表面に含浸させる。
【0027】
ここで、図1(b)に示すように、薬液タンク18内に混合溶液12(図示省略)を入れ、高圧容器11を高圧にしてCOを超臨界状態としてから、薬液ポンプ19により、混合溶液12を高圧容器11に導入してもよい。
また、図1(c)に示すように、飽和器20内に混合溶液12(図示省略)を入れ、COポンプ13からCOを飽和器20内に導入し、飽和器20内の温度と圧力を制御することでCOを超臨界状態とし、この超臨界COに溶けた分だけを、高圧容器11内に導入してもよい。
なお、これらの方法においても、2種のモノマーM、重合開始剤3、有機金属キレート4は、相溶剤に溶解させなくてもよい。
【0028】
[超臨界CO
超臨界COとは、超臨界状態のCOのことであり、超臨界状態とは、気相と液相の境界がなくなった状態で、密度および粘度が気相状態に近似した低い状態のことである。超臨界COは、物を溶解する能力があり、粘度・拡散係数が気体に近いため、微細構造物にも浸透していき、特定成分の抽出や、特定成分を含浸させる流体として使用することができる。また、超臨界COは、無毒であり、臨界温度が304Kと常温付近であるので、安全に取り扱うことができるばかりでなく、安価で、リサイクル性にも優れている。
【0029】
[炭化水素側鎖を持つモノマー]
炭化水素側鎖を持つモノマー1は、プラスチック5の表面と親和性をもつ物質を用いることが好ましく、例えば、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって、下記式(1)
CH=C(R)−COO−R・・・・・(1)
(式中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
のR部にフッ素を有しないものを用いることができる。炭化水素側鎖を持つモノマー1としては、一般的なアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを用いることが可能であり、n‐ステアリルメタクリレート(メタクリル酸ステアリル(SMA))、メチルメタクリレート(メタクリル酸エチル(MMA))を用いることが好ましいが、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n‐ブチルアクリレート、n‐オクチルアクリレート、n‐ラウリルアクリレート、n‐セチルアクリレート、n‐ステアリルアクリレートなどを用いることができる。
【0030】
[フッ素化アルキル基を持つモノマー]
フッ素化アルキル基を持つモノマー2は、撥水性機能を持つ物質を用いることが好ましく、例えば、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって、下記式(2)
CH=C(R)―COO―R・・・・・(2)
(式中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
のR部にフッ素を有するものを用いることができる。フッ素化アルキル基を持つモノマー2としては、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート(メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシル(FOEMA))を用いることが好ましいが、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。例えば、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、4,4,5,5,6,7,7,7‐オクタフルオロ‐2‐ヒドロキシ−ブチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,8,8,8‐ドデカフルオロ‐7‐(トリフルオロメチル)オクチルアクリレート、3,3,4,4,5,6,6,6‐オクタフルオロ‐5‐(トリフルオロメチル)ヘキシルアクリレート、4,4,5,5,6,7,7,7‐オクタフルオロ‐2‐ヒドロキシ‐6‐(トリフルオロメチル)ヘプチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7‐ドデカフルオロヘプチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8‐トリデカフルオロオクチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5‐オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9‐ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7‐ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,8,8,8‐ドデカフルオロ‐7‐(トリフルオロメチル)‐オクチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6‐ノナフルオロヘキシルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8‐トリデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5‐オクタフルオロペンチルメタクリレート、3,3,4,4,5,6,6,6‐オクタフルオロ‐5‐(トリフルオロメチル)‐ヘキシルメタクリレートなどを用いることができる。
【0031】
[重合開始剤]
重合開始剤3としては、一般的なポリマーの開始剤を用いることができ、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2‐アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物系開始剤を用いることができる。なお、重合開始剤3の種類によっては、超臨界COに溶けにくいものもあるが、使用する重合開始剤3は非常に少量(例えば、0.05%)でよいので、少量でも超臨界CO中に溶解する重合開始剤3であれば使用することができる。
【0032】
[有機金属キレート]
有機金属キレート4は、金属メッキ7の核剤となるものであり、金属原子と有機化合物の結合した物質で、分子中の有機物部分が膜にしみ込んで密着性を向上させるプライマ機能をもつ成分である。
有機金属キレート4としては、ヘキサフルオロアセチルアセトネートやアルコキシドなどから選択される少なくとも1種以上を用いることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。また、ヘキサフルオロアセチルアセトネートやアルコキシドなどは、Ag、Cu、Pd、Ni、Feなどから選択される少なくとも1種以上を含んでもよい。
【0033】
[プラスチック]
使用するプラスチック5は、特に制限されるものではなく、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ビニル系重合体、エポキシ樹脂、含フッ素重合体および含イオウ重合体などを用いることができる。これらのプラスチック5は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の混合物としては、前記プラスチック5を物理的または化学的に所定の組成比でブレンドしたポリマーアロイやポリマーブレンドであってもよい。また、プラスチック5は、変性物であってもよく、また、これらを構成するモノマーの2種類以上を所定の比で重合した共重合体であってもよい。なお、ここでいう共重合体とは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、およびグラフト共重合体を指し、プラスチック5とは、プラスチック成型品を含む概念である。
【0034】
ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)などが挙げられる。ポリイミドとしては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ビスマレイミド、ポリエーテルイミド(PEI)などが挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロ・ヘキサン・ジメチレン・テレフタレート(PCT)、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。ポリエーテルとしては、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルニトリル(PENT)、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリケトン(PK)、ポリエーテル・ケトン・ケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)などが挙げられる。
【0035】
ビニル系重合体としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラックなどのフェノール系グリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールなどのアルコール系グリシジルエーテルなどの主剤と、硬化剤との組合せなどが挙げられる。含フッ素重合体としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ四フッ化エチレンエチレン(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化アルキルビニルエーテル(PFA)などが挙げられる。含イオウ重合体としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)ポリエーテルサルホン(PES)、ポリサルホン(PSF)などが挙げられる。共重合体としては、前記共重合体の他、例えば、アクリレート・スチレン・アクリロニトリル(AAS)、アクリロニトリル・EPDMゴム・スチレン(AES)、アクリロニトリルスチレン(AS)、スチレンマレイミドなどが挙げられる。
【0036】
<皮膜を形成する工程(b)>
高圧容器11を加熱または光照射することにより2種のモノマーMを重合させて有機金属キレート4を含浸させた皮膜6を形成する。
加熱により2種のモノマーMを重合させる方法としては、図1に示すように、このプラスチック5を入れた高圧容器11全体を、例えばヒーター16で、80℃以上に加熱することにより行う。
なお、ここでは、高圧容器11全体を加熱しているが、ヒーター16を高圧容器11内に設置し、その上にプラスチック5を載せ、ヒーター16に電流を流すことによりプラスチック5を加熱してもよい。また、金属板を高圧容器11内に設置し、その上にプラスチック5を載せ、誘導加熱により加熱してもよい。
【0037】
光照射により2種のモノマーMを重合させる方法としては、高圧対応のガラス窓を高圧容器11に設置し、例えば紫外線ランプ17で、約360nmの紫外線をプラスチック5に当てることにより行う。
なお、この加熱や光照射は、ヒーター16や紫外線ランプ17によるものに限定されるものではない。
また、この加熱や光照射の条件は、それぞれの重合開始剤3の分解条件に基づいて定める。
【0038】
加熱または光照射により重合開始剤3を作用させることで、プラスチック5の表面に含浸させた2種のモノマーM同士が結合し、重合体ポリマーが形成され、プラスチック5の表面に皮膜6が形成される。この皮膜6ができる際にプラスチック5の表面に含浸した有機金属キレート4が皮膜6中に取り込まれる。
なお、皮膜6にフッ素樹脂を含ませることで、有機金属キレート4と皮膜6の密着性が向上する。
以上説明した工程により、金属メッキを施す前に、プラスチック表面に前処理が施される。
【0039】
以上説明したように、本発明に係るプラスチックの金属メッキ前処理方法によれば、基材となるプラスチックの表面に有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成することで、その後のメッキ処理により形成した金属メッキとプラスチックとの密着性を向上させることができると共に、金属メッキの均一性を向上させることができる。
【0040】
次に、このようにして前処理されたプラスチックのメッキ処理について説明する。
<メッキ処理工程(c)>
この工程は、前記各工程を経て前処理されたプラスチック5に無電解メッキ処理を施すことにより、金属メッキ7を形成する工程である(c)。
【0041】
メッキの金属としては、種々の金属が挙げられるが、例えば、Fe、Co、Ni、Cr、Sn、Zn、Rh、Pd、Pt、Ru、Cu、Ag、Au、Zn、Cdなどが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。また、メッキの層は単層であってもよいし、同種または異種金属の多層でもよい。メッキは、装飾、防錆、その他種々の機能付与のために形成させるもので、その目的によりメッキ金属種、メッキ厚は異なり、厚みは特に制限されない。
なお、無電解メッキは、超臨界CO中でも、大気中のどちらで行ってもよく、無電解メッキ処理の後に電気メッキ処理を行ってもよい。
【0042】
次に、本発明に係る金属メッキ前処理方法の他の実施形態について、適宜、図1を参照しながら説明する。
[第2実施形態]
図3は、プラスチックの金属メッキ前処理方法の第2の実施形態を模式的に示す模式図である。
図1、図3に示すように、プラスチック5のメッキ前処理方法は、高圧容器11内の超臨界CO中に、炭化水素を側鎖にもつモノマー1、フッ素化アルキル基をもつモノマー2および重合開始剤3を混合し、これらを高圧容器11内にセットしたプラスチック5の表面に含浸させる工程(d)と、このプラスチック5の表面に有機金属キレート4を含浸させる工程(e)と、これらの物質を含浸させたプラスチック5に、加熱または光照射によりこれらの2種のモノマーMを重合させて有機金属キレート4を含浸させた皮膜6を形成する工程(f)とを含む表面処理を施すものである。
本発明に係る金属メッキ前処理方法は、前記したプラスチックの表面に含浸させる工程(d)と、有機金属キレートを含浸させる工程(e)と、皮膜を形成する工程(f)とからなるものである。
そして、このような前処理を施したプラスチック5にメッキ処理を施すことで、金属メッキ7を形成させる(g)。
【0043】
以下、各工程について説明する。
なお、超臨界CO、炭化水素側鎖を持つモノマー1、フッ素化アルキル基を持つモノマー2、重合開始剤3、有機金属キレート4、プラスチック5、皮膜6を形成する工程(f)、メッキ処理工程(g)については、前記第1実施形態で説明したとおりであるので、ここでは、説明を省略する。
【0044】
<プラスチックの表面に含浸させる工程(d)>
図1(a)に示すように、まず、高圧容器11内に、炭化水素を側鎖にもつモノマー1、フッ素化アルキル基をもつモノマー2、重合開始剤3を溶解した混合溶液12とプラスチック5をセットする。次に、COポンプ13を使い、COボンベ14から高圧容器11内にCOを供給し、圧力調整弁15により高圧容器11内の圧力を制御し、COを超臨界状態とする。このとき、高圧容器11内は、2種のモノマーM、重合開始剤3が、有機溶剤を使用する場合は有機溶剤と共に、超臨界COに溶解して含まれた混合流体の雰囲気となっている。この混合流体に、プラスチック5を曝すことで、2種のモノマーM、重合開始剤3をプラスチック5の表面に含浸させる。
ここで、2種のモノマーM、重合開始剤3は、そのままでは超臨界COに溶けにくいため、予めトルエンやエタノールなどの有機溶剤である相溶剤に溶解させ、混合溶液12とするが、高圧容器11内に、相溶剤に溶解させずに直接入れてもよい。
【0045】
ここで、図1(b)に示すように、薬液タンク18内に混合溶液12(図示省略)を入れ、高圧容器11を高圧にしてCOを超臨界状態としてから、薬液ポンプ19により、混合溶液12を高圧容器11内に導入してもよい。また、混合溶液12(図示省略)を高圧容器11内にセットし、有機金属キレート4のみを薬液タンク18内に入れてもよい。
図1(c)に示すように、飽和器20内に混合溶液12(図示省略)を入れ、COポンプ13からCOを飽和器20内に導入し、飽和器20内の温度と圧力を制御することでCOを超臨界状態とし、この超臨界COに溶けた分だけを、高圧容器11内に導入してもよい。また、混合溶液12(図示省略)を高圧容器11内にセットし、有機金属キレート4のみを飽和器20内に入れてもよい。
なお、これらの方法においても、2種のモノマーM、重合開始剤3は、相溶剤に溶解させなくてもよい。
【0046】
<有機金属キレートを含浸させる工程(e)>
有機金属キレート4を溶解した溶液を高圧容器11、薬液タンク18または飽和器20内にセットし、前記の方法で超臨界COに有機金属キレート4を溶解し、有機金属キレート4が溶解して含まれた混合流体にプラスチック5を曝すことで、有機金属キレート4をプラスチック5の表面に含浸させる。
ここで、有機金属キレート4は、高圧容器11、薬液タンク18または飽和器20内に、相溶剤に溶解させずに直接入れてもよい。
【0047】
[第3実施形態]
図4は、プラスチックの金属メッキ前処理方法の第3の実施形態を模式的に示す模式図である。
図1、図4に示すように、プラスチック5のメッキ前処理方法は、高圧容器11内の超臨界CO中に、炭化水素を側鎖にもつモノマー1、フッ素化アルキル基をもつモノマー2、重合開始剤3を混合し、これらを高圧容器11内にセットしたプラスチック5の表面に含浸させる工程(h)と、これらの物質を含浸させたプラスチック5に、加熱または光照射によりこれらの2種のモノマーMを重合させて皮膜6を形成する工程(i)と、この皮膜6に有機金属キレート4を含浸させる工程(j)とを含む表面処理を施すものである。
本発明に係る金属メッキ前処理方法は、前記したプラスチックの表面に含浸させる工程(h)と、皮膜を形成する工程(i)と、有機金属キレートを含浸させる工程(j)とからなるものである。
そして、このような前処理を施したプラスチック5にメッキ処理を施すことで、金属メッキ7を形成させる(k)。
【0048】
以下、各工程について説明する。
なお、超臨界CO、炭化水素側鎖を持つモノマー1、フッ素化アルキル基を持つモノマー2、重合開始剤3、有機金属キレート4、プラスチック5、メッキ処理工程(k)については、前記第1実施形態で説明したとおりであるので、ここでは、説明を省略する。
また、プラスチック5の表面に含浸させる工程(h)は、前記第2実施形態、皮膜6を形成する工程(i)は、有機金属キレート4を皮膜6に含浸させることを除き、前記第1実施形態で説明したとおりであるので、ここでは、説明を省略する。
【0049】
<有機金属キレートを含浸させる工程(j)>
有機金属キレート4を溶解した溶液を高圧容器11、薬液タンク18または飽和器20内にセットし、前記の方法で超臨界COに有機金属キレート4を溶解し、有機金属キレート4が溶解して含まれた混合流体に皮膜6の形成されたプラスチック5を曝すことで、有機金属キレート4をプラスチック5の皮膜6に含浸させる。
ここで、有機金属キレート4は、高圧容器11内、薬液タンク18または飽和器20内に、相溶剤に溶解させずに直接入れてもよい。
【実施例】
【0050】
次に、本発明に係るメッキ前処理方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0051】
<実施例1>
図1(a)に示した装置を用い、内容積5mlの高圧容器内に、プラスチックとして、ポリイミドフィルム(ポリイミド板)(東レ・デュポン社製カプトン、10mm×10mm×0.2mm)をセットした。一方、炭化水素を側鎖にもつモノマー(炭化水素系モノマー)として、n‐ステアリルメタクリレート:0.375g、フッ素化アルキル基をもつモノマー(フッ素モノマー)として、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート:0.125g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005g、トルエン:0.945g、有機金属キレートとして、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅(II):0.01gからなる溶液を調製した。この溶液を高圧容器内にセットして密封した。この後、COポンプにより、高圧容器内に、二酸化炭素(CO)を供給し、温度50℃、圧力15MPaとして超臨界COとし、そのまま120分間保持した。これにより皮膜を形成するための炭化水素系モノマーとフッ素モノマー、重合開始剤、有機金属キレートをポリイミド板表面に含浸させた。次に、ヒーターにより温度を80℃に昇温させた。これにより重合開始剤が分解し、炭化水素系モノマーとフッ素モノマーが重合することで皮膜が形成され、この皮膜に有機金属キレートを含浸させた。さらに120分間保持した後、圧力を大気圧に戻し、処理したポリイミド板を取り出した。
【0052】
<実施例2>
有機金属キレートとしてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0053】
<実施例3>
図1(b)に示した装置を用い、内容積5mlの高圧容器内に、プラスチックとして、ポリイミドフィルム(ポリイミド板)(東レ・デュポン社製カプトン、10mm×10mm×0.2mm)をセットした。一方、炭化水素系モノマーとして、n‐ステアリルメタクリレート:0.375g、フッ素モノマーとして、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート:0.125g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005g、トルエン:0.945gからなる溶液を調製した。この溶液を高圧容器内にセットして密封した。この後、COポンプより、高圧容器内に、二酸化炭素(CO)を供給し、温度50℃、圧力15MPaとして超臨界COとし、そのまま120分間保持した。これにより皮膜を形成するための炭化水素系モノマーとフッ素モノマー、重合開始剤をポリイミド板表面に含浸させた。次に有機金属キレートとして、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅(II)の1%トルエン溶液を薬液タンクに入れて薬液ポンプにより高圧容器内に1ml注入した。そのままさらに120分間保持して有機金属キレートをポリイミド板に含浸させたのち、ヒーターにより温度を80℃に昇温させた。これにより重合開始剤が分解し、炭化水素系モノマーとフッ素モノマーが重合することで皮膜が形成され、この皮膜に有機金属キレートを含浸させた。さらに120分間保持したのち、圧力を大気圧に戻してからポリイミド板を取り出した。
【0054】
<実施例4>
図1(b)に示した装置を用い、内容積5mlの高圧容器内に、プラスチックとして、ポリイミドフィルム(ポリイミド板)(東レ・デュポン社製カプトン、10mm×10mm×0.2mm)をセットした。一方、炭化水素系モノマーとして、n‐ステアリルメタクリレート:0.375g、フッ素モノマーとして、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート:0.125g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005g、トルエン:0.945gからなる溶液を調製した。この溶液を高圧容器内にセットして密封した。この後、COポンプにより、高圧容器内に、二酸化炭素(CO)を供給し、温度50℃、圧力15MPaとして超臨界COとし、そのまま120分間保持した。これにより皮膜を形成するための炭化水素系モノマーとフッ素モノマー、重合開始剤をプラスチック表面に含浸させた。そのままさらに120分間保持したのち、ヒーターにより80℃に昇温させた。これにより重合開始剤が分解し、炭化水素系モノマーとフッ素モノマーが重合することで皮膜が形成された。次に有機金属キレートとして、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅(II)の1%トルエン溶液を薬液タンクに仕込み、薬液ポンプにより高圧容器内に1ml注入した。これにより有機金属キレートを皮膜へ含浸させた。そのまま120分間保持したのち、圧力を大気圧に戻してからポリイミド板を取り出した。
【0055】
<実施例5>
実施例1の方法により、有機金キレートを皮膜表面に含浸させたポリイミド板を用いて、引き続き、無電解メッキを行った。硫酸銅やロッセル塩からなる市販のCuメッキ液に、約40℃で10分間浸してメッキした後、洗浄及び乾燥を行った(無電解メッキ法)。
【0056】
<比較例1>
実施例1と同様の処理を行うが、モノマー成分として、炭化水素系モノマーを含まない溶液を含浸させて比較実験とした。すなわち、モノマーとして、フッ素モノマーである3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート:0.5gのみを混合し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005g、トルエン:0.945g、有機金属キレートとして、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅(II):0.01gからなる溶液を調製した。あとは実施例1と同じ手順で処理を行い、大気圧まで減圧したあと、処理したポリイミド板を取り出した。これを用いて実施例5と同様の方法で表面に無電解メッキ法によりCuメッキを施した。
【0057】
得られたポリイミド板について、以下の各試験を行った。
<メッキ前の表面状態>
メッキ前処理を施した後に高圧容器から取り出したポリイミド板の皮膜表面をティッシュで30回拭取った。その後、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いてポリイミド板の皮膜表面を分析し、有機金属キレートの含浸状態を調べた。
【0058】
<メッキの均一性>
無電解メッキ処理後のメッキの外観を観察し、メッキの形成状態を調べた。ポリイミド板の表面に均一に光沢のあるメッキが形成されているものを均一性が良好(○)、ポリイミド板の表面に均一に光沢のあるメッキが形成されていないものを均一性が不良(×)と評価した。
【0059】
<メッキの密着性>
無電解メッキ処理後のメッキの表面をティッシュで30回拭取った。その状態で表面を観察し、表面の光沢が失われず、均一な光沢のある表面状態のものを密着性が良好(○)、部分的にでも光沢が失われたものについては、密着性が不良(×)と評価した。
【0060】
これらの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1、3〜5では、ポリイミド板の皮膜表面にCuが分布しており、有機金属キレートが皮膜表面に含浸していることが確認できた。
実施例2では、ポリイミド板の皮膜表面にPdが分布しており、有機金属キレートが皮膜表面に含浸していることが確認できた。
実施例5では、ポリイミド板の表面に均一に光沢のあるメッキが形成されていた。また、形成されたメッキの表面をティッシュで30回拭取っても、表面の光沢が失われず、均一な光沢のある表面状態であり、ポリイミド板との密着性が良好であると評価できた。
【0063】
一方、比較例1では、炭化水素系モノマーを含まないため、ポリイミド板に皮膜が形成されなかった。そのため、ポリイミド板の表面に一部光沢のあるメッキが形成されたが、光沢のない部分が多くメッキ不良となった。また、形成されたメッキの表面をティッシュで30回拭取ると、メッキが部分的にはがれて表面の光沢が失われたため、ポリイミド板との密着性が不良であると評価できた。
なお、実施例2〜4では、無電解メッキ処理を施していないが、ポリイミド板の皮膜表面にCuまたはPdが分布しているため、無電解メッキ処理を施した場合には、実施例5と同様に、メッキの均一性およびメッキの密着性が良好であると考えられる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態、実施例について説明してきたが、本発明は前記実施形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲において広く変更、改変して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】プラスチックの金属メッキ前処理方法を実施するための装置の概要を示す模式図であり、(a)は、混合溶液を高圧容器内に予め導入した装置を示す模式図、(b)は、薬液タンクを備えた装置を示す模式図、(c)は、飽和器を備えた装置を示す模式図である。
【図2】プラスチックの金属メッキ前処理方法の第1の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図3】プラスチックの金属メッキ前処理方法の第2の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図4】プラスチックの金属メッキ前処理方法の第3の実施形態を模式的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 炭化水素を側鎖にもつモノマー
2 フッ素化アルキル基を持つモノマー
3 重合開始剤
4 有機金属キレート
5 プラスチック
6 皮膜
7 金属メッキ
11 高圧容器
12 混合溶液
13 COポンプ
14 COボンベ
15 圧力調整弁
16 ヒーター
17 紫外線ランプ
18 薬液タンク
19 薬液ポンプ
20 飽和器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックの金属メッキ前処理方法において、
前記プラスチックの表面に有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する表面処理を施すことを特徴とするプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項2】
前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマー、重合開始剤および有機金属キレートを混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、
前記2種のモノマー、前記重合開始剤および前記有機金属キレートを含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて前記有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項3】
前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマーおよび重合開始剤を混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、
前記超臨界CO中に有機金属キレートを混合し、前記2種のモノマーおよび前記重合開始剤を含浸させたプラスチックの表面に含浸させる工程と、
前記2種のモノマー、前記重合開始剤および前記有機金属キレートを含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて前記有機金属キレートを含浸させた皮膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項4】
前記表面処理は、超臨界CO中において、炭化水素を側鎖にもつモノマーとフッ素化アルキル基をもつモノマーとからなる2種のモノマーおよび重合開始剤を混合し、プラスチックの表面に含浸させる工程と、
前記2種のモノマーおよび前記重合開始剤を含浸させたプラスチックに、加熱または光照射により前記2種のモノマーを重合させて皮膜を形成する工程と、
前記超臨界CO中に有機金属キレートを混合して前記皮膜に含浸させる工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項5】
前記有機金属キレートは、ヘキサフルオロアセチルアセトネートおよびアルコキシドから選択される少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項6】
前記ヘキサフルオロアセチルアセトネートおよびアルコキシドがAg、Cu、Pd、Ni、Feから選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項5に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。
【請求項7】
前記炭化水素を側鎖にもつモノマーがn‐ステアリルメタクリレートであり、前記フッ素化アルキル基をもつモノマーが3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10‐ヘプタデカフルオロデシルメタクリレートであることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のプラスチックの金属メッキ前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−19488(P2008−19488A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193805(P2006−193805)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】