説明

プランジャポンプおよびプランジャポンプの製造方法

【課題】ポンプ室内で伸縮するコイルばねが他の部材に擦れるのを防ぎつつ、伸縮するコイルばねをガイドするとともに、シリンダ孔への組み付け性を向上させることができるプランジャポンプを提供することを課題とする。
【解決手段】シリンダ孔10の一端を封止する蓋部材20と、シリンダ孔10内に摺動自在に装着され、一端は蓋部材20との間にポンプ室30を区画し、他端は偏心カム140(駆動部材)に当接しているプランジャ40と、ポンプ室30内に配置され、プランジャ40を偏心カム140側に押圧するコイルばね50と、を備えたプランジャポンプ1であって、コイルばね50の外径は、ポンプ室30の内径よりも小さく形成され、蓋部材20は球体であり、コイルばね50の一端の開口部には、蓋部材20の表面の一部が入り込み、コイルばね50がポンプ室30の中心部に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャポンプおよびプランジャポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏心カムなどの駆動部材によってポンプ室内のプランジャ(ピストンとも呼ばれる)を軸方向に往復動させることで、吸入口からポンプ室内に吸入された液体を、ポンプ室の吐出口から吐出させるプランジャポンプがある。
このようなプランジャポンプとしては、シリンダ孔を有するポンプボディと、シリンダ孔の一端を封止する蓋部材と、シリンダ孔内に摺動自在に装着され、一端は蓋部材との間にポンプ室を区画し、他端は駆動部材に当接しているプランジャと、ポンプ室内に配置され、プランジャを駆動部材側に押圧するコイルばねと、を備え、蓋部材の平面でコイルばねの一端を受けているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記したプランジャポンプでは、ポンプ室内に配置されたコイルばねの外径がポンプ室の内径に合わせて形成されており、伸縮するコイルばねがポンプ室の内周面にガイドされるように構成されている。なお、蓋部材に形成された突起部をコイルばねの開口部に挿入することで、突起部によってコイルばねをガイドしている構成もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−43034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来のプランジャポンプでは、コイルばねがポンプ室の内周面や蓋部材の突起部に接するため、伸縮するコイルばねがポンプ室の内周面や蓋部材の突起部に擦れることで、ポンプ室内に削り屑が発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、ポンプ室内で伸縮するコイルばねが他の部材に擦れるのを防ぎつつ、伸縮するコイルばねをガイドするとともに、シリンダ孔への組み付け性を向上させることができるプランジャポンプおよびプランジャポンプの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、シリンダ孔を有するポンプボディと、前記シリンダ孔の一端を封止する蓋部材と、前記シリンダ孔内に摺動自在に装着され、一端は前記蓋部材との間にポンプ室を区画し、他端は駆動部材に当接しているプランジャと、前記ポンプ室内に配置され、前記プランジャを前記駆動部材側に押圧するコイルばねと、を備え、前記プランジャが前記シリンダ孔内で軸方向に往復動することで、吸入口から前記ポンプ室内に吸入された液体が、前記ポンプ室の吐出口から吐出されるプランジャポンプであって、前記コイルばねの外径は、前記ポンプ室の内径よりも小さく形成され、前記蓋部材は球体であり、前記コイルばねの一端の開口部には、前記蓋部材の表面の一部が入り込み、前記コイルばねの他端は、前記プランジャの一端に設けられた受け部に当接しており、前記コイルばねが前記ポンプ室の径方向の中心部に配置されていることを特徴としている。
【0008】
この構成では、蓋部材の表面(球面)でコイルばねの一端を受けることで、コイルばねの軸心と蓋部材の中心とが自動的に調心され、コイルばねがポンプ室の中心部に配置されるため、伸縮するコイルばねが他の部材に擦れるのを防ぎつつ、伸縮するコイルばねをガイドすることができる。
また、蓋部材は、球状の部材で簡単な形状となっており、シリンダ孔への組み付け方向が限定されないため、シリンダ孔への組み付け性を向上させることができる。
【0009】
前記したプランジャポンプにおいて、前記蓋部材は、前記シリンダ孔に圧入されるとともに、前記蓋部材の中心よりも前記シリンダ孔の一端側には、前記蓋部材の抜け止め部が形成されており、前記抜け止め部を、前記シリンダ孔の内周面を塑性変形させた部位によって構成することができる。
【0010】
この構成では、球体である蓋部材をシリンダ孔に対して確実に固着させて、シリンダ孔の一端を封止することができる。
【0011】
前記したプランジャポンプにおいて、前記シリンダ孔の一端側の開口部を、前記シリンダ孔において前記蓋部材が圧入される部位よりも拡径し、前記開口部に環状の底部を形成してもよい。
【0012】
前記したプランジャポンプにおいて、前記蓋部材が前記底部の内周縁部に形成されたテーパ状のガイド面にガイドされながら前記シリンダ孔に圧入されている構成としてもよい。
【0013】
前記したプランジャポンプにおいて、前記プランジャに環状のシール部材を外嵌させ、前記コイルばねは、前記コイルばねの外径が前記シール部材の内径よりも大きく形成されている箇所を有するように構成してもよい。
【0014】
前記したプランジャポンプにおいて、前記受け部が前記コイルばねの他端が当接する球面を有しているように構成してもよい。
【0015】
この構成では、コイルばねの他端をプランジャの受け部が受けることで、コイルばねの両端がポンプ室の中心部に配置されるため、伸縮するコイルばねが他の部材に擦れるのを確実に防ぐことができる。
また、受け部が球面である場合には、プランジャの受け部を簡単に加工することができる。
【0016】
前記したプランジャポンプにおいて、前記ポンプ室内には、複数の前記コイルばねが径方向の内外に重ねて配置されており、前記蓋部材の表面で前記各コイルばねの一端を受けるように構成することができる。
【0017】
このように、蓋部材の表面で複数のコイルばねの一端を受けるように構成した場合であっても、蓋部材の表面(球面)で各コイルばねの一端を共に受けることで、各コイルばねの軸心と蓋部材の中心とが自動的に調心され、各コイルばねはポンプ室の中心部に配置される。
そして、プランジャを駆動部材側に押圧する押圧力を、各コイルばねに分担させることで、コイルばねの長さや径を小さくすることができるため、プランジャポンプを小型化することができる。
また、コイルばねの長さや径が小さくなることで、ポンプ室内の容積を低減させることができ、プランジャポンプの吐出効率を高めることができる。
【0018】
前記課題を解決するため、本発明の他の構成としては、プランジャポンプの製造方法であって、シリンダ孔を有するとともに、前記シリンダ孔の一端側の開口部に環状の底部が形成されたポンプボディと、前記シリンダ孔の一端を封止する球体である蓋部材と、前記シリンダ孔内に摺動自在に装着され、一端は前記蓋部材との間にポンプ室を区画し、他端は駆動部材に当接するプランジャと、前記ポンプ室の内径よりも小さい外径を有し、前記プランジャを前記駆動部材側に押圧するコイルばねと、を用意する段階と、前記プランジャおよび前記コイルばねを前記シリンダ孔内に配置し、前記底部の内周縁部に形成されたテーパ状のガイド面にガイドさせながら前記蓋部材を前記シリンダ孔の一端に押し込んで圧入することで、前記コイルばねの一端の開口部に前記蓋部材の表面の一部を入り込ませるとともに、前記コイルばねの他端を前記プランジャの一端に設けられた受け部に当接させる段階と、前記蓋部材の中心よりも前記シリンダ孔の一端側の内周面を塑性変形させて、前記蓋部材の抜け止め部を形成する段階と、を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コイルばねの軸心と蓋部材の中心とが自動的に調心され、コイルばねがポンプ室の中心部に配置されるため、伸縮するコイルばねが他の部材に擦れるのを防ぎつつ、伸縮するコイルばねをガイドすることができる。
また、蓋部材は、シリンダ孔への組み付け方向が限定されないため、シリンダ孔への組み付け性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態のプランジャポンプを示した側断面図である。
【図2】本実施形態のプランジャポンプを示した分解斜視図である。
【図3】本実施形態のシリンダ孔に蓋部材を取り付ける手順を示した図で、(a)は蓋部材をシリンダ孔に圧入した状態の側断面図、(b)は蓋部材にシリンダ孔の内周面をかしめた状態の側断面図である。
【図4】他の実施形態のプランジャポンプを示した図で、シール部材がプランジャの外側に配置されている構成の側断面図である。
【図5】他の実施形態のプランジャポンプを示した図で、受け部をプランジャに取り付けた構成の側断面図である。
【図6】他の実施形態のプランジャポンプを示した図で、受け部が球面である構成の側断面図である。
【図7】他の実施形態のプランジャポンプを示した図で、複数のコイルばねを用いた構成の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、自動車などの車両に搭載されるブレーキ液圧制御装置の油圧発生装置として用いられるプランジャポンプを例として説明する。
なお、以下の説明において、一端側とは図1の左側に対応し、他端側とは図1の右側に対応している。
【0022】
プランジャポンプ1は、図1に示すように、シリンダ孔10を有するポンプボディ100と、シリンダ孔10の一端を封止する蓋部材20と、シリンダ孔10内に摺動自在に装着され、一端は蓋部材20との間にポンプ室30を区画し、他端は偏心カム140(特許請求の範囲における「駆動部材」)に当接しているプランジャ40と、ポンプ室30内に配置され、プランジャ40を偏心カム140側に押圧するコイルばね50と、を備えている。このプランジャポンプ1は、プランジャ40がシリンダ孔10内で軸方向に往復動することで、吸入口110からポンプ室30内に吸入されたブレーキ液が、ポンプ室30の吐出口120から吐出される。
【0023】
ポンプボディ100は、車両に搭載される略直方体の金属部品であり、その内部には複数の油路(図示せず)が形成され、プランジャポンプ1が挿入される円形断面のシリンダ孔10が設けられている(図2参照)。
【0024】
シリンダ孔10は、円形断面の孔部であり、一端はポンプボディ100の一面101に開口し、他端は軸受穴130に連通している。すなわち、シリンダ孔10は、ポンプボディ100の一面101から中心部に向けて図1の左右方向に延びている。
【0025】
シリンダ孔10の軸線方向の中間部よりも一端側(ポンプボディ100の一面101側)の部位には、段付き円筒状の拡径部11が形成され、シリンダ孔10の軸線方向の中間部よりも他端側(軸受穴130側)の部位には、円筒状の縮径部12が形成されている。また、シリンダ孔10の一端側の開口部13は拡径部11よりも拡径されており、環状の底部13aが形成されている。また、底部13aの内周縁部には、テーパ状に形成されたガイド面13bが形成されている。
【0026】
シリンダ孔10の拡径部11には、金属製の球体である蓋部材20が内嵌されており(図2参照)、この蓋部材20によってシリンダ孔10の一端が封止されている。蓋部材20の外径は、シリンダ孔10の拡径部11の内径よりも僅かに大きく形成されており、蓋部材20はシリンダ孔10の拡径部11に圧入されている。さらに、蓋部材20の中心よりもシリンダ孔10の一端側には、蓋部材20の抜け止め部11aが形成されている。この抜け止め部11aは、シリンダ孔10の内周面(孔壁部)を塑性変形させることで形成された部位である。
【0027】
ここで、シリンダ孔10の拡径部11に蓋部材20を取り付ける手順を説明する。
まず、図3(a)に示すように、シリンダ孔10の一端側の開口部13から治具Jを用いて蓋部材20を拡径部11に押し込んで圧入し、拡径部11の一端に蓋部材20を内嵌させる。このとき、蓋部材20は、底部13aの内周縁部に形成されたガイド面13bにガイドされながら、拡径部11に押し込まれるため、蓋部材20の中心と、拡径部11の中心とが調心された状態で、蓋部材20が拡径部11に圧入される。
続いて、図3(b)に示すように、蓋部材20を拡径部11の他端側に更に圧入しながら、治具Jの外周縁部J1によって、開口部13の底部13aが拡径部11の内方に突出するように、底部13aを開口部13側から押し潰して、蓋部材20に拡径部11の内周面をかしめることで、蓋部材20の中心よりもシリンダ孔10の一端側に、蓋部材20の抜け止め部11aを形成する。
【0028】
図1に示すように、軸受穴130には、ポンプボディ100に取り付けられた電動モータ(図示せず)の出力軸に設けられた偏心カム140が収められている。偏心カム140の中心位置は、軸受穴130に対して同心に配置された出力軸の軸中心に対して偏心しており、偏心カム140は出力軸の回転に伴って、出力軸の軸中心回りに回転する。
【0029】
プランジャ40は、シリンダ孔10の縮径部12内に挿入される円形断面の金属部品であり(図2参照)、一端40aは拡径部11内に突出し、他端40bは軸受穴130内に突出している。プランジャ40をシリンダ孔10の縮径部12内で軸方向に往復動させたときには、プランジャ40の外周面が縮径部12の内周面を摺動する。
【0030】
プランジャ40の外周面において、軸方向の中間位置には、シール溝40cが全周に亘って形成されている(図2参照)。シール溝40cには、環状のシール部材40dが嵌め込まれており、シール部材40dによって、プランジャ40の外周面と縮径部12の内周面との間が液密にシールされている。
【0031】
シリンダ孔10の拡径部11の内周面と、シリンダ孔10の拡径部11内に突出したプランジャ40の一端40aの外面と、蓋部材20の表面とによって、シリンダ孔10内にポンプ室30が区画されている。
【0032】
プランジャ40の他端40b側の端面は、偏心カム140のカム面141に当接している。偏心カム140は、電動モータ(図示せず)の出力軸の軸回りに偏心して回転するため、電動モータの出力軸(図示せず)を回転させたときには、プランジャ40は偏心カム140のカム面141に押されてポンプ室30側に向けて軸方向に移動する。
【0033】
プランジャ40の一端40a側の端面には、後記するコイルばね50の他端を受ける受け部41が形成されている。受け部41は、プランジャ40の端面に設けられた環状の受け面41aと、プランジャ40の端面の中心部に突設された突起部41bと、を備えている。
【0034】
コイルばね50は、一端51が蓋部材20の表面(球面)に当接し、他端52がプランジャ40の一端40aに設けられた受け部41に係合しており、圧縮状態でポンプ室30内に配置されている。
【0035】
コイルばね50の一端51の開口部には、蓋部材20の表面の一部が入り込んでおり、コイルばね50の一端51が蓋部材20の表面(球面)にガイドされている。これにより、コイルばね50の軸心と、蓋部材20の中心とが調心されており、コイルばね50と蓋部材20とが同心位置に配置されている。
【0036】
コイルばね50の他端52は、開口部にプランジャ40の受け部41の突起部41bが挿入された状態で、受け面41aに当接しており、コイルばね50とプランジャ40とが同心位置に配置されている。
【0037】
このように、本実施形態のプランジャポンプ1では、コイルばね50の一端51を蓋部材20の球面で受けるとともに、コイルばね50の他端52をプランジャ40の一端40aに設けられた受け部41で受けている。
【0038】
コイルばね50は、プランジャ40を偏心カム140側に押圧しており、偏心カム140に押されてプランジャ40がポンプ室30側に移動した後に、偏心カム140のカム面141が、プランジャ40から離れる方向に変位したときには、プランジャ40を偏心カム140側に移動させる。すなわち、プランジャ40はコイルばね50からの押圧力によって、偏心カム140側に向けて軸方向に移動する。これにより、プランジャ40の他端40b側の端面は、偏心カム140のカム面141に当接した状態に保たれる。
【0039】
シリンダ孔10の拡径部11の内周面には、ポンプ室30に開口された吸入口110および吐出口120が形成されている。
吸入口110は、ポンプボディ100内に形成された吸入液路110Aに通じており、この吸入口110を通じて、吸入液路110Aからブレーキ液がポンプ室30内に吸入される。
吐出口120は、ポンプボディ100内に形成された吐出液路120Aに通じており、この吐出口120を通じて、ポンプ室30内のブレーキ液が吐出液路120Aに吐出される。
【0040】
吸入液路110Aには、ポンプ室30内へのブレーキ液の流入のみを許容する逆止弁である吸入弁60が設けられている。
吸入弁60は、吸入孔65が貫通している円筒部材64と、吸入孔65のポンプ室30側の開口部を封止する吸入弁体61と、吸入弁体61を収容するリテーナ62と、リテーナ62内に収められたばね部材63と、を備えている。
【0041】
円筒部材64は、円筒状の金属部品であり、吸入液路110A内に内嵌されている。円筒部材64の中心部に形成された吸入孔65のポンプ室30側の開口縁部には、漏斗状に拡径した弁座が形成されている。
吸入弁体61は、球状の金属部品であり、吸入孔65の弁座に当接することで吸入孔65の開口部を封止している。
リテーナ62は、有底の円筒状の蓋体であり、開口部が円筒部材64のポンプ室30側の端部に外嵌されている。このリテーナ62内には吸入弁体61が収められている。また、リテーナ62には複数の連通孔が形成されており、リテーナ62内と吸入液路110A内とが連通している。
ばね部材63は、リテーナ62の底部の内面と吸入弁体61との間に圧縮状態で配置されたコイルばねであり、吸入弁体61を吸入孔65側に押圧している。
【0042】
吸入弁60は、吸入液路110Aの下流側のブレーキ液圧から上流側(ポンプ室30側)のブレーキ液圧を差し引いたときの値が、開弁圧(ばね部材63の付勢力)以上になったときに、ばね部材63の付勢力に抗して、吸入弁体61が円筒部材64の吸入孔65から離間して開弁する。
【0043】
吐出液路120Aには、ポンプ室30内からのブレーキ液の流出のみを許容する逆止弁である吐出弁70が設けられている。
吐出弁70は、吐出孔75が貫通している円筒部材74と、吐出孔75のポンプ室30側の開口部を封止する吐出弁体71と、吐出弁体71を収容するリテーナ72と、リテーナ72内に収められたばね部材73と、を備えている。
この吐出弁70は、前記した吸入弁60と同じ構成の逆止弁であり、吐出液路120Aの上流側(ポンプ室30側)のブレーキ液圧から下流側のブレーキ液圧を差し引いたときの値が、開弁圧(ばね部材73の付勢力)以上になったときに、ばね部材73の付勢力に抗して、吐出弁体71が円筒部材74の吐出孔75から離間して開弁する。
【0044】
次に、本実施形態のプランジャポンプ1の動作について説明する。
図1に示すように、ポンプ室30内にブレーキ液が満たされた状態で、回転する偏心カム140のカム面141に押されて、プランジャ40が一端側(蓋部材20側)に向けて軸方向に往動作したときには、ポンプ室30の容積が減少し、ポンプ室30内のブレーキ液の液圧が上昇する。これにより、吐出弁70が開弁して、ポンプ室30内のブレーキ液が吐出口120を通じて吐出液路120Aに吐出される。
【0045】
続いて、プランジャ40が最も一端側(上死点)まで移動し、ポンプ室30内の容積が最小となった後に、回転する偏心カム140のカム面141はプランジャ40から離れる方向に変位する。このとき、プランジャ40は、コイルばね50からの押圧力によって、偏心カム140側に向けて軸方向に復動作してポンプ室30の容積が増大する。
ポンプ室30の容積が増大することで、ポンプ室30内は負圧状態となり、吸入弁60が開弁して、ブレーキ液が吸入液路110Aから吸入口110を通じてポンプ室30内に吸入される。
【0046】
そして、プランジャ40が最も他端側(下死点)まで復動作して、ポンプ室30の容積が最大となった後に、プランジャ40は回転する偏心カム140のカム面141に押されて再び往動作し、前記した往動作の場合と同様に、ポンプ室30内のブレーキ液がプランジャ40によって加圧されて吐出液路120Aに吐出される。
【0047】
以上のように構成されたプランジャポンプ1によれば、図1に示すように、球体である蓋部材20の表面(球面)でコイルばねの一端を受けることで、コイルばね50の軸心と、蓋部材20の中心とが自動的に調心され、コイルばね50がポンプ室30の中心部に配置される。したがって、伸縮するコイルばね50がポンプ室30の内周面に擦れるのを防ぎつつ、伸縮するコイルばね50をガイドすることができ、ポンプ室30内に削り屑が発生するのを防ぐことができる。
【0048】
また、蓋部材20は、球体で簡単な形状となっており、シリンダ孔10への組み付け方向が限定されないため、シリンダ孔10への組み付け性を向上させることができる。
さらに、蓋部材20は、シリンダ孔10に圧入されるとともに、蓋部材20の中心よりもシリンダ孔10の一端側には、蓋部材20の抜け止め部11aが形成されているため、球体である蓋部材20をシリンダ孔10に対して確実に固着させて、シリンダ孔10の一端を封止することができる。
【0049】
また、コイルばね50の他端をプランジャ40の受け部41が受けることで、コイルばね50の両端がポンプ室30の中心部に配置されるため、伸縮するコイルばね50がポンプ室30の内周面に擦れるのを確実に防ぐことができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、図1に示すように、プランジャ40の外周面に形成されたシール溝40cにシール部材40dが嵌め込まれているが、図4に示すプランジャポンプ1Aのように、プランジャ40Aの外周面にシール溝を形成することなく、プランジャ40Aの外周面に環状のシール部材40eを外嵌させてもよい。この構成では、シール部材40eがシリンダ孔10の拡径部11に内嵌された二体の環状のストッパ11a,11bの間に配置されており、各ストッパ11a,11bによってシール部材40eが位置決めされている。
このように、シール部材40eをプランジャ40Aの外周面に外嵌させることで、プランジャ40Aを軸方向に短くすることができ、プランジャポンプ1Aを小型化することができる。
【0051】
また、図5に示すプランジャポンプ1Bのように、シール部材40eをプランジャ40Bの外周面に外嵌させるとともに、受け部42をプランジャ40Bと別体に形成することもできる。この受け部42は、有底の円筒状に形成されており、底部にはコイルばね50の他端52側の開口部に挿入される突起部42aが形成され、受け部42の開口部はプランジャ40Bの一端40aに外嵌されている。すなわち、受け部42がプランジャ40Bの一端40aに被せられている。
この構成では、プランジャ40Bの一端40a側と他端40b側の形状が同一になるため、プランジャ40Bをシリンダ孔10に組み付けるときに、シリンダ孔10への組み付け方向が限定されないため、シリンダ孔10への組み付け性を向上させることができる。
【0052】
また、図6に示すプランジャポンプ1Cのように、プランジャ40Cの受け部43が球面43aである場合には、球面43aでコイルばね50の他端52を受けることで、コイルばね50の軸心と、受け部43の球面43aの中心とが自動的に調心され、コイルばね50の他端52がポンプ室30の中心部に配置される。
この構成では、コイルばね50の両端51,52がポンプ室30の中心部に配置されるため、伸縮するコイルばね50がポンプ室30の内周面に擦れるのを確実に防ぐことができる。また、プランジャ40Cの受け部43を簡単に加工することができる。
【0053】
また、図7に示すプランジャポンプ1Dのように、ポンプ室30内に二体のコイルばね50a,50bを配置することもできる。このプランジャポンプ1Dでは、一方のコイルばね50bの内部に他方のコイルばね50bを挿入し、二体のコイルばね50a,50bを径方向の内外に重ねて配置することで、蓋部材20の表面で各コイルばね50a,50bの一端51,51を受けている。
この構成では、蓋部材20の表面(球面)で各コイルばね50a,50bの一端51,51を共に受けることで、各コイルばね50a,50bの軸心と蓋部材20の中心とが自動的に調心され、各コイルばね50a,50bはポンプ室30の中心部に配置される。
そして、プランジャ40Bを偏心カム140側に押圧する押圧力を、各コイルばね50a,50bに分担させることで、各コイルばね50a,50bの長さや径を小さくすることができるため、プランジャポンプ1Dを小型化することができる。
また、各コイルばね50a,50bの長さや径が小さくなることで、ポンプ室30内の容積を低減させることができ、プランジャポンプ1Dの吐出効率を高めることができる。
【0054】
なお、図7に示すプランジャポンプ1Dでは、二体のコイルばね50a,50bを用いているが、二体以上のコイルばねを用いることもできる。
また、図7に示すプランジャポンプ1Dでは、シール部材40eをプランジャ40Bの外周面に外嵌させるとともに、各コイルばね50a,50bの他端52,52を受ける受け部42をプランジャ40Bと別体に形成しているが、シール部材や受け部の構成は限定されるものではなく、例えば、シール部材40eをプランジャ40Bのシール溝に嵌め込んだ構成や、プランジャ40Bの一端40aに受け部を形成した構成を適用することもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 プランジャポンプ
10 シリンダ孔
11 拡径部
11a 抜け止め部
12 縮径部
13 開口部
20 蓋部材
30 ポンプ室
40 プランジャ
40c シール溝
40d シール部材
41 受け部
41a 受け面
41b 突起部
60 吸入弁
70 吐出弁
75 吐出孔
100 ポンプボディ
110 吸入口
110A 吸入液路
120 吐出口
120A 吐出液路
130 軸受穴
140 偏心カム
141 カム面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ孔を有するポンプボディと、
前記シリンダ孔の一端を封止する蓋部材と、
前記シリンダ孔内に摺動自在に装着され、一端は前記蓋部材との間にポンプ室を区画し、他端は駆動部材に当接しているプランジャと、
前記ポンプ室内に配置され、前記プランジャを前記駆動部材側に押圧するコイルばねと、を備え、
前記プランジャが前記シリンダ孔内で軸方向に往復動することで、吸入口から前記ポンプ室内に吸入された液体が、前記ポンプ室の吐出口から吐出されるプランジャポンプであって、
前記コイルばねの外径は、前記ポンプ室の内径よりも小さく形成され、
前記蓋部材は球体であり、前記コイルばねの一端の開口部には、前記蓋部材の表面の一部が入り込み、前記コイルばねの他端は、前記プランジャの一端に設けられた受け部に当接しており、
前記コイルばねが前記ポンプ室の径方向の中心部に配置されていることを特徴とするプランジャポンプ。
【請求項2】
前記蓋部材は、前記シリンダ孔に圧入されるとともに、前記蓋部材の中心よりも前記シリンダ孔の一端側には、前記蓋部材の抜け止め部が形成されており、前記抜け止め部は、前記シリンダ孔の内周面を塑性変形させた部位であることを特徴とする請求項1に記載のブランジャポンプ。
【請求項3】
前記シリンダ孔の一端側の開口部は、前記シリンダ孔において前記蓋部材が圧入される部位よりも拡径され、前記開口部に環状の底部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のプランジャポンプ。
【請求項4】
前記蓋部材は、前記底部の内周縁部に形成されたテーパ状のガイド面にガイドされながら前記シリンダ孔に圧入されていることを特徴とする請求項3に記載のプランジャポンプ。
【請求項5】
前記プランジャには、環状のシール部材が外嵌されており、
前記コイルばねは、前記コイルばねの外径が前記シール部材の内径よりも大きく形成されている箇所を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプランジャポンプ。
【請求項6】
前記受け部は、前記コイルばねの他端が当接する球面を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプランジャポンプ。
【請求項7】
前記ポンプ室内には、複数の前記コイルばねが径方向の内外に重ねて配置されており、
前記蓋部材の表面で前記各コイルばねの一端を受けていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプランジャポンプ。
【請求項8】
シリンダ孔を有するとともに、前記シリンダ孔の一端側の開口部に環状の底部が形成されたポンプボディと、前記シリンダ孔の一端を封止する球体である蓋部材と、前記シリンダ孔内に摺動自在に装着され、一端は前記蓋部材との間にポンプ室を区画し、他端は駆動部材に当接するプランジャと、前記ポンプ室の内径よりも小さい外径を有し、前記プランジャを前記駆動部材側に押圧するコイルばねと、を用意する段階と、
前記プランジャおよび前記コイルばねを前記シリンダ孔内に配置し、前記底部の内周縁部に形成されたテーパ状のガイド面にガイドさせながら前記蓋部材を前記シリンダ孔の一端に押し込んで圧入することで、前記コイルばねの一端の開口部に前記蓋部材の表面の一部を入り込ませるとともに、前記コイルばねの他端を前記プランジャの一端に設けられた受け部に当接させる段階と、
前記蓋部材の中心よりも前記シリンダ孔の一端側の内周面を塑性変形させて、前記蓋部材の抜け止め部を形成する段階と、を備えていることを特徴とするプランジャポンプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7622(P2012−7622A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222572(P2011−222572)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【分割の表示】特願2009−215243(P2009−215243)の分割
【原出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】