説明

プラネタリギヤ機構を備える自動変速機

【課題】簡単な構造でいずれの変速段の状態にあってもエンジンブレーキを働かせることができるプラネタリギヤ機構を備える自動変速機を供する。
【解決手段】第1プラネタリギヤ機構P1と、第2プラネタリギヤ機構P2と、原動機Eに連結される第1入力軸20と第1出力軸28の間を断続する第1クラッチ70と、第2入力軸40と第2出力軸48の間を断続する第2クラッチ90とを共通の回転中心軸上に備え、第1クラッチ70と第2クラッチ90が自動変速駆動手段により自動的に作動される自動変速機において、自動変速駆動手段は、第1クラッチと第2クラッチ90の少なくとも一方が切断している場合に、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機E側からの駆動力より大きくなったとき、第1クラッチ70と第2クラッチ90をともに接続状態とするプラネタリギヤ機構を備える自動変速機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機に関し、特にプラネタリギヤ機構を備えた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
サンギヤとプラネタリギヤとリングギヤの3つのギヤ要素を組み合わせたプラネタリギヤ機構を備えた自動変速機は、入力回転速度に従って自動的に複数のプラネタリギヤ機構を選択的に有効にして動力伝達することで変速比を変える変速機である。
このような自動変速機で車両に搭載されるものについては既に種々提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−283251号公報
【特許文献2】特開2001−165250号公報
【0004】
特許文献1および特許文献2に開示された自動変速機は、同軸上に構成された各プラネタリギヤ機構にそれぞれ遠心クラッチが付設されて各遠心クラッチの作動で変速が実行されるものであり、そのために、各プラネタリギヤ機構には入出力に係るギヤ要素以外のギヤ要素の一方向の回転を阻止し、反対方向の回転を許容する一方向クラッチを備えている。
【0005】
そして、自動変速のために各プラネタリギヤ機構に所定の回転速度を超えると入出力に係るギヤ要素を直結する遠心クラッチが設けられており、遠心クラッチが切断状態にある所定の回転速度以下では一方向クラッチが1ギヤ要素の一方向の回転を阻止して決められた速比で動力伝達し、所定の回転速度を超えて遠心クラッチが接続状態になると直結された入出力に係るギヤ要素を一体にして回転すべく一方向クラッチが回転を許容して動力を伝達する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、各プラネタリギヤ機構に一方向クラッチが介在するために、少なくとも1つの遠心クラッチが切断状態にあるときは、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機側からの駆動力より大きくなったときに、遠心クラッチが切断状態にあるプラネタリギヤ機構がその一方向クラッチにより駆動輪側からの駆動力が原動機側に伝達されず、よってエンジンブレーキが機能しない。
【0007】
すなわち、全ての遠心クラッチが接続されて全プラネタリギヤ機構の入出力に係るギヤ要素が直結状態にある変速段では、エンジンブレーキが働くが、その他の変速段ではエンジンブレーキが働かない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、簡単な構造でいずれの変速段の状態にあってもエンジンブレーキを働かせることができるプラネタリギヤ機構を備える自動変速機を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、サンギヤ,プラネタリギヤ,リングギヤから構成され、サンギヤ,プラネタリギヤ,リングギヤのいずれかを入力軸と出力軸にそれぞれ連結し、残りの1つのギヤの回転を規制する第1プラネタリギヤ機構と第2プラネタリギヤ機構とを直列に連結し、前記第1プラネタリギヤ機構の第1入力軸と第1出力軸の間を断続する第1クラッチと、前記第2プラネタリギヤ機構の第2入力軸と第2出力軸の間を断続する第2クラッチとを共通の回転中心軸上に備え、前記第1クラッチと前記第2クラッチが自動変速駆動手段により自動的に作動される自動変速機において、前記自動変速駆動手段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチの少なくとも一方が切断している場合に、車両の駆動輪側からの駆動力が前記原動機側からの駆動力より大きくなったとき、前記第1クラッチと前記第2クラッチをともに接続状態とするプラネタリギヤ機構を備える自動変速機とした。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機において、前記自動変速駆動手段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチをそれぞれ作動して断続する第1クラッチ用カムと第2クラッチ用カムが、前記第1クラッチと前記第2クラッチの軸方向の側方に設けられた共通のカム軸上に形成され、アクチュエータが前記カム軸を回動することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機において、前記第2出力軸の外周に前記第2入力軸が回転自在に軸支され、前記第2入力軸の外周に前記第1入力軸が回転自在に軸支され、前記第1入力軸に前記第1クラッチのクラッチアウタが結合され、前記第2入力軸の前記第1入力軸より突出した端部に前記共通クラッチ部材が結合され、前記第2出力軸の前記第2入力軸より突出した端部に前記第2クラッチのクラッチインナが結合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機によれば、自動変速駆動手段が、第1クラッチと第2クラッチの少なくとも一方が切断している場合に、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機側からの駆動力より大きくなったとき、第1クラッチと第2クラッチをともに接続状態とするので、第1クラッチと第2クラッチの断続(変速段)がいかなる状態にあっても、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機側からの駆動力より大きくなると、第1クラッチと第2クラッチをともに接続状態とする簡単な制御で、第1プラネタリギヤ機構と第2プラネタリギヤ機構がそれぞれ入出力に係るギヤ要素を直結して車両の駆動輪側からの駆動力を入力軸に伝達してエンジンブレーキを働かせることができる。
【0013】
請求項2記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機によれば、自動変速駆動手段は、第1クラッチと第2クラッチをそれぞれ作動して断続する第1クラッチ用カムと第2クラッチ用カムが、第1クラッチと第2クラッチの軸方向の側方に設けられた共通のカム軸上に形成され、アクチュエータがカム軸を回動するので、1本のカム軸の回動で第1クラッチと第2クラッチの断続を同時に行うことができ、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機側からの駆動力より大きくなったときに、簡単に、かつ速やかに第1クラッチと第2クラッチをともに接続状態とすることができる。
【0014】
請求項3記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機によれば、第2出力軸の外周に第2入力軸が回転自在に軸支され、第2入力軸の外周に第1入力軸が回転自在に軸支され、第1入力軸に第1クラッチのクラッチアウタが結合され、第2入力軸の第1入力軸より突出した端部に前記共通クラッチ部材が結合され、第2出力軸の第2入力軸より突出した端部に第2クラッチのクラッチインナが結合されるので、(互いに隣り合った)第1プラネタリギヤ機構と第2プラネタリギヤ機構に対して軸方向の同じ側方に第1クラッチと第2クラッチをコンパクトに配設して動力の伝達をすることができ、側方に配設された第1クラッチと第2クラッチのさらに側方に共通のカム軸を設けたコンパクトで簡単な構造を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る自動変速機を備えた内燃機関の断面図である。
【図2】該自動変速機の拡大図である。
【図3】第1プラネットギヤ機構の断面図(図2のIII−III線断面図)である。
【図4】一方向クラッチの断面図(図2のIV−IV線断面図)である。
【図5】第2プラネットギヤ機構の断面図(図2のV−V線断面図)である。
【図6】一方向クラッチの断面図(図2のVI−VI線断面図)である。
【図7】カム軸に形成される第1クラッチ用カムと第2クラッチ用カムの形状と相対位置関係を変速段ごとに示す説明図である。
【図8】変速機における入力軸の入力回転数に対する出力軸の出力回転数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図8に基づいて説明する。
本実施の形態の自動変速機Mを備えた原動機としての内燃機関Eの断面図を図1に示す。
本内燃機関Eは、自動二輪車にクランク6を左右方向に指向させて横置きに搭載される。
なお、本実施の形態において、左右方向および前後方向は、自動二輪車の左右方向および前後方向にそれぞれ一致し、また上下方向は鉛直方向である。
【0017】
空冷式で単気筒4ストローク内燃機関である内燃機関Eは、ピストン4が往復運動可能に嵌合するシリンダ1aを有するシリンダブロック1と、シリンダブロック1の上端部に結合されるシリンダヘッド2と、シリンダブロック1の下端部に結合されるクランクケース3とから構成される機関本体を備える。
【0018】
シリンダヘッド2には、燃焼室8と、シリンダヘッド2に接続される吸気装置(図示されず)からの燃焼用空気と燃料噴射弁(図示されず)からの燃料との混合気を燃焼室8に導く吸気ポート(図示されず)と、シリンダヘッド2に接続される排気装置に燃焼室8からの排気ガスを導く排気ポート(図示されず)と、燃焼室8に臨む点火栓10と、カム軸11aを備える動弁装置11により駆動されて前記吸気ポートおよび前記排気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁および排気弁(いずれも図示されず)とが設けられる。
【0019】
ピストン4は、燃焼室8内での混合気の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力により駆動されて往復運動し、コンロッド5を介してクランク軸6を回転駆動する。
動弁カム軸11aは、クランク軸6との間に架渡されるチェーン12によって動力が伝達されて回転駆動する。
【0020】
変速機Mには、内燃機関Eが備えるクランク軸6の回転が入力される。
そして、変速機Mの出力軸である後記する第2出力軸48に対して平行に配設されギヤの噛合いを介した出力取出軸120から取り出される動力が、駆動用伝動機構を構成する駆動チェーン129を介して駆動対象としての駆動輪(図示されず)を駆動する。
【0021】
図2を参照して、変速機Mの第2出力軸48は、左端近傍に出力ギヤ48gが形成されており、その第2出力軸48の左端部に軸方向で重なった位置に平行に出力取出軸120が軸受121,122を介して機関ケースに回転自在に軸支され、同出力取出軸120の軸受121より外に突出した左端部に出力スプロケット128が嵌着され、同出力スプロケット128に駆動チェーン129が巻き掛けられている。
【0022】
出力取出軸120には、出力取出軸120に回転可能に設けられて第2出力軸48の出力ギヤ48gとの噛合により駆動される被動回転体としての被動ギヤ123と、出力ギヤ48gの回転を出力取出軸120に対して伝達および遮断するニュートラルクラッチ125とを備える。
【0023】
ニュートラルクラッチ125は、出力取出軸120にスプライン嵌合して一体に回転するとともに軸方向に移動可能な摺動ギヤ126を被動ギヤ123の右隣りに備え、該摺動ギヤ126が左方に移動されると、被動ギヤ123の内歯と摺動ギヤ126の外歯が噛合して被動ギヤ123の回転は摺動ギヤ126を介して出力取出軸120に伝達されるが、摺動ギヤ126が右方に移動されると、被動ギヤ123と摺動ギヤ126の噛合が外れて被動ギヤ123の回転は出力取出軸120に伝達されない。
摺動ギヤ126は、クラッチ操作部材(図示されず)により操作されるシフトフォーク127により移動される。
【0024】
クランクケース3は、多数のボルトにより互いに結合されると共に車幅方向(左右方向)に分割可能な1対のケース半体3a,3bと、各ケース半体3a,3bに多数のボルトによりそれぞれ結合される1対のカバー3c,3dとから構成される。クランク軸6は、1対の主軸受14a,14bを介して1対のケース半体3a,3bに回転可能に支持される。
【0025】
クランクケース3は、クランク軸6および変速機Mが収容される収容室15を形成する。
収容室15は、該収容室15内に設けられる仕切壁としての変速機ハウジング16により、駆動回転軸としてのクランク軸6が配置される駆動室としてのクランク室15aと、変速機Mが配置されるミッション室15bとに部分的に仕切られる。
【0026】
クランク軸6の主軸受14bを貫通して左方に延出している左側軸部6bの端部には、ACジェネレータ13が設けられている。
クランク軸6の、主軸受14aを貫通して右方に延出している右側軸部6aには、外筒軸7が回動自在に軸支され、右側軸部6aと外筒軸7の右端部に発進クラッチである遠心式クラッチ17が設けられている。
【0027】
外筒軸7より右側に突出した右側軸部6aにクラッチインナ17iが固着され、クラッチインナ17iに設けられた遠心ウエイト17wの外周を覆うクラッチアウタ17oが外筒軸7の端部に固着されて遠心式クラッチ17が構成されている。
クランク軸6の右側軸部6aと外筒軸7との間には一方向クラッチ7Cが介装されている。
外筒軸7には中央位置に駆動ギヤ7gがフランジ状に形成されており、変速機Mの第1入力軸20と一体の被動ギヤ20gと駆動ギヤ7gが噛み合っている。
【0028】
遠心式クラッチ17は、クランク軸6の回転速度である機関回転速度に応じて、遠心ウエイト17wの作動によりクラッチインナ17iとクラッチアウタ17oの断続を行う。
すなわち機関回転速度が所定回転速度以下であると、クラッチインナ17iとクラッチアウタ17oは切断状態にあってクランク軸6の回転が外筒軸7に伝達されないが、機関回転速度が所定回転速度を超えてクラッチインナ17iとクラッチアウタ17oが接続状態になると、クランク軸6の回転が外筒軸7に伝達され、外筒軸7から駆動ギヤ7gと被動ギヤ20gの噛合を介して変速機Mに伝達される。
【0029】
変速機Mは、第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2とが組み合わされており、図2を参照して、第1プラネタリギヤ機構P1の第1入力軸20と第1出力軸28および第2プラネタリギヤ機構P2の第2入力軸40と第2出力軸48が、外側から内側へ順に全て共通の回転中心軸X−X上に重なり合って軸支されている。
回転中心軸X−Xはクランク軸6に平行で左右方向に指向している。
【0030】
最も長尺の第2出力軸48の外周に軸受41を介して2番目に長い第2入力軸40が回転自在に軸支され、第2入力軸40の外周に短尺の第1入力軸20が軸受21を介して回転自在に軸支されるとともに、第2入力軸40の外周に左端部で嵌合して一体に回転する短尺の第1出力軸28が第1入力軸20の左端部の外周に軸受22を介して回転自在に軸支されている。
第2入力軸40より両側に突出する第2出力軸48の左端がクランクケース3の左側ケース半体3bに軸受18を介して軸支され、第2出力軸48に軸支された第2入力軸40の外周に外装された第1入力軸20が変速機ハウジング16に軸受19を介して軸支されることで、第2出力軸48が第2入力軸40、第1出力軸28、第1入力軸20とともに支持される。
【0031】
変速機Mの第1入力軸20は軸受19より右方に突出した右端に被動ギヤ20gが形成されていて、軸受19を左方に貫通した左側軸部に形成されたスプライン溝にリングギヤ軸23がスプライン嵌合している。
第1プラネタリギヤ機構P1におけるリングギヤr1は、リングギヤ軸23に嵌着して第1入力軸20に連結され、プラネタリギヤp1を支持軸a1で軸支して保持するキャリアc1は第1出力軸28に嵌着され、サンギヤs1はサンギヤ軸24を一体に形成して第1出力軸28に軸受25を介して回転自在に軸支されている。
【0032】
そして、サンギヤ軸24のフランジ部24fに突設された4本の支持軸31にはそれぞれ一方向クラッチ30のラチェット爪部材32がスプリング33に付勢されて軸支され、図4に示すように、4個のラチェット爪部材32の外周を変速機ハウジング16に連結して固定された環状固定部材35が覆っており、環状固定部材35の内周面に形成された一方向係合部36にトーションスプリング33により遠心方向に付勢されたラチェット爪部材32の爪部がラチェット爪部材32の一方向の旋回(図4において時計方向の旋回)に対して係合して回転が阻止され、他方向の旋回(図4において反時計方向の旋回)は許容される。
【0033】
すなわち、サンギヤs1は一方向クラッチ30により図3において時計方向の回転は阻止され、反時計方向の回転は許容される。
したがって、図3を参照して、リングギヤr1(第1入力軸20)が反時計方向に回転すると、サンギヤs1は時計方向の回転が阻止されているので、プラネタリギヤp1は反時計方向に自転しながら反時計方向に公転し、所定の速比(出力回転数/入力回転数)u1(<1)でキャリアc1(第1出力軸28)を反時計方向に回転する。
【0034】
第1プラネタリギヤ機構P1の第1出力軸28は、左端部で第2入力軸40に嵌合して第2入力軸40と一体に回転する。
なお、第1出力軸28と第2入力軸40を一体に構成することも可能である。
この第2入力軸40の左端部に第2プラネタリギヤ機構P2のサンギヤs2が形成されている。
【0035】
第2プラネタリギヤ機構P2におけるリングギヤr2は、内周部が軸方向左側に延出したリングギヤ軸45を一体に形成しており、リングギヤ軸45は第2出力軸48に外嵌して一体に回転する。
第2プラネタリギヤ機構P2は、図5に示すように2個のプラネタリギヤp2,p2が噛み合った状態でキャリアc2に突設された支持軸a2,a2に軸支され、一方のプラネタリギヤp2がサンギヤs2に噛合し、他方のプラネタリギヤp2がリングギヤr2に噛合している。
【0036】
2個のプラネタリギヤp2,p2を支持するキャリアc2は、内周部が軸方向右側に延出したキャリア軸42を一体に形成しており、キャリア軸42は第1出力軸28に軸受43を介して外嵌し回転自在に軸支されている。
【0037】
このキャリア軸42には、環状支持部材44が一体に嵌合されており、同環状支持部材44に突設された4本の支持軸51にはそれぞれ一方向クラッチ50のラチェット爪部材52がスプリング53に付勢されて軸支され、図6に示すように、4個のラチェット爪部材52の外周を前記一方向クラッチ30と共通に使用される環状固定部材35が覆っている。
【0038】
環状固定部材35の内周面に形成された共通に使用される一方向係合部36にトーションスプリング53により遠心方向に付勢されたラチェット爪部材52の爪部がラチェット爪部材52の一方向の旋回(図6において時計方向の旋回)に対して係合して回転が阻止され、他方向の旋回(図6において反時計方向の旋回)は許容される。
【0039】
すなわち、キャリアc2は、一体に回転する環状支持部材44とともに、一方向クラッチ50により図5において時計方向の回転は阻止され、反時計方向の回転は許容される。
したがって、図5を参照して、サンギヤs2(第2入力軸40)が反時計方向に回転すると、キャリアc2は時計方向の回転が阻止されているので、公転が阻止された2個のプラネタリギヤp2,p2の噛合いを介してリングギヤr2が所定の速比u2で回転する。
なお、速比u1,u2は、0<u2<u1<1の関係にある。
【0040】
第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2は、両者間に一方向クラッチ30,50が環状固定部材35を共用にして配設される構成なので、軸方向の寸法を小さくすることができる。
【0041】
変速機ハウジング16の右側壁に軸受19を介して軸支された第1入力軸20の軸受19より右方に突出した右端に被動ギヤ20gが形成され、この第1入力軸20の右端より第1入力軸20の内側の第2入力軸40が右方に突出し、その第2入力軸40の突出した右端部にスプライン溝40vが形成されている。
この第2入力軸40の右端より第2入力軸40の内側の第2出力軸48が右方に突出し、その突出した右端部にスプライン溝48vが形成されている。
【0042】
以上の変速機ハウジング16の右側壁より右方に突出した第1入力軸20の被動ギヤ20gと第2入力軸40の右端スプライン溝40vとの間に第1摩擦クラッチ70が設けられ、第2入力軸40の右端スプライン溝40vと第2出力軸48の右端スプライン溝48vとの間に第2摩擦クラッチ90が設けられツインクラッチが構成されている。
【0043】
第1入力軸20の被動ギヤ20gの環状板部に周方向に複数設けられた保持孔に嵌挿されたダンパゴム60を、第1摩擦クラッチ70における中空円板部71aと円筒部71bからなる第1クラッチアウタ71の中空円板部21aから突出した連結ボス71abが貫通し、中空円板部71aと反対側で被動ギヤ20gの左側面に当接する保持板61が、連結ボス71abを貫通するリベット62で連結ボス71abの端面に締結される。
したがって、駆動ギヤ7gとの噛合いを介して被動ギヤ20gに伝達されるクランク軸6の動力は、ダンパゴム60を介して第1クラッチアウタ71に入力される。
【0044】
第1摩擦クラッチ70の第1クラッチインナと第2摩擦クラッチ90の第2クラッチアウタとは、同一体の共通クラッチ部材81として形成されている。
該共通クラッチ部材81は、中空円板部81aと、その外周端が軸方向右方に延出した円筒部81bと、同円筒部81bの右端部が遠心方向に拡径した受圧板部81cと、中空円板部81aの内周端が軸方向右方に延出した円筒軸部81dとからなり、円筒軸部81dの内周面に形成されたスプライン突条が第2入力軸40の右端スプライン溝40vに嵌合し、C形止め輪82で軸方向位置決めされて第2入力軸40の右端に取り付けられ、一体に回転する。
【0045】
共通クラッチ部材81は、中空円板部81aを第1クラッチアウタ71の中空円板部71aに沿わせて配置されるので、円筒部81bは第1クラッチアウタ71の円筒部71bの内側に軸方向で重なって位置している。
【0046】
第1摩擦クラッチ70は、第1クラッチアウタ71の円筒部71bとその内側の共通クラッチ部材81の円筒部81bとの間に、円筒部71bの内周に相対回転不能で軸方向に移動自在に嵌合する複数枚のクラッチディスク72と円筒部81bの外周に相対回転不能で軸方向に移動自在に嵌合する複数枚のクラッチプレート73とが交互に重なって配置され、その右側に位置する受圧板部81cと反対側の左側に配置される圧接板74とによって挟まれる。
【0047】
圧接板74は、共通クラッチ部材81の円筒部81bの外周に軸方向に摺動自在に嵌合支持され、クラッチスプリング75により右方向に付勢されている。
すなわち、クラッチスプリング75は、圧接板74を受圧板部81cに近づけてその間に交互に重ねられたクラッチディスク72とクラッチプレート73を挟圧して第1摩擦クラッチ70を接続する方向にばね力を作用させる。
【0048】
受圧板部81cをその内周部の周方向複数か所(例えば3か所)で複数本(3本)の第1リフタピン76が、それぞれ軸方向に貫通して左端が圧接板74に右側から当接している。
各第1リフタピン76は受圧板部81cから右方に突出しており、その各右端が大径の円筒部77aとフランジ部77bとからなる環状の第1環状リフタ77のフランジ部77bに嵌入している。
【0049】
第1環状リフタ77は、円筒部77aの内側にレリーズ軸受78を介して環状の第1カムフロワ79に連結されている。
第1カムフロワ79は、小径円筒部79aと大径円筒部79cを中空円板部79bが連結した形状をしており、大径円筒部79cとその外周を覆う第1環状リフタ77の円筒部77aとの間にレリーズ軸受78が介装されている。
レリーズ軸受78を介して連結された第1カムフロワ79と第1環状リフタ77は、互いに相対回転が可能であるが、軸方向には一体に移動する。
【0050】
共通クラッチ部材81を第2クラッチアウタとして用いる第2摩擦クラッチ90における第2クラッチインナ91は、中空円板部91aと、その外周端が軸方向左右に延出した円筒部91bと、同円筒部91bの右端部が遠心方向に拡径した受圧板部91cと、中空円板部91aの内周端が軸方向左右に延出した円筒軸部91dとからなり、円筒軸部91cの内周面に形成されたスプライン突条が第2入力軸40より右方に突出した第2出力軸48の右端スプライン溝48vに嵌合し、C形止め輪85で軸方向位置決めされて第2出力軸48の右端に取り付けられ、一体に回転する。
第2クラッチインナ91の円筒部91bは、共通クラッチ部材81の円筒部81bの内側に軸方向で重なって位置する。
【0051】
第2摩擦クラッチ90は、共通クラッチ部材81の円筒部81bとその内側の第2クラッチインナ91の円筒部91bとの間に、円筒部81bの内周に相対回転不能で軸方向に移動自在に嵌合する複数枚のクラッチディスク92と円筒部91bの外周に相対回転不能で軸方向に移動自在に嵌合する複数枚のクラッチプレート93とが交互に重なって配置され、その右側に位置する受圧板部91cと反対側の左側に配置される圧接板94とによって挟まれる。
【0052】
圧接板94は、第2クラッチインナ91の円筒部91bの外周に軸方向に摺動自在に嵌合支持され、クラッチスプリング95により右方向に付勢されている。
すなわち、クラッチスプリング95は、圧接板94を受圧板部91cに近づけてその間に交互に重ねられたクラッチディスク92とクラッチプレート93を挟圧して第2摩擦クラッチ90を接続する方向にばね力を作用させる。
【0053】
受圧板部91cをその内周部の周方向複数か所(例えば3か所)で複数本(3本)の第2リフタピン96が、それぞれ軸方向に貫通して左端が圧接板94に右側から当接している。
各第2リフタピン96は受圧板部91cから右方に突出しており、その各右端が小径の円筒部97aとフランジ部97bとからなる環状の第2環状リフタ97のフランジ部97bに嵌入している。
第2環状リフタ97は、前記第1環状リフタ77の内側にあって軸方向で重なる位置にある。
【0054】
第2環状リフタ97は、円筒部97aの内側にレリーズ軸受98を介して第2カムフロワ99に連結されている。
第2カムフロワ99は、円柱体99aの左端にフランジ部99bが形成されたもので、フランジ部99bとその外周を覆う第2環状リフタ97の円筒部97aとの間にレリーズ軸受98が介装されている。
レリーズ軸受98を介して連結された第2カムフロワ99と第2環状リフタ97は、互いに相対回転が可能であるが、軸方向には一体に移動する。
【0055】
第2カムフロワ99の円柱体99aは、第1カムフロワ79の小径円筒部79aより小径で、小径円筒部79aの内側に挿入されている。
第1カムフロワ79と第2カムフロワ99にともに外力が加わらないときは、クラッチスプリング75のばね力で圧接板74を右方に押圧して第1摩擦クラッチ70を接続状態とし、クラッチスプリング95のばね力で圧接板94を右方に押圧して第2摩擦クラッチ90を接続状態とするが、このとき第1リフタピン76,第1環状リフタ77,レリーズ軸受78を介して第1カムフロワ79と第1リフタピン76,第1環状リフタ77,レリーズ軸受78を介して第1カムフロワ79とが、ともに最も右方に突出した位置にあり、第1カムフロワ79の小径円筒部79aの右環状端面79aaと第2カムフロワ99の円柱体99aの右円形端面99aaとは同一平面上にある。
【0056】
この第1カムフロワ79の右環状端面79aaに接して第1カムフロワ79を軸方向左方に移動させる第1クラッチ用カム101と第2カムフロワ99の右円形端面99aaに接して第2カムフロワ99を軸方向左方に移動させる第2クラッチ用カム102が、共通の変速カム軸100に形成されている(図1参照)。
図1に示すように、変速カム軸100は、変速機Mの第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2の共通の回転中心軸X−Xに対して直交する回転中心軸を有し、第2カムフロワ99の右円形端面99aaに接する第2クラッチ用カム102の両側に、第1カムフロワ79の右環状端面79aaの対称部位にそれぞれ接する第1クラッチ用カム101,101が形成されている。
【0057】
該変速カム軸100は、第1クラッチ用カム101,101の両外側部分を軸受105を介してカバー3cに回転自在に軸支され、変速カム軸100の一端には戻しばね106がカバー3cとの間に設けられており、変速カム軸100の他端はカバー3cを貫通して外部に突出し、減速ギヤケース111内に回転自在に嵌入している。
一方、減速ギヤケース111には、電動モータ110がその駆動軸110aを内部に挿入して取り付けられている。
【0058】
減速ギヤケース111内において、電動モータ110の駆動軸110aと変速カム軸100との間に第1中間軸113と第2中間軸114が介在し、駆動軸110aに形成された駆動ギヤが第1中間軸113の大径ギヤ113bに噛合し、第1中間軸113の小径ギヤ113sが第2中間軸114の大径ギヤ114bに噛合し、第2中間軸114の小径ギヤ114sが変速カム軸100に嵌着された大径の被動ギヤ115に噛合して、減速ギヤ機構112が構成されている。
【0059】
したがって、電動モータ110の駆動により減速ギヤ機構112を介して変速カム軸100が回動し、変速カム軸100に形成された第1クラッチ用カム101と第2クラッチ用カム102の回動が、それぞれ第1カムフロワ79と第2カムフロワ99を作動して第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90の断続を実行する。
なお、減速ギヤケース111の変速カム軸100の端部が対向する部位には回転角センサ116が設けられており、変速カム軸100の回動角度を検出している。
【0060】
変速カム軸100に形成される第1クラッチ用カム101と第2クラッチ用カム102の形状と相対位置関係を、図7に変速段ごとに示す。
第1クラッチ用カム101は、変速カム軸100の互いに180度角ずれた角度位置すなわち対称位置にカム山を備えるものであり、第2クラッチ用カム102は、互いに90度角ずれた角度位置にカム山を備えるとともに、両カム山の最大径の山頂間を最大径で形成している。
【0061】
図7(1)は、変速段が1速の状態を示しており、第1クラッチ用カム101と第2クラッチ用カム102は、ともにカム山でそれぞれ第1カムフロワ79と第2カムフロワ99を左方に押圧して最大リフト量移動させている。
したがって、第1カムフロワ79は、レリーズ軸受78,第1環状リフタ77,第1リフタピン76を介して圧接板74をクラッチスプリング75のばね力に抗して左方に移動して第1摩擦クラッチ70の接続状態を解除して切断状態とし、第2カムフロワ99は、レリーズ軸受98,第1環状リフタ97,第1リフタピン96を介して圧接板94をクラッチスプリング95のばね力に抗して左方に移動して第2摩擦クラッチ90の接続状態を解除して切断状態としている。
【0062】
第1摩擦クラッチ70が切断しているため、第1プラネタリギヤ機構P1の第1入力軸20と第2入力軸40すなわちこれと一体の第1出力軸28とは互いに独立状態にあり、第1プラネタリギヤ機構P1は第1入力軸20に対して速比u1で第1出力軸28(および第2入力軸40)を回転する。
また、第2摩擦クラッチ90も切断して、第2入力軸40と第2出力軸48は互いに独立状態にあり、第2プラネタリギヤ機構P2は第2入力軸40に対して速比u2で第2出力軸48を回転する。
したがって、変速機Mとしては、変速比u1×u2の1速状態を確立する。
【0063】
図7(2)は、変速段が2速の状態を示しており、図7(1)の1速状態から電動モータ110が駆動して変速カム軸100が90度回動した状態であり、第1クラッチ用カム101が90度回動したことにより、第1カムフロワ79に対向するカム面がカム基礎円にあってクラッチスプリング75のばね力により第1カムフロワ79は圧接板74とともに右方に移動して第1摩擦クラッチ70は接続状態となる。
他方、第2クラッチ用カム102は90度回動しても第2カムフロワ99に対向するカム面はなおもカム山にあって第2カムフロワ99を左方に押圧して最大リフト量移動させているので、第2摩擦クラッチ90は切断状態にある。
【0064】
第1摩擦クラッチ70が接続すると、第1プラネタリギヤ機構P1の第1入力軸20と第1出力軸28(および第2入力軸40)が直結して、第1プラネタリギヤ機構P1は第1入力軸20に対して速比1で第1出力軸28(および第2入力軸40)を回転する。
第2摩擦クラッチ90は切断状態にあるので、第2入力軸40と第2出力軸48は互いに独立状態にあり、第2プラネタリギヤ機構P2は第2入力軸40に対して速比u2で第2出力軸48を回転する。
したがって、変速機Mとしては、変速比u2(=1×u2)の2速状態を確立する。
【0065】
図7(3)は、変速段が3速の状態を示しており、図7(2)の2速状態から電動モータ110が駆動して変速カム軸100がさらに90度回動した状態であり、第1クラッチ用カム101がさらに90度回動したことにより、第1カムフロワ79に対向するカム面がカム山となり、第1カムフロワ79を左方に最大リフト量移動させ、圧接板74をクラッチスプリング75のばね力に抗して左方に移動して第1摩擦クラッチ70を切断状態とする。
他方、第2クラッチ用カム102がさらに90度回動すると、第2カムフロワ99に対向するカム面がカム基礎円にあってクラッチスプリング95のばね力により第2カムフロワ99は圧接板94とともに右方に移動して第2摩擦クラッチ90は接続状態となる。
【0066】
第1摩擦クラッチ70が切断状態にあるので、第1プラネタリギヤ機構P1は第1入力軸20に対して速比u1で第1出力軸28(および第2入力軸40)を回転する。
第2摩擦クラッチ90が接続すると、第2プラネタリギヤ機構P2の第2入力軸40と第2出力軸48が直結して、第2プラネタリギヤ機構P2は第2入力軸40に対して速比1で第2出力軸48を回転する。
したがって、変速機Mとしては、変速比u1(=u1×1>u2)の3速状態を確立する。
【0067】
図7(4)は、変速段が4速の状態を示しており、図7(3)の3速状態から電動モータ110が駆動して変速カム軸100がさらに90度回動した状態であり、第1カムフロワ79に対向する第1クラッチ用カム101のカム面がカム基礎円にあって第1摩擦クラッチ70は接続状態にあり、第2カムフロワ99に対向する第2クラッチ用カム102のカム面もカム基礎円にあって第2摩擦クラッチ90も接続状態にある。
そのため、第1プラネタリギヤ機構P1の第1入力軸20と第1出力軸28(および第2入力軸40)が直結して第1プラネタリギヤ機構P1は第1入力軸20に対して速比1で第1出力軸28(および第2入力軸40)を回転し、第2プラネタリギヤ機構P2の第2入力軸40と第2出力軸48が直結して第2プラネタリギヤ機構P2は第2入力軸40に対して速比1で第2出力軸48を回転する。
したがって、変速機Mとしては、変速比1(=1×1)の4速状態を確立する。
【0068】
以上のように、電動モータ110を駆動制御して1本の変速カム軸100を回動制御することで、第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90の断続を同時に行い、第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2の各速比を変更して、変速機Mの変速段を逐次変更して確立することができる。
【0069】
本自動変速駆動手段における電動モータ110は、自動変速制御装置により駆動制御されるもので、その制御系の簡単なブロック図を図1に示す。
クランク軸60に近接した部位(例えばクランクウェブの外周近接部位)に設けられた機関回転数センサ152がクランク軸60の回転(機関回転数)を検出し、その検出信号が自動変速制御装置150に入力されるとともに、自動変速制御装置150には前記変速カム軸100の回転角を検出する回転角センサ116の検出信号も入力され変速制御に供されている。
【0070】
また、本実施の形態では、出力取出軸120の回転数を検出する出力回転数センサ153が出力取出軸120に近接して設けられており、同出力回転数センサ153の検出信号も自動変速制御装置150に入力されている。
出力取出軸120の回転数は駆動輪の回転数に比例する。
なお、回転数とは、基準時間内の回転数(例えば、rpm単位で表わされる)のことで、回転速度に相当するものである。
【0071】
自動変速制御装置150は、機関回転数センサ152,回転角センサ116および出力回転数センサ153等の検出信号を入力し、制御信号をドライバ回路161に出力し、ドライバ回路161が制御信号に従って電動モータ110を駆動する。
【0072】
自動変速制御装置150は、基本的に予め決められた所定機関回転数を境に、電動モータ110を駆動して変速段を切り換える制御を行っている。
図8は、変速機Mにおける第1入力軸20の入力回転数Niに対する第2出力軸48の出力回転数Noの変化を示すグラフであり、機関回転数の予め決められた機関回転数に相当する第1入力軸20の入力回転数NiをN1,N2,N3(N1<N2<N3)とする。
【0073】
図8を参照して、内燃機関Eが稼働始めて機関回転数が上昇し、入力回転数NiがN1に達するまでは、変速カム軸100は図7(1)の角度位置にあって第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90がともに切断されて変速機Mが変速比u1×u2の1速状態にあって、u1×u2の勾配を有する直線が示す1速の入出力関係にある。
入力回転数Niが上昇してN1を超えると、電動モータ110を駆動して変速カム軸100を図7(2)の角度位置に回動し、第1摩擦クラッチ70を接続し第2摩擦クラッチ90を切断状態とすることで、変速機Mを変速比u2の2速状態とし、u2の勾配を有する直線が示す2速の入出力関係にシフトアップする。
【0074】
さらに、入力回転数Niが上昇してN2を超えると、電動モータ110を駆動して変速カム軸100を図7(3)の角度位置に回動し、第1摩擦クラッチ70を切断し第2摩擦クラッチ90を接続することで、変速機Mを変速比u1の3速状態とし、u3の勾配を有する直線が示す3速の入出力関係にシフトアップする。
またさらに、入力回転数Niが上昇してN3を超えると、電動モータ110を駆動して変速カム軸100を図7(4)の角度位置に回動し、第1摩擦クラッチ70を接続し第2摩擦クラッチ90を接続状態とすることで、変速機Mを変速比1の4速状態とし、1の勾配を有する直線が示す4速の入出力関係にシフトアップする。
【0075】
機関回転数が減少する場合も所定の回転数N1,N2,N3で逆にシフトダウンする。
変速段は、回転角センサ116が検出する変速カム軸100の回動角度により常に確認することができるとともに、フィードバック制御により変速カム軸100を正確に回動制御することができる。
【0076】
また、自動変速制御装置150は、機関回転数センサ152が検出する機関回転数と出力回転数センサ153が検出する駆動輪回転数とから車両の駆動輪側からの駆動力が内燃機関E側からの駆動力より大きくなったときを検出しており、駆動輪側駆動力が内燃機関側駆動力を超えたときは、変速機Mが4速以外の変速段にある場合、図7(4)に示す4速状態に設定するよう制御する。
【0077】
変速機Mが4速以外の変速段にあるときは、第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90の少なくとも一方が切断状態にあるので、駆動輪側からの駆動力は内燃機関側には伝達されないので、エンジンブレーキを働かせることができないが、本自動変速機は、自動変速制御装置150により駆動輪側駆動力が内燃機関側駆動力を超えたときに変速機Mを4速に強制的に設定する簡単な制御をすることで、第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2がそれぞれ入出力に係るギヤ要素を直結して車両の駆動輪側からの駆動力を第1入力軸20に伝達し、さらに被動ギヤ23gと駆動ギヤ7gの噛合いおよび一方向クラッチ7cを介して内燃機関Eのクランク軸6に伝達してエンジンブレーキを働かせることができる。
【0078】
第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90をそれぞれ作動して断続する第1クラッチ用カム101と第2クラッチ用カム102が、第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90の軸方向の側方に設けられた共通の変速カム軸100上に形成され、同変速カム軸100を電動モータ110が回動するので、1本の変速カム軸100の回動で第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90をともに作動するので、少ない部品点数の簡単な構造で応答性に優れた変速駆動を行うことができ、車両の駆動輪側からの駆動力が原動機側からの駆動力より大きくなったときに、簡単に、かつ速やかに第1クラッチと第2クラッチをともに接続状態としてエンジンブレーキを効かせることができる。
【0079】
第2出力軸48の外周に第2入力軸40が回転自在に軸支され、第2入力軸40の外周に第1入力軸20が回転自在に軸支され、第1入力軸20に第1摩擦クラッチ70のクラッチアウタ71が結合され、第2入力軸40の第1入力軸20より突出した端部に共通クラッチ部材81が結合され、第2出力軸48の第2入力軸40より突出した端部に第2摩擦クラッチ90のクラッチインナ91が結合されるので、第1プラネタリギヤ機構P1と第2プラネタリギヤ機構P2に対して軸方向の同じ側方に第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90をコンパクトに配設して動力の伝達をすることができ、側方に配設された第1摩擦クラッチ70と第2摩擦クラッチ90のさらに側方に共通の変速カム軸100を設けたコンパクトで簡単な構造を構成することができる。
【符号の説明】
【0080】
E…内燃機関、M…変速機、
P1…第1プラネタリギヤ機構、s1…サンギヤ、r1…リングギヤ、p1…プラネタリギヤ、c1…キャリア、
P2…第2プラネタリギヤ機構、s2…サンギヤ、r2…リングギヤ、p2…プラネタリギヤ、c2…キャリア、
20…第1入力軸、20g…被動ギヤ、23…リングギヤ軸、24…サンギヤ軸、28…第1出力軸、30…一方向クラッチ、
40…第2入力軸、42…キャリア軸、45…リングギヤ軸、48…第2出力軸、50…一方向クラッチ、
70…第1摩擦クラッチ、71…第1クラッチアウタ、77…第1環状リフタ、79…第1カムフロワ、81…共通クラッチ部材、
90…第2摩擦クラッチ、91…第2クラッチインナ、97…第2環状リフタ、99…第2カムフロワ、
100…変速カム軸、101…第1クラッチ用カム、102…第2クラッチ用カム、
110…電動モータ、120…出力取出軸、150…自動変速制御装置、152…機関回転数センサ、153…出力回転数センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤ,プラネタリギヤ,リングギヤから構成され、サンギヤ,プラネタリギヤ,リングギヤのいずれかを入力軸と出力軸にそれぞれ連結し、残りの1つのギヤの回転を規制する第1プラネタリギヤ機構と第2プラネタリギヤ機構とを直列に連結し、
前記第1プラネタリギヤ機構の第1入力軸と第1出力軸の間を断続する第1クラッチと、
前記第2プラネタリギヤ機構の第2入力軸と第2出力軸の間を断続する第2クラッチとを共通の回転中心軸上に備え、
前記第1クラッチと前記第2クラッチが自動変速駆動手段により自動的に作動される自動変速機において、
前記自動変速駆動手段は、
前記第1クラッチと前記第2クラッチの少なくとも一方が切断している場合に、車両の駆動輪側からの駆動力が前記原動機側からの駆動力より大きくなったとき、前記第1クラッチと前記第2クラッチをともに接続状態とすることを特徴とするプラネタリギヤ機構を備える自動変速機。
【請求項2】
前記自動変速駆動手段は、
前記第1クラッチと前記第2クラッチをそれぞれ作動して断続する第1クラッチ用カムと第2クラッチ用カムが、前記第1クラッチと前記第2クラッチの軸方向の側方に設けられた共通のカム軸上に形成され、
アクチュエータが前記カム軸を回動することを特徴とする請求項1に記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機。
【請求項3】
前記第2出力軸の外周に前記第2入力軸が回転自在に軸支され、
前記第2入力軸の外周に前記第1入力軸が回転自在に軸支され、
前記第1入力軸に前記第1クラッチのクラッチアウタが結合され、
前記第2入力軸の前記第1入力軸より突出した端部に前記共通クラッチ部材が結合され、
前記第2出力軸の前記第2入力軸より突出した端部に前記第2クラッチのクラッチインナが結合されたことを特徴とする請求項2記載のプラネタリギヤ機構を備える自動変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−276135(P2010−276135A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130243(P2009−130243)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】