説明

プラスチックレンズ、その製造方法並びにプラスチックレンズの来歴管理方法及び光ピックアップ装置

【課題】マーキングが最適な態様にて施されたプラスチックレンズを製造するのに適した製造方法、金型および来歴管理方法を提供すること、来歴管理の容易なプラスチックレンズを提供すること。
【解決手段】本発明にかかるレンズ1は、レンズ面の外周にフランジ部2を備えている。このフランジ部2のフランジ面21は、当該レンズ面よりも高く形成されている。さらに、当該フランジ面21には、例えば、製造治具を識別するマーキング3を形成している。光学機能部を形成するための入れ子51、52と、マーキングを形成するための金型53、54を用いて製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラや光ディスク装置等の光学素子に用いられるプラスチックレンズ、その製造方法並びにプラスチックレンズの来歴管理方法及びプラスチックレンズを搭載した光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやCD、DVD等の光学記録媒体に種々の情報を記録し、再生する光ディスク装置が広く普及している。例えば、この光ディスク装置は、光学記録媒体に記録された情報を読み取る光ピックアップ装置を備えている。光ピックアップ装置は、光源からの光を光学記録媒体に集光させるためのピックアップレンズを備えている。
【0003】
ピックアップレンズは、一般にポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂等のプラスチックや、ガラスを成形することにより製造される。プラスチック製のピックアップレンズは、成形金型を用いた射出成形やトランスファ成形等により製造される。例えば、射出成形では、ゲートから金型内のキャビティに樹脂を流し込み、そして、この樹脂を冷却することにより、ピックアップレンズを製造する。
【0004】
他方、この種のプラスチックレンズは、製品単価を下げるために大量生産が行われる。そのため、複数のキャビティを有する成形金型を用いて同時に複数のピックアップレンズが製造される。例えば、8個のキャビティを有する成形金型が用いられ、同時に8個のピックアップレンズが製造される。この場合、それぞれのキャビティにおいて同一の品質を有するピックアップレンズが製造されることが望ましいが、現実的には品質にばらつきが発生する場合がある。また、成形金型毎および成形機毎にも製造品質にばらつきが発生する場合がある。
【0005】
尚、プラスチックレンズにマーキングを施す技術は、例えば特許文献1に開示されているが、この例はレンズ面を区別するためこば部の一面側に印刷、塗布あるいは蒸着によりマーキングとなるコーティング膜を設けたものである。従って、レンズとマーキングは同一の材質ではないため、この方法では射出成形によってレンズを作成する場合、成形時とは別にマーキングの形成工程を設ける必要がある。
【0006】
一方、特許文献2に開示された技術は、フランジ面に凸または凹を設けて樹脂の注入位置を示すものであるが、製造方法、成形金型については何ら記載されておらず、凸凹はフランジ面の上面にあるので、机上においた時やハンドリング等によりマーキングが削れたり、汚れたりしやすく、マーキングの情報がうまく伝わらないおそれがある。また、特許文献2に開示されたマーキングは、ゲートの位置合わせのためのものであり、生産工程において、レンズを識別するためや、来歴管理するためのものではない。これは、当該文献に開示されたマーキングが一箇所にのみ設けられており、複数のレンズにおいて個々のレンズを識別することができないことからも自明である。また、特許文献2の図5に示された構成例における凸形状のマーキングは、フランジ面上端から0.1〜0.5mm分突出したものである。従って、凸部のある側を載置した場合の安定性が劣るとともに、凸形状のマーキングは他の部材と接触して削れ、マーキングが消滅してしまうという問題点が発生しうる。フランジ上端に設けられたこのようなサイズの凹形状内には異物類が溜まり視認性が悪くなるので、フランジ面とは別にマーキング自体が視認可能で他の部材と接触しない構造が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−122711号公報
【特許文献2】特開2000−111709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、成形金型を用いたレンズの製造方法では、成形金型やキャビティ毎に品質にばらつきが発生する場合がある。そのため、品質管理、製造管理上、また光学装置に組み込まれた後のレンズの来歴管理のために、レンズ自体に成形金型やキャビティ等の製造治具あるいは製造ラインを容易に識別するためのマーキングを施すことが望まれる。しかしながら、レンズは光学部品であり、光学部品として要求される性能を低下させるような態様でマーキングを形成することはできない。例えば、レンズの中央部には光学機能部分が形成されているが、この光学機能部分に施すことは光学機能に支障をきたすため好ましくない。
【0009】
また、マーキングが他の部材との摺動により破損すると、マーキング自体の視認が困難になるばかりか、破損部分が光学機能部分に付着して光学性能の劣化をもたらす。
さらに、光学機能部に対応するレンズ面とマーキングを同時に一つの金型で製造すると、マーキングを金型に加工する際に、レンズ光学機能部に傷を付けたり、汚れが付着し、この金型は使用不可となる等の問題がある。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、マーキングが最適な態様にて施されたプラスチックレンズを製造するのに適した製造方法、金型および来歴管理方法を提供することを目的とする。また、来歴管理の容易なプラスチックレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるプラスチックレンズの製造方法は、樹脂材料を成形金型を用いて射出成形することにより製造され、光学機能部以外にマーキングを有するプラスチックレンズの製造方法であって、マーキングを形成する側の金型は少なくとも、光学機能部を形成するための第1の金型(例えば、本発明の実施の形態における入れ子51、52)と、前記光学機能部以外の部分を形成するための第2の金型(例えば、本発明の実施の形態における金型53、54)を用い、前記第2の金型でマーキングを成形することを特徴とするものである。このような方法により、マーキングを金型に加工する際に、レンズ面に対応する金型の部分を傷つけることや汚れの付着がなく、品質、生産性の安定したレンズを成形することができる。
【0012】
ここで、前記光学機能部以外の部分には、レンズ面外周のフランジ部を含み、第1の金型と第2の金型の境界は、前記フランジ部の最内周の近傍に位置することが好ましい。第1の金型と第2の金型の境界部分で樹脂が硬化したときに、鋭角な突出であるバリが発生したとしても、バリが別途設けた段差部を越えるものでなければ問題が生じないからである。また、フランジ面とレンズ面の境界の肉薄部分に第1の金型と第2の金型の境界を位置させると、フランジ面の鏡面加工が困難となるからである。
【0013】
ここで、前記レンズのフランジ部のフランジ面は、少なくとも一部に段差部を有し、前記段差部に一体に射出成形されたマーキングを有することが好ましい。
【0014】
また、前記レンズのフランジ部の少なくとも一面側のフランジ面は当該レンズ面より高く形成された部分を有し、前記フランジ面は少なくとも一部に段差部を有し、前記段差部のマーキング面に一体に射出成形されたマーキングの最も高い部分は、前記フランジ面の最も高い面よりも低いことが望ましい。
さらに、前記レンズのフランジ面の外周において切り欠き部を形成する部分が設けられていることが望ましい。このような構成により、切欠き部が接着剤の液だまりとして機能し、接着剤がマーキングを設けた領域に流れ込み、マーキングを消すことを防止でき、マーキングの視認性を向上させることができる。
さらに、また、前記レンズのフランジ部のフランジ面のうち少なくともマーキングが形成された領域近傍が鏡面であることが好ましい。このような構成によりマーキングの視認性を向上させることができる。
【0015】
本発明にかかる来歴管理方法は、樹脂材料を射出成形することにより得られるプラスチックレンズの来歴管理の方法であって、前記プラスチックレンズは、レンズ面の外周にフランジ部を備え、前記フランジ部の少なくとも一面側のフランジ面は当該レンズ面より高く形成された部分を有し、当該フランジ面に一体に射出成形されたマーキングを有し、前記来歴管理は、前記レンズに形成された当該マーキングによって行うことを特徴とするものである。これにより、簡易にレンズの来歴を管理することができる。
【0016】
本発明にかかる他の来歴管理方法は、樹脂材料を射出成形することにより得られるプラスチックレンズの来歴管理の方法であって、前記プラスチックレンズは、レンズの外周にフランジ部を備え、前記フランジの少なくとも一面側のフランジ面は当該レンズ面より高く形成された部分を有し、当該フランジ面に一体に射出成形されたマーキングを有し、前記マーキングの最も高い部分は前記フランジ面の最も高い面よりも低く、前記来歴管理は、前記レンズに形成されたマーキングにより行うことを特徴とするものである。これによっても、簡易にレンズの来歴を管理することができる。
【0017】
ここで、前記マーキングは、来歴の違いを示すために、前記フランジ面で円周方向に異なっていることが好ましい。または、マーキングは、少なくとも1箇所に施されており、来歴の違いを示すために、当該マーキングの形状が異なっているようにしてもよい。
【0018】
本発明にかかるレンズは、樹脂材料を射出成形することにより得られるプラスチックレンズであって、レンズ面の外周にフランジ部を備え、前記フランジ部の少なくとも一面側のフランジ面は当該レンズ面より高く形成された部分を有し、当該フランジ面に一体に射出成形されたマーキングを有し、このマーキングは当該レンズを製造するために用いられた製造治具を識別するマーキングであることを特徴とするものである。
【0019】
ここで、前記マーキングの最も高い部分が前記フランジ面の最も高い部分よりも低いことが望ましい。また、前記マーキングはフランジ面の段差部に成形されていることが好ましい。さらに、前記フランジ部の外周側面に切り欠き部を有することが望ましい。さらに、また、前記フランジ面のうち少なくともマーキングが形成された領域近傍が鏡面であることが望ましい。これらのレンズを搭載することにより光ピックアップ装置を構成することが可能である。
【0020】
本発明にかかる金型は、樹脂材料を成形金型を用いて射出成形することにより製造され、光学機能部以外にマーキングを有するプラスチックレンズを製造するために用いられる金型であって、マーキングを形成する側の金型は少なくとも、光学機能部を形成するための第1の金型と、前記第1の金型と分離可能であって、前記光学機能部以外の部分を形成するための第2の金型を備え、前記第2の金型にマーキングを形成するための部分を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によればマーキングが最適な態様にて施されたレンズを製造するのに適した製造方法、金型および来歴管理方法を提供することができる。さらに、来歴管理の容易なレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかるレンズの上面図及び側面図を示す図である。
【図2】本発明にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。
【図3】本発明にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。
【図4】本発明にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。
【図5】本発明にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。
【図6】本発明にかかるレンズの上面図及び側面図を示す図である。
【図7】本発明にかかるレンズの製造の様子を示す断面図である。
【図8】本発明にかかるレンズの製造の様子を示す断面図である。
【図9】本発明にかかる光ピックアップ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の実施の形態1.
発明の実施の形態1にかかるレンズについて、ピックアップレンズを例にとり、図1及び図2を用いて説明する。
【0024】
図1(a)は、レンズの上面図である。図1(b)は、レンズの側面図であり、左半分が断面を示している。図に示されるように、レンズ1の外周にはフランジ部2が形成されている。このフランジ部2は、レンズ1を光ディスク装置に取り付け、光学記録媒体より情報を読み取る状態において、フランジ面21が光学記録媒体側に設けられている。以下、説明のため、光学記録媒体側を上側21とし、その反対側を下側23として説明する。フランジ部2は、レンズ1の光学機能部の外周に位置し、帯状に全周に亘って形成されている。なお、フランジ部2は、外周で連続している必要はなく、外周の一部に切り欠き部を有する形状であっても良い。
【0025】
図1(b)に示されるように、光軸方向から見てフランジ面21は、光学機能部の上面よりも高くなる部分が形成されている。従って、作業時にレンズ1を、フランジ面21側を下にして机等の上に載置した場合であっても、フランジ面21が机に接触し、光学機能部は机に接触しない。そのため、光学機能部が机等と接触することによる損傷を回避することができる。また、レンズ1を光ディスク装置に取り付けた後に、光学記録媒体が光学機能部に直接接触することによって生じる損傷も回避することができる。
【0026】
この例にかかるレンズ(フランジ部2を含む)の直径は、5.8mmである。そして、フランジ部2の上下方向の幅は0.9mmである。他の例にかかるレンズの直径は、3.8mmである。
【0027】
図1(a)に示されるように、フランジ面21の上面には、段差部20が設けられており、その部分に例えば成形金型やキャビティ、さらには射出成形装置等の製造治具を識別するためのマーキング3a、3bが2箇所に設けられている。マーキング3a、3bはフランジ面21の最上面から突出しないように設けられている。マーキング3a、3bは成形時にフランジ面21の上面に対向する金型部分にマーキング3a、3bに対応する形状を設けて一体成形したものである。マーキング3a、3bを2箇所に設けたのは、それらの相対的な位置を異ならせることによって製造治具等の異なるレンズを識別可能にするためである。例えば、マーキングによりキャビティを識別する場合には、キャビティ毎に異なる相対的な位置にマーキングが設けられる。例えば、第1のキャビティの場合には、レンズの中心とそれぞれのマーキングの位置を結んだ線がなす角度が180度になるような位置にマーキングを配置する。また、第2のキャビティの場合には、同様に120度になるような円周方向に異なった位置にマーキングを配置する。
【0028】
マーキング3a、3bは、半球が突出するような形状を有する凸状体である。凹状体でもマーキングの機能をなすが、凸状体とする方が金型製作が容易であり、好ましい。この例にかかるマーキング3a、3bの高さは、0.02〜0.03mmである。このようにマーキング3a、3bを半球状の形状とすると、金型を用いた製造が容易であるという利点がある。マーキング3自体の形状は、半球状でなくとも、四角型、十字型等の他の形状であってもよく、アルファベットや数字等の文字であってもよい。この例では、マーキング3aとマーキング3bとは同じ形状を有するが、異なる形状を有するようにしてもよい。マーキング3は、3個以上設けるようにしてもよい。また、各キャビティ等、識別すべき単位でマーキングを異なる形状にすれば、1つであってもよい。また、レンズにゲート位置を示すマーキングが存在する場合には、このゲート位置を示すマーキングと当該マーキング3との相対的な位置により識別可能である。さらに、一つのレンズに、金型とキャビティのそれぞれを識別可能なマーキングを設けるようにしてもよい。例えば、金型を識別するマーキングは2つの並列した凸状部とし、キャビティを識別するマーキングは1つの凸状部とすることによって、両者を区別することができる。
【0029】
図2にレンズ1のフランジ部2近傍の拡大断面図を示す。ここで、マーキング3を水平なフランジ面21の光軸方向に最も高い面につけると、作業時の設置箇所との摺接やレンズ1を光ピックアップ装置に装着した際の光学記録媒体との接触により、微小なマーキング3が破損し、確認できなくなる可能性がある。またマーキング3が削れることによりプラスチックの粉塵が発生するという不都合が生じる可能性がある。そこで、このような不都合を解消するため、フランジ面は少なくとも一部に段差部を有し、マーキング3はその上端がフランジ面21の最も高い部分よりも低くなるように構成する。本発明の実施の形態では、フランジ面は円周方向に段差部を有し、当該段差部上のマーキング3は、その上端がフランジ面21の最も高い部分よりも低くなるように構成している。このような構成により、マーキング3がフランジ面21より突出せず、摺接等による破損の可能性を低減することができる。
【0030】
フランジ面21の内、特にマーキング3bを設けた段差部に関し、フランジ面より光軸方向に低い面211をマーキング面と呼ぶこととする。このマーキング面211は、金型から成形品を離形しやすくするため、フランジ面21の最も高い面から100μm未満が好ましく、より好ましくは、50μm以内の範囲で低くすることが望ましい。また、マーキング面の高さは、レンズ面の高さより高くても低くても良い。
【0031】
マーキング面211を含むフランジ面21は、対応する金型の研磨工程により鏡面加工が施されている。鏡面加工を施した領域は、鏡面加工を施していない領域よりも光反射率が高いため、マーキング3部分とそれ以外の部分の明暗差が大きくなる。そのため、マーキング3の視認性が向上するという利点がある。尚、フランジ面21の全領域を鏡面としても良いが、少なくともマーキングが形成された領域の近傍が鏡面であればよい。マーキング面にマーキングを設ける場合には、マーキング底部の幅(M)とマーキング面の幅(W)の比M/Wは、2以上10以下が好ましく、より好ましくは2.5以上5以下である。
マーキング面211は、接着剤等が流れ込み、マーキングが見づらくならないよう、マーキング面211の外周にフランジ面の最も高い部分を設けて、レンズ外周部まで延在していない方が好ましい。
【0032】
尚、摺接による破損を防止するという観点からすると、フランジ面21ではなく、光学機能部以外の領域、例えばレンズ面の最外周領域面にマーキング3を配置することも考えられる。しかしながら、このような構成の場合は、マーキング3がフランジ部2の陰に入り見えにくくなるという問題が生じる。また、大きな有効径、即ち光学機能部をより広く取るためには、レンズ面にマーキング3を設けることは好ましくない。従って、本発明の実施の形態では、マーキング3はフランジ部2に設けることとした。本発明の実施の形態では、マーキング3をフランジ面21に設けているため、レンズ1を光ディスク装置に装着した状態でもマーキング3を目視することができる。
【0033】
尚、本発明の実施の形態では、図2に示されるように、上側と下側でレンズの最小肉厚となる箇所が一致しない形状としている。すなわち、フランジ面21とレンズ面との境界Pよりも、フランジ面23とレンズ面との境界Qの方が外側に位置している。このような形状とすることによりレンズ全体の厚みが薄くなり、それによってフランジ部の厚さも薄くなった場合にも、十分な幅のマーキング面を確保することができる。
【0034】
発明の実施の形態2.
発明の実施の形態2にかかるレンズは、フランジ部の形状が発明の実施の形態1にかかるレンズと異なる。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0035】
図3は、発明の実施の形態2にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。図に示されるように、フランジ面に凹部を設け、当該凹部底面をマーキング面としている。この凹部底面は、フランジ面21の高い面よりも低い段差部でもある。マーキング面211は、フランジ部の内周部まで延びているが、図3のように外周側と同様にフランジ面21の高い面を内周側に形成し、マーキング面211をフランジ面21で挟んだ形状とすることもでき、この際2つのフランジ面21の高さは同一である必要はない。
【0036】
なお、フランジ面21は光軸方向に対して垂直であることが好ましいが、傾斜面であってもよい。
【0037】
ここで、上述の構造を有するレンズを射出成形により製造する方法について簡単に説明する。
【0038】
まず、金型を作成する。金型は、成形品の形状に対応した形状を有する。特に本発明の実施の形態において用いる金型は、フランジ面21にマーキングが形成されるような形状を有する。
【0039】
次に射出成形機に金型を装着する。その後、射出成形機において、ゲートから金型内のキャビティに樹脂を流し込む。そして、キャビティに流し込んだ樹脂を冷却することにより、レンズを製造する。
【0040】
上述のように、本発明の実施の形態にかかるレンズには、例えばキャビティ番号や金型番号等の製造治具を識別するためのマーキングが最適な態様にて施されており、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
発明の実施の形態3.
発明の実施の形態3にかかるレンズは、マーキングの位置が発明の実施の形態1にかかるレンズと異なる。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0042】
図4は、発明の実施の形態3にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図である。図に示されるように、マーキング3bは、半球状に突出した凸部であり、フランジ面21に設けられている。マーキング3bは、その上端がフランジ面21の最も高い面よりも低くなるように形成されている。本発明の実施の形態3にかかるレンズは、フランジ面21の中でも外側の領域に段差部20を設けている。
【0043】
このように、本発明の実施の形態3にかかるレンズには、例えばキャビティや成形金型等の製造治具を識別するためのマーキングが最適な態様にて施されており、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
発明の実施の形態4.
発明の実施の形態4にかかるレンズは、フランジ部の外周側面の形状が発明の実施の形態1にかかるレンズと異なる。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0045】
図5は、発明の実施の形態4にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図であり、特にレンズを光ピックアップ装置のピックアップホルダに固定した状態を示している。図に示されるように、レンズのフランジ部2の外周側面には、切り欠き部221が形成されている。この切り欠き部221は、フランジ部2の外周側面の上端の一部を切り欠くようにして形成されている。切り欠き部221は、フランジ部2の全周に亘って設けられているが、必ずしも全周である必要はない。
【0046】
ピックアップホルダ4は、フランジ下部23及びフランジ側部22と接触するような形状を有する。具体的には、フランジ下部23が載置される載置部41と、この載置部41の外側において上方に突出した凸部42を有する。
【0047】
切り欠き部221の底部は、ピックアップホルダ4の凸部42の頂部と略同じ高さになるように形成されている。つまり、凸部42の高さHは、切り欠き部221の底部のフランジ下部23からの距離と略同じになるよう形成されている。
【0048】
レンズ1をピックアップホルダ4に固定する際には、接着剤を使用することが一般的であるが、上述のような切り欠き部221を設けることにより、この切り欠き部221が接着剤の液だまりとして機能する。そのため、接着剤がマーキング3bを設けた領域に流れ込み、当該マーキング3bを消すことを防止できる。
【0049】
発明の実施の形態5.
発明の実施の形態5にかかるレンズは、マーキングの位置及び形状が発明の実施の形態1にかかるレンズと異なる。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0050】
図6は、発明の実施の形態5にかかるレンズの上面図及び側面図である。図6(a)に示されるように、マーキング3bは、フランジ面21に設けられ、レンズ中心に向って突出した半円筒状の凸部形状を有する。また、図6(b)に示されるようにマーキング3bの上端は、フランジ面21と同一平面に設けられている。
【0051】
このように、本発明の実施の形態5にかかるレンズには、キャビティや成形金型等の製造治具を識別するためのマーキングが最適な態様にて施されており、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
尚、レンズ中心に向って突出する凸部形状は、半円筒状以外の三角や四角形状等でも良い。
【0053】
発明の実施の形態6.
発明の実施の形態6にかかるレンズは、発明の実施の形態1にかかるレンズと形状が同じであり、その製造工程において金型の一部を入れ子としたものである。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0054】
図7は発明の実施の形態6にかかるレンズの側面図であり、入れ子51及び52も表示している。図に示されるように、レンズ1の光学機能部を含む部分を形成するための金型を入れ子51、52としている。その他のフランジ部2に対する金型は、入れ子51、52とは別体の金型53、54により形成される。なお、マーキングを設けない面は入れ子52を用いずに、金型54と入れ子52が一体化した一体型とすることもできる。
なお、説明から分るように、光学機能部とは、実際にレンズを通過する光束の径を意味し、その径は、用途によって異なるものである。例えば、CDではNA0.45、DVDではNA0.60、ブルーレイではNA0.85であり、レンズ面径より内周側に位置する。
【0055】
入れ子51、52とその他の部分の分割箇所は、レンズの光学機能部の最外周とマーキング面の最内周の間にあればよい。より好適には、入れ子51、52とその他の部分の分割箇所は、フランジ部2の最内周部分であることが望ましい。その理由として、一番目は、入れ子51、52とその他の部分の境界部分で樹脂が硬化したときに、鋭角な突出であるバリが発生したとしても、バリが別途設けた段差部を越えるものでなければ問題が生じないためという理由である。2番目は、フランジ面21とレンズ面の境界の肉薄部分に入れ子51、52とその他の部分の分割箇所を位置させると、フランジ面21の鏡面加工が困難となる等があげられる。
【0056】
別体の金型53のフランジ部の上面21と対向する部分にはマーキングとして機能する部分が設けられていて、この部分が射出成形によりフランジ面でマーキング3bとなるようにしている。
ここで、マーキングは、凹状体でも、その機能をなすが、凸状体とする方が好ましい。
【0057】
このように、主として、光学機能部に対応する部分を入れ子51としたのは、フランジの上面に設けられるマーキングも一体成形することとしているため、金型により形成されるレンズ1の製造調整に例えばキャビティー番号をマーキングとして付すためのフランジ部の入れ子部分を動かすことなく、適宜光学機能部のみの入れ子部分を、光軸を中心として回転できるようにすることが望ましいからであり、また、フランジ部と光学機能部を単一の金型で成形した場合のように、別の一体金型に、フランジ部にマーキングとして機能する部分をその都度設ける必要がない。
【0058】
例えば、一旦入れ子部分を所定の位置に設置した状態で製造したレンズは、その性能が良くない場合には、入れ子を回転させて再度製造を行い、性能が向上するまで入れ子の位置調整を行う。
なお、本実施の形態では、光学機能部以外を形成する金型部材を2つ以上の部材としてもよい。
【0059】
本発明では、光学機能部ではなく、それ以外の部分にマーキングを設けるようにしているが、これは、光学機能部に対応する部分を入れ子51とした場合の製造方法に特に適している。それは、金型のマーキングに対応する位置に、マーキングが形成されるような形状に加工する際に、加工対象である金型53が光学機能部を形成する入れ子51とは別体であるため、当該入れ子51を傷める可能性を低下させることができるためである。
【0060】
発明の実施の形態7.
発明の実施の形態7にかかるレンズは、マーキングの形状が発明の実施の形態1にかかるレンズと異なる。その他の点については、発明の実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0061】
図8は、発明の実施の形態4にかかるレンズのフランジ部の拡大断面図(図8(a))及び入れ子51及び52を含む金型に組み込まれた状態を示す断面図(図8(b))である。図に示されるように、マーキング3bは、半球状に凹んだ凹部であり、フランジ面21に設けられている。マーキング3bは、フランジ面21より凹んでいるので、作業時に設置箇所と摺接しない。また、レンズ1を光ピックアップ装置に装着した際にも光学記録媒体と接触することがない。そのため、設置箇所や光学記録媒体等との摺接による破損の可能性を低減することができる。
【0062】
図に示されるように、レンズ1の光学機能部を形成するための金型を入れ子51、52としている。その他のフランジ部2に対する金型は、入れ子51、52とは別体の金型53、54により形成される。
【0063】
発明の実施の形態8.
発明の実施の形態8は、上述した発明の実施の形態1乃至7にかかるレンズを搭載した光ピックアップ装置に関する。
【0064】
図9に当該レンズ1を搭載した光ピックアップ装置100の構成を示す。このレンズ1は、ピックアップホルダ4により4点において固定されている。特に、レンズ1のフランジ部2とピックアップホルダ4が接着剤により固定されている。
【0065】
このようにレンズ1を光ピックアップ装置100に搭載した状態において、フランジ部2に設けられたマーキングを目視あるいは拡大鏡により観察することができる。そして、所定の不備があったレンズについては、マーキングを手がかりとして製造治具、金型、製造ライン、製造場所、生産者等の来歴管理を行うことが可能となる。
【0066】
その他の実施の形態.
本発明のレンズの形状としては、例えば一面が凸で他面側が凹であるメニスカス形状のレンズにも使用することが可能である。
尚、上述した製造方法により製造されるレンズのマーキングは、必ずしもフランジ面の最も高い面よりも低い必要はない。
【符号の説明】
【0067】
1 レンズ
2 フランジ部
3 マーキング
4 ピックアップホルダ
100 光ピックアップ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を射出成形することにより得られる光ピックアップ用プラスチックレンズであって、
2つのレンズ面を有するレンズ部の外周にフランジ部を備え、
前記2つのレンズ面のうちの光学記録媒体側の、前記フランジ部のフランジ面は、当該レンズ面の光学機能部より高く形成された突出面と、この突出面より低い位置に形成され、且つ前記突出面より内側に位置している円環状のマーキング面を備え、
前記マーキング面には一体に射出成形された凸状のマーキングが設けられ、
前記マーキング面の前記マーキングが形成された領域の周囲が鏡面であり、
前記マーキングの上端は前記フランジ面の突出面よりも低いことを特徴とする光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項2】
前記光学記録媒体側における前記フランジ面と前記レンズ面との境界は、レーザ光源側における前記フランジ面と前記レンズ面との境界よりも内側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項3】
前記フランジ部のピックアップホルダに当接する下部面は、光軸方向において、前記レーザ光源側の前記フランジ面と前記レンズ面との境界よりも突出していることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項4】
前記マーキング面には、前記凸状のマーキングが複数設けられており、
複数の凸状のマーキングには、互いに形状が異なるマーキングを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項5】
前記マーキング面には、前記凸状のマーキングが複数設けられており、
第1のマーキングは2つの並列した凸状部であり、第2のマーキングは1つの凸状部であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項6】
前記マーキング面には、ゲート位置を示す第1の凸状マーキングと、前記第1の凸状マーキングとは異なる第2の凸状マーキングと、が存在し、
前記第2の凸状マーキングは、前記第2の凸状マーキングと第1の凸状マーキングとの相対的な位置関係によって製造治具を識別するためのマーキングであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項7】
前記凸状のマーキングの底部の幅をM、前記マーキング面の幅をWとしたとき、2<W/M<10を満たす請求項1乃至6の何れか一項に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項8】
前記マーキング面は、前記突出面から100μm未満の範囲で低く、前記マーキングの前記マーキング面からの高さは30μm以下であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項9】
樹脂材料を射出成形することにより得られる光ピックアップ用プラスチックレンズであって、
2つのレンズ面を有するレンズ部の外周にフランジ部を備え、
光学記録媒体側における前記フランジ部のフランジ面と前記レンズ面との境界は、レーザ光源側における前記フランジ部のフランジ面と前記レンズ面との境界よりも内側に位置しており、
前記2つのレンズ面のうちの前記光学記録媒体側の、前記フランジ部のフランジ面は、当該レンズ面の光学機能部より高く形成された突出面と、この突出面より低い位置に形成され、且つ前記突出面より内側に位置している円環状のマーキング面を備え、
前記マーキング面には一体に射出成形された凸状のマーキングが設けられ、
前記マーキングの上端は前記フランジ面の突出面よりも低いことを特徴とする光ピックアップ用プラスチックレンズ。
【請求項10】
前記マーキング面には、ゲート位置を示す第1の凸状マーキングと、前記第1の凸状マーキングとは異なる第2の凸状マーキングと、が存在し、
前記第2の凸状マーキングは、前記第2の凸状マーキングと第1の凸状マーキングとの相対的な位置関係によって製造治具を識別するためのマーキングであることを特徴とする請求項9に記載の光ピックアップ用プラスチックレンズ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−61173(P2010−61173A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285048(P2009−285048)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【分割の表示】特願2003−390156(P2003−390156)の分割
【原出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】