説明

プラスチック光学部材の製造方法

【課題】コアが円形、クラッドが矩形の横断面形状を有するプラスチック光学部材を容易且つ精度良く製造する。
【解決手段】丸孔状の中空部21aを有し、横断面が角形状である棒状のクラッド部21を形成する。中空部21a内にPMMAを注入しラジカル重合させてコア部22を形成し、プリフォーム23を得る。プリフォーム23を加熱炉で加熱延伸する。加熱延伸では、延伸後の光学部材27の横断面の形状が、プリフォーム23の横断面形状と略相似形になるように、加熱条件を制御する。加熱延伸によりコアが円形でクラッドが矩形の光学部材を容易に精度よく形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を伝播させる光学部材としては、硬度が高く化学的に安定でありながら、伝送損失が低く、さらには、優れた透明性や成形性などの長所を有することから、石英系光学部材が使用されている。この石英系光学部材としては、その用途や形状の違いにより、光ファイバ素線や、光導波路、あるいはレンズや電子部品などが挙げられる。ただし、最近では、石英系光学部材に劣らぬ優れた加工性や透明性を有し、さらには軽量化が可能であるなどの長所を有することから、プラスチック光学部材が注目されている。このプラスチック光学部材は、素材が全てポリマーであるため、石英系に比べて伝送損失がやや大きいという短所を有するが、上記の長所に加えて、良好な可撓性を示し、また石英系よりも大口径化が可能であるなどの長所も有するため、特に、伝送損失の大きさがあまり問題とならない程度の短距離用の光学部材としての利用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
プラスチック光学部材は、プラスチックからなり光伝送路となるコア(芯部)と、コアよりも低屈折率のプラスチックからなるクラッド(クラッド部)とを有している。さらに、必要に応じて、クラッドの外周には、コア及びクラッドに対する熱ダメージや耐水性などを向上させることを目的とする保護層が形成されている。
【0004】
コアは、径の中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が変化する屈折率分布を有するものが好ましく用いられる。そして、屈折率分布の違いにより、グレーテッドインデックス(GI)型、ステップインデックス(SI)型、マルチステップインデックス(MSI)型などに分類される。GI型プラスチック光学部材とは、径の中心から外側に向かって屈折率が連続的に低くなるものであり、SI型プラスチック光学部材は屈折率が分布を有さず一定のものである。そして、MSI型プラスチック光学部材は、このGI型とSI型との中間的な階段状の屈折率分布を有するものである。
【0005】
屈折率分布の違いに関わらず、プラスチック光学部材の製造方法としては、例えば、溶融押出法によりパイプ状のクラッド(以下、クラッドパイプと称する)を形成した後、このクラッドパイプ中にコアを形成する方法が挙げられる。そして、GI型プラスチック光学部材の製造方法としては、例えば、重合法により光学部材を構成するポリマーを重合させてプリフォーム(母材)を作製した後、このプリフォームを加熱炉で加熱溶融延伸する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。また、一般に、プラスチック光学部材は、その外径断面が円形であるものが多い。しかしながら、用途によっては、外形が円形ではなく矩形や長円などであることが望ましい場合がある。そこで、このように外形が非円形である光学部材の製造方法としては、例えば、断面の外形が円形である光学部材を製造後、これを加工して断面が長円のプラスチック光学部材を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、プラスチック光学部材は、そのままの形状でも利用されるが、パラレル信号伝送や画像取り込み、画像出力などの用途においては、複数のプラスチック光学部材を密接に配列または円柱状、角柱状に結束させて利用する場合が多い。このような、単一の光学部材を複数用いた集合体を形成する方法としては、複数の光学部材を並列状態で熱圧着する方法(例えば、特許文献4参照)や、フォトレジストやエッチングを利用して光学部材を製造する方法(特許文献5参照)、さらには、複数の中空部が並列に形成されたクラッドに、複数のコアを挿入して光学部材を製造する方法(例えば、特許文献6参照)、複数個のMSI型プラスチック光学部材をその最外層において融着一体化して製造する方法(例えば、特許文献7参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開昭61−130904号公報
【特許文献2】特許第3332922号公報
【特許文献3】特願2004−019968号公報
【特許文献4】特開平6−317716号公報
【特許文献5】特開2001−166165号公報
【特許文献6】特開2005−003899号公報
【特許文献7】特開平11−52147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記に挙げた各特許文献のうち、特許文献6は、石英系光学部材の製造方法であり、プラスチック光学部材に関する記載ではない。また、上記いずれの方法においても、光学部材を製造する際に、加工のために特別な装置を必要とし、設備コストの増大を招くなどの問題がある。しかも、各種の光学部材に対応させて加工装置を用いると、製造時間が長くなるとともに、製造コストが上昇してしまう。くわえて、特許文献3のように、所望の断面を有する光学部材を形成する場合には、微細な加工を必要とするため、その精度を確保することが困難であるとともに、製造効率が低下してしまうという問題を抱える。また、上記いずれの方法も、複数の光学部材を高密度で集積することには手間がかかり、大量生産するには向いていないという問題がある。
【0008】
また、従来の光ファイバは、横断面形状が丸であり、平面型導波路へ接続する際や、基板上での接続や配列、マトリックス上に配列する際などに、転がりやすく、曲がりやすいため、接続作業などが困難になるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、接続や配列作業が容易に行えるようにしたプラスチック光学部材を精度良く且つ低コストで量産することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプラスチック光学部材の製造方法は、略円形または略楕円形の横断面形状を有し光伝送部となるコア部を備え、その外形が略多角形の横断面形状を有するプラスチック光学部材の母材第1プリフォームを形成する第1工程、前記第1プリフォームを前記横断面に直交する方向に加熱延伸し、前記プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する第1延伸体を形成する第2工程を有することを特徴とする。なお、前記第1プリフォームは、前記コア部とこのコア部の外周に配置され前記コア部よりも屈折率の低いクラッド部とを有し、前記クラッド部の外形が略多角形であることが好ましい。また、前記第1プリフォームは、前記コア部と、このコア部の外周に配置され前記コア部よりも屈折率の低いクラッド部と、このクラッド部の外周に配置され、その外形が略多角形である保護層とを有することが好ましい。また、前記第1プリフォームは、複数個の前記コア部を前記横断面内でライン状に並べて構成されることが好ましい。また、前記コア部が複数種類の材料もしくは形状から構成されていることが好ましい。さらには、前記クラッド部が複数種類の材料もしくは形状から構成されていることが好ましく、前記保護層が複数種類の材料もしくは形状から構成されていてもよい。
【0011】
前記第1延伸体を加熱延伸し、前記第1延伸体の横断面と略相似形の横断面形状を有する第2延伸体を形成する第3工程を有することが好ましい。また、前記第1延伸体または第2延伸体を並列に集積し第2プリフォームを形成する第4工程、前記第2プリフォームを加熱延伸し、前記第2プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する第3延伸体を形成する第5工程を有することが好ましい。また、前記延伸体の外周面に被膜を形成する第6工程を有することが好ましい。さらに、前記第6工程は、前記外周面に放射線硬化樹脂を塗布し、放射線を照射して硬化させることが好ましい。また、前記第6工程は、熱可塑性樹脂を押出成形して前記被膜を形成することが好ましい。また、前記延伸体の横断面において、前記コア部の横断面中心から外側に向って屈折率が徐々に低下する屈折率分布を有することが好ましい。また、前記延伸体の横断面において、前記コア部の断面積が400μm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチック光学部材の製造方法によれば、略円形または略楕円形の横断面形状を有し光伝送部となるコア部を備え、その外形が略多角形の横断面形状を有するプラスチック光学部材の母材第1プリフォームを形成し、この第1プリフォームを前記横断面に直交する方向に加熱延伸し、前記プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する第1延伸体を形成するから、コア部の横断面の外形状が略円形または略楕円形で、外形が多角形状のプラスチック光学部材を簡単にしかも特別な製造装置を用いることなく、精度よく製造することができる。したがって、光導波路や基板などに接続したり配列したりする際に、接続または配列を容易に行うことができる。しかも、コア部が略円形または略楕円形であり、伝送損失の少ない光学部材が得られる。また、多芯構造のものでは、延伸倍率を変えることにより、または複数回に分けて加熱延伸することにより、高密度の多芯プラスチック光学部材を簡単に且つ低価格で製造することができる。
【0013】
また、クラッド部の外周に、クラッド部を覆う保護層を有することにより、加熱延伸後に保護層を形成する必要もなく、製造が簡単になる。さらに、コア部またはクラッド部を、同一種類または複数種類の光学材料から構成することにより、多種多様な光学部材を容易に製造することができる。また、コア部の横断面において中心から外側に向って屈折率が徐々に低下するGI型やMSI型を用いることにより、伝送特性に優れた光学部材を製造することができる。
【0014】
加熱延伸工程の後に、外周面に被膜を形成する被膜形成工程を有することにより、クラッド部や保護層等を保護することができる他に、物理強度や遮光性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。実施の形態については、本発明の好適な適用例を記載しているものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明のプラスチック光学部材の製造方法は、大きく分けてプリフォーム形成工程11と加熱延伸工程12と被膜形成工程13とからなる。プリフォーム形成工程11は、クラッド部形成工程14及びコア部形成工程15を有する。
【0017】
まず、クラッド部形成工程14において、図2(A)に示すように、孔状の中空部21aを有する角筒状のクラッド部21を形成する。次に、コア部形成工程15において、図2(B)に示すように、中空部21a内にPMMAを注入してラジカル重合させてコア部22を形成し、プリフォーム23を得る。
【0018】
加熱延伸工程12では、図3に示すようにプリフォーム23を加熱炉30内に配置する。そして、この加熱炉30により、プリフォーム23を加熱してプリフォーム23の一部を軟化させた後、この軟化箇所の先端部23aを始点として線引き(延伸)を行い、光学部材27を得る。この軟化温度は、特に限定されるものではないが、80〜500℃の温度であることが好ましく、より好ましくは180〜240℃であり、最も好ましくは190〜220℃である。線径モニタ32は光学部材27の外径をモニタリングする。このモニタリング結果に応じて加熱炉30内のプリフォーム23の位置や加熱炉30の温度、巻取装置33の巻取速度などを適宜調整して、光学部材27の外径が常に一定になるようにする。巻取装置33は、線引きした光学部材27を芯材33aに巻き取る。以上により、ロール状に巻き取り収納された光学部材27が得られる。
【0019】
なお、本発明での加熱延伸での軟化とは、非円形のプリフォーム23を加熱延伸したときに、略相似形の断面が得られる状態をいい、本発明での加熱延伸での溶融とは、非円形のプリフォームを加熱延伸したときに、略相似形が保持されず略円形などの断面になる状態をいう。プリフォームが軟化する温度は、ポリマーの温度特性に依存し、一概には規定することはできないため、ポリマー毎に加熱延伸時の軟化する温度を実験などにより求めておき、この求めた温度範囲で加熱延伸を行う。
【0020】
これにより、図2(B),(C)に示すように、プリフォーム23の横断面と略相似形の光学部材27が得られる。得られた光学部材27に対しては、被膜形成工程13(図1参照)で、図2(D)に示すように、その外周面を保護するために樹脂を被覆し、被膜28を形成する。この被膜28は、放射線硬化樹脂の塗布後に放射線を照射して形成してもよいし、熱可塑性樹脂の押出成形により形成してもよい。なお、被膜28を形成させる場合には、光学部材の製造工程とは別ラインとして行っても良いし、加熱延伸工程12の後に行うなどして光学部材の製造工程中に組み込んでもよい。
【0021】
図2に、光学部材27を製造する際の各工程における横断面形状の変化の一例を示す。クラッド部21は、コア部22よりも低屈折率であり、コア部22との界面で光を全反射させる中空状の部材であり、丸孔を中心軸に沿って有する角筒から構成されている。コア部22は、光の伝送路となる部材であり、丸棒状に構成されている。
【0022】
コア部22の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記のように溶融押出成形により形成したクラッドパイプ内に、コア部22をラジカル重合により形成する代わりに、複合型ノズルを備えた溶融押出装置により、共押出成形してクラッド部21とコア部22とを一体的に構成し、これをプリフォーム23としてもよい。なお、コア部22を形成させるポリマーの中に屈折率調整剤を添加し、その分散具合や濃度を調整すると、所望の屈折率分布を発現させることができる。具体的には、特許3332922号公報に記載されているラジカル重合による製造方法や、特願2004−354786号に記載されている溶融押出方法などが挙げられ、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0023】
図2(A)に示すように、クラッド部21の製造方法も、特に限定されるものではなく、例えば、クラッド部21を形成する材料(例えば、PMMAやPVDFなど)を用いた溶融押出成形法が挙げられる。中空部21aの横断面形状は、コア部22の断面形状と略一致していればよい。したがって、コア部22の横断面形状が円形、楕円形などの非矩形状の場合に、これと略一致した形状とされる。
【0024】
コア部22をクラッド部21の中空部21a内に形成してプリフォーム23とする代わりに、図4に示すように、コア部形成工程16でコア部17を形成し、クラッド部形成工程18でクラッド部19を形成し、これら個別に形成したコア部17及びクラッド部19を組み立て工程20で嵌め合わせて、プリフォーム23を形成してもよい。この場合には、プリフォーム23の端部のうち、どちらか一方の端部を固定する。この固定した端部は、加熱延伸時において延伸側の端部となる。これにより、クラッド部21からコア部22が落下したり、嵌合位置がずれたりすることなく、プリフォーム23を加熱炉30内で延伸することができる。端部の固定は固定部材により行う。固定部材としては、市販の耐熱テープや接着剤などが挙げられる。ただし、プリフォーム23を形成するポリマー材料との親和性を考慮して選択すると、界面での優れた接着性を得ることができるので好ましい。この他にも、固定部材を用いる代わりに、プリフォーム23の一端部を加熱融着させてもよい。加熱装置としては、固定端部を直接加熱して融着することができるものであればよく、例えば、ホットプレートや電熱ヒータなどが用いられる。
【0025】
なお、本実施形態ではコア部の径方向で屈折率分布を一様にした例を示したが、これに代えて、コア部の中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が低くなるGI型や、屈折率が分布を有さず一定のSI型や、GI型とSI型の中間で階段状の屈折率分布を有するMSI型などを用いてもよい。
【0026】
また、図2(B),(C)に示すように、プリフォーム23から光学部材27を加熱延伸する他に、図5(A),(B)に示すように、プリフォーム23から中間プリフォーム40を加熱延伸により形成し、この中間プリフォーム40を複数個集合させて、図5(B)に示すように、プリフォーム集合体41を構成してもよい。そして、このプリフォーム集合体41をプリフォームとして加熱炉30で加熱延伸することにより、多芯型の光学部材42が得られる。光学部材42内に配置されるコア部の数は複数個であればよく、また、配列方向は延伸方向に直交する方向に、直線状である一次元方向のみならず、平面状である2次元方向であってもよい。中間プリフォーム40のサイズ縮小のための加熱延伸は1回に限られず、複数回行ってよい。
【0027】
プリフォーム集合体41を構成する場合に、各中間プリフォーム40同士の接合は、例えば加熱により行われる。加熱は加熱延伸前に行ってもよく、または加熱延伸時の熱融着で行ってもよい。加熱延伸時に熱融着させる場合には、クランプや耐熱テープなどで中間プリフォーム40を保持しておく。
【0028】
また、クラッド部、コア部からプリフォーム23を形成する代わりに、図6及び図7に示すように、コア部17及びクラッド部19の外周に保護層50を設けてもよい。図6は、保護層形成工程51を有するプリフォーム形成工程52を示しており、コア部形成工程16でコア部17を構成し、クラッド部形成工程18でクラッド部19を構成し、保護層形成工程51で保護層50を形成し、これらを組み立て工程20で組み立てることにより、プリフォーム54を得る。このようにコア部17、クラッド部19及び保護層50等のプリフォーム素片を個別に形成した後に、これらを組み立てる代わりに、図1のプリフォーム形成工程と同様に、クラッド部にコア部を形成した後に、これを組み立て工程で、別個に保護層形成工程で形成した保護層と組み合わせて、プリフォームを得てもよい。なお、クラッド部19や保護層50は、パイプ状の成形品を用いているが、4つの板材を組み合わせて角形パイプ状にしたり、2つのL型材を組み合わせて角形パイプ状にしたりしてよい。また、これらクラッド部19や保護層50の構成素材は板材やL型材に限られず、種々の形態のものを用いてよい。
【0029】
図7はコア部、クラッド部及び保護層からなるプリフォーム形成工程52の具体例を示している。先ず、(A)に示すように、円筒状のパイプからなるクラッド部60をクラッド部形成工程で形成し、このクラッド部60内にコア部61を形成する。次に、丸孔状の中空部62aを有する角状パイプからなる保護層62を形成し、この保護層62内にクラッド部60を嵌合して組み立て、プリフォーム63を得る。得られたプリフォーム63を加熱延伸することにより、中間プリフォーム64を得て、これら中間プリフォーム64を複数個集合させることにより、プリフォーム集合体65を得る。このプリフォーム集合体65を加熱延伸することにより、光学部材66を得る。
【0030】
保護層62を有するプリフォーム63では、一つの保護層内に複数個のコア部及びクラッド部を構成する際に、保護層のサイズを適宜変更することにより、製品としての光学部材となったときの各コア部の間隔を任意に設定することができる。また、保護層のサイズを変える代わりに、各保護層の間に、コア部間隔調整材として角棒等を配置してもよい。なお、間隔調整材は、保護層と同じ材質のものが好ましく用いられる。このようにして構成したプリフォームを加熱延伸することにより、各コア部の間隔を任意に変更可能な光学部材が得られる。
【0031】
以下に、本発明に係わる実施形態での製造条件の詳細を説明する。本発明において、複数本のコア部、クラッド部、保護層などのプリフォーム素片を用いてプリフォームを製造する場合、プリフォーム素片の数は特に限定されるものではないが、2本以上100本以下であることが好ましく、より好ましくは2本以上50本以下であり、最も好ましくは2本以上10本以下である。また、その配置も特に限定されるものではなく、隣接するように配列させたり、結束させたりしてもよい。
【0032】
また、プリフォームを形成する際に使用するプリフォーム素片または中間プリフォーム素片は、それぞれが溶着もしくは接着によって接合される。複数本のプリフォーム素片を配列または束ねる場合には、その界面に接着剤(例えば、ウレタン系化合物,エポキシ系化合物,アクリル系化合物など)を用いればよい。ただし、加熱加圧法,超音波溶着法,振動溶着法などを用いて、各界面などを接着しても良い。なお、溶着または接着は、加熱延伸の前に行う他に、加熱延伸時の熱で行ってもよい。
【0033】
なお、プリフォームは、これを構成する複数のプリフォーム素片または中間プリフォーム素片を束ねる際に、接着を行わずに整列した状態のままで、これを延伸させてもよい。この場合には、光学部材を形成する際に行う加熱延伸工程において加熱軟化する段階で、複数のプリフォーム素片または中間プリフォーム素片の表面同士が接着し、プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する光学部材を得ることができる。
【0034】
また、プリフォーム素片は、異なる形状または異なる光学特性のものを混在させて用いてもよい。異なる光学特性のプリフォーム素片を製造する方法としては、その構成材料を変更したり、後で説明する屈折率調整剤を用いて屈折率分布を変更したり、添加物を選択することにより、所望の光学特性を発現させる方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0035】
本発明の光学部材のうち、コア部について説明する。コア部の横断面における断面積は、400μm以上であることが好ましく、この場合には、接続作業などがやり易くなる。コア部の原料となる重合性モノマーとしては、塊状重合が容易である原料を選択するのが好ましい。光透過性が高く塊状重合しやすい原料としては例えば、以下のような(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)、主鎖に環状構造を含むフッ素系ポリマー(e)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールA等を重合性化合物として用いて重合させたもの、ノルボルネン系樹脂などを例示することができ、コア部はこれらのホモポリマー、あるいはこれらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびホモポリマー及び/または共重合体の混合物から形成することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類を重合性モノマーとして含む組成を好ましく用いることができる。
【0036】
以上に挙げた重合性モノマーとしては、具体的に、(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル(BzMA)、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02 ,6 ]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。そして、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどが挙げられる。(e)のように主鎖に環状構造を有するポリマーとしては、もともと環状構造をもっていたモノマーを重合することにより得られるポリマーや、環化重合によって非晶質構造の主鎖に環状構造が形成されたポリマー等が挙げられ、例えば、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634号公報等に記載される主鎖に脂肪環または複素環をもつポリマー、特開2002−71972号公報及び特願2004−186199号に記載されるもの等が伝送特性の点で好ましい。勿論、これらに限定されるものではない。モノマーの単独あるいは共重合体からなるコア部のポリマーの屈折率は、クラッド部のそれに比べて同等かあるいはそれ以上になるように構成モノマーの種類,組成比を選択する。特に好ましいポリマーとしては、透明樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。
【0037】
さらに、光学部材を近赤外線用途に用いる場合は、コア部のポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許第3332922号公報などに記載されているような重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを始めとする、C−H結合の水素原子(H)を重水素原子(D)やフッ素(F)などで置換した重合体を用いる。これにより、伝送損失が生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。なお、原料モノマーは重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に低減することが望ましい。
【0038】
本発明の光学部材のうち、クラッド部について説明する。クラッド部の素材には、コア部を伝送する光がそれらの界面で全反射するために、コア部よりも低屈折率であり、コア部との密着性に優れるものを用いることが好ましい。ただし、素材の選択によってコア部とクラッド部との界面において不整が起こりやすかったり、もしくは、製造適性上、好ましくなかったりする場合などでは、コア部とクラッド部との間に、さらに層を設けて、その整合性を向上させても良い。この場合、例えば、コア部との界面(即ち、中空管の内壁面)に、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーからなるインナークラッド層を形成すると、コア部とクラッド部との界面状態を矯正することができる。なお、インナークラッド層の詳細については後述する。勿論、インナークラッド層を形成せずに、クラッド部そのものを、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーから形成してもよい。
【0039】
クラッド部の素材としては、タフネス及び耐湿熱性にも優れているものが好ましく用いられる。例えば、好適な素材としては、フッ素含有モノマーの単独重合体または共重合体が挙げられる。フッ素含有モノマーとしては、フッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、フッ化ビニリデンを10質量%以上含有する1種以上の重合性モノマーを重合させて得られるフッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
また、溶融押出法により重合体を成形し、クラッド部を作製する場合は、重合体の溶融粘度が適当であることが必要である。この溶融粘度については、相関する物性として分子量が用いられ特に重量平均分子量との相関がある。本発明においては、重量平均分子量が1〜100万の範囲であることが適当であり、より好ましくは5〜50万の範囲である。
【0041】
さらに、コア部への水分の侵入を防ぐことが好ましく、そのためには、吸水率が低いポリマーをクラッド部の素材(材料)として用いることが好ましい。すなわち飽和吸水率(以下、吸水率と称する)が1.8%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製するのが好ましい。より好ましくは1.5%未満のポリマー、さらに好ましくは1.0%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製することが好ましい。また、前記インナークラッド層を作製する場合にも同様の吸水率のポリマーを用いることが好ましい。吸水率(%)は、ASTM D 570試験法に従い、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、そのときの吸水率を測定することにより算出することができる。
【0042】
コア部及び/又はクラッド部が、重合性モノマーから重合されたポリマーから作製される場合、重合の際に重合開始剤が用いられる。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤はこれらに限定されるものではなく、更には2種類以上を併用してもよい。
【0043】
コア部形成用重合性組成物及びクラッド部形成用重合性組成物は、連鎖移動剤を含有していることが好ましい。連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。クラッド部およびコア部形成用重合性組成物がそれぞれ連鎖移動剤を含有していると、重合性モノマーからポリマーを形成する際に、重合速度および重合度を前記連鎖移動剤によってより制御することができ、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られたプリフォームを延伸により線引して光学部材を形成する際に、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
【0044】
連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、前記連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0045】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(例えば、チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子(D)やフッ素原子(F)で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
【0046】
コア部用重合性組成物には、屈折率調整剤を含有させることが好ましい。屈折率調整剤はドーパントとも称され、併用する前記重合性モノマーの屈折率と異なる化合物である。なお、必要に応じて、クラッド部重合性組成物に屈折率調整剤を含有させても良い。屈折率調整剤の濃度に分布を持たせることによって、濃度の分布に基づいて屈折率分布型のコアを容易に作製することができる。このとき、その屈折率差は0.005以上であるのが好ましい。ただし、屈折率調整剤を用いなくとも、コア部の形成に屈折率の異なる2種以上の重合性モノマーを用いて、コア部内に共重合比の分布を持たせることにより、屈折率分布構造を導入することもできる。
【0047】
ドーパントは、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許第3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメータとの差が7(cal/cm1/2 以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
【0048】
上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。例えば、コア部形成用重合性組成物にドーパントを含有させ、コア部を形成する工程においてラジカル重合により重合の進行方向を制御し、ドーパントの濃度に傾斜を持たせ、コア部にドーパントの濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法が挙げられる。この屈折率分布構造は、GI型やMSI型があり、これらGI型またはMSI型の光学部材は、広い伝送帯域を有する。
【0049】
ドーパントは重合性化合物であってもよく、重合性化合物のドーパントを用いた場合は、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いる。なお、このような共重合体には、MMA−BzMA共重合体などが挙げられる。
【0050】
ドーパントとしては、特許第3332922号や特開平11−142657号公報に記載されているような、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体などが挙げられる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることができる。また、重合性化合物として、例えば、トリブロモフェニルメタクリレートなどが挙げられる。屈折率調整成分として重合性化合物を用いる場合は、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性屈折率成分とを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。
【0051】
ドーパントの濃度および分布を調整することによって、光学部材の屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途および組み合わされる部材に応じて適宜選ばれる。なお、ドーパントは、複数種類添加してもよい。
【0052】
ドーパントなどの他にも、コア部やクラッド部、もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲であれば、それらを構成する重合性組成物に添加剤を含有させることができる。例えば、コア部もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。前記誘導放出機能化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部に光ファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、原料モノマーに添加した後、重合することによって、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0053】
加熱延伸後のクラッド部の外周には、防水性や耐久性などを向上させる目的により、溶融樹脂の押出成形などによって被覆層を設けることが好ましい。この被覆層の材料は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂が用いられ、特に、耐薬品性や柔軟性が良好であることなどからポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン又はα−オレフィンなどの重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ペプテン、1−オクテンなどが挙げられ、これらの重合体としては、例えば、ポリエチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、エチレンとα−オレフィンの共重合体、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、ポリブテン、ポリイソプレンなどが挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂は、得られる物性を考慮した上で、適当な組合せにてブレンドされているものを用いてもよい。なお、ポリオレフィン系樹脂の分子量および分子量分布は、特に限定されるものではないが、その重量平均分子量は、通常5000〜5000000であり、好ましくは20000〜300000である。そして、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnで示される分子量分布は、2〜80であり、好ましくは3〜40とされる。
【0054】
また、放射線硬化樹脂や熱硬化性樹脂を塗布した後に、放射線を照射したり、熱をかけたりすることにより硬化させて、被覆材としてもよい。放射線硬化樹脂としては、例えば、アクリル変性の不飽和ポリエステルやエポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂やメラミン樹脂、ジアクリルフタレート樹脂などが挙げられる。なお、前記被覆層は一層のみならず、複層であってもよい。複層とする場合には、間に抗張力繊維などを配置してもよい。
【0055】
前述の各実施形態においてコアには予め光散乱粒子を含有させてもよい。光散乱粒子としては、その大きさは特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以上2μm以下のものが好ましく用いられる。なお、素材も特に限定されるものではないが、シリコン粒子,シリカ粒子,ポリスチレン粒子,ジルコニアビーズ,メラミン粒子などが好ましく用いられ、特に好ましくはシリコン粒子を用いることである。コアに光散乱粒子を含有させることで、特開平10−186184号公報に開示されている光バス(シートバス)のような光インターコネクション技術用途や、また異なる光散乱粒子濃度の単位をパターン状に配置して局部的に光散乱能を変化させた導光板や拡散シートおよび反射板などの導光部材用途などに本発明の光学部材を用いることができる。
【0056】
本発明の光伝送材料は、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置に用いられ、必要に応じて他の石英やプラスッチ製の光ファイバや光導波路などと組み合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、本発明の光学部材は、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線や、車両・船舶などの内部配線、光伝送システムなどに用いられる。光伝送システムは、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途に用いられ、短距離用途であることが特に好ましい。この光伝送システムの具体例としては、データ通信光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや、一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどがある。
【0057】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON., VOL. E84-C, No.3, MARCH 2001, p.339−344 「High Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3, No.6, 2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインターコネクション」に記載されているものや、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光バスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用して、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも、本発明のプラスチック光学部材は、照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【0058】
以下、本発明に係る光学部材の製造方法について、実施例1〜3を挙げて説明する。なお、以下の実施例に示す材料の種類、それらの割合、処方などは、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更してよい。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0059】
実施例1では、図2(A)に示すような横断面の外形状が34mm角であり、その中心軸に沿って直径20mmの丸孔状中空部21aを有する角筒状のPMMAからなるクラッド部21を形成し、中空部21a内に、DPSを7重量%添加したMMAモノマー溶液を加え界面ゲル重合を行い、プリフォーム23を得た。このプリフォーム23を加熱延伸し、200μm角でコア部の直径が118μmの光学部材27を得た。この光学部材27は、コア及び外形ともに、プリフォーム23の横断面形状と略相似形となり、コアの非円率は0.2%以下となった。なお、非円率とは直径の最短と最長の比率をいう。この光学部材27は、650nm波長で曲げ半径4mmの360度曲げに対して伝送損失を測定したところ、伝送損失の上昇は認められなかった。また、横断面の外形状が矩形のこの光学部材27では、円形のものに比べて光導波路や基板への取り付けを容易に行うことができた。
【実施例2】
【0060】
実施例1で形成した図2(B)に示すようなプリフォーム23を用いて、図5(A)に示すような、中間プリフォーム40を形成し、この中間プリフォーム40を5本1列に並べてプリフォーム集合体41を構成し、このプリフォーム集合体41をプリフォームとして加熱延伸した。得られた光学部材42は、プリフォームと略相似形の横断面形状となり、実施例1と同様に光導波路や基板に容易に接続することができた。
【実施例3】
【0061】
図7に示すように、横断面の外形状が34mm角であり、その中心軸に沿って直径20mmの丸孔を有する角筒状のPMMAからなる保護層62を形成した。また、PVDF製の外径が20mm、内径が18mmの丸パイプ状のクラッド部60内に、PMMAを重合してコア部61を形成した。このコア部61を有するクラッド部60を、保護層62に嵌合してプリフォーム63を構成し、このプリフォーム63を加熱延伸し、中間プリフォーム64を構成し、この中間プリフォーム64を図7(E)に示すように、5本1列に並べてプリフォーム集合体65を構成し、このプリフォーム集合体65をプリフォームとして加熱延伸した。コアとクラッドと保護層とを有する光学部材66が得られた。各コアの非円率は1%以下と低く、安定した光学部材が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る光学部材の製造方法を示す工程図である。
【図2】製造工程におけるコア部、クラッド部、プリフォーム及び光学部材の横断面形状を示す断面図である。
【図3】本発明の加熱延伸工程を示す概略図である。
【図4】他の実施形態における光学部材の製造方法を示す工程図である。
【図5】他の実施形態における中間プリフォーム、プリフォーム集合体及び光学部材の横断面形状を示す断面図である。
【図6】他の実施形態における光学部材の製造方法を示す工程図である。
【図7】他の実施形態におけるコア部、クラッド部、保護層、中間プリフォーム、プリフォーム集合体及び光学部材を示す断面図である
【符号の説明】
【0063】
11 プリフォーム形成工程
12 加熱延伸工程
17 コア部
19 クラッド部
23,63 プリフォーム
27,42,66 光学部材
40,64 中間プリフォーム
41,65 プリフォーム集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形または略楕円形の横断面形状を有し光伝送部となるコア部を備え、その外形が略多角形の横断面形状を有するプラスチック光学部材の母材第1プリフォームを形成する第1工程、
前記第1プリフォームを前記横断面に直交する方向に加熱延伸し、前記プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する第1延伸体を形成する第2工程を有することを特徴とするプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1プリフォームは、前記コア部とこのコア部の外周に配置され前記コア部よりも屈折率の低いクラッド部とを有し、前記クラッド部の外形が略多角形であることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記第1プリフォームは、前記コア部と、このコア部の外周に配置され前記コア部よりも屈折率の低いクラッド部と、このクラッド部の外周に配置され、その外形が略多角形である保護層とを有することを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記第1プリフォームは、複数個の前記コア部を前記横断面内でライン状に並べて構成されることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記コア部が複数種類の材料もしくは形状から構成されていることを特徴とする請求項4項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記クラッド部が複数種類の材料もしくは形状から構成されていることを特徴とする請求項4または5項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記保護層が複数種類の材料もしくは形状から構成されていることを特徴とする請求項4ないし6いずれか1つに記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項8】
前記第1延伸体を加熱延伸し、前記第1延伸体の横断面と略相似形の横断面形状を有する第2延伸体を形成する第3工程を有することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項9】
前記第1延伸体または第2延伸体を並列に集積し第2プリフォームを形成する第4工程、前記第2プリフォームを加熱延伸し、前記第2プリフォームの横断面と略相似形の横断面形状を有する第3延伸体を形成する第5工程を有することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項10】
前記延伸体の横断面において、前記コア部の横断面中心から外側に向って屈折率が徐々に低下する屈折率分布を有することを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項11】
前記延伸体の横断面において、前記コア部の断面積が400μm以上であることを特徴とする請求項1ないし10いずれか1項記載のプラスチック光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−127780(P2007−127780A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319649(P2005−319649)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】