説明

プラスチック成形型

【課題】良好な強度を維持できるプラスチック成形型を提供する。
【解決手段】成型用モールドは、少なくとも一面に形成されるプラスチックレンズを成形する凸状成形面11A、およびこの凸状成形面11Aと反対側の非成形面部11Bを有するモールド本体11を備えた。そして、モールド本体11は、非成形面部11Bに、プラスチックレンズの成形に関する成形情報を情報処理手段により読み出し可能に記録した情報記録部30を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形物を成形するプラスチック成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズを成形するためのプラスチックレンズ成形型に、プラスチックレンズの成形に関する情報を記憶させたICチップを設ける構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、凸状成形面、およびこの凸状成形面の反対側に設けられる凹状の非成形面部を有する下モールドと、凹状成形面、およびこの凹状成形面の反対側に設けられる凸状の非成形面部を有する上モールドと、を備えたプラスチックレンズ成形型である。このプラスチックレンズ成形型では、下モールドおよび上モールドの非成形面に孔部を設け、この孔部にICタグを埋設して合成樹脂にて封入する構成が採られている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−272575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような従来のプラスチックレンズ成形型では、非成形面に孔部を設けてICタグを埋設させている。このため、孔部を設けた部分の強度が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、良好な強度を有するプラスチック成形型を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチック成形型は、少なくとも一面に形成されるプラスチック成形物を成形する成形面部、および成形面以外の非成形面部を有するモールド本体を備えたプラスチック成形型であって、前記モールド本体は、前記非成形面部に、前記プラスチック成形物の成形に関するプラスチック成形情報を所定の情報処理手段により読み出し可能に記録した情報記録部を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、モールド本体の非成形面部にプラスチック成形情報が記録された情報記録部が設けられている。これにより、モールド本体に例えば孔を空けるなど、強度が低下する加工が不要となり、モールド本体の強度を良好に維持した状態で、プラスチック成形情報を記録した情報記録部を設けることができる。
【0008】
そして、本発明のプラスチック成形型では、前記非成形面部は、少なくとも一部が平坦面状に形成される平坦面部を備え、前記情報記録部は、前記平坦面部に設けられることが好ましい。
この発明によれば、モールド本体の非成形面部に平坦面状の平坦面部を備え、この平坦面部に情報記録部が設けられている。これにより、平坦面部を基準面として情報記録部を形成するので、情報記録部を容易に形成することができる。また、情報記録部が平坦面上に形成されるので、例えば情報記録部が設けられる面形状に応じて情報処理手段の角度を変えたり、情報処理手段を移動させたりする必要がなく、情報処理手段にて容易に情報記録部に記録されたプラスチック成形情報の読み込み処理を実施できる。
【0009】
また、本発明のプラスチック成形型では、前記モールド本体は、略円盤状に形成されて、この円盤の一面に前記成形面が設けられるとともに、円盤の他面に前記非成形面部が設けられ、前記平坦面部は、前記モールド本体の非成形面部を形成する円盤の他面側における外周縁近傍に形成されることが好ましい。
この発明によれば、略円盤状のモールド本体の他面側に設けられる非成形面部の外周縁部に沿って情報記録部を設けるための平坦面部が設けられている。これにより、情報記録部を非成形面の外周縁に沿って容易に形成することができる。また、情報記録部が非成形面部の外周面近傍に設けられているので、モールド本体を円盤中心を通る軸を中心として回転させることで、情報記録部をこの中心軸を中心とした円周上で移動させることができ、容易にプラスチック成形情報の読取処理が容易に実施できる。
【0010】
さらに、本発明のプラスチック成形型は、前記情報記録部は、前記情報処理手段から射出される所定波長の光を反射するとともに、前記情報処理手段にてこの反射光を受光することで前記プラスチック成形情報を読み出し可能に前記プラスチック成形情報が記録された情報記録層と、前記情報記録層を覆う保護層と、を備えることが好ましい。
この発明によれば、情報記録部は、情報処理手段から射出される光を反射して、その反射光により情報処理手段にプラスチック成形情報を読み取らせる情報記録層と、情報記録層を覆う保護層とを備えている。ここで、情報記録部としては、例えばCD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体と略同様の構成を備えるものであり、表面に記録されるプラスチック成形情報に応じて形成される凹凸面と、所定波長の光を反射する反射層となどを有する情報記録層と、この情報記録層を覆う保護層とにより形成されている。これにより、例えば光学ディスクドライブなどの情報処理手段により、情報記録部に記録された情報を容易に読み込むことができる。また、所定の光により任意に凹凸を形成可能な情報記録層を持たせることで、プラススチック成形情報の書き込みや修正などを実施可能な情報記録部とすることもできる。
【0011】
また、本発明のプラスチック成形型では、前記モールド本体は、ガラスにより成形されていることが好ましい。
この発明によれば、モールド本体はガラスにて形成されている。一般にガラスに孔部も受けるなどの加工を施すと、加工部分の強度が低下し、ひび割れや破損の原因となる。これに対して、本発明では、上記のようにモールド本体の強度を低下させる加工が不要であり、良好な強度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は下モールドが第1成形型保持部で保持された状態を示す断面図である。図2は、上モールドが第2成形型保持部で保持された状態を示す断面図である。図3は、下モールドの具体的な構成を示すもので、(A)は非成形面部側からみた平面図、(B)は側面図である。図4は、上モールドの具体的な構成を示すもので、(A)は非成形面部側平面図、(B)は側面図である。図5は、下モールドを洗浄する洗浄装置の要部を示す概略構成図である。図6は、上モールドを洗浄する洗浄装置の要部を示す概略構成図である。図7は、相対移動手段の概略構成図である。図8は、下モールドの動きを示す概略図である。図9は、テープ巻付手段の平面図である。図10は、テープ巻付手段の正面図である。図11は、樹脂注入装置の概略構成図である。
[プラスチックレンズ成形型の構造]
まず、本発明の一実施形態で使用される第1成形型及び第2成形型の構成およびこれら第1成形型および第2成形型にて保持される下モールドおよび上モールドの構成を図1ないし図4に基づいて説明する。
【0013】
モールド本体としての下モールド11は、図1および図3に示すように、ガラスにより略円盤状に形成されており、その上面に成形面部としての凸状成形面11Aが形成され、この凸状成形面11Aとは反対側には凹状の非成形面部11Bが形成されている。
この非成形面部11Bは第1成形型保持部21で保持される。この第1成形型保持部21は、有底円筒状の本体23と、この本体23の内部に設けられた吸着部24とを備えており、この吸着部24は図示しない真空源と接続されており、この真空源が作動することで、下モールド11の非成形面部11Bの中心部を吸着するものである。
ここで、下モールド11の直径寸法がfであり、下モールド11の周縁下端と下モールド11への第1成形型保持部21の接触位置との間の寸法がaであり、下モールド11への第1成形型保持部21の接触位置と凸状成形面11Aの中心位置との間の寸法がcである。寸法a,c,fは、成形型製作時に予め成形型保持部21で保持した状態で計測される。
【0014】
また、下モールド11の非成形面部11Bには、外周縁に略沿って情報記録部30が設けられている。
具体的には非成形面部11Bは、外周縁に沿って、略平面状の平坦面部11Cを備えている。この平坦面部11Cは、例えば下モールド11の凸状成形面11Aおよび非成形面部11Bの略中心点を通る中心軸に対して、略直交する平面状に形成されている。そして、情報記録部30は、この平坦面部11C上に形成されている。この情報記録部30は、情報記録層31と、この情報記録層31を覆う保護層32とを備えている。
情報記録層31は、平坦面部11Cに直接形成される層であり、例えば図示しない反射層と、図示しないデータ層とを備えている。
反射層は平坦面部11C上に形成されている。この反射層は、例えばアルミニウム薄膜など、光を反射可能な金属製薄膜により形成されている。
データ層は、例えば、所定波長の光を透過可能な素材にて形成されている。具体的には、データ層としては、例えば照射光の強弱により結晶状態または非結晶状態のいずれかの相状態に変化し、これらの相状態におうじて光の反射率や透過率を変化させる相変化型記録材料、レーザ光の照射により光透過度、反射率、色相および形状などが変化する有機素材、レーザ光の照射による熱で、層の一部が溶融または分解してマークを形成する有機素材などを利用することができる。そして、このデータ層は、上記したように、所定波長のレーザ光の照射により、表面に凹凸や孔部を形成したり、相状態を変化させたりして表面状態を変化させることで、所定の情報を記録している。これらの情報は、例えば所定波長の光を照射し、情報記録層31のデータ層を介して反射層で反射された反射光を受光する光ピックアップ装置を備えた情報処理手段としての光ドライブ装置にて、読み取り処理または書き込み処理が可能となる。ここで、このデータ層に記録される情報としては、プラスチック成形物としてのプラスチックレンズの成形に関する各種成形情報が記録されている。この成形情報としては、例えば情報記録部30が設けられる当該下モールド11の寸法に関する情報、すなわち上記したような寸法a,c,fの情報や、この下モールド11にて成形されるプラスチックレンズの寸法に関する情報、下モールド11に対応する上モールド12に関する情報、下モールド11を識別する識別情報などが挙げられる。
保護層32は、例えばポリカーボネートなどの光透過性の樹脂部材により形成され、情報記録層31の表面を覆って保護している。
【0015】
モールド本体としての上モールド12は、図2および図4に示すように、ガラス、その他の適宜な材料から略円盤状に形成されており、その下面に成形面としての凹状成形面12Aが形成され、この凹状成形面12Aとは反対側の上面には凸状の非成形面部12Bが形成されている。
この非成形面部12Bは第2成形型保持部22で保持される。この第2成形型保持部22は、第1成形型保持部21と略同様に、有底円筒状の本体23と、この本体23の内部に設けられた吸着部24とを備えている。
ここで、上モールド12の直径寸法がfであり、上モールド12への第2成形型保持部22の接触位置と凹状成形面12Aの中心位置との間の寸法がdである。
【0016】
また、上モールド12の非成形面部12Bには、下モールド11と略同様に、外周縁に略沿って情報記録部30が設けられている。
具体的には非成形面部12Bは、外周縁に沿って、略平面状の平坦面部12Cを備えている。この平坦面部12Cは、例えば上モールド12の凹状成形面12Aおよび非成形面部12Bの略中心点を通る中心軸に対して、略直交する平面状に形成されている。そして、情報記録部30は、この平坦面部12C上に形成されている。この情報記録部30は、下モールド11の情報記録部30と同様に、情報記録層31と、保護層32とを備えている。
情報記録層31は、平坦面部12Cに直接形成される層であり、下モールド11の情報記録層31と同様に、例えば図示しない反射層と、図示しないデータ層とを備え、データ層に各種成形情報が記録されている。この成形情報としては、例えば情報記録部30が設けられる当該上モールド12の寸法に関する情報、すなわち上記したような寸法d、fの情報や、この上モールド12にて成形されるプラスチックレンズの寸法に関する情報、上モールド12に対応する下モールド11に関する情報、上モールド12を識別する識別情報などが挙げられる。
保護層32は、例えばポリカーボネートなどの光透過性の樹脂部材により形成され、情報記録層31の表面を覆って保護している。
【0017】
[プラスチックレンズの製造装置の構造]
本実施形態のプラスチックレンズの製造装置は、下モールド11及び上モールド12を洗浄する洗浄装置と、この洗浄装置で洗浄された下モールド11及び上モールド12から成型用モールドを組み立てる組立装置と、組み立てた成型用モールドのキャビティに樹脂注入装置とを備えて構成される。本実施形態で製造されるプラスチックレンズは眼鏡、望遠鏡、カメラレンズ等で使用されるものである。
洗浄装置の成形型供給部には、読み取り手段が取り付いており、各モールド11,12の情報記録部30に記録される成形情報の寸法情報を読み取る。読み取った寸法情報は、制御装置53(図7参照)に記憶され、洗浄装置及び組立装置ではその中の必要となる情報のみ使用される。
下モールド11を洗浄する洗浄装置4は、図5に示すように、図示しないベースと、このベースに取り付けられ下モールド11を保持する第1ホルダ41と、この第1ホルダ41を回転駆動する図示しない回転駆動部と、下モールド11を洗浄するスポンジロール43とを備えている。このスポンジロール43は洗浄液又は研磨材が含浸されたウレタンフォームからロール状に形成された円柱状の洗浄部44と、この洗浄部44の軸心に取り付けられた軸部45を備えており、下モールド11の成形面11Aと下モールド11の周面とを洗浄する際には、その姿勢が変更される。洗浄装置4では、読み込んだ寸法情報に記録される各モールド11,12の直径情報fに基づき、成形面の洗浄ではスポンジロールのモールド中心から外周にかけての移動量、周面洗浄ではスポンジロールの押し当て量を制御する。洗浄された下モールド11は、低速回転時にアルコールを塗布し、その後の高速回転でアルコールを蒸発させ、洗浄面がきれいに仕上げられる。なお、スポンジロール43に洗浄液を含浸する構成のものに限定されるものではなく下モールド11に洗浄液又は研磨液を塗布し、これをロールで洗浄する構成のものでもよい。
【0018】
上モールド12を洗浄する洗浄装置4は、図6に示すように、下モールド11を洗浄する洗浄装置4と略同じ構造であり、図示しないベースと、このベースに取り付けられ上モールド12を保持する第2ホルダ42と、この第2ホルダ42を回転駆動する図示しない回転駆動部と、上モールド12を洗浄するスポンジロール43とを備えている。
上モールド12の成形面12Aと上モールド12の周面とを洗浄する際には、その姿勢が変更される。スポンジロールの移動量及び押し当て量は、下モールド11と同様に情報記録部30から読み込んだ直径寸法fの情報に基づき制御する。
【0019】
次に、本実施形態を構成する組立装置の概略構成について、図7ないし図10に基づいて説明する。
図7において、相対移動手段5は、第1成形型保持部21を上下方向及び水平方向に移動させる第1駆動機構51と、第2成形型保持部22を上下方向及び水平方向に移動させる第2駆動機構52と、これらの第1駆動機構51及び第2駆動機構52の駆動を制御する制御装置53とを備えて構成されている。
第1駆動機構51は、第1成形型保持部21と連結されるとともに第1成型用保持部21を上下に移動させる昇降機構511と、この昇降機構511をリニアガイド510に沿って水平方向に移動させる水平機構512とを備え、第1成形型保持部21が原点位置X1にある時はモールド受台100の下方に位置するようにされている。なお、モールド受台100はテープ巻付手段6方向にニゲが構成されており、第1成形型保持部21及び第1駆動機構51との干渉を防止する。
第2駆動機構52は第2成形型保持部22と連結されるとともに第2成形型保持部22を上下に移動させる昇降機構511と、この昇降機構511をリニアガイド510に沿って水平方向に移動させる第2水平機構512とを備え、第2成形型保持部22が原点位置X2にある時はモールド受台100の上方に位置するようにされている。このモールド受台100に上モールド12が待機している。
【0020】
制御装置53には情報記録部30に記憶された下モールド11及び上モールド12の寸法情報a,c,d,fを読み取る情報処理手段54と、外部入力手段55とが接続されている。
制御装置53は予め設定されたプログラムに従って第1駆動機構51及び第2駆動機構52の駆動を制御するものであり、このプログラムは情報処理手段54からの寸法情報a,c,d,f及び外部入力情報eを得て書き換えられる。
情報処理手段54は、情報記録部30の情報記録層31のデータ層に記憶された情報を読み取る装置である。この情報処理手段54は、例えば下モールド11および上モールド12を回転可能に保持する図示しない保持手段と、この保持手段にて下モールド11または上モールド12を保持した状態で、高速回転させる図示しない回転手段と、下モールド11または上モールド12の情報記録部30に記録される各種成形情報に所定の処理を実施する図示しない光ピックアップ装置と、などを備えている。そして、情報処理手段54の光ピックアップ装置は、下モールド11または上モールド12が保持手段に保持されて回転手段にて高速回転される状態で、所定波長の光を情報記録部30に向かって射出し、情報記録部30にて反射された反射光を受光し、反射光の受光状態に応じて情報記録部30に記録された成形情報を読み込む読込処理や、情報記録部30のデータ層に成形情報を書き込む記録処置などを実施する。
外部入力手段55は、下モールド11と上モールド12の中心部の間隔eを入力するためのものである。なお、本実施の形態では、外部入力手段を用いたが、情報記録部30に記録された成形型を特定する情報を用い、所定の成形型の組み合わせから求まる中心部の間隔を制御装置53にデータベースとして記憶させておき、その値を用いても良い。
【0021】
以上の構成の相対移動手段5では、情報処理手段54から下モールド11及び上モールド12の寸法情報a,c,d,fが制御装置53に送られ、この制御装置53は、寸法情報a,c,dを反映したプログラムに従って第1駆動機構51及び第2駆動機構52を駆動する。
図8に示される通り、第1駆動機構51によって、原点位置Xにある第1成形型保持部21が上昇し、その上端がモールド受台100上で求心された下モールド11の非成形面部11Bに達し、さらに、第1成形型保持部21が上昇し続けて下モールド11を吸着した状態で位置Y11まで到達する。その後、求心チャック(図示せず)は、下モールド11の非成形面部11Bが吸着された信号を受けて開く構造になっている。その後、下モールド11を吸着した第1成形型保持部21は水平方向に移動してY12まで到達した後、上昇して、テープ巻き付け位置Zまで移動する。第1成形型保持部21は、寸法(C+a)の高さだけ移動する。
図7に示される通り、第2駆動機構52によって、第2成形型保持部22が原点位置Xから下降して位置Y23まで到達し(吸着位置Y23と従来の計測位置Y21は同じ高さでなく、吸着位置Y23は固定値でないため)、この位置で求心された上モールド12を吸着する。求心チャック(図示せず)は、上モールド12の非成形面部12Bが吸着された信号を受けて開く構造になっている。その後、第2成形型保持部22は上モールド12がモールド受台100から離れる位置Y21まで上昇し、その後所定位置Y24まで水平移動した後、テープ巻き付け位置Zまで下降する。ここで、eを製造されるプラスチックレンズの中心厚さとすると、第2成形型保持部22は原点位置Xに対して(C+a+c+e+d)の高さ移動することになる。
【0022】
次に、図9および図10に基づいて、下モールド11および上モールド12を組み立ててプラスチック成形型としての成型用モールド13を成形するテープ巻付手段6の説明をする。
図9および図10において、テープ巻付手段6は、テープTを供給するテープフィーダ60と、このテープフィーダ60から供給されたテープTを挟んで下モールド11及び上モールド12の周面とそれぞれ対向配置される第1ローラ61及び第2ローラ62と、下モールド11及び上モールド12の直径に対応させて第1ローラ61と第2ローラ62との相対位置を調整するローラ調整機構63と、下モールド11及び上モールド12の直径に対応させてテープフィーダ60の位置を調整するフィーダ調整機構64と、カッタ65と、第1成形型保持部21及び第2成形型保持部22を一方向(図9中反時計方向)に回転させる図示しない回転駆動機構と、を備えている。
【0023】
テープフィーダ60は下モールド11及び上モールド12と第1ローラ61との間にテープTを供給するものである。このテープTは、下モールド11及び上モールド12側の面に粘着剤が設けられており、第1ローラ61で下モールド11及び上モールド12の周面に押圧されたテープTは、そのまま下モールド11及び上モールド12の周面に貼り付けられて送られる。
第1ローラ61は硬質ゴムからなる1個のローラ本体611と、このローラ本体611を回転可能に支持するフレーム612とを備えている。
第2ローラ62は下モールド11及び上モールド12を挟んで第1ローラ61と対向配置されており、硬質ゴムからなる2個一対のローラ本体621と、これらのローラ本体621を回転可能に支持するフレーム622とを備えている。ローラ本体621はテープTを下モールド11及び上モールド12の周面に押さえるものである。
フレーム612,622の端部にはローラ調整機構63が連結されている。
このローラ調整機構63は、第1ローラ61と第2ローラ62を下モールド11及び上 モールド12の中心に対して近接離隔させるものである。
【0024】
フィーダ調整機構64はテープフィーダ60をテープTの供給方向とは直交する方向に移動させるものであり、図示しない歯車機構及びモータを備えている。このモータは制御装置53と接続されており、制御装置53から供給される下モールド11及び上モールド12の直径寸法fのデータに基づいてテープTの下モールド11及び上モールド12の周面への供給位置を調整する。
カッタ65は下モールド11及び上モールド12とテープフィーダ60との間に配置されており、テープTに対して進退する切断刃651を備えている。
【0025】
次に、図11に基づいて、樹脂注入装置7の説明をする。
図11において、樹脂注入装置7は、成型用モールド設置部71と、供給部72と、原料貯蓄部73と、原料供給装置74とを備えている。
成型用モールド設置部71には、複数のモールド抑え部711が配設され、これらのモールド抑え部711により、下モールド11及び上モールド12の周面にテープTが巻き付けられて形成される成型用モールド13が保持されている。
この成型用モールド13のテープTの一部には、樹脂原料を注入するための注入口(図示せず)が形成されている。この注入口は、成型用モールド13をモールド抑え部711にて保持させ、成型用モールド設置部71に装着してから形成しても、成型用モールド設置部71に装着する以前に形成してもかまわない。
【0026】
供給部72は、成型用モールド設置部71に設置された成型用モールド13のキャビティに樹脂原料を注入するとともに、成型用モールド13の注入口から溢れ出た樹脂原料を吸引して取り除く。
供給部72は、供給部本体721と、供給部本体721に接続されるノズル部722と、供給部本体721に接続される排液部723と、供給部本体721に接続される吸引センサ724と、供給部本体721に接続される原料供給部725と、を備えている。
原料貯蓄部73は成型用モールド13の注入口から溢れ出た樹脂原料を貯蔵するものである。
原料供給装置74は供給部72に樹脂原料を供給する。
【0027】
[プラスチックレンズの製造方法]
次に、プラスチックレンズの製造方法について説明する。
(成形型記憶工程)
成形型製造時、組立装置と同様の構造の第1成形型保持部21に下モールド11を取り付けておき、下モールド11の周縁下端と下モールド11への第1成形型保持部21の接触位置との間の寸法a、並びに、下モールド11への第1成形型保持部21の接触位置と凸状成形面11Aの中心位置との間の寸法c、並びに直径寸法fを計測し、そのデータを所定の書き込み手段で情報記録部30に記憶させておく。同様に、組立装置と同様の構造の第2成形型保持部22に上モールド12を取り付けておき、上モールド12への第2成形型保持部22の接触位置と凹状成形面12Aの中心位置との間の寸法d、並びに直径寸法fを計測し、そのデータを書き込み手段で情報記録部30に記憶させておく。なお、情報記録部30へのデータの書き込みは、組立装置の相対移動手段5に設けられる情報処理手段54を用いてもよい。
(洗浄工程)
[読取工程]
情報記録部30に記憶された寸法情報a,c,d,fを成形型供給部に取り付けられた情報処理手段54で読み取る。この情報処理手段54で読み取られた情報は制御装置53に送られる。
[洗浄工程]
まず、洗浄装置4によって、下モールド11及び上モールド12を洗浄する。この際、スポンジロール43を下モールド11及び上モールド12の成形面11A,12Aや周面に当接させるとともに、スポンジロール43と下モールド11及び上モールド12とをそれぞれ回転させる。洗浄が終了したら、下モールド11及び上モールド12を乾燥させて組立装置に送る。
【0028】
(組立工程)
次に、成型用モールド13を組み立てるために、下モールド11及び上モールド12を所定位置に配置する。
[保持工程]
そのため、相対移動手段5を作動させて下モールド11を第1成形型保持部21で保持し、上モールド12を第2成形型保持部22で保持する。
この状態で相対移動手段5を作動させて下モールド11及び上モールド12を中心部が寸法eだけ離れるように対向配置させる。この際、情報処理手段54で読み取られた寸法情報a,c,d等を基に相対移動手段5が作動される。
[テープ巻付工程]
その後、テープ巻付手段6を作動させて下モールド11及び上モールド12の周面にテープTを巻き付ける。これにより、成型用モールド13が組み立てられる。
【0029】
(原料樹脂注入工程)
成型用モールド13を組み立てた後、この成型用モールド13のテープT、下モールド11及び上モールド12の間のキャビティに樹脂注入装置7で樹脂原料を注入する。その後、樹脂原料を加熱処理する。この樹脂が硬化した後、テープTを剥がすとともに下モールド11と上モールド12を外してプラスチックレンズを取り出す。
(再使用)
下モールド11や上モールド12が破損等した場合には、下モールド11や上モールド12を研磨して再使用するが、この場合、研磨で形状が変更されるため、前述の工程によって下モールド11や上モールド12の寸法を再度測定し、情報記録部30に記憶されているデータを書き換える。
【0030】
[本実施の形態の作用効果]
上述したように、上記実施の形態のプラスチックレンズの製造装置にて用いられるプラスチックレンズの成型用モールド13では、一面に凸状成形面11A(凹状成形面12A)が設けられ、他面に非成形面部11B,12Bが形成される略円盤状の下モールド11および上モールド12を備え、これらの下モールド11および上モールド12の非成形面部11B,12Bに成形情報が記録される情報記録部30が設けられている。
このため、情報記録部30を設けるために下モールド11および上モールド12に専用の孔部を設けるなど、下モールド11および上モールド12のガラスの強度が低下するような加工を不要にでき、下モールド11および上モールド12の良好な強度を維持することができる。また、非成形面部11B,12Bに直接情報記録部30を設ける構成であるため、情報記録部30が脱落するなどの不都合を防止できる。
【0031】
また、下モールド11および上モールド12は、非成形面部11B,12Bに平坦面状の平坦面部11C,12Cが設けられ、この平坦面部11C,12Cに情報記録部30が設けられている。
このため、平坦面部11C,12Cに情報記録部30を容易に形成することができる。
また、情報記録部30の情報記録層31も平坦となるため、この情報記録層31に記録された情報を読み取るために、例えば情報記録層31の傾斜角度に応じて情報処理手段54の光ピックアップ装置の傾斜角度や光射出角度を変えるなどの構成が不要にでき、情報処理手段54の構成も簡単にできる。
【0032】
さらに、下モールド11および上モールド12は、非成形面部11B,12Bの外周縁に沿って平坦面部11C,12Cを備えている。
このため、非成形面部11C,12Cの外周縁に沿って、容易に情報記録部30を形成することができる。
また、情報処理手段54にて情報記録部30の成形情報を読み込む際に、下モールド11および上モールド12をそれぞれ、凸状成形面11Aおよび非成形面部11Bの略中心点を通る中心軸、凹状成形面12Aおよび非成形面部12Bの略中心点を通る中心軸を中心に回転させることで、情報記録部30がこの中心軸を中心とした円周上で移動させることができる。したがって、情報処理手段54は、情報記録部30の成形情報を読み込む読込処理または成形情報を書き込む記録処理を実施する際に、情報記録部30の回転移動経路上の所定位置に光を照射させて反射光を受光するだけで、容易に情報記録部30の記録された成形情報に対して所定の処理を実施することができる。
さらに、第1成形型保持部21、第2成形型保持部22、洗浄装置4の第1ホルダ41および第2ホルダ42で下モールド11および上モールド12の非成形面部11B,12Bを保持する際に、情報記録部30に第1成形型保持部21、第2成形型保持部22、第1ホルダ41、および第2ホルダ42が当接せず、情報記録部30の破損などを防止することができる。
【0033】
そして、上記したように、情報記録部30の情報記録層31は、反射層とデータ層とを備え、データ層の所定位置の凹凸状態や相状態を変化させることで、光の反射率や透過率、色相などを変化させることで成形情報を記録させている。そして、情報処理手段54は、この情報記録層31に所定波長の光を射出し、その反射光を受光することでデータ層の凹凸状態や相状態を認識し、データ層に記録された成形情報を読み込む処理を実施している。すなわち、情報記録部30は、情報処理手段54から射出される光を反射してその反射光を受光することで成形情報を読み取り可能な状態に、成形情報を記録している。
このため、例えばCDやDVDなどといった光ディスクの読込処理や書込み処理を実施する従来の光ディスクドライブ装置にて容易に情報記録部30に記録された情報を読み込むことができる。また、情報記録層31上に保護層32が設けられているので、情報記録層31を良好に保護することができる。したがって、例えば洗浄工程にて使用される洗浄液やその他の薬液などが付着したり、外部からの衝撃などが加わったりした場合でも、情報記録層31が破損せず、成形情報を良好に記録することができる。
【0034】
また、下モールド11および上モールド12は、ガラスにより成形されている。
このようなガラスにて形成されたモールド11,12は、製造時に孔部を設けるなどの加工をすると、加工部分の強度が低下し、ひび割れなど破損の原因となるおそれがある。これに対して、本実施の形態では、下モールド11および上モールド12の非成形面部11B,12Bに、情報記録部30を形成しているため、下モールド11および上モールド12の強度の低下を防止でき、良好な強度を維持することができる。
また、ガラスにて形成される下モールド11および上モールド12は、繰り返し使用することが一般的である。したがって、このようなモールド11,12を成形するプラスチックレンズの種類や形状に応じて複数種類用意し、適宜選択して使用することが好ましい。このような場合でも、本実施の形態では、上述のように情報記録部30に各モールド11,12の寸法の情報、成形するプラスチックレンズの情報、対応するモールド12,11の情報など、各種成形情報を記録しているので、複数種類のモールド11,12を容易に管理することができる。
【0035】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0036】
例えば、上記実施の形態では、非成形面部11B,12Bの外周縁に沿って平坦面部11C,12Cを設け、この平坦面部11C,12Cに情報記録部30を設ける構成としたが、例えば、非成形面部11Bおよび12Bに直接情報記録部30が設けられる構成などとしてもよい。この場合、情報処理手段54は、下モールド11および上モールド12を高速回転させた状態で、非成形面部11B,12Bの曲面形状に応じて光ピックアップ装置の傾斜角度を変化させることで、情報記録部30の成形情報を読み込むことができる。
また、非成形面部11B、12B全体が平坦面状に形成されている構成としてもよく、この場合、非成形面部11B,12B全体に環状の情報記録部30を形成する構成などとしてもよい。このような構成では、情報記録部30の面積が大きくなり、記録領域も大きくできるため、さらに多くの情報を記録することができる。
【0037】
また、情報記録部30は、反射層と、データ層とを備え、このデータ層の表面に保護層32が設けられる構成としたが、例えば、データ層と反射層との間にも保護層を設ける構成などとしてもよい。また、データ層が1層である例に限らず、例えば2層のデータ層を備えた構成などとしてもよい。複数のデータ層を設ける構成では、記録領域を大きくすることができ、さらに多くの情報を記録することができる。
【0038】
また、情報記録部30に記録される情報として、成形情報を記録する例をしめしたが、成形情報に加えて、顧客情報や受注や発注に関する情報などの他の情報を記録してもよく、さらには、組立装置で下モールド11および上モールド12を組み合わせて成型用モールド13にするための組立駆動プログラムなどが記録されるものであってもよい。
【0039】
また、情報記録部30は、データ層の層状態や凹凸状態などを変化させて、情報処理手段54から射出された光の反射状態を変化させることで成形情報を読み取らせる、いわゆる光学式記録媒体の構成を備える例を示したが、これに限らない。例えば、情報記録部30は、反射層および磁性層を備え、レーザ光の熱により磁性層の磁性を変化させて成形情報が記録される、いわゆる光磁気記録媒体の構成を備える構成などとしてもよい。
【0040】
さらに、下モールド11および上モールド12がガラスにて形成される例を示したが、その他の素材にて形成される構成としてもよい。
【0041】
さらには、上記実施の形態では、プラスチック成形物としてプラスチックレンズを製造するための成型用モールド13について説明したが、その他のプラスチック製品を製造するモールドとして本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、プラスチック製品、特に眼鏡、望遠鏡、カメラレンズ等のプラスチックレンズを製造するプラスチック成形型に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる下モールドが第1成形型保持部で保持された状態を示す断面図。
【図2】上モールドが第2成形型保持部で保持された状態を示す断面図。
【図3】下モールドの具体的な構成を示すもので、(A)は非成形面部側から見た平面図、(B)は側面図。
【図4】上モールドの具体的な構成を示すもので、(A)は非成形面部側から見た平面図、(B)は側面図。
【図5】下モールドを洗浄する洗浄装置の要部を示す概略構成図。
【図6】上モールドを洗浄する洗浄装置の要部を示す概略構成図。
【図7】相対移動手段の概略構成図。
【図8】下モールドの動きを示す概略図。
【図9】テープ巻付手段の平面図。
【図10】テープ巻付手段の正面図。
【図11】樹脂注入装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0044】
11 …モールド本体としての下モールド
11A …成形面としての凸状成形面
11B,12B…非成形面部
11C,12C…平坦面部
12 …モールド本体としての上モールド
12A …成形面としての凹状成形面
13 …プラスチック成形型としての成型用モールド
30 …情報記録部
31 …情報記録層
32 …保護層
54 …情報処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面に形成されるプラスチック成形物を成形する成形面部、およびこの成形面以外の非成形面部を有するモールド本体を備えたプラスチック成形型であって、
前記モールド本体は、前記非成形面部に、前記プラスチック成形物の成形に関するプラスチック成形情報を所定の情報処理手段により読み出し可能に記録した情報記録部を備えた
ことを特徴としたプラスチック成形型。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチック成形型であって、
前記非成形面部は、少なくとも一部が平坦面状に形成される平坦面部を備え、
前記情報記録部は、前記平坦面部に設けられた
ことを特徴としたプラスチック成形型。
【請求項3】
請求項2に記載のプラスチック成形型であって、
前記モールド本体は、略円盤状に形成されて、この円盤の一面に前記成形面が設けられるとともに、円盤の他面に前記非成形面部が設けられ、
前記平坦面部は、前記モールド本体の非成形面部を形成する円盤の他面側における外周縁近傍に形成された
ことを特徴としたプラスチック成形型。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラスチック成形型であって、
前記情報記録部は、前記情報処理手段から射出される所定波長の光を反射するとともに、前記情報処理手段にてこの反射光を受光することで前記プラスチック成形情報を読み出し可能な状態に、前記プラスチック成形情報が記録された情報記録層と、前記情報記録層を覆う保護層と、を備えた
ことを特徴としたプラスチック成形型。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラスチック成形型であって、
前記モールド本体は、ガラスにより形成されている
ことを特徴としたプラスチック成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−238519(P2008−238519A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80874(P2007−80874)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】