説明

プラズマ内励起種測定方法、およびプラズマ内励起種測定装置

【課題】従来よりも高感度なプラズマ内励起種測定を行うための方法および装置を提供する。
【解決手段】プラズマ内に存在する励起種の緩和に伴う発光の検出において、ある励起種から放出される発光のうち特定のエネルギー準位間の緩和(遷移)のエネルギー準位を特定するエネルギー準位特定工程と、前記緩和(遷移)エネルギーに相当する波長の光をシード光(種光)として選択するシード光波長選択工程と、シード光波長選択工程で選択された波長の光をシード光としてプラズマ内に照射するシード光照射工程と、照射したシード光との相互作用により起きた発光を検出する発光検出工程と、前記発光検出工程で検出した発光から励起種を判定する励起種判定工程と、を具備することを特徴とするプラズマ内励起種測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマエッチングやCVD、スパッタリングなど、プラズマを利用する諸プロセスにおいて、プラズマ内の励起種の特定や、プラズマ診断に用いられる、プラズマ計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ計測技術は、プラズマ状態の測定に用いられる技術である。
【0003】
プラズマは、外部エネルギーの印加により生じる電離現象により発生し、プラズマ内部には多くの励起種が存在する。これらの励起種は、エネルギーを放出し安定準位へと緩和する。このエネルギーの緩和過程の一つに発光がある。
【0004】
発光波長は緩和(遷移)前後のエネルギー準位差に相当する。エネルギー準位は物質固有であるため、プラズマ発光を分光し、得られたスペクトルの各ピークの発光波長に対して、物質固有の遷移エネルギーを帰属させることで、プラズマ内に存在する励起種の特定が可能となる。
【0005】
また、発光スペクトル線の強度は、緩和前の励起状態にある物質の密度と、遷移確率に支配される。
【0006】
プラズマ発光計測方法の一つとして、プラズマが生成しているチャンバの壁に観測用のスリットを設けて発光波長を直接分光し、そのプラズマ状態を計測するという方法がある(特許文献1参照)。この方法で、プラズマ発光を、光ファイバ等の導光部を用いて分光器へと導入し、検出する装置が開発されている。
【0007】
また、プラズマが発生しているチャンバの壁に、発光波長領域に対して透過性のある素材の窓を設置し、チャンバの外からプラズマ発光を測定する装置が公知である。この装置を用いれば、チャンバ内部に導光部を設置する必要がなく、プラズマの状態を乱すことがないという利点がある。
【0008】
上記装置での測定により得られたプラズマ発光スペクトルの各ピークに対して、物質の遷移エネルギーを帰属することで、プラズマ雰囲気中に存在する励起種の特定や、励起種のエネルギー状態などの情報を引き出すことができる。
【0009】
しかしながら、プラズマが発生しているチャンバの壁に発光波長領域に対して透過性のある素材の窓を設置し、チャンバの外からプラズマ発光を測定する装置において、プラズマ発光が発生している空間と導光部の先端が離れていること、さらに窓材を透過した光を観測しなければならないことから、十分な感度が得られない場合があるという問題があった。
【0010】
また、得られたプラズマ発光スペクトルから励起種の特定をする際に、プラズマ雰囲気中に複数の物質が存在しているため、一つのピークに対して複数の帰属の候補があり、その分離が容易にできない場合があるという問題があった。
【0011】
また、プラズマを利用した諸工程においてプラズマ状態の変化を観察する際、観測発光強度が微弱、もしくは検出器の感度が不十分ために、正確にプラズマ状態の変化を観察することができない場合があるという問題があった。
【0012】
一方で、励起した分子や原子などから発生する発光を測定する手法の中で、励起状態にある分子に対して、特定の緩和経路の遷移エネルギーに相当する波長のレーザ光を照射することにより、発光を増幅し検出する方法がある。これをSEP(Stimulated Emission Pumping)分光法とよぶ。
【0013】
励起レーザ光により特定の量子化された準位へ遷移した気相アンモニア重水素分子(ND)対して、緩和経路である特定の量子化された準位間のエネルギーに相当するレーザ光を照射し、誘導放出を生じさせるSEP分光法を用い、増幅された発光の検出することでND3の緩和経路の追跡を行った研究が報告されている。(非特許文献1参照)。しかしSEP分光法をプラズマ内励起種測定方法やプラズマ内励起種測定装置として適用する技術はこれまでなかった。
【0014】
【特許文献1】特公昭60−13460号公報
【非特許文献1】Yoshihiro Ogi, Koichi Tsukiyama Chemical Phisics 303 (2004) 271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、SEP分光法をプラズマ内励起種測定方法やプラズマ内励起種測定装置として適用する技術を提供し、高感度なプラズマ内励起種測定を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、プラズマ内に存在する励起種の緩和に伴う発光の検出において、
ある励起種から放出される発光のうち特定のエネルギー準位間の緩和(遷移)のエネルギー準位を特定するエネルギー準位特定工程と、
前記緩和(遷移)エネルギーに相当する波長の光をシード光(種光)として選択するシード光波長選択工程と、
シード光波長選択工程で選択された波長の光をシード光としてプラズマ内に照射するシード光照射工程と、
照射したシード光との相互作用により起きた発光を検出する発光検出工程と、
前記発光検出工程で検出した発光から励起種を判定する励起種判定工程と、
を具備し、プラズマ内に照射するシード光(種光)の光源が波長可変レーザであることを特徴とする、プラズマ内励起種測定方法としたものである。
【0017】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の波長可変レーザ光源がパルスレーザ光源でもあり、該パルスレーザ光源のパルス発振と発光検出の遅延時間を電気的に制御することができることを特徴とするプラズマ内励起種測定方法としたものである。
【0018】
また請求項3記載の発明は、請求項1または2のいずれかに記載のプラズマ内励起種測定方法において、プラズマ内に存在する励起種と、照射したシード光との相互作用により起きた発光が検出されたときをドライエッチングの終点とすることを特徴とする、ドライエッチングの終点検出方法としたものである。
【0019】
請求項4記載の発明は、プラズマ内に存在する励起種の緩和に伴う発光の検出において、
ある励起種から放射される発光のうち特定のエネルギー準位間の緩和(遷移)のエネルギー準位を特定するエネルギー準位特定手段と、
前記緩和(遷移)エネルギーに相当する波長の光をシード光(種光)として選択するシード光波長選択手段と、
シード光波長選択工程で選択された波長の光をシード光としてプラズマ内に照射するシード光照射手段と、
照射したシード光との相互作用により起きた発光を検出する発光検出手段と、
前記発光検出工程で検出した発光から励起種を判定する励起種判定手段と
を具備し、プラズマ内に照射する前記シード光(種光)の光源が波長可変レーザであることを特徴とする、プラズマ内励起種測定装置としたものである。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の波長可変レーザ光源がパルスレーザ光源でもあり、該パルスレーザ光源のパルス発振と発光検出の遅延時間を電気的に制御することができることを特徴とするプラズマ内励起種測定装置としたものである。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項4または5のいずれかに記載のプラズマ内励起種測定装置において、プラズマ内に存在する励起種と、照射したシード光との相互作用により起きた発光が検出されたときをドライエッチングの終点とする終点検出機能を付加したことを特徴とするプラズマエッチング終点検出装置としたものである。
【発明の効果】
【0022】
検出器の対向からシード光(種光)を照射してプラズマ雰囲気中で誘導放出を発生させることにより、高感度なプラズマ計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1〜3は本発明の実施形態のプラズマ内励起種測定装置を説明するための模式図である。
本実施形態の装置では、プラズマ発光の導光部とシード光(種光)の光源を、プラズマが発生している空間を挟んで対向するように配置し、かつシード光(種光)はプラズマが発生している空間を通過する位置に配置している。
【0025】
このとき、シード光(種光)の光源、および検出部は、
[a]両方ともチャンバ外に設置(図1)
[b]両方ともチャンバに内蔵(図2)
[c]導光部(光ファイバなど)のみチャンバ内に挿入(図3)
の三通りの構成が考えられるが、どれでも可能である。
【0026】
図1〜3のいずれかに示した装置において、単色光源1から発した光を、必要な場合は窓2を介してプラズマ生成チャンバ3に導入する。プラズマ発生領域を通過した光を、導光部4を用いて分光器5へと導入し、波長分散後に光検出器6で検出した光の信号をデータ変換器7で変換し、発光スペクトルを得る。
【0027】
プラズマ内励起種に、シード光(種光)を照射することで生じる誘導放出を利用し、プラズマから発生する自然放出を増幅して検出する。
【0028】
ここで、自然放出および誘導放出について図4および図5を用いて簡単に説明する。
基底状態にある物質に、外部からエネルギーを与えると、その物質はエネルギーを吸収し、励起状態に遷移する。励起状態にある物質はエネルギー的に不安定であるため、エネルギーを放出し、より安定な下位準位へと遷移する。この時放出するエネルギー形態の一つに発光がある。
【0029】
発光を生じて緩和する際には、励起準位と下位準位の間に遷移選択則が成立していること、及びこの二つの準位の波動関数の重なりが十分にあることが必要となる。
【0030】
図4に示すように、基底状態である準位1にある物質が、外部から加えられたエネルギーを吸収し、励起状態である準位2や準位3へ遷移する。これら励起準位に存在する物質はエネルギー的に不安定であることから、これらの準位から、遷移選択則を満たし、かつ波動関数の重なりが十分な準位へと、それぞれ遷移が生じる。例えば図4に示したように、準位2から準位5への遷移が許容かつ波動関数の重なりが十分であり、準位3から準位4への遷移が許容かつ波動関数の重なりが十分である場合、それぞれの準位間のエネルギー差に相当する波長(λ、λ)の光が物質から放出される。
【0031】
プラズマ内に複数の励起種が混在し、それぞれの物質が様々な励起準位に存在している場合、多くの波長で発光が観測でき、発光スペクトルは非常に複雑となる。また、発光波長の差が分光器の分解能以下である場合、複数の発光ピークが重なり、一つのブロードなピークを形成する可能性がある。このようにブロードなピークが形成された場合、弱い発光はノイズとして認識されてしまうことがあり、発光スペクトルから遷移を特定するのは困難となる。
【0032】
励起状態にある物質に、励起物質が緩和する際に生じる光と同じ波長のシード光(種光)を入射すると、その波長の光を発する遷移が誘導される。これを誘導放出と言う。
【0033】
図5に示すように、図4と同様のエネルギー状態にあるプラズマに、λの単色光を照射すると、準位3から準位4への遷移が誘導され、λの波長の誘導放出が発生する。
【0034】
したがって、特定の緩和(遷移)を誘導するためには、単色のシード光(種光)が必要となる。
【0035】
プラズマ発光を生じている空間では、エネルギー的に不安定、すなわち高エネルギー準位に存在する物質の数が多い状態である反転分布が形成されており、ここに弱いシード光(種光)を照射すると、誘導放出を発生させることが可能となる。
【0036】
誘導放出により発生する光は、シード光(種光)に対してコヒーレントであるため、入射するシード光(種光)もコヒーレントであれば、増幅効率が高い。
【0037】
増幅された発光を分光器へと導入する導光部をシード光軸上に設置することにより、誘導放出により増幅された光を容易に検出することができる。
【0038】
したがって、シード光(種光)としては、単色性に優れ、コヒーレントな光であり、指向性のある、レーザ光が最も適している。またこの光源の強度としては、プラズマ空間内の物質がレーザ光を吸収し励起するなどして、プラズマ状態を乱すことを避けられるように、極めて弱い強度が望ましい。
【0039】
物質の励起と誘導放出過程による緩和が平衡状態にあるときよりも、多くの励起物質が存在する時間内に短い時間レーザ光を照射し、誘導放出を発生させ、これを検出したほうが、レーザ照射時間内に関しては強い光が検出できる。したがって、照射するレーザ光はパルス構造を持つレーザ光であることが望ましい。
【0040】
パルス発振したレーザに対して、誘導放出も同パルス時間内で発生するため、パルス発振したレーザにトリガを掛け、レーザ発振部から、光検出器までの光路長だけ遅延時間をおいてプラズマ発光増幅光を検出しなければならない。
【0041】
さらに物質が励起準位に留まっている時間、すなわち寿命は、物質および励起準位によって異なり、パルスレーザ発振の周期が非常に早い場合は、効率的な信号の検出が行えない場合がある。したがって、パルスレーザ発振から検出までの遅延時間を電気的に制御でき、またパルス発振の周期を調節できる信号発生器9を用いることで、最も効率的な誘導放出による増幅光の検出が可能となる。
【0042】
前記の三通りの構成[a]、[b]、[c]の装置において、シード光(種光)光源をパルスレーザとし、パルスレーザと検出器の遅延時間を調節する手段を備えたプラズマ内励起種測定装置を、それぞれ図6、7、8に示す。
【0043】
パルスレーザ光源8から発振したレーザ光を、必要な場合は窓2を介してプラズマ生成チャンバ3に導入する。プラズマ発生領域を通過したレーザ光を、導光部4を用いて分光器5へと導入し、波長分散後に光検出器6で検出する。この時、パルスレーザ光により増幅された光を効率的に検出するため、信号発生器9から適切なパルス周期、および検出に対しての遅延時間を発信する。検出した信号をデータ変換器7で変換し、発光スペクトルを得る。
【0044】
また、シード光光源であるパルスレーザ8の発振波長を掃引することにより、各種の発光において誘導放出による増幅が観測できるため、パルスレーザが波長可変であることが望ましい。この時、シード光光源自体が波長分解能を有しているので、分光器の設置は必然ではなくなり、増幅された発光を分散せずに検出することが可能なため、発光強度の損失を防ぐことが可能となる。
【0045】
したがって、ドライエッチングにおける終点検出のように、観測する発光波長が確定しており、これの強度変化を測定する場合は、分光器を介さずにその波長の発光を観測することにより、高感度な終点検出が可能となる。
【0046】
信号発信器9から発せられる信号によりレーザ光が発振される場合、レーザパルス時間と同等の時間スケールにおいては、レーザパルスが揺らいでしまうジッタという現象が起きることがある。
【0047】
したがって、パルス発振の電気信号により遅延時間を調節する場合、ジッタの影響により、適切なパルス光の検出が困難になることが危惧される。
【0048】
このジッタによる影響を解消するために、遅延時間をパルス発振の電気信号により調節するのではなく、発信されたパルスレーザ光の一部をビームスプリッタ10で分離し、これを光検出器11で検出し、このパルスに対して遅延時間を設定する方法がある。
【0049】
前記の三通りの構成[a]、[b]、[c]の装置において、発振されたパルスレーザ光の一部をビームスプリッタ10により分離し、得られたレーザ光の波形から遅延時間の基準を設定し、発振されたパルスレーザ光と発光の検出に対して遅延時間調節する機構を備えたプラズマ内励起種測定装置を、それぞれ図9、10、11に示す。
【0050】
パルスレーザ光源8から発振したレーザ光を、必要な場合は窓2を介してプラズマ生成チャンバ3に導入する。プラズマ発生領域を通過したレーザ光を導光部4を用いて分光器5へと導入し、波長分散後に光検出器6で検出する。
【0051】
この時、ジッタを除去し、パルスレーザ光により増幅された光を効率的に検出するため、パルスレーザより発振したレーザ光をビームスプリッタ10で一部分離し、検出器11にて検出後、このパルス波形に対して増幅した発光検出までの遅延時間を信号発生器12から発信する。この信号発信器12はパルスレーザ光源8のパルス周期信号も発信する。検出した信号をデータ変換器7で変換し、発光スペクトルを得る。
【0052】
誘導放出過程により増幅された光は、その発光が生じる準位に存在する物質の量的変化に対して、増幅されてない光よりも、顕著に変化する。
【0053】
したがって、プラズマを利用する行程において、プラズマ状態の変化を計測する際に、非常に感度の高い計測が可能となる。
【0054】
複数の遷移波長に関して、誘導放出を生じさせるためには、レーザ光は波長可変である必要がある。
【0055】
誘導放出により増幅された光を検出し、得られた発光スペクトルは、特定の波長の発光が増幅されているが、このピーク強度には、シード光(種光)として用いたレーザ光強度が含まれているため、レーザ光のみの強度を減算して得られた発光スペクトルが、誘導放出増幅過程により得られたスペクトルになる。
【0056】
前記スペクトルと、シード光(種光)を照射せずに得られた発光スペクトルと比較することにより、どの遷移で誘導放出過程による発光の増幅が生じたかを、容易に判断することが可能となる。
【0057】
また、パルスレーザ光源8に、波長高分解能レーザ光を用いることで、複数の発光が重なり、ブロードとなったピークに、どの波長の遷移が含まれているのかを判定することができる。したがって、プラズマ内励起種測定に関して、より正確な励起種の特定が可能である。
【0058】
また、レーザ光の波長を掃引して得られた誘導放出増幅過程によるスペクトルでは、レーザ光を照射しないで得られたプラズマ発光スペクトルではノイズに埋もれてしまっていたピークが、誘導放出増幅過程により観測することができる。
【0059】
したがって、レーザ光を波長掃引し、観測された誘導放出増幅過程によるスペクトルからは、より多くの情報を得ることができ、プラズマ内励起種の特定にとって、非常に有利になる。
【0060】
ある物質が励起準位から発光を生じて緩和する際に、遷移選択則や波動関数の重なりが十分である準位への遷移経路が複数存在するとき、これらの遷移経路それぞれについて、遷移エネルギーに相当する波長の発光ピークが観測される。
【0061】
この状態で、特定の遷移に限定し、誘導放出を発生させるためのレーザ光を照射すると、選択した遷移が支配的となるため、他の遷移による発光ピーク強度は小さくなる。したがって、増幅したピーク、かつ減少したピークすべてにおいて、エネルギーの帰属がつく物質を選出することが可能である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例としてエッチング終点検出について述べる。本実施例の装置概略図を、図12に示す。
【0063】
誘導放出を生じさせるための波長可変レーザ光源として、OPOレーザ13を用い、分光器までの導光部として石英ファイバ15を用いたプラズマ発光分光装置を用いた。
【0064】
プラズマを発生させるチャンバの側壁に、合成石英窓14を二つ対向配置し、一方にパルス発振型OPOレーザ13を、もう一方に導光部である石英ファイバ15片端を設置した。もう一端を分光器へ5と接続し、分光した光を光検出器6で検出した。
【0065】
また、レーザ光と光検出の遅延時間を調節するため、パルスジェネレータ16を使用した。レーザ光パルスの時間的揺らぎによる検出感度の低下を防止するため、レーザ光の一部をビームスプリッタ10を用いて分離し、光検出器6にて検出したこのパルスレーザ光のピーク強度の時間を基準として、遅延時間を調節した。
【0066】
チャンバ3内部にCHF3ガスを50sccmの流量で5mTorrの一定圧になるように排気の調節を行った。ここに、RF電力を印加し、プラズマを発生させた。
【0067】
チャンバ3の側壁に設置した合成石英窓14を透過した発光を、石英ファイバ15を通して分光器5へと導入し、発光スペクトルを得た。
【0068】
観測対象である発光波長領域は、200nmから1000nmであり、チャンバ3内にプラズマを生成する前に、イニシャルとしてシード光のみでのスペクトルを記録した。
【0069】
発光スペクトルの帰属の結果、C原子およびF原子またはこれらのイオンからの発光が支配的であることがわかった。
【0070】
観測されたピークのうち656.4nm付近に発生した発光について、この発光は次の遷移であると帰属された。
F:4d 4P(1/2)―3p 4S0(3/2)
ここで、()内の数字は量子数である。
【0071】
このプラズマにシード光(種光)としてのレーザ光を、波長範囲230から1000nm内に現れたピーク波長に固定して照射し、発光スペクトルを記録した。
【0072】
前記スペクトル各々に対し、イニシャルとして記録した、シード光のみのスペクトルから、固定したそれぞれの波長でのレーザ光強度を抽出し、差し引きすることで、レーザ光強度を排除したスペクトルを得た。
【0073】
レーザ光強度を排除したスペクトルと、レーザ光を照射しないで記録したスペクトルを比較し、複数のピークにおいて、誘導放出による発光強度の増加が確認され、656.4nm付近に発生した発光についても強度の変化が見られた。
【0074】
レーザ光波長を656.362nmに固定し、増幅されたピークに対して、レーザ光と検出の遅延時間を調節し、最もピーク強度が大きくなる遅延時間に設定した。
【0075】
エッチングストッパ層としてCrNを、被エッチング層としてSiを成膜した基板にレジストパターンを形成し、チャンバ内に導入して、同様のプラズマを生成した。
【0076】
Siがエッチングされている間は、F原子が消費されており、Siが全てエッチングされ、CrN層が最表面になると、CrNはF原子に対してエッチング耐性があるため、Fが消費されなくなる。したがって、Si層のエッチングが終了すると、プラズマ中に存在するF原子の数が増加し、F原子に起因するピークの強度は増加する。
【0077】
この原理に基づき、誘導放出により増幅された656.4nm付近のピーク強度の時間変化を測定した。
【0078】
エッチングの終了前後で、このピーク強度の微量の変化を観測することができたが、明確に判定するには不十分な変化量しか検出できなかった。
【0079】
同様のレジストパターニングされたエッチング基板を用意し、チャンバに導入した。
【0080】
ここに656.362nmに波長を固定したOPOレーザ光を照射し、Fの発光を増幅し、プラズマを生成させ、エッチングを開始した。
【0081】
656.362nmのOPOレーザ光により、F原子に起因する発光が増幅されているため、エッチング終了時の、微量なF原子の増加を、高感度で検出することに成功した。

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図2】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図3】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図4】自然放出を説明する模式図。
【図5】誘導放出を説明する模式図。
【図6】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図7】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図8】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図9】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図10】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図11】本発明の一実施形態のプラズマ内励起種測定装置の概略構成図。
【図12】実施例において記述したプラズマ内励起種測定装置。
【符号の説明】
【0083】
1・・・単色光源
2・・・窓
3・・・プラズマ生成チャンバ
4・・・導光部
5・・・分光器
6・・・光検出器
7・・・データ変換器
8・・・パルスレーザ光源
9・・・信号発信器
10・・ビームスプリッタ
11・・光検出器
12・・信号発信器
13・・OPOレーザ
14・・石英窓
15・・石英ファイバ
16・・パルスジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ内に存在する励起種の緩和に伴う発光の検出において、
ある励起種から放出される発光のうち特定のエネルギー準位間の緩和(遷移)のエネルギー準位を特定するエネルギー準位特定工程と、
前記緩和(遷移)エネルギーに相当する波長の光をシード光(種光)として選択するシード光波長選択工程と、
シード光波長選択工程で選択された波長の光をシード光としてプラズマ内に照射するシード光照射工程と、
照射したシード光との相互作用により起きた発光を検出する発光検出工程と、
前記発光検出工程で検出した発光から励起種を判定する励起種判定工程と、
を具備し、プラズマ内に照射するシード光(種光)の光源が波長可変レーザであることを特徴とする、プラズマ内励起種測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の波長可変レーザ光源がパルスレーザ光源でもあり、該パルスレーザ光源のパルス発振と発光検出の遅延時間を電気的に制御することができることを特徴とするプラズマ内励起種測定方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のプラズマ内励起種測定方法において、プラズマ内に存在する励起種と、照射したシード光との相互作用により起きた発光が検出されたときをドライエッチングの終点とすることを特徴とする、ドライエッチングの終点検出方法。
【請求項4】
プラズマ内に存在する励起種の緩和に伴う発光の検出において、
ある励起種から放射される発光のうち特定のエネルギー準位間の緩和(遷移)のエネルギー準位を特定するエネルギー準位特定手段と、
前記緩和(遷移)エネルギーに相当する波長の光をシード光(種光)として選択するシード光波長選択手段と、
シード光波長選択工程で選択された波長の光をシード光としてプラズマ内に照射するシード光照射手段と、
照射したシード光との相互作用により起きた発光を検出する発光検出手段と、
前記発光検出工程で検出した発光から励起種を判定する励起種判定手段と
を具備し、プラズマ内に照射する前記シード光(種光)の光源が波長可変レーザであることを特徴とする、プラズマ内励起種測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の波長可変レーザ光源がパルスレーザ光源でもあり、該パルスレーザ光源のパルス発振と発光検出の遅延時間を電気的に制御することができることを特徴とするプラズマ内励起種測定装置。
【請求項6】
請求項4または5のいずれかに記載のプラズマ内励起種測定装置において、プラズマ内に存在する励起種と、照射したシード光との相互作用により起きた発光が検出されたときをドライエッチングの終点とする終点検出機能を付加したことを特徴とするプラズマエッチング終点検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−261729(P2008−261729A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104695(P2007−104695)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】