説明

プラスチックレンズの製造方法

【課題】プラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】エピスルフィド化合物と硫黄とを混合して反応させる反応工程S1と、この反応工程S1の後に、反応抑制剤を添加する(S2)と共に冷却する冷却工程S3と、この冷却工程S3の後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する工程S4とを有し、冷却工程S3では冷却時間を一定時間に制御して冷却を行い、この一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間として、プラスチックレンズを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズの製造方法に係わり、特に高屈折率のプラスチックレンズの製造に好適な方法である。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用のプラスチックレンズにおいては、レンズを薄くして軽量化を図る目的で、レンズ材料の屈折率を高めることが要望されている。
【0003】
例えば、屈折率を高くするために、硫黄原子と、硫黄と反応可能な樹脂とを重合反応させた樹脂組成物を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、エピスルフィド化合物を含有した組成物を使用して、硫黄原子を含有する重合組成物を作製する製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−197005号公報
【特許文献2】特開2005−350531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、プレポリマーの屈折率が停止点の値まで上昇した時点で加温を終了させて、冷却するように制御している。
このように屈折率の値で制御しているため、加温工程の終了時間にバラツキが生じてしまう。
従って、レンズの生産工程において、予定がたてにくいといった弊害がある。
【0006】
また、加温終了後の冷却工程において、プレポリマーの屈折率が所定の値となった時点で冷却を終了させるように制御することも考えられる。
しかしながら、このように冷却終了時の屈折率の値で制御する場合も、加温終了時の屈折率の値で制御する場合と同様に、冷却工程の終了時間にバラツキが生じてしまうので、レンズの生産工程において、予定がたてにくいといった弊害がある。
【0007】
上述した問題の解決のために、本発明においては、工程に要する時間のばらつきを抑制して安定化させることにより、生産効率を向上させることができる、プラスチックレンズの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、エピスルフィド化合物と硫黄とを混合して反応させる反応工程と、この反応工程の後に、反応抑制剤を添加すると共に冷却する冷却工程と、この冷却工程の後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する工程とを有し、冷却工程では冷却時間を一定時間に制御して冷却を行い、この一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間とするものである。
【0009】
また、上記本発明のプラスチックレンズの製造方法において、反応工程の後に、温度が30℃以上のときに(例えば、30℃〜100℃)反応抑制剤を添加して、冷却工程を開始することも可能である。
また、上記本発明のプラスチックレンズの製造方法において、硫黄を、エピスルフィド化合物100重量%に対して、10質量%〜50質量%混合することも可能である。
また、上記本発明のプラスチックレンズの製造方法において、冷却工程では、30℃を下回る範囲内(例えば、20℃〜30℃等のほぼ室温)まで冷却することも可能である。
また、上記本発明のプラスチックレンズの製造方法において、プレポリマーに、ポリチオール化合物をマスターバッチの状態で添加することも可能である。
また、上記本発明のプラスチックレンズの製造方法において、プレポリマーとポリチオール化合物とを混合した後に、減圧する工程を行うことも可能である。
【0010】
上述の本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、エピスルフィド化合物と硫黄とを混合して反応させる反応工程と、この反応工程の後に、反応抑制剤を添加すると共に冷却する冷却工程と、この冷却工程の後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する工程とを有する。
反応工程において、硫黄をエピスルフィド化合物に混合することにより、屈折率を上げることができる。
また、反応抑制剤の添加及び冷却工程の実行により、エピスルフィド化合物と硫黄との反応を停止させて、温度を下げることができる。
さらに、本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、冷却工程では冷却時間を一定時間に制御して冷却を行い、この一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間とする。これにより、特定の時間が経過すると冷却工程が終了するので、冷却工程の時間のばらつきを抑制して、特定の時間に安定させることができる。
【発明の効果】
【0011】
上述の本発明によれば、冷却工程において屈折率管理を行うことなく、決められた時間にレンズ製造工程を安定して行うことができるので、生産効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<1.本発明の概要>
以下、本発明の概要を説明する。
本発明の製造方法は、エピスルフィド化合物と硫黄とを混合して反応させる反応工程と、その後に反応抑制剤を添加すると共に冷却する冷却工程と、その後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する工程とを有して、プラスチックレンズを製造する。
さらに、冷却工程では冷却時間を一定時間に制御して冷却を行い、この一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間とするものである。
【0013】
エピスルフィド化合物としては、エピチオ構造を少なくとも1つ以上有するものを用いることができる。
例えば、ビスエピチオエチルスルフィド、ビスエピチオエチルジスルフィド、ビスエピチオエチルチオメタン、ビスエピチオエチルジチオメタン、1,1−ビスエピチオエチルチオエタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオエタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオエタン、1,2−ビスエピチオエチルチオエタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオエタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオエタン、1,1−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,1−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオプロパン、1−エピチオエチルチオ−2−エピチオエチルジチオプロパン、1,3−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,3−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオプロパン、2,2−ビスエピチオエチルチオプロパン、2,2−ビスエピチオエチルジチオプロパン、2−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルチオブタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオブタン、1−エピチオエチルチオ−2−エピチオエチルジチオブタン、1,3−ビスエピチオエチルチオブタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオブタン、1−エピチオエチルチオ−3−エピチオエチルジチオブタン、1,4−ビスエピチオエチルチオブタン、1,4−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオブタン、1,1−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオヘプタン、1,2−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオヘプタン、1,4−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,4−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオヘプタン、1,5−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,5−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビス(エピチオエチルチオ)−2−チアプロパン、1,3−ビス(エピチオエチルジチオ)−2−チアプロパン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオ−2−チアプロパン、1,4−ビス(エピチオエチルチオ)−2−チアブタン、1,4−ビス(エピチオエチルジチオ)−2−チアブタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオ−2−チアブタン、1,5−ビス(エピチオエチルチオ)−3−チアペンタン、1,5−ビス(エピチオエチルジチオ)−3−チアペンタン、1−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオ−3−チアペンタン、1,1−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,2−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,3−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,1−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,1−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,3−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,3−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,4−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,4−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,2−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオベンゼン、1,3−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,3−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオベンゼン、1,4−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,4−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオベンゼン、1,2−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,2−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−2−エピチオエチルチオメチルベンゼン、1,3−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,3−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−3−エピチオエチルチオメチルベンゼン、1,4−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−4−エピチオエチルチオメチルベンゼン、4,5−ビスエピチオエチルチオ−1,3−ジチオラン、4,5−ビスエピチオエチルジチオ−1,3−ジチオラン、4−エピチオエチルジチア−5−エピチオエチルチア−1,3−ジチオラン、2,3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,3−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ジチアン、2−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,5−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,5−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ジチアン、2−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、3,4−ビスエピチオエチルチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、3,4−ビスエピチオエチルジチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、3−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、2,3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ベンゾジチアン、2,3−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ベンゾジチアン、2−エピチオエチルジチオ−3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ベンゾジチアン等が挙げられる。
これらの化合物は、シス−異性体とトランス−異性体とを有する場合がある。
これらの化合物は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
硫黄は、例えば、硫黄原子を有する無機化合物として添加することができる。
硫黄は、プラスチックレンズ組成物全体に対して、5〜30質量%含むことが好ましい。
硫黄原子を有する無機化合物としては、例えば、硫黄(単体)、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等が挙げられる。
これらの中で、特に好ましくは、硫黄(単体)である。
【0015】
エピスルフィド化合物を重合してエピスルフィド樹脂を形成するときに、硫黄を混合して反応させる(反応工程)。この反応工程により、硫黄を含むエピスルフィド樹脂が形成される。
好ましくは、エピスルフィド化合物100質量%に対して、硫黄を10質量%〜50質量%混合する。
反応工程において、エピスルフィド化合物と硫黄とを混合することにより、液状モノマーであるエピスルフィド化合物に、硫黄が溶解していく。
エピスルフィド化合物100質量%に対して、硫黄の混合量が10質量%程度までの場合には、溶解するだけである。
エピスルフィド化合物100質量%に対して、硫黄の混合量が10質量%程度を超える場合には、溶解しない硫黄がエピスルフィド化合物の構造の内部に組み込まれていき、ちょうどゴムの加硫のように作用して、架橋とオリゴマー化が進行する。
【0016】
また、エピスルフィド化合物と硫黄原子との反応には、加硫化触媒を加える。
この加硫化触媒としては、例えば、2メルカプト−N−メチルイミダゾール、イミダゾール、N−メチルイミダゾール,2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、N−ブチルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、4−ブチルイミダゾール、N−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−ベンジルイミダゾール、2−ベンジルイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール等のイミダゾール系、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン等のグアニジン系を使用することができる。
【0017】
反応工程においては、好ましくは30℃〜80℃、より好ましくは60℃程度になるように温度制御する。反応熱だけでは温度上昇が充分ではない場合には、必要に応じて加熱する。
20℃程度未満では、反応工程における、硫黄の溶解や加硫が進行しにくい。
例えば、溶解の段階で60℃程度にまで加温して、加硫の段階では60℃程度に保ち、その後冷却するプロファイルが考えられる。
【0018】
硫黄を添加することにより、プラスチックレンズの屈折率を大きくすることができ、例えば、屈折率1.74のプラスチックレンズを実現することができる。
硫黄の添加量が所定の範囲を超えると、硫黄原子の析出が発生する。
硫黄の添加量が所定の範囲以下では、プラスチックレンズの屈折率が低くなり、例えば屈折率1.74を実現することができない。
【0019】
なお、加硫が進み過ぎると、ゲル化して樹脂とならなくなるため、ある程度加硫が進んだ段階で、加硫の反応を停める必要がある。
そこで、反応抑制剤を投入すると共に冷却する(冷却工程)。この冷却工程では、強制的に冷却することが望ましい。
冷却工程では、30℃未満、具体的には20℃〜30℃未満の範囲内(室温程度)になるまで、冷却することが望ましい。
【0020】
反応抑制剤としては、加硫の反応を停止する作用を有するものであれば良い。
例えば、酸性リン酸エステル類やハロゲン化スズを、使用することができる。
ハロゲン化スズの例としては、四塩化スズ、ジメチルチンクロライド、トリメチルチンクロライド、エチルチントリクロライド、ジエチルチンジクロライド、トリエチルチンクロライド、プロピルチンクロライド、ジプロピルチンジクロライド、トリプロピルチンクロライド、n−ブチルチントリクロライド、ジブチルチンジクロライド、トリブチルチンクロライド等の、スズの塩化物が挙げられる。その他スズのフッ化物、臭化物、ヨウ化物を使用することが可能である。
反応抑制剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
そして、例えば、メチルの側鎖を有する有機ハロゲン化スズを反応抑制剤に使用した場合には、他の有機ハロゲン化スズよりも分子量が小さいため、より少量で反応抑制効果が得られる。
【0022】
反応抑制剤は、温度が30℃以上、具体的には30℃〜100℃のときに添加することが望ましい。温度が低すぎると反応抑制剤が溶解しにくくなる。
特に、ハロゲン化スズ等の反応抑制剤は、20℃程度では溶解しにくい。この観点からも、反応工程においてより好ましくは30℃〜80℃、さらに好ましくは60℃程度となるように制御することが望ましい。
【0023】
冷却工程の後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する。
ポリチオール化合物の例としては、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、テトラキスメルカプトメチルメタン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、2,3−ジメルカプトプロパノール、ジメルカプトメタン、トリメルカプトメタン、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、2,5−ビス(メルカプトメチル)―1,4−ジチアン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3−ジメルカプトメチルベンゼン、1,4−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,2,3,4−テトラメルカプトブタン等が挙げられる。
これらの化合物は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
プレポリマーとポリチオール化合物とを混合する際に、さらに他の添加物を添加することも可能である。
このような添加物としては、例えば、レンズ材料用の重合触媒、離型剤、ブルーイング剤(色素)、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、紫外線照射により生じるプラスチックレンズの樹脂の黄変を防ぐことができる。
【0025】
また、プレポリマーに、ポリチオール化合物をマスターバッチの状態で添加して、混合しても良い。この場合に、ポリチオール化合物に前述した添加物を添加したマスターバッチを使用しても良い。
【0026】
その後、混合して得られた原料を、ガラスや金属等の型に注入して、重合硬化させることにより、プラスチックレンズを成型する。
さらに、成型したプラスチックレンズを、型から取り出して、プラスチックレンズが得られる。
【0027】
ところで、屈折率が1.70以上のプラスチックレンズ用のプレポリマーを作製する際に、冷却終了時の屈折率の値で冷却工程を制御すると、前述したように、冷却時間にバラツキを生じてしまう。例えば、冷却時間に、10分〜30分程度の差ができてしまう。
このように、冷却工程を、冷却終了時の屈折率の値で制御する方法を採用すると、モノマーの反応を決められた時間内に制御して行うことが難しい。
【0028】
そこで、本発明では、冷却工程を、冷却時間で制御して行うようにする。即ち、一定時間が経過した時点で冷却工程が終了するように制御する。
例えば、室温まで冷却する場合には、冷却開始時の温度から一定時間で室温まで冷却されるように制御する。
これにより、冷却時間が一定時間で安定するため、生産効率を向上させることができる。
なお、この場合には、冷却終了時の屈折率の値は一定にはならない。
【0029】
さらに、本発明では、冷却時間の一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間とする。
この範囲内の特定の時間であれば、無理な急冷を行う必要がなく、また、冷却時間も長くならない。なお、無理な急冷を行うと、冷却コストが増大したり、製造装置に負担がかかったりするおそれがある。
また、冷却する際の脱ガスは、冷却する温度によってプラスチックレンズの物性(屈折率、耐熱性)を大きく変化させるが、冷却時間を一定にすることで脱ガス量も一定になり、安定した物性のプラスチックレンズを得ることが可能になる。
【0030】
本発明の製造方法によって製造したプラスチックレンズを基材として使用して、プラスチックレンズから成る眼鏡レンズを製造することができる。
基材から眼鏡レンズを製造する方法としては、従来からある製造方法を適用することができる。
【0031】
例えば、以下の工程により、眼鏡レンズを製造することができる。
(1)プラスチックレンズ(基材)上に、プライマー層を形成する工程
(2)プライマー層の上に、有機ケイ素化合物又は無機物質から成る硬化皮膜を形成する工程
(3)硬化皮膜上に、反射防止膜を形成する工程
(4)反射防止膜上に、フッ素原子を含有した有機ケイ素化合物からなる撥水膜を形成する工程
これらの工程により、眼鏡レンズを製造することができる。
なお、基材の材料と硬化皮膜の材料との組み合わせによっては、プライマー層を形成する必要がなくなる。
【0032】
<2.本発明の一実施の形態>
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の製造方法の一実施の形態のフローチャートを、図1に示す。
まず、ステップS1において、エピスルフィド化合物に硫黄を混合して反応させる(反応工程)。
次に、ステップS2において、反応抑制剤を投入する。さらに、反応抑制材を投入すると共に、ステップS3に移り、冷却を行う(冷却工程)。この冷却工程では、強制的に冷却する。
そして、ステップS3の冷却工程の冷却時間は、一定時間(30分〜90分の範囲内の特定の時間)となるように制御する。
次に、ステップS4において、得られたプレポリマーに対して、ポリチオール化合物を混合する。
次に、ステップS5において、混合して得られた原料を重合反応させる。これにより、プレポリマーがポリマーとなる。このとき、前述したように、原料をガラスや金属等の型に注入することにより、重合したポリマーを成型することができる。
その後、ステップS6において、減圧工程を行い、ポリマー中に含まれているガスを除去する。これにより、気泡や揮発成分を完全に除去して、屈折率を高めることができる。
このようにして、プラスチックレンズを製造することができる。
【0033】
製造中の各工程における屈折率の変化の模式図を、図2に示す。
反応工程の前半では、硫黄が溶解して、屈折率が上昇していく。
反応工程の後半では、硫黄がエピスルフィド化合物の構造に入り込み、加硫の状態になるため、さらに屈折率が上昇していく。
反応工程の後に、反応抑制剤を投入して、冷却工程に入ると、屈折率の上昇が停まる。
そして、冷却工程の間、屈折率はほぼ同じ状態で保たれる。
冷却工程の後に、得られたプレポリマーにポリチオールを混合させると、屈折率が一時的に大きく下がる。
その後、重合が進行するに従い、屈折率が徐々に上昇する。
最終的に減圧(脱ガス等)工程を行うことにより、屈折率が上昇して、最終的な屈折率に到達する。
【0034】
反応工程では、図2に破線で示すターゲットとする屈折率を定めて、ターゲットの屈折率に到達したら、反応抑制剤を投入して冷却工程を開始するのが望ましい。
なお、図2では、プレポリマーの状態におけるターゲットの屈折率と、終了時の屈折率がほぼ同程度となっているが、実際の製造においては、通常、終了時の屈折率の方を高くしている。
【0035】
なお、減圧工程は必須ではなく、減圧工程を行わなくても目的とする屈折率が達成できる場合には、省略することも可能である。
【実施例】
【0036】
実際に、本発明の製造方法と、冷却終了時の屈折率で制御する製造方法とで、それぞれプラスチックレンズを作製して、比較を行った。
製造するプラスチックレンズのスペックは、以下のように設定した。
重合後の樹脂の20℃での屈折率ne:1.7354〜1.7355
20℃でのアッベ数νd:31.3
ガラス転移点Tg:81〜82℃
20℃での比重SG:1.47
【0037】
(実施例)
エピスルフィド化合物、硫黄、ポリチオール化合物を原料として使用して、前述した図1のフローチャートに沿って、プラスチックレンズを製造した。
そして、冷却工程においては、冷却工程の開始温度を60℃、冷却工程の終了温度を20℃として、冷却工程の冷却時間が60分となるように、冷却のプロファイルを制御した。
また、冷却終了時の屈折率と、最終的に得られた樹脂の屈折率とを、それぞれ測定した。
同じ方法で数十個のプラスチックレンズの試料を作製して、実施例の試料とした。
【0038】
(比較例)
冷却工程において、冷却終了時(20℃)における屈折率が1.6650で一定になるように、冷却のプロファイルを制御した。
また、冷却終了時の屈折率と、最終的に得られた樹脂の屈折率とを、それぞれ測定した。
その他は、実施例と同様とした。
同じ方法で数十個のプラスチックレンズの試料を作製して、比較例の試料とした。
【0039】
実施例の数十個の試料のうち、4個の試料を抽出して、実施例1〜実施例4の試料とした。
比較例の数十個の試料のうち、4個の試料を抽出して、比較例1〜比較例4の試料とした。
実施例1〜実施例4の屈折率の測定値と冷却時間を、表1に示す。また、比較例1〜比較例4の屈折率の測定値と冷却時間を、表2に示す。
【0040】
【表1】

【表2】

【0041】
表1より、冷却時間を一定時間に制御した実施例の場合には、冷却終了時の屈折率が±(1〜5)/10000程度動いているが、最終的な樹脂の屈折率は1.7355で変化はなかった。
【0042】
表2より、冷却終了時の屈折率を一定に制御した比較例の場合には、冷却終了時の屈折率及び最終的な樹脂の屈折率がそれぞれ一定となっているが、冷却時間が40分〜70分と、かなりばらついていることがわかる。このように冷却時間がばらつくと、生産効率が落ちることになる。
【0043】
従って、各実施例のように、本発明の製造方法を採用して、冷却時間を一定時間に制御することにより、安定した時間で効率よくプラスチックレンズを作製することができることがわかる。
【0044】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法の一実施の形態のフローチャートである。
【図2】各工程による屈折率の変化の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズの製造方法であって、
エピスルフィド化合物と、硫黄とを、混合して反応させる反応工程と、
前記反応工程の後に、反応抑制剤を添加すると共に、冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、得られたプレポリマーとポリチオール化合物とを混合する工程とを有し、
前記冷却工程では、冷却時間を一定時間に制御して冷却を行い、
前記一定時間を、30分〜90分の範囲内の特定の時間とする
プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程の後に、温度が30℃以上のときに前記反応抑制剤を添加して、前記冷却工程を開始する、請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記硫黄を、前記エピスルフィド化合物100質量%に対して、10質量%〜50質量%混合する、請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程では、30℃を下回る範囲内まで冷却する、請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記プレポリマーに、前記ポリチオール化合物をマスターバッチの状態で添加する、請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記プレポリマーと前記ポリチオール化合物とを混合した後に、減圧する工程を行う、請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−137526(P2010−137526A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318894(P2008−318894)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】