説明

プラズマ処理装置

【課題】低い電力であってもプラズマ処理を行い得るプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号S1を生成して出力する高周波電源2と、入力した高周波信号S1に基づいてプラズマ放電用ガスGをプラズマ化させると共にプラズマPを導電性を有する処理対象体8に照射する放射器14と、放射器14の電位に対する処理対象体8の電位を所定電位に規定する電源部4(直流電源部や交流電源部)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象体の表面をプラズマで処理するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ処理装置として、下記特許文献1に開示されたプラズマ処理装置が知られている。このプラズマ処理装置は、大気圧またはその近傍の圧力下にある放電ガスを介して高周波(高周波電源から供給される高周波出力)によるストリーマ状の放電を発生させてプラズマを生成し、このプラズマを処理対象体(被処理物)に照射してエッチングするように構成されている。このプラズマ処理装置では、放電ガスから生成されたプラズマ粒子(イオンまたは電子)が非常に微細な線束状の流れ(マイクロストリーマ)となって高速で処理対象体に衝突する。したがって、このプラズマ処理装置によれば、プラズマ粒子が衝突した部分の処理対象体が高温となって溶融すると共に、衝突するプラズマ粒子によって弾き飛ばされてエッチングされるため、従来エッチングすることができなかった金属やセラミックをも容易にエッチングすることが可能となる。また、このプラズマ処理装置では、処理対象体が導電性である場合には、処理対象体を接地することもでき、これによってプラズマを構成している質量の大きなイオンを非接地のときよりも加速して処理対象体に衝突させて、エッチング速度を向上させることが可能となっている。
【特許文献1】特許第355470号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、この種のプラズマ処理装置には、以下の問題点がある。すなわち、このプラズマ処理装置では、上記したように高周波出力の電力を大きくしたとき(例えば300W以上にすることが記載されている)に発生するストリーマ状の放電を利用して処理対象体を処理しているため、消費電力が大きくなるという解決すべき課題が存在している。ところで、この種のプラズマ処理装置では、上記特許文献1にも開示されているように、プラズマによる表面処理中において、高周波電力が供給される電極(プラズマを生成させる電極)と処理対象体(例えば銅板)との間にDC成分(プラズマ粒子の極性に応じた極性の電圧。この装置では電子または負のイオンなどの負のプラズマ粒子のため、電極に対して処理対象体の電位が負となる直流電圧)が自然に発生し、このDC成分は高周波電力に応じて変化することが知られているが、本願発明者は、このように自然に発生するDC成分を超える電圧を電極と処理対象体との間に強制的に印加することで、ストリーマ状の放電で必要とされる電力よりも低い電力で発生させ得るグロー放電であってもプラズマ処理が可能になるのではと考えた。
【0004】
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであり、低い電力であってもプラズマ処理を行い得るプラズマ処理装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく請求項1記載のプラズマ処理装置は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成して出力する高周波信号生成部と、入力した前記高周波信号に基づいてプラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを導電性を有する処理対象体に照射する放射器と、前記放射器の電位に対する前記処理対象体の電位を所定電位に規定する電源部とを備えている。
【0006】
また、請求項2記載のプラズマ処理装置は、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成して出力する高周波信号生成部と、処理対象体が載置される導電性のステージと、入力した前記高周波信号に基づいてプラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを前記処理対象体に照射する放射器と、前記放射器の電位に対する前記ステージの電位を所定電位に規定する電源部とを備えている。
【0007】
また、請求項3記載のプラズマ処理装置は、請求項1または2記載のプラズマ処理装置において、導電性材料を用いて一方の端部が開放端に形成され、内部にプラズマ放電用ガスが供給される筒状の筐体を備え、前記放射器は、柱状に形成されると共に前記筐体内に当該筐体の筒長方向に沿って配設され、当該筐体における前記開放端側の先端近傍において前記プラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを当該開放端から大気中に放射させ、前記電源部は、前記筐体を介して前記所定電位を前記放射器に付与する。
【0008】
また、請求項4記載のプラズマ処理装置は、請求項3記載のプラズマ処理装置において、前記筐体は他方の端部が閉塞板によって閉塞され、前記筐体の内部に面する前記閉塞板の表面に一端が接続されると共に他端に前記高周波信号が供給されるカップリングループを備え、前記放射器は、前記カップリングループから離間した状態で前記閉塞板の前記表面に立設されている。
【0009】
また、請求項5記載のプラズマ処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記電源部は、直流電源で構成されて、前記所定電位として正または負の一定電位に前記処理対象体の電位を規定する。ここで、正または負の一定電位を所定電位として連続的にまたは間欠的に(パルス状に)出力するように直流電源を構成することができる。
【0010】
また、請求項6記載のプラズマ処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記電源部は、交流電源で構成されて、前記所定電位として正および負の所定電位に前記処理対象体の電位を周期的に規定する。ここで、正の電位から負の電位まで正弦波状に連続的に出力するように交流電源を構成することができるし、正の電位および負の電位をパルス状に交互に出力するように交流電源を構成することもできる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のプラズマ処理装置では、電源部が放射器の電位に対する処理対象体の電位を予め決められた所定電位に規定する。したがって、このプラズマ処理装置によれば、放射器で生成されるプラズマがグロー放電によるプラズマであっても、所定電位が負電位のときにはプラズマ中の正イオンを負電位で加速させ、また所定電位が正電位のときにはプラズマ中の負イオンを正電位で加速させて、処理対象体に当接させることができるため、処理対象体に対する処理を低い電力であっても確実に実施することができる。
【0012】
請求項2記載のプラズマ処理装置では、電源部が放射器の電位に対するステージの電位を予め決められた所定電位に規定する。したがって、このプラズマ処理装置によれば、放射器で生成されるプラズマがグロー放電によるプラズマであっても、所定電位が負電位のときにはプラズマ中の正イオンを負電位で加速させ、また所定電位が正電位のときにはプラズマ中の負イオンを正電位で加速させて、ステージに当接させることができるため、このステージ上に載置された処理対象体にも加速された正イオンまたは負イオンが当接することになる結果、処理対象体に対する処理を確実に実施することができる。
【0013】
請求項3記載のプラズマ処理装置では、導電性材料を用いて一方の端部が開放端に形成され、内部にプラズマ放電用ガスが供給される筒状の筐体を備え、放射器は、柱状に形成されると共に筐体内に筐体の筒長方向に沿って配設され、筐体における開放端側の先端近傍においてプラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共にプラズマを開放端から大気中に放射させ、電源部は、筐体を介して電位を放射器に付与する。したがって、このプラズマ処理装置によれば、放射器に供給される高周波信号の漏洩を放射器を取り囲んでいる筐体で大幅に低減することができる。また、筐体を介して放射器に電位を付与するようにしたことにより、放射器に直接電位を付与する構成と比較して、放射器を確実に共振モノポールとして作動させて、プラズマを生成させることができる。
【0014】
請求項4記載のプラズマ処理装置では、カップリングループに高周波信号を供給することにより、カップリングループと離間して配設された放射器を共振させてその先端近傍にのみ高電界を発生させ、この先端近傍においてプラズマを生成させる。したがって、このプラズマ処理装置によれば、プラズマの生成に要する高周波信号の電力を低減することができるため、プラズマ処理の効率を十分に向上させることができる。
【0015】
請求項5記載のプラズマ処理装置によれば、直流電源で構成された電源部が所定電位として正または負の一定電位に処理対象体の電位を規定することにより、正イオンおよび負イオンの一方を継続して加速させて処理対象体に対して当接させることができ、この結果、処理対象体に対する正イオンまたは負イオンによる処理を効率よく実施することができる。
【0016】
請求項6記載のプラズマ処理装置によれば、交流電源で構成された電源部が所定電位として正および負の所定電位に処理対象体の電位を周期的に規定することにより、正または負の電荷のみが処理対象体に蓄積されるチャージアップ現象を回避しつつ、処理対象体に対する処理を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るプラズマ処理装置の最良の形態について説明する。
【0018】
図1に示すプラズマ処理装置1は、高周波電源2、プラズマ発生部3、電源部4、電流制限部5およびステージ6を備えている。また、このプラズマ処理装置1は、高周波電源2において生成された高周波信号S1をプラズマ発生部3に同軸ケーブル7を介して供給することによって例えば大気圧下でプラズマ発生部3内にプラズマを発生させると共に、発生させたプラズマをステージ6上に載置(配設)された処理対象体8に放射してその表面をプラズマ処理可能に構成されている。具体的には、このプラズマ処理装置1は、一例として金属材料で形成された導電性部材(切削加工などによって作製された金属部材)を処理対象体8として、その表面に発生しているバリ取り処理などを実行する。
【0019】
高周波電源2は、本発明における高周波信号生成部であって、準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号(一例として、2.45GHz程度の準マイクロ波)S1を生成して、プラズマ発生部3に出力する。また、高周波電源2は、一例として、パルス変調に対応したVCO(Voltage Controlled Oscillator)、VCOから出力された高周波信号を増幅して出力する利得可変型アンプ(トランジスタで構成されたアンプ)、利得可変型アンプから出力された高周波信号S1の一部を抽出する方向性結合器(ピックアップ)、および方向性結合器によって抽出された高周波信号を検波してその電力を示す信号を生成する検波器など(いずれも図示せず)で構成されて、設定された変調周波数およびデューティー比でパルス変調された高周波信号S1を出力する。また、高周波電源2は、このように高周波信号S1のデューティー比を変更可能に構成されているため、高周波信号S1の電力(出力電力)を制御可能となっている。なお、本例では、高周波電源2が、準マイクロ波(1GHz〜3GHz)を高周波信号S1として出力する構成を採用しているが、マイクロ波(3GHz〜30GHz)を高周波信号S1として出力する構成を採用することもできる。また、高周波電源2からプラズマ発生部3に対する高周波信号S1の供給効率を高めるため、高周波電源2とプラズマ発生部3との間に整合器(図示せず)を配設することもできる。
【0020】
プラズマ発生部3は、一例として図1に示すように、筐体11、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14を備えている。筐体11は、一例として、一方の端部(同図中の下端部)が開放端に形成された導電性の筒体11aと、筒体11aの他方の端部(同図中の上端部)を閉塞する導電性の閉塞板11bと、筒体11aの内周面に配設された絶縁管11cとを備え、一方の端部(ステージ6側の端部)が開放端に形成された(一方の端部が開口する)トーチ型筐体に構成されている。この場合、絶縁管11cは、高周波信号S1の出力電力を高めたときに、プラズマを生成させるための放電(本例ではグロー放電)が不用意に発生しないようにするためのものである。また、図2に示すように、筐体11を構成する筒体11aは、中心軸Xと直交する平面に沿った内周面の断面形状が円形であるため、外形は四角筒体であるが、実質的には円筒体として機能する。
【0021】
また、本例では、筒体11aには、筐体11内に高周波信号S1を導入するための貫通孔21が形成されている。また、閉塞板11bには、大気圧下のプラズマ放電用ガスG(以下、「放電用ガスG」ともいう)を筒体11aに供給するための供給管9を接続するための貫通孔22が、筒体11aの中心軸Xから外れた位置(具体的には、後述するように中心軸Xに配設された放射器14と干渉しない位置)に形成されている。また、筒体11aは、図1に示すように、その長さが放射器14の長さL1よりも長く規定されて、放射器14の先端が筒体11aの開放端から突出しない構成となっている。本例では、放電用ガスGとしては、電離電圧が低くプラズマ化し易いガス(例えば、アルゴンガスやヘリウムガスなどの希ガス)を使用する。
【0022】
同軸コネクタ12は、図1に示すように、高周波電源2に接続された同軸ケーブル7の先端に装着された状態で、筒体11aの外周面に、貫通孔21を閉塞するようにして取り付けられている。カップリングループ13は、同図に示すように、導電性を有する棒状体がL字状に折曲(本例では直角に折曲)されて構成されている。また、カップリングループ13は、一端が閉塞板11bにおける筒体11aの内部に面する表面(内面)に接続されると共に、他端が高周波信号S1の供給が可能に同軸コネクタ12の芯線(不図示)に接続されている。この状態において、カップリングループ13の一端側部位(折曲部位を基準として一端側に位置する部位)13aは、閉塞板11bから直角に起立した状態(筒体11aの中心軸Xと平行な状態)となっており、かつ高周波信号S1の波長をλとしたときに、その長さL2がλ/4の半分以下の長さ(本例では、一例としてλ/10)に規定されている。一方、カップリングループ13の他端側部位(折曲部位を基準として他端側に位置する部位)13bは、貫通孔21の中心軸上に位置した状態で貫通孔21に挿通されている。
【0023】
放射器14は、長さL1が((1/4+n/2)×λ)に規定された1本の導電性の柱状体(本例では円柱体)で構成されている。ここで、nは、0以上の整数であり、本例では一例としてn=0に設定されて、放射器14の長さL1は(λ/4)に規定されている。なお、放射器14は、柱状体に限定されず、直方体や樋状体(ハーフパイプ状体)などの板状体で構成することもできる。また、放射器14は、図1に示すように、筐体11の内部に筐体11の筒長(長手)方向に沿って配設されている。本例では、一例として、放射器14は、筒体11aの内部に筒体11aの中心軸X上に位置した状態で、かつ一端側(同図中の上端側)が閉塞板11bの内面に接続されて配設されている。この構成により、放射器14は、カップリングループ13における一端側部位13a、および閉塞板11bに開口する貫通孔22のそれぞれと離間してはいるが、近接した状態で立設された状態となっている。一例として、本例では、図2に示すように、一端側部位13a、放射器14および貫通孔22が、放射器14を中心として平面視で一直線上に並ぶ構成となっているが、貫通孔22は、放射器14の近傍であれば、任意の位置に設定することができる。
【0024】
電源部4は、一例として直流電源で構成されて、筐体11(一例として筒体11a)と処理対象体8との間に直流定電圧V1を印加する機能を備えている。具体的には、電源部4は、図1に示すように、筐体11の電位を基準電位として処理対象体8に対して、直流定電圧V1(本発明における所定電位。一例として負電圧)を印加する。この場合、この直流定電圧V1は、プラズマ処理中に、高周波電力が供給される電極としての放射器14と処理対象体8との間に自然に発生する直流負電圧(最大でマイナス数ボルト)よりも低い電圧(マイナス数十ボルト。本例では一例としてマイナス50ボルト)に規定されている。電流制限部5は、例えば抵抗などで構成されて、電源部4の直流定電圧V1の印加経路に介装され、この印加経路に流れる電流(処理対象体8に流れる電流)を制限することにより、過大な電流が流れることに起因して、プラズマ発生部3に発生しているグロー放電がアーク放電に移行する事態を回避する。
【0025】
次に、本発明に係るプラズマ処理装置1の動作について説明する。なお、筐体11は予めグランドに接続されて(接地されて)、グランド電位が付与されているものとする。また、電源部4は、一方の出力端子(図示せず)が筐体11の筒体11aに接続され、他方の出力端子(図示せず)が処理対象体8に接続されているものとする。また、ステージ6上には処理対象体8が載置されているものとする。
【0026】
まず、プラズマ処理装置1では、電源部4が、予め規定された直流定電圧V1を筐体11の筒体11aと処理対象体8との間に印加する。これにより、処理対象体8の電位は、グランド電位が付与された筐体11(およびそれに電気的に接続された放射器14)に対して、負の電位(マイナス50ボルト)に規定される。
【0027】
次いで、不図示のガス供給部が供給管9を介して筐体11内に放電用ガスGの供給を開始し、続いて、高周波電源2が、筐体11内にグロー放電が発生する電力での高周波信号S1のプラズマ発生部3への出力を開始する。この場合の高周波信号S1の電力は、アーク放電を発生させるための電力よりも低い電力とすることができる。高周波電源2から出力された高周波信号S1は、同軸ケーブル7を介して、同軸コネクタ12、さらにはカップリングループ13の他端に達し、カップリングループ13を経由して筐体11(閉塞板11b)に流れる。この場合、高周波信号S1がカップリングループ13に流れることにより、一端側部位13aの周囲に磁界が発生し、高周波信号S1の波長λに対して((1/4+n/2)×λ)の長さL1に規定されている放射器14がこの磁界によって共振する。共振状態の放射器14は共振モノポールとして作動して、その他端(同図中の下端であって、本発明における先端)側で電圧が最大となる。このため、プラズマ発生部3内における放射器14の他端側近傍(付近)で電界強度が最大となり、放電用ガスGが存在するプラズマ発生部3内(すなわち筐体11内)では、この他端側近傍において放電用ガスGをプラズマ化させる(プラズマPを生成させる)ためのグロー放電が発生する。
【0028】
この場合、高周波電源2が高周波信号S1として準マイクロ波またはマイクロ波をプラズマ発生部3に供給するため、発生したグロー放電によって放電用ガスGがプラズマ化して、高密度な状態でプラズマPが生成される(プラズマPが発生する)。また、放射器14の他端側近傍で生成されたプラズマPは、図1に示すように、筒体11aの開放端から処理対象体8に放射されて、処理対象体8の表面がプラズマPによって表面処理される。特に、プラズマ処理装置1では、電源部4から印加される直流定電圧V1により、処理対象体8の電位が筐体11の電位(グランド電位)に対して負電位(筐体11の電位から大きく外れた負の電位)に規定されているため、プラズマP中の正イオンがこの負電位で加速されて処理対象体8に当接し、この正イオンによって処理対象体8の構成粒子が弾き飛ばされて表面処理(エッチング)される。
【0029】
また、この正イオンの移動に伴い、電源部4から、筒体11a、放射器14および処理対象体8を経由して電源部4に戻る経路に直流電流Iが流れるが、この経路に介装された電流制限部5によって直流電流Iの電流値が制限される。このため、プラズマ処理装置1では、過大な電流が処理対象体8に流れることに起因して生じるおそれのあるグロー放電からアーク放電への移行が確実に回避されている。
【0030】
このように、このプラズマ処理装置1では、電源部4が直流定電圧V1を筐体11と処理対象体8との間に印加して、筐体11に対する処理対象体8の電位、つまり放射器14に対する処理対象体8の電位を筐体11の電位よりも低い負の電位に規定する。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、筐体11内で生成されるプラズマPがグロー放電によるプラズマであっても、プラズマP中の正イオンを直流定電圧V1で加速させて処理対象体8に当接させることができるため、処理対象体8に対する表面処理(バリ取り処理)を高周波信号S1の電力が低いときであっても確実に実施することができる。
【0031】
一例として、筐体11の開放端から10mm下方に配置されたステージ6上にアルミニウムの板材を処理対象体8として載置し、直流定電圧V1をマイナス50ボルトに規定すると共に、高周波電源2から高周波信号S1として2.45GHzの準マイクロ波を150Wで供給し、かつプラズマ放電用ガスGとしてアルゴンガスを使用してその流量を2SLMとしたときには、グロー放電によるプラズマPを処理対象体8に15秒間照射してバリ取り処理を行うことで、処理対象体8に生じていた約30μmのバリを除去し得ることが実験で確認されている。
【0032】
また、このプラズマ処理装置1によれば、導電性材料を用いて一方の端部が開放端に形成されると共に内部にプラズマ放電用ガスGが供給される筒状の筐体11を備え、筐体11内に筐体11の筒長方向に沿って柱状の放射器14を配設し、筐体11における開放端側に位置する放射器14の先端近傍においてプラズマ放電用ガスGをプラズマ化させてプラズマPを生成させると共に、この開放端から大気中に放射させるようにしたことにより、放射器14に供給される高周波信号S1の漏洩を放射器14を取り囲んでいる筐体11で大幅に低減することができる。また、筐体11を介して放射器14に電位を付与する(本例では接地する)ようにしたことにより、放射器14をグランドに直接接続する構成と比較して、放射器14を確実に共振モノポールとして作動させて、プラズマPを生成させることができる。
【0033】
さらに、このプラズマ処理装置1では、カップリングループ13に高周波信号S1を供給することにより、カップリングループ13と離間して配設された放射器14を共振させてその先端近傍にのみ高電界を発生させ、この先端近傍においてプラズマPを生成させる。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、プラズマPの生成に要する高周波信号S1の電力を低減することができるため、プラズマ処理の効率を一層向上させることができる。
【0034】
なお、本発明は、上記した実施の形態に示した構成に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、直流定電圧V1(負電圧)の印加によって処理対象体8の電位を筐体11の電位(グランド電位)に対して所定電位としての負電位(筐体11の電位から大きく外れた負の電位)に規定し、これによってプラズマP中の正イオンをこの負電位で加速して処理対象体8に当接させる構成を採用しているが、直流定電圧V1(正電圧)の印加によって処理対象体8の電位を筐体11の電位(グランド電位)に対して正電位(本発明における所定電位の他の例。筐体11の電位から大きく外れた正の電位)に規定し、これによってプラズマP中の負イオンをこの正電位で加速して処理対象体8に当接させて、処理対象体8を表面処理する構成を採用することもできる。また、導電性材料で形成された処理対象体8と筐体11との間に電源部4から直流定電圧V1を印加する構成としているが、処理対象体8が非導電性材料で形成されているときには、図3に示すプラズマ処理装置1Aのように、ステージ6を導電性材料で形成して、ステージ6と筐体11との間に電源部4から直流定電圧V1を印加する構成とすることができる。なお、この構成以外のプラズマ処理装置1Aの構成については、プラズマ処理装置1と同一であるため、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。このプラズマ処理装置1Aにおいても、プラズマ処理装置1と同様にして、電源部4が直流定電圧V1を筐体11と処理対象体8の背面側に位置するステージ6との間に印加して、筐体11に対するステージ6の電位、つまり放射器14に対するステージ6の電位を筐体11の電位よりも低い負の電位(筐体11の電位から大きく外れた負の電位)に規定する。したがって、このプラズマ処理装置1Aによれば、筐体11内に生成させるプラズマPがグロー放電によるプラズマであっても、プラズマP中の正イオンを直流定電圧V1で加速させてステージ6に当接させることができるため、このステージ6上に載置された処理対象体8にも加速された正イオンが当接することになる結果、処理対象体8に対する表面処理(バリ取り処理)を確実に実施することができる。また、プラズマ処理装置1で奏する他の効果についても、プラズマ処理装置1Aでも同様に奏することができる。
【0035】
また、上記した各プラズマ処理装置1,1Aでは、プラズマ発生部3を筐体11および放射器14を備えて構成しているが、他の構成を採用することもできる。一例として、上記の背景技術で説明した特許第355470号公報に開示されているような構成、すなわち、高周波電源に接続された高周波電極と、この高周波電極と対向配置されると共に接地された接地電極と、この一対の電極間に配置されてガス供給配管に接続されたノズルとを備えた構成を採用することもできる。この構成のプラズマ発生部においても、接地電極に対して、ステージや、その上に配設されたワークの電位を、接地電位よりも低い負の電位とすることにより、上記した各プラズマ処理装置1,1Aと同様の作用効果を奏すると考えられる。
【0036】
また、筐体11に対する処理対象体8の電位、または筐体11に対するステージ6の電位を、筐体11の電位よりも低い負の電位に規定する構成によって生じる効果が最も顕著に表れる例として、グロー放電によるプラズマ処理を例に挙げて説明したが、グロー放電だけでなく、コロナ放電などのアーク放電によるプラズマ処理に適用することもでき、これにより、高周波信号S1の電力が同じであったとしても、処理対象体8に対する表面処理の効果を高めることができる結果、処理時間の短縮や、全体としての消費電力の低減を図ることができる。
【0037】
また、電源部4と電流制限部5とを別体に構成した例について上記したが、電源部4が電流制限機能を備えている構成では、電源部4自体を電流制限部5として機能させて、電流制限部5の配設を省くこともできる。また、本発明における電源部4を直流電源で構成した例について説明したが、これに限定されず、交流電圧(一定の振幅の交流電圧)を出力する交流電源で電源部4を構成することができる。この構成によれば、処理対象体8の電位を所定電位としての正および負の所定電位に周期的に規定することができ、これによって正イオンおよび負イオンを処理対象体8に交互に当接させることができるため、正または負の電荷のみが処理対象体8に蓄積されるチャージアップ現象を回避することができる。また、グロー放電からアーク放電への移行が他の手法(高周波信号S1の電力、放電用ガスGの流量、プラズマPの照射距離および直流定電圧V1の各設定)によって確実に防止できるときには、電流制限部5を設けない構成を採用することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】プラズマ処理装置1の構成図である。
【図2】図1におけるW1−W1線断面図(同軸コネクタ12を除く断面図)である。
【図3】プラズマ処理装置1Aの構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1,1A プラズマ処理装置
2 高周波電源
3 プラズマ発生部
4 直流電源部
5 電流制限部
8 処理対象体
11 筐体
11b 閉塞板
13 カップリングループ
14 放射器
P プラズマ
S1 高周波信号
V1 直流定電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成して出力する高周波信号生成部と、
入力した前記高周波信号に基づいてプラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを導電性を有する処理対象体に照射する放射器と、
前記放射器の電位に対する前記処理対象体の電位を所定電位に規定する電源部とを備えているプラズマ処理装置。
【請求項2】
準マイクロ波帯またはマイクロ波帯の高周波信号を生成して出力する高周波信号生成部と、
処理対象体が載置される導電性のステージと、
入力した前記高周波信号に基づいてプラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを前記処理対象体に照射する放射器と、
前記放射器の電位に対する前記ステージの電位を所定電位に規定する電源部とを備えているプラズマ処理装置。
【請求項3】
導電性材料を用いて一方の端部が開放端に形成され、内部にプラズマ放電用ガスが供給される筒状の筐体を備え、
前記放射器は、柱状に形成されると共に前記筐体内に当該筐体の筒長方向に沿って配設され、当該筐体における前記開放端側の先端近傍において前記プラズマ放電用ガスをプラズマ化させると共に当該プラズマを当該開放端から大気中に放射させ、
前記電源部は、前記筐体を介して前記所定電位を前記放射器に付与する請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記筐体は他方の端部が閉塞板によって閉塞され、
前記筐体の内部に面する前記閉塞板の表面に一端が接続されると共に他端に前記高周波信号が供給されるカップリングループを備え、
前記放射器は、前記カップリングループから離間した状態で前記閉塞板の前記表面に立設されている請求項3記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記電源部は、直流電源で構成されて、前記所定電位として正または負の一定電位に前記処理対象体の電位を規定する請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記電源部は、交流電源で構成されて、前記所定電位として正および負の所定電位に前記処理対象体の電位を周期的に規定する請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−283157(P2009−283157A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131458(P2008−131458)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】